ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ

2024-08-31 21:26:59 | ジャズ(ビバップ)

西海岸の幻のレーベル、モード・レコードについては以前に「エディ・コスタ・クインテット」のところで紹介しました。わずか30枚ほどのレコードを残して1年も経たずに倒産したレーベルですが、ジャズファンの人気は高く、昔から何度もCDで再発売されています。このレーベルの特徴の一つはエヴァ・ダイアナと言う女性画家が水彩画で各アーティストを描いたジャケットですが、全作品中6作品だけが異なるデザインです。これらのシリーズはビル・ボックスと言うデザイナーによるもので、全てベレー帽をかぶった眼鏡のおじさんを描いています。誰かの似顔絵なのか、それとも独自のキャラなのかよくわかりませんが、水彩画シリーズとは異なったひょうきんな味わいですね。

今日ご紹介する「レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ」もそのおじさんシリーズの1枚です。レナード・フェザーと言う人はイギリス出身で、ピアニストや作曲家の顔も持っていたようですが一般的にはジャズ評論家としてよく知られています。50~60年代のジャズアルバムを収集していると、彼とアイラ・ギトラーの名前はよく目にしますね。本作でも彼自身はプレイせず監修に回っており、知己のジャズマン総勢7人を呼び集めています。メンバーは全曲に参加しているのがジョージ・ウォーリントン(ピアノ)、フィル・ウッズ(アルト)、カーリー・ラッセル(ベース)の3人で、トランペットが曲によってサド・ジョーンズとイドリース・スリーマン、ドラムがデンジル・ベストとアート・テイラーが起用されています。実質的なリーダーはおそらくウォーリントンで、彼のバンドに在籍していたウッズとともに中心的な役割を果たしています。

全10曲。アルバムタイトル通り全て1940年代のビバップ曲です。内訳はディジー・ガレスピーが4曲(”Be Bop""Salt Peanuts""Groovin' High""Shaw 'Nuff")、チャーリー・パーカーが3曲("Ornithology""Anthropology""Billie's Bounce")、その他ジョージ・ウォーリントンの”Lemon  Drop”、タッド・ダメロンの”Hot House”、ベニー・ハリスの”Little Benny”です。何でもこの企画は「近頃は真のビバップが何たるかが忘れられておる!」と嘆いたレナード・フェザーがビバップを再び世に問う意図で企画したアルバムだそうです。2024年の我々からするとこのアルバムが録音された1957年は古き良き時代ですが、十年一昔と言いますから当時の評論家からしたら流行のハードバップは”新しい音楽”で10年前のビバップを懐かしむ気持ちがあったのでしょう。

演奏で目立っているのはやはりフィル・ウッズでしょう。2年前に世を去ったチャーリー・パーカーの後継者としてノリに乗っていた頃で、全編にわたって素晴らしいアルトを聴かせてくれます。ウッズはまたこの年にパーカー未亡人のチャンと結婚しており、ジャケット裏面にはスタジオを訪れたと思しきチャン夫人がパーカーの遺児で5歳のベアード君を抱いた写真が掲載されています。実はベアード君は録音にも参加しており、ガレスピーの"Salt Peanuts"の可愛い掛け声はベアード君だそうです。

その他ではビバップ期から活躍するジョージ・ウォーリントンもバピッシュなピアノソロを聴かせます。自作曲”Lemon Drop”は発表当時はウディ・ハーマン楽団の演奏で有名になり、ウォーリントン自身は録音していないようなので本作が初のレコーディングになります。冒頭で♪ドゥビドゥビアッアッ、とユニークなスキャットが入りますが、歌っているのはフィル・ウッズとサド・ジョーンズだそうです。トランペットは当時ウォーリントンのバンドにいたドナルド・バードが呼ばれてもよさそうですが、彼だとモダンになり過ぎるからなのかサド・ジョーンズとイドリース・スリーマンが起用されています。彼らの少しオールドスタイルな感じのトランペットがビバップ復古の企画にマッチしています。

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プレゼンティング・レッド・ミッチェル

2024-08-30 18:14:00 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は西海岸で活躍したベーシスト、レッド・ミッチェルをご紹介します。ハンプトン・ホーズ、バーニー・ケッセル、ビル・パーキンスらの諸作品にサイドマンとして参加し、ウェストコーストジャズの屋台骨を支えると同時に自身でもリーダー作をいくつか残しています。本ブログでも先月にハロルド・ランドとの共同リーダー作「ヒア・イェ!」を取り上げました。今日ご紹介する「プレゼンティング・レッド・ミッチェル」はその4年前の1957年3月にコンテンポラリー・レコードに吹き込んだ作品です。

この作品、サイドマンに注目です。まずはジェイムズ・クレイ。テキサス出身の黒人テナーで、曲によってはフルートも吹きます。コアなジャズファンにはローレンス・マラブルの名盤「テナーマン」のジャケットにリーダーのマラブルを差し置いてデカデカと写っている人物として知られています。60年代に入るとリヴァーサイドにも2作リーダー作を残していますね。ピアノが女性ピアニストのロレイン・ゲラー。アルトのハーブ・ゲラーの奥さんです。今では珍しくないですが、当時はまだまだ女性の器楽プレイヤーが少なく、パット・モーランやパティ・ボウン、秋吉敏子らと並んで貴重な存在でしたが、翌1958年に30歳の若さで病死してしまいました。夫のハーブとはエマーシー盤「ザ・ゲラーズ」等で共演していますが、それ以外のジャズマンとの共演は少なく、貴重な録音です。ドラムのビリー・ヒギンズは60年代になるとリー・モーガン、ドナルド・バード、デクスター・ゴードンはじめブルーノートの大量の作品群に参加し、同レーベルのハウス・ドラマー的存在となりますが、生まれはロサンゼルスで50年代までは西海岸でプレイしていました。本作参加時は弱冠20歳でおそらく初のレコーディングではないかと思われます。

全7曲。うち2曲がミッチェルのオリジナル、1曲がスタンダードですが、残りの4曲は黒人バッパー達の名曲を取り上げており、ミッチェルが強いハードバップ志向を持っていたことが如実にわかります。チャーリー・パーカーの"Scrapple From The Apple"、マイルス・デイヴィスの”Out Of The Blue"、ソニー・ロリンズの"Paul's Pal"、クリフォード・ブラウンの”Sandu"がそれで、いずれのナンバーもジェイムズ・クレイのテキサステナーの流れを組むソウルフルなプレイ("Paul's Pal"だけはフルートですが)を大きくフィーチャーしています。ロレイン・ゲラーのスインギーなピアノソロ、ミッチェル自身のベースソロも良い味を出しています。

一方、ミッチェルの自作曲の"Rainy Night"と"I Thought Of You"はどちらもクレイがフルートを吹いており、ウェストコーストらしい小洒落た演奏ですが、少しパンチ不足な面も。本作中唯一の歌モノスタンダードである"Cheek To Cheek"も可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。聴きどころは上述のバップナンバー、特に"Scrapple From The Apple"と”Sandu"ですね。

 

 

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ラテン・ジャズ・クインテット&エリック・ドルフィー/キャリベ

2024-08-29 18:52:01 | ジャズ(その他)

本日は少し変わったところでラテン・ジャズ・クインテットとエリック・ドルフィーの共演盤をご紹介します。一応、主役はラテン・ジャズ・クインテットでそこにドルフィーがゲスト参加した形ですが、彼らを目当てにこのアルバムを買う人はほぼいないでしょう。私も当然ドルフィー目当てで買いました。基本的に前衛ジャズやフリージャズにはあまり理解を示さない私ですが、なぜかドルフィーは昔からそこそこ好きです。ジャズの右も左もわからない20代半ばの頃に名盤紹介に載っていた「アット・ザ・ファイヴ・スポット」2枚セットを買い、何だかよくわからないけれどそのエネルギーに引き込まれました。ただ、全部好きと言うわけでもなく、その後に買ったブルーノート盤「アウト・トゥ・ランチ」はよくわかりませんでした。

主役のラテン・ジャズ・クインテットについても述べておきましょう。詳しいプロフィールは調べてもあまり出てこないのですが、コンガ奏者のファン・アマルベルトが中心となったグループのようです。もう1人、マニー・ラモスという人がティンバレスというドラムのような打楽器を担当しています。この2人が名前的にもラテン系でおそらくキューバとかプエルトリコとかそっち系でしょう。それ以外はジーン・ケイシー(ピアノ)、チャーリー・シモンズ(ヴァイブ)、ビル・エリントン(ベース)と普通のアメリカ人っぽい名前です。いずれにせよ全員他ではあまり聴かない名前ですね。強いて言えばピアノのケイシーがオリヴァー・ネルソンの「ソウル・バトル」でピアノを弾いていたぐらいでしょうか?そんなマイナーグループですが、プレスティッジ系列のニュージャズに2枚作品を残しており、1つが1960年8月録音の本作、もう1枚が「ラテン・ソウル」と言う作品です。物好きな私はそちらも買いましたが、内容は正直イマイチでした・・・

さて、ここからがややこしいのですが、実はラテン・ジャズ・クインテットとエリック・ドルフィーの共演盤はもう1枚あります。それが1961年にユナイテッド・アーティスツから発売された「ラテン・ジャズ・クインテット・ウィズ・エリック・ドルフィー」でタイトル名が牛の顔のデザインになったジャケットです。本作に続く共演第2弾かと思いきやそうではなく、実はこのグループは名前だけ同じの全くの別グループのようなのです。リーダーはフェリペ・ディアスと言うヴァイブ奏者で残りのメンバーも全員別人です。よく考えれば”ラテン・ジャズ”なんて固有名詞でも何でもないので名乗ったもん勝ちですよね。しかし、よりにもよってどちらのグループとも個性派のドルフィーと共演するとは、偶然なのかあるいは企図したものか?ちなみに私はこのユナイテッド・アーティスツ(UA)盤も購入しました。こちらの方がスタンダード曲中心で大衆性はありますが、内容的には「キャリベ」の方が優れていると思います。最近CDで再発されたのはこのUA盤の方ですので、購入される際はお間違いのないように。

(キャリベ)        (UA盤)

 

アルバムの内容に移りましょう。1曲目”Caribé”はケイシーのオリジナル。後ろでコンガがリズムを刻むゆったりしたテンポに乗ってまずケイシーがピアノソロを取り、ドルフィーのアルト→シモンズのヴァイブとソロをリレーします。ラテンでも前衛でもない普通のジャズで、なかなかの名曲・名演と思います。2曲目”Blues In 6/8"はアマルベルト作。曲名にブルースとありますがブルースっぽくありません。ヴァイブとアルトが奏でる賑やかなテーマに続きシモンズ→ドルフィーのアルト→ケイシー→アマルベルトのコンガソロと続きます。続くケイシー作"First Bass Line"は曲名通りビル・エリントンのベースが大きくフィーチャーされます。ドルフィーはここではバス・クラリネット(通称バスクラ)を吹きますが、おどろおどろしい音色で一気に前衛音楽感が強まります。ドルフィーのアルトやフルートは多少エキセントリックなソロでも音的に周りの楽器と調和して意外と違和感なく聴けるのですが、バスクラだとトンがって聞こえますね。

4曲目はアマルベルト作”Mambo Ricci"。曲名だけ見ると能天気そうな明るい感じですが、ドルフィーがいきなり先鋭的なアルトソロで暴れます。5曲目”Spring Is Here"はロジャース&ハートの定番曲。本作中唯一のスタンダードで、ドルフィーがフルートで意外とメロディアスなソロを吹きます。シモンズのヴァイブ、ケイシーのピアノも涼しげな感じで、アグレッシブな演奏が続く中での一服の清涼剤という感じでしょうか?ラストの”Sunday Go Meetin'”はいかにもなラテン調のリズムをバックにドルフィーがフルートでぶっ飛んだソロを取ります。続くシモンズ→ケイシーもわりと攻めた感じです。以上、前衛っぽさとラテンっぽさが融合した不思議な感覚の作品です。

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ブロッサム・ディアリ―

2024-08-28 17:35:19 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はブロッサム・ディアリ―です。女性ジャズヴォーカルはざっくり言うとどっしり黒人ヴォーカル系(エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエetc)とハスキー白人ヴォーカル系(アニタ・オデイ、クリス・コナー、ジューン・クリスティ、ヘレン・メリルetc)に分かれますが、このブロッサムはどれにも属さないかなり個性的なヴォーカリストで、鼻にかかった独特の声で歌い方も少女っぽいです。ジャケットのようなアラレちゃん眼鏡(たとえが古い?)も何とも言えずチャーミングですよね。

では彼女が単なるアイドル歌手のような存在だったかと言うとそうではありません。基本全作品で弾き語りをしているようにピアノの腕前もなかなかですし、可愛い声に隠れがちですが歌も上手いですよ。本作は1956年9月にヴァーヴに吹き込まれた彼女のアメリカでのデビュー作で、ギターにハーブ・エリス、ベースにレイ・ブラウン、そしてドラムにジョー・ジョーンズ(フィリーではなくパパの方)とヴァーヴ・レコードが誇る一流のサイドメンをズラリと揃えています。

全14曲。どれも2~3分の短い演奏です。曲はスタンダードが中心ですが、注目すべきはフランス語の歌が何曲かあること。実はブロッサムは1952年から5年間フランスのパリに居住しており、現地で歌手活動を行っていたようです。また、その間にテナー兼フルート奏者のボビー・ジャスパーとも結婚していたとか(アメリカ帰国と前後して離婚)。フランス語でhow are you?を意味する”Comment Allez-Vous?"、very softlyを意味する”Tout Doucement"がそうで、男女混声コーラスも加わったフレンチ・ポップス風の作りです。また、”It Might As Well Be Spring"は曲自体はリチャード・ロジャースの有名スタンダードですが、本作では全編フランス語で歌っています。しっとりしたバラード演奏でささやくように歌うブロッサムが実に魅力的で、本作のハイライトと言っても良い名唱です。

英語曲の方ももちろん素晴らしく、”Everything I've Got"”Thou Swell"等定番のスタンダードを自身のピアノソロもまじえながら軽快に歌っていきます。ボブ・ヘイムズと言う人が書き下ろしたと思われる"You For Me""Now At Last"も良い曲です。ピアノ演奏もなかなかのもので”More Than You Know"ではヴォーカルは封印し、ハーブ・エリスのギターを伴奏にしっとりとしたバラードを聴かせます。ジャズヴォーカルの王道とは少し違いますが、たまにはこういう作品も良いですよね。

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ジャッキー&ロイ(ストーリーヴィル904)

2024-08-27 18:16:13 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はジャッキー・ケインとロイ・クラールによる夫婦デュオ、ジャッキー&ロイを取り上げたいと思います。彼らについては6月にも同じタイトルの作品「ジャッキー&ロイ」を取り上げました。この2枚のアルバムについては、レコード会社がストーリーヴィル、録音年が1955年というところまで全く一緒なので、マニアの間では「顔」「足」の呼び名で区別されているようです(ブログのタイトルはレコード番号で区別しています)。「顔」の方は2人がおでこをぴったりくっつけておしどり夫婦ぶりをアピールしていますが、このジャケットは何なんでしょうか?ひび割れたコンクリートに壊れたピアノの部品?シュールですね・・・

詳しい録音年月日は記載されていませんが、時期的には「顔」が先で「足」が後のようです。メンバーも違っていて、「顔」の方がバリー・ガルブレイス(ギター)、ビル・クロウ(ベース)、ジョー・モレロ(ドラム)と東海岸のミュージシャンが脇を固めているのに対し、「足」の方はバーニー・ケッセル(ギター)、レッド・ミッチェル(ベース)、シェリー・マン(ドラム)と西海岸の面々です。ストーリーヴィル・レコードはボストンのレコード会社なのですが、録音は西海岸で行われたのでしょうか?謎です・・・

全12曲、スタンダード曲中心ですがジャズオリジナルも何曲かあります。スタイル的には主に3つに分かれており、まず1つ目がジャッキーとロイが夫婦で絶妙な掛け合いを見せるデュエット・スタイル。”Says My Heart""Let's Take A Walk Around The Block""You Smell So Good"等がそうですね。途中でスキャットやロイのピアノソロも交えたりしながら、お洒落なポップス風に仕上げています。ジャッキーもキュートな声で甘えるような感じで夫婦デュオ特有のラブラブ感を出しています。一方で"Spring Can Really Hang You Up The Most""Lazy Afternoon""Listen Little Girl"のようなバラードでは、ロイはピアノ伴奏に回り、ジャッキーがキーを1つ下げてじっくりと歌い上げます。声の伸びも素晴らしく、ジャッキーが本格的なソロ歌手に負けない歌唱力の持ち主だったことがよくわかりますね。

3つ目が最もジャズ要素の強いスキャットナンバー。”Bill's Bit”は西海岸のテナー奏者ビル・ホルマンの曲を、♪ピドゥピドゥップ、プンドゥルルル~と独特のスキャットで歌い切ります。ロイのスインギーなピアノソロ、バーニー・ケッセルのギターも最高ですね。本作のハイライトと言っても良い名曲です。"Tiny Told Me"はロイのオリジナルで、スキャットの合間にケッセル、ロイ、そしてミッチェルのベースがソロを取ります。"Dahuud"は少し綴りが違いますがクリフォード・ブラウンの”Daahoud"をスキャットでカバーしたもの。前年にブラウンが初演したばかりのこの名曲を取り上げるとは彼らの慧眼ぶりに驚きます。この曲もロイ→ケッセル→ミッチェルとソロを取ります。村上春樹も著書「ポートレイト・イン・ジャズ」で絶賛していましたが、これほどお洒落で洗練され、なおかつ大衆性も兼ね備えた音楽を生み出した50年代のアメリカの文化的土壌にあらためて憧憬の念を抱かずにはおれません。

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