本日取り上げるのはジミー・スミスです。スミスについては以前に「ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター」でも解説しましたが、オルガン・ジャズと言うジャンルそのものを切り開いたジャズ界きっての革命児です。一応、スミス以前にもワイルド・ビル・デイヴィスやミルト・バックナーと言ったオルガンの名手がいるにはいましたが、存在的にはマイナーでジャズの主流とはかけ離れた存在でした。そんな中、前述の「ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター」でデビューを飾ったスミスは瞬く間にシーンを席捲。ホレス・シルヴァーと並んでブルーノート全盛期を引っ張る屋台骨的存在となります。また彼の活躍を受けてスミス以後に雨後の筍のように新たなオルガン奏者達がデビューを飾り、60年代に流行する“ソウル・ジャズ”の流れを作っていきます。
今日ご紹介する「ザ・チャンプ」はスミスのデビュー2作目で、「ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター」の翌月の56年3月に録音されたものです。ジャケットにも書かれているように、正式名称は「ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター:ジミー・スミス・アット・ジ・オルガン・Vol.2」で前作の続編的存在とも言えます。メンバーはこの時期のジミー・スミス・トリオの固定メンバーであるソーネル・シュワルツ(ギター)とドナルド・ベイリー(ドラム)です。
作品はアルバムタイトルにもなっているディジー・ガレスピーの名曲“The Champ”で幕を開けます。これがまた「音の洪水」とでも言うべき怒涛の展開で、のっけからスミスがエンジン全開でオルガンを弾きまくります。スミスも後年地位を確立して行くと、ポップなコンセプトの作品を作るようになりますが、デビュー作や本作でのプレイは野性的とでも言っていいような異様なエネルギーに満ち溢れていますね。続く“Bayou”“Deep Purple”“Moonlight In Vermont”はいずれもバラードですが、ここでの演奏も後年のようにマイルドではなく、ハモンドオルガン特有の長く伸びる音を活かして、「音の壁」と表現したくなるような重層的なサウンドを作り上げています。6曲目“Turquoise”も同じようなバラードですね。なお、これらバラード曲ではソーネル・シュワルツのギターが良いアクセントになっています。5曲目“Ready 'N Able”と7曲目“Bubbis”はどちらもスミスの自作曲で軽快なハードバップです。