本日はエーリッヒ・コルンゴルトを取り上げたいと思います。既に本ブログでもヴァイオリン協奏曲と交響曲の2作品を紹介しましたが、もともとオーストリアの出身でナチスの迫害を受けてアメリカに亡命した作曲家です。過去ブログでも書いたように、渡米後のコルンゴルトはハリウッドに定住し、映画音楽の世界で成功を収めました。彼が音楽を手がけた映画の数は20を超え、アカデミー賞の音楽部門でも2回受賞しています。今で言うところのジョン・ウィリアムズのような存在だったと言えます。ただ、ジョン・ウィリアムズの作品が巷で広く親しまれながらも純粋な芸術作品として評価されないのと同じように、コルンゴルトの作品群も当時のクラシックの世界からは全く無視されていました。それどころか、なまじオーストリア時代に「モーツァルトの再来」とまで呼ばれるほどの高い評価を得ていたがゆえに、渡米後のコルンゴルトの作品は「ハリウッドの商業主義に汚染された」だの「ショービジネスに魂を売った」だの散々な言われようだったようです(おそらく商業的成功へのやっかみもあったのだとは思いますが・・・)。前述のヴァイオリン協奏曲や交響曲も生前はまともに評価されなかったとか。
近年ではヴァイオリン協奏曲を筆頭に彼のクラシック作品も評価が確立してきていますが、一方で映画音楽に関してはまだまだディスクの数も少なく、認知度も高くないようです。そんな中で貴重な1枚がアンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団の演奏による本作品です。もともとプレヴィンはコルンゴルト作品に愛着が深く、本ブログで取り上げたヴァイオリン協奏曲や交響曲も彼の指揮したものですし、コルンゴルト復権の第一人者とも言えます。プレヴィン自身も若い頃は西海岸を拠点にして、ジャズピアニストや映画音楽作曲家として名を成していましたから、クラシック一辺倒の他の指揮者よりもコルンゴルトへの理解が深いのかもしれません。
本CDに収録されているのは「シー・ホーク」「女王エリザベス」「海賊ブラッド」「放浪の王子」の4作品。どれも映画としては今ではすっかり忘れ去られていますが、音楽の方はコルンゴルトならではのスペクタキュラーな管弦楽法と美しい旋律が融合した魅力的な作品ばかりです。音楽的には完全な後期ロマン派で、リヒャルト・シュトラウスの一連の交響詩に通じるものがあります。ただ、これらの作品が発表された1930~40年代には既にロマン派の音楽は時代遅れであり、また映画音楽というジャンル自体への偏見もあって当時の評論家達からはまともに相手にされませんでした。
4作品のうち「シー・ホーク」と「海賊ブラッド」は海賊が主人公となった冒険活劇で、オープニングは血沸き肉躍るストーリーを暗示させるような絢爛豪華なオーケストレーションで幕を開け、中間部は美しい愛のテーマ等も挟みながらフィナーレも再び盛り上がります。「女王エリザべス」も基本似たような展開ですが、こちらは宮廷が舞台ということもあって、やや荘重な雰囲気を漂わせています。「放浪の王子」は一聴しただけで気づくと思いますが、主旋律はほぼそのままヴァイオリン協奏曲第3楽章に転用されており、お馴染みのテーマが変奏曲のように形を変えてあちこちに登場します。映画音楽なので確かにどれもベタっちゃあベタなのですが、大衆向け音楽と切って捨てるには惜しいクオリティの作品ばかりだと思います。