ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

コルンゴルト/映画音楽集

2020-08-20 07:05:52 | クラシック(管弦楽作品)

本日はエーリッヒ・コルンゴルトを取り上げたいと思います。既に本ブログでもヴァイオリン協奏曲交響曲の2作品を紹介しましたが、もともとオーストリアの出身でナチスの迫害を受けてアメリカに亡命した作曲家です。過去ブログでも書いたように、渡米後のコルンゴルトはハリウッドに定住し、映画音楽の世界で成功を収めました。彼が音楽を手がけた映画の数は20を超え、アカデミー賞の音楽部門でも2回受賞しています。今で言うところのジョン・ウィリアムズのような存在だったと言えます。ただ、ジョン・ウィリアムズの作品が巷で広く親しまれながらも純粋な芸術作品として評価されないのと同じように、コルンゴルトの作品群も当時のクラシックの世界からは全く無視されていました。それどころか、なまじオーストリア時代に「モーツァルトの再来」とまで呼ばれるほどの高い評価を得ていたがゆえに、渡米後のコルンゴルトの作品は「ハリウッドの商業主義に汚染された」だの「ショービジネスに魂を売った」だの散々な言われようだったようです(おそらく商業的成功へのやっかみもあったのだとは思いますが・・・)。前述のヴァイオリン協奏曲や交響曲も生前はまともに評価されなかったとか。

近年ではヴァイオリン協奏曲を筆頭に彼のクラシック作品も評価が確立してきていますが、一方で映画音楽に関してはまだまだディスクの数も少なく、認知度も高くないようです。そんな中で貴重な1枚がアンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団の演奏による本作品です。もともとプレヴィンはコルンゴルト作品に愛着が深く、本ブログで取り上げたヴァイオリン協奏曲や交響曲も彼の指揮したものですし、コルンゴルト復権の第一人者とも言えます。プレヴィン自身も若い頃は西海岸を拠点にして、ジャズピアニストや映画音楽作曲家として名を成していましたから、クラシック一辺倒の他の指揮者よりもコルンゴルトへの理解が深いのかもしれません。

本CDに収録されているのは「シー・ホーク」「女王エリザベス」「海賊ブラッド」「放浪の王子」の4作品。どれも映画としては今ではすっかり忘れ去られていますが、音楽の方はコルンゴルトならではのスペクタキュラーな管弦楽法と美しい旋律が融合した魅力的な作品ばかりです。音楽的には完全な後期ロマン派で、リヒャルト・シュトラウスの一連の交響詩に通じるものがあります。ただ、これらの作品が発表された1930~40年代には既にロマン派の音楽は時代遅れであり、また映画音楽というジャンル自体への偏見もあって当時の評論家達からはまともに相手にされませんでした。

4作品のうち「シー・ホーク」と「海賊ブラッド」は海賊が主人公となった冒険活劇で、オープニングは血沸き肉躍るストーリーを暗示させるような絢爛豪華なオーケストレーションで幕を開け、中間部は美しい愛のテーマ等も挟みながらフィナーレも再び盛り上がります。「女王エリザべス」も基本似たような展開ですが、こちらは宮廷が舞台ということもあって、やや荘重な雰囲気を漂わせています。「放浪の王子」は一聴しただけで気づくと思いますが、主旋律はほぼそのままヴァイオリン協奏曲第3楽章に転用されており、お馴染みのテーマが変奏曲のように形を変えてあちこちに登場します。映画音楽なので確かにどれもベタっちゃあベタなのですが、大衆向け音楽と切って捨てるには惜しいクオリティの作品ばかりだと思います。

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スーク/幻想曲、おとぎ話、幻想的スケルツォ

2020-05-03 18:48:30 | クラシック(管弦楽作品)

本日はチェコの作曲家ヨセフ・スークをご紹介します。チェコと言えば思い浮かぶのがドヴォルザーク、スメタナ、ヤナーチェク、人によってはマルティヌーの名前を挙げる人もいるかもしれません。スークは彼らに比べるとマイナーで録音も少ないです。同名の孫が世界的ヴァイオリニストとして活躍していましたのでむしろそちらの方が有名かもしれません。1874年生まれで10代の頃よりドヴォルザークに師事し、長じてはドヴォルザークの娘と結婚するなど公私にわたってドヴォルザークと関係の深い作曲家です。作風的にも当然のことながら強い影響を受けており、特に初期の作品はいかにもチェコ国民楽派と言った感じの民族色を強く感じられる作風です。中期以降はドヴォルザークの影響下から脱し、よりモダンで複雑な作風に移行したようですが、今日取り上げる3曲はいずれも20代の時に書かれた曲で民族色豊かで旋律的にもわかりやすい曲ばかりです。CDはナクソス盤で、演奏はジョアン・ファレッタ指揮バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団です。ファレッタとナクソスの組み合わせはレスピーギの「教会のステンドグラス」でも取り上げましたが、隠れた名曲の発掘に力を入れているようです。

まず、「幻想曲」から。こちらは単一楽章で23分半ほどの作品でヴァイオリンソロを大きくフィーチャーしています。ナクソス盤のソリストはミヒャエル・ルートヴィヒと言うあまり聞いたことないヴァイオリニストですが見事な演奏を披露しています。曲はスペクタキュラーなオーケストラサウンドと情熱的なヴァイオリンソロが融合した佳曲で、中間部では民族舞踊的な旋律も随所に盛り込まれています。

続く「おとぎ話」はタイトル通り「ラドゥースとマフレナ」と言う古い民話を下敷きに作られた曲です。敵対する2つの国の王子ラドゥースと王女マフレナが禁断の恋に落ち、艱難辛苦を乗り越えて結ばれると言うストーリーで、4つの曲で構成される組曲です。1曲目は「ラドゥースとマフレナのまことの愛と苦悩」で2人が運命の恋に陥る様が甘美な旋律で描かれます。とりわけ美しいヴァイオリンソロが絶品です。2曲目「白鳥と孔雀の戯れ」は陽気なスケルツォで、スラヴ風の楽しい民族舞曲です。3曲目は「葬送音楽」で文字通りやや暗め。冒頭の旋律がドヴォルザークの序曲「自然の中で」によく似ています。4曲目「ルナ王妃の呪いと愛の勝利」は前半がラドゥースが呪いをかけられる場面の描写でオーケストラがおどろおどろしく鳴り響きますが、後半は呪いが解けて2人が結ばれる様が美しく壮麗な旋律で表され、感動的なフィナーレを迎えます。

最後を飾るのは「幻想的スケルツォ」。こちらは15分弱の小品で、スケルツォと言うだけあって軽快なリズムの曲です。基本的に同じ旋律の繰り返しですが、耳について離れない印象的な旋律です。以上3曲とも魅力的な曲ばかりで、特に「おとぎ話」は個人的にはスメタナの「わが祖国」にも劣らないチェコ音楽の傑作と思います。

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バーバー/管弦楽作品集

2020-01-26 16:12:52 | クラシック(管弦楽作品)
本日はアメリカの作曲家サミュエル・バーバーをご紹介したいと思います。1910年生まれで亡くなったのが1981年なので完全に現代の作曲家ですが、現代音楽にありがちな前衛的要素は感じさせません。また、同じくアメリカを代表する作曲家であるガーシュウィンやコープランドがジャズやラテン、フォークソング等を取り入れたヨーロッパにはないアメリカならではのクラシック音楽を創造したのに対し、バーバーの音楽はあくまでロマン派音楽の王道を継承するもので、まるでドイツ音楽のようながっしりした曲作りが特徴的です。今日ご紹介するCDはデイヴィッド・ジンマン指揮ボルチモア交響楽団のバーバー作品集で、彼の代表的な管弦楽作品が収録されています。



まずは、1曲目の「弦楽のためのアダージョ」から。バーバーの全作品の中でも最も有名と言ってもよく、アメリカでは葬儀の場面等でも定番の使用曲だとか。確かに物哀しい旋律ですが、個人的には気分が暗くなるので日常的に聴きたいとはあまり思いません。2曲目の「悪口学校」序曲からがバーバーの真骨頂ですね。原題はSchool For Scandalで「悪口学校」と変に訳するより「スクール・フォー・スキャンダル」の方が良いと思います。シェリダンと言うあまり良く知らない作家の喜劇にインスパイアされて作った曲だそうですが、そんな背景の知識は不要できびきびとしたテンポで次々とメロディが変わっていく楽しい曲です。続いてが「オーケストラのためのエッセー」第1番と第2番。前者は穏やかな曲調ながらオーケストラが静かに燃え上がるような熱さを秘めた曲、後者はよりダイナミックでティンパニやドラム等打楽器が鳴り響くスペクタキュラーな楽曲です。「シェリーによる場面の音楽」はイギリスの詩人シェリーの詩にインスパイアされた曲でややミステリアスな美しさを持っています。最後に交響曲第1番ですがこちらは交響曲と言いながら20分弱の小品です。単一楽章ですが実際には4部に分かれており、壮麗な雰囲気の第1部、スケルツォ風の第2部、メランコリックな緩徐楽章の第3部を経て、重低音が鳴り響くスペクタキュラーな第4部フィナーレを迎えます。作風的にはブラームスの重厚さとリヒャルト・シュトラウスの派手さを足して2で割ったような感じで、コンパクトながら聴き応えのある曲だと思います。
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バルトーク/管弦楽のための協奏曲&弦楽、打楽器とチェレスタのための音楽

2019-11-25 23:20:17 | クラシック(管弦楽作品)
前回のショスタコーヴィチに続き、同じく20世紀を代表する作曲家と言うことで今日はバルトークを紹介しましょう。ただ、バルトークもショスタコーヴィチと同じかそれ以上に取っ付きにくいですよね。中にはほぼ無調に近い前衛色の強い曲もあり、これまでは正直ほぼスルーしてきました。そんな中で今日ご紹介する「管弦楽のための協奏曲」と「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」(長いので略して「弦チェレ」と呼ばれます)はバルトークの代表作として広く親しまれているだけあって比較的聴きやすいです。「弦チェレ」はバルトーク55歳、「管弦楽のための協奏曲」は62歳の時に書かれた作品で、この頃になるとバルトークも年齢のせいかやや表現にも角が取れ、前衛色は薄まっています。

とは言えそこはバルトークだけあって、いわゆるベタなメロディはほとんどありません。強いて言うなら「管弦楽のための協奏曲」の第4楽章にメランコリックな主題や舞曲風の旋律が顔をのぞかせますが、全体を通じて聴かれるのは不安げな弦の響きに微妙に音階の外れた管楽器と言ったバルトークならではの独特の音世界。ただ、決して無調ではありませんし、起承転結もきちんとあるので聴き込むうちに段々魅力がわかってきます。最終第5楽章のフィナーレの盛り上がりはなかなかのものです。



「弦チェレ」ではさらに打楽器も加わり、より一層複雑かつ色彩豊かな音の世界を作り出しています。チェレスタとは鉄琴に似た音を出す鍵盤楽器ですが、正直活躍する場面は少なく、どちらかと言うとピアノの打楽器的な使い方が目立ちます。第2楽章の激しいピアノの連打とシャープな弦楽合奏の響きがかっこいいです。CDはバルトークと同じハンガリー出身のサー・ゲオルク・ショルティがシカゴ交響楽団を指揮したものです。
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レスピーギ/リュートのための古風な舞曲とアリア、鳥、風変わりな店

2019-10-23 09:24:40 | クラシック(管弦楽作品)
本日はレスピーギです。レスピーギと言えばローマ三部作が圧倒的に有名ですが、それ以外にも「教会のステンドグラス」「ロッシニアーナ」のような名曲があることも当ブログで紹介しました。一方で彼は熱心な古楽の研究者としても知られており、17~18世紀のバロック時代、さらにはその前の15~16世紀のルネサンス時代の楽曲をも研究し、自らアレンジして発表していました。

本日取り上げるのはレスピーギの古楽編曲作品を集めたCDでネヴィル・マリナー指揮アカデミー・オヴ・セントマーティン・イン・ザ・フィールズのものです。まず最初が「リュートのための古風な舞曲とアリア」。リュートはギターが普及する以前に使われていた弦楽器で形は日本の琵琶に似ています。本作はバロック時代に書かれたリュートのための曲をレスピーギが編曲したもので、実際にリュートが演奏に使われているわけではありません。全部で3つの組曲がありますが、CDに収録されているのは第3組曲。この中の「シチリアーナ」がコマーシャルに使われたりしたそうです。哀調を帯びたはかなげな旋律が印象的です。他には「宮廷のアリア」も古式ゆかしい感じの佳曲です。



ついでは「鳥」。こちらは全5曲からなる組曲で、バロック時代の作曲家であるベルナルド・パスクイーニ、ドメニコ・ガロ、ジャン=フィリップ・ラモーの楽曲をレスピーギが編曲したものです。それぞれの曲には鳥の名前が付けられており、とりわけ木管楽器が美しい旋律を奏でる「夜うぐいす(ナイチンゲール)」、そしてフルートがカッコウの鳴き声を模す「カッコウ」が素晴らしいです。

最後がバレエ音楽の「風変わりな店」。こちらは古楽とはちょっと違いますが、19世紀の偉大な作曲家であるロッシーニが晩年に書いた「老いの過ち」と言う未発表の小品集を甦らせたもの。全8曲、平均して2~3分程度の短い曲ばかりで、「タランテラ」「マズルカ」「コサックの踊り」「カンカン」「ギャロップ」等各国の踊りの名前が付いています。1曲だけスローテンポの「ノクターン」があり、なかなかムードのある佳曲です。以上、3作とも水準以上の出来ですが、個人的には「鳥」が一番のお薦めです。
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