ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ドナルド・バード/フリー・フォーム

2012-11-26 20:57:13 | ジャズ(モード~新主流派)
最近、マイルス・デイヴィスやクリフォード・ブラウンの作品を取り上げましたが、本日もモダンジャズを代表するトランペッターであるドナルド・バードをご紹介します。一般的な評価はマイルスやブラウンに比べてワンランク落ちる彼ですが、私の中ではリー・モーガンと共に最も贔屓にするトランペッターです。特に50年代後半のエネルギッシュな活動ぶりは凄まじく、サイドメンでの参加も含めれば100近くの作品に顔を出しているとか。60年代に入るとブルーノートに腰を落ち着け、ゴスペルを取り入れたり、ジャズファンクのパイオニアとなるなど多彩な音楽活動を行うようになりますが、個人的には純粋なハードバッパーだった頃のバードを愛してやみません。



本作「フリー・フォーム」は1961年、ブルーノートに残された作品です。ちょうどハードバップがピークを過ぎ、モードジャズやフリージャズが台頭してきた頃で、作品の内容も当時のジャズシーンを映し出すような作りになっています。メンバーもウェイン・ショーター(テナー)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ブッチ・ウォーレン(ベース)、ビリー・ヒギンス(ドラム)と60年代ブルーノートを象徴するようなモード~新主流派寄りの面々で、バードのアルバムの中ではやや異色の存在とも言えます。まず、冒頭“Pentecostal Feeling”は当時流行していたロックンロールのビートを取り入れたダンサブルなナンバーで、後にリー・モーガンがヒットさせるジャズロックの先駆け的な曲と言っていいかもしれません。続く“Night Flower”は美しいバラード。バードのブリリアントなソロもさることながら、作曲者であるハンコックのモーダルなプレイに注目です。“Nai Nai”は思わず口ずさみたくなるようなメロディを持った心地よいハードバップ。何だかんだ言って個人的にはこういう曲が一番しっくりきます。“French Spice”はバードの代表作“Fuego”を思わせるファンキージャズ。そして最後の“Free Form”はタイトル通り、メロディをほぼ無視したフリージャズ風の演奏。バードの作品でこの手の前衛スタイルは珍しいですね。以上5曲、バードの作品の中ではあまり取り上げられることも少ないですが、バラエティに富んだなかなかいいアルバムだと思います。
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クリフォード・ブラウン/コンプリート・パリ・セッションVol.1

2012-11-21 23:59:09 | ジャズ(ビバップ)

本日は伝説のトランペッター、クリフォード・ブラウンをご紹介します。1956年にわずか25歳の若さで交通事故死したブラウンは、死後半世紀以上たった今でもその完全無欠な演奏テクニックでジャズファンの絶大な支持を集めています。かく言う私もブラウンの大ファンで、ことトランペットの腕前に関しては未だに彼を超える者はいないとすら思っています。惜しむらくは残されたレコードの数が極端に少ないことでしょうか?実働期間はわずか3年で、生前に発表されたリーダー作はマックス・ローチとのブラウン=ローチ・クインテットでの5枚のアルバムのみ。死後になって発表された録音を含めてもせいぜい10数枚と言ったところでしょう。



本作はそんな彼の貴重な録音の一つで、1953年にライオネル・ハンプトン楽団の一員としてパリを訪れた際に、同僚のアルト奏者ジジ・グライスらと共に現地フランスのミュージシャンと共演したセッション集です。録音の機会を設けたのはピアニストとしても有名なアンリ・ルノーで、コンサートで聴いたブラウンのプレイに魅せられた彼がツアーの合間を縫って録音したものだとか。セッションは2つに分かれており、前半がジジ・グライスのアレンジによるビッグバンド演奏。総勢17人なので全員列挙はしませんが、ブラウンとグライス以外にもアート・ファーマー、ジミー・クリーヴランド、珍しい所ではまだ若きクインシー・ジョーンズがトランペッターで参加しています。もちろんのことながら一番目立っているのはブラウンで、冒頭“Brown Skins”では哀愁漂うビッグバンドのアンサンブルの後、4分近くにも及ぶ圧巻のトランペットソロを聴かせてくれます。“Keeping Up With Jonesy”ではアート・ファーマーとのミュート奏法によるチェイスが聴きモノです。

後半はブラウン、グライスにジミー・ガーリー(ギター)、アンリ・ルノー(ピアノ)、ピエール・ミシュロ(ベース)、ジャン=ルイ・ヴィアール(ドラム)から成るセクステット。こちらの方がよりストレートアヘッドなジャズです。グライス作曲のキャッチーな“Conception”、美しいバラード演奏“I Cover The Waterfront”、そしてラストの痛快ハードバップ“Goodin' With Me”がお薦めです。なお、このパリ録音にはVol.2とVol.3があるようですが、残念ながら入手できませんでした。またどこかで見かけたら続編も聴いてみたいと思います。

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ボビー・ジャスパー・クインテット

2012-11-17 10:55:52 | ジャズ(ヨーロッパ)
本日は澤野工房のヨーロッパジャズ名盤復刻シリーズからボビー・ジャスパーの作品をご紹介します。ボビー・ジャスパーはベルギー出身ですが50年代半ばにはアメリカに渡り、多くのジャズ名盤に参加していますのでヨーロッパジャズ好きでなくても比較的名前を知られているのではないでしょうか?ジョージ・ウォーリントンと組んだリーダー作をリヴァーサイドに残していますし、他にもジョン・コルトレーン、J・J・ジョンソン、ドナルド・バードらと共演を果たしています。ただ、一番有名なのがウィントン・ケリーの「ケリー・ブルー」でのフルート演奏かもしれません。そのせいでフルート奏者のイメージが強いですが、テナーの腕も一級品で同時代のスタン・ゲッツを思わせる滑らかなテナープレイはもっと高く評価されてしかるべきでしょう。



本作は1956年、ジャスパーが本格的にアメリカに活動拠点を移す前にフランス・コロンビアに残した傑作で2つのセッション、全12曲を収録しています。メンバー構成はうち8曲がトミー・フラナガン(ピアノ)、ナビル・トター(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラム)から成るカルテット。残りの4曲がバリー・ガルブレイス(ギター)、エディ・コスタ(ピアノ)、ミルト・ヒントン(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)から成るクインテットとなっています。いずれのセッションもアメリカのハードバップシーンから選りすぐりのメンバーが結集しており、ジャスパーのプレイもさることながら他のメンバーの演奏も一級品です。お薦めは冒頭ジャスパーの軽快なクラリネットが冴えわたる“Clarinescapade”、スインギーなフラナガンのソロと力強いジャスパーのテナーが素晴らしい“I Remember You”、メンバー全員がホットに燃える“Wee Dot”、バリー・ガルブレイスのスインギーなギターとエディ・コスタのパーカッシブなピアノが印象的な“They Look Alike”“Barry's Tune”あたりでしょうか?他の曲も粒揃いの演奏で、ヨーロッパジャズという括りは抜きにして同時代のハードバップの中でも屈指の名盤と言ってもいいと思います。
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アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ/ジャズ・コーナーで会いましょう

2012-11-15 23:45:31 | ジャズ(ハードバップ)

本日はモダンジャズを代表するグループであるジャズ・メッセンジャーズを取り上げます。ジャズ・メッセンジャーズについてはあらためて説明するまでもないですよね。1954年に結成されて以来、30年以上に渡ってモダンジャズを代表するグループとして活動してきました。リーダーのブレイキー以外のメンバーは流動的ですが、各時代の才能ある若手ミュージシャンを起用し続けることにより、常に新陳代謝を繰り返しながら質の高い演奏を提供し続けてきました。今日ご紹介する「ジャズ・コーナーで会いましょう」は1960年の録音。当時のメンバーはリー・モーガン(トランペット)、ウェイン・ショーター(テナー)、ボビー・ティモンズ(ピアノ)、ジミー・メリット(ベース)そしてアート・ブレイキー(ドラム)となっています。ちょうどジャズの趨勢がファンキー・ジャズからモードに切り替わる頃で、ジャズ・メッセンジャーズ内においても前年から参加したショーターがグループのサウンドに微妙な変化をもたらしています。とは言え、本作ではモーガンとティモンズの存在感が顕著なため、まだまだファンキー色の方が強いですね。



アルバムは当時“世界のジャズコーナー”と呼ばれた伝説のジャズクラブ、バードランドで録音されたもので、名物MCピー・ウィー・マーケットによる例のHow about a big hand!の呼び掛けで華々しくショーの幕が開きます。全8曲、80分を超えるボリュームですが、決して中だるみすることなく最後までテンションを維持するのはさすがの一言。縦横無尽に暴れまわるリー・モーガンのトランペット、ソウルフルで粘っこいティモンズのピアノ、独特のうねうねしたフレーズを繰り出すショーターのテナー、そして迫力満点の御大ブレイキーのドラミング。まさにこれぞジャズの醍醐味です。曲はどれも甲乙つけがたいですが、冒頭を飾るキャッチーな名曲“The Opener”、モーガンとティモンズのファンキー節が炸裂する“What Know”、モーダルな香りも漂う“Night Watch”あたりがお薦めでしょうか。ただ、個人的イチ押しはスタンダード曲の“The Breeze And I”と“The Things I Love”。ポップな原曲をファンキーかつモダンにアレンジした名演です!

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マイルス・デイヴィス/コレクターズ・アイテムズ

2012-11-13 23:22:13 | ジャズ(ビバップ)

本日はジャズの“帝王”マイルス・デイヴィスを取り上げます。このブログでは初ですね。私はいわゆるマイルス至上主義者ではなく、トランペッターとしてはむしろリー・モーガンやドナルド・バードを好んで聴く方ですが、それでも50年代のマイルスのアルバムはほとんど所有しております。特に一連の“マラソン・セッション”や「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」はモダンジャズの頂点を示すものと高く評価しています。今日紹介する「コレクターズ・アイテムズ」はそんな全盛期のマイルスの演奏の中から1953年と1956年のセッションをカップリングしたもので、もともと一つのアルバムとして企画されたものではありませんが、演奏の質は高いですし、何より豪華メンバーの参加が目を引きます。



まず、1953年のセッションはチャーリー・パーカー(テナー)、ソニー・ロリンズ(テナー)、ウォルター・ビショップ・ジュニア(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)から成るセクステット。何と言ってもモダンジャズの開祖であるパーカーの参加が貴重です。この頃のパーカーは既に麻薬で健康を害していて、全盛期のプレーではなかったようですが(結局この2年後に34歳で死去)、それでもマイルス、パーカー、ロリンズが一堂に会したというだけで歴史的価値があるのではないでしょうか?演奏の方ももちろん素晴らしいですよ。典型的なビバップ“The Serpent's Tooth”、マイルスの十八番“'Round Midnight”も良いですが、何より3巨頭のゴージャスなアンサンブルで始まる“Compulsion”が圧巻です。

一方、1956年のセッションはソニー・ロリンズ(テナー)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)から成るクインテット。当時のマイルスと言えば、コルトレーン、レッド・ガーランドらと黄金のクインテットを結成し、次々と傑作を発表していた頃ですが、この録音だけ即席のメンバーだったのでしょうか?ただ、おかげで我々はフラナガンとマイルスの貴重な組み合わせを耳にすることができます。“No Line”での軽快にスイングするピアノソロはフラナガンならではでしょう。続く“Vierd Blues”はレイジーな雰囲気の中マイルス、ロリンズ、フラナガンが次々とブルージーなフレーズを紡ぎ出していきます。マイルスの他の名盤よりはワンランク落ちるかもしれませんが、タイトル通りコレクターなら持っていて損はない1枚ではないでしょうか?

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