ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

オスカー・ピーターソン・トリオ・プレイズ

2016-03-21 22:20:16 | ジャズ(ピアノ)
本日は再び「ジャズの100枚」シリーズに戻ってオスカー・ピーターソン・トリオの1964年の作品を取り上げます。オスカーについては前回「ウエスト・サイド・ストーリー」でも述べたように、個人的にはそこまでファンではないです。おそらく好きなピアニストのベスト10には入らないでしょうね。にもかかわらず本ブログで取り上げるのは通算5回目です。ある意味、そのことがオスカー・ピーターソンのすごさかもしれませんね。彼の場合、とにかく作品が多い。特に50年代から60年代にかけてヴァーヴに残した録音は膨大な数にのぼります。演奏スタイルも時代の流行に左右されず常にオーソドックスなピアノ・トリオで、ジャズ史に残るような名作もないかわり、失敗作もない。偉大なるワンパターンと言うやつですね。楽器は違いますが、ソニー・スティットにも通じるところがありますね。



本作もヴァーヴに大量生産された作品の一つで、メンバーはいつものレイ・ブラウン(ベース)、エド・シグペン(ドラム)から成るトリオです。何の変哲もないタイトルと言い、スタンダード曲中心の構成と言い、特に目を引くところはありません。「ジャズの100枚」で発売されていなかったら、完全にスルーしていたでしょうね。でも、聴いてみたら何だかんだ良いんですよね。何と言ってもオスカー・ピーターソンのピアノがめちゃくちゃ上手い。ベイシー楽団の定番曲“Shiny Stockings”やスタンダード曲の“You Stepped Out Of A Dream”“Fly Me To The Moon”を超高速パッセージで弾きまくるあたりはさすがとしか言いようがないです。一転して“This Nearly Was Mine”のようなバラードではしっとりと聴かせてくれます。“Let's Fall In Love”のようなスインギーな曲もお手の物です。きっと当時のピーターソン・トリオはライブでこのレベルの演奏をごく当たり前のようにこなしていたんでしょうね。その一方でマイルスやコルトレーン、ジャズ・メッセンジャーズ等が次々と革新的な作品を発表していた。あらためて60年代半ばのジャズシーンがいかにすごかったがわかります。
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カウント・ベイシー/ザ・レジェンド

2016-03-20 22:47:29 | ジャズ(ビッグバンド)
本日はカウント・ベイシーのルーレット再発コレクションから「ザ・レジェンド」をご紹介します。録音は1961年。前年に発表した「カンザスシティ組曲」でアレンジャーを務めたベニー・カーターが引き続き作曲・編曲全てをこなしています。しかも、前作は演奏自体には加わりませんでしたが、今回は不動のメンバーであるマーシャル・ロイヤルに代わってアルトも吹いています(ただし、ソロはありませんが)。他にも前作からメンバー交代がいくつか。トランペットにはジョー・ニューマンに代わりアル・アーロンズが、テナーにはビリー・ミッチェルに代わりバッド・ジョンソンが、トロンボーンにはアル・グレイに代わりクエンティン・ジャクソンがそれぞれ加入しています。何より驚天動地なのはリズム・ギターの“ミスター・リズム”ことフレディ・グリーンがおらず、代わりにサム・ハーマンがギターを弾いていること。何せグリーンと言えば1937年にベイシー楽団に加入して以来、80年代に引退するまで半世紀近くひたすらリズムを刻み続けたベイシー楽団の“心臓”です。確かにギターソロは取らないので目立たない存在とは言え、グリーンのいないベイシー楽団と言うのは何となく落ち着きません。結局、グリーンは次の作品から何事もなかったように復帰しているので、たった1作だけの不在が謎ですね。たまたま体調でも悪かったのでしょうか?



以上、メンバーはいろいろ代わってはいますが、だからと言って作品のクオリティが下がることは一切ありません。全8曲、全てカーターがこの作品のために書き下ろしたものだと思いますが、昔からベイシー楽団がレパートリーにしていた曲であるかのよう典型的なベイシー・サウンドに仕上がっており、一糸乱れぬ鉄壁のアンサンブルと選び抜かれたメンバー達のソロが極上の世界を作り出しています。重厚なホーン・アンサンブルに続いてサド・ジョーンズとフランク・フォスターが素晴らしいソロを披露する“The Trot”、スヌーキー・ヤングのカップ・ミュートをフィーチャーした“Easy Money”、ラテンのリズムが情熱的な“Amoroso”、ファンキーなブルース“Goin' On”、バンド全体が疾走する“The Swizzle”、けだるい雰囲気が漂うタイトル曲“The Legend”、ゆったりしたビートに乗って新加入のアーロンズがブリリアントなソロを取る“Who's Blue?”、フォスターとバッド・ジョンソンがテナー・バトルを繰り広げる“Turnabout”。どの曲も水準以上の出来栄えで、この頃のベイシー楽団にハズレなし!をあらためて実感させてくれる1枚です。
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ワーデル・グレイ・メモリアルVol.2

2016-03-11 23:36:48 | ジャズ(ビバップ)
本日はビバップ期に活躍した伝説のテナー奏者、ワーデル・グレイを取り上げます。デトロイト出身で、1940年代後半に西海岸をメインに活躍。特にデクスター・ゴードンとのテナーバトルで一躍有名になりました。ただ、1955年に34歳で夭折してしまいます。ジャズマンで若くして死んだ人は他にもたくさんいますが、グレイのケースはその中でも特異で、死因は撲殺。ラスヴェガス郊外で首の骨を折られた他殺体で発見され、犯人不明のまま事故死として扱われたそうです。愛人に射殺されたリー・モーガンと同じくらいショッキングな死に方ですね。ただ、グレイの本当に悲惨なところは、彼の死が当時のジャズ界でそれほど大きなニュースにならなかったことではないでしょうか?と言うのも50年代に入ってからのグレイは麻薬に溺れ、特に死ぬ前の数年間は録音も数えるほどで、プレイも精彩を欠いていたとか。殺された原因もおそらく麻薬絡みのトラブルでギャングに消された説が有力だそうです。そんなグレイだけに残された録音はあまりありませんが、代表的なのがプレスティッジに残された「ワーデル・グレイ・メモリアルVol.1」と「Vol.2」です。「Vol.1」の方には後にアニー・ロスが歌詞を付けて歌った“Twisted”が収録されていますが、アルバム全体としての出来はそれほどでもないので、「Vol.2」の方をむしろお薦めします。



全18曲、別テイクの6曲を除けば実質12曲です。録音年月も場所も違う3つのセッションの寄せ集めですが、どれも充実の出来です。まず、最初の4曲は1950年4月に出身地のデトロイトで行われたセッション。グレイのワンホーンカルテットでリズム・セクションはフィル・ヒル(ピアノ)、ジョン・リチャードソン(ベース)、アート・マーディガン(ドラム)。後にスタン・ゲッツとの共演歴もあるマーディガンを除けば無名のメンバーですがおそらく地元のミュージシャンでしょう。ただ、グレイは絶好調です。1曲目“Blue Gray”は自作曲となっていますが、実際は“Blue Moon”のコード進行を少し変えてミディアムテンポにしただけのものですが、朗々と歌うグレイのテナーが素晴らしいです。2曲目“Gray Hound”と4曲目“Treadin'”はシンプルなブルースですが、ここでは力強いブロウでぐいぐい引っ張ります。一転してスローバラード“A Sinner Kissed An Angel”では、ムードたっぷりのソロを聴かせてくれます。

5曲目から10曲目は1952年1月ロサンゼルス収録のセッション。グレイ、アート・ファーマー(トランペット)、ハンプトン・ホーズ(ピアノ)、ハーパー・クロスビー(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)、ロバート・コリアー(コンガ)から成るセクステットです。ジャズファン的には若き日のファーマーとホーズ(どちらも当時23歳)の参加に注目ですね。ホーズは“Jackie”、ファーマーは“Farmer's Market”と自作曲も提供していてどちらもなかなかの佳曲です。もっとも主役はあくまでグレイで、コンガの野性的なリズムに乗せて縦横無尽のアドリブを繰り広げる様が圧巻です。ファーマーとホーズもキラリと光るソロを聴かせてはくれますが、グレイの前では完全に脇役ですね。

ラスト2曲は1950年8月にロサンゼルスのクラブで行われたライブの模様を録音したもので、音質はあまり良くないですが、当時の俊英達の熱きアドリブ合戦が記録されています。まず“Scrapple From The Apple”はおなじみチャーリー・パーカーのバップ・チューン。メンバーはグレイに加え、クラーク・テリー(トランペット)、ソニー・クリス(アルト)、ジミー・バン(ピアノ)、ビリー・ハドノット(ベース)、チャック・トンプソン(ドラム)という布陣です。続く“Move”ではさらにかつての僚友デクスター・ゴードンが加わり、2テナーでソロを競います。先発はおそらくグレイで、激しいブロウでありながら決してメロディを踏み外さないのが彼の真骨頂ですね。テリーのトランペットを挟んで、次はゴードン。こちらも迫力満点のブロウですが、フレージングの滑らかさと言う点ではグレイに軍配が上がるか?というのが私の感想です。奇しくもゴードンも50年代はグレイ同様麻薬に溺れ、引退同然の生活を送りますが、その後60年代にブルーノートから華麗に復活したのは皆さんご承知のとおり。本作でのグレイを聴く限り、才能的には決してゴードンに劣っていなかっただけに、非業の死を遂げたことが本当に惜しまれますね。
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ジャック・ウィルソン/サムシング・パーソナル

2016-03-10 21:07:49 | ジャズ(モード~新主流派)
本日はブルーノートの再発コレクションからジャック・ウィルソン「サムシング・パーソナル」をピックアップします。ジャック・ウィルソンは60年代に活躍したピアニストで決してメジャーとは言い難いですが、1967年に発表した「イースタリー・ウィンズ」はブルーノートの隠れ名盤としてご存じのジャズファンは多いと思います。その作品は東海岸録音でリー・モーガンやジャッキー・マクリーンらブルーノートの誇る大物をバックに従えていますが、あくまでウィルソンにとっては“アウェイ”でのセッションで、彼の“ホーム”は西海岸のロサンゼルスです。当地で60年代の初頭からヴァイブ奏者のロイ・エアーズとコンビを組み、アトランティックやヴォールト(知らないレーベルですが・・・)にリーダー作を発表してきました。当ブログでも以前アトランティック盤をUPしましたね。本作「サムシング・パーソナル」はブルーノート作品ではありますが、“ホーム”のロサンゼルスで1966年8月に録音されたもので、長年の盟友ロイ・エアーズのヴァイブを全面的にフィーチャーしています。他のメンバーはレイ・ブラウン(ベース)とバーニー・バーロウ(ドラム)で、最初の2曲ではブラウンがチェロを弾いてソロを取り、代わりにバスター・ウィリアムズ(ベース)が参加します。



収録曲はボーナストラック1曲を含め全7曲。聴いてみましょう。1曲目“Most Unsoulful Man”はウィルソンの自作曲で、どこか東洋的な雰囲気も漂うスピリチュアルなナンバー。レイ・ブラウンがチェロを弾いてますが、エキゾチックな曲調もあってどこかの国の民族楽器のように聞こえます。続く“The Sphynx”はフリージャズの旗手オーネット・コールマンのカバー。ここでの演奏自体はフリーではないですが、独特の雰囲気を持った曲です。ここまでスピリチュアル→フリーと私のあまり得意でない曲が続いて「すわハズレか!?」と思いますが、そこから持ち直します。3曲目“Shosh”はややモーダルな香りを漂わせたウィルソン自作のブルースでこれはまずまずと言ったところ。4曲目“Serenata”は本作のベストトラックでライトクラシックの王様ルロイ・アンダーソンの名曲を見事ジャズに料理したものです。エアーズの跳ねるようなヴァイブとウィルソンのグルーヴィなピアノソロが最高に心地良いです。5曲目“Harbor Freeway 5.P.M.”は曲名どおり夕暮れのハイウェイの光景が思い浮かぶようなメランコリックなナンバー。エアーズのヴァイブが幻想的な雰囲気を醸し出しています。6曲目“C.F.D.”とボーナストラックのコルトレーン作“One And Four”はどちらも疾走感あふれるモーダル・チューンで、ウィルソンとエアーズのスピーディなソロが圧巻です。以上、前半部分はともかく後半の畳みかけるような展開が見事な1枚です。
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デューク・ジョーダン/危険な関係のブルース

2016-03-09 17:26:32 | ジャズ(ハードバップ)
本日は「ジャズの100枚」シリーズから離れて、先日CDで再発売されたデューク・ジョーダン「危険な関係のブルース」を取り上げます。この作品にはいわゆる裏話がありまして、もともと本作に収録されている楽曲は1959年のフランス映画「危険な関係」のためにジョーダンが書き下ろしたものだそうです。演奏したのは人気絶頂にあったアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズで、映画自体が当時はやりのヌーヴェルヴァーグの波に乗ってヒットしたこともあり、サントラもジャズにしては異例の好セールスを記録したとか。ところがレコードジャケットに作曲家として書かれているのはジャック・マレーという名前で、ジョーダンの名はどこにもありません(再発売のCDにはジョーダンの名前が併記されていますが・・・)。ジャズマンがレコード会社の契約の関係で変名を使うのはよくあることですが、この場合はそうではなく、マレーは実在の人物で印税は彼のところに入って、肝心のジョーダンには一銭も入ってこなかったとか。著作権意識の薄い昔の話とは言え、これはあまりに気の毒と思ったのか、チャーリー・パーカーの未亡人であるドリス夫人が自分の所有するレーベル、その名もずばりチャーリー・パーカー・レコードからリリースしたのが本作というわけです。(ジョーダンは40年代後半にパーカーのバンドに在籍していたので、その縁でしょうか?)録音は1962年1月、映画の公開から2年以上後の話です。ただ、それでジョーダンが印税を取り戻したかというとそうでもなく、マイナーレーベルの悲哀か、それともジョーダン自身のネームバリューがなかったのか、大して売れたという話は聞かず、CDも長らく廃盤になっていました。一方のジャズ・メッセンジャーズ盤は名盤の仲間入りを果たし、例の「ジャズの100枚」シリーズからもリリースされていますので対照的ですね・・・



裏話はさておき、肝心の内容を見てみましょう。まず、メンバーですが、リーダーのジョーダン(ピアノ)に加え、テナーがベテランのチャーリー・ラウズ、トランペットがベイシー楽団に在籍していたソニー・コーン、ベースがエディ・カーン、ドラムがアート・テイラーです。通好みのメンバーと言えば聞こえはいいですが、ジャズ・メッセンジャーズ盤は御大ブレイキーに、リー・モーガン、ボビー・ティモンズ、さらに地元フランスのバルネ・ウィランと豪華ですので、メンツ的に見劣りするのは否めません。収録曲は全7曲、うち表題曲の「危険な関係のブルース」(原題“No Problem”)がハードバップ調、ラテン調、ブルース調の3バージョン、サントラ盤で“Prelude In Blue”というタイトルだった“The Feeling Of Love”がバラード調とミディアム調の2バージョンと5曲を占め、後は“Jazz Vendor”(サントラ盤では“Valmontana”)、“Subway Inn”(同“Miguel's Party”)の2曲で、実質4曲のみです。

以上、メンバーも地味かつ収録曲も少なく大丈夫?と思ってしまいますが、これが充実した内容なのですから、ジャズの世界は奥が深いですね。4曲とも楽曲の質が良いのもありますが、それ以上に演奏が良いです。作曲者でリーダーのジョーダンも端正なピアノを全編で聴かせてくれますが、何よりチャーリー・ラウズのテナーが素晴らしい。この人、セロニアス・モンクのサイドマンを長らく勤めたせいか、ややクセのあるテナー奏者と見られがちですが、それはあくまでモンクの個性的な音楽に合わせたからなんですよね。実際はモダンジャズの王道を行く正統派のテナー奏者です。冒頭、ハードバップ調の“No Problem”でのソウルフルかつ力強いテナーソロは圧巻の一言。一転して、バラードの“The Feeling Of Love”ではまろやかで温かみのあるトーンで聴き手をうっとりさせてくれます。スモールコンボでの演奏は珍しいソニー・コーンの高らかに鳴るラッパも魅力的ですね。ジャズ・メッセンジャーズ盤に比べれば地味ですが、決して二番煎じなどではない薫り高きハードバップが味わえる隠れ名盤です。                                                                                                                                                                                                                                                                                                          
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