ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

カウント・ベイシー/ワン・モア・タイム

2016-01-23 23:33:42 | ジャズ(ビッグバンド)

昨年、カウント・ベイシー楽団のルーレット時代のレコードが一挙にCDで再発されましたが、これがまだ全部で24枚もありまして・・・うち「アトミック・ベイシー」やサラ・ヴォーンとの共演作等は私も以前から所有していたのですが、それ以外は今回初お目見えの作品も多く、ファンとしてはありがたい反面、購入ノルマが大変!と嬉しい悲鳴です。今日ご紹介するのは1958年12月から1959年1月にかけて収録された「ワン・モア・タイム」という作品です。副題にmusic from the pen of Quincy Jonesとあるように、クインシー・ジョーンズが作曲・編曲と全面的に関わっています。この頃のベイシー楽団は人気・名声とも頂点を極め、メンバーもほぼ固定化していたため、下手をすればマンネリズムに陥る危険性もあったのですが、ニール・ヘフティやクインシー・ジョーンズ等毎回のように異なるアレンジャーを起用し、コンスタントに新曲を発表し続けたのは特筆すべきことと思います。クインシー・ジョーンズは周知のとおり後にマイケル・ジャクソンのプロデューサーとして世界的に有名になりますが、この頃は専らビッグバンドジャズのアレンジで名を馳せており、本作でも存分に腕を振るっています。



メンバーは総勢16人。先日の「ベイシー・プレイズ・ヘフティ」と全く同じメンツなのであえて列挙はしませんが、各楽器の実力者達が集まったオールスターメンバーによる一糸乱れぬアンサンブルは圧巻の一言です。アルバムはまずゆったりしたバラード“For Lenna And Lennie”で幕を開け、一転してバンド全体が大爆発する“Rat Race”、ブルージーな“Quince”と続きます。それ以降も快調な演奏が続きますが、中でも6曲目のパワフルな“Square At The Round Table”、アル・グレイのトロンボーンが咆哮する“I Needs To Bee'd With”、ゆったりしたスイング調の曲ながら地の底から湧き上がるようなホーンアンサンブルが徐々に曲を盛り上げていくラストの“Muttnik”が必聴です。ただ、本作のハイライトは何と言っても“The Midnite Sun Never Sets”。「真夜中の太陽は沈まず」の邦題が付いたこの曲はベイシー楽団が演奏したバラードの中でも最も美しい曲と言っても過言ではないでしょう。マーシャル・ロイヤルのとろけるようなアルトの音色と寄り添うようなバックのアンサンブルが聴く者を夢見心地にさせてくれます。

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ジャズ・シティ・プレゼンツ・ベツレヘム・ジャズ・セッション

2016-01-17 23:50:09 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はベツレヘムの再発シリーズから、LAの名門クラブ、ジャズ・シティで行われたライブ録音集をご紹介します。バードランド、ヴィレッジ・ヴァンガード、カフェ・ボヘミア等を擁するニューヨークに比べれば地味ですが、当時のLAにも多くのジャズクラブがあり、このジャズ・シティはその代表格だったようです。ただ、ウェストコーストジャズが50年代後半に下火になったのとシンクロするかのように、このクラブも1957年に閉店してしまいます。本作はその閉店を惜しんで、当時の西海岸の著名ジャズメン達が集まって演奏したライブを録音したものです。ただし、3曲とも全て異なるメンバーですので、おそらく同じ日のライブではなく別々に録音されたものと思われます。



まず、1曲目の“I'm Glad There Is You”はアレンジャーのラッセル・ガルシアが指揮するストリングスをバックに、ドン・ファガーキストがブリリアントなトランペットを聴かせるムードたっぷりのバラードです。途中で挟まれるハワード・ロバーツのギターソロも良いアクセントになっています。2曲目はミディアム・テンポに料理されたスタンダード“It Had To Be You”。こちらはフランク・ロソリーノ(トロンボーン)、チャーリー・マリアーノ(アルト)、ルー・レヴィ(ピアノ)、マックス・ベネット(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)のクインテットによる演奏です。西海岸No.1の実力者ロソリーノのパワフルなトロンボーンと、当時はパーカー直系のバリバリのバッパーだったマリアーノの情熱的なアルトによるアドリブ合戦が繰り広げられ、12分近い熱演となっています。ルー・レヴィらリズムセクションも堅実なサポートを見せています。

そして締めはガーシュウィンのスタンダード“Lady Be Good”(というより同曲のコード進行をもとに書かれたバップ曲“Rifftide”)で、こちらはなんと総勢9人ものメンバーが17分にわたって熱演を繰り広げます。ソロ順で言うとペッパー・アダムス(バリトン)、ドン・ファガーキスト(トランペット)、ハーブ・ゲラー(アルト)、ハービー・ハーパー(トロンボーン)、ビル・パーキンス(テナー)、クローラ・ブライアント(トランペット)、クロード・ウィリアムソン(ピアノ)、カーティス・カウンス(ベース)、メル・ルイス(ドラム)で、中でも泉のようにフレーズがわき出てくる絶好調のハーブ・ゲラーと、バックでメンバーを煽り続けるメル・ルイスのドラミングがグッジョブ!ですね。マニア的には、録音の少ない黒人女流トランペッターのブライアントの参加にも注目です。以上、寄せ集め感はありますが、演奏はどれも素晴らしいですし、スタジオ録音が中心だったウェストコーストのジャズメン達がライブで熱く燃える様が体感できるのも非常に貴重です。もしウェストコーストジャズ=白人中心の軟弱なジャズ、と思っている人がいれば、そんな偏見を取り払うのに最適な1枚かもしれませんね。

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ザ・ファビュラス・ファッツ・ナヴァロVol.1

2016-01-16 23:52:02 | ジャズ(ビバップ)

先日のチャーリー・パーカーに続き、本日もビバップの作品を取り上げたいと思います。ビバップ期のトランペッターと言えば、パーカーとも共演の多いディジー・ガレスピーが有名ですが、彼以上に才能があったと言われるのがこのファッツ・ナヴァロです。本名はセオドアですが、大食漢の肥満体型だったために、太っちょを意味するFatsの愛称が付いたそうです。しかしながら、重度のヘロイン中毒だったために健康を害し、1950年にわずか26歳で世を去りました。パーカーも麻薬が原因で命を縮めましたが、それでも34歳まで生きたことを考えるとナヴァロの短命ぶりが際立ちますね。残された録音は決して多くはないですが、サヴォイ盤「ノスタルジア」とブルーノートから発表された「ザ・ファビュラス・ファッツ・ナヴァロVol.1」と「Vol.2」でその天才ぶりを知ることができます。3枚のうちサヴォイ盤は残念ながら音が悪いので、ブルーノートの2枚、特にこの「Vol.1」が音質も曲も良いのでお薦めです。



ボーナストラックも含めて全11曲、別テイクを除けば実質7曲です。核となるのは1947年9月のセッションで、チャーリー・ラウズ(テナー)、アーニー・ヘンリー(アルト)、タッド・ダメロン(ピアノ)、ネルソン・ボイド(ベース)、シャドウ・ウィルソン(ドラム)から成るセクステットです。実質のリーダーはナヴァロではなくダメロンで、4曲全てを彼が作曲しており、後にジャズ・スタンダードとなる“Our Delight”はじめ、“The Squirrel”“The Chase”“Dameronia”と名曲揃いです。ファッツ・ナヴァロのブリリアントなトランペットは確かに素晴らしく、なぜ彼が天才と呼ばれたのか十分に得心がいくものです。ただ、個人的にはタッド・ダメロンの作曲センスとアレンジの秀逸さに感心しています。ビバップ期は良くも悪くもアドリブ一発勝負的な面があったのですが、本作で聴ける3管編成での洗練されたアレンジは後のハードバップを予感させるものです。

残り3曲のうち1曲“Double Talk”は、1948年10月の録音。同じくビバップ期に活躍したトランペッターのハワード・マギーとの双頭コンボによるセッションで、アーニー・ヘンリー(アルト)、ミルト・ジャクソン(ピアノ)、カーリー・ラッセル(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)の編成です。後にヴァイブの第一人者となるミルト・ジャクソンがピアノで参加しているのが珍しいですが、プレイはあくまで無難という程度。何と言ってもナヴァロとマギーの熱いトランペット・バトルが聴きモノです。あとの2曲はボーナス・トラックで、バド・パウエルの「ジ・アメイジング・バド・パウエルVol.1」に収録されている1949年8月のセッションから“Wail”“Bouncing With Bud ”の別テイクです。こちらはプライベートで仲が悪かったナヴァロとパウエルの“喧嘩セッション”としてジャズファンの間で有名ですが、もう一つ18歳のソニー・ロリンズの初レコーディングとしても歴史的価値のあるものです。結局、ナヴァロはこのセッションから1年も経たない間に麻薬による衰弱の末、肺結核で死んでしまいます。最後は太っちょ(Fats)のニックネームが嘘かのように、ガリガリに痩せていたそうです。悲劇的な人生を終えたナヴァロですが、本作のように60年以上経った今でもCD化され、多くのジャズファンに聴き継がれているのは不幸中の幸いかもしれませんね。

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ジャッキー・マクリーン/マクリーンズ・シーン

2016-01-10 23:33:24 | ジャズ(ハードバップ)
昨日のパーカーに続き、本日もモダンジャズを代表するアルト奏者であるジャッキー・マクリーンを取り上げたいと思います。パーカーほどのカリスマ性はありませんし、アート・ペッパーのような天才肌でもありませんが、とにかく作品数が多いのがマクリーンの長所で、特にハードバップの名門であるプレスティッジとブルーノートに多くのリーダー作を残しました。60年代には時流に乗っかってフリージャズっぽいことをやったりもしていましたが、ジャズファンにお馴染みなのはやはりバリバリのハードバッパーだった50年代のマクリーンで、独特の哀調を帯びた“泣きのアルト”がトレードマークです。本作「マクリーンズ・シーン」はプレスティッジの傍系レーベルであるニュージャズに1956年から1957年に吹きこまれたもので、プレスティッジ時代の代表作である「4,5&6」や「ジャッキーズ・パル」に比べるとマイナーですが、なかなか良質なハードバップ作品です。



この頃のマクリーンはピアニストにマル・ウォルドロンを起用することが多く、本作でも1957年2月録音の3曲はマル、アーサー・フィップス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)をバックに従えたワンホーン・カルテットです。ただ、こちらの出来は正直イマイチ。スタンダードの“Our Love Is Here To Stay”“Old Folks”を演奏していますが、選曲もベタですし、演奏も平凡です。あえて言うならラストトラックの急速調バップ“Outburst”でパーカーの影響を感じさせるアドリブを披露するぐらいですかね。本作の聴き所はそれより2ヶ月前の1956年12月に吹きこまれたセッションの方です。こちらはビル・ハードマン(トランペット)、レッド・ガーランド(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)とのクインテットで、曲・演奏とも最高です。特にアップテンポに料理されたスタンダードの“Gone With The Wind”とマクリーンの自作のブルース“McLean's Scene”はこのアルバムのハイライトで、どちらも当時ナンバーワン・ピアニストの1人だったレッド・ガーランドが目の覚めるようなピアノソロを聴かせてくれます。また、当時マクリーンとジャズ・メッセンジャーズで同僚だったビル・ハードマンも熱いトランペットを聴かせてくれます。“McLean's Scene”でのハードマンとマクリーンのチェイスはなかなかスリリングですね。マクリーンとガーランドの組み合わせは非常にレアで(たぶん他にはないはず)、似たようなフォーマットが多いこの時期のマクリーンのカタログの中でも異彩を放っている作品と言えるでしょう。
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チャーリー・パーカー/ナウズ・ザ・タイム

2016-01-09 23:47:34 | ジャズ(ビバップ)
本日はモダンジャズの開祖ともいえるチャーリー・パーカーの代表作の一つである「ナウズ・ザ・タイム」を取り上げます。何を今さらの超有名作ですが、なぜか今まで手を出してこなかったのです。いや、正直に言うと本作に限らずパーカーの作品は数えるほどしか聴いたことがありません。理由の一つは時代の古さ。パーカーが麻薬中毒による衰弱死で世を去ったのが1955年。ようやくハードバップの時代が始まった頃です。ちょうどこの頃は録音技術が進歩した頃でもあり、それ以前のビバップ期のレコードは音質の面でどうしてもくぐもった感じやノイズがあったりするんですよね。一般的にパーカーの全盛期とされるのが40年代半ばと言われていて、この頃の録音も色々と出回っているのですが、音の悪さがネックとなり何となく敬遠していたわけです。もちろんそれだけでなく、一部のジャズマニアが言う「パーカーの良さがわかってこそ真のジャズファン」みたいな権威主義に何となく反発する気持ちがあったのも否めません。

とは言え、モダンジャズを聴いていれば自然とパーカーの偉大さは理解していくわけで。なんせハードバップ期のアルト奏者はほぼ全員がパーカーの影響下にあると言われています。パーカーそっくりと言われたソニー・スティットはじめキャノンボール・アダレイ、ジャッキー・マクリーン、ルー・ドナルドソン、ソニー・クリス。白人でもフィル・ウッズ、ハーブ・ゲラー、チャーリー・マリアーノと主要なアルト奏者は皆自他共に認めるパーカー派です。また、作曲者としても本作に収録されている“Now's The Time”“Confirmation”はじめ、“Au Privave”“Billie's Bounce”“Moose The Mooche”“Ornithology”“Scrapple From The Apple”と後のジャズ・スタンダードを多く残しています。つまり、パーカーそのものを聴かなくても、間接的にパーカーの残した数々の遺産に親しんでいたともいえます。



前置きが長くなりました。本作「ナウズ・ザ・タイム」はそんなパーカーが1952年から1953年にヴァーヴに吹きこんだ2つのセッションから成っています。パーカー通に言わせればこの頃のパーカーは既に全盛期ではないとのことですが、素人耳にはそんなことは感じられませんし、少なくとも録音状態は40年代に比べると遥かに良いので、上に述べた音質云々の心配なく聴けるのがメリットです。曲は全てワンホーンカルテットで、リズムセクションは1952年のセッションがハンク・ジョーンズ(ピアノ)、テディ・コティック(ベース)とマックス・ローチ(ドラム)。1953年のセッションもドラムはローチで、他はアル・ヘイグ(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)という布陣です。と言っても、両セッションともピアノがちょろっとソロを取るぐらいで、どの曲もパーカーの独壇場です。

全13曲ありますが、別テイクが多いので実質は8曲です。うち、“The Song Is You”と“I Remember You”がいわゆる歌モノのスタンダードで後は全てパーカーのオリジナルです。歌モノにおけるメロディアスなアドリブもなかなか良いですが、やはり自作曲がいいですね。特にタイトル曲の“Now's The Time”と“Confirmation”が素晴らしいです。どちらも他のジャズメンによるバージョンを散々聴いてきましたが、やはり本家本元のバージョンは特別です。お馴染みのテーマの後に繰り広げられる自由自在のアドリブを耳にすると、こう言うプレイを皆に先んじて40年代からしていたパーカーがいかに革新的だったのかが良くわかります。他では“Chi-Chi”も負けず劣らず魅力的ですね。ただ、4テイクも収録されているのはどうかと思いますが・・・その他は“Laird Baird”“Kim”“Cosmic Rays”とあまりメジャーではない曲ですが、どれも悪くないです。パーカーに取っつきにくさを感じているジャズファンは私以外にもいると思いますが、そう言った方には入門編として最適な1枚ではないでしょうか?
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