本日は珍しいジャズ・ハーモニカ作品を取り上げます。ハーモニカは小学生の時に学校で習うぐらい身近な楽器ではありますが、プロが演奏する楽器としてはマイナーですよね。洋楽ではスティーヴィー・ワンダー、邦楽だと長渕剛あたりが歌いながらハーモニカを吹くイメージが強いですが、ジャズの世界でハーモニカを主楽器にしている数少ないプレイヤーが今日ご紹介するトゥーツ・シールマンスです。”トゥーツ”と言うのはあだ名で本名はジャン=バチスト・ティルマンスと言い、ブリュッセル生まれのベルギー人です。
1950年にベニー・グッドマン楽団のヨーロッパツアー中に才能を見出され、1952年にアメリカに移住し、徐々に才能を認められていきます。本作「マン・バイツ・ハーモニカ!」は1957年12月から1958年1月にかけてリヴァーサイド・レコードに吹き込まれた初期の代表作です。一応、それより前の1955年に「ザ・サウンド」と言う作品をコロンビアから発売しているようなのですが、CD発売はされていないようです。
メンバーはリズムセクションがケニー・ドリュー(ピアノ)、ウィルバー・ウェア(ベース)、アート・テイラー(ドラム)といかにもリヴァーサイドらしい手堅い面々ですが、そこにバリトンサックスのペッパー・アダムスが加わっているのが面白いですね。トランペットやテナーだとそちらが目立ってしまうからなのかもしれませんが、結果的にアダムスのブリブリと吹く重低音が良いアクセントになっています。なお、トゥーツはハーモニカだけでなくギターの名手でもあり、本作でもいくつかの曲でギターを披露しています。
全8曲、うち最初の2曲とラストの2曲が歌モノスタンダードです。中でも1曲目の"East Of The Sun"が絶品ですね。多くの歌手が歌ったロマンチックな名曲をトゥーツがハーモニカで情緒たっぷりに歌い上げて行きます。途中で挟まれるアダムス、ドリューのソロもさすがです。2曲目"Don't Blame Me"と7曲目"Imagination"はどちらもアダムス抜きのバラード演奏。トゥーツが前者はハーモニカ、後者はギターでじっくり聴かせます。ラストトラックはロジャース&ハートの"Isn't It Romantic"で、アダムス→トゥーツのハーモニカ→ドリューと軽快にソロをリレーします。
スタンダード以外も悪くないです。3曲目"18th Century Ballroom"はレイ・ブライアント作曲で、トゥーツがギターでスインギーなソロを聴かせます。続く"Soul Station"はトゥーツ自作のブルースで、まずトゥーツがブルージーなギターでアダムスと絡み、その後アダムス→トゥーツのハーモニカソロ→ドリューとソロを取り、再びトゥーツがギターで締めくくります。トゥーツのなかなかソウルフルな一面が見れる曲です。”Fundamental Frequency”はハードドライビングなトゥーツの自作曲、”Struttin’With Some Barbecue”はルイ・アームストロングで有名な曲で、どちらもトゥーツのハーモニカ→アダムス→ドリューの順で快調にソロをリレーします。トゥーツはその後も活躍を続け、60年代には後にスタンダードとなる”Bluesette”を作曲、70年代にはビル・エヴァンスとのコ・リーダー作「アフィニティ」を発表したりしますが、個人的にはハードバップの香りも漂わせる本作が一番のお気に入りです。