ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ファゴット協奏曲集

2020-08-26 11:17:38 | クラシック(協奏曲)

本日は少し珍しいところでファゴットのために書かれた協奏曲集をご紹介します。ファゴットは別名バスーンとも言い、木管楽器の一つとしてオーケストラには欠かせない楽器です。ただ、独奏楽器としては同じ木管のフルート、クラリネット、オーボエと比べると地味なのは否めません。音域的にも低く、また楽器の構造上フルートやクラリネットのように滑らかで流れるような音は出ず、ポポポポポとちょっと気の抜けたような感じです。とは言え、歴史自体は古くバロック期から存在するため、ファゴットを主楽器とした楽曲の数はそれなりにあります。本日はその中でも18世紀末から19世紀前半の古典~初期ロマン派の頃に書かれたモーツァルト、フンメル、ウェーバーによる3曲の協奏曲をご紹介します。CDはウィーン・フィルの首席ファゴット奏者だったミヒャエル・ヴェルバがウィーン弦楽ゾリステンをバックに演奏したものです。

まずはモーツァルトの作品から。神童モーツァルト18歳の時の作品で、古今のファゴット協奏曲の中でも最も有名な作品と言っていいでしょう。いかにも若き日のモーツァルトらしい天国的で明るい旋律です。ただ、モーツァルトの数多ある傑作群の中では正直取り立てて目立つ作品とは言えず、木管楽器のために書かれた協奏曲の中でも、フルート協奏曲やクラリネット協奏曲、協奏交響曲等と比べると一段劣るというのが私の評価です。

個人的にはフンメルとウェーバーの作品の方を高く評価します。フンメルは以前にトランペット協奏曲を取り上げましたが、ベートーヴェンと同時期の作曲家で生前は高い評価を得ていたようです。特に第1楽章が素晴らしく、華やかで美しい旋律が次から次へと現れる名曲です。第3楽章のロンドも捨てがたい。ウェーバーは「魔弾の射手」等のオペラ序曲で名高いですが、2曲のクラリネット協奏曲をはじめとしてホルン・コンチェルティーノなど協奏的作品にも佳作が多いです。第1楽章はオペラ序曲を思わせるドラマチックな始まりでロマン派の王道を行く歌心あふれる旋律が続きます。優美なアダージョの第2楽章、軽快なロンドの第3楽章も魅力的です。

 

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コルンゴルト/映画音楽集

2020-08-20 07:05:52 | クラシック(管弦楽作品)

本日はエーリッヒ・コルンゴルトを取り上げたいと思います。既に本ブログでもヴァイオリン協奏曲交響曲の2作品を紹介しましたが、もともとオーストリアの出身でナチスの迫害を受けてアメリカに亡命した作曲家です。過去ブログでも書いたように、渡米後のコルンゴルトはハリウッドに定住し、映画音楽の世界で成功を収めました。彼が音楽を手がけた映画の数は20を超え、アカデミー賞の音楽部門でも2回受賞しています。今で言うところのジョン・ウィリアムズのような存在だったと言えます。ただ、ジョン・ウィリアムズの作品が巷で広く親しまれながらも純粋な芸術作品として評価されないのと同じように、コルンゴルトの作品群も当時のクラシックの世界からは全く無視されていました。それどころか、なまじオーストリア時代に「モーツァルトの再来」とまで呼ばれるほどの高い評価を得ていたがゆえに、渡米後のコルンゴルトの作品は「ハリウッドの商業主義に汚染された」だの「ショービジネスに魂を売った」だの散々な言われようだったようです(おそらく商業的成功へのやっかみもあったのだとは思いますが・・・)。前述のヴァイオリン協奏曲や交響曲も生前はまともに評価されなかったとか。

近年ではヴァイオリン協奏曲を筆頭に彼のクラシック作品も評価が確立してきていますが、一方で映画音楽に関してはまだまだディスクの数も少なく、認知度も高くないようです。そんな中で貴重な1枚がアンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団の演奏による本作品です。もともとプレヴィンはコルンゴルト作品に愛着が深く、本ブログで取り上げたヴァイオリン協奏曲や交響曲も彼の指揮したものですし、コルンゴルト復権の第一人者とも言えます。プレヴィン自身も若い頃は西海岸を拠点にして、ジャズピアニストや映画音楽作曲家として名を成していましたから、クラシック一辺倒の他の指揮者よりもコルンゴルトへの理解が深いのかもしれません。

本CDに収録されているのは「シー・ホーク」「女王エリザベス」「海賊ブラッド」「放浪の王子」の4作品。どれも映画としては今ではすっかり忘れ去られていますが、音楽の方はコルンゴルトならではのスペクタキュラーな管弦楽法と美しい旋律が融合した魅力的な作品ばかりです。音楽的には完全な後期ロマン派で、リヒャルト・シュトラウスの一連の交響詩に通じるものがあります。ただ、これらの作品が発表された1930~40年代には既にロマン派の音楽は時代遅れであり、また映画音楽というジャンル自体への偏見もあって当時の評論家達からはまともに相手にされませんでした。

4作品のうち「シー・ホーク」と「海賊ブラッド」は海賊が主人公となった冒険活劇で、オープニングは血沸き肉躍るストーリーを暗示させるような絢爛豪華なオーケストレーションで幕を開け、中間部は美しい愛のテーマ等も挟みながらフィナーレも再び盛り上がります。「女王エリザべス」も基本似たような展開ですが、こちらは宮廷が舞台ということもあって、やや荘重な雰囲気を漂わせています。「放浪の王子」は一聴しただけで気づくと思いますが、主旋律はほぼそのままヴァイオリン協奏曲第3楽章に転用されており、お馴染みのテーマが変奏曲のように形を変えてあちこちに登場します。映画音楽なので確かにどれもベタっちゃあベタなのですが、大衆向け音楽と切って捨てるには惜しいクオリティの作品ばかりだと思います。

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