本日もJAZZ THE BESTシリーズからの1枚でオスカー・ピーターソンが1969年にMPSに残した傑作「ハロー・ハービー」を紹介します。ここで言うハービーはハービー・ハンコックでもハービー・マンでもなく、ギタリストのハーブ・エリスのことです。エリスは1950年代から活躍する白人ギタリストで、自身のリーダー作もいくつか残していますが、オスカー・ピーターソン、レイ・ブラウンと結成したトリオが最も知られています。ピアノ、ベース、ギターという異色の編成からなるトリオですが、スタン・ゲッツとのカルテット作、ベン・ウェブスターの「ソウルヴィル」、エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロングの「エラ&ルイ」など多くの名盤に名を連ねています。
本作はそんな2人の久々の共演作ですが、お互いを知り尽くした者同士息の合ったインタープレイを聴かせてくれます。ベースのサム・ジョーンズとドラムのボビー・ダーラムも当時のオスカー・ピーターソン・トリオのレギュラーメンバーだけにまさに一糸乱れぬクオリティの高いジャズが堪能できる一枚です。
曲目もブルースからバラードまで実にバラエティ豊か。特にオープニングの“Naptown Blues”でのエリスのウェス・モンゴメリーばりの早弾きにびっくり。50年代のピーターソン・トリオにおけるエリスはもっぱら伴奏に徹していた感があるだけに、エリスってこんなにギター上手かったんだ、というのが正直な感想です。その他ではメロディが魅力的な“Day By Day”、ハンプトン・ホーズの名曲カバー“Hamp's Blues”、ベニー・グッドマン作のスイングナンバー“Seven Come Eleven”と全編通じて曲よし演奏よしの内容です。旧友同士の再会を描いたジャケデザインも秀逸ですね。
本日は3月に発売されたJAZZ THE BESTシリーズから、ジョーヘンことジョー・ヘンダーソンの「ラッシュ・ライフ」を紹介したいと思います。ジョーヘンと言えば1960年代にジャズ界を席捲した“新主流派”の中心的人物として、主にブルーノートに多くの録音を残しています。リーダー作の「ページ・ワン」「インナー・アージ」あたりは日本のジャズファンにもお馴染みですね。新主流派特有のモーダルな演奏だけでなく、正当派ハードバップ、ジャズロック、ソウルジャズ、フリージャズと何でもこなすオールラウンドプレイヤーであり、60年代のジャズシーンにおける最重要人物の一人と言えるのではないでしょうか?
本作はそこからぐっと時代が下って1991年の録音。かつては新進気鋭のジャズマンだった彼も54歳のベテランとなり、角の取れた円熟の境地とも言える演奏を聴かせてくれます。共演は若手のミュージシャンばかりで、トランペットのウィントン・マルサリス、ピアノのスティーブン・スコット、ベースのクリスチャン・マクブライド、ドラムのグレゴリー・ハッチンソンという顔ぶれです。
上記の顔ぶれでやはり目を引くのが当代随一のトランペッター、ウィントン・マルサリスの参加ではないでしょうか?ただ、残念なことに彼の参加したのは10曲中3曲しかないんですね。後は曲ごとに違うフォーマットでテナー+リズムセクションのカルテット、ピアノレスのトリオ、ドラムレスのトリオ、さらにピアノ、ベース、ドラムと組んだデュオが1曲ずつ、締めがテナーソロです。きっといろんな編成でジョーヘンのテナー表現の可能性を追求したのでしょうね。
ただ、保守的なスタイルが好きな私としてはやはりオーソドックスなリズムセクション入りが一番安心して聴けます。特にウィントン入りの3曲はどれも良いです。エネルギッシュな“Johnny Come Lately”、叙情的なバラード“A Flower Is A Lovesome Thing”、スインギーな“Upper Manhattan Medical Group”とどれも名演です。カルテットの“Blood Count”も美しいバラードですね。他ではベースとのデュオ“Isfahan”、ドラムレスのトリオ“Drawing Room Blues”あたりも味のある演奏です。
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1963年5月録音の本作はそんな2人の双頭コンボによるアルバムですが、かなりソウル色の強い内容です。全8曲中5曲がオルガンをバックにした演奏で、当時はやりのソウル・ジャズ路線に乗っかった作品とも言えます。メンバーはリーダーの2人に加えてハンク・ジョーンズ(ピアノ&オルガン)、アーロン・ベル(ベース)、アート・テイラー(ドラム)、カルロス・バルデス(コンガ)による演奏が5曲。ハンク・ジョーンズに代えてジョン・パットンがオルガンを務めるのが3曲。ハンク・ジョーンズが2曲でオルガンを弾いているのが珍しいです。
曲目はファンキー節全開のオープニングチューン“Oh Gee!”、こってりブルース“Twist City”などソウルフルな曲が中心ですが、歌モノスタンダードの“At Sundown”“Poor Butterfly”も入っており、決してノリ一辺倒の作品ではありません。ちなみに私のイチ押しはラストを飾るマシュー・ジーのオリジナル“Renee”。ほのぼのとしたムードの中に魅力的なメロディを持つ隠れた名曲と言えます。
演奏の方はグリフィンは文句なし。ただ、それよりもジーの味わい深いトロンボーンに耳を傾けてしまいます。他ではパットンの粘っこいオルガンもGOOD。ハンク・ジョーンズはやっぱりオルガンよりピアノの方が合ってるかな。
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このビッグバンドも当時の西海岸オールスターとも言うべき内容で、魅力的なメンバーが名を連れています。リーダーのショーティはじめ、テナーのズート・シムズ、ジミー・ジュフリー、ボブ・クーパーにアルトのハーブ・ゲラー、バリトンのバド・シャンク、トロンボーンのボブ・エネヴォルセンなど総勢21名。いずれも名手揃いです。リズム・セクションはマーティ・ペイチ(ピアノ)、カーティス・カウンス(ベース)、シェリー・マン(ドラム)。私の知る限り黒人はおそらくベースのカウンスと、トランペットのハリー・エディソンのみで後は全て白人だと思うのですが、決して本家のベイシー楽団に見劣りしない分厚いビッグ・バンド・ジャズを聴かせてくれます。
曲はベイシー楽団のレパートリーが中心ですが、冒頭ゆったりしたテンポの中でも分厚いサウンドを聴かせる“Jump For Me”、ベイシーばりのペイチのピアノから始まるアップテンポの“Doggin' Around”が特に素晴らしい。ショーティ自身も自作曲を3曲書き下ろしていますが、“Basie Eyes”“Over And Out”などはベイシー楽団のナンバーと言われてもいいぐらいスイング感に溢れたナンバーです。全部で12曲、どれも3分前後の演奏ですが、その分コンパクトにまとまっていて聴きやすいです。「白人はスイングしない」なんて偏見を持ってる人には是非聴いてほしい名盤です。
本日はベン・ウェブスター&ジョー・ザヴィヌルのリヴァーサイド作品「ソウルメイツ」を紹介します。英語でsoul mateと言えば“心の友”のことですが、ベン・ウェブスターとジョー・ザヴィヌルと言えば、年齢も経歴も全く違う者同士。片やウェブスターはビバップ以前のスイング時代から活躍するテナーの大御所で、録音時の1963年で54歳の超ベテラン。一方のザヴィヌルはオーストリアから本場アメリカにやって来て3~4年の頃。キャノンボール・アダレイ・グループのピアニストとして注目を浴びてきてはいましたが、まだ若手の有望株に過ぎません。
一般的なジャズファンの認識からすればベン・ウェブスターと言えば、どちらかと言えば古臭い印象をもたれがち。ジョー・ザヴィヌルはキャノンボール・バンドでのファンキーな演奏、さらには70年代のウェザー・リポートでフュージョン・ブームを巻き起こした立役者のイメージが強いでしょう。こんな2人が共演したら果たしてどうなるのでしょうか?
結果から言えばいたってシンプルな正統派ジャズなんですね。これぞジャズの王道と言うべきベンのテナーに、ザヴィヌルが合わせるスタイルとなっています。これも録音時の2人の“格”を考えれば当然っちゃ当然ですが。ザヴィヌルからすれば御大ベン様と共演できるだけで光栄!って感じだったでしょうし。セッションは2つに分かれており、リーダー2人に加えてリチャード・デイヴィス(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)のカルテットが4曲。こちらはバラードが中心で、冒頭の歌モノ“Too Late Now”、エリントン・ナンバーの“Come Sunday”、あまり聴いたことのない“Trav'lin' Light”など佳曲揃い。バラード演奏と言えばベン様の真骨頂で、実にゆったりとしたテンポから繰り出されるふくよかなテナーの音色に心を奪われます。ザヴィヌルもきらびやかなタッチでベンを盛り立てます。
もう1つのセッションはサド・ジョーンズのコルネットを加えたクインテットで、ベースがサム・ジョーンズに代わっています。こちらはスインギーなナンバーが中心で、ブルージーなタイトル曲“Soulmates”、全員が疾走する“The Governor”、ほんわかしたラストの“Evol Deklaw Ni”、そして唯一ザヴィヌル作のモーダルな“Frog Legs”などバラエティ豊かな内容です。アップテンポでブリブリ吹きまくるウェブスターはまさに貫禄たっぷりです。今思うと1960年代前半はジャズにとって実に幸福な時代で、このベンだけでなく、ベイシー、エリントン、コールマン・ホーキンスらの大御所もまだ健在で、かつキース・ジャレット、チック・コリアなど現代も活躍する大物達が台頭してきた時期でもあります。この1枚もそんな黄金時代だからこそ生み出された貴重な1枚ですね。