ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

モーツァルト/孤児院ミサ

2019-08-19 22:56:04 | クラシック(声楽)
本日はモーツァルトのミサ曲ハ短調、通称「孤児院ミサ」をご紹介したいと思います。名称の由来はこの曲がウィーンに建設された孤児院の献堂式のために書かれたものだからだとか。モーツァルトは生涯に19曲のミサ曲を作曲しており、有名なのはモーツァルト23歳の時に書かれたハ長調の「戴冠式ミサ」、26歳の時に書かれたハ短調の「大ミサ曲」ですが、この曲はそれよりもっと早くなんと12歳の時に書かれた曲だそうです。モーツァルトは早熟の天才として知られており、交響曲第1番は8歳の時、ピアノ協奏曲第1番は11歳の時にそれぞれ作曲したと言うことはよく知られています。しかし、これらの作品を含めた初期の作品群はボリューム的にはどれも10分からせいぜい20分までと短く、内容的にも習作に近い作品というのが定説です。ところがこの「孤児院ミサ」は曲の長さも40分以上もあり、楽器編成的にも大規模な本格的なミサ・ソレムニス(荘厳ミサ曲)です。いくら幼少期から音楽の英才教育を受けてきたとしても12歳にしてこのスケールの曲を書き上げるのはまさに天才としか言いようがありません。



作曲年は1768年とあって、全体的にまだバロックの影響が強く、旋律的にも後年の作品で聴かれる唯一無二のモーツァルト節みたいなものはまだ確立されているとは言えません。ただ、厳かな雰囲気の中にも耳に残るフレーズが繰り返される1曲目「キリエ」、後半のソプラノ独唱が美しい2曲目「グロリア」、冒頭のトロンボーンの音色が美しい5曲目「アニュス・デイ」と随所に聴く者の心を捉える旋律を聴くことができます。

CDですがモーツァルト初期の作品とあってさすがに数自体は「大ミサ曲」や「戴冠式ミサ」に比べて圧倒的に少なく、唯一出回っていると言えるのがクラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニーの演奏です。指揮者、オケとも超一流なのに加え、独唱者にグンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)、フレデリカ・フォン・シュターデ(アルト)らオペラ界で活躍するディーヴァ達を迎えた豪華な1枚です。録音は1975年でジャケットのアバドもまだまだ若々しいですね。
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ヴォーン=ウィリアムズ/交響曲第5番&チューバ協奏曲

2019-08-17 23:11:52 | クラシック(交響曲)
本日はイギリスの作曲家レイフ・ヴォーン=ウィリアムズの作品を取り上げます。ヴォーン=ウィリアムズについては以前に代表曲の「タリス幻想曲」「グリーンスリーヴス幻想曲」「揚げひばり」を本ブログでも取り上げました。民謡や古楽を題材にイギリスの田園風景を思わせるような透明感あふれる曲調が持ち味ですね。一方でヴォーン=ウィリアムズは生涯で9曲もの交響曲を残し、交響曲の分野にも相当力を入れていたようですが、本国イギリスはともかく海外での人気はそれほど高いとは言えません。CDも古くはエイドリアン・ボールト、最近だとロジャー・ノリントン、アンドリュー・デイヴィス等イギリスの指揮者のものが中心です。今日ご紹介するCDはアンドレ・プレヴィン指揮で彼はイギリス人ではありませんが、本盤でもタクトを振るロンドン交響楽団の首席指揮者を長く務めたので英国ものはお手の物ですね。



曲は4楽章形式で第2楽章のみスケルツォで毛色が少し違いますが、他の楽章は全ていかにもヴォーン=ウィリアムズと言った感じの透明感あふれる気高い感じの曲調です。同じようなテンポが続くので起承転結には乏しく、ドイツやロシアのロマン派音楽のようなわかりやすい「ツボ」がありません。なので最初は正直退屈ですが、何度か聴くうちに各楽章に静かながらも盛り上がるポイントが見つかってきます。中でも第4楽章の3分過ぎから始まる盛り上がりは感動的です。

このCDには他にもヴォーン=ウィリアムズが「エリザベス朝のイングランド」と言う映画のために書いた音楽から3つの楽曲。そしてバス・チューバ協奏曲が収録されています。前者は特筆するほどの曲ではありませんが、後者は12分強の小品ながらなかなかの魅力的な作品。そもそもチューバを主楽器とした協奏曲自体が激レアで、実際この曲自体が歴史上初めてのチューバ協奏曲だとか(現在では他にも映画音楽で有名なジョン・ウィリアムズの作品等があります)。チューバは重低音を司る金楽器としてオーケストラには欠かせない存在ではありますが、音的にはボッボボッボと鳴るだけですのでソロには明らかに不向きですよね。ところがヴォーン=ウィリアムズのこの曲は重苦しくドラマチックな曲調にチューバの重低音がうまくマッチしていて得も言われぬ魅力を醸し出しています。ソリストはロンドン交響楽団でチューバ奏者だったジョン・フレッチャーと言う人でヴォーン=ウィリアムズのこの曲を吹かせたら世界一と言われていた人だとか。確かに第3楽章のチューバとは思えない高速パッセージなどは素人でも凄さがわかります。腹に響くボッボボッボとオーケストラとの不思議な融合が耳について離れません。
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グリエール/青銅の騎士&ホルン協奏曲

2019-08-13 13:09:42 | クラシック(管弦楽作品)
本日は少しマイナーなところでレインゴリト・グリエールの作品を取り上げたいと思います。と言われてもピンと来ない人が多いかもしれませんが、現在のウクライナのキエフで生まれ、20世紀前半に活躍したロシア~ソ連の作曲家です。名前がロシアっぽくないですが、民族的にはドイツ系でドイツ語読みだとラインホルト・グリアーになります。1875年生まれですので世代的にはラフマニノフと同世代ですが、代表作はむしろソ連時代の1930~40年代に集中しているようです。本日紹介するバレエ音楽「青銅の騎士」は1949年、ホルン協奏曲は1950年の作品です。この頃のソ連の音楽はショスタコーヴィチをはじめとしたいかにも20世紀風の取っつきにくい曲が多いですが、グリエールの音楽は後期ロマン派の王道を行くもので、旋律もわかりやすいものが多いですね。CDはエドワード・ダウンズ指揮BBCフィルハーモニックによる演奏。ホルン協奏曲ではリチャード・ワトキンスがソリストを務めています。



まずはバレエ音楽「青銅の騎士」から。このバレエはロシアの文豪プーシキンの同名の詩に題材をとったもので、話の内容は洪水で恋人を失った主人公がサンクトペテルブルクの広場に立つ青銅のピョートル大帝の騎馬像を罵ったところ、突然その銅像が動き出して最後は主人公を殺してしまうという筋だけ読むと救いのないわけのわからん話です。音楽的にはチャイコフスキーの流れを組む正統派ロシア音楽で、ロマンチックな旋律の第6曲「抒情的な情景」、華やかな舞曲の第7曲「ダンスの情景」、優雅なワルツの第11曲「ワルツ」、悲劇的な結末を暗示させる第12曲「嵐の始まり」等が特にお薦めです。フィナーレの「偉大なる都市への讃歌」はサンクトペテルブルク(当時はレニングラード)の市歌としても親しまれたとか。

続くホルン協奏曲は日本ではあまり知られていませんが、海外ではモーツァルトリヒャルト・シュトラウスの作品に次ぐ知名度を誇っており、演奏会でもホルン奏者の重要レパートリーとなっています。内容的には後期ロマン派の香りが濃厚で、これぞロシア音楽と言った雄大な旋律の第1楽章、美しい緩徐楽章の第2楽章アンダンテ、華やかなフィナーレの第3楽章とどれも申し分ない内容。旋律も十分に親しみやすいですし、高らかに鳴り響くホルンの響きも魅力的です。youtubeだと現代最高のホルン奏者ラデク・バボラークがオンドレイ・レナールト指揮プラハ放送交響楽団と演奏したものが視聴できますので是非ご視聴ください。
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ニールセン/交響曲第3番&第4番

2019-08-03 12:04:28 | クラシック(交響曲)
本日はデンマークの国民的作曲家カール・ニールセンの交響曲2曲をご紹介します。ニールセンについては半年前のブログでも取り上げており、その中でも交響曲や協奏曲は取っつきにくいみたいなことを書いていまが、あらためて聴いてみると全然そんなことはないですね。20代の頃に第4番「不滅」を聴いていまいちピンと来なかった記憶があるのですが、当時の私には理解できなかったのか、そもそも別の曲を聴いたのを記憶違いしていたのか?とにかく普通に良い曲です。曲は単一楽章ですが、実際は4部に分かれており、冒頭の不安げな旋律の後に曲のメインとなる主題が現れます。北欧の雄大な大地を思わせる感動的な旋律で、シベリウスとか好きな人にはたまらないと思います。中間部は地味ですが、フィナーレの部分で再びメインの主題が登場して感動的なクライマックスを迎えます。この曲はニールセンの代表曲とされ、カラヤンやバーンスタインら20世紀の巨匠と呼ばれる人のディスクもありますが、私が購入したのはネーメ・ヤルヴィ指揮イェーテボリ交響楽団のものです。



このCDには交響曲第3番も収録されていますが、こちらもまた良い曲です。この曲にはラテン語でSinfonia Espansivaと言う副題が付けられており、日本語では「広がりの交響曲」と訳されていますが、よく意味がわかりませんね。第1楽章の演奏記号allegro espansivo(快活、広々と開放的に)から付いたとのことですので、無理に訳するとしたら「広々とした開放的な交響曲」と言ったところでしょうか?第1楽章は力強いオーケストレーションで始まるエネルギッシュな曲で中間部はまさに広々と開放的な感じです。第2楽章はゆったりしたアンダンテで後半に入るソプラノとバリトンの独唱が幻想的な雰囲気を醸し出します。第3楽章はスケルツォ風な始まりですが、途中からシベリウス風の旋律が顔を出します。第4楽章はブラームスを思わせる格調高い旋律で堂々としたフィナーレを迎えます。「不滅」に比べると知名度は低いですが全体的な出来としてはこちらの方が充実しているかもしれません。ニールセンは合計で6曲の交響曲を残しており、話によると第5番も傑作との誉れが高いとのことですので、近いうちに購入してみたいと思います。
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