ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

モダン・ジャズ・カルテット&オスカー・ピーターソン・トリオ・アット・ジ・オペラ・ハウス

2020-11-19 17:41:23 | ジャズ(その他)

ジャズファンならJATPという言葉をどこかで聞いたことがあると思います。Jazz At The Philharmonicの略で、ヴァーヴ・レコードの創設者であるノーマン・グランツが大物ジャズメン達を集めて開いたコンサート・シリーズのことです。メンバーは流動的ですが、代表的な名前を挙げるだけでもレスター・ヤング、ベン・ウェブスター、コールマン・ホーキンス、ベニー・カーター、ジーン・クルーパ、ライオネル・ハンプトン、ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー等いずれも超のつく大物ばかりです。最も活動が盛んだったのは40年代後半から50年代前半にかけてで、その頃の録音は数も少なく、CD化もあまりされていないこともあって全貌は良く分かりません。そんな中で1957年の秋にシカゴのオペラ・ハウスで行われたコンサートの模様はヴァーヴより複数CD化されており、スタン・ゲッツとJ・J・ジョンソンが共演した「スタン・ゲッツ・アンド・J・J・ジョンソン・アット・ジ・オペラ・ハウス」、エラ・フィッツジェラルドがオスカー・ピーターソン・トリオをバックに歌う「エラ・フィッツジェラルド・アット・ジ・オペラ・ハウス」等があります。今日ご紹介する「モダン・ジャズ・カルテット&オスカー・ピーターソン・トリオ・アット・ジ・オペラ・ハウス」もMJQとオスカー・ピーターソンという人気者同士の組み合わせで、ネイムバリュー的には上記2作に引けを取りません。

ただこの作品、タイトルだけ見ると2つのグループが一緒に演奏するのかと期待しますが、実際は共演盤でもなんでもなく、前半3曲をMJQ、後半5曲をオスカー・ピーターソン・トリオがそれぞれ演奏するだけ。要は人気グループのライヴを2つくっつけただけという安易(?)な企画です。しかも、前半のMJQの部分があまりよろしくない。一応、チャーリー・パーカーの”Now's The Time”やセロニアス・モンクの"'Round Midnight"を演奏していますが、内容的にそこまで特筆すべきところはなし。そもそも私はMJQはそんなに好きではないのですよね。アトランティックの諸作品群の中には良いものもありますけど、これに関しては録音状態も悪いし、演奏にも魅力は感じません。

お薦めは後半のオスカー・ピーターソン・トリオの方です。トリオと言ってもドラムのエド・シグペンを加えた後年のトリオではなく、ギターのハーブ・エリス入りのトリオですね。(本ブログでも以前に「シェイクスピア・フェスティヴァル」を取り上げました。)全5曲ですが、いわゆる定番スタンダードはなく、マイナーな曲を中心にした選曲ですが、どれもクオリティの高い演奏です。1曲目は「雨に唄えば」の作曲者であるナシオ・ハーブ・ブラウンが書いた”Should I”と言う曲。他で聞いた記憶のない曲ですが、実にキャッチーなメロディで、トリオのスインギーな演奏も相まって名曲・名演に仕上がっています。2曲目はラッキー・ミリンダーの書いた”Big Fat Mama”で、こちらはファンキーなブルースです。3曲目はジェイムズ・ハンリーと言う人が書いた”Indiana”。他ではスタン・ゲッツも演奏していますが、ここではピーターソンが超速弾きを披露。それについて行くエリスとブラウンもさすがです。4曲目と5曲目は他のジャズマンのカバーで、クリフオード・ブラウンの”Joy Spring”を落ち着いたミディアム・テンポで、ジェリー・マリガンの”Elevation”を超ハイテンポでそれぞれ料理しています。主役はもちろんピーターソンで、圧倒的なテクニックと抜群のドライブ感でぐいぐい牽引していきますが、時にはソロにそれ以外はリズム・ギターでズンズンズンズンとリズムを刻むハーブ・エリスにも注目です。

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フレディ・ローチ/グッド・ムーヴ

2020-11-16 12:51:40 | ジャズ(ソウルジャズ)

前回のベビーフェイス・ウィレットに引き続き、本日もブルーノートのオルガン・ジャズを取り上げます。フレディ・ローチに関しては以前に「ダウン・トゥ・アース」でも取り上げました。一応ジャンル的にはソウル・ジャズになるのでしょうが、単なるノリ重視のR&B風の演奏に終始せず、ハードバップ的な要素も感じられます。1963年発表の本作も基本メンバーはローチ(オルガン)、エディ・ライト(ギター)、クラレンス・ジョンストン(ドラム)から成るオルガン・トリオですが、8曲中4曲でテナーとトランペットを加えたクインテット編成となっており、しかもそれがハンク・モブレーとブルー・ミッチェルと来れば、ハードバップ愛好者も思わず食指が動いてしまいますよね。

実際、クインテット編成の曲はマイナーキーのハードバップ”When Malindy Sings”、ローチ自作曲で哀愁漂う”On Our Way Up”と佳曲揃い。リチャード・ロジャースの知られざるスタンダード”Lots of Lovely Love”も軽快なハードバップに仕上がっています。ブルー・ミッチェルはともかくハンク・モブレーとオルガンの組み合わせは異色ですが、ローチのオルガンと違和感なく馴染んでいます。一方、トリオ編成の方もバラエティ豊かで、エロール・ガーナ―作の美しいバラード”Pastel”、サイ・オリヴァー作の軽快な”'Tain't What You Do”と魅力的なナンバーが揃っています。ギトギトしたR&B系が苦手と言う人にもお薦めできる良質のソウル・ジャズです。

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ベビーフェイス・ウィレット/ストップ・アンド・リッスン

2020-11-13 06:34:29 | ジャズ(ソウルジャズ)

本日はオルガン・ジャズを取り上げたいと思います。先日のジミー・スミス「ザ・チャンプ」の項でも解説しましたが、スミスの登場によりそれまでジャズの世界では日陰者扱いだったオルガンが俄然注目を浴び、各レーベルともスミスに次ぐ新たなオルガン奏者を探し始めます。動きが早かったのはプレスティッジの方で、ジョニー・ハモンド・スミス、ジャック・マクダフ、女流のシャーリー・スコットらと次々と契約。ソウル・ジャズ路線を確立していきます。一方のブルーノートはスミスという安定したドル箱収入があったせいか、しばらくは他のオルガン奏者とは契約せず。スミス以外で初めて契約したのがこのベビーフェイス・ウィレットです。ベビーフェイスと言うのはもちろんニックネームで、本名はローズヴェルト・ウィレット(これはこれでインパクトのある名前ですが・・・)と言い、シカゴでジャズやR&Bを演奏していました。1960年にニューヨークに出て来て、翌年1月にルー・ドナルドソンの「ヒア・ティス」、グラント・グリーンの「グランツ・ファースト・スタンド」に参加。同じ月に自身名義の「フェイス・トゥ・フェイス」、5月に本作「ストップ・アンド・リッスン」を録音します。と、ここまでは怒涛の勢いですが、ブルーノートでの活動はそこでプッツリと途切れ、その後はシカゴに戻ってアーゴ・レーベルから2枚の作品を出しただけで、1971年に37歳の短い生涯を終えます。一瞬の輝きだけを残してシーンから姿を消したウィレットですが、ブルーノートのオルガン・ジャズ路線の先鞭を付けたと言う点では確かな足跡を残したと言えるでしょう。彼に続いてジョン・パットン、フレディ・ローチ、ラリー・ヤング、ロニー・スミス、ルーベン・ウィルソンらが次々と登場し、60年代ポスト・バップ期のブルーノートを支える存在となります。

メンバーはウィレット(オルガン)、グラント・グリーン(ギター)、ベン・ディクソン(ドラム)から成るトリオです。名義上のリーダーが違うだけで「グランツ・ファースト・スタンド」と全く同一メンバーです。特にグリーンとは上記のブルーノート4作品全てで共演しており、完全に”ニコイチ”状態ですね。曲は全7曲で、ウィレットのオリジナルとスタンダードが半々ずつです。歌モノスタンダードは"Willow Weep For Me"と”At Last”の2曲で、特に後者が出色の出来です。”At Last”はもともとミュージカル・ナンバーでグレン・ミラーが好んで演奏していたそうですが、前年にR&B歌手のエタ・ジェイムズがヒットさせており、本アルバムの演奏もそちらを意識したようなソウルフルなバラード演奏です。ジャズ曲だとナット・アダレイのファンキーな”Work Song”、ベニー・ゴルソンの”Blues March”をほぼ丸パクリした”Soul Walk”もキャッチーな出来ですね。自作曲は3曲ですが、中では”Jumpin' Jupiter”が全編ノリノリのファンキー・ナンバーで楽しめます。演奏面ではリーダーであるウィレットのソウルフルなオルガンもさることながら、グラント・グリーンも同じぐらいの存在感を発揮しており、彼のホーンライクなギター・プレイも存分に味わえる1枚です。

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エラ・フィッツジェラルド/エラ・スウィングス・ライトリー

2020-11-11 17:43:38 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はヴォーカルものでエラ・フィッツジェラルドの「エラ・スウィングス・ライトリー」を取り上げます。エラはご存知のとおり“ジャズ界のファーストレディ”と呼ばれており、特に1950年後半から1960年代前半にかけてヴァーヴに残した作品群(「エラ&ルイ」、「ポーギーとべス」、「アット・ジ・オペラ・ハウス」、「エラ・イン・ベルリン」)はジャズ・ヴォーカルの古典として多くの人々に親しまれています。1958年録音の本作は上記の作品群の中では比較的目立たない存在ですが、内容的にはとても充実しており、エラの隠れ名盤と言って差し支えない出来です。

計16曲、有名スタンダードは“Just You, Just Me”“As Long As I Live”ぐらいで、後は比較的マイナーな曲が中心ですが、“You Hit The Spot”“Teadrops From My Eyes”“My Kinda Love”はじめ魅力的な小品が並んでいます。また、本作は以前に当ブログでも取り上げた「ウィスパー・ノット」と同じくマーティ・ペイチをアレンジャーに迎えており、彼が率いるウェストコーストの俊英達の演奏も大きな聴き所となっています。メンバーは計10人でドン・ファガーキスト&アル・ポーシノ(トランペット)、ビル・ホルマン(テナー)、バド・シャンク(アルト)、メッド・フローリー(バリトン)、ボブ・エネヴォルセン(トロンボーン)、ヴィンス・デ・ローザ(フレンチホルン)、ルー・レヴィ(ピアノ)、ジョー・モンドラゴン(ベース)、メル・ルイス(ドラム)と言う布陣です。各自が長々とソロを取るわけではありませんが、“You Hit The Spot”“720 In The Books”ではシャンク&エネヴォルセン、“Just You, Just Me”ではホルマン&エネヴォルセン、“Teadrops From My Eyes”ではホルマン、“Gotta Be This Or That”ではシャンク、エネヴォルセン、フローリーが短いながらもキラリと光るソロを聴かせてくれます。もちろんあくまで主役はエラで、彼女の貫禄たっぷりのヴォーカルが知られざるマイナーな曲達に命を吹き込んでいます。ロイ・エルドリッジ作のインストゥルメンタル・ナンバー”Little Jazz”ではエラお得意のスキャットも存分に堪能できます。

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バド・シャンク・カルテット

2020-11-10 12:26:12 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はバド・シャンクです。本ブログで取り上げるのは初めてですが、昔から大好きなミュージシャンです。50年代ウェストコースト・ジャズを代表する白人アルト奏者で、アート・ペッパーにはさすがに及ばないものの、ハーブ・ゲラーやチャーリー・マリアーノ、ジョー・マイニらと並ぶ実力の持ち主です。西海岸を代表するレーベルであるパシフィック・ジャズ・レコードの専属で、同レーベルから「昼と夜のバド・シャンク」「ジャズ・アット・カルテック」「バド・シャンク・プレイズ・テナー」等の名盤を残しています。本作は1956年1月に録音されたワンホーン・カルテットの作品です。実はシャンクには同年11月に録音された全く同名、同メンバーの作品があるのですが、そちらはバド・シャンクが床に寝そべった写真が使われており、マニアの間では“寝そべりのシャンク”の愛称で親しまれています。本作は白黒で描かれた特徴あるイラストが使われており、“イラストのシャンク”とも呼ばれています。

メンバーは上述のとおり“寝そべり”“イラスト”ともに全く同じで、クロード・ウィリアムソン(ピアノ)、ドン・プレル(ベース)、チャック・フローレス(ドラム)から成るトリオをバックに従えています。(このトリオについては以前に「クロード・ウィリアムソン・トリオ」でも取り上げています。)ただ、内容は微妙に異なっており、“寝そべり”の方がややアレンジ色が前面に出た良くも悪くもウェストコーストらしい作品なのに対し、本作の方がよりストレートなバップ色の強い作品で、個人的にはこちらの方が好きです。その象徴がマイルス・デイヴィスの名演で知られる“Walkin'”で、さすがに本家本元のような黒っぽさはないものの、なかなか熱のこもった演奏を聴かせてくれます。もっとも、シャンクに限らず同時代のアルト奏者は人種を問わずチャーリー・パーカーの影響を強く受けていますし、ウィリアムソンも“白いバド・パウエル”と呼ばれたほどの御仁ですから、バップ・スタイルの演奏に違和感がないのも当然と言えば当然です。

とは言え、バップの中に白人ジャズらしい洗練された雰囲気が感じられるのも事実で、ボブ・クーパーが作曲した“Bag Of Blues”はブルースと言いながらもやはり明るさが感じられますし、同じくクーパー作“Jubiliation”もドライブ感満点の演奏ながらもどこか爽やかな印象を受ける名曲です。ジミー・ヴァン・ヒューゼン作曲の“All This And Heaven Too"は他であまり聞いたことない曲ですが、とても美しいバラードで、シャンクのアルトの音色が胸に沁みます。ラストのブラジル風“Carioca”も楽しいです。“Nature Boy”と“Nocturne For Flute”ではシャンクはフルートを吹いており、アルトとはまた違う幻想的な雰囲気を醸し出しています。以上、どの曲も水準以上の出来で、ウェストコースト・ジャズの良い所ばかりを集めたような傑作と思います。

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