ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

オスカー・ペティフォード/アナザー・ワン

2024-06-28 21:44:53 | ジャズ(ハードバップ)

本日はオスカー・ペティフォードを取り上げたいと思います。チャールズ・ミンガスやカーリー・ラッセルと並んで1940年代のビバップ期から活躍する重鎮ベーシストで、マイルス・デイヴィスやセロニアス・モンク、ミルト・ジャクソンらジャズ・ジャイアンツの作品にサイドマンとして参加する一方、自らのリーダー作もベツレヘムやABCパラマウントに残しています。本作「アナザー・ワン」は1955年8月にベツレヘム・レコードに吹き込まれた1枚です。実はこの作品の原題は単にOscar Pettifordだけなのですが、以前に発売された際は「オスカー・ペティフォードの神髄」という仰々しい邦題が付けられていました。私が入手したCDの邦題は「アナザー・ワン」となっていて、収録曲(1曲目)から付けられています。

ペティフォードはベーシストとして活躍する一方で若手ミュージシャンの中でリーダー的な役割も担っていたようで、本作やABCパラマウント盤では若きバッパー達を集めたミニビッグバンド的なサウンドを追求しています。本作「アナザー・ワン」のラインナップはドナルド・バード&アーニー・ロイヤル(トランペット)、ボブ・ブルックマイヤー(ヴァルヴトロンボーン)、ジジ・グライス(アルト)、ジェローム・リチャードソン(テナー&フルート)、ドン・アブニー(ピアノ)、オシー・ジョンソン(ドラム)から成るオクテット編成で分厚い演奏を聴かせてくれます。

全9曲。スタンダードは3曲目"Stardust"のみです。この曲はペティフォードのベースとドン・アブニーのピアノによるデュオ演奏で、ペティフォードがジャズベースの神髄とでも言うべきソロを聴かせてくれます。それ以外はバップ・オリジナルでペティフォードの重厚なベースをバックに若き俊英達がイキのいいソロを繰り広げます。どの曲も水準以上の出来ですが、おススメは何と言ってもペティフォードの自作曲”Bohemia After Dark”と”Oscalypso"ですかね。どちらも多くのジャズマンにカバーされた名曲で、前者はケニー・クラーク、後者はカーティス・フラーの「ジ・オープナー」の演奏が特に有名です。この2曲はペティフォードのベースは前面に出過ぎず、バンド全体のアンサンブルと各楽器のソロが聴きどころです。その他ジェローム・リチャードソンのフルートが印象的なブルース”Don't Squawk”、ラストの典型的バップ”Kamman's a-Comin'"もペティフォードの自作曲。他のジャズマンの曲ではビリー・テイラー作の熱きラテン・ナンバー”Titoro”、女流ピアニストのメアリー・ルー・ウィリアムズが書いた幻想的な”Scorpio"もなかなか上質な演奏です。

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チェット・ベイカー/ピクチャー・オヴ・ヒース

2024-06-27 21:12:47 | ジャズ(ウェストコースト)

前回のジャズ・メッセンジャーズ「ハード・ドライヴ」でチェット・ベイカーの「ピクチャー・オヴ・ヒース」について取り上げましたので、ついでに深掘りしてみたいと思います。この作品、当時のウェストコーストを代表する2大スター、チェット・ベイカーとアート・ペッパーの共演作として1956年にパシフィック・ジャズから鳴り物入りで発売されましたが、発売当時は「プレイボーイズ」のタイトルでお色気たっぷりの白人女性のジャケットでした。ヌードグラビアで有名な青年誌プレイボーイと当時イケメン白人トランぺッターとして女性に大人気だったチェットをかけたのでしょうが(一応Playboysなのでアート・ペッパーも含まれるのかな?個人的に彼をハンサムとは思いませんが・・・)、1961年に再発売された際にタイトルも改変、ジャケットも差し替えられたようです。どうやらプレイボーイ誌から訴えられそうになったらしいですね。

(左)ピクチャー・オヴ・ヒース (右)プレイボーイズ

 

内容的にはタイトル通りジミー・ヒースの曲を中心に構成されています。実はこの時期ヒースはヘロイン売買の罪でペンシルヴァニア州の刑務所で服役中でした(「ザ・クオータ」参照)。その彼がどうして西海岸のチェットのために曲を書き下ろしたのか経緯は不明ですが、何らかの親交があったのでしょうね。メンバーはチェット、ペッパーの2人にこの頃チェット作品の常連だったフィル・アーソ(テナー)が加わった3管編成です。リズムセクションはカール・パーキンス(ピアノ)、カーティス・カウンス(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)と西海岸で活躍していた黒人トリオが努めています。解説本によるとフロントの白人3人とリズムセクションの黒人3人は仲が悪く、セッション中は人種間の対立があったようなことが書かれていますが、聴いている限りはそんなことは全く感じさせない非常にまとまった演奏です。

全7曲。うちヒースのオリジナルが5曲収録されていますが、中でも前半4曲が素晴らしいですね。オープニングはタイトルトラックの”Picture Of Heath"。ヒースがこの作品のために書き下ろした軽快なハードバップで、3管による魅惑的なテーマ演奏の後、メンバー全員が快調にソロをリレーして行きます。続く”For Miles And Miles”はゆったりしたテンポの優しいメロディ。この辺りヒースがウェストコーストサウンドを意識して書いたのか上品な曲です。3曲目”C.T.A."はマイルス・デイヴィスのブルーノート盤で有名なヒースの既存作。後にリー・モーガンも「キャンディ」で取り上げましたが、マイルス、チェット、モーガンと各トランぺッターの聴き比べもまた楽しいですね。”For Minors Only"は後にヒース自身も「ザ・サンパー」でセルフカバーしましたが、初出は本作です。文字通りマイナーキーの熱いハードバップです。後半はアート・ペッパーのオリジナルが2曲”Minor Yours"”Tynan Time”とヒース作品が1曲”Resonant Emotions"ですが、出来はまずまずと言ったところ。演奏面では主役のチェットとペッパーの素晴らしさは言うまでもないですが、フィル・アーソやカール・パーキンスらもクオリティの高い演奏を聴かせてくれます。

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ジャズ・メッセンジャーズ/ハード・ドライヴ

2024-06-26 18:49:31 | ジャズ(ハードバップ)

アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの結成当初の経緯については以前「ハード・バップ」の頁で述べましたが、初代ジャズ・メッセンジャーズで音楽的イニシアティブを握っていたホレス・シルヴァーが脱退した後、グループは”暗黒時代”と称される人気低迷期に入ります。とは言え、活動自体は積極的に行っており、1956年末から1957年の1年間で残した作品は計9枚に及びます。内容は玉石混交なところはなきにしもあらずですが、個人的にはそのうち半分ぐらいの作品は十分傾聴に値すると思います。1957年10月にベツレヘム・レコードに吹き込まれた本作「ハード・ドライヴ」もなかなかの良作です。

本作のメンバーですが、リーダーのブレイキー(ドラム)に加え、ビル・ハードマン(トランペット)とスパンキー・デブレスト(ベース)と暗黒時代ジャズ・メッセンジャーズを支えた2人が名を連ねます。注目はジョニー・グリフィン(テナー)とジュニア・マンス(ピアノ)とシカゴ出身の2人の名手が加わっていること。グリフィンはこの年に収録されたジャズ・メッセンジャーズの作品にあらかた顔を出していますが、ジュニア・マンスの同グループへの参加は後にも先にも本作のみです。

全7曲。全てメンバーまたは他のジャズマンのオリジナル曲で構成されています。オープニングを飾るのはジミー・ヒース作の”For Minors Only”。ヒースはテナー奏者としても有名ですが作曲家としても名高く(「ザ・クオータ」参照)、この曲は前年のチェット・ベイカーの名盤「ピクチャー・オヴ・ヒース」に収録されていた曲です。「ピクチャー・オヴ・ヒース」からはもう1曲"For Miles And Miles"も本作に収録されており、チェットの演奏と聴き比べるのも楽しいです。2曲目”Right Down Front"はジョニー・グリフィンがゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンにインスパイアされて書いたナンバー。ジャズ・メッセンジャーズらしからぬコテコテの曲です。3曲目”Deo-X”と続く”Sweet Sakeena”はビル・ハードマンのオリジナルでどちらも疾走感溢れるハードバップ。なお、前者はジュニア・マンスではなく、暗黒期ジャズ・メッセンジャーズのピアニストであるサム・ドッカリーがピアノを弾いています。後者はブレイキーの娘サキーナちゃんに捧げた曲。ブレイキーはよほど娘思いだったのか、同年の「キューバップ」でも”Sakeena"、1960年の「ザ・ビッグ・ビート」でも”Sakeena's Vision"という曲を残しています。6曲目グリフィン作の快調ハードバップ”Krafty"を挟んでラストを飾るのが”Late Spring"。ジャズピアニストのレオン・ミッチェルが書いた曲でスタンダードのような魅力的なメロディを持った名曲です。

本作収録後の翌1958年にブレイキーはメンバーを総入れ替えし、新たにリー・モーガン、ベニー・ゴルソン、ボビー・ティモンズ、ジミー・メリットから成る新生ジャズ・メッセンジャーズを結成。伝説的名盤「モーニン」を皮切りに次々とヒット作を発表します。それら黄金時代の傑作群に比べると無視されがちですが、暗黒期と切って捨てるにはもったいない良質のハードバップ作品と思います。

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ジャッキー・マクリーン/ア・フィックル・ソーナンス

2024-06-25 18:53:13 | ジャズ(ハードバップ)

ジャッキー・マクリーンは1962年の「レット・フリーダム・リング」でフリージャズ路線に突入したと言われていますが、何も突然180度スタイルを変えたわけではなく、それ以前から少しずつ脱ハードバップの傾向を見せています。少し前に取り上げた「カプチン・スウィング」(1960年4月録音)は基本ハードバップながら1曲目の”Francisco"等にややフリーキーなトーンが見られますし、1961年10月録音の本作「ア・フィックル・ソーナンス」では半分近くが従来の調性を逸脱した感じの曲です。一方で曲によってはハードバップの残り香のようなものが濃厚に感じられますし、ジャズが大きく変わりつつあった60年代前半という時代を映し出すような作品となっています。メンバーはトミー・タレンタイン(トランペット)、ソニー・クラーク(ピアノ)、ブッチ・ウォーレン(ベース)、ビリー・ヒギンス(ドラム)から成るクインテットで、ハードバッパーのクラーク&タレンタインにオーネット・コールマンと共演歴のあるヒギンスと言う新旧織り交ぜたラインナップです。

アルバムはエキセントリックな”Five Will Get You Ten"で始まります。一応ソニー・クラークの自作曲となっていますが、どうやら本当の作者はセロニアス・モンクらしいです。ウィキペディア情報によると麻薬中毒でスランプだったクラークが友人だったモンクの楽譜を盗んだとあります。随分きな臭い話ですが、一方で譲り渡された説もあり、真偽は不明です。2曲目はマクリーン作の"Subdued"。こちらは泣きのマクリーン節が全開のスローバラード。ソニー・クラークのロマンチックなピアノソロも素晴らしいです。続くクラーク作のマイナーキーのブルース”Sundu"を経て、4曲目がタイトルトラックの”A Fickle Sonance”。こちらは完全に調性崩壊のフリージャズですが、この種の演奏に縁のないソニー・クラークが何とか頑張って付いて行こうとしているのがわかります。ラストの2曲は一転してストレートなハードバップ。5曲目はトミー・タレンタイン作の”Enitnerrut”。変な曲名ですが、Turrentineを逆さ読みしただけです。ラストのブッチ・ウォーレン作”Lost”はややラテンフレーバーの快適ハードバップ。どことなくスタンダードの”Old Devil Moon"に似た曲調です。個人的には何だかんだ最後の2曲がしっくり来ますね・・・

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ホレス・パーラン/オン・ザ・スパー・オヴ・ザ・モーメント

2024-06-24 18:33:50 | ジャズ(ハードバップ)

本日はホレス・パーランです。パーランについては本ブログで以前にブルーノート盤「ヘディン・サウス」やスティープルチェイス盤「アライヴァル」をご紹介しましたが、個性派ピアニストとして主に60年代のブルーノートで名を馳せました。パーランを語る際に欠かせないのはジョージ・タッカー(ベース)、アル・ヘアウッド(ドラム)から成るトリオ。パーランの出世作「アス・スリー」で共演していたため、俗に”アス・スリー・トリオ”と称されたりもします。このトリオは上述「ヘディン・サウス」等パーランのリーダー作にとどまらず、ブッカー・アーヴィンやスタンリー・タレンタインの作品にもサイドメンとして参加しています。特にタレンタインとは「ルック・アウト!」「カミン・ユア・ウェイ」「アップ・アット・ミントンズ」の3作品に参加するなど、かなり結びつきが強かったようです。

本作「オン・ザ・スパー・オヴ・ザ・モーメント」は1961年3月18日録音のブルーノート作品。上述のタレンタイン作品出演へのお返しとして、タレンタインが兄トミー(トランペット)を引き連れてサイドメンとして参加しています。リーダーこそタレンタインからパーランに代わっていますが「カミン・ユア・ウェイ」と全く同じメンバーですね。さらに言うと前年のパーランのリーダー作「スピーキン・マイ・ピース」も同一メンバーです。短期間で多くの作品で共演しているだけあって、まるで固定グループのように息の合った演奏を聴かせてくれます。

全6曲。いわゆるスタンダードは1つもなく、メンバーまたは他のジャズマンのオリジナルで構成されています。特に前半(レコードだとA面)3曲がどれも素晴らしいですね。まずオープニングはパーラン作のタイトルトラック"On The Spur Of The Moment"。いかにもパーランらしいファンキーなグルーヴを持つ曲でメンバー全員がノリノリでソロをリレーします。2曲目はブッカー・アーヴィンの”Skoo Chee"。アーヴィンは本作には参加していませんが、パーランとはチャールズ・ミンガス・グループの同僚で、アス・スリー・トリオともたびたび共演しています。いかにも60年代らしいシャープなメロディを持つ名曲で、11分にわたって熱演が繰り広げられます。最後におそらくパーラン?がskoochee skoochee!と叫ぶので最初聴いた時はちょっとびっくりします。3曲目はテナー奏者ハロルド・アウズリーの"And That I Am So In Love"。アウズリーについては当ブログでも1度取り上げたことがあるのですが、こんな素晴らしい曲を書いていたのですね。トロンボーン奏者ベニー・グリーンのタイム盤でも演奏されていましたが、まるでスタンダード曲のようなポップなメロディを持つ名曲・名演です。特にスタンリー・タレンタインの良く歌うテナーソロが最高ですね。後半(B面)はパーラン自作のファンキーな”Al's Tune"等まずまずの内容と言ったところですが、ロジャー・ウィリアムズと言うピアニストが書いた"Pyramid"が心地良いハードバップに仕上がっています。

 

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