ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ルー・ドナルドソン/ルー・テイクス・オフ

2024-03-31 17:44:39 | ジャズ(ハードバップ)

本日はルー・ドナルドソンの「ルー・テイクス・オフ」をご紹介します。ロケット発射がドーンと写るジャケットが印象的ですが、これは録音日である1957年12月15日の2ヶ月前にソ連が打ち上げた世界初の人工衛星スプートニク1号をイメージしていると思われます。オープニングの曲名もそのものズバリ"Sputnik"ですし。当時は東西冷戦の真っただ中。米ソが熾烈な宇宙開発競争を繰り広げていた中、ソ連に先を越されたアメリカではいわゆる”スプートニック・ショック”が巻き起こったそうです。その影響が音楽にも及んだ、てのは大袈裟で単に話題に乗っかっただけでしょうね。演奏そのものは超ストレートなハードバップです。

メンバーは同年発表の「ウェイリング・ウィズ・ルー」に引き続きドナルド・バード(トランペット)が参加し、そこに当時ブルーノートが絶賛売り出し中だったカーティス・フラー(トロンボーン)を加えた3管編成で、リズムセクションを務めるのはソニー・クラーク(ピアノ)、ジョージ・ジョイナー(ベース)、アート・テイラー(ドラム)です。全4曲。歌モノスタンダードはなく全てジャズ・オリジナルです。1曲目"Sputnik"はドナルドソンのオリジナルとありますが、スタンダードの"What Is This Thing Called Love?" を急速調にしたものです。もう1曲のオリジナル"Strollin'"はシンプルなブルース。残りの2曲はビバップの古典で、チャーリー・パーカーの"Dewey Square"とディジー・ガレスピーの"Groovin' High"です。どの曲も特に凝ったアレンジをするわけでもなく、メンバーがただ気持ちよく演奏しているだけです。こう言う作品は正直言って解説に困るのですが、内容が悪いわけでは全然なく、十分鑑賞に値する音楽が生み出されるのが黄金期ブルーノートのすごいところですね。難しいことを考えずにオールスターメンバーが生み出す音に身を任せるのが一番ですね。

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ジョージ・ウォーリントン/ジャズ・アット・ホッチキス

2024-03-28 21:42:55 | ジャズ(ハードバップ)

ジョージ・ウォーリントンについては、先日の「ザ・ニューヨーク・シーン」でご紹介しましたが、ビバップ期から活躍する白人ピアニストで、特に50年代半ばにドナルド・バード(トランペット)、フィル・ウッズ(アルト)をフロントラインに据えたクインテットで何枚か傑作を残しています。本作はその最後にあたるもので、録音年月日は1957年11月14日。メンバーはウォーリントン、バード、ウッズに加え、ノビー・トター(ベース)、ニック・スタビュラス(ドラム)です。バード以外全員白人ですが、サウンド的には完全にバップです。サヴォイ・レコードということで、ジャケットの写真が何となくカーティス・フラー「ブルースエット」に似ていますね。ちなみにタイトルのホッチキスとは文房具のホッチキスではなく、コネチカット州にあるホッチキス・スクールと言う名門私立校の名前らしいです。同校で行われたコンサートの曲目をスタジオで再録したもので、ライブではありません。

全5曲。1曲目バド・パウエルの”Dance Of The Infidels(異教徒たちの踊り)”、4曲目ディジー・ガレスピーの”Ow”とビバップの古典を取り上げているところが、元祖ビバッパーのウォーリントンらしいです。後者は冒頭で2分半にわたってノビー・トターのベースが大きくフィーチャーされ、ウォーリントン、バード、ウッズがソロをリレーしていきます。ラストの"''S Make T'"はバード作曲による痛快ハードバップ。3曲目"Before Dawn"はウォーリントン作曲のバラードで、バードの哀愁溢れるトランペットとウッズの泣きのアルトが聴きモノです。全体的に2管を表に出した演奏ですが、2曲目"Strange Music"はバード、ウッズが抜けたトリオ。クラシック曲のジャズ・アレンジで、グリーグの有名なピアノ曲「トロルドハウゲンの婚礼の日」を下敷きにしたものだそうです。愛らしいメロディを持つ楽しいピアノ・トリオで、ウォーリントンがピアニストとして確かな実力の持ち主だったことがよくわかります。ただし、ウォーリントンはこの作品を最後にジャズ界から引退し、実家のエアコン販売業を継いだそうです。先日のルイ・スミスもそうでしたが、やはりジャズマンってのは基本儲からない仕事だったんですね・・・

 

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マイルス・デイヴィス&ミルト・ジャクソン

2024-03-27 21:40:44 | ジャズ(ハードバップ)

マイルスは1955年秋にいわゆる”黄金のクインテット”すなわち、マイルス、ジョン・コルトレーン、レッド・ガーランド、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズから成るレギュラー・クインテットを結成しますが、それより前は特に固定のメンバーはおらず、セッション毎に顔ぶれが変わっていました。今日ご紹介する作品は黄金のクインテット結成直前の1955年8月5日の録音ですが、ミルト・ジャクソン(ヴァイブ)をコ・リーダーに据え、レイ・ブライアント(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)、さらに4曲中2曲でアルトのジャッキー・マクリーンが加わるという顔ぶれです。ミルトとは前年の「バグス・グルーヴ」セッションで共演、マクリーンとは1951年の「ディグ」やブルーノートの一連のセッションで共演歴がありますが、レイ・ブライアントとの組み合わせは最初で最後ではないかと思われます。

全4曲。スタンダードは1曲もなく、全てメンバーまたは他のジャズマンのオリジナルです。1曲目はジャッキー・マクリーン作の"Dr. Jackle"。後にマイルスが1958年の「マイルストーンズ」で取り上げ、そちらの方が一般的には有名かもしれません。一風変わったメロディーのバップ曲ですが、どんな曲もファンキーにしてしまうミルト・ジャクソンのヴァイブが圧巻で、正直マイルスやマクリーンよりも目立っていす。2曲目はサド・ジョーンズの"Bitty Ditty"、3曲目はマクリーンの"Minor March"です。ミルトは相変わらず好調なのに対し、マイルスはどことなく元気がないように感じるのは私だけでしょうか?元々マイルスはクリフォード・ブラウンやリー・モーガンのように音の強さで勝負するタイプでありませんが、それにしてもやや迫力不足。その点、4曲目の"Changes"はバラード演奏で、レイ・ブライアントの書いたリリカルなメロディとマイルスの枯れた味わいのミュート・トランペットがマッチしていてなかなか良いです。全部で30分強しかなく、内容的にも特筆すべきものがあるわけではありませんが、マイルス好きなら(ミルト好きも?)持っておいて損はない1枚ではないでしょうか?

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ズート・シムズ/ズート!

2024-03-26 21:36:40 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はズート・シムズの1956年のリヴァーサイド盤「ズート!」をご紹介します。ズートは同時期にアーゴにもワンホーンの「ズート」という作品を残しており、違いは!マークがあるかないかだけで紛らわしいですね。ズートはスイングジャズをベースにしながら作品によってはバップ寄りのアプローチを見せたりもしますが、本作は内容の面でもかなりオールドスタイルで中間派っぽいサウンドです。リヴァーサイドは後にビル・エヴァンスがレーベルの顔となりますが、50年代は基本的に黒人ハードバップ中心でしたので、本作は異色の内容とも言えます。メンバーはニック・トラヴィス(トランペット)、ジョージ・ハンディ(ピアノ)、ウィルバー・ウェア(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)と言った顔ぶれ。ベースとドラムはともかく、他はなじみが薄いですね。特にジョージ・ハンディはほぼ聞いたことがありませんが、調べてみるとチャーリー・パーカーのダイヤル・セッションに”Diggin' Diz”の1曲だけ参加しているらしいです。ほぼ印象にないですが・・・

全7曲。うち2曲がスタンダードで、5曲がオリジナルです。オリジナルのうち4曲はフローレンス・ハンディと言う人の作曲で、CD解説書ではピアノのジョージ・ハンディが作曲したことになっていますが、それにしては名前が微妙に違います。ググってみたところ、フローレンス・ハンディはジョージ・ハンディの奥さんだそうです。しかもこの人は歌手としてレコードも出しており、後にテナーのアル・コーンと再婚したとあります。コーンと言えばアル&ズートの片割れ。何だか人間関係がややこしそうですね・・・

余談はさておき、彼女の作った曲はどれもオールドファッションなスイングナンバーばかりです。オススメは1曲目”Why Cry?”と2曲目”Echoes Of You”。前者は典型的なスイングナンバー、後者はほのぼのとした味わいのバラードです。オリジナルの残り1曲はドラムのオシー・ジョンソン作の”Osmosis”。この曲はオシー自身のリーダー作やデイヴ・ベイリー「バッシュ」でも演奏された名曲で、この曲だけやや雰囲気が違いハードバピッシュです。何だかんだ言って私はこの曲が一番好きですね。スタンダードの”Fools Rush In”と"Taking A Chance On Love"はまずまずと言ったところ。演奏面では何と言ってもズートのよく歌うテナーが最大の聴きどころ。トラヴィスとハンディのプレイは正直パンチがないですが、もともとそんなつもりで人選してなさそうです。あくまでズートが気持ちよくスイングするのを盛り立てています。

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ウェス・モンゴメリー/ボス・ギター

2024-03-25 22:49:36 | ジャズ(ハードバップ)

ウェス・モンゴメリーは遅咲きのジャズマンでした。彼がリヴァーサイドに初のリーダー作「ウェス・モンゴメリー・トリオ」を録音したのが1959年、36歳の時で、それまでは地元のインディアナポリスでプレイしていました。その時にバンドを組んでいたのがオルガン奏者のメルヴィン・ラインで、上述の「ウェス・モンゴメリー・トリオ」にも参加していす。その後、ウェスは1960年に「インクレディブル・ジャズ・ギター」、1962年に「フル・ハウス」とジャズ史に残る名盤を立て続けに発表し、一躍ジャズ界きってのスターとなりますが、ラインとの良好な関係は続いていたようで、1963年に本作「ボス・ギター」と「ポートレイト・オヴ・ウェス」の2作品をリヴァーサイドに吹き込んでいます。いずれもギター+オルガン+ドラムのシンプルなトリオ編成で、本作ではジミー・コブがドラマーを務めています。なお、タイトルは当時”ボス・テナー”と呼ばれていたジーン・アモンズにちなんだものと思われます。

全8曲。2曲がウェスのオリジナルで残り6曲は歌モノスタンダードです。ギター+オルガンの組み合わせは通常ソウル・ジャズのくくりに入れられることが多いですが、本作ではオリジナル"The Trick Bag"と"Fried Pies"がその範疇でしょうか?ただ、全般的にはポップス寄りの選曲が多く、その後の「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」等のスムーズジャズ路線を予見させるものがあります。特に1曲目"Besame Mucho"など何ともベタな選曲ですが、ウェスのギター自体はやはり凄く、十八番のオクターブ奏法でグイグイ迫ってくる様は圧巻です。ジェローム・カーンの"Dearly Beloved"も通常はミディアムテンポですが、ウェスが超速弾きでダイナミックなチューンに仕上げています。一転して"The Days Of Wine And Roses(酒とバラの日々)"や"For Heaven's Sake"はほぼ弾き語りに近いスローバラードで硬軟織り交ぜたギターソロはさすがです。メルヴィン・ラインは随所にオルガンソロを披露しますが、あくまで主役のウェスを盛り立てる役割に徹しており、ジミー・コブと共にウェスと息の合ったトリオ・サウンドを作り出しています。

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