ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ハルヴォルセン&ニールセン/ヴァイオリン協奏曲

2020-02-28 15:14:38 | クラシック(協奏曲)

本日は再びナクソスからマイナー作曲家シリーズです。最近のブログでもメトネル、モシュコフスキと通好みの作曲家を取り上げましたが、今日ご紹介するヨハン・ハルヴォルセンはさらに輪をかけてマイナーで、ほぼ無名と言って差し支えないかと思います。19世紀末から20世紀初頭にかけて活動したノルウェーの作曲家で、世代的にはグリーグの一世代下にあたります。生前はヴァイオリニストとしても活躍し、また国立歌劇場の指揮者を長年務めるなどノルウェーの音楽界では重要な存在だったようですが、国際的にはほぼ無名に等しいですね。本CDに収録されているヴァイオリン協奏曲はそんなハルヴォルセンの中でもさらにレアな秘曲で、何でも1909年にキャスリーン・パーロウというカナダのヴァイオリニストによって初演されたものの、後にハルヴォルセン自身が楽譜を焼却してしまったそうです。ただ、演奏者であるパーロウが楽譜の写しを持っていたため、それをもとに近年になって再現されたとのこと。そんな秘曲中の秘曲を演奏するのはノルウェーの国際的ヴァイオリニストであるヘニング・クラッゲルード、オケはビャルテ・エンゲセト指揮マルメ交響楽団です。




そんな数奇な運命を辿ったレア曲ですが、内容はなかなか素晴らしく、ナクソスがわざわざCD発売に踏み切ったのもうなずけます。特に第1楽章が素晴らしく、北欧の大地を思わせる雄大なオーケストラに導かれるようにヴァイオリンが鋭利な響きで切り込んできます。中間部の叙情的な旋律も魅力的です。緩徐楽章の第2楽章、歌心たっぷりの第3楽章も申し分ない出来でなかなかの傑作かと思います。こんな隠れた名曲を忘却の彼方から蘇らせてくれたことに感謝したいです。

カップリングは同じく北欧の作曲家であるニールセンのヴァイオリン協奏曲。ニールセンについては過去ブログでも取り上げたようにデンマークの国民的作曲家でヴァイオリン協奏曲は彼の代表作とまでは言えないまでもそこそこ愛好者も多い曲です。本曲もハイライトは第1楽章で、ややアグレッシブな冒頭部の後にヴァイオリンが奏でる美しい旋律、中間部の勇壮な主題と聴きどころたっぷりです。ただ、第2楽章以降はやや取っつきにくいかな。知名度では圧倒的にニールセンの方が上ですが、全体的な内容ではハルヴォルセンの方がより親しみやすいかもしれません。

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シューマン&シューベルト/ヴァイオリン協奏曲

2020-02-20 18:49:36 | クラシック(協奏曲)
本日は少し変わったところでシューマンとシューベルトのヴァイオリン協奏曲を取り上げたいと思います。2人とも言わずと知れた大作曲家ですが、ヴァイオリン協奏曲のイメージは正直言って薄いかと思います。シューマンのヴァイオリン協奏曲は生前一度も演奏されず、死後80年経ってようやく日の目を見たと言う曰くつきの作品です。現代ではシューマンのレパートリーの一つに加えられているとは言え、交響曲やピアノ協奏曲、チェロ協奏曲に比べるとまだまだマイナーな存在です。シューベルトに至ってはそもそもヴァイオリン協奏曲など存在したのかと思われるかもしれませんが、確かにヴァイオリン協奏曲そのものは作曲しておらず、いずれもヴァイオリンと管弦楽のためのに書かれた「コンツェルトシュテュック」「ロンド」「ポロネーズ」の3作品が存在するだけです。今回はそれらマイナー作品を取り上げたジャン=ジャック・カントロフ(ヴァイオリン)、エマニュエル・クリヴィヌ指揮オランダ・フィルハーモニー管弦楽団のCDを取り上げます。



まずはシューマンのヴァイオリン協奏曲から。この曲は1853年に世界的ヴァイオリニストであったヨーゼフ・ヨアヒムのために作曲されましたが、一度も演奏されることなく封印されてしまいました。理由は曲の内容が気に入らなかったというよりも、ちょうどこの頃もともと精神を病みがちだったシューマンが自殺未遂を起こし、その後一度も心の病から回復することなく2年後に亡くなってしまったからというのが大きいようです。ヨアヒムが取り上げなかったのも妻のクララがこの曲の演奏を周囲に禁じたのも、曲の中に不吉なものを感じ取ったからかもしれません。実際に聴いてみると、そういう予備知識があるからかどうかわかりませんが、第1楽章の出だしが何とも暗く、重苦しく感じてしまいます。とは言え、「重苦しさ」とドイツ音楽の伝統である「重厚さ」というのは表裏一体でして、この重々しい冒頭部に続いて独奏ヴァイオリンが加わり、壮麗な響きの中間部へと展開していくあたりがこの曲のハイライトでもあります。続く第2楽章は穏やかな緩徐楽章、第3楽章は軽快なロンドで、重苦しさとは無縁なのですが、その代わりあまり個性がないというか、良くも悪くもあまり印象に残らない楽章です。この曲が現代にいたるまでイマイチ人気の出ない原因は第1楽章の「暗さ」より、第2楽章以降の特徴のなさが大きいかもしれません。

続いてシューベルトです。31年という短い生涯の中で、交響曲・歌曲・室内楽の分野に多くの傑作を残したシューベルトですが、協奏曲の分野には全く力を入れず、今日取り上げるヴァイオリンのための3つの協奏的作品があるだけです。それらも19~20歳の頃に書かれたいずれも1楽章のみの小品です。曲調はいずれもモーツァルトの流れを組む明るいもので、肩肘張らずに楽しめる内容ですが、深みと言う点ではやや物足りないのは否めません。その中では小協奏曲とも呼ばれる「コンツェルトシュテュック」が単一楽章ながら色々な旋律が盛り込まれていて楽しいです。わりと堂々とした序奏の後、3分過ぎからヴァイオリンがオペラのアリアのような歌心溢れる旋律を奏でます。続く「ポロネーズ」はさすがに軽すぎますが、最後の「ロンド」も悪くない。こちらも歌うような展開で、明るくポジティブに締めくくります。
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モシュコフスキ/ピアノ協奏曲

2020-02-18 18:43:52 | クラシック(協奏曲)
前回のメトネルに続き今日もナクソスです。「誰?」と言いたくなるようなマイナー作曲家まで幅広くカバーするナクソスですが、今日のモリッツ・モシュコフスキもなかなかの上級編ではないでしょうか?19世紀後半に活躍したユダヤ系ポーランド人の作曲家で生前はそれなりの名声を得たようですが、今ではほぼ忘れ去られた存在です。ただ、今日ご紹介するピアノ協奏曲ホ長調は知る人ぞ知る名曲として一部の愛好家から熱い支持を受けています。作曲は1874年。ロマン派音楽が何の留保もなく評論家から大衆まで受け入れられていた時代で、本作も最初から最後まで美しいピアノの響きと華やかなオーケストラサウンドに彩られています。難解な旋律は一つもなく、同時代のブラームス等のような重厚さとも無縁で、ひたすら素直でロマンチックな曲作りが持ち味です。



曲は4楽章形式で、通しで40分弱となかなかのボリュームです。聴きどころは何と言っても第1楽章で、冒頭の木管楽器の奏でる優しい音色に引き続き、ピアノがロマンチックな主題を奏でます。この旋律が本当に美しく、脳内でも繰り返し再生されるぐらい頭にこびりつきます。第2楽章はアンダンテでやや暗めの出だしですが、中間部で夢見るような美しい主題が現れます。第3楽章は一転して軽快なスケルツォで、跳ね回るようなピアノが印象的な愛らしい曲調。終盤はオーケストラも加えてフィナーレのような盛り上がりです。ただ、曲はここで終わらず、第4楽章へ。こちらも快活なテンポのアレグロで、きらびやかなピアノ独奏がオーケストラを牽引して行き、途中で第1楽章の主題を再現しながら正真正銘のフィナーレへと突き進みます。

演奏はナクソスのポーランドものではすっかりお馴染みのアントニ・ヴィト指揮ポーランド国立放送交響楽団、ピアノはマルクス・パヴリクとか言う人です。このCDにはカップリングとして「異国から」と言う6曲からなる組曲が収録されています。タイトル通り「イタリア」「ドイツ」「スペイン」など各国をイメージした曲ですが、正直それほど印象に残るメロディはないのでパスしてもいいでしょう。ピアノ協奏曲だけで十分満足できる内容です。
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メトネル/ピアノ協奏曲集

2020-02-11 20:38:15 | クラシック(協奏曲)
本日も引き続き20世紀のロマン派シリーズと言うことで、ロシアの作曲家ニコライ・メトネルをご紹介します。と言われてもよく知らないと言う方も多いと思います。1880年生まれの1951年没で、ラフマニノフとほぼ同世代。作曲家であると同時にピアノの名手であったこと、作風としてはモダニズムに染まらずロマン派を貫いたこと、さらにはロシア革命後に西側に亡命し終生祖国に帰らなかったことも含めてラフマニノフと共通点が多いです。実際に2人は親交も深かったらしく、お互いに曲を献呈し合ったりしています。ただ、「ビアノ協奏曲第2番」と言うクラシックの枠を超えた超有名曲を持っているラフマニノフに対し、メトネルの作品は名盤紹介に掲載されることも稀で、一部マニアが愛好しているに過ぎません。同時代に同じようなキャリアを辿りながら後世の評価は天地の差があるのが現実です。

ただ、3曲あるピアノ協奏曲はどれも後期ロマン派特有の美しい旋律とロシア音楽ならではの叙情性が散りばめられた逸品揃いで、ラフマニノフが好きな人なら気に入ること間違いなしです。本日はナクソスから発売されている2枚のCDをもとにメトネルの魅力を紹介したいと思います。1枚目は第1番と第3番がセットになっており、ピアノがコンスタンチン・シチェルバコフでウラジーミル・ジーヴァ指揮モスクワ交響楽団の演奏。2枚目が第2番とピアノ五重奏曲のセットで、ピアノが同じくシチェルバコフ、オケがイーゴリ・ゴロフスチン指揮モスクワ交響楽団です。

 

まずはピアノ協奏曲第1番から。ロシア在住時の1918年に書かれた作品で哀調を帯びたロマンチックな旋律とドラマチックなオーケストレーション、そして技巧を凝らしたピアノとが融合した名曲です。とは言え、ラフマニノフの2番が全編美メロのオンパレードと言って良いぐらい聴き所たっぷりなのに対し、メトネルの作品はそこまでの分かりやすさはない。なので何回か聴いたぐらいでは良さはわかりません。繰り返し聴くうちにだんだんハマってきます。全曲途切れることなく演奏される単一楽章形式ですが、実際は4つのパートに分かれており、とりわけ印象的な主題は第1部7分過ぎ、第2部10分過ぎ、そして第4部4分半過ぎに表れます。どれも胸を熱くするようなロマンチックな旋律ばかりです。フィナーレのピアノの盛り上げ方も感動的です。

第2番はその10年後の1928年に初演された作品。この間にメトネルは祖国ロシアを離れ、パリを拠点に活動していたようですが、作風的には第1番と似ており、ロシアの大地の匂いが濃厚に感じられる作品です。曲は伝統的な3楽章形式で、中でも第1楽章が最も素晴らしく、悲劇的な色彩を帯びた冒頭部から、中間部での情熱的な盛り上がりと聴き所たっぷりです。美しい緩徐楽章の第2楽章ロマンツァ、華やかなロンド形式の第3楽章も捨て難い魅力があります。

第3番は作曲年もぐっと下って1943年、イギリス在住時に書かれた作品です。依然としてロマン派の作風を維持していますが、第1番や第2番のような分かりやすい旋律は少ないです。特に第1楽章は16分と長尺なわりに明確な盛り上がりポイントもなくやや取っつきにくいですかね。本作のハイライトは第3楽章。情熱的な展開の冒頭部を経て、6分過ぎに満を持してロマンチックな主題が現れます。その後再び冒頭の主題に戻った後、フィナーレへと突き進みます。前2曲のような傑作とまでは言えませんが、それでも良作とは言えるでしょう。

メトネルが生涯で残したオーケストラ作品はこの3曲のみ。後はほとんどがピアノ曲ばかりで、交響曲や交響詩にも傑作を残したラフマニノフと違い、あくまでピアニストの視点から曲作りをしていたことがわかります。ただ、この3曲のピアノ協奏曲は決してピアノの技巧一辺倒と言うこともなく、オーケストラも充実した優れたコンチェルトですのでピアノ協奏曲好きなら一聴の価値はあると思います。
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コルンゴルト/交響曲

2020-02-04 20:30:40 | クラシック(交響曲)
前々回のラフマニノフ、前回のバーバーとたまたま20世紀のロマン派音楽を取り上げましたが、今日もその流れでエーリッヒ・コルンゴルトの作品をご紹介します。1897年オーストリア生まれ、10代の頃から神童として注目を浴び、ウィーン楽壇の寵児となりますが、やがてオーストリアがナチスに併合されるとユダヤ系の出自ゆえに迫害を受け、アメリカに亡命。渡米後は映画音楽の作曲家として大成功を収めますが、それと反比例するように純粋なクラシック音楽の作曲家としては評価されなくなります。保守的なクラシックの世界では映画音楽=大衆向けの商業音楽と言う認識が強く、一段低く見られたようですね。(現在でもジョン・ウィリアムズをクラシックの作曲家と見なす人が少ないのと同じです。)ただ、死後に再び評価が高まり、特に本ブログでも取り上げたヴァイオリン協奏曲は20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲の傑作として今では世界中で演奏されています。今日ご紹介する交響曲も1952年の作品で生前はまともに評価されませんでしたが、最近になってヴァイオリン協奏曲の人気に引っ張られるように演奏機会も増えてきているようです。ただ、CDとなるとレアで国内盤で入手可能なのは今回購入したアンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団のみと思います。



曲は4楽章形式で50分を超える堂々とした作品です。曲調は完全に後期ロマン派で、1952年完成ながら現代音楽の要素は皆無です。第1楽章は不安げな幕開け。フルートが奏でるやや調子っ外れな旋律の第1主題をオーケストラ全体が引き継ぎます。中間部で優美な旋律の第2主題が現れ、その後は両方の主題を繰り返しながらドラマチックな盛り上がりを見せます。第2楽章は一転して生き生きとしたスケルツォ。きびきびした弦楽合奏の後に現れる冒険映画を思わせるようなキャッチーな旋律はコルンゴルトならではの魅力です。第3楽章はマーラーを彷彿とさせる長大なアダージョでやや哀調を帯びた美しい旋律が終盤に向けて静かに燃え上がるような展開。第4楽章は再び快活なアレグロで映画音楽のようなファンタジックな展開を見せた後、第1〜第3楽章の主題の再現を随所に盛り込みつつフィナーレを迎えます。以上、どの楽章も異なる魅力を持った充実の内容で、個人的には20世紀に書かれた交響曲の中でも指折りの傑作かと思います。ヴァイオリン協奏曲に比べるとまだまだ知名度は低いですがこれからどんどんメジャーになっていくことを期待します。

CDには他にシェークスピア劇「から騒ぎ」の付随音楽から4曲が収録されています。こちらは交響曲より33年も前、コルンゴルト22歳の時の作品です。後期のヴァイオリン協奏曲や交響曲とは全く違いますが、かつてモーツァルトの再来と呼ばれた若きコルンゴルトの才能が感じられます。とりわけ優雅な「花嫁の部屋の乙女」と溌溂とした「仮面舞踏会」が素晴らしいです。
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