ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アイク・ケベック/ブルー・アンド・センチメンタル

2024-11-08 19:54:59 | ジャズ(ソウルジャズ)

本日は渋好みのテナー奏者アイク・ケベックをご紹介します。彼はブルーノートに縁の深い人物で、同レーベルがまだできて間もなかった1940年代半ばにいくつか吹き込みを残しているようです。また、タレントスカウトのようなこともしていて、無名だったセロニアス・モンクやバド・パウエルをブルーノートに紹介したのも彼だとか。一方で演奏活動の方は50年代に入ると停滞期に入ります。理由はご多分にもれずドラッグで、ヘロイン中毒でたびたび収容されるなどして、50年代前半から中盤にかけては全く録音を残していません。

そんなケベックに復帰の手を差し伸べたのがブルーノート社長のアルフレッド・ライオン。1959年にまずジュークボックス向けのレコードを何枚か録音し、1961年にアルバム「ヘヴィ・ソウル」で本格的にカムバックを果たします。その後「イット・マイト・アズ・ウェル・ビー・スプリング」を経て1961年12月に吹き込んだのがこの「ブルー・アンド・センチメンタル」です。

メンバーはグラント・グリーン(ギター)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)から成るカルテット編成。ケベックはこれに先立つ2作品でフレディ・ローチのオルガンを起用していますが、ここではオルガンもなければ原則ピアノもなし。ただし、いくつかの曲でグラント・グリーンのギターソロの際にケベック自身がピアノでバッキングしています。ラストトラックの”Count Every Star”だけはリズムセクションがソニー・クラーク(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)に代わっていますが、クラークのソロはありません。

全6曲。スタンダードとオリジナルが3曲ずつという構成です。オリジナル曲はマイナーキーの”Minor Impulse"、ジャンプナンバーっぽい”Like"がケベック作で、”Blues For Charlie"がグラント・グリーン作です。中ではグリーンのソウルフルなギターが堪能できる”Blues For Charlie"がおススメです。ちなみにここで言うチャーリーはチャーリー・パーカーではなくモダンジャズギターの開祖チャーリー・クリスチャンのことです。

ただ、このアルバムの聴きどころは何と言ってもスタンダードのバラード3曲でしょう。カウント・ベイシー楽団の名曲”Blue And Sentimental"、コルトレーンも「スタンダード・コルトレーン」で演奏した”Don't Take Your Love From Me"、シャンソンが原曲のロマンチックな”Count Every Star"とどれも絶品です。ケベックは50年代に活動していないせいか、バップ以前の中間派風のスタイルで、コールマン・ホーキンスあたりを想わせる男の色気ムンムンのテナーで悠然とバラードを歌い上げます。グラント・グリーンの良く歌うギターも素晴らしいですね。

ケベックは翌年にボサノバを取り上げた「ソウル・サンバ」を発表。順調な演奏活動を続けているかに思われましたが、肺ガンのため翌1963年1月に44歳で生涯を閉じます。本作はそんな薄幸のテナーマンの短い絶頂期を記録した貴重な1枚です。

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スタンリー・タレンタイン/レット・イット・ゴー

2024-09-18 18:23:36 | ジャズ(ソウルジャズ)

スタンリー・タレンタインとシャーリー・スコットはジャズ界きっての夫婦コンビとして知られています。もともとのデビューはスコットの方が先でプレスティッジ・レコードから女流オルガン奏者として大々的に売り出されていました。一方のタレンタインはマックス・ローチのバンドを経て、ブルーノートと契約したのが1960年。同じ年にスコットと結婚します。

その後の2人は公私ともにアツアツの関係。タレンタインは「ディアリー・ビラヴド」「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」「ア・チップ・オフ・ジ・オールド・ブロック」「ハスリン」でオルガンにスコットを起用。お返しとばかりにスコットは「ヒップ・ソウル」「ヒップ・ツイスト」「ザ・ソウル・イズ・ウィリング」「ソウル・シャウティン」「ブルー・フレイムズ」でタレンタインのテナーをフィーチャーします。契約の関係でタレンタインの作品はブルーノート、スコットの作品はプレスティッジから発売されていますが、内容的には大きな違いはなく、一連のシリーズとみなしてよいでしょう。ただ、ブルーノート盤と違い、スコット関連のプレスティッジ盤はCDで全く再発売されないため、youtubeでしか聴けないのが残念なところです。

その後、1963年にスコットはインパルス・レコードに移籍。引き続き「クイーン・オヴ・ジ・オルガン」等でタレンタインと共演しますが、なぜか1枚だけタレンタインをリーダーに冠したアルバムがあり、それが本作です。当時のタレンタインはブルーノートと専属契約中だったと思うのですが、特別に許可されたのでしょうか?録音年月日は1966年4月。メンバーはタレンタイン&スコット夫妻に加え、ロン・カーター(ベース)、マック・シンプキンズ(ドラム)です。

全7曲。うち3曲がタレンタインのオリジナルで、残りがスタンダード等のカバーです。オルガン入りジャズは一般的にソウル・ジャズとジャンル分けされることが多いですが、ここでも冒頭のタイトルトラック"Let It Go"や5曲目"Good Lookin' Out"等の自作曲、サイ・オリヴァー作の4曲目"'Tain't What You Do"あたりはまさにそんな感じのR&B色強めの曲ですね。

ただ、タレンタインに関しては歌モノの方が良いですね。おススメは2曲目の”On A Clear Day You Can See Forever"。1965年の同名のミュージカルのタイトル曲で、この後オスカー・ピーターソン、レッド・ガーランドらもカバーし、新たなスタンダード曲となる名曲です。メロディアスなアドリブを朗々と吹くタレンタインに、スコットもグルーヴィーなオルガンソロで華を添えます。7曲目"Deep Purple"もミディアムテンポのゆったりしたグルーブ感が耳に心地よいナンバーです。ちなみにこの曲、1930年代に書かれたスタンダード曲でジャズではアート・ペッパーの演奏でも知られていますが、伝説的ハードロック・バンド、ディープ・パープルの名前はこの曲から取ったそうです。何でもギターのリッチー・ブラックモアのおばあちゃんのお気に入りの曲だったとか。本筋とは全然関係ないですが、ちょっとしたトリビアです。なお、これだけ濃密なパートナーシップを築いていたタレンタイン&スコットですが、1971年にあっさり離婚します。理由は音楽性の違いとか色々言われていますが、男女の間のことなのでよくわかりません。

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ジミー・スミス/オルガン・グラインダー・スウィング

2024-08-19 18:47:03 | ジャズ(ソウルジャズ)

1956年に「ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター」で鮮烈なデビューを飾ったジミー・スミスは、その後5年余りの間に20枚以上ものリーダー作をブルーノートから発表するなど、同レーベル最大の売れっ子スターでした。そんなスミスですが、1962年にヴァーヴ・レコードに新天地を求めます。ブルーノート時代のスミスはスモールコンボでハードバップをベースにした演奏をメインにしていましたが、ヴァーヴではビッグバンドをバックに従えたよりコマーシャルなジャズを追求します。その目論見は成功し、オリヴァー・ネルソンのアレンジによる「ホーボー・フラッツ」はビルボードのアルバムチャートで最高18位、ラロ・シフリンのアレンジによる「ザ・キャット」は最高12位と言うジャズの世界にとどまらない大ヒットを記録します。一例のビッグバンド路線はその後も続くのですが、その中で異色とも呼べる作品が本日ご紹介する「オルガン・グラインダー・スウィング」です。

1965年6月に吹き込まれた本作はジミー・スミスの原点回帰と言って良いオルガン+ギター+ドラムによるトリオ作品。ギターにはスミスとはブルーノート時代からたびたび共演しているケニー・バレル、ドラムには当時まだ新進気鋭のドラマーだったグラディ・テイトが入っています。上述「ザ・キャット」等とは趣向が違いますが、それでも本作も見事にヒットし、ビルボードで最高15位を記録します。基本的にヒットチャートとは無縁のジャズ界において、当時のジミー・スミスがどれほど人気があったかがよくわかります。

アルバムはまずタイトル曲の”Organ Grinder's Swing"で始まります。タイトルからしてまるでジミー・スミスのために作られたかのような曲ですが、実際は1930年代のスイング時代の曲だそうです。ベニー・グッドマン楽団の演奏もyoutubeで聴けるので試しに聴いてみたのですが、まるで別の曲ですね。本作のバージョンはノリノリのファンキージャズで、ケニー・バレルのソウルフルなギターソロ→スミスのオルガンソロと続きます。2曲目”Oh No, Babe”はスミス作のコテコテのスローブルースで、スミスがまさに糸を引くというような表現がぴったりのオルガンを聴かせます。3曲目”Blues For J"も自作のブルースで、スミスが文字通りうなり声を上げながらオルガンを弾きまくります。キース・ジャレットもソロの最中にうなることで有名ですが、あちらが高い声なのに対しスミスのはまるで野獣のような低い声ですね。

4曲目”Greensleeves"はヴォーン=ウィリアムズがクラシック曲にしたことでも知られるイギリスの古い民謡。ジャズでもジョン・コルトレーン等が取り上げています。序盤は原曲のメロディを活かした展開ですが、後半にかけてスミスが縦横無尽にオルガンを弾きまくります。前半のバレルのギター・ソロもカッコいいです。5曲目"I'll Close My Eyes"は歌モノスタンダードで、ハードバップ好きならまずブルー・ミッチェルやディジー・リースの演奏を思い浮かべますが、本作では意表を突いてバラードで料理されています。スミスにせよ、ケニー・バレルにせよバラード表現の美しさも特筆すべきものがありますよね。ラストはエリントン・ナンバーの"Satin Doll"を軽快なミディアムチューンに料理して終わります。前半はコテコテ、後半はポップな構成で、バランスの取れた好盤だと思います。

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ハロルド・ヴィック/ステッピン・アウト

2024-04-01 20:40:44 | ジャズ(ソウルジャズ)

50年代後半のハードバップ黄金時代を支え続けたブルーノート・レコードですが、60年代に入ると新たな路線を模索し始めます。一つがモード~新主流派路線でウェイン・ショーター、ジョー・ヘンダーソン、ハービー・ハンコックらで、評論家からはジャズの王道として高く評価されています。一方、もう一つの路線であるオルガン入りのソウルジャズは、後世のジャズファンからは無視されることが多いです。売り上げ的にはむしろこちらの方が高かったにもかかわらずです。まあ確かに特に60年代後半のソウルジャズにはダンスフロアを意識し過ぎた軽薄な作品が多くあるのも事実ですが、聴き応えのある作品も少なからずあります。本作「ステッピン・アウト」はそんな作品の一つ。リーダーであるハロルド・ヴィックはジャック・マクダフのグループのレギュラーメンバーとしてプレスティッジに多くの録音を残しています(「クラッシュ!」参照)が、自身のリーダー作はブルーノートに残した本作が初です。録音年月日は1963年3月27日。メンバーはブルー・ミッチェル(トランペット)、グラント・グリーン(ギター)、ジョン・パットン(オルガン)、ベン・ディクソン(ドラム)です。

全6曲。うち1曲だけスタンダードの”Laura”が入っていますが、後はヴィックのオリジナルです。その”Laura”も内容的には取り立てて特筆することもなく、中盤の箸休め的な存在です。何と言っても聴きどころはソウルフルなナンバーの数々。1曲目の”Our Miss Brooks”から濃厚なソウルジャズの世界が広がります。レイジーなテンポで悠然とブロウするヴィック、ホーンライクなグリーンのギター、アーシーなパットンのオルガン。ブルー・ミッチェルもこの曲ではソロを取りませんが、他の曲ではファンキーなトランペットを聞かせてくれます。5曲目"Vicksville"やラストの”Steppin' Out”もR&B色の強いナンバーです。その一方、2曲目”Trimmed In Blue”や4曲目”Dotty's Dream”はそこまでコテコテではなく、ややモーダルな雰囲気も漂わせており、当時のブルーノートの空気感が感じられるようです。

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ケニー・バレル&ジャック・マクダフ/クラッシュ!

2024-03-06 21:12:37 | ジャズ(ソウルジャズ)

本日はケニー・バレルをご紹介します。バレルについては以前「ブルージン・アラウンド」をご紹介しましたが、私にとってナンバーワン・ジャズ・ギタリストです。バレルはとにかく多作なことで知られており、ブルーノートやプレスティッジを中心に数々のセッションに参加し、ハードパップの屋台骨を支えました。一方、バレルはいわゆるソウルジャズとも親和性が高く、ジミー・スミス、フレディ・ローチ等オルガン奏者との共演も多くあります。本作「クラッシュ!」はプレスティッジを代表するオルガン奏者、ブラザー・ジャックことジャック・マクダフとの共演作です。録音年月は1963年1月8日と2月26日。メンバーはバレル、マクダフに加え、ハロルド・ヴィック(テナー)、ジョー・デュークス(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)です。

内容ですが、1曲目”Grease Monkey”はダンスフロア向けのソウル・ジャズで、さすがにポップ過ぎますね。2曲目のスタンダード”The Breeze And I”も軽めの演奏。3曲目が本作のハイライトであるホレス・シルヴァー作”Nica’s Dream”。レイ・バレトの野生的なコンガに煽られるように、マクダフ→バレル→ヴィックが熱のこもったソロをリレーしていきます。4曲目”Call It Stormy Monday"はコテコテのブルースで、マクダフの糸を引くようなオルガンソロの後、バレルが十八番のブルージーなソロを聴かせます。5曲目はガーシュウィン・ナンバーの”Love Walked In”。この曲だけカウント・ベイシー楽団のフルート奏者エリック・ディクソンが参加しており、曲調もスインギーです。ラストの”We’ll Be Together Again"はほぼマクダフとバレルのデュオでスローバラードをムードたっぷりに演奏します。以上、決して名盤とは言えませんが、気軽に楽しめる一枚だと思います。

 

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