ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

モーツァルト/3台&2台のピアノのための協奏曲

2015-03-28 22:18:38 | クラシック(協奏曲)
今日はモーツァルトの数あるピアノ協奏曲の中でも変わり種の作品を2つご紹介します。どちらも複数のピアノのために書かれた協奏曲で、1つ目は3台のピアノのために書かれたピアノ協奏曲第7番、2つ目は2台のピアノのために書かれたピアノ協奏曲第10番です。なぜモーツァルトがこのような曲を作ったかについてですが、音楽上の必要性というより曲の依頼主の事情が大きいようですね。モーツァルトの時代はまだ作曲家の地位は低く、作曲は自らの芸術的表現のためというより、クライアントである貴族やお金持ちの好みに応じて書くのが一般的だったようです。解説によりますと、「3台のピアノのための協奏曲」を注文したのはロドロンという伯爵で、ご夫人と2人の娘がピアノの演奏会で弾くための曲を頼んだようです。従ってご夫人の弾く第1ピアノと娘のうち姉の弾く第2ピアノはそれなりの技巧が必要ですが、幼い妹の弾く第3ピアノは簡単な譜面だとか。「2台のピアノのための協奏曲」の作曲の経緯は不明ですが、似たような理由があったのかもしれません。



ただ、モーツァルトが天才である所以はそんな貴族の道楽のために作られた曲にも宝石のように美しい旋律を散りばめているところです。この2曲はモーツァルトがまだ20台前半の頃に書かれた曲だけあって、後期の傑作群のようなスケールの大きさこそないものの、天国的な明るさで聴く者の心を掴みます。CDはピアニスト兼指揮者であるクリストフ・エッシェンバッハがロンドン・フィルを弾き振りしたものです。共演は第2ピアノがユストゥス・フランツで、さらに「3台のピアノのための協奏曲」には録音当時(1981年)ドイツの首相であったヘルムート・シュミットが加わります。シュミットは政治家でありながら音楽にも造詣が深く、ピアノもうまかったそうですが、それでも所詮は素人。あくまでプロフェッショナルなテクニックを必要としない第3ピアノだからこそできた共演かもしれません。ちなみにジャケット真ん中で偉そうに(?)座っているのがシュミットで、本来の主役であるエッシェンバッハは右側の人物です。
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管弦楽小品集(ビーチャム)

2015-03-26 13:00:35 | クラシック(管弦楽作品)
本日はちょっと変わったところで管弦楽作品のオムニバスを取り上げます。「ロリポップス」と題されたこの作品はイギリスの往年の名指揮者トーマス・ビーチャムがお気に入りの楽曲をレコーディングしたものです。ほとんどが4~5分程度の小品ばかりでお手軽に聴けることからこのタイトルがついたのでしょう。ただ、選曲は結構シブい。作曲家名だけを見るとモーツァルト、チャイコフスキー、ドヴォルザーク、ドビュッシーとメジャーどころが並んでいますが、それぞれ取り上げる楽曲はどれも聞き馴染みのないもので、巨匠ならではのヒネリの利いた構成となっています。たとえばモーツァルトは「エジプトの王タモス」というマイナーな劇音楽から間奏曲を、チャイコフスキーもオペラ「エフゲニー・オネーギン」から有名なポロネーズではなくワルツの方を、ドヴォルザークもピアノ連弾を管弦楽に編曲した「伝説曲」第3曲を、ドビュッシーも初期に書いたカンタータ「放蕩息子」から挿入曲を引っ張り出してきています。どれも作曲家の通常のレパートリーには入ってこない作品ですが、小粒ながらも魅力にあふれた曲ばかりです。



他では北欧モノでシベリウスの「悲しきワルツ」とグリーグの「交響的舞曲」を、ベルリオーズからは「ファウストの劫罰」とオペラ「トロイアの人々」からの挿入曲を3曲、他にグノー、シャブリエ、ビダル(誰?)などの作品を取り上げています。ただ、個人的な本盤のハイライトは2曲。1曲目はイギリスの作曲家ディーリアスの「夏の夕べ」。ディーリアスは日本ではお世辞にも有名とは言えませんが、本国では評価も高く、特にビーチャムは活躍していた時代が重なっていることもあり、積極的に彼の作品を演奏していたそうです。「夏の夕べ」は編曲自体もビーチャムが施したとかで、タイトル通り夏の夜の静けさを美しいオーケストレーションで表現した隠れ名曲と言えるでしょう。もう1曲はサン=サーンスの「バッカナール」。もともとはオペラ「サムソンとデリラ」の挿入曲ですが、今では単独で上演されることも多い名曲です。古代オリエントを舞台にしたオペラと言うこともあって中東風のエキゾチックな旋律ですが、徐々に盛り上がりを増して行き、ド派手なクライマックスを迎えます。ビゼーの「カルメン」と並んでクラシック史上最も“血湧き肉躍る”曲ではないでしょうか?以上、時代も国もバラバラな曲の寄せ集めではありますが、エンターテイメント性は非常に高い1枚といえます。
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ブルッフ/交響曲第1番&第2番

2015-03-08 16:50:32 | クラシック(交響曲)
本日はマックス・ブルッフの交響曲2曲をご紹介します。ブルッフは当ブログでも過去に2回エントリーしており、1回目は彼の代表曲でもあるヴァイオリン協奏曲第1番と「スコットランド幻想曲」を、2回目はチェロの名曲「コル・ニドライ」を取り上げました。どれも美しさと親しみやすさを兼ね備えた名曲で人気も高いですね。もちろんブルッフはこの3曲しか作曲していないわけではなく、他に3曲の交響曲、4曲の協奏曲、3曲のオペラ、その他多くの合唱曲、歌曲、室内楽曲等を残していますが、なぜか演奏される機会は皆無に等しいです。一体なぜなのでしょうか?今日取り上げる交響曲1番&2番はともにドイツ・ロマン派の薫り高き名品で、ブラームスが好きな人などはお気に召すことなど間違いなしだと思うのですが・・・。



第1番は伝統的な4楽章形式の交響曲で、とりわけ第1楽章の第2主題の歌心あふれる旋律が素晴らしいです。きびきびとしたスケルツォの第2楽章、雄大なフィナーレの第4楽章もなかなか魅力的ですよ。第2番は第1番に比べて全体的に地味ですが、最終楽章の第3楽章が文句なしの出来です。思わず歌詞をつけて口ずさみたくなるような魅力的な旋律で、終盤に向けて盛り上がりを見せていくところなど感動的ですらあります。確かにメロディがベタと言えばベタですが、そこがまた好きという人は多いのでは?そんな隠れ名曲ですが、残念ながら録音はほとんどありません。CDだと数年前にジェイムズ・コンロン指揮の交響曲全集が廉価版で発売されましたが、2枚組というボリュームの上、ブルッフ以外の作曲家の曲も入ってたりするのでやや手が出にくいかも。私は1番と2番のみが収録されたナクソス盤をあらためて購入しました。指揮者はミヒャエル・ハラースというハンガリー人の指揮者で、オケはシュターツカペッレ・ワイマールです。ナクソスは大手レーベルと違い、オケ・指揮者ともマイナーですが、演奏のレベルは全く問題ないと思います。工夫のないジャケットだけは何とかしてほしいと毎回思いますが・・・ただ、こう言った隠れた名曲を積極的に発売するのはナクソスならではですね。
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モーツァルト/レクイエム

2015-03-01 13:47:04 | クラシック(声楽)
本日はモーツァルトの「レクイエム」です。何を今さらと言うほどの有名曲ですが、レクイエム=鎮魂歌=暗い、という図式がどうも私の中のモーツァルト像と結びつかず何となく敬遠していた次第です。この曲はいろいろいわくが付いています。まず、この曲がモーツァルトの“絶筆”であるということ。モーツァルト自身は14曲中8曲目の「ラクリモーサ(涙の日)」を書き終えた時点で病に倒れたため、後半部分は弟子のジュースマイヤーという人物が書いたとか。またこの曲はある匿名の人物からの依頼で書かれ、モーツァルト自身はその使者を死神の使いと恐れていたとかいう説もまことしやかに伝わっています。(映画「アマデウス」ではさらに飛躍してライバル作曲家のサリエリが死神の使いに扮してモーツァルトを追い詰めたという設定にしています)



そんな伝説に色付けされた曲ですが、やはり死者のためのミサ曲だけあって重々しい雰囲気です。明るく天国的な旋律が持ち味のモーツァルトにとっては異色の作品と言えるでしょう。モーツァルトは他にも交響曲第40番など短調の曲はありますが、それらはあくまでメランコリックなだけであって、ここまで重苦しさを感じさせるものはありません。死神の恐怖に怯えていたなんてのは言い伝えだとしても、どことなく自身の体調から死期を予兆していたのかもしれません。もちろんかのモーツァルトですからただ単に重苦しいだけでなく、オーケストラと合唱を巧みに融合させ、随所に盛り上がる曲に仕上がっています。特に荘厳な第2曲「キリエ」、荒々しい第3曲「ディエス・イレー(怒りの日)」、映画「アマデウス」でも使われた第7曲「コンフタティス(呪われた者)」、そして遺作となった「ラクリモーサ」など聴き所は多いです。9曲目以降はジュースマイヤーの補筆ですが、師匠の意を十分に汲み取っていたのか、完成度はそれなりに高く、特に前半と後半で違和感はありません。CDはベーム、カラヤン、アーノンクール、ショルティら巨匠達の演奏が出回っていますが、私が購入したのは近年(2006年)の録音でドイツの中堅指揮者クリスティアン・ティーレマンがミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団を振ったものです。
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