ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

バルネ・ウィラン/ティルト

2015-11-27 22:50:19 | ジャズ(ヨーロッパ)
本日もヨーロッパもので、フランスを代表するサックス奏者であるバルネ・ウィランのアルバムです。バルネについては以前に本ブログでも代表作「バルネ」を取り上げましたね。今日ご紹介する「ティルト」はその2年前の1957年1月にフランスのスウィングというレーベルに吹き込まれた彼のデビュー作で、録音当時まだ19歳というから早熟ぶりに驚きです。前年にジョン・ルイスの「アフタヌーン・イン・パリ」でも素晴らしいプレイを披露していますが、自身のリーダー作ではワンホーンカルテットで思う存分にテナーを吹きまくっています。アドリブではやや一本調子なところもなきにしもあらずですが、それでも若々しくエネルギッシュなプレイは一聴の価値アリです。



録音は2つのセッションに分かれており、前半の5曲がモーリス・ヴァンデール(ピアノ)、ビビ・ロヴェール(ベース)、アル・レヴィット(ドラム)のリズムセクションをバックにスタンダード曲とビバップの名曲を、後半4曲はベースはそのままでピアノがジャック・ヌーデ、ドラムがシャルル・ソードレに交代し全てセロニアス・モンクのナンバーを演奏しています。ヌーデというピアニストのことはまるで知りませんが、モンクを彷彿とさせるパーカッシブなピアノタッチで、独特のモンクワールドを再現しようとしているのが分かります。ただ、どうせモンクを聴くなら本家を聴いた方が良い、というのが感想です。と言うわけでお薦めは前半部分。ナット・キング・コールの“Nature Boy”だけはややくどいですが、それ以外はすべて素晴らしい。特にディジー・ガレスピーの2曲“Blue N' Boogie”と“A Night In Tunisia”でのパワフルなテナープレイは圧巻です。古いスタンダード曲“Melancholy Baby”“The Way You Look Tonight”も原曲の美しいメロディを活かしつつ、見事にハードバピッシュな演奏に料理しています。バルネの陰に隠れてはいますが、フランス屈指の名ピアニストであるヴァンデールのキラリと光るピアノソロも見逃せません。

バルネの若き天才ぶりはすぐにアメリカのジャズメンに知れ渡ることになり、同年12月にはマイルス・デイヴィスの有名な「死刑台のエレベーター」に参加、さらに2年後にジャズ・メッセンジャーズの「危険な関係」「パリ・ジャム・セッション」等でも名を馳せます。60年代以降はロックに走ったり、フリージャズに走ったりした時期もあったようですが、今聴いても魅力的なのはやはり50年代のバルネですね。
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バッソ=ヴァルダンブリーニ・クインテット/ウォーキング・イン・ザ・ナイト

2015-11-22 23:39:17 | ジャズ(ヨーロッパ)
本日は久々にヨーロッパもので、イタリアのバッソ=ヴァルダンブリーニ・クインテットというグループの作品をご紹介します。テナーサックスのジャンニ・バッソとトランペットのオスカル・ヴァルダンブリーニの双頭グループで、50年代には“イタリアのブラウン=ローチ・クインテット”と称されたとか。さすがにそれは言い過ぎだろうとは思いますが、リーダー2人を中心に軽快なハードバップを聴かせてくれます。本作「ウォーキング・イン・ザ・ナイト」は1960年にRCAに残した録音で、彼らの代表作と言うだけでなくヨーロッパジャズ屈指の名盤として昔から知られており、今回「ジャズ・コレクション1000」シリーズでも再発となりました。



この作品の特徴は12曲全てがオリジナルで占められていること。この時期のヨーロッパのジャズメンの作品の多くは、本場アメリカのビバップ、ハードバップへの強い憧れから、有名バップ曲のカバーが必ずと言っていいほど含まれていますが、本盤は全てメンバーまたは他のイタリア人ジャズメン達が書き下ろした意欲作です。とは言え、どれもどこかで聴いたことのあるような曲調で、バップの影響をもろに受けていることに変わりはないですが・・・どの曲も平均以上ですがオープニングのファンキーな“Lotar”、ドライブ感抜群の“Estroverso”、ヴァルダンブリーニのミュート演奏が印象的な“Softly”、マイナー調のバラード“Dialogo”、ウェストコースト風の爽やかな“Ricordando Lester”などが特にお薦めです。演奏ですが、力強いバッソのテナー、小気味よいラッパを聴かせてくれるヴァルダンブリーニとリーダー2人が目立っているのはもちろんですが、レナト・セッラーニ(ピアノ)、ジョルジョ・アッゾリーニ(ベース)、ジャンニ・カルツォラ(ドラム)から成るリズムセクションもカッチリしたサポートぶりを見せています。私も聴く前は知らないメンバーの知らない曲ばかりで正直不安でしたが、聴き込むほどに味が出る傑作だと思います。
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ケニー・バレル/ブルージン・アラウンド

2015-11-14 23:52:21 | ジャズ(ハードバップ)

本日はケニー・バレルです。意外にもバレルの作品をブログで取り上げるのは今回が初めてですね。ジャズ・ギタリストの中でも一番好き、と言うより全てのジャズメンの中でもトップ5に入るぐらい愛好しています。ギタリストでは他にもウェス・モンゴメリー、グラント・グリーン、ジム・ホール、ジョー・パス等のビッグネームがいますが、私の中ではバレルこそが断トツでナンバーワンです。テクニックが優れているのはもちろんですが、ハードバップ、ブルース、ソウルジャズ、ラテンとどんなスタイルも難なくこなすレンジの広さ、そして自身のリーダー作はもちろんのこと他人のリーダー作でもサイドメンとして的確にバッキングをこなす職人芸にも惚れ惚れします。今日ご紹介する「ブルージン・アラウンド」はそんなバレルが1961年から1962年にコロンビアに残した録音で、1980年代までお蔵入りとなっていたアルバムだそうです。



全9曲。録音は4つのセッションに分かれており、最初は1961年11月21日のセッション。メンバーはイリノイ・ジャケー(テナー)、ハンク・ジョーンズ(ピアノ)、メイジャー・ホリー(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)で、“Mambo Twist”“The Switch”の2曲を演奏します。前者はタイトル通りマンボのリズムと当時流行していたツイストを合体したナンバー、後者はこれぞ痛快ハードバップと言った疾走感あふれるナンバーで、高速パッセージのアドリブを次々と繰り出すバレルはもちろんのこと、テキサス・テナーの重鎮ジャケーもパワフルなブロウで圧倒的な存在感を放っています。続く11月29日はドラムがジミー・クロフォードに代わっただけで後は同じメンバーで、“The Squeeze”“Bye And Bye”“Mood Indigo”の3曲を演奏。“The Squeeze”は典型的なスローブルース、“Mood Indigo”はエリントン楽団の定番曲であった美しいバラードで、これまたバレルのプレイはもちろんのこと、ジャケーの雄大なテナーソロが素晴らしいです。私的にはこのバレルとジャケーのセッションだけで買う価値はあると思います。

残り4曲のうち1曲はタイトルチューンの“Bluesin' Around”で1962年3月6日の録音。白人トロンボーン奏者のエディ・バートを大きくフィーチャーしており、ハンク・ジョーンズ(ピアノ)、ジョージ・デュヴィヴィエ(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)がリズムセクションを務めます。4分弱の短い曲ですが、なかなか軽快なハードバップチューンです。あとの3曲は1962年4月30日のセッションで、ジャック・マクダフ(オルガン)、ジョー・デュークス(ドラム)とのオルガン・トリオでミディアム調のスタンダード曲“People Will Say We're In Love”とレイ・チャールズがヒットさせたR&B曲“One Mint Julep”を演奏します。さらに1曲だけアルトのレオ・ライトが参加し、ベイシー楽団の定番“Moten Swing”でソウルフルなプレイを存分に披露します。

以上、いかにもバレルの作品らしくハードバップ、ブルース、ソウルジャズと様々な演奏スタイルが楽しめますし、バレルのギターはもちろんジャケー、ライト、ハンク・ジョーンズら共演者のプレイも楽しめる中々の傑作です。ブルーノートやプレスティッジ、ヴァーヴらの諸作品の陰に隠れていますが、バレルの魅力を知るには格好の1枚と言って良いのではないでしょうか?

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クリフォード・ブラウン/コンプリート・パリ・セッションVol.2&Vol.3

2015-11-10 22:57:37 | ジャズ(ビバップ)
本日も「ジャズ・コレクション1000」シリーズからクリフォード・ブラウンの作品を2枚ご紹介します。1953年にブラウンがライオネル・ハンプトン楽団の一員としてパリを訪れた際に録音したシリーズもので、「Vol.1」については3年前に当ブログでも取り上げています。今回はその続編である「Vol.2」と「Vol.3」です。この録音の経緯については「Vol.1」でも述べていますが、ハンプトン楽団のメンバーだったブラウンら若手ミュージシャンが現地フランスのジャズメンと繰り広げたジャムセッションの様子をレコードにしたものです。実はボスであるハンプトンはバンドメンバーがツアー先で副業するのを契約で禁止していたそうですが、血気盛んな若手達には通じなかったようで、結果としてアルバム3枚分ものテイクが録音されました。おかげで現在の我々は夭折したブラウンの貴重なプレイを耳にすることができます。

 

まず「Vol.2」ですが、15曲収録されていますが、別テイクが多く実際は全7曲。うち前半の4曲は全てアルトのジジ・グライスの作曲したもので、実際はジジがリーダーと言っていいかもしれません。メンバーはブラウン、ジジの2人にパリ在住のジミー・ガーリー(ギター)、アンリ・ルノー(ピアノ)、ピエール・ミシュロ(ベース)、ジャンルイ・ヴィアール(ドラム)から成るセクステットです。ジジの代表曲である“Minority”の貴重な初演が収録されていますが、お薦めは題名通りロマンチックなバラードの“Strictly Romantic”、そして痛快ハードバップの“Baby”です。後半は同じくハンプトン楽団の同僚だったクインシー・ジョーンズがアレンジャーを務めた計15人からなるビッグバンド作品ですが、出来はまあまあ。聴き所は前半ですね。

「Vol.3」は17曲収録ですが、こちらも別テイクを除けば全8曲。うち6曲はブラウン、ルノー、ミシュロそしてドラムのベニー・ベネットによるワンホーン・カルテット作品です。実はブラウンのワンホーンというのは非常に珍しく(確かにブラウン=ローチ・クインテットといい、「バードランドの夜」といい、必ずサックス奏者と組んでいますね)、ファンにとっては貴重な録音です。曲は“The Song Is You”“Come Rain Or Come Shine”など歌モノスタンダード中心で、ブラウンのプレイも彼の数ある名演の中では平凡な部類かもしれませんが、それでもファンとしては傾聴に値します。ただ、楽曲として一番優れているのはそれらワンホーン作品ではなく、1曲目の“Chez Moi”です。ポール・ミスラキというフランス人作曲家(私は知りませんが映画音楽で有名らしい)の曲ですが、見事にハードバップに料理されています。こちらはオクテット編成で、ブラウン、ジジら上記「Vol.2」のセクステットに加え、ハンプトン楽団の仲間であるクリフォード・ソロモン(テナー)、ジミー・クリーヴランド(トロンボーン)らが加わり、順番にソロを取って行きます。結局、ブラウン、ジジらは後に契約違反をハンプトンに咎められ、楽団をクビになってしまいますが、才能ある彼らにはそんなの関係ねえ!ですよね。その後彼らがハードバップシーンを牽引する存在になっていったのは周知の通りです。
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スタン・ゲッツ/ザ・マスター

2015-11-08 22:04:35 | ジャズ(モード~新主流派)
本日は「ジャズ・コレクション1000」シリーズからスタン・ゲッツの「ザ・マスター」を取り上げます。ジャケ写の肉付きのよい中年顔を見ればおわかりのように1975年、ゲッツ48歳の時の作品です。クール・ジャズの第一人者として数多くの名盤を残した1950年代、ボサノバで大衆的人気を博した1960年代に比べると70年代以降のゲッツはいかんせん地味な印象が拭えませんが、音楽活動は活発に続けていたようですね。しかも演奏スタイルは決して“昔の名前でやってます”的なものではなく、最先端のフュージョンも取り入れたりしていたようです。でも、フュージョン色の強い「キャプテン・マーヴェル」(1972年発表)を聴いたこともありますが、やっぱりゲッツとフュージョンは合わない気がします(単に私がフュージョン嫌いというのもありますが・・・)。その点、本作はピアノトリオをバックに従えたストレート・アヘッドなジャズで、私のような保守的ジャズファンも十分に満足させる内容です。



曲は4曲しかありませんが、どれも10分前後の長尺演奏なので中身は濃いです。バックのメンバーはアルバート・デイリー(ピアノ)、クリント・ヒューストン(ベース)、ビリー・ハート(ドラム)と言った面々。3人ともゲッツより一回り以上年下ということもあり、演奏スタイルはバップではなく新主流派の流れを組むアグレッシブな演奏で、ゲッツもそんな彼らに煽られるように熱いプレイを披露します。それでいて、決してフリーキーにはならず、メロディアスなアドリブというゲッツの特長はちゃんと残したままなのはさすがです。4曲中3曲はスタンダード曲ですが、“Lover Man”や“Invitation”のような古くからの定番曲もカルテットの熱い演奏で新しい生命を吹き込まれています。1曲目“Summer Night”は他ではあまり聴いたことがない曲ですが、やや哀調あふれるテーマからゲッツのパワフルなソロに移っていくなかなかの名曲・名演です。2曲目“Raven's Wood”は当時新鋭のギタリストとして売り出し中だったラルフ・タウナーの曲で、いかにも70年代と言った清新かつエネルギッシュなナンバーです。以上、4曲ともハズレなしの名演ばかりで、ずばりゲッツの隠れ名盤と言っていいでしょう!
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