ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ペッパー・アダムス/エンカウンター

2024-12-27 18:50:08 | ジャズ(モード~新主流派)

ブルーノート、リヴァーサイドとともに50年代のハードバップシーンを牽引し続けたプレスティッジ・レコードですが、60年代になると変化の波にさらされるようになります。活動自体が低調になったわけではなく、新作のリリース自体はコンスタントに続けていたのですが、ウェイン・ショーターやハービー・ハンコック、ジョー・ヘンダーソンら新世代のスターを起用して新主流派路線に活路を見出したブルーノートに対してどこかパッとしない印象は拭えません。特に60年代後半のプレスティッジはソニー・クリスやチャールズ・マクファーソンらハードバップの生き残りもいましたが、メインはオルガン入りのソウルジャズ路線でした。それらの中にはもちろん傾聴すべき作品もあるにはありますが、全体的にはR&B風のノリ重視で、50年代のハードバップ黄金期に比べると色あせて見えるのは致し方ないところです。

ただ、そんな中にも硬派な作品がいくつかありまして、その1つが1968年12月に録音されたペッパー・アダムス「エンカウンター」です。アダムスは本ブログでも何度か取り上げていますが、デトロイト出身で同郷のドナルド・バードとの双頭コンボ(「アウト・オヴ・ジス・ワールド」参照)が有名ですよね。白人でありながら共演者は圧倒的に黒人が多く、ハードバップ風なスタイルが持ち味です。

本作のメンバーですが、なかなか興味深い面々が集まっています。ピアノにトミー・フラナガン、ドラムにエルヴィン・ジョーンズと同じデトロイト出身者を持ってきたあたりは想定の範囲内ですが、テナーにズート・シムズを起用しているのが面白い。アダムスとズートは同じ白人ですが、ハードバップ寄りのアダムスに対し、ズートはスイング~中間派の流れを組むスタイルですからね。ベースも新主流派の代表格的なロン・カーターが加わっていて、このメンバーでどんな音が生み出されるのか?聴く前は予想が難しいですね。

実際に聴いてみた感想ですが、やはり60年代後半と言う時代背景を反映してか、旧来のハードバップではなく、ややモードジャズ寄りの演奏ですね。"Serenity"と"Punjab"はブルーノート新主流派の旗手的存在だったジョー・ヘンダーソンのカバーですし、アダムス自作の”Inanout"や”Cindy's Tune"もハードでメロディアスとは程遠い感じ。ゴリゴリ重低音を吹き鳴らすアダムスはいつも通りですが、まろやかなトーンが持ち味のズートやきらびやかなタッチが売りのフラナガンはやや"よそ行き"感が否めません。

個人的にはやはりモード路線ではなく通常のハードバップ風の曲が好きですね。おススメはまずサド・ジョーンズ作曲の”Elusive”。「ファビュラス・サド・ジョーンズ」収録の軽快なハードバップで、アダムスがブリブリ吹いた後、ズートのメロディアスなテナーソロ→フラナガンのエレガントなピアノソロがたっぷりフィーチャーされます。終始煽り続けるエルヴィン・ジョーンズのトラミングもグッジョブ!ですね。バラードではエリントンナンバーの"Star-Crossed Lovers"も悪くないですが、”I've Just Seen Her"が入魂の出来栄え。あまり他では聞かない歌モノスタンダード曲ですが、ここではズート抜きのワンホーンでアダムスがダンディズム溢れるバラードプレイを聴かせてくれます。ラストトラックの”Verdandi"はトミー・フラナガンの名盤「オーヴァーシーズ」収録曲。原曲はピアノトリオですが、ここではクインテットによるエネルギッシュな演奏。終盤のエルヴィン・ジョーンズのドラミングも圧巻です。

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ザ・ヤング・ライオンズ

2024-12-25 19:20:10 | ジャズ(モード~新主流派)

ヴェージェイ・レコード(Vee-Jay)と言うレーベルがあります。シカゴが拠点のレコード会社で本業はどちらかと言うとR&Bで、”Sherry"の大ヒットで知られる白人ドゥーワップ・グループのフォー・シーズンズや"Oh, What A Night"で有名なザ・デルズ等が所属していました。一方、50年代後半から60年代前半にかけてはジャズにも力を入れており、枚数は少ないながらリー・モーガンやウィントン・ケリー、ポール・チェンバースと言った大物の作品をリリースしています。モーガンの「ヒアズ・リー・モーガン」やケリーの「枯葉」、チェンバースの「ゴー」は名盤として知られていますね。

他に同レーベルがプッシュしていたジャズマンはウェイン・ショーターとフランク・ストロージャー。前者は泣く子も黙るジャズ・ジャイアントですが、デビュー作は同レーベルに残した「イントロデューシング・ウェイン・ショーター」。1959年11月録音でこの時26歳でした。時を同じくしてジャズ・メッセンジャーズに加入し、黄金期を築き上げます。後者のフランク・ストロージャーはさほどメジャーとは言えませんが、メンフィス出身の白人アルト奏者でシカゴをベースにした"MJT+3"と言うグループに参加し、ヴィージェイから何枚か作品を発表しています。

本作「ザ・ヤング・ライオンズ」は1960年4月に吹き込まれたリーダーレス・セッションで、上述のショーターとストロージャーに加え、同じくヴェージェイ・レーベルのスターだったリー・モーガンを加えた3管編成のセクステット。言わば同レーベルのオールスター共演ですね。これでリズムセクションにウィントン・ケリーとポール・チェンバースが加われば最強だったのですが、さすがにそこまでは揃わなかったのかボビー・ティモンズ(ピアノ)、ボブ・クランショー(ベース)、ルイス・ヘイズまたはアルバート・ヒース(ドラム)のトリオがバックを務めています。これでも十分豪華ですけどね。特にモーガン、ショーター、ティモンズの3人は同時期にジャズ・メッセンジャーズでもプレイしており、前月に「ザ・ビッグ・ビート」を吹き込んだばかりです。

全5曲。全てメンバーのオリジナルで、ショーターが4曲、モーガンが1曲と言う構成です。リーダーは誰とは決まっていませんが、ショーターが音楽的主導権を握っているのは明らかですね。オープニングトラックの"Seeds Of Sin"からショーター節が全開で、従来のハードバップとは明らかに違う少し調子っ外れの独特のメロディです。とは言え、前衛的とまではいかず普通に聴けるジャズの範囲にとどまっています。個人的ベストトラックは3曲目”Fat Lady"。いかにもこの時期のショーターらしいクール&ファンキーな曲で、ショーター→モーガン→ストロージャー→ティモンズとソロをリレーします。"Scourin'"や"Peaches And Cream"と言った曲もモードジャズを先取りしたような曲です。ラストトラックの”That's Right"はリー・モーガン作で11分を超すミディアムテンポのファンキーチューン。序盤の主役はボビー・ティモンズでいかにも彼らしいソウルフルなピアノソロを披露した後、ストロージャー→モーガンのカップミュート→ショーターとたっぷりソロを取ります。録音時でメンバー全員が20代。まさに才能溢れる若獅子達による意欲作です。

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アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ/キャラヴァン

2024-11-29 19:22:32 | ジャズ(モード~新主流派)

1950年代後半から60年代前半にかけてのジャズ・メッセンジャーズは基本的にブルーノートと蜜月関係にあり、同レーベルから発売された「モーニン」「チュニジアの夜」「モザイク」と言った傑作群は今でも多くのジャズファンに愛されています。実は彼らはこの時期にリヴァーサイドにも3枚のアルバムを吹き込んでいるのですが、ブルーノート盤と違ってあまり取り上げられることはありませんね。3枚のうち2枚は「ウゲツ」「キョート」と日本にちなんだタイトルで、日本公演で熱烈な歓迎を受けたブレイキーがすっかり日本好きになって作ったアルバムですが、内容的にはこの時期のジャズ・メッセンジャーズらしい3管編成のモードジャズです。

残るもう1枚のリヴァーサイド作品が今日ご紹介する「キャラヴァン」で、収録日は1962年10月24日です。メンバーはフレディ・ハバード(トランペット)、ウェイン・ショーター(テナー)、カーティス・フラー(トロンボーン)、シダー・ウォルトン(ピアノ)とまさに黄金のメンバーですが、ベースが「モーニン」からの不動のメンバーだったジミー・メリットからレジー・ワークマンに交代しています。

アルバムはまずタイトルトラックの"Caravan"で幕を開けます。言わずと知れたエリントン楽団の名曲で初っ端からブレイキーが怒涛のドラミングを披露し、ハバード→ショーター→フラーが熱のこもったソロをリレーします。後半にもブレイキーの2分半にも及ぶドラムソロが挟まれます。ただ、個人的には2曲目以降の方が充実していると思いますね。注目はメンバーのオリジナル曲で、中でもショーターが作曲した”Sweet 'N' Sour"と”This Is For Albert”が素晴らしいです。その後マイルス・クインテットへの参加や、ブルーノートでのソロ活動、70年代のウェザー・リポートと第一線で活躍し続けるショーターですが、個人的にはジャズ・メッセンジャーズ時代のショーターが一番好きです。演奏ももちろんですが、何より曲が良いんですよね。ハードバップとは明らかに違うし、それでいて後年のような難解さもなく、クール&ファンキーなモードジャズが純粋にカッコいいです。

一方、2曲あるスタンダードも悪くないです。どちらもバラードで特定のソリストにスポットライトを絞っており、シナトラで有名な”In The Wee Small Hour Of The Evening"はカーティス・フラーの暖かみのあるトロンボーンを、ホーギー・カーマイケルの名曲”Skylark"ではフレディ・ハバードのブリリアントなトランペットを大々的にフィーチャーしています。ラストはハバード作の切れ味鋭いモーダルナンバー”Thermo"でビシッと締めくくって終わり。あらためてこの頃のジャズ・メッセンジャーズにハズレなし!を実感させてくれる1枚です。

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ロイ・ヘインズ/クラックリン

2024-11-26 18:56:49 | ジャズ(モード~新主流派)

先日(2024年11月12日)ロイ・ヘインズが亡くなりました。御年99歳。天寿を全うしたと言えるでしょう。以前にベニー・ゴルソンのところで存命中のジャズジャイアントについて述べましたが、そのゴルソンも9月に亡くなりましたし、ヘインズの3日前にルー・ドナルドソンも亡くなりました。残る90歳越えはソニー・ロリンズとケニー・バレルぐらいでしょうか?少しでも長生きしてほしいものです・・・

さて、本日は追悼の意味も込めてヘインズの60年代の代表作をご紹介します。プレスティッジ傘下のニュージャズに1963年4月に吹き込まれた「クラックリン」です。1940年代のビバップ期から活動を開始し、チャーリー・パーカーやバド・パウエル、ワーデル・グレイらのレジェンド達とも共演するなどこの時点でベテランとも呼べるキャリアを刻んできたヘインズですが、60年代に入ると時代の波に乗ってモードやフリー系のミュージシャン達とも共演し始めます。前年の1962年には鬼才ローランド・カークを迎えて「アウト・オヴ・ジ・アフタヌーン」をインパルスに残し、本作でもブッカー・アーヴィン(テナー)、ロニー・マシューズ(ピアノ)、ラリー・リドリー(ベース)とハードバップの枠に収まらない人材を起用しています。

全6曲、基本的にメンバーのオリジナル中心です。1曲目はブッカー・アーヴィン作の”Scoochie"。ホレス・パーランの「オン・ザ・スパー・オヴ・ザ・モーメント」でも”Skoo Chee"のタイトルで収録されていた名曲です。ヘインズの激しいドラムをバックに熱いソロを繰り広げるアーヴィンとマシューズが素晴らしいですね。2曲目はロニー・マシューズ作の”Dorian"。匂いが強烈な果物のドリアンではなく(あちらはdurian)、何でもドリアン・モードと呼ばれる音楽理論に基づき書かれた曲のようです。私もドリアン・モードについてネットで調べてみましたが、正直良くわかりませんでした。楽器を演奏する方ならわかるかもしれませんが、私は聴く専門なので・・・理論的なことはともかく、ちょっとエキゾチックで不思議な感じの曲です。

3曲目”Sketches Of Melba"は個性派ピアニストで作曲家のランディ・ウェストン作。エリック・ドルフィーも演奏した曲ですが、これがなかなか美しいバラードで、”Scoochie"と並ぶ本作のハイライトと言って良いでしょう。クセ強系テナーのブッカー・アーヴィンが珍しくストレートにバラードを歌い上げています。4曲目マシューズ作の”Honeydew"はR&Bっぽいソウルジャズで特筆すべきところはありません。5曲目"Under Paris Skies"はどこかで聞いたことある曲ですが、フランス映画「巴里の空の下セーヌは流れる」の主題歌で、エディット・ピアフやイヴ・モンタン等のシャンソン歌手が歌った曲です。お馴染みの哀愁漂うメロディをモード風に演奏しています。ラストの”Bad News Blues"はヘインズ作のブルース。アーヴィンがお得意のウネウネしたテナーソロを聴かせます。以上、全体としてはまずまずの出来ですが”Scoochie"”Sketches Of Melba”はなかなかの名曲名演と思います。

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ジャッキー・マクリーン/デモンズ・ダンス

2024-10-17 20:45:57 | ジャズ(モード~新主流派)

ジャッキー・マクリーンについては当ブログでもたびたび取り上げてきました。50年代のプレスティッジ時代も良いですが、1959年にブルーノートに移籍して以降も「カプチン・スウィング」「ア・フィックル・ソーナンス」等の名盤を残しています。ただ、1962年の「レット・フリーダム・リング」以降はそれまでのハードバップを捨て、フリージャズ路線の作品を次々と発表します。この頃の作品には「ワン・ステップ・ビヨンド」「デスティネイション・アウト」等がありますが、個人的にはフリー系が苦手なのでちょっとパスって感じですね。

ただ、1967年末に吹き込まれたマクリーンのブルーノート最後の作品「デモンズ・ダンス」は一連のフリー路線から少し揺り戻しのようなものがあったのか、比較的聴きやすい作品です。とは言え、50年代のようなハードバップまで戻ったわけではなく、その手前のモードジャズくらいですかね。メンバーもウディ・ショー(トランペット)、ラモント・ジョンソン(ピアノ)、スコッティ・ホルト(ベース)、ジャック・デジョネット(ドラム)と言ったポスト・バップ世代が脇を固めています。

それにしても強烈なのはこのジャケット!3人の黒人女性の顔に、妖怪みたいなのが3匹、その下には無数の乳房のようなものが・・・描いたのはマティ・クラーヴァインというドイツの芸術家らしく、他にはマイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」やサンタナの「アブラクサス(天の守護神)」も手掛けたそうですが、言われてみれれば確かに同じようなテイストかも。ブルーノートも60年代中盤以降はサイケなデザインのジャケットが増えてきますが、その中でもこれは群を抜いてインパクトがあります。個人的な好みを言えばあまり好きではありませんが、まあ印象に残るっちゃ残る・・・

全6曲、全てオリジナル曲で、マクリーンとウディ・ショー、そしてフィラデルフィア出身の作曲家カル・マッセイの曲が2曲ずつです。オープニングはマクリーン作のタイトルトラック"Demon's Dance"。ラモント・ジョンソンの飛翔感たっぷりのピアノ &ジャック・デジョネットの激しいドラミングをバックにマクリーン& ショーがエネルギッシュなソロを展開します。マクリーンのもう1曲のオリジナルは5曲目の”Floogeh"。何と読むのかわかりませんが、こちらはフリーとまでは行きませんがアグレッシブな曲ですね。

ウディ・ショーの2曲のうち3曲目”Boo Ann's Grand"はフリー路線の名残を感じるような曲ですが、4曲目”Sweet Love Of Mine"は一転して超メロディアスな曲です。当時流行のボサノバのリズムを取り入れた曲で、思わず歌詞を付けて歌いたくなるようなキャッチーなメロディです。ただ、演奏の方は結構ホットでマクリーン→ショー→ジョンソンと熱のこもったソロをリレーします。名曲が少ないと言われる60年代後半のジャズシーンでは屈指の名曲・名演ではないでしょうか?

カル・マッセイの2曲も捨てがたいです。彼は本職はトランぺッターだったようですが、むしろ作曲者として有名で、同じフィラデルフィア出身のリー・モーガンやジョン・コルトレーンに多くの曲を提供しています。2曲目”Toyland"は実に穏やかで優しいメロディのバラード。ウディ・ショーはお休みで、マクリーンとジョンソンがリリカルなプレイを見せます。ラストトラックの”Message From Trane"は半年前に亡くなった旧友のコルトレーンに捧げた曲で、モードジャズ時代のコルトレーンを彷彿とさせるようなナンバーで、マクリーン&ショーの疾走感たっぷりのソロにラモント・ジョンソンもマッコイ・タイナーっぽいプレイを聴かせます。以上、おどろおどろしいジャケットと"悪魔の踊り"を意味するタイトルの割には意外と普通に聴けるジャズです。

 

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