ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ/キャラヴァン

2024-11-29 19:22:32 | ジャズ(モード~新主流派)

1950年代後半から60年代前半にかけてのジャズ・メッセンジャーズは基本的にブルーノートと蜜月関係にあり、同レーベルから発売された「モーニン」「チュニジアの夜」「モザイク」と言った傑作群は今でも多くのジャズファンに愛されています。実は彼らはこの時期にリヴァーサイドにも3枚のアルバムを吹き込んでいるのですが、ブルーノート盤と違ってあまり取り上げられることはありませんね。3枚のうち2枚は「ウゲツ」「キョート」と日本にちなんだタイトルで、日本公演で熱烈な歓迎を受けたブレイキーがすっかり日本好きになって作ったアルバムですが、内容的にはこの時期のジャズ・メッセンジャーズらしい3管編成のモードジャズです。

残るもう1枚のリヴァーサイド作品が今日ご紹介する「キャラヴァン」で、収録日は1962年10月24日です。メンバーはフレディ・ハバード(トランペット)、ウェイン・ショーター(テナー)、カーティス・フラー(トロンボーン)、シダー・ウォルトン(ピアノ)とまさに黄金のメンバーですが、ベースが「モーニン」からの不動のメンバーだったジミー・メリットからレジー・ワークマンに交代しています。

アルバムはまずタイトルトラックの"Caravan"で幕を開けます。言わずと知れたエリントン楽団の名曲で初っ端からブレイキーが怒涛のドラミングを披露し、ハバード→ショーター→フラーが熱のこもったソロをリレーします。後半にもブレイキーの2分半にも及ぶドラムソロが挟まれます。ただ、個人的には2曲目以降の方が充実していると思いますね。注目はメンバーのオリジナル曲で、中でもショーターが作曲した”Sweet 'N' Sour"と”This Is For Albert”が素晴らしいです。その後マイルス・クインテットへの参加や、ブルーノートでのソロ活動、70年代のウェザー・リポートと第一線で活躍し続けるショーターですが、個人的にはジャズ・メッセンジャーズ時代のショーターが一番好きです。演奏ももちろんですが、何より曲が良いんですよね。ハードバップとは明らかに違うし、それでいて後年のような難解さもなく、クール&ファンキーなモードジャズが純粋にカッコいいです。

一方、2曲あるスタンダードも悪くないです。どちらもバラードで特定のソリストにスポットライトを絞っており、シナトラで有名な”In The Wee Small Hour Of The Evening"はカーティス・フラーの暖かみのあるトロンボーンを、ホーギー・カーマイケルの名曲”Skylark"ではフレディ・ハバードのブリリアントなトランペットを大々的にフィーチャーしています。ラストはハバード作の切れ味鋭いモーダルナンバー”Thermo"でビシッと締めくくって終わり。あらためてこの頃のジャズ・メッセンジャーズにハズレなし!を実感させてくれる1枚です。

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ロイ・ヘインズ/クラックリン

2024-11-26 18:56:49 | ジャズ(モード~新主流派)

先日(2024年11月12日)ロイ・ヘインズが亡くなりました。御年99歳。天寿を全うしたと言えるでしょう。以前にベニー・ゴルソンのところで存命中のジャズジャイアントについて述べましたが、そのゴルソンも9月に亡くなりましたし、ヘインズの3日前にルー・ドナルドソンも亡くなりました。残る90歳越えはソニー・ロリンズとケニー・バレルぐらいでしょうか?少しでも長生きしてほしいものです・・・

さて、本日は追悼の意味も込めてヘインズの60年代の代表作をご紹介します。プレスティッジ傘下のニュージャズに1963年4月に吹き込まれた「クラックリン」です。1940年代のビバップ期から活動を開始し、チャーリー・パーカーやバド・パウエル、ワーデル・グレイらのレジェンド達とも共演するなどこの時点でベテランとも呼べるキャリアを刻んできたヘインズですが、60年代に入ると時代の波に乗ってモードやフリー系のミュージシャン達とも共演し始めます。前年の1962年には鬼才ローランド・カークを迎えて「アウト・オヴ・ジ・アフタヌーン」をインパルスに残し、本作でもブッカー・アーヴィン(テナー)、ロニー・マシューズ(ピアノ)、ラリー・リドリー(ベース)とハードバップの枠に収まらない人材を起用しています。

全6曲、基本的にメンバーのオリジナル中心です。1曲目はブッカー・アーヴィン作の”Scoochie"。ホレス・パーランの「オン・ザ・スパー・オヴ・ザ・モーメント」でも”Skoo Chee"のタイトルで収録されていた名曲です。ヘインズの激しいドラムをバックに熱いソロを繰り広げるアーヴィンとマシューズが素晴らしいですね。2曲目はロニー・マシューズ作の”Dorian"。匂いが強烈な果物のドリアンではなく(あちらはdurian)、何でもドリアン・モードと呼ばれる音楽理論に基づき書かれた曲のようです。私もドリアン・モードについてネットで調べてみましたが、正直良くわかりませんでした。楽器を演奏する方ならわかるかもしれませんが、私は聴く専門なので・・・理論的なことはともかく、ちょっとエキゾチックで不思議な感じの曲です。

3曲目”Sketches Of Melba"は個性派ピアニストで作曲家のランディ・ウェストン作。エリック・ドルフィーも演奏した曲ですが、これがなかなか美しいバラードで、”Scoochie"と並ぶ本作のハイライトと言って良いでしょう。クセ強系テナーのブッカー・アーヴィンが珍しくストレートにバラードを歌い上げています。4曲目マシューズ作の”Honeydew"はR&Bっぽいソウルジャズで特筆すべきところはありません。5曲目"Under Paris Skies"はどこかで聞いたことある曲ですが、フランス映画「巴里の空の下セーヌは流れる」の主題歌で、エディット・ピアフやイヴ・モンタン等のシャンソン歌手が歌った曲です。お馴染みの哀愁漂うメロディをモード風に演奏しています。ラストの”Bad News Blues"はヘインズ作のブルース。アーヴィンがお得意のウネウネしたテナーソロを聴かせます。以上、全体としてはまずまずの出来ですが”Scoochie"”Sketches Of Melba”はなかなかの名曲名演と思います。

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ジャッキー・マクリーン/デモンズ・ダンス

2024-10-17 20:45:57 | ジャズ(モード~新主流派)

ジャッキー・マクリーンについては当ブログでもたびたび取り上げてきました。50年代のプレスティッジ時代も良いですが、1959年にブルーノートに移籍して以降も「カプチン・スウィング」「ア・フィックル・ソーナンス」等の名盤を残しています。ただ、1962年の「レット・フリーダム・リング」以降はそれまでのハードバップを捨て、フリージャズ路線の作品を次々と発表します。この頃の作品には「ワン・ステップ・ビヨンド」「デスティネイション・アウト」等がありますが、個人的にはフリー系が苦手なのでちょっとパスって感じですね。

ただ、1967年末に吹き込まれたマクリーンのブルーノート最後の作品「デモンズ・ダンス」は一連のフリー路線から少し揺り戻しのようなものがあったのか、比較的聴きやすい作品です。とは言え、50年代のようなハードバップまで戻ったわけではなく、その手前のモードジャズくらいですかね。メンバーもウディ・ショー(トランペット)、ラモント・ジョンソン(ピアノ)、スコッティ・ホルト(ベース)、ジャック・デジョネット(ドラム)と言ったポスト・バップ世代が脇を固めています。

それにしても強烈なのはこのジャケット!3人の黒人女性の顔に、妖怪みたいなのが3匹、その下には無数の乳房のようなものが・・・描いたのはマティ・クラーヴァインというドイツの芸術家らしく、他にはマイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」やサンタナの「アブラクサス(天の守護神)」も手掛けたそうですが、言われてみれれば確かに同じようなテイストかも。ブルーノートも60年代中盤以降はサイケなデザインのジャケットが増えてきますが、その中でもこれは群を抜いてインパクトがあります。個人的な好みを言えばあまり好きではありませんが、まあ印象に残るっちゃ残る・・・

全6曲、全てオリジナル曲で、マクリーンとウディ・ショー、そしてフィラデルフィア出身の作曲家カル・マッセイの曲が2曲ずつです。オープニングはマクリーン作のタイトルトラック"Demon's Dance"。ラモント・ジョンソンの飛翔感たっぷりのピアノ &ジャック・デジョネットの激しいドラミングをバックにマクリーン& ショーがエネルギッシュなソロを展開します。マクリーンのもう1曲のオリジナルは5曲目の”Floogeh"。何と読むのかわかりませんが、こちらはフリーとまでは行きませんがアグレッシブな曲ですね。

ウディ・ショーの2曲のうち3曲目”Boo Ann's Grand"はフリー路線の名残を感じるような曲ですが、4曲目”Sweet Love Of Mine"は一転して超メロディアスな曲です。当時流行のボサノバのリズムを取り入れた曲で、思わず歌詞を付けて歌いたくなるようなキャッチーなメロディです。ただ、演奏の方は結構ホットでマクリーン→ショー→ジョンソンと熱のこもったソロをリレーします。名曲が少ないと言われる60年代後半のジャズシーンでは屈指の名曲・名演ではないでしょうか?

カル・マッセイの2曲も捨てがたいです。彼は本職はトランぺッターだったようですが、むしろ作曲者として有名で、同じフィラデルフィア出身のリー・モーガンやジョン・コルトレーンに多くの曲を提供しています。2曲目”Toyland"は実に穏やかで優しいメロディのバラード。ウディ・ショーはお休みで、マクリーンとジョンソンがリリカルなプレイを見せます。ラストトラックの”Message From Trane"は半年前に亡くなった旧友のコルトレーンに捧げた曲で、モードジャズ時代のコルトレーンを彷彿とさせるようなナンバーで、マクリーン&ショーの疾走感たっぷりのソロにラモント・ジョンソンもマッコイ・タイナーっぽいプレイを聴かせます。以上、おどろおどろしいジャケットと"悪魔の踊り"を意味するタイトルの割には意外と普通に聴けるジャズです。

 

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アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ(インパルス盤)

2024-09-21 13:01:11 | ジャズ(モード~新主流派)

本日はアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズがインパルス・レコードに残したその名もズバリ「アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」です。録音は1961年6月。この頃のジャズ・メッセンジャーズは基本的にブルーノートを中心に活動していましたが、たまに”浮気”をしますよね。なお、同レーベルのジャズ・メッセンジャーズ作品は本作のみです(他にブレイキーのソロ名義作品はあり)。

メンバーはリーダーのブレイキーに加え、リー・モーガン(トランペット)、ウェイン・ショーター(テナー)、ボビー・ティモンズ(ピアノ)、ジミー・メリット(ベース)と言った黄金期の顔ぶれ。前年のブルーノート盤「ザ・ビッグ・ビート」「チュニジアの夜」と言った名盤と同じですね。ただ、そこにトロンボーンのカーティス・フラーが加わっているのが本作の肝。フラーはその後もバンドに残り、モーガンがフレディ・ハバードに、ティモンズがシダー・ウォルトンに交代して、この4ヶ月後に超名盤「モザイク」を発表。3管のジャズ・メッセンジャーズとして新たな黄金期を迎えるのですが、本作はその過渡期をとらえた作品と言えます。

全6曲、うちオリジナルは1曲のみで、後は歌モノという構成です。この頃のジャズ・メッセンジャーズはウェイン・ショーターの影響もあり、従来のファンキー・ジャズに加え、新たにモード・ジャズ寄りのアプローチも見せている頃ですが、オープニング・トラックのカーティス・フラー作"À la Mode"はタイトルからしてまさにモード風の曲です。続くスタンダードの"Invitation"も同様で、モーガンのミュートがややエキゾチックな雰囲気を醸し出します。4曲目"You Don't Know What Love Is"やラストの"Gee Baby, Ain't I Good To You"と言ったおなじみのスタンダードもストレートではなくややひねりの効いた演奏です。

ただ、個人的にはジャズ・メッセンジャーズと言えばやはりアップテンポの曲じゃないと物足りなく感じます。モーガンの高らかに鳴り響くトランペット、ショーターのうねうねとしたテナー、腹に響くフラーのトロンボーン、そしてバンド全体を推進するブレイキーの力強いドラミング。3曲目"Circus"と5曲目"I Hear A Rhapsody"はまさにそれらが味わえる名演と思います。特に前者はルイス・オールターと言う人が書いた曲で他ではあまり聞いたことがないですが、非常に魅力的な旋律を持った名曲ですね。後者もコルトレーンやビル・エヴァンスのバージョンとは全く異なるジャズ・メッセンジャーズならではの力強い演奏です。

 

 

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リー・モーガン/サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド

2024-08-20 18:49:38 | ジャズ(モード~新主流派)

リー・モーガンのキャリアを振り返った際に、1963年の「ザ・サイドワインダー」のビッグヒットを欠かすことはできません。ハードバップシーン随一の売れっ子トランぺッターとして1950年代後半に華々しい活躍をしたモーガンですが、60年代に入ると自身のヘロイン中毒の問題もあり、数年間の低迷期に入ります。そんな中で吹き込んだのが上述「ザ・サイドワインダー」。8ビートを取り入れた”ジャズ・ロック”と呼ばれるスタイルが大いに受け、ビルボートのアルバムチャートで最高25位とジャズでは異例の大ヒットとなります。特にジャズ専門レーベルでヒットチャートとは無縁だったブルーノートにとっては会社設立以来の大ヒットだったらしく、気を良くした彼らはその後もモーガンの「ザ・ランプローラー」「ザ・ジゴロ」、ハンク・モブレーの「ディッピン」「ア・キャディ・フォー・ダディ」とジャズロック路線を推し進めていきます。

本日ご紹介する「サーチ・フォー・ザ・ニュー・ランド」はそんなモーガンの60年代の作品群の中で見落とされがちな作品です。録音年月日は1964年2月15日。「ザ・サイドワインダー」の約3ヶ月後です。ただ、聴いていただければわかるように本作で演奏されるのはジャズロックではなく、かと言って旧来のハードバップでもなく、完全にモード~新主流派路線です。そもそもタイトルが和訳すれば「新天地の探求」ですからね。新たな路線を切り開こうとするモーガンの決意のようなものが感じられます。ジャズロックが大ヒットした直後なのになぜ?と思うかもしれませんが実は「ザ・サイドワインダー」がレコードとして発売されたのは1964年7月で、本作収録時には未発売だったのです。おそらくレコード会社もモーガン本人も8ビートのジャズがそんなに受けるとは思ってなかったのでしょうね。これからはモードジャズで行くぞ!と意気込んでいたら、ジャズロックが流行ったのでその後はそちらで売っていくことにした、と言うのが当時の実情ではないでしょうか?

メンバーは豪華ですよ。ウェイン・ショーター(テナー)、ハービー・ハンコック(ピアノ)、グラント・グリーン(ギター)、レジー・ワークマン(ベース)、ビリー・ヒギンズ(ドラム)と60年代のブルーノートを支えた面々がズラリと勢揃いしています。このうちグリーンだけは元々ソウルジャズ寄りでやや異色ですが、ショーター、ハンコックあたりはモード~新主流派の象徴的存在ですね。ただ、モーガンとショーターはジャズ・メッセンジャーズの同僚で旧知の仲ですし、ハンコックとはおそらく本作が初共演ですが、その後はモーガンの「コーンブレッド」でも共演しています。

全5曲、全てモーガンの自作曲で固められた意欲的な内容です。1曲目はタイトルトラックでもある”Search For The New Land"。15分余りの大作で、オリエンタル風なスピリチュアルな合奏から始まり、その後は各自がソロをリレーしていくのですが、ソロの合間毎に一旦フェードアウトするなど組曲風の凝った作りになっています。ソロの順番はショーター→モーガン→グリーン→ハンコックです。これぞブルーノート新主流派と言った感じの曲で本作のハイライトと言って良いでしょう。

2曲目”The Joker"と3曲目”Mr. Kenyatta"はそれに比べるとキャッチーな曲で、モーガンがいつもながらのファンキー節を披露しますが、一方でハービー・ハンコックのピアノやビリー・ヒギンスのドラムはモーダルな響きを感じさせます。ちなみにMr. Kenyattaとは前年にケニアを独立に導いたジョモ・ケニヤッタのことです。4曲目”Melancholee"はタイトル通りメランコリックなナンバーで、いかにもモードジャズと言った思索的な曲。モーガンのソロも抑え気味です。ラストの”Morgan The Pirate"はその反動と言っては何ですが、祝祭的なムードに溢れた明るい曲で、モーガンもいつも通りのはっちゃけたプレイです。何だかんだ言ってこういう陽気な曲の方がモーガンもイキイキしているような気がするのは私だけでしょうか?

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