ブルーノート、リヴァーサイドとともに50年代のハードバップシーンを牽引し続けたプレスティッジ・レコードですが、60年代になると変化の波にさらされるようになります。活動自体が低調になったわけではなく、新作のリリース自体はコンスタントに続けていたのですが、ウェイン・ショーターやハービー・ハンコック、ジョー・ヘンダーソンら新世代のスターを起用して新主流派路線に活路を見出したブルーノートに対してどこかパッとしない印象は拭えません。特に60年代後半のプレスティッジはソニー・クリスやチャールズ・マクファーソンらハードバップの生き残りもいましたが、メインはオルガン入りのソウルジャズ路線でした。それらの中にはもちろん傾聴すべき作品もあるにはありますが、全体的にはR&B風のノリ重視で、50年代のハードバップ黄金期に比べると色あせて見えるのは致し方ないところです。
ただ、そんな中にも硬派な作品がいくつかありまして、その1つが1968年12月に録音されたペッパー・アダムス「エンカウンター」です。アダムスは本ブログでも何度か取り上げていますが、デトロイト出身で同郷のドナルド・バードとの双頭コンボ(「アウト・オヴ・ジス・ワールド」参照)が有名ですよね。白人でありながら共演者は圧倒的に黒人が多く、ハードバップ風なスタイルが持ち味です。
本作のメンバーですが、なかなか興味深い面々が集まっています。ピアノにトミー・フラナガン、ドラムにエルヴィン・ジョーンズと同じデトロイト出身者を持ってきたあたりは想定の範囲内ですが、テナーにズート・シムズを起用しているのが面白い。アダムスとズートは同じ白人ですが、ハードバップ寄りのアダムスに対し、ズートはスイング~中間派の流れを組むスタイルですからね。ベースも新主流派の代表格的なロン・カーターが加わっていて、このメンバーでどんな音が生み出されるのか?聴く前は予想が難しいですね。
実際に聴いてみた感想ですが、やはり60年代後半と言う時代背景を反映してか、旧来のハードバップではなく、ややモードジャズ寄りの演奏ですね。"Serenity"と"Punjab"はブルーノート新主流派の旗手的存在だったジョー・ヘンダーソンのカバーですし、アダムス自作の”Inanout"や”Cindy's Tune"もハードでメロディアスとは程遠い感じ。ゴリゴリ重低音を吹き鳴らすアダムスはいつも通りですが、まろやかなトーンが持ち味のズートやきらびやかなタッチが売りのフラナガンはやや"よそ行き"感が否めません。
個人的にはやはりモード路線ではなく通常のハードバップ風の曲が好きですね。おススメはまずサド・ジョーンズ作曲の”Elusive”。「ファビュラス・サド・ジョーンズ」収録の軽快なハードバップで、アダムスがブリブリ吹いた後、ズートのメロディアスなテナーソロ→フラナガンのエレガントなピアノソロがたっぷりフィーチャーされます。終始煽り続けるエルヴィン・ジョーンズのトラミングもグッジョブ!ですね。バラードではエリントンナンバーの"Star-Crossed Lovers"も悪くないですが、”I've Just Seen Her"が入魂の出来栄え。あまり他では聞かない歌モノスタンダード曲ですが、ここではズート抜きのワンホーンでアダムスがダンディズム溢れるバラードプレイを聴かせてくれます。ラストトラックの”Verdandi"はトミー・フラナガンの名盤「オーヴァーシーズ」収録曲。原曲はピアノトリオですが、ここではクインテットによるエネルギッシュな演奏。終盤のエルヴィン・ジョーンズのドラミングも圧巻です。