ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

レイ・ブライアント・トリオ

2024-09-30 21:02:42 | ジャズ(ピアノ)

前回がドン・バグリーと言うマニアックな選択だったので、今回はド定番でレイ・ブライアントのプレスティッジ盤を取り上げたいと思います。先日ご紹介したシグナチャー盤「レイ・ブライアント・プレイズ」と並んで、彼の代表作に挙げられる1枚です。マイルス・デイヴィスやソニー・ロリンズとの共演を経て、カーメン・マクレエの歌伴を務めていたブライアントが当時のレギュラーメンバーであるアイク・アイザックス(ベース)とスペックス・ライト(ドラム)と組んだもので、ジャズ名盤特集にも必ずと言って良いほど取り上げられる有名盤です。

さて、名盤特集でこのアルバムを解説する時に必ず取り上げられるのが1曲目の”Golden Earings"。レイ・ブライアントと言えばこの曲!とされるぐらいの定番曲ですね。原曲はサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」と言うヴァイオリン曲(以前に当ブログでも紹介しました)ですが、その後にヴィクター・ヤングが映画音楽用に編曲したそうです。特に日本のジャズファンの間で人気が高いようですが、やや歌謡曲っぽい旋律が受けたのでしょうね。ただ、個人的には続くマット・デニス作”Angel Eyes"やチェット・ベイカーも歌ったアンニュイな”The Thrill Is Gone”同様にメロディがベタ過ぎてそこまで好きではありません。

私としてはむしろブライアントの自作曲を含めたジャズオリジナルの方を推したいと思います。特に自作の2曲が素晴らしく、まずは3曲目の”Blues Changes"。ブライアントも参加した「マイルス・デイヴィス & ミルト・ジャクソン」に収録されていた”Changes"と同じ曲で実にリリカルな名曲です。続くアップテンポの”Splittin'"は個人的に本作中最もお気に入りの曲で、いかにもブライアントらしいファンキーなピアノソロが堪能できます。この曲は同じ年にジジ・グライス&ドナルド・バードのジャズ・ラブにもカバーされています。残りは他のジャズメンの曲で、"Django"はMJQ「ジャンゴ」、”Daahoud"は「クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ」、”Sonar”はケニー・クラーク「テレフンケン・ブルース」にそれぞれ収録されていた曲のカバーですが、中では”Sonar”が出色の出来です。

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ドン・バグリー/ジャズ・オン・ザ・ロック

2024-09-29 07:53:31 | ジャズ(クールジャズ)

本日はかなり通好みのチョイスで白人ベーシストのドン・バグリーをご紹介します。と言っても誰やねんそれ!と言う方は多いと思います。私もぶっちゃけそうでした。スタン・ケントン楽団で長年ベーシストを務めたそうですが、スモールコンボでの活動は限られており、サイドマンで目にする機会もあまりありません。本作は1957年9月にサヴォイ傘下のリージェント・レコードに吹き込まれたものですが、サヴォイ系特有のセンスのかけらもないジャケットのせいもあり、普通であればスルーするところです。

ただ、思わず食指が動いたのは参加メンバーを目にしたからです。まず、パーカーの後継者として絶賛売り出し中だったアルトのフィル・ウッズに、ベツレヘム等にリーダー作を残している渋好みのギターのサル・サルヴァドール、個性派ピアニストでヴァイブもよくするエディ・コスタ、そしてメンバー中唯一の黒人で名ドラマーのチャーリー・パーシップ。おそらくリーダーのバグリーが一番無名なのでは?と思えるぐらいの興味深いメンツが集まっています。

全6曲。全てバグリーのオリジナルで構成されています。オープニングの"Batter Up"からまずパーシップのドラムを露払いにしてフィル・ウッズが哀愁漂うアルト・ソロを披露し、コスタのピアノ→サルのギター→バグリーのベースソロと続き「意外と悪くないかも?」と思わせてくれます。続く"Come Out Swingin'"もマイナーキーの曲で、コスタのバピッシュなピアノソロで始まり、ウッズ→サル→バグリーとソロを受け渡します。

3曲目"Odd Man Out"はバラード曲でバグリーとコスタのピアノとのデュオです。バグリーの2分近いベースソロが堪能できます。続く"Bull Pen"はまたしてもマイナーキーの曲ですが、ここではコスタがピアノをヴァイブに持ち替えて流麗なマレット捌きを見せてくれます。5曲目"Hold In There"は本作のハイライトといえるドライブ感満点のナンバーで、テーマ演奏のあと、サル→ウッズ→コスタのヴァイブとそれぞれたっぷり時間を取ってソロをリレーして行きます。ウッズ、コスタの好調ぶりは相変わらずですが、ここでは2分以上に及ぶサルのギターソロにも注目ですね。ラストは再び哀愁漂う"Miss De Minor"で終わり。

全体的にマイナーキーの曲が多いですが、"Hold In There"のようにガツンと来るアップテンポの曲もあり、硬派ジャズファンも満足させてくれる内容と思います。リーダーのバグリーは随所でベースソロを取りますが、どちらかと言うとウッズ、コスタ、サル・サルヴァドールの方が目立っていますね。特にウッズは同じ年に代表作である「スガン」「フィル・トークス・ウィズ・クイル」、「ウォーム・ウッズ」を発表していた頃で、脂の乗り切ったプレイを聴かせてくれます。

 

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ジョニー・グリフィン/ナイト・レディ

2024-09-27 18:16:14 | ジャズ(ヨーロッパ)

ジョニー・グリフィンについては最近のブログでもたびたび取り上げています。シカゴNo.1テナーとして名を上げた後、まず1956年にブルーノートと契約。3作のリーダー作を残した後、リヴァーサイドに移籍して合計15枚ものリーダー作を発表するなど同レーベルの看板プレイヤーとして活躍しました。ただ、そんなグリフィンですが、1963年にあっさりヨーロッパに移住してしまいます。

60年代はこのグリフィンだけでなく、ベン・ウェブスター、デクスター・ゴードン、デューク・ジョーダン、ケニー・ドリューと大物ジャズマン達が続々とヨーロッパに渡りますが、その大きな理由がジャズシーンの変化でしょうね。60年代も半ばになるとビバップ~ハードバップは徐々に時代遅れとなり、ジャズマン達はモード~新主流派のインテリ系路線に走るか、それともR&B寄りのソウル・ジャズ路線でブリブリ吹くか、あるいはいっそのことフリージャズ路線で突っ切るか、と主に3つの方向転換を迫られますが、グリフィン含め上記のベテラン達はどの路線も合わないですよね。その点、ビバップ~ハードバップの愛好者が多いヨーロッパの方が自分達のスタイルが受け入れられるため、居心地良く感じたのでしょう。また、本国アメリカのような露骨な人種差別がなく、アーティストとしてきちんとリスペクトしてくれるのも黒人ジャズマン達にとってはありがたかったようです。

今日ご紹介する「ナイト・レディ」はグリフィンのヨーロッパ移住後最初のアルバムで、1964年2月にドイツのケルンで録音されたものです。発売元はオランダのフィリップス・レコードです。ワンホーンのカルテットで、参加メンバーはフランシー・ボラン(ピアノ)、ジミー・ウッド(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)。ベルギー人のボラン以外は全員アメリカからの移住組です。なお、ボランとクラークの2人は、1962年にクラーク=ボラン・ビッグ・バンドを結成し、「ジャズ・イズ・ユニヴァーサル」等で名を上げていた頃です。元エリントン楽団のウッドも同バンドの結成当初からベーシストとして参加しています。

アルバムはまずグリフィンのオリジナル曲"Scrabble”で始まります。いかにもグリフィンらしい豪快なブロウが楽しめる曲ですが、驚くのがクラークの叩くドラムの音の大きさ。録音時の設定なのか、それとも単純に音がデカいのか、主役のグリフィンに負けないぐらいの存在感でバシバシと耳に響いてきます。2曲目”Summertime"以降も同じで、お馴染みのガーシュウィン・ナンバーをグリフィンともどもエネルギッシュに料理します。

3曲目”Old Stuff"と続く”Night Lady"はフランシー・ボランの自作曲。特に後者はタイトルトラックだけあってなかなかの名曲で、グリフィンのソウルフルなテナーはもちろんのことボランのファンキーなピアノソロも冴え渡ります。5曲目”Little Man You've Had A Busy Day”はあまり有名ではないですがサラ・ヴォーンも歌ったスタンダード曲。本作中唯一のバラードで、グリフィンがダンディズム溢れるテナーソロをじっくり聴かせます。当然ながらクラークのドラムはここでは控えめです。ラストは定番スタンダードの”All The Things You Are"で、再びクラークのアグレッシブなドラムをバックにグリフィンがパワフルなソロを取ります。

この後、グリフィンは1970年代後半までヨーロッパに滞在し、多くの作品を残すようですが、例のごとく私は70年代以降のジャズに疎いので細かいことはよく知りません。有名なスティープルチェイスのライブ盤「ブルース・フォー・ハーヴェイ」だけは以前所有していましたが、内容的には本作の方が上と思います。

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ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー

2024-09-26 18:52:09 | ジャズ(ウェストコースト)

アート・ペッパーのキャリアが麻薬によってたびたび中断したことはジャズファンなら皆ご承知のことと思います。中でも一番長いのが60年代から70年代前半にかけてのブランクで、10年以上もの間表舞台から姿を消します。1975年に古巣のコンテンポラリーに「リヴィング・レジェンド」を発表して以降、再び怒涛の勢いでアルバムを発表し、奇跡のカムバックと呼ばれたそうですが、私個人的には70年代以降のジャズはほとんど聴かない(自分は70年代生まれのくせに!)ので、晩年のペッパーの演奏についてはよくわかりません。

ただ、ペッパーはそれ以前にも何度か麻薬絡みで収監されており、一般的に彼の全盛期と目される1950年代にも約2年間を塀の中で過ごしています。今日ご紹介する「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」はその際の復帰作で、1956年8月6日にジャズ・ウェストと言うマイナーレーベルに吹き込まれたものです。この時点でペッパーはスタン・ケントン楽団での活躍で西海岸随一のアルト吹きとしての評価を確立していましたが、ソロとしてのキャリアはまだあまりなく、実質的にこの後の5年間が彼の黄金時代となります。

メンバーはジャック・シェルドン(トランペット)、ラス・フリーマン(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、シェリー・マン(ドラム)と言った西海岸を代表する面々。ジャック・シェルドンは先日ご紹介した「マイ・フェア・レディ」では歌を歌っていましたが、本職はトランぺッターで本作でもなかなかブリリアントなプレイを聴かせてくれます。ペッパーは自身のリーダー作にトランぺッターを起用することはあまりないですが、シェルドンとはウマが合ったのか1960年の「スマック・アップ」でも共演しています。

全10曲、うちスタンダードは2曲のみで後は全てペッパーのオリジナルです。アルバムはまずオリジナル曲の"Pepper Returns"から始まりますが、聴いていただければわかるようにほぼ”Lover, Come Back To Me"のパクリです。ただ、演奏の方は素晴らしく、のっけから絶好調のペッパーのアドリブに、シェルドンもパワフルなソロで絡みます。続く2曲はスタンダードで、まずベイシー楽団のレパートリーである”Broadway"をペッパー&シェルドンで軽快に料理した後、続く”You Go To My Head"はペッパーがワンホーンで絶品のバラードプレイを聴かせます。

中盤は”Angel Wings"”Funny Blues””Five More"”Minority"とペッパーのオリジナルが続きますが、正直あまり特筆すべきものはないです。ちなみに”Minority”はジジ・グライスの有名な曲とは全く別のマイナーキーの曲です。特筆すべきはペッパーのワンホーンによる美しいバラード”Patricia"。ペッパーには妻に捧げた”Diane"と言う名の名バラードがありますが、この曲は娘のパトリシアちゃんのために書かれたそうです。ペッパーの優しいアルトの音色が胸に沁みます。”Mambo De La Pinta”は曲名から想像つくようにラテンムード全開のホットな演奏。ラストの”Walkin' Out Blues”はペッパー得意の即興のブルースです。この後、ペッパーは1960年までの間に計10枚のリーダー作を録音。生涯で最もクリエイティブな時期を過ごしますが、本作はその皮切りとなる記念碑的な1枚です。

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ソニー・ロリンズ&ザ・コンテンポラリー・リーダーズ

2024-09-25 18:34:56 | ジャズ(ハードバップ)

1950年代のソニー・ロリンズは最初はプレスティッジ、ついでブルーノートに傑作群を残しますが、一方でリヴァーサイドに2枚、西海岸のコンテンポラリーにも2枚と様々なレーベルに足跡を残しています。コンテンポラリー・レコードのうち1枚はロリンズがカウボーイの格好をしたジャケットで有名な「ウェイ・アウト・ウェスト」で、レイ・ブラウン(ベース)とシェリー・マン(ドラム)と組んだピアノレス・トリオの先駆け的作品として名盤特集にもよく取り上げられています。ただ、私はこの作品はそんなに好きではないのです。と言うより基本ピアノのないジャズはあまり好んで聴きませんね。何と言うか、どこか物足りないんですよね。たとえソロを取らずともバックのリズムセクションでもピアノがあるかないかで音がだいぶ変わります。ロリンズはこの後ブルーノートに「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」、リヴァーサイドに「フリーダム・スイート」と立て続けにピアノレス・トリオを発表し、評論家筋からは名盤と称されていますが、私は率直に言ってあまり良さがわかりません。

その点、今日ご紹介する「コンテンポラリー・リーダーズ」はピアノはもちろんギターも加わって大変賑やかです。タイトルは”現代のリーダー達”と言う意味と、レーベル名のコンテンポラリーとをかけており、ハンプトン・ホーズ(ピアノ)、バーニー・ケッセル(ギター)、リロイ・ヴィネガー(ベース)、シェリー・マン(ドラム)と同レーベル所属の売れっ子ジャズマン達が勢揃いしています。全員が普段はウェストコースト・サウンドのくくりで語られることが多く、東海岸ハードバップを代表する大物であるロリンズとの共演は貴重です。録音年月日は1958年10月です。

ボーナストラックの別テイクを除くと全8曲。ロリンズは作曲家としても名高いですが、この作品は自作曲はなく全て歌モノスタンダードです。ただ、いわゆる定番スタンダードは多くありません。"How High The Moon"”Alone Together””The Song Is You"の3曲ぐらいでしょうか?ただ、これらも演奏はひねりが加えられていて、"How High The Moon"はギターとベースのみの変則的ピアノレス・トリオ、”The Song Is You"もかなりアグレッシブな演奏です。バーニー・ケッセルのギターソロが印象的な”Alone Together"が比較的聴きやすいですかね。

他はインストゥルメンタル・ジャズではあまり取り上げられない曲ばかりです。オープニングトラックの”I've Told Ev'ry Little Star"はジェローム・カーン作曲ですが、後の1961年にリンダ・スコットという歌手がカバーして全米3位のヒットになっています。このバージョンは「マツコの知らない世界」のテーマ曲になっているのでそちらを聴けば「あー、あの曲ね!」となること請け合いです。ただ、ロリンズのプレイは事前知識がなければ同じ曲とは全然気づきませんが・・・ウォルター・ドナルドソンが書いた”You"と言う曲では1曲だけヴィクター・フェルドマンがヴァイブで加わり、ロリンズのテナーソロと見事な掛け合いを聴かせてくれます。CDにはLP発売当時(1960年)の解説が付いており、”偉大なるロリンズのソロを下手な英国人のヴァイブが邪魔をしている”と散々に酷評されていますが、個人的には楽しい曲調で好きですけどね。

他は”Rock-A-Bye Your Baby With A Dixie Melody""I've Found A New Baby""In The Chapel In The Moonlight"と言ったあまり知らない曲をロリンズが朗々とブロウして行きます。バーニー・ケッセルやハンプトン・ホーズは基本的に脇役に回っており、主役のロリンズより目立つことはありませんが、随所でキラリと光るソロを披露してくれます。ロリンズのプレイはバップの伝統を踏襲しながらも、時おりフレージングにトンがったところも見られ、新しいスタイルを模索していた時期だったことがうかがえます。結局、この作品を最後にロリンズは活動を停止し、3年近い充電期間に入ります。ニューヨークの橋の下でひたすら練習を繰り返したロリンズが次に発表するのが歴史的名盤「橋(The Bridge)」です。

 

 

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