本日はアトランティックの名盤コレクションから1958年に発表されたミルト・ジャクソンとコールマン・ホーキンスの双頭リーダー作「ビーン・バグス」を紹介します。文字通り豆の詰まった袋(bean bag)が写されたジャケットがユニークですね。“バグス”がミルト・ジャクソンの愛称と言うのはジャズファンなら周知の事実でしょう。名曲“Bags' Groove”をはじめ、コルトレーンとは「バグス&トレーン」、ウェス・モンゴメリーとは「バグス・ミーツ・ウェス」など共演作も多く残しています。ただ、コールマン・ホーキンスが“ビーン”と呼ばれるのは初耳です。てっきり“ホーク”だと思ってましたが・・・
まあ、名前の件はさておき、このアルバムはメンバーが豪華ですね。ヴァイブの第一人者であるミルトと、ビバップ以前から活躍するテナーの重鎮ホーキンスに加え、脇を固めるケニー・バレル(ギター)、トミー・フラナガン(ピアノ)、エディ・ジョーンズ(ベース)、コニー・ケイ(ドラム)といずれ劣らぬ名手揃い。特にバレルとフラナガンは個人的にフェイバリットミュージシャンの一人なので、彼らの名前を見ただけで期待に胸が高鳴ると言うものです。
内容ですがホーキンス、ミルト、バレルとブルージーなプレイを得意とするメンバーが揃っているだけに、“Close Your Eyes”“Sandra's Blues”などのスローなブルースの解釈は見事なものがあります。一方で“Stuffy”“Get Happy”などアップテンポなナンバーになると、ホーキンスのテナーがやや野暮ったく聴こえるのは否めません。他のメンバーは絶好調なので、ここら辺は世代の違いかそれともスタイルの違いか?ただ、バラードの“Don't Take Your Love From Me”での貫禄たっぷりのテナーソロはホーキンスならでは。ミルトの華麗なマレット捌きもロマンチックなムードを盛り上げます。全体的にこれぞ名盤!と言うべき内容ではありませんが、豪華メンバーの共演だけあって聴き逃すには惜しい作品であることは間違いありません。
曲は全て有名なスタンダードばかりですが、演奏の質が高いのでどれを聴いてもハズレなしです。特に当時19歳(!)だったバルネ・ウィランが素晴らしく、“Dear Old Stockholm”や“All The Things You Are”での力強いテナーに思わず聴き惚れてしまいます。ジョン・ルイス最大の名曲“Afternoon In Paris”はこのために書かれたわけではありませんが、やはりフランスの空気を感じられる本作のバージョンが一際充実の出来です。ミルト・ジャクソンの名曲“Bags' Groove”ではディステルとウィランが黒人顔負けのブルージーな演奏を聴かせてくれます。ジョン・ルイスはと言うと、MJQでもそうなんですがピアノソロでも派手にアピールする訳ではなく、フランスの俊英2人をサポートしているという感じが好ましいですね。エッフェル塔をバックにしたジャケットも印象的な名盤です。
今日はちょっと路線を変えてヨーロッパ・ジャズの名盤を紹介したいと思います。ジャズ好きの人なら皆さん澤野工房というレーベルをご存じだと思います。大阪の小さなレコード会社ですが、ヨーロッパの知られざるジャズメン達の録音を発掘し、続々とCD化してきました。タワーレコードなど大きなCDショップに行けば専門のコーナーがありますね。基本は今活躍しているジャズメン達の録音が中心ですが、何枚かは50~60年代の復刻版があり、本日紹介するジョルジュ・アルヴァニタス「ソウル・ジャズ」はそのうちの1枚です。録音は1960年、オリジナルの発売元はフランスコロンビアだそうです。
本作のメンバーは全てフランス人。リーダーのジョルジュ・アルヴァニタス(ピアノ)、ベルナール・ヴィテ(ビューグル)、フランソワ・ジャノー(テナー)、ミシェル・ゴドリー(ベース)、ダニエル・ユメール(ドラム)から成るクインテットです。ビューグルという楽器は聴き馴染みがありませんが、ラッパの一種ですね。おフランスのジャズということでさぞかし上品でエスプリの利いた演奏、と思ってしまう方もいるでしょうが、CDのプレイボタンを押した瞬間に聴こえてくるのはバリバリのファンキーチューン“This Here”。本家キャノンボール・アダレイ・クインテットに勝るとも劣らないホットな演奏に意表を突かれること間違いなしです。その後に続くのもセロニアス・モンク、バド・パウエル、ソニー・ロリンズ、マックス・ローチ、オスカー・ペティフォードなどビバップの名曲のカバーばかり。演奏もそれらバップ曲のフランス風解釈などではなく、全てど真ん中直球勝負。つまり、これは当時のフランスのジャズメン達の本場アメリカの黒人ジャズへの熱い想いが凝縮された1枚なのです。
オリジナルは1曲もなく全てカバーですが、当時のフランスの俊英達が集まっただけあり、演奏の質は文句なし。どの曲もアルヴァニタスの華麗なピアノソロが存分に堪能できますが(特にハードドライビングな“Oblivion”は最高!)、共演陣も素晴らしく、特にテナーのジャノーは“Sonnymoon For Two”でロリンズばりの骨太なブロウを、“Monk's Mood”では哀愁感たっぷりのプレイを聴かせてくれます。ユメールがマックス・ローチを彷彿とさせるドラミングを披露する“Mister X”もいいですね。締めくくりはメンバー全員が軽快なソロを取る“Bouncin' With Bud”。単なる本場の物マネに終わらず、確かな演奏技術と質の高いアドリブに裏打ちされた真のハードバップ名盤となっております。
しばらくボーカルが続きましたが、再びインストゥルメンタルに戻ります。本日紹介するのはトロンボーン奏者スライド・ハンプトンの「ジャズ・ウィズ・ア・ツイスト」です。ハンプトンは以前にも「シスター・サルヴェイション」を取り上げましたが、本作はその翌年1961年に録音された作品です。前作同様10人編成の小型ビッグバンドで、メンバーはリーダーのハンプトンに加えベニー・ジェイコブス=エル(トロンボーン)、ウィリー・トーマス&ホバート・ドットソン(トランペット)、ジョージ・コールマン(テナー)、ジェイ・キャメロン(バリトン)、ホレス・パーラン(ピアノ)、エディ・カーン(ベース)、ヴィニー・ルッジェーロ(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)となっています。メンバー的にはコールマン、ホレス・パーランを除けば無名揃いで、フレディ・ハバードの参加していた前作より劣るような気がしますが、内容的にはこちらの方が断然お薦めです。
ハンプトンは名前通りスライド・トロンボーンの名手ですが、本作ではソロを取るのは9曲中4曲のみで、もっぱらアレンジャーに徹しています。その手腕は素晴らしく、6本の管楽器から成るゴージャスなホーンアンサンブルとコンガも加えたリズムセクションに各人のソロを見事に融合させたモダンなアレンジには脱帽です。ソロイストは曲ごとに変わりますが特にジョージ・コールマンのテナーが素晴らしく、“The Jazz Twist”“Gorgeous George”は彼のショウケースと言ってもいいナンバー。ジェイ・キャメロンのバリトンをフィーチャーした“Strollin'”、ハンプトンのトロンボーン奏者としての面目躍如の“Slide Slid”“Day In Day Out”、コンガの奏でる野性的なリズムをバックにコールマン→ハンプトン→トーマスが情熱的なソロを受け渡す“The Barbarians”も素晴らしいです。そしてラストの“Red Top”ではコールマン→ジェイコブス=エル→トーマスのソロの後を壮大なホーンアンサンブルが締めくくります。マンガのようなイラストとマイナーなメンツに正直購入意欲の湧かない作品でしたが、内容は文句なしの名盤です。是非騙されたと思って買ってみてください!
ヴォーカルシリーズ第4弾ですが、本日はビヴァリー・ケニーを紹介したいと思います。ルーストとデッカに合計6枚のアルバムを残し、28歳の若さで夭折(死因は自殺と言われています)した薄幸の美人シンガーです。本作は1956年、ルーストに残したデビュー第3作です。白人の女性ボーカルと言えば、アニタ・オデイ、クリス・コナー、ヘレン・メリル、ジューン・クリスティあたりが代表格になろうかと思われますが、彼女らに共通するのは皆ハスキーボイスということですね。やはりポップスと違ってジャズボーカルは多少声がしゃがれている方が大人の雰囲気が出るからでしょうか?ただ、このビヴァリー・ケニーはどちらかと言うとキュートボイス系。声量もそれほどあるとは思えませんし、歌い方も軽くフェイクさせる程度なのでポップシンガーに近いかもしれません。
では、なぜ私がこのCDを購入したかと言うと、ずばり伴奏メンバーが凄いんですね。タイトルにあるベイシーアイツ(Basie-ites)は造語で和訳すると「ベイシー楽団員」、つまり黄金のカウント・ベイシー楽団から選りすぐりのメンバーがサポートしているのです。御大ベイシーはさすがに参加せず、ピアノは歌伴の名手ジミー・ジョーンズが務めていますが、後はジョー・ニューマン(トランペット)、フランク・ウェス(テナー)、フレディ・グリーン(ギター)、エディ・ジョーンズ(ベース)、ジョー・ジョーンズ(ドラム)とオールスターメンバーが素晴らしい演奏を聴かせてくれます。
全12曲、どれも2分~3分の短い曲ばかりですが、随所にジョー・ニューマンのブリリアントなトランペットとフランク・ウェスの雄大なテナーが挟まれており、聴き応え十分の仕上がり。ひたすらリズムを刻むフレディ・グリーンのギターも相変わらずですね。肝心の主役であるビヴァリー・ケニーのボーカルなんですが、最初はやや線が細いかな?と思いましたが、繰り返し聴くうちに透明感のある歌声がベイシーアイツの演奏とうまく溶け合って心地よく感じられるようになりました。特に幻想的なムードの“I Never Has Seen Snow”、ラストのバラード“Can't Get Out Of This Mood”のアンニュイな感じが魅力ですね。後はニューマンとウェスの素晴らしいソロが聴ける“Nobody Else But Me”“A Fine Romance”“Isn't This A Lovely Day”“My Kind Of Love”がお薦めです!