本日はアンデックスという西海岸のマイナーレーベルの再発シリーズからの1枚です。このシリーズからは以前に「ムーチョ・カロール」を取り上げましたが、そちらはアート・ペッパーも参加しているおかげでジャズファンにもそこそこ知られている作品でしたが、今回購入したデンプシー・ライトに至っては「誰それ?」と言うのが大方の反応でしょう。何でもオクラホマ出身のギタリストで、50年代の西海岸でプレーしていたそうですが、リーダー作はおろかサイドマンで参加している作品も全く心当たりがありません。調べるとベーシストのハリー・ババシンの「ジャズ・ピッカーズ」と言う作品に顔を出しているそうですが、その作品自体がレアだし日本では未発売と言うこともあって、まさに“幻のギタリスト”です。では、何でそんなレア作品を買おうかと思ったかですが、ずばり他のメンバーですね。リッチー・カミューカ(テナー)、ヴィクター・フェルドマン(ピアノ&ヴァイブ)、ベン・タッカー(ベース)、スタン・リーヴィ(ドラム)とくれば、ウェストコーストジャズに理解のある人なら思わず食指の動くメンバーではないですか?黒人ハードバップにしか興味がないんじゃ!と言う人からすればスルーなんでしょうが・・・
さて、実際の演奏はどうかと言うと、期待以上の出来でした。何と言ってもリッチー・カミューカが素晴らしいですね。彼は白人ではありますが、レスター・ヤング直系のコクのあるテナーを持ち味にしており、本作でも“9:20 Special”“Swingin' The Blues”“Taps Miller”と言った30~40年代のベイシー楽団のレパートリーでまさにレスターばりのプレイを聴かせてくれます。ヴィクター・フェルドマンも良いですね。本作の録音された1958年はイギリス出身のフェルドマンが、西海岸に移住してきて本格的にアメリカでの活動を開始させた年でもありますが、1曲目の“Something For Liza”のソロ一番手でいきなり素晴らしいピアノソロを披露してくれます。“Thanks For The Memory”“9:20 Special”ではヴァイブを手にし、マルチプレイヤーぶりも発揮しています。肝心のリーダーであるライトはと言うと、まあ可もなく不可もなくと言ったところ。同じオクラホマ出身であるチャーリー・クリスチャンやバーニー・ケッセルに影響を受けたとあって、彼らの流れを組む正統派のジャズギターを聴かせてはくれますが、正直そこまでインパクトのあるプレイではありません。主役はカミューカのテナーですね。ちなみにジャケットはドラムのスタン・リーヴィのデザインだそうで、何でも同じWrightと言うことでライト兄弟にかけたとか。はっきり言ってセンスないとしか思えませんが、それもまたご愛敬。ウェストコーストの隠れた秀作として一聴の価値はあると思います。
輸入盤シリーズ第3弾は「カル・チェイダー~スタン・ゲッツ・セクステット」です。カル・チェイダーって誰?と思う方もいるかもしれませんが、ヴァイブ奏者で何でもラテン・ジャズの第一人者としてアメリカではかなり知名度があるそうです。日本ではカル・ジェイダーと表記されることが多いですが、発音はどうやらチェイダー(Tjader)が正しいそうです、ウィキペディア情報ですが。さて、このアルバム、日本でも何度か発売されているのですが、その際のタイトルは「スタン・ゲッツ~カル・ジェイダー・セクステット」になっており、ジャケットもゲッツの横顔のアップです。ま、そらそうでしょうな。馴染みのないヴァイブ奏者のリーダー作として売り出すより、ゲッツの名前で売った方が売れるに決まってます。ただ、実際はチェイダーの所属していたファンタジーと言うサンフランシスコのレコード会社の作品で、当地を訪れていたゲッツがゲストとして客演したものです。
録音は1958年2月。メンバーはチェイダー(ヴァイブ)、ゲッツ(テナー)に加え、ヴィンス・グワラルディ(ピアノ)、エディ・デュラン(ギター)、スコット・ラファロ(ベース)、ビリー・ヒギンズ(ドラム)から成るセクステットです。リーダー作も何作かあるグワラルディはともかく、デュランの名前はあまり聴いたことありませんが、サンフランシスコをベースに活躍したギタリストらしく、リズムにソロになかなか軽快に弾きこなしています。後にニューヨークに進出するラファロやヒギンズの西海岸時代のプレイが聴けるのも貴重かもしれません。
アルバムはまずグワラルディのオリジナル“Ginza Samba”で幕を開けます。なぜ銀座でサンバなのかタイトルの由来は不明ですが、曲自体はこれぞラテン・ジャズと言うノリノリの楽しい曲です。序盤からチェイダーが飛ばしに飛ばしますが、続くゲッツのソロが圧巻。スピードを全く緩めることなく、次から次へとメロディアスなアドリブを繰り広げて行きます。この頃のゲッツは本当に神がかってますね。続く歌モノスタンダード“I've Grown Accustomed To Her Face”と“For All We Know”はラテン色は薄く、しっとりとした演奏です。後半はチェイダーのオリジナルが中心でミルト・ジャクソンを彷彿とさせるファンキーな“Crow's Nest”、ミディアム・テンポの“Liz-Anne”、メランコリックな“Big Bear”と続きますが、どれも魅力的な小品で、チェイダーの作曲センスの良さもうかがえます。最後は優しいメロディのスタンダード“My Buddy”で締めくくり。以上、曲も粒ぞろいですし、ゲッツはもちろんのことチェイダー、グワラルディ、デュランの演奏も申し分なし。ズバリ隠れ名盤と言って良いでしょう。

アルバムはまずジジ・グライスの名曲“Minority”で始まります。エヴァンスはこの後に発表する「エヴリバディ・ディグズ・ビル・エヴァンス」でも取り上げていますので、彼のお気に入りだったのでしょうね。本作はクインテットによる演奏ですので、キャノンボールの情熱的なアルト、ミッチェルのブリリアントなトランペットをフィーチャーした熱血ハードバップに仕上がっています。続く“Straight Life”はキャノンボール自作のバラード。どことなくスタンダードの“Easy Living”を思わせる美しいバラードです。“Blue Funk”はベースのサム・ジョーンズの作曲。文字通りのファンキー・チューンでキャノンボールはじめ楽しそうに演奏しています。“A Little Taste”はキャノンボールのオリジナルで、彼のテーマ曲と言ってもいいぐらい何度も演奏していますが、本作のバージョンももちろん素晴らしいです。“People Will Say We're In Love”はロジャース&ハマースタインが作曲したミュージカル「オクラホマ!」からのナンバー。ここではアップテンポに料理されており、メンバー全員が軽やかにスイングする陽気なハードバップに仕上がっています。ラストの“Nardis”はマイルス・デイヴィスの作曲だそうですが、マイルス自身の録音はなく、まるでエヴァンスの代表曲のようになっています。本作のヴァージョンはその初演だそうですが、正直やや辛気臭いかな?他の楽曲とはテイストが違うのでやや浮いています。全体的に見るとやはりキャノンボールらしいファンキーな曲が多く、エヴァンスも時折キラリと光るソロを見せるものの、まだまだサイドマンの域は出ていませんね。あくまでキャノンボールの作品として聴くのが正解だと思います。
およそ2ヶ月ぶりのブログ更新です。最近は新譜の発売もあまりなく、ネタがあまりなかったのですが、先日東京に出張に行った際に渋谷のタワーレコードで輸入盤を何枚かゲットしてきたので、しばらくはその紹介です。まず、第1弾はウェス・モンゴメリーのリヴァーサイド盤「ムーヴィン・アロング」。かの名盤「インクレディブル・ジャズ・ギター」と同じ1960年に発売された作品ですが、彼のリヴァーサイド諸作品の中では扱いも地味でCDでもあまり出回っていません。理由はメンバーがマイナーなせいでしょうか?サム・ジョーンズ(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)と言うリヴァーサイドが誇るリズムセクションはともかくとして、他がジェイムズ・クレイ(フルート)とヴィクター・フェルドマン(ピアノ)と言うのがインパクトが弱いのかもしれません。
ただ、内容は悪くないですよ。冒頭タイトルトラックの自作曲“Movin' Along”は正直印象が弱いのですが、続くマイルス・デイヴィスの“Tune Up”、クリフォード・ブラウンの“Sandu”等お馴染みハードバップの名曲をウェスが代名詞のオクターブ奏法でスインギーに弾きこなしていきます。スタンダードも2曲あり、“I Don't Stand A Ghost Of A Chance With You”は美しいバラード。ウェスはバラードも得意ですよね。“Body And Soul”も最初はバラード風で始まりますが、途中から転調して急速調に。この曲ではクレイのフルートも大活躍します。“So Do It!”はモンゴメリー自作のファンキーチューンで、ここではクレイが1曲だけテナーを吹きますが、もともと彼はテナーマンとして有名ですので、ブリブリ楽しそうに吹いてます。ラストの“Says You”はサム・ジョーンズ作曲で、こちらはキャッチーなバップ・チューン。ウェスをはじめ、メンバー全員の切れ味鋭い演奏で締めくくります。ウェスの代表作として紹介されることはまずない作品ですが、普通に快適なハードバップ作品として楽しめるのではないでしょうか?