ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジョン・コルトレーン/コルトレーン・タイム

2025-02-02 07:28:22 | ジャズ(ハードバップ)

よくジャズは”一期一会の音楽"だと言われます。MJQ 等の一部の例外を除きロックバンドのような固定メンバーは持たず、セッションごとに色々なジャズマンが集まり、即席で音楽を作り上げて行く。それこそがジャズの大きな魅力ですよね。ただ、それでも何となく音楽的傾向と言うものがあり、スイング、ハードバップ、モード、フリー等々それぞれのスタイルに合わせて似たような傾向を持つミュージシャンが集まってレコーディングを行うことが多いです。

ただ、今日ご紹介する「コルトレーン・タイム」のように全く音楽的傾向がバラバラのメンバーが集まったセッションというのも存在します。まず、コルトレーンは後にモードジャズ、さらにはフリージャズ路線を歩みますが、録音時点の1958年10月ではまだ「ジャイアント・ステップス」発表以前でハードバップの範疇にギリギリとどまっていた頃。フロントラインを組むケニー・ドーハムは40年代から活躍するベテラントランぺッターで正統派のバップ路線。そして異色なのがピアノのセシル・テイラーで、この頃からフリージャズの旗手として前衛的な音を追求していました。そもそも本作は最初テイラーのリーダー作「ハード・ドライヴィング・ジャズ」として発売されたものを60年代になってコルトレーンのリーダー作として再発売されたものだそうです。他もチャック・イスラエルズはビル・エヴァンス「ムーンビームズ」「ハウ・マイ・ハート・シングス」等で知られる白人ベーシスト。ルイス・ヘイズはデトロイト出身のドラマーで数多くのハードバップセッションに参加していますが、中でもリヴァーサイドのキャノンボール・アダレイ・グループでの活動が有名です。メンバーだけ見ても一体どんなジャズが繰り広げられるのか想像がつきません。

実際のセッションはと言うと、一見バラバラなメンバーがセッションを通じてお互いを理解し合い、見事なハーモニーを生み出した、と言いたいところですが現実はそう美しい話ではなかったようです。英語版のWikipedia情報によると、テイラーはコルトレーンこそ歓迎したものの、トランペットにはより若くて前衛ジャズにも対応できるテッド・カーソンを希望していたそうです。一方、34歳で最年長のドーハムはテイラーのフリージャズなど全く理解できず、彼のピアノをただの不協和音と見なしていたとのこと。イスラエルズとヘイズもどちらかと言うとドーハム寄りで、テイラーの前衛ジャズには共感できなかったものの、とりあえず自分の仕事をすることに集中していたとか。コルトレーンの感想は特に載っていませんでしたが、この頃はハードバップを基本にしつつも、新たな音楽性を追求していた頃でしたので、実は1人だけこのセッションを楽しんでいたのかもしれません。

以上、スタイルもバラバラで、さらにお互いをリスペクトする心もなかったメンバー同士で良い音など生まれるはずがない、と言いたいところですが、これが意外と悪くないのがジャズの面白いところ。名盤とまでは言えませんが、これはこれでアリかも、と思えるぐらいの出来です。

1曲目”Shifting Down”はドーハムの曲で、後に「静かなるケニー」で”Blue Spring Shuffle”のタイトルで収録されている曲と同曲です。テイラーの不思議なピアノをバックにまずフロント2人がいかにもドーハムらしいマイナー調のテーマを演奏します。ソロ一番手はコルトレーンですが、テイラーの不協和音をバックに気持ち良さそうにブロウしています。やはり彼だけがこのセッションを楽しんでいたのかも。続くテイラーのソロはセロニアス・モンクのパーカッシヴなピアノをさらに突き詰めた感じですが、意外とすぐ終わります。ここからはドーハムで彼らしい少し陰のある、それでいて黒々としたファンキーなトランペットでたっぷりソロを取りますが、おそらく後ろで鳴るテイラーのピアノを「うるさい」と思っていたことでしょう。続いてイスラエルズが意外と野太いベースソロを聴かせ、再びテーマに戻って終わります。

2曲目”Just Friends”と3曲目”Like Someone In Love"はどちらも有名スタンダード。定番曲をこのメンバーがどう演奏するかが注目ですが、意外とまともです。テイラーは叩きつけるようなピアノでソロを取りますが、大枠のコード進行から逸脱するところまではいかず”激しめのモンク”ぐらいな感じでしょうか?ドーハム、コルトレーンはいつも通り快調にソロを取りますが、テイラーは個性的な音を出しながらもちゃんとバッキングをしています。ラストトラックはチャック・イスラエルズ作曲の”Double Clutching”。4曲の中では一番先鋭的な曲ですが、それでも基本はハードバップの範疇か?ドーハム、次いでコルトレーンと快調にソロを飛ばします。特にコルトレーンはノリノリですね。テイラーは本作中一番ソロの時間を与えられており、メロディなんてクソくらえと言った感じのピアノを弾きますが、それでも全体をぶち壊すところまではいきません。その後イスラエルズのベースソロ→全体のテーマ演奏で終わります。

私はフリージャズは門外漢ですので詳しくは知らないのですが、この後のテイラーはさらに前衛性を増し、60年代のフリージャズ・ムーヴメントの代表格の1人となります。試しにyoutubeで有名なブルーノート盤の「ユニット・ストラクチャーズ」を聴いてみましたが、最初から完全にぶっ飛んでますね。ただ、そうなると共演するミュージシャンも全員フリージャズ寄りの人達で固めていますので、音楽性の面では方向性が同じで調和が取れているとも言えます。その点、本作はバラバラな音楽性を持ったメンバーの共演がアンバランスで、ある意味それがスリリングで面白いと言えます。なお、ご承知のようにコルトレーンも60年代半ば以降はフリージャズの世界にどっぷりハマりますが、テイラーと共演する機会はついに巡って来ませんでした。ちなみにドーハムとテイラーの共演は当然ないですし、コルトレーンとドーハムの録音もありそうで意外となく、まさにジャズならではの”一期一会”を象徴するような1枚です。

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