ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

イントロデューシング・カール・パーキンス

2024-11-30 18:47:04 | ジャズ(ピアノ)

本日は50年代に活躍した黒人ピアニスト、カール・パーキンスをご紹介します。実は同じ時期に全く同じ名前のカール・パーキンスと言う白人ロックンローラーが”Blue Suede Shoes"と言う全米2位のヒット曲を放っているため、一般的な知名度ではそちらの方が高いかもしれませんが、ジャズファン的にはカール・パーキンスと言えばこちらの方ですよね。

とは言え、肝心のジャズファンの間でもそこまでメジャーとは言えないのが悲しいところ。理由は彼が西海岸を拠点に活動していたためでしょうね。共演歴は結構華やかで結成当初のブラウン=ローチ・クインテットにも参加(「イン・コンサート」参照)していますし、その後もチェット・ベイカーの「ピクチャー・オヴ・ヒース」、アート・ペッパー「ジ・アート・オヴ・ペッパー」をはじめ多くのウェストコースト名盤に顔を出しています。50年代の西海岸の黒人ピアニストの中ではハンプトン・ホーズが別格で、その次に来るのがソニー・クラークとこのパーキンスだったのではないでしょうか?ただ、クラークがその後東海岸に移り、ブルーノートで次々とリーダー作を発表したのに対し、パーキンスは西海岸で主にサイドマンとしての活動に留まりました。

今日取り上げる「イントロデューシング・カール・パーキンス」は彼が唯一残したリーダー作でドゥートーンと言うマイナーレーベルに1955年に吹き込んだ1枚です。このドゥートーンに関しては以前にデクスター・ゴードンカーティス・カウンスの作品を紹介しています。トリオ作品で共演はリロイ・ヴィネガー(ベース)とローレンス・マラブル(ドラム)。3人とも黒人で白人中心のウェストコーストジャズの屋台骨を支えた面々です。

全11曲、うち5曲が自身のオリジナル、後は歌モノやバップスタンダードです。自作曲はグルーブ感たっぷりの"Way Cross Town""Westside"、ブルースフィーリングが横溢する"Marblehead""Carl's Blues"等で黒っぽさが全面に出ています。普段は白人ジャズマンとの共演が多かった彼らが、黒人だけのトリオで思う存分にプレイしたのでしょうね。

一方、スタンダードでは”You Don’t Know What Love Is"”It Could Happen To You””Lilacs In The Rain”と言ったバラード曲ではカクテル調のロマンチックなピアノを披露しますし、”The Lady Is A Tramp””Woody’n You""Just Friends"での躍動感溢れるスインギーな演奏もお手の物。ウォーキングベスの名手リロイ・ヴィネガー、西海岸黒人ドラマーの代表格ローレンス・マラブルも堅実なサポートぶりで、充実したピアノトリオ作品となっています。これほど豊かな才能を誇ったパーキンスですが、1958年に29歳で短い生涯を閉じます。理由は麻薬の過剰摂取とされていますが、自動車事故説もあるようです。彼と西海岸で腕を競ったソニー・クラークもその後31歳で亡くなりますし(こちらも麻薬)、本当にこの時期のジャズマンには短命が多いですよね・・・

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ドン・フリードマン/サークル・ワルツ

2024-11-25 21:02:06 | ジャズ(ピアノ)

ジャズピアノには”エヴァンス派”と呼ばれる人達がいます。文字通りビル・エヴァンスに影響を受けたピアニスト達のことで、60年代以降に登場したピアニストの多くがそれに該当します。私がパッと思い浮かぶのはクレア・フィッシャーやデニー・ザイトリンですが、70年代以降のミシェル・ペトルチアーニやリッチー・バイラーク等もそう呼ばれていますね。ま、私は前から言っているように70年代以降のジャズはよく知らないので、彼らについて多く語ることはできないのですが・・・

今日ご紹介するドン・フリードマンもその1人で、特にこの「サークル・ワルツ」に至ってはエヴァンス派ピアノ・トリオの代表作、みたいな呼ばれ方をしています。ただ、その認識は少し誤解があるようです。確かに本作は透明感あふれるピアノトリオ作品でビル・エヴァンスを彷彿とさせる内容ですが、フリードマン自身のキャリアを見るとそうとも言えない。そもそもフリードマンは50年代中盤に西海岸で活動を始めており、エヴァンスとほぼ同時期のデビューですし、本作と前後して発表された「ア・デイ・イン・ザ・シティ」や「フラッシュバック」等の作品はフリーとまでは行きませんがかなり実験的な内容です。サイドマンとしてもブッカー・リトルの「アウト・フロント」にも参加していますし、本来はエヴァンスとは系統の違うスタイルと言って良いでしょう。

ただ、1962年5月録音の本作ではそうした実験的要素はあまり前面に出て来ず、リリカルで耽美的なピアノトリオが存分に味わえます。レーベルもリヴァーサイド、ベーシストにもエヴァンス・トリオでも活躍するチャック・イスラエルズを起用していますので、エヴァンス派にカテゴライズされても致し方なしと言う気もします。なお、ドラムには主にブルーノートで活躍するピート・ラロカが起用されています。

全7曲。うち4曲がフリードマンのオリジナル、残り3曲がスタンダードと言う構成ですが、どちらかと言うとオリジナル曲の方が良いですね。特に冒頭のタイトル曲"Circle Waltz"はリリカルで美しい旋律を持った名曲で、クリアーで研ぎ澄まされた音世界はまさにエヴァンスの「エクスプロレイションズ」を思い起こさせます。続く”Sea's Breeze"はアップテンポのモーダルな曲調でなかなか良いですし、何よりバラードの”Loves Parting"が素晴らしい。エヴァンスの"My Foolish Heart"に少し似たリリカルで美しい名曲です。ラストトラックの”Modes Pivoting"は曲名通りのモードジャズでこちらはちょっとエヴァンスにはない曲風かも?

スタンダードは”I Hear A Rhapsody"と”So In Love”がいわゆる歌モノ。前者はドライブ感たっぷりのトリオ演奏、後者はベースとドラム抜きのアグレッシブなソロ演奏で料理されています。一方、デイヴ・ブルーベックの”In Your Own Sweet Way"はスローテンポでややミステリアスな曲調にアレンジされています。以上、ところどころフリードマンならではの個性も垣間見えますが、全体的にはエヴァンス色が濃厚な知性派白人ピアノトリオの傑作です。

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ジュニア・マンス・トリオ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード

2024-10-03 18:32:47 | ジャズ(ピアノ)

ニューヨークの名門ジャズクラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードについては以前にビル・エヴァンス「カリフォルニア・ヒア・アイ・カム」で自身の思い出とともに取り上げました。今もマンハッタンに現存する同クラブでは他にもエヴァンスの「ワルツ・フォー・デビ―」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」が収録されていますし、それ以外にもソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、ケニー・バレル、キャノンボール・アダレイサド=メル楽団、グレイト・ジャズ・トリオなど数多くのジャズ・ジャイアンツ達がライブ録音を残しています。日本人ピアニストの大西順子のライブ盤もありましたね。

今日ご紹介するのはシカゴ出身のピアニスト、ジュニア・マンスが1961年2月22日から23日にかけて同クラブで行ったライブを録音したものです。マンスはジャイアント、とまでは呼べないかもしれませんが、50~60年代のジャズシーンに確かな足跡を残した人で、ダイナ・ワシントンの歌伴、エマーシー時代のキャノンボール・アダレイ・クインテットのピアニストを務めた後、この頃はジョニー・グリフィン&エディ・ロックジョー・デイヴィスの双頭コンボで活躍していました。前年の1960年におそらくグリフィンつながりでリヴァーサイドと契約し、同レーベル及び傍系のジャズランドに6枚のリーダー作を残しており、本作もそのうちの1枚です。メンバーはラリー・ゲイルズ(ベース)とベン・ライリー(ドラム)。2人ともグリフィン&ロックジョーの作品群にマンスとともに参加しており、おそらくこの頃は常に一緒にプレイしていたものと思われます。

アルバムはまずマンスのオリジナル曲”Looptown"で幕を開けます。Loopとはシカゴ市内を走る環状電車の愛称でおそらく古巣シカゴを想って書いたのでしょう。オープニングを飾るにふさわしい迫力満点のファンキーチューンで、のっけから息もつかせぬ勢いでマンスが弾きまくります。後半のベン・ライリーのドラムソロとの掛け合いも見事です。続く”Letter From Home"もマンス作のややゴスペルチックな曲でマンスが右手と左手で一人コール & レスポンスを披露します。3曲目”Girl Of My Dreams"はスイング時代のサニー・クラップと言う人が書いたスタンダード曲で、楽しく軽やかなトリオ演奏です。

4曲目”63rd Street Theme"はシカゴ時代からの盟友であるジョニー・グリフィン作で「リトル・ジャイアント」に収録されていた曲。静かに燃え上がるような演奏ですが、その分前の3曲に比べて客席のおしゃべり(演奏聴いてないやん!)やおそらくマンスが発しているであろうウ~と言う唸り声が若干気になります。続く”Smokey Blues"もマンスが唸りながらブルースを演奏しますが、4分~5分あたりに見せる怒涛のピアノ連弾が鳥肌モノの凄さです。

後半にかけてはややリラックスしたムードで、まずはベイシー楽団のレパートリー"9:20 Special"をスインギーに演奏します。7曲目”Bingo Domingo"はエディ・ロックジョー・デイヴィス作でマンスも参加したグリフィン&ロックジョーの「ザ・テナー・シーン」収録の陽気な曲。この曲では、ラリー・ゲイルズのベースが大々的にフィーチャーされます。ラストは本作中唯一のバラードであるロジャース&ハートの”You Are Too Beautiful"。ブルースやファンキーチューンがメインの本作ですが、マンスはバラードの上手さも抜群で、最後はロマンチックなピアノトリオで締めてくれます。

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レイ・ブライアント・トリオ

2024-09-30 21:02:42 | ジャズ(ピアノ)

前回がドン・バグリーと言うマニアックな選択だったので、今回はド定番でレイ・ブライアントのプレスティッジ盤を取り上げたいと思います。先日ご紹介したシグナチャー盤「レイ・ブライアント・プレイズ」と並んで、彼の代表作に挙げられる1枚です。マイルス・デイヴィスやソニー・ロリンズとの共演を経て、カーメン・マクレエの歌伴を務めていたブライアントが当時のレギュラーメンバーであるアイク・アイザックス(ベース)とスペックス・ライト(ドラム)と組んだもので、ジャズ名盤特集にも必ずと言って良いほど取り上げられる有名盤です。

さて、名盤特集でこのアルバムを解説する時に必ず取り上げられるのが1曲目の”Golden Earings"。レイ・ブライアントと言えばこの曲!とされるぐらいの定番曲ですね。原曲はサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」と言うヴァイオリン曲(以前に当ブログでも紹介しました)ですが、その後にヴィクター・ヤングが映画音楽用に編曲したそうです。特に日本のジャズファンの間で人気が高いようですが、やや歌謡曲っぽい旋律が受けたのでしょうね。ただ、個人的には続くマット・デニス作”Angel Eyes"やチェット・ベイカーも歌ったアンニュイな”The Thrill Is Gone”同様にメロディがベタ過ぎてそこまで好きではありません。

私としてはむしろブライアントの自作曲を含めたジャズオリジナルの方を推したいと思います。特に自作の2曲が素晴らしく、まずは3曲目の”Blues Changes"。ブライアントも参加した「マイルス・デイヴィス & ミルト・ジャクソン」に収録されていた”Changes"と同じ曲で実にリリカルな名曲です。続くアップテンポの”Splittin'"は個人的に本作中最もお気に入りの曲で、いかにもブライアントらしいファンキーなピアノソロが堪能できます。この曲は同じ年にジジ・グライス&ドナルド・バードのジャズ・ラブにもカバーされています。残りは他のジャズメンの曲で、"Django"はMJQ「ジャンゴ」、”Daahoud"は「クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ」、”Sonar”はケニー・クラーク「テレフンケン・ブルース」にそれぞれ収録されていた曲のカバーですが、中では”Sonar”が出色の出来です。

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クロード・ウィリアムソン/ラウンド・ミッドナイト

2024-09-19 18:46:34 | ジャズ(ピアノ)

本日はクロード・ウィリアムソンをご紹介します。キャリア自体は非常に長く、2000年代になっても作品を発表するなど大変長寿だったようですが、ジャズファンに親しまれているのは50年代のウェストコースト時代の作品群ですね。特にアルトのバド・シャンクとは関係が深く、有名な「バド・シャンク・カルテット」はじめこの時期ほとんどの作品で共演しています。トランぺッターのステュ・ウィリアムソンのお兄さんでもあります。

さて、クロード・ウィリアムソンは”白いバド・パウエル”の異名を持つほどのバリバリのパウエル派らしいのですが、上記のバド・シャンク作品やアート・ペッパー、バーニー・ケッセルの作品でのプレイを聴いても正直ピンときませんでした。ただ、この人は自身のリーダー作となると人が変わるんですよね。以前にご紹介したベツレヘム盤「クロード・ウィリアムソン・トリオ」でも、オリジナルの"June Bug"等でファンキーなタッチを聴かせますし、同じ年(1956年12月)に発表された本作も同様で、お洒落なピアノトリオ的な先入観をぶっ飛ばすド迫力の演奏です。共演するのはレッド・ミッチェル(ベース)とメル・ルイス(ドラム)。いずれも西海岸を代表する名手ですね。

全12曲、ほとんどが歌モノスタンダードですが、ジャズ・オリジナルが2曲あり、1つがタイトルにもなっているセロニアス・モンクの”’Round Midnight"です。こちらはウィリアムソンの無伴奏ソロですが、正直そんなにインパクトはないですね。むしろ推したいのはホレス・シルヴァー作の”Hippy"です。名盤「ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」に収録されていた必殺のファンキーチューンで、ウィリアムソン含めトリオのノリノリの演奏が楽しめます。

スタンダード曲の方は意外とバラードが少なめで”I'll Know”と”Pola Dots And Moonbeams"ぐらいでしょうか?後はほぼアップテンポの演奏でオープニングの”Stella By Starlight"から始まり”Somebody Loves Me"”The Surrey With The Fringe On Top"”Just One Of Those Things""The Song Is You"とお馴染みのスタンダード曲を躍動感たっぷりの演奏で料理していきます。中でも圧巻なのが”Tea For Two"で、通常はバラードで演奏されるこの定番スタンダードを凄まじい速弾きで弾き切ります。その圧倒的なテクニックはまさに”白いパウエル”の名にふさわしいですね。負けじとついていくレッド・ミッチェル&メル・ルイスのリズム隊もさすがの一言です。ウエストコースト風の軽い演奏というイメージを良い意味で裏切ってくれるピアノトリオの傑作です。

 

 

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