ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

マッコイ・タイナー/バラードとブルースの夜

2025-02-25 19:33:31 | ジャズ(ピアノ)

本日はマッコイ・タイナーです。マッコイと言えば切っても切り離せないのがジョン・コルトレーンとの関係。1960年10月21日の「コルトレーン・ジャズ」で初共演を果たして以降、コルトレーン・カルテットの不動のピアニストとしてドラムのエルヴィン・ジョーンズとともにアトランティック、ついでインパルス・レコードにジャズ史に残る数々の名盤を残します。その一方でマッコイはソロ活動も並行して行い、インパルスに数々のリーダー作を吹き込みます。今日取り上げる「バラードとブルースの夜」は1963年3月4日に吹き込まれたトリオ作品で、「リーチング・フォース」と並んでこの頃の代表作の1つです。

内容はタイトル通りスタンダードのバラードとブルース(と言うよりバップナンバー?)を集めたもので非常に聴きやすい作品です。当時のコルトレーン・カルテットはモードジャズの最先端を行く革新的なジャズを切り開いていましたが、本作にはあまりそのような雰囲気はありません。カルテットで聴かれるような飛翔するピアノソロやスピリチュアルなバラードプレイはここでは控え目で、全編リラックスしたムードが漂っています。この後、フリージャズに傾倒して行くコルトレーンとマッコイは段々合わなくなり、2年後の1965年には袂を分かつことになりますが、本作でのマッコイのプレイを聞けばそれも分かるような気がします。メンバーはベースがスティーヴ・デイヴィス。マッコイとは「マイ・フェイヴァリット・シングス」等アトランティック時代のコルトレーン作品で共演していました。ドラムはレックス・ハンフリーズです。

全8曲。歌モノスタンダードが4曲、デューク・エリントンとセロニアス・モンクのカバーが3曲、自作曲が1曲と言う構成です。スタンダードは”We'll Be Together Again""For Heaven's Sake""Star Eyes"と言った定番の歌モノに、前年にヘンリー・マンシーニが作曲した映画主題歌”Days Of Wine And Roses"です。どれも超正統派のピアノトリオで、マッコイのロマンチックな玉転がしタッチのピアノが存分に堪能できます。あえて言うなら"Star Eyes"でやや飛翔感が感じられますが、それ以外は普通と言えば普通過ぎるぐらいの演奏です。

個人的おススメはエリントン・ナンバーの”Satin Doll"。マッコイとエリントンは演奏スタイルは全然似ていないような気がしますが、マッコイは翌1964年に「マッコイ・タイナー・プレイズ・デューク・エリントン」と言う全曲エリントン・ナンバーのアルバムを発表するぐらいエリントンを敬愛していたようです。特にこの"Satin Doll”はそこでも再演していますのでよほど好きだったんでしょうね。他にセロニアス・モンクを2曲(”’Round Midnight"”Blue Monk")取り上げているのも意外ですね。モンクの独特の打楽器的なピアノ演奏とマッコイの流れるようなタッチのピアノもあまり共通点はないような気もしますが、モンクもバド・パウエルと共にマッコイに大きな影響を与えたピアニストだそうです。いずれの曲もオリジナルとは全く異なるアプローチでマッコイが料理します。1曲だけオリジナル曲の”Groove Waltz"は名前のとおりグルーヴィなワルツですが、こちらは可もなく不可もなくといったところか?以上、個人的にはやはりコルトレーンと演奏している時のアグレッシブなマッコイの方が好きですが、彼の正統派ピアニストとしての側面が見れる作品として悪くはないんじゃないでしょうか。

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レッド・ガーランド/ソーラー

2024-12-15 18:12:04 | ジャズ(ピアノ)

本日はレッド・ガーランドです。先日ご紹介した「レッズ・グッド・グルーヴ」でも述べたように、60年代に入ってからのガーランドはモードジャズやフリージャズの潮流には全く乗れず、徐々に活動を縮小していきます。この頃のガーランドはリヴァーサイド傍系のジャズランドに目立たない作品を何枚か残していますが、今日取り上げる「ソーラー」もそのうちの1枚で1962年1月30日の録音。上述の「レッズ・グッド・グルーヴ」の2カ月前の作品ですね。

メンバーはサム・ジョーンズ(ベース)、フランク・ガント(ドラム)から成るトリオにギターのレス・スパンが加わっています。このレス・スパンは1932年生まれと比較的若い世代ですが、共演歴を見てみるとデューク・エリントンやジョニー・ホッジス、ディジー・ガレスピーはじめ比較的上の世代のジャズマンが多く、スタイル的にもややオールドスタイルな感じです。ガーランドクラスならケニー・バレル等もっと大物のギタリストを呼ぶこともできたでしょうが、あえてスパンを起用したのは狙いがあるのでしょう。なお、スパンはギターだけでなくフルートも吹く変わり種で実際本作でも2曲でフルートを演奏しています。

全8曲。ガーランドのオリジナルが2曲で、後はスタンダードです。1曲目はウィル・ハドソンと言うあまり知らない人が書いた”Sophisticated Swing”というスイング時代の曲。いきなりブロックコードで弾き始めるあたりがガーランドならでは、と言う感じですが演奏自体はリラックスした雰囲気で、基本的に作品全体の基調となっています。スパンのギターソロもあまり自己主張し過ぎない感じでしょうか?続く”Solar”は本作のタイトルトラックでかつてのボスだったマイルスの曲ですが、こちらも同じような曲調ですね。"Where Are You?”はバラードでレス・スパンがギターではなくフルートを吹いています。6曲目の”The Very Thought Of You”も同じくバラードとフルートと言う組み合わせですが、個人的にはやや眠たくなる感じです。

4曲目”Marie’s Delight"はガーランドが妻に捧げたオリジナル、となっていますがどこかで聴いたことがある曲。パーカーの”Dexterity”に少し似てますかね。この曲と続くロジャース&ハートの”This Can’t Be Love"、もう1曲のオリジナル”Blues For News”はアップテンポの曲でガーランドのノリノリのピアノが堪能できます。スパンもギターでバックにソロにと盛り立てますが、やはりそこまで前面に出る感じはないですね。テクニック的には十分上手いと思うのですが、印象に残るフレーズがないというか。でも、ガーランドとしてはそこがスパンを起用した意図で、あくまで主役の自分を邪魔しない人を起用したのでしょう。ラストの”I Just Can’t See For Lookin’”はナット・キング・コールのカバーらしいですが、再びリラックスしたムードの曲で締めます。ガーランドの諸作品の中ではとりわけ名盤という訳ではないですが、聴いて損はない1枚と思います。

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ビル・エヴァンス/ハウ・マイ・ハート・シングス

2024-12-11 21:05:12 | ジャズ(ピアノ)

ビル・エヴァンスはリヴァーサイド・レコードに合計10枚の作品を残しましたが、その中でも名盤の誉れが高いのがスコット・ラファロ(ベース)、ポール・モティアン(ドラム)と組んだ「ポートレイト・イン・ジャズ」「エクスプロレーションズ」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」「ワルツ・フォー・デビー」の4作品で、ジャズファンからは"リヴァーサイド4部作"と称され昔から愛されています。中でも「ワルツ・フォー・デビー」はジャズ史上に燦然と輝く傑作ですが、そのライヴが行われたのが1961年6月25日。そのわずか11日後にスコット・ラファロは交通事故で死んでしまいます。享年25。この悲劇にエヴァンスはかなりショックを受けたようで、その後しばらくは演奏活動をストップしてしまいます。

翌1962年5月にようやく傷の癒えたエヴァンスが初めて吹き込んだピアノトリオ作品が今日ご紹介する「ハウ・マイ・ハート・シングス」です。ラファロの後任として迎えられたのはチャック・イスラエルズ。この時点で既にコルトレーンやエリック・ドルフィーとも共演歴のあった実力派です。なお、ドラムはポール・モティアンが引き続き務めています。セッションは翌6月まで4回に分けて合計16曲が収録され、本作ともう1枚「ムーンビームス」が発売されています。どちらかと言うと「ムーンビームス」はスタンダード中心、本作はオリジナル曲多めです。

アルバムはアール・ジンダース作の美しいタイトルトラック”How My Heart Sings"で幕を開けます。このジンダースと言う人はエヴァンス御用達の作曲家と言って良く、他にも「エクスプロレーションズ」の"Elsa"、「フロム・レフト・トゥ・ライト」の"Soiree"、「アイ・ウィル・セイ・グッバイ」の"Quiet Light"等を作曲しています。どれも非常に魅力的な楽曲ばかりだと思うのですが他ではあまり名前を目にすることはないですね。不思議ですが、まあエヴァンスが演奏すればどんな曲でも美しく聴こえるので、その効果もあるのかも?

それ以外はエヴァンスのオリジナルが3曲。”Walking Up"はアップテンポで出だしがコルトレーンの"Giant Steps"に似ています。"34 Skidoo"はタイトルが意味不明ですが、昔アメリカで流行った魔法陣ゲームの名前らしいです。ややとっつきにくい曲ですが、エヴァンス自身は気に入っていたのかその後ライブでたびたび取り上げています。"Show-Type Tune"はアルバムのラストを飾る軽やかでスインギーな曲です。

スタンダードは歌モノの””I Should Care"”Summertime"、デイヴ・ブルーベックの”In Your Own Sweet Way"と言った定番曲が収録されていますが、どの曲も彼ならではの"崩し"が入っており、他とは違うエヴァンス風の演奏に仕上がっています。特に"Summertime"は途中で一体何の曲を演奏しているのかわからなくなるくらい大胆にアレンジされていますね。一方、コール・ポーターの”Ev'rything I Love”は原曲の美しいメロディを活かしたロマンチックな演奏で個人的にはおススメです。ぶっちゃけエヴァンスのリヴァーサイドの傑作群の中では一番地味な作品で取り上げられることも少ないですが、それでも十分クオリティは高いと思います。

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イントロデューシング・カール・パーキンス

2024-11-30 18:47:04 | ジャズ(ピアノ)

本日は50年代に活躍した黒人ピアニスト、カール・パーキンスをご紹介します。実は同じ時期に全く同じ名前のカール・パーキンスと言う白人ロックンローラーが”Blue Suede Shoes"と言う全米2位のヒット曲を放っているため、一般的な知名度ではそちらの方が高いかもしれませんが、ジャズファン的にはカール・パーキンスと言えばこちらの方ですよね。

とは言え、肝心のジャズファンの間でもそこまでメジャーとは言えないのが悲しいところ。理由は彼が西海岸を拠点に活動していたためでしょうね。共演歴は結構華やかで結成当初のブラウン=ローチ・クインテットにも参加(「イン・コンサート」参照)していますし、その後もチェット・ベイカーの「ピクチャー・オヴ・ヒース」、アート・ペッパー「ジ・アート・オヴ・ペッパー」をはじめ多くのウェストコースト名盤に顔を出しています。50年代の西海岸の黒人ピアニストの中ではハンプトン・ホーズが別格で、その次に来るのがソニー・クラークとこのパーキンスだったのではないでしょうか?ただ、クラークがその後東海岸に移り、ブルーノートで次々とリーダー作を発表したのに対し、パーキンスは西海岸で主にサイドマンとしての活動に留まりました。

今日取り上げる「イントロデューシング・カール・パーキンス」は彼が唯一残したリーダー作でドゥートーンと言うマイナーレーベルに1955年に吹き込んだ1枚です。このドゥートーンに関しては以前にデクスター・ゴードンカーティス・カウンスの作品を紹介しています。トリオ作品で共演はリロイ・ヴィネガー(ベース)とローレンス・マラブル(ドラム)。3人とも黒人で白人中心のウェストコーストジャズの屋台骨を支えた面々です。

全11曲、うち5曲が自身のオリジナル、後は歌モノやバップスタンダードです。自作曲はグルーブ感たっぷりの"Way Cross Town""Westside"、ブルースフィーリングが横溢する"Marblehead""Carl's Blues"等で黒っぽさが全面に出ています。普段は白人ジャズマンとの共演が多かった彼らが、黒人だけのトリオで思う存分にプレイしたのでしょうね。

一方、スタンダードでは”You Don’t Know What Love Is"”It Could Happen To You””Lilacs In The Rain”と言ったバラード曲ではカクテル調のロマンチックなピアノを披露しますし、”The Lady Is A Tramp””Woody’n You""Just Friends"での躍動感溢れるスインギーな演奏もお手の物。ウォーキングベスの名手リロイ・ヴィネガー、西海岸黒人ドラマーの代表格ローレンス・マラブルも堅実なサポートぶりで、充実したピアノトリオ作品となっています。これほど豊かな才能を誇ったパーキンスですが、1958年に29歳で短い生涯を閉じます。理由は麻薬の過剰摂取とされていますが、自動車事故説もあるようです。彼と西海岸で腕を競ったソニー・クラークもその後31歳で亡くなりますし(こちらも麻薬)、本当にこの時期のジャズマンには短命が多いですよね・・・

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ドン・フリードマン/サークル・ワルツ

2024-11-25 21:02:06 | ジャズ(ピアノ)

ジャズピアノには”エヴァンス派”と呼ばれる人達がいます。文字通りビル・エヴァンスに影響を受けたピアニスト達のことで、60年代以降に登場したピアニストの多くがそれに該当します。私がパッと思い浮かぶのはクレア・フィッシャーやデニー・ザイトリンですが、70年代以降のミシェル・ペトルチアーニやリッチー・バイラーク等もそう呼ばれていますね。ま、私は前から言っているように70年代以降のジャズはよく知らないので、彼らについて多く語ることはできないのですが・・・

今日ご紹介するドン・フリードマンもその1人で、特にこの「サークル・ワルツ」に至ってはエヴァンス派ピアノ・トリオの代表作、みたいな呼ばれ方をしています。ただ、その認識は少し誤解があるようです。確かに本作は透明感あふれるピアノトリオ作品でビル・エヴァンスを彷彿とさせる内容ですが、フリードマン自身のキャリアを見るとそうとも言えない。そもそもフリードマンは50年代中盤に西海岸で活動を始めており、エヴァンスとほぼ同時期のデビューですし、本作と前後して発表された「ア・デイ・イン・ザ・シティ」や「フラッシュバック」等の作品はフリーとまでは行きませんがかなり実験的な内容です。サイドマンとしてもブッカー・リトルの「アウト・フロント」にも参加していますし、本来はエヴァンスとは系統の違うスタイルと言って良いでしょう。

ただ、1962年5月録音の本作ではそうした実験的要素はあまり前面に出て来ず、リリカルで耽美的なピアノトリオが存分に味わえます。レーベルもリヴァーサイド、ベーシストにもエヴァンス・トリオでも活躍するチャック・イスラエルズを起用していますので、エヴァンス派にカテゴライズされても致し方なしと言う気もします。なお、ドラムには主にブルーノートで活躍するピート・ラロカが起用されています。

全7曲。うち4曲がフリードマンのオリジナル、残り3曲がスタンダードと言う構成ですが、どちらかと言うとオリジナル曲の方が良いですね。特に冒頭のタイトル曲"Circle Waltz"はリリカルで美しい旋律を持った名曲で、クリアーで研ぎ澄まされた音世界はまさにエヴァンスの「エクスプロレイションズ」を思い起こさせます。続く”Sea's Breeze"はアップテンポのモーダルな曲調でなかなか良いですし、何よりバラードの”Loves Parting"が素晴らしい。エヴァンスの"My Foolish Heart"に少し似たリリカルで美しい名曲です。ラストトラックの”Modes Pivoting"は曲名通りのモードジャズでこちらはちょっとエヴァンスにはない曲風かも?

スタンダードは”I Hear A Rhapsody"と”So In Love”がいわゆる歌モノ。前者はドライブ感たっぷりのトリオ演奏、後者はベースとドラム抜きのアグレッシブなソロ演奏で料理されています。一方、デイヴ・ブルーベックの”In Your Own Sweet Way"はスローテンポでややミステリアスな曲調にアレンジされています。以上、ところどころフリードマンならではの個性も垣間見えますが、全体的にはエヴァンス色が濃厚な知性派白人ピアノトリオの傑作です。

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