本日はマッコイ・タイナーです。マッコイと言えば切っても切り離せないのがジョン・コルトレーンとの関係。1960年10月21日の「コルトレーン・ジャズ」で初共演を果たして以降、コルトレーン・カルテットの不動のピアニストとしてドラムのエルヴィン・ジョーンズとともにアトランティック、ついでインパルス・レコードにジャズ史に残る数々の名盤を残します。その一方でマッコイはソロ活動も並行して行い、インパルスに数々のリーダー作を吹き込みます。今日取り上げる「バラードとブルースの夜」は1963年3月4日に吹き込まれたトリオ作品で、「リーチング・フォース」と並んでこの頃の代表作の1つです。
内容はタイトル通りスタンダードのバラードとブルース(と言うよりバップナンバー?)を集めたもので非常に聴きやすい作品です。当時のコルトレーン・カルテットはモードジャズの最先端を行く革新的なジャズを切り開いていましたが、本作にはあまりそのような雰囲気はありません。カルテットで聴かれるような飛翔するピアノソロやスピリチュアルなバラードプレイはここでは控え目で、全編リラックスしたムードが漂っています。この後、フリージャズに傾倒して行くコルトレーンとマッコイは段々合わなくなり、2年後の1965年には袂を分かつことになりますが、本作でのマッコイのプレイを聞けばそれも分かるような気がします。メンバーはベースがスティーヴ・デイヴィス。マッコイとは「マイ・フェイヴァリット・シングス」等アトランティック時代のコルトレーン作品で共演していました。ドラムはレックス・ハンフリーズです。
全8曲。歌モノスタンダードが4曲、デューク・エリントンとセロニアス・モンクのカバーが3曲、自作曲が1曲と言う構成です。スタンダードは”We'll Be Together Again""For Heaven's Sake""Star Eyes"と言った定番の歌モノに、前年にヘンリー・マンシーニが作曲した映画主題歌”Days Of Wine And Roses"です。どれも超正統派のピアノトリオで、マッコイのロマンチックな玉転がしタッチのピアノが存分に堪能できます。あえて言うなら"Star Eyes"でやや飛翔感が感じられますが、それ以外は普通と言えば普通過ぎるぐらいの演奏です。
個人的おススメはエリントン・ナンバーの”Satin Doll"。マッコイとエリントンは演奏スタイルは全然似ていないような気がしますが、マッコイは翌1964年に「マッコイ・タイナー・プレイズ・デューク・エリントン」と言う全曲エリントン・ナンバーのアルバムを発表するぐらいエリントンを敬愛していたようです。特にこの"Satin Doll”はそこでも再演していますのでよほど好きだったんでしょうね。他にセロニアス・モンクを2曲(”’Round Midnight"”Blue Monk")取り上げているのも意外ですね。モンクの独特の打楽器的なピアノ演奏とマッコイの流れるようなタッチのピアノもあまり共通点はないような気もしますが、モンクもバド・パウエルと共にマッコイに大きな影響を与えたピアニストだそうです。いずれの曲もオリジナルとは全く異なるアプローチでマッコイが料理します。1曲だけオリジナル曲の”Groove Waltz"は名前のとおりグルーヴィなワルツですが、こちらは可もなく不可もなくといったところか?以上、個人的にはやはりコルトレーンと演奏している時のアグレッシブなマッコイの方が好きですが、彼の正統派ピアニストとしての側面が見れる作品として悪くはないんじゃないでしょうか。