ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

コールマン・ホーキンス/ジェリコの戦い

2025-03-16 18:24:52 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はコールマン・ホーキンスです。ホーキンスについては本ブログでもたびたび取り上げていますが、1920年代から活躍する大ベテランで"モダンジャズ・テナーの父”とも呼ばれています。最も影響力がある存在だったのはおそらく30年代後半頃だと思いますが、彼の場合はビバップ期以降も活動ペースが落ちることなく、若い世代のジャズマンを起用して50~60年代も大量の作品を残しています。ディスコグラフィーをあらためて見ましたが、1950年代後半から60年代前半の10年間で何と30枚超!既にホーキンス自身が50歳を超えていたことを考えるとかなりのハイペースだったことがわかります。

さて、ホーキンスが共演した多くのジャズマンの中で最も信頼を得ていたのがトミー・フラナガン。最初の共演はおそらく1958年の「ビーン&バグス」だと思いますが、1960年代前半はほぼ固定メンバーのような形で10枚以上のアルバムに顔を出しています。フラナガンだけでなくベースのメジャー・ホリー、ドラムのエディ・ロックもセットで起用されることが多く、少し前に紹介したインパルス盤「トゥデイ・アンド・ナウ」も全く同じメンバーです。

今日ご紹介するアルバムは日本版では収録曲にちなんで「ジェリコの戦い」と名付けられていますが、原題はHawkins!Alive!At The Villa Gateで、ニューヨークの名門ジャズクラブ、ヴィレッジ・ゲートで1962年8月13日に行われたライブをヴァーヴ・レコードが収録したものです。同クラブは他にホレス・シルヴァー「ドゥーイン・ザ・シング」やレス・マッキャン、ハービー・マンのライブ盤でも有名ですね。

収録曲は4曲しかありませんが、ライブと言うこともあり全て8~10分の演奏で、聴き応え十分です。オープニングはジェローム・カーンの”All The Things You Are"。定番中の定番スタンダードですが、ホーキンスは貫禄たっぷりのどっしりとしたテナーを聴かせます。ホーキンスは上述のとおりバップ世代のミュージシャンと積極的に交流を図っていますが、演奏スタイルまで完全に若者に合わせているわけではなく、基本は中間派風のややオールドスタイルな演奏です。続くフラナガンはいかにも彼ならではの軽やかでエレガントなタッチでたっぷりとソロを取ります。ブログで何度も言っていますがフラナガンは私の最も好きなピアニストです。2曲目は邦題にもなっている”Joshua Fit The Battle Of Jericho(ジェリコの戦い)”。旧約聖書の中に出てくるモーセの後継者ヨシュアのお話を歌にしたもので、19世紀頃から歌い継がれている黒人霊歌です。youtubeで検索すると伝説的ゴスペルシンガー、マへリア・ジャクソンの歌唱バージョンが出てきますが、聴いてみてください。凄いですよ。本作のバージョンもホーキンスがソウルフルでワイルドなテナーを聴かせ、フラナガンもいつになく黒っぽく迫りますが、注目はメジャー・ホリーのベース。ここでの彼はアルコでソロを取りながら同じメロディを口ずさむいわゆるハミング・ベースを聴かせてくれます。「トゥデイ・アンド・ナウ」でも披露していましたが、モダンジャズでも彼とライオネル・ハンプトン楽団のスラム・スチュワートぐらいしか使い手がいない珍しい技です。(他にもいたら教えてください)

3曲目は”Mack The Knife”。テナーだとニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」が有名ですが、ホーキンスもややオールドスタイルながら貫禄たっぷりの演奏です。続いてフラナガンがモダンでシャープなピアノソロを取り、メジャー・ホリーがここではハミングしない普通のベースソロを弾きます。4曲目は”It’s The Talk Of The Town(街の噂)"。ジェリー・リヴィングストンという人が書いた30年代の名曲です。バラードの名手ホーキンスがダンディズム溢れるテナーソロを聴かせ、フラナガンもロマンチックなピアノソロで続きます。その後、メジャー・ホリーが再びハミング・ベースを披露するのですが、実はこれが一番原曲のメロディに近かったりします。最後はホーキンスが見事なテナーソロで締めくくり。なお、CDにはボーナストラックでホーキンスの代表曲”Bean And The Boys”とスタンダードの”If I Had You”も収録されており、どちらもなかなかの好演です。後者のバラードではホリーのハミングベースも聴けます。

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ベン・ウェブスター/ソウルヴィル

2025-02-13 19:21:49 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はジャズテナーの大御所、ベン・ウェブスターをご紹介します。1909年生まれの大ベテランで1930年代のスイング時代からデューク・エリントン楽団を始め数々のビッグバンドで活躍し、1950年代には主にノーマン・グランツのヴァーヴ・レコードに多くの録音を残しています。1960年代以降はヨーロッパに渡り、1973年に脳卒中で急死する直前まで活発に演奏活動を行っていました。彼と同世代のジャズミュージシャン、たとえばレスター・ヤング、ロイ・エルドリッジ、テディ・ウィルソン、ライオネル・ハンプトンらは50年代以降はどうしてもハードバップ世代に押され、活動が目立たなくなって行きますが、このベン・ウェブスターとコールマン・ホーキンスの2人は若いバップ世代のジャズマン達とも積極的に共演し、第一線で活躍し続けました。本ブログでも過去にジョー・ザヴィヌルと共演したリヴァーサイド盤を取り上げています。

今日ご紹介する「ソウルヴィル」は1957年10月にヴァーヴに吹き込まれた作品で、50年代のウェブスター作品の中でも代表作に挙げられる1枚です。メンバーはヴァーヴが誇る最強リズムセクションであるオスカー・ピーターソン・トリオ、すなわちオスカー・ピーターソン(ピアノ)、ハーブ・エリス(ギター)、レイ・ブラウン(ベース)に西海岸を代表するドラマーであるスタン・リーヴィが加わる布陣です。それにしてもこのジャケット、圧がすごいですよね。"獣"を意味する"The Brute"のニックネームで呼ばれたウェブスターのコワモテの顔がドーンと写ったシンプルきわまりないデザイン。まるで「俺様がベン・ウェブスターだ!」とでも言わんばかりです。

アルバムはまずウェブスター自作のタイトルトラック"Soulville"で始まります。文字通りソウルフルなブルースで、ハーブ・エリスのギターのイントロに続き、ウェブスターが貫録たっぷりのテナーソロを聴かせます。スローテンポの曲を太い音色のテナーで一音ずつ語りかけるようにじっくり歌い上げていく様は彼ならではのワン&オンリーの世界ですね。コルトレーンの”シーツ・オヴ・サウンド”とは対極に位置するようなスタイルですが、これはこれでイイ!2曲目もオリジナル曲の”Late Date"。こちらもブルースですが、ややテンポアップしており、ここでは随所でうなりを上げるような豪快なブロウを聴かせてくれます。とは言え、いわゆる”ホンカー”と呼ばれる人達とは違い、吹き過ぎで野暮ったくなるところまでは行かないですね。ピーターソンとハーブ・エリスのソロも良いアクセントになっています。

3曲目から7曲目までは全て有名スタンダード曲ですが、おススメは何と言ってもバラードですね。”Time On My Hands”"Where Are You?""Ill Wind"と言った曲で、ウェブスターがスススっと息遣いまで聴こえてくるような独特の吹き方でバラードをまるで慈しむかのようにじっくり歌い上げます。若造には出せない大人の男のダンディズムってやつですね。一方、”Lover Come Back To Me"や”Makin' Whoopee"はミディアムテンポの演奏で、ウェブスターはマイペースでソロを吹きますが、前者はピーターソンのスインギーなソロにも大いにスポットライトが当たっています。CDにはそれに加えて"Who”"Boogie Oogie""Roses Of Picardy"の3曲がボーナストラックとして入っていますが、こちらは何とベン・ウェブスターがテナーではなくブギウギ調のピアノを弾くという意表を突く演奏。ただ、正直これはレコードマニア向けのセレクトで、スキップしてもらって全く問題ないと思います。

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ベニー・カーター/ファーザー・デフィニションズ

2024-12-20 19:01:34 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はベニー・カーターのインパルス盤をご紹介します。カーターについてはだいぶ前にコンテンポラリー盤「ジャズ・ジャイアント」をご紹介しましたが、1907年生まれでスイング時代から活躍する大ベテラン。本作が録音された1961年11月の時点で54歳とまさにモダンジャズ界の生き字引的存在でした。しかもカーターの凄いところはこの後もコンスタントに活動を続け、最後のリーダー作が録音されたのは何と1996年!実は私も90年代に来日したカーターの演奏をテレビ(久米宏の「ニュースステーション」で生演奏を披露した)で見た記憶があります。

ただ、それほどの長いキャリアを持つ割に日本のジャズファンからの人気は今一つと言ったところでしょうか?そもそも日本ではビバップ以降のジャズの方が人気ですし、バップ以前のジャズだとやはりビッグバンド、特にベイシーとエリントンの知名度が抜けてますからね。山ほどあるカーターの作品の中でもCDで手に入るのは本作を含めインパルスとコンテンポラリーの4~5作品ぐらいですね。

中でも本作はカーターの代表作と言って良く、4人のサックス奏者による見事なアンサンブルが聴けるゴージャスな内容です。メンバーはテナーにコールマン・ホーキンスとチャーリー・ラウズ、アルトにフィル・ウッズ、リズムセクションがリズムギターにジョン・コリンズ、ピアノがディック・カッツ、ベースがジミー・ギャリソン、ドラムがジョー・ジョーンズ(フィリーではなくパパの方)です。ホーキンス、コリンズ、パパ・ジョーらは同じくスイング時代から活躍するベテラン勢ですが、ラウズ、ウッズ、カッツらバップ世代もいますし、この後コルトレーンのカルテットに加入する若いジミー・ギャリソン(27歳)と意外とバラエティ豊かな人選です。

全8曲。全てスイング風の演奏ですが、名手達のソロが散りばめられており、聴き比べるのがなかなか楽しいですね。いつもながらマイペースで悠然と吹くホーキンス、ブリブリとファンキーに吹き鳴らすラウズ、パーカー直系の切れ味鋭いパピッシュなフレーズを連発するウッズとそれぞれ特徴があるので割と簡単に聴き分けられます。カーターのアルトは特にクセもなく、わりとストレートに歌い上げる感じです。なお、カーターはトランペットも吹く変わり種ですが、本作ではサックス1本で勝負しています。

曲は"Honeysuckle Rose”や”Crazy Rhythm"”Cotton Tail"”Cherry"と言ったバリバリのスイングナンバーももちろん楽しいですが、意外とバラードが良かったりします。おススメはまずクインシー・ジョーンズ作の”The Midnight Sun Will Never Set"。ベイシー楽団の「ワン・モア・タイム」で演奏されていた美しい曲で、まずコールマン・ホーキンスがダンディズム溢れるテナーソロを披露。カッツの短いソロを挟んでカーターが官能的なアルトを聴かせてくれます。カーター自作の”Blue Star"も素晴らしいですね。まるでスタンダードのような美しいメロディで、ここでもカーターが吹く美しいテーマの後、ホーキンスが貫禄のテナーソロを披露します。上記2曲ではウッズもラウズも大先輩2人を立て、アンサンブルに回っています。他の曲では彼らも漏れなくソロを取っており、定番スタンダードの”Body And Soul"ではウッズ→ラウズ→カーター→ホーキンスの順でバラードを歌い上げます。なお、カーターは本作の5年後の1966年にメンバーをガラリと変えて西海岸のテディ・エドワーズ、バディ・コレット、ビル・パーキンス、バド・シャンクらをゲストに迎え本作の続編とでも言うべき「アディションズ・トゥ・ファーザー・デフィニションズ」を同じインパルスに吹き込みますが、出来としては本作の方がずっと良いと思います。

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コールマン・ホーキンス/トゥデイ・アンド・ナウ

2024-10-16 19:27:49 | ジャズ(スイング~中間派)

1960年に名プロデューサーのクリード・テイラーが設立したインパルス・レコードは、ジョン・コルトレーンの一連の作品群のヒットもあり一躍メジャーレーベルの仲間入りをします。その後もアーチ―・シェップやファラオ・サンダース、アルバート・アイラーの作品を次々と発表するなど、フリー・ジャズの一大レーベルという印象が強いですが、私はこの方面は苦手なのでほとんど聴いたことがありません。

一方でインパルスはオールドスタイルなスイング~中間派系の作品にも力を入れており、デューク・エリントン、カウント・ベイシー、ベニー・カーター、ポール・ゴンサルヴェス、そして今日ご紹介するコールマン・ホーキンスらがリーダー作を残しています。逆にいわゆるビバップ~ハードバップ系の作品はほとんどないのが面白いですね。おそらくブルーノート、プレスティッジ、リヴァーサイド等既存のレーベルとの差別化を図ったのでしょう。

ホーキンスは1920年代から活躍する大ベテランで、本作録音時(1962年9月)で57歳。同年代のベン・ウェブスターと並んでテナーサックスの長老的存在でした。スタイル的にはスイング~中間派なのですが、彼の面白いところはビバップ~ハードバップ世代のミュージシャンとも積極的に共演していることで、特にプレスティッジ系列には大量の吹き込みを残しています。ピアノのトミー・フラナガンはその中でもお気に入りで、60年代前半は専属ピアニストのような感じですね。ベースのメジャー・ホーリー、ドラムのエディ・ロックもほぼ固定メンバーで、ヴァーヴ盤「ジェリコの戦い」やプレスティッジ傘下のムーズヴィルの作品群、そして本インパルス盤も全てこの3人がリズムセクションを務めています。

全7曲。1曲目"Go Li'l Lisa"はアメリカのトラディショナルソングらしく、いかにも民謡といったほのぼのした曲調。主役はもちろんホーキンスのテナーですが、メジャー・ホーリーのハミングベースにも注目。アルコ(弓弾き)ソロを弾きながら同じメロディーを♪ビードゥッドゥビッドゥ、とスキャットで歌うという独特の奏法で、他ではライオネル・ハンプトン楽団にいたスラム・スチュワートが知られており、かの有名な"Stardustでも披露しています。最初に聴いた時は何かヘンなのと思いましたが、慣れればこれはこれで味があります。

2曲目"Quintessence"は前年に発表されたクインシー・ジョーンズの同名アルバムの収録曲で、原曲ではフィル・ウッズが素晴らしいアルトを聴かせていましたが、本作のホーキンスのテナーソロもさすがで、バラードの名手の本領発揮です。フラナガンのソロもキラリと光ります。この曲からは3曲連続でバラードで、続いては”Don't Love Me"。ビル・カッツ&ルース・ロバーツと言うあまり知らないコンビの作曲で、他では聞いたことがないですが、なかなかロマンチックな旋律を持つ名曲で、ホーキンスのダンディズム溢れるテナー&リリカルなフラナガンのピアノソロに酔いしれます。"Love Song From Apache"は「アパッチ」と言う聞いたことないインディアン映画の曲。いかにも映画のラブシーンで流れそうな曲ですが、ちょっとメロディが歌謡曲的っぽいかな?

5曲目"Put On Your Old Grey Bonnet"は20世紀初頭のヒット曲らしいですが、冒頭にトミー・フラナガンが珍しくブルージーなピアノソロを披露した後、ホーキンスが何と8分間にわたる貫録十分のテナーソロをたっぷり聴かせます。続く"Swingin' Scotch"はホーキンスのオリジナルで、曲自体はオールドスタイルなスイングナンバーですが、フラナガンのプレイは超モダンで目の覚めるようなピアノソロを聴かせます。この曲でもメジャー・ホーリーが再びノリノリのハミングベースで盛り上げます。ラストの"Don't Sit Under The Apple Tree"はグレン・ミラー楽団で有名なスイング曲で軽快に締めくくりますす。以上、ホーキンス御大の「わしゃ若い者にはまだまだ負けん!」と言うセリフが聞こえてきそうな1枚です。

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イリノイ・ジャケー/デザート・ウィンズ

2024-07-13 17:53:23 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はイリノイ・ジャケーをご紹介します。以前にヴァーヴ盤「スウィングズ・サ・シング」でも取り上げましたが、1940年代から活躍するテナー奏者です。スタイル的には中間派になるのでしょうか?普段あまり好んで聴くジャンルではないのですが、今日ご紹介する「デザート・ウィンズ」は別です。1964年にアーゴ・レーベルに吹き込まれたこのアルバム、メンバーが素晴らしいのです。何せギターにケニー・バレル、ピアノにトミー・フラナガンですからね。それぞれの楽器で私が一番好きなプレイヤーなので、これはスルーするわけにはいきません。ちなみにジャケ―、バレル、フラナガン以外のメンバーはウェンデル・マーシャル(ベース)、レイ・ルーカス(ドラム)、ウィリー・ロドリゲス(パーカッション)です。

全7曲。うちスタンダードが5曲、オリジナルが2曲と言う構成です。普段はオリジナルの方を好む私ですが、このアルバムに関してはスタンダードの方が良いですね。おススメは”Star Eyes"。数多のジャズメンがカバーした名曲ですが、ジャケ―が歌心たっぷりのテナーソロを披露し、バレル、フラナガンも短いながらキラリと光るソロで彩りを添えます。レスター・ヤングの"Lester Leaps In"も素晴らしい。フラナガンの目の覚めるようなイントロに導かれるようにジャケ―が貫録たっぷりにブロウし、フラナガン→バレルと快調にソロをリレーします。

他ではリラックスしたムードのオープニングトラック"When My Dreamboat Comes Home"、ジャケーのオリジナルで珍しくアルトを吹く"Blues For The Early Bird"も良いです。一方、唯一のバラード"You're My Thrill"ではジャケーがこれでもかとばかりにむせび泣くようなテナーソロを聴かせますが、これは好みが分かれるところ。個人的にはややくどいかな。ラストの"Canadian Sunset"は1950年代のヒット曲で、ジーン・アモンズも「ボス・テナー」で取り上げていました。ピアノがフラナガンと言うのも同じですので、聴き比べには最適です。

 

 

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