本日はコールマン・ホーキンスです。ホーキンスについては本ブログでもたびたび取り上げていますが、1920年代から活躍する大ベテランで"モダンジャズ・テナーの父”とも呼ばれています。最も影響力がある存在だったのはおそらく30年代後半頃だと思いますが、彼の場合はビバップ期以降も活動ペースが落ちることなく、若い世代のジャズマンを起用して50~60年代も大量の作品を残しています。ディスコグラフィーをあらためて見ましたが、1950年代後半から60年代前半の10年間で何と30枚超!既にホーキンス自身が50歳を超えていたことを考えるとかなりのハイペースだったことがわかります。
さて、ホーキンスが共演した多くのジャズマンの中で最も信頼を得ていたのがトミー・フラナガン。最初の共演はおそらく1958年の「ビーン&バグス」だと思いますが、1960年代前半はほぼ固定メンバーのような形で10枚以上のアルバムに顔を出しています。フラナガンだけでなくベースのメジャー・ホリー、ドラムのエディ・ロックもセットで起用されることが多く、少し前に紹介したインパルス盤「トゥデイ・アンド・ナウ」も全く同じメンバーです。
今日ご紹介するアルバムは日本版では収録曲にちなんで「ジェリコの戦い」と名付けられていますが、原題はHawkins!Alive!At The Villa Gateで、ニューヨークの名門ジャズクラブ、ヴィレッジ・ゲートで1962年8月13日に行われたライブをヴァーヴ・レコードが収録したものです。同クラブは他にホレス・シルヴァー「ドゥーイン・ザ・シング」やレス・マッキャン、ハービー・マンのライブ盤でも有名ですね。
収録曲は4曲しかありませんが、ライブと言うこともあり全て8~10分の演奏で、聴き応え十分です。オープニングはジェローム・カーンの”All The Things You Are"。定番中の定番スタンダードですが、ホーキンスは貫禄たっぷりのどっしりとしたテナーを聴かせます。ホーキンスは上述のとおりバップ世代のミュージシャンと積極的に交流を図っていますが、演奏スタイルまで完全に若者に合わせているわけではなく、基本は中間派風のややオールドスタイルな演奏です。続くフラナガンはいかにも彼ならではの軽やかでエレガントなタッチでたっぷりとソロを取ります。ブログで何度も言っていますがフラナガンは私の最も好きなピアニストです。2曲目は邦題にもなっている”Joshua Fit The Battle Of Jericho(ジェリコの戦い)”。旧約聖書の中に出てくるモーセの後継者ヨシュアのお話を歌にしたもので、19世紀頃から歌い継がれている黒人霊歌です。youtubeで検索すると伝説的ゴスペルシンガー、マへリア・ジャクソンの歌唱バージョンが出てきますが、聴いてみてください。凄いですよ。本作のバージョンもホーキンスがソウルフルでワイルドなテナーを聴かせ、フラナガンもいつになく黒っぽく迫りますが、注目はメジャー・ホリーのベース。ここでの彼はアルコでソロを取りながら同じメロディを口ずさむいわゆるハミング・ベースを聴かせてくれます。「トゥデイ・アンド・ナウ」でも披露していましたが、モダンジャズでも彼とライオネル・ハンプトン楽団のスラム・スチュワートぐらいしか使い手がいない珍しい技です。(他にもいたら教えてください)
3曲目は”Mack The Knife”。テナーだとニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」が有名ですが、ホーキンスもややオールドスタイルながら貫禄たっぷりの演奏です。続いてフラナガンがモダンでシャープなピアノソロを取り、メジャー・ホリーがここではハミングしない普通のベースソロを弾きます。4曲目は”It’s The Talk Of The Town(街の噂)"。ジェリー・リヴィングストンという人が書いた30年代の名曲です。バラードの名手ホーキンスがダンディズム溢れるテナーソロを聴かせ、フラナガンもロマンチックなピアノソロで続きます。その後、メジャー・ホリーが再びハミング・ベースを披露するのですが、実はこれが一番原曲のメロディに近かったりします。最後はホーキンスが見事なテナーソロで締めくくり。なお、CDにはボーナストラックでホーキンスの代表曲”Bean And The Boys”とスタンダードの”If I Had You”も収録されており、どちらもなかなかの好演です。後者のバラードではホリーのハミングベースも聴けます。