ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

コールマン・ホーキンス/トゥデイ・アンド・ナウ

2024-10-16 19:27:49 | ジャズ(スイング~中間派)

1960年に名プロデューサーのクリード・テイラーが設立したインパルス・レコードは、ジョン・コルトレーンの一連の作品群のヒットもあり一躍メジャーレーベルの仲間入りをします。その後もアーチ―・シェップやファラオ・サンダース、アルバート・アイラーの作品を次々と発表するなど、フリー・ジャズの一大レーベルという印象が強いですが、私はこの方面は苦手なのでほとんど聴いたことがありません。

一方でインパルスはオールドスタイルなスイング~中間派系の作品にも力を入れており、デューク・エリントン、カウント・ベイシー、ベニー・カーター、ポール・ゴンサルヴェス、そして今日ご紹介するコールマン・ホーキンスらがリーダー作を残しています。逆にいわゆるビバップ~ハードバップ系の作品はほとんどないのが面白いですね。おそらくブルーノート、プレスティッジ、リヴァーサイド等既存のレーベルとの差別化を図ったのでしょう。

ホーキンスは1920年代から活躍する大ベテランで、本作録音時(1962年9月)で57歳。同年代のベン・ウェブスターと並んでテナーサックスの長老的存在でした。スタイル的にはスイング~中間派なのですが、彼の面白いところはビバップ~ハードバップ世代のミュージシャンとも積極的に共演していることで、特にプレスティッジ系列には大量の吹き込みを残しています。ピアノのトミー・フラナガンはその中でもお気に入りで、60年代前半は専属ピアニストのような感じですね。ベースのメジャー・ホーリー、ドラムのエディ・ロックもほぼ固定メンバーで、ヴァーヴ盤「ジェリコの戦い」やプレスティッジ傘下のムーズヴィルの作品群、そして本インパルス盤も全てこの3人がリズムセクションを務めています。

全7曲。1曲目"Go Li'l Lisa"はアメリカのトラディショナルソングらしく、いかにも民謡といったほのぼのした曲調。主役はもちろんホーキンスのテナーですが、メジャー・ホーリーのハミングベースにも注目。アルコ(弓弾き)ソロを弾きながら同じメロディーを♪ビードゥッドゥビッドゥ、とスキャットで歌うという独特の奏法で、他ではライオネル・ハンプトン楽団にいたスラム・スチュワートが知られており、かの有名な"Stardustでも披露しています。最初に聴いた時は何かヘンなのと思いましたが、慣れればこれはこれで味があります。

2曲目"Quintessence"は前年に発表されたクインシー・ジョーンズの同名アルバムの収録曲で、原曲ではフィル・ウッズが素晴らしいアルトを聴かせていましたが、本作のホーキンスのテナーソロもさすがで、バラードの名手の本領発揮です。フラナガンのソロもキラリと光ります。この曲からは3曲連続でバラードで、続いては”Don't Love Me"。ビル・カッツ&ルース・ロバーツと言うあまり知らないコンビの作曲で、他では聞いたことがないですが、なかなかロマンチックな旋律を持つ名曲で、ホーキンスのダンディズム溢れるテナー&リリカルなフラナガンのピアノソロに酔いしれます。"Love Song From Apache"は「アパッチ」と言う聞いたことないインディアン映画の曲。いかにも映画のラブシーンで流れそうな曲ですが、ちょっとメロディが歌謡曲的っぽいかな?

5曲目"Put On Your Old Grey Bonnet"は20世紀初頭のヒット曲らしいですが、冒頭にトミー・フラナガンが珍しくブルージーなピアノソロを披露した後、ホーキンスが何と8分間にわたる貫録十分のテナーソロをたっぷり聴かせます。続く"Swingin' Scotch"はホーキンスのオリジナルで、曲自体はオールドスタイルなスイングナンバーですが、フラナガンのプレイは超モダンで目の覚めるようなピアノソロを聴かせます。この曲でもメジャー・ホーリーが再びノリノリのハミングベースで盛り上げます。ラストの"Don't Sit Under The Apple Tree"はグレン・ミラー楽団で有名なスイング曲で軽快に締めくくりますす。以上、ホーキンス御大の「わしゃ若い者にはまだまだ負けん!」と言うセリフが聞こえてきそうな1枚です。

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イリノイ・ジャケー/デザート・ウィンズ

2024-07-13 17:53:23 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はイリノイ・ジャケーをご紹介します。以前にヴァーヴ盤「スウィングズ・サ・シング」でも取り上げましたが、1940年代から活躍するテナー奏者です。スタイル的には中間派になるのでしょうか?普段あまり好んで聴くジャンルではないのですが、今日ご紹介する「デザート・ウィンズ」は別です。1964年にアーゴ・レーベルに吹き込まれたこのアルバム、メンバーが素晴らしいのです。何せギターにケニー・バレル、ピアノにトミー・フラナガンですからね。それぞれの楽器で私が一番好きなプレイヤーなので、これはスルーするわけにはいきません。ちなみにジャケ―、バレル、フラナガン以外のメンバーはウェンデル・マーシャル(ベース)、レイ・ルーカス(ドラム)、ウィリー・ロドリゲス(パーカッション)です。

全7曲。うちスタンダードが5曲、オリジナルが2曲と言う構成です。普段はオリジナルの方を好む私ですが、このアルバムに関してはスタンダードの方が良いですね。おススメは”Star Eyes"。数多のジャズメンがカバーした名曲ですが、ジャケ―が歌心たっぷりのテナーソロを披露し、バレル、フラナガンも短いながらキラリと光るソロで彩りを添えます。レスター・ヤングの"Lester Leaps In"も素晴らしい。フラナガンの目の覚めるようなイントロに導かれるようにジャケ―が貫録たっぷりにブロウし、フラナガン→バレルと快調にソロをリレーします。

他ではリラックスしたムードのオープニングトラック"When My Dreamboat Comes Home"、ジャケーのオリジナルで珍しくアルトを吹く"Blues For The Early Bird"も良いです。一方、唯一のバラード"You're My Thrill"ではジャケーがこれでもかとばかりにむせび泣くようなテナーソロを聴かせますが、これは好みが分かれるところ。個人的にはややくどいかな。ラストの"Canadian Sunset"は1950年代のヒット曲で、ジーン・アモンズも「ボス・テナー」で取り上げていました。ピアノがフラナガンと言うのも同じですので、聴き比べには最適です。

 

 

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ズート・シムズ/ズート!

2024-03-26 21:36:40 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はズート・シムズの1956年のリヴァーサイド盤「ズート!」をご紹介します。ズートは同時期にアーゴにもワンホーンの「ズート」という作品を残しており、違いは!マークがあるかないかだけで紛らわしいですね。ズートはスイングジャズをベースにしながら作品によってはバップ寄りのアプローチを見せたりもしますが、本作は内容の面でもかなりオールドスタイルで中間派っぽいサウンドです。リヴァーサイドは後にビル・エヴァンスがレーベルの顔となりますが、50年代は基本的に黒人ハードバップ中心でしたので、本作は異色の内容とも言えます。メンバーはニック・トラヴィス(トランペット)、ジョージ・ハンディ(ピアノ)、ウィルバー・ウェア(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)と言った顔ぶれ。ベースとドラムはともかく、他はなじみが薄いですね。特にジョージ・ハンディはほぼ聞いたことがありませんが、調べてみるとチャーリー・パーカーのダイヤル・セッションに”Diggin' Diz”の1曲だけ参加しているらしいです。ほぼ印象にないですが・・・

全7曲。うち2曲がスタンダードで、5曲がオリジナルです。オリジナルのうち4曲はフローレンス・ハンディと言う人の作曲で、CD解説書ではピアノのジョージ・ハンディが作曲したことになっていますが、それにしては名前が微妙に違います。ググってみたところ、フローレンス・ハンディはジョージ・ハンディの奥さんだそうです。しかもこの人は歌手としてレコードも出しており、後にテナーのアル・コーンと再婚したとあります。コーンと言えばアル&ズートの片割れ。何だか人間関係がややこしそうですね・・・

余談はさておき、彼女の作った曲はどれもオールドファッションなスイングナンバーばかりです。オススメは1曲目”Why Cry?”と2曲目”Echoes Of You”。前者は典型的なスイングナンバー、後者はほのぼのとした味わいのバラードです。オリジナルの残り1曲はドラムのオシー・ジョンソン作の”Osmosis”。この曲はオシー自身のリーダー作やデイヴ・ベイリー「バッシュ」でも演奏された名曲で、この曲だけやや雰囲気が違いハードバピッシュです。何だかんだ言って私はこの曲が一番好きですね。スタンダードの”Fools Rush In”と"Taking A Chance On Love"はまずまずと言ったところ。演奏面では何と言ってもズートのよく歌うテナーが最大の聴きどころ。トラヴィスとハンディのプレイは正直パンチがないですが、もともとそんなつもりで人選してなさそうです。あくまでズートが気持ちよくスイングするのを盛り立てています。

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ジョー・ニューマン&ズート・シムズ/ロッキング・ホーンズ

2016-07-21 23:05:30 | ジャズ(スイング~中間派)
本日もJAZZ MASTERS COLLECTIONシリーズから、ジョー・ニューマンとズート・シムズの共演盤をご紹介します。このアルバム、もともとはラマ(Rama)という超マイナーレーベルから発売されたそうですが、その後レーベルごとルーレット・レコードに買い取られたそうです。とは言え、ルーレット自体もお世辞にもメジャーなレーベルとは言えないので、これまではCD化もされておらず、知る人ぞ知る作品でした。でも、内容はなかなか充実していますよ。白人テナー奏者の最高峰であるズートとカウント・ベイシー楽団でサド・ジョーンズとともに看板トランぺッターだったニューマン。白人と黒人の違いはあれど、スタイル的には直球ハードバップというより、どちらかと言うとスイング~中間派の流れを組む路線。サポートメンバーもジョニー・エイシア(ピアノ)、オスカー・ペティフォード(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)とややシブめの顔ぶれで、ややオールドスタイルながら味わい深い演奏を聴かせてくれます。



全10曲、スタンダードは含まれておらず、1曲を除いて全てメンバーの自作というなかなか野心的な構成。中でもピアノのエイシアが5曲を作曲しており、リーダー2人に劣らない重要な役割を果たしています。このエイシアというピアニスト、グラント・グリーンの「ラテン・ビット」等で名前を見たことはありますが、地味な存在なため注目していませんでしたが、なかなか良い曲を書きますね。ラテン調の楽しい“Mambo For Joe”、スタンダード曲のような美しいメロディを持つバラード“Midnight Fantasy”、ズートとニューマンが全編に渡ってスリリングなアドリブ合戦を繰り広げる“’Tater Pie”、メンバー全員が快調にソロを取った後オシーのドラムソロで締める“Oh Shaye”、ほんわかした曲調“Susette”とどれも佳曲揃いです。他の曲ではオープニングトラックの“Corky”がニューマンの作曲で力強いリフ・チューン、ラストの“Similar Souls”がオシー・ジョンソンの作曲で快適なミディアム・チューンでそれぞれお薦めです。演奏面で言うとやはりズートのアーシーでコクのあるテナーと、ニューマンの乾いた音色のトランペットが聴きモノです。原題の“Locking Horns”は「(角突き合わせて)格闘する」と言う意味らしいですが、内容はリーダー2人の激しいバトルというより、全編リラックスしたムードの共演と言った趣きです。全曲オリジナルというのも好感が持てますし、なかなかの隠れ名盤ではないでしょうか?
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ザ・ハッピー・ジャズ・オヴ・オシー・ジョンソン

2014-04-20 11:49:50 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はいぶし銀の名ドラマー、オシー・ジョンソンをご紹介します。同時代に活躍したブレイキー、ローチ、フィリー・ジョーらに比べると格落ちの印象は否めませんが、それでも50年代から60年代にかけて多くのセッションに顔を出し、モダンジャズの屋台骨を支えた名手です。見ての通り黒人ではありますが、アル・コーン、ズート・シムズなど白人ジャズメンとの共演が多く、他にもクリス・コナーら歌手の伴奏、あるいはビッグバンドでの演奏が多く、いわゆるハードバップとはやや距離を置いていたようです。1955年、ベツレヘム録音の本作もバップ色よりスイング色の強い内容です。



全11曲、セッションは3つに分かれており、クインテット4曲、セクステット4曲、そしてオクテット3曲という構成。メンバーは入れ替わりが多いので全員列挙しませんが、全曲に登場するのがフランク・ウェス(テナー&フルート)、その他セクステットとオクテットにサド・ジョーンズ(トランペット)が加わります。トロンボーンは各セッションごとにベニー・パウエル、ビル・ヒューズ、ヘンリー・コーカーと入れ替わります。勘の良い方は既におわかりと思いますが、これは当時のカウント・ベイシー楽団のメンバーですね。オシー自身はベイシー楽団に所属したことはありませんが、ホーン陣との呼吸もピッタリで、スモールコンボ版ベイシーサウンドとでも言うべき魅力的な内容になっています。なお、ピアノは御大ベイシーではなく、白人ピアニストのディック・カッツが務めています。曲はオリジナル中心で特にオシーが6曲を作曲していますが、どれも魅力的な内容で“Cat Walk”“Jumpin' At The Waterhole”“Osie's Oasis”等はベイシー楽団のレパートリーになっていてもおかしくない仕上がり。唯一“Osmosis”だけがハードバップ調で、これは後にズート・シムズやデイヴ・ベイリーにもカバーされたオシーの代表曲です。他ではオシーの意外とシブいボーカルが堪能できる“Don't Bug Me, Hug Me”もユニークです。地味なのでスルーしてしまうかもしれませんが、タイトル通りハッピーな楽曲がいっぱい詰まった隠れ名盤と言えるでしょう。

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