ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ベニー・カーター/ファーザー・デフィニションズ

2024-12-20 19:01:34 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はベニー・カーターのインパルス盤をご紹介します。カーターについてはだいぶ前にコンテンポラリー盤「ジャズ・ジャイアント」をご紹介しましたが、1907年生まれでスイング時代から活躍する大ベテラン。本作が録音された1961年11月の時点で54歳とまさにモダンジャズ界の生き字引的存在でした。しかもカーターの凄いところはこの後もコンスタントに活動を続け、最後のリーダー作が録音されたのは何と1996年!実は私も90年代に来日したカーターの演奏をテレビ(久米宏の「ニュースステーション」で生演奏を披露した)で見た記憶があります。

ただ、それほどの長いキャリアを持つ割に日本のジャズファンからの人気は今一つと言ったところでしょうか?そもそも日本ではビバップ以降のジャズの方が人気ですし、バップ以前のジャズだとやはりビッグバンド、特にベイシーとエリントンの知名度が抜けてますからね。山ほどあるカーターの作品の中でもCDで手に入るのは本作を含めインパルスとコンテンポラリーの4~5作品ぐらいですね。

中でも本作はカーターの代表作と言って良く、4人のサックス奏者による見事なアンサンブルが聴けるゴージャスな内容です。メンバーはテナーにコールマン・ホーキンスとチャーリー・ラウズ、アルトにフィル・ウッズ、リズムセクションがリズムギターにジョン・コリンズ、ピアノがディック・カッツ、ベースがジミー・ギャリソン、ドラムがジョー・ジョーンズ(フィリーではなくパパの方)です。ホーキンス、コリンズ、パパ・ジョーらは同じくスイング時代から活躍するベテラン勢ですが、ラウズ、ウッズ、カッツらバップ世代もいますし、この後コルトレーンのカルテットに加入する若いジミー・ギャリソン(27歳)と意外とバラエティ豊かな人選です。

全8曲。全てスイング風の演奏ですが、名手達のソロが散りばめられており、聴き比べるのがなかなか楽しいですね。いつもながらマイペースで悠然と吹くホーキンス、ブリブリとファンキーに吹き鳴らすラウズ、パーカー直系の切れ味鋭いパピッシュなフレーズを連発するウッズとそれぞれ特徴があるので割と簡単に聴き分けられます。カーターのアルトは特にクセもなく、わりとストレートに歌い上げる感じです。なお、カーターはトランペットも吹く変わり種ですが、本作ではサックス1本で勝負しています。

曲は"Honeysuckle Rose”や”Crazy Rhythm"”Cotton Tail"”Cherry"と言ったバリバリのスイングナンバーももちろん楽しいですが、意外とバラードが良かったりします。おススメはまずクインシー・ジョーンズ作の”The Midnight Sun Will Never Set"。ベイシー楽団の「ワン・モア・タイム」で演奏されていた美しい曲で、まずコールマン・ホーキンスがダンディズム溢れるテナーソロを披露。カッツの短いソロを挟んでカーターが官能的なアルトを聴かせてくれます。カーター自作の”Blue Star"も素晴らしいですね。まるでスタンダードのような美しいメロディで、ここでもカーターが吹く美しいテーマの後、ホーキンスが貫禄のテナーソロを披露します。上記2曲ではウッズもラウズも大先輩2人を立て、アンサンブルに回っています。他の曲では彼らも漏れなくソロを取っており、定番スタンダードの”Body And Soul"ではウッズ→ラウズ→カーター→ホーキンスの順でバラードを歌い上げます。なお、カーターは本作の5年後の1966年にメンバーをガラリと変えて西海岸のテディ・エドワーズ、バディ・コレット、ビル・パーキンス、バド・シャンクらをゲストに迎え本作の続編とでも言うべき「アディションズ・トゥ・ファーザー・デフィニションズ」を同じインパルスに吹き込みますが、出来としては本作の方がずっと良いと思います。

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コールマン・ホーキンス/トゥデイ・アンド・ナウ

2024-10-16 19:27:49 | ジャズ(スイング~中間派)

1960年に名プロデューサーのクリード・テイラーが設立したインパルス・レコードは、ジョン・コルトレーンの一連の作品群のヒットもあり一躍メジャーレーベルの仲間入りをします。その後もアーチ―・シェップやファラオ・サンダース、アルバート・アイラーの作品を次々と発表するなど、フリー・ジャズの一大レーベルという印象が強いですが、私はこの方面は苦手なのでほとんど聴いたことがありません。

一方でインパルスはオールドスタイルなスイング~中間派系の作品にも力を入れており、デューク・エリントン、カウント・ベイシー、ベニー・カーター、ポール・ゴンサルヴェス、そして今日ご紹介するコールマン・ホーキンスらがリーダー作を残しています。逆にいわゆるビバップ~ハードバップ系の作品はほとんどないのが面白いですね。おそらくブルーノート、プレスティッジ、リヴァーサイド等既存のレーベルとの差別化を図ったのでしょう。

ホーキンスは1920年代から活躍する大ベテランで、本作録音時(1962年9月)で57歳。同年代のベン・ウェブスターと並んでテナーサックスの長老的存在でした。スタイル的にはスイング~中間派なのですが、彼の面白いところはビバップ~ハードバップ世代のミュージシャンとも積極的に共演していることで、特にプレスティッジ系列には大量の吹き込みを残しています。ピアノのトミー・フラナガンはその中でもお気に入りで、60年代前半は専属ピアニストのような感じですね。ベースのメジャー・ホーリー、ドラムのエディ・ロックもほぼ固定メンバーで、ヴァーヴ盤「ジェリコの戦い」やプレスティッジ傘下のムーズヴィルの作品群、そして本インパルス盤も全てこの3人がリズムセクションを務めています。

全7曲。1曲目"Go Li'l Lisa"はアメリカのトラディショナルソングらしく、いかにも民謡といったほのぼのした曲調。主役はもちろんホーキンスのテナーですが、メジャー・ホーリーのハミングベースにも注目。アルコ(弓弾き)ソロを弾きながら同じメロディーを♪ビードゥッドゥビッドゥ、とスキャットで歌うという独特の奏法で、他ではライオネル・ハンプトン楽団にいたスラム・スチュワートが知られており、かの有名な"Stardustでも披露しています。最初に聴いた時は何かヘンなのと思いましたが、慣れればこれはこれで味があります。

2曲目"Quintessence"は前年に発表されたクインシー・ジョーンズの同名アルバムの収録曲で、原曲ではフィル・ウッズが素晴らしいアルトを聴かせていましたが、本作のホーキンスのテナーソロもさすがで、バラードの名手の本領発揮です。フラナガンのソロもキラリと光ります。この曲からは3曲連続でバラードで、続いては”Don't Love Me"。ビル・カッツ&ルース・ロバーツと言うあまり知らないコンビの作曲で、他では聞いたことがないですが、なかなかロマンチックな旋律を持つ名曲で、ホーキンスのダンディズム溢れるテナー&リリカルなフラナガンのピアノソロに酔いしれます。"Love Song From Apache"は「アパッチ」と言う聞いたことないインディアン映画の曲。いかにも映画のラブシーンで流れそうな曲ですが、ちょっとメロディが歌謡曲的っぽいかな?

5曲目"Put On Your Old Grey Bonnet"は20世紀初頭のヒット曲らしいですが、冒頭にトミー・フラナガンが珍しくブルージーなピアノソロを披露した後、ホーキンスが何と8分間にわたる貫録十分のテナーソロをたっぷり聴かせます。続く"Swingin' Scotch"はホーキンスのオリジナルで、曲自体はオールドスタイルなスイングナンバーですが、フラナガンのプレイは超モダンで目の覚めるようなピアノソロを聴かせます。この曲でもメジャー・ホーリーが再びノリノリのハミングベースで盛り上げます。ラストの"Don't Sit Under The Apple Tree"はグレン・ミラー楽団で有名なスイング曲で軽快に締めくくりますす。以上、ホーキンス御大の「わしゃ若い者にはまだまだ負けん!」と言うセリフが聞こえてきそうな1枚です。

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イリノイ・ジャケー/デザート・ウィンズ

2024-07-13 17:53:23 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はイリノイ・ジャケーをご紹介します。以前にヴァーヴ盤「スウィングズ・サ・シング」でも取り上げましたが、1940年代から活躍するテナー奏者です。スタイル的には中間派になるのでしょうか?普段あまり好んで聴くジャンルではないのですが、今日ご紹介する「デザート・ウィンズ」は別です。1964年にアーゴ・レーベルに吹き込まれたこのアルバム、メンバーが素晴らしいのです。何せギターにケニー・バレル、ピアノにトミー・フラナガンですからね。それぞれの楽器で私が一番好きなプレイヤーなので、これはスルーするわけにはいきません。ちなみにジャケ―、バレル、フラナガン以外のメンバーはウェンデル・マーシャル(ベース)、レイ・ルーカス(ドラム)、ウィリー・ロドリゲス(パーカッション)です。

全7曲。うちスタンダードが5曲、オリジナルが2曲と言う構成です。普段はオリジナルの方を好む私ですが、このアルバムに関してはスタンダードの方が良いですね。おススメは”Star Eyes"。数多のジャズメンがカバーした名曲ですが、ジャケ―が歌心たっぷりのテナーソロを披露し、バレル、フラナガンも短いながらキラリと光るソロで彩りを添えます。レスター・ヤングの"Lester Leaps In"も素晴らしい。フラナガンの目の覚めるようなイントロに導かれるようにジャケ―が貫録たっぷりにブロウし、フラナガン→バレルと快調にソロをリレーします。

他ではリラックスしたムードのオープニングトラック"When My Dreamboat Comes Home"、ジャケーのオリジナルで珍しくアルトを吹く"Blues For The Early Bird"も良いです。一方、唯一のバラード"You're My Thrill"ではジャケーがこれでもかとばかりにむせび泣くようなテナーソロを聴かせますが、これは好みが分かれるところ。個人的にはややくどいかな。ラストの"Canadian Sunset"は1950年代のヒット曲で、ジーン・アモンズも「ボス・テナー」で取り上げていました。ピアノがフラナガンと言うのも同じですので、聴き比べには最適です。

 

 

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ズート・シムズ/ズート!

2024-03-26 21:36:40 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はズート・シムズの1956年のリヴァーサイド盤「ズート!」をご紹介します。ズートは同時期にアーゴにもワンホーンの「ズート」という作品を残しており、違いは!マークがあるかないかだけで紛らわしいですね。ズートはスイングジャズをベースにしながら作品によってはバップ寄りのアプローチを見せたりもしますが、本作は内容の面でもかなりオールドスタイルで中間派っぽいサウンドです。リヴァーサイドは後にビル・エヴァンスがレーベルの顔となりますが、50年代は基本的に黒人ハードバップ中心でしたので、本作は異色の内容とも言えます。メンバーはニック・トラヴィス(トランペット)、ジョージ・ハンディ(ピアノ)、ウィルバー・ウェア(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)と言った顔ぶれ。ベースとドラムはともかく、他はなじみが薄いですね。特にジョージ・ハンディはほぼ聞いたことがありませんが、調べてみるとチャーリー・パーカーのダイヤル・セッションに”Diggin' Diz”の1曲だけ参加しているらしいです。ほぼ印象にないですが・・・

全7曲。うち2曲がスタンダードで、5曲がオリジナルです。オリジナルのうち4曲はフローレンス・ハンディと言う人の作曲で、CD解説書ではピアノのジョージ・ハンディが作曲したことになっていますが、それにしては名前が微妙に違います。ググってみたところ、フローレンス・ハンディはジョージ・ハンディの奥さんだそうです。しかもこの人は歌手としてレコードも出しており、後にテナーのアル・コーンと再婚したとあります。コーンと言えばアル&ズートの片割れ。何だか人間関係がややこしそうですね・・・

余談はさておき、彼女の作った曲はどれもオールドファッションなスイングナンバーばかりです。オススメは1曲目”Why Cry?”と2曲目”Echoes Of You”。前者は典型的なスイングナンバー、後者はほのぼのとした味わいのバラードです。オリジナルの残り1曲はドラムのオシー・ジョンソン作の”Osmosis”。この曲はオシー自身のリーダー作やデイヴ・ベイリー「バッシュ」でも演奏された名曲で、この曲だけやや雰囲気が違いハードバピッシュです。何だかんだ言って私はこの曲が一番好きですね。スタンダードの”Fools Rush In”と"Taking A Chance On Love"はまずまずと言ったところ。演奏面では何と言ってもズートのよく歌うテナーが最大の聴きどころ。トラヴィスとハンディのプレイは正直パンチがないですが、もともとそんなつもりで人選してなさそうです。あくまでズートが気持ちよくスイングするのを盛り立てています。

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ジョー・ニューマン&ズート・シムズ/ロッキング・ホーンズ

2016-07-21 23:05:30 | ジャズ(スイング~中間派)
本日もJAZZ MASTERS COLLECTIONシリーズから、ジョー・ニューマンとズート・シムズの共演盤をご紹介します。このアルバム、もともとはラマ(Rama)という超マイナーレーベルから発売されたそうですが、その後レーベルごとルーレット・レコードに買い取られたそうです。とは言え、ルーレット自体もお世辞にもメジャーなレーベルとは言えないので、これまではCD化もされておらず、知る人ぞ知る作品でした。でも、内容はなかなか充実していますよ。白人テナー奏者の最高峰であるズートとカウント・ベイシー楽団でサド・ジョーンズとともに看板トランぺッターだったニューマン。白人と黒人の違いはあれど、スタイル的には直球ハードバップというより、どちらかと言うとスイング~中間派の流れを組む路線。サポートメンバーもジョニー・エイシア(ピアノ)、オスカー・ペティフォード(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)とややシブめの顔ぶれで、ややオールドスタイルながら味わい深い演奏を聴かせてくれます。



全10曲、スタンダードは含まれておらず、1曲を除いて全てメンバーの自作というなかなか野心的な構成。中でもピアノのエイシアが5曲を作曲しており、リーダー2人に劣らない重要な役割を果たしています。このエイシアというピアニスト、グラント・グリーンの「ラテン・ビット」等で名前を見たことはありますが、地味な存在なため注目していませんでしたが、なかなか良い曲を書きますね。ラテン調の楽しい“Mambo For Joe”、スタンダード曲のような美しいメロディを持つバラード“Midnight Fantasy”、ズートとニューマンが全編に渡ってスリリングなアドリブ合戦を繰り広げる“’Tater Pie”、メンバー全員が快調にソロを取った後オシーのドラムソロで締める“Oh Shaye”、ほんわかした曲調“Susette”とどれも佳曲揃いです。他の曲ではオープニングトラックの“Corky”がニューマンの作曲で力強いリフ・チューン、ラストの“Similar Souls”がオシー・ジョンソンの作曲で快適なミディアム・チューンでそれぞれお薦めです。演奏面で言うとやはりズートのアーシーでコクのあるテナーと、ニューマンの乾いた音色のトランペットが聴きモノです。原題の“Locking Horns”は「(角突き合わせて)格闘する」と言う意味らしいですが、内容はリーダー2人の激しいバトルというより、全編リラックスしたムードの共演と言った趣きです。全曲オリジナルというのも好感が持てますし、なかなかの隠れ名盤ではないでしょうか?
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