1960年に名プロデューサーのクリード・テイラーが設立したインパルス・レコードは、ジョン・コルトレーンの一連の作品群のヒットもあり一躍メジャーレーベルの仲間入りをします。その後もアーチ―・シェップやファラオ・サンダース、アルバート・アイラーの作品を次々と発表するなど、フリー・ジャズの一大レーベルという印象が強いですが、私はこの方面は苦手なのでほとんど聴いたことがありません。
一方でインパルスはオールドスタイルなスイング~中間派系の作品にも力を入れており、デューク・エリントン、カウント・ベイシー、ベニー・カーター、ポール・ゴンサルヴェス、そして今日ご紹介するコールマン・ホーキンスらがリーダー作を残しています。逆にいわゆるビバップ~ハードバップ系の作品はほとんどないのが面白いですね。おそらくブルーノート、プレスティッジ、リヴァーサイド等既存のレーベルとの差別化を図ったのでしょう。
ホーキンスは1920年代から活躍する大ベテランで、本作録音時(1962年9月)で57歳。同年代のベン・ウェブスターと並んでテナーサックスの長老的存在でした。スタイル的にはスイング~中間派なのですが、彼の面白いところはビバップ~ハードバップ世代のミュージシャンとも積極的に共演していることで、特にプレスティッジ系列には大量の吹き込みを残しています。ピアノのトミー・フラナガンはその中でもお気に入りで、60年代前半は専属ピアニストのような感じですね。ベースのメジャー・ホーリー、ドラムのエディ・ロックもほぼ固定メンバーで、ヴァーヴ盤「ジェリコの戦い」やプレスティッジ傘下のムーズヴィルの作品群、そして本インパルス盤も全てこの3人がリズムセクションを務めています。
全7曲。1曲目"Go Li'l Lisa"はアメリカのトラディショナルソングらしく、いかにも民謡といったほのぼのした曲調。主役はもちろんホーキンスのテナーですが、メジャー・ホーリーのハミングベースにも注目。アルコ(弓弾き)ソロを弾きながら同じメロディーを♪ビードゥッドゥビッドゥ、とスキャットで歌うという独特の奏法で、他ではライオネル・ハンプトン楽団にいたスラム・スチュワートが知られており、かの有名な"Stardustでも披露しています。最初に聴いた時は何かヘンなのと思いましたが、慣れればこれはこれで味があります。
2曲目"Quintessence"は前年に発表されたクインシー・ジョーンズの同名アルバムの収録曲で、原曲ではフィル・ウッズが素晴らしいアルトを聴かせていましたが、本作のホーキンスのテナーソロもさすがで、バラードの名手の本領発揮です。フラナガンのソロもキラリと光ります。この曲からは3曲連続でバラードで、続いては”Don't Love Me"。ビル・カッツ&ルース・ロバーツと言うあまり知らないコンビの作曲で、他では聞いたことがないですが、なかなかロマンチックな旋律を持つ名曲で、ホーキンスのダンディズム溢れるテナー&リリカルなフラナガンのピアノソロに酔いしれます。"Love Song From Apache"は「アパッチ」と言う聞いたことないインディアン映画の曲。いかにも映画のラブシーンで流れそうな曲ですが、ちょっとメロディが歌謡曲的っぽいかな?
5曲目"Put On Your Old Grey Bonnet"は20世紀初頭のヒット曲らしいですが、冒頭にトミー・フラナガンが珍しくブルージーなピアノソロを披露した後、ホーキンスが何と8分間にわたる貫録十分のテナーソロをたっぷり聴かせます。続く"Swingin' Scotch"はホーキンスのオリジナルで、曲自体はオールドスタイルなスイングナンバーですが、フラナガンのプレイは超モダンで目の覚めるようなピアノソロを聴かせます。この曲でもメジャー・ホーリーが再びノリノリのハミングベースで盛り上げます。ラストの"Don't Sit Under The Apple Tree"はグレン・ミラー楽団で有名なスイング曲で軽快に締めくくりますす。以上、ホーキンス御大の「わしゃ若い者にはまだまだ負けん!」と言うセリフが聞こえてきそうな1枚です。