ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

デクスター・ゴードン&スライド・ハンプトン/ア・デイ・イン・コペンハーゲン

2025-02-07 21:32:50 | ジャズ(ヨーロッパ)

昨日に引き続き今日もMPSレコードの作品です。同レーベルの主力がアメリカからヨーロッパに渡ってきたジャズマンだったことは前回ご説明した通りです。60年代になると本場アメリカではいわゆるメインストリームのジャズが時代遅れと見なされるようになり、多くの大物ミュージシャン達が仕事を求めてヨーロッパに渡って来ました。特に黒人ジャズマン達にとっては本国での根強い人種差別から逃れられることもヨーロッパ移住の大きな理由だったようです。

今日ご紹介する「ア・デイ・イン・コペンハーゲン」もそう言った移住組を中心に構成されています。タイトル通り1969年3月10日にデンマークのコペンハーゲンで録音されたセッションには、合計6人のジャズマンが参加しています。リーダーはデクスター・ゴードン。モダンジャズ界を代表する名テナー奏者の彼も1962年にヨーロッパに移住、この頃はコペンハーゲンに身を落ち着けていました。彼のヨーロッパ時代の録音はデンマークのスティープルチェイスレーベルに集中していますが(過去ブログ参照)、本作が唯一のMPS録音です。共同リーダーのスライド・ハンプトンもトロンボーン奏者兼ビッグバンド・リーダーとしてアトランティック等にリーダー作を何枚か(「ジャズ・ウィズ・ア・ツイスト」がおススメ)残した後、1968年にヨーロッパに移住しています。

その他もピアノのケニー・ドリュー(1961年にパリ、その後コペンハーゲンに移住)、ドラムのアート・テイラー(1963年にフランスに移住)もそれぞれハードバップの屋台骨を支えた名手でしたが、この頃はヨーロッパに活躍の場を求めていました。その他、トランペットのディジー・リースはジャマイカ出身。ニューヨークに進出してブルーノートに「スター・ブライト」「サウンディン・オフ」等を残しますが、元々はロンドンを中心にヨーロッパでプレイしていました。この時は一時的に帰欧していたのでしょうか?ベースのニールス・ヘニング・ペデルセンだけが地元デンマークの出身です。

(表面)          (裏面)

 

全6曲。歌モノスタンダードが3曲、スライド・ハンプトンのオリジナルが3曲です。ハンプトンは作曲以外にもホーンアレンジも担当しており、このアルバムの音楽的リーダーシップを実質的に担っていたようです。表ジャケットには知名度抜群のデクスター・ゴードンが使われていますが、一応裏面は同じ構図のハンプトンが写っています。

内容はどちらかと言うとオリジナル曲の方が良いです。特におススメがオープニングトラックの"My Blues"。曲名にブルースとありますが実際はドライブ感抜群のハードバップで、ゴードン→ドリュー→リース→ペデルセン→ハンプトンと軽快にソロをリレーします。1曲目にして本作のベストトラックと思います。3曲目”A New Thing”はあまり特徴のない曲ですが、ラストの"A Day In Vienna"もなかなか良いです。コペンハーゲンなのに"ウィーンの一日”とはこれいかに?と言う感じですが、曲自体は60年代後半らしいモード風のジャズです。一方、スタンダードの方は"You Don't Know What Love Is"”What’s New""The Shadow Of Your Smile"と定番曲が揃っています。特に前者2曲は通常はスローバラードで演奏されるところを、ミディアム~アップテンポで料理していますが、ちょっとハンプトンのアレンジが鼻に付くかな。その点"The Shadow Of Your Smile"は直球のバラード演奏でゴードンがワンホーンでダンディズム溢れるテナーソロを聴かせてくれます。ゴードンの演奏はあまりアレンジに凝らない方が持ち味が出ますね。

 

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アニー・ロス&ポニー・ポインデクスター/オール・ブルース

2025-02-06 18:12:49 | ジャズ(ヨーロッパ)

本日は少し趣向を変えてドイツのレコード会社であるMPSレコードの作品をご紹介します。ハンス=ゲオルク・ブルンナー・シュヴェーアと言う人物が設立したレーベルで、地元ドイツのジャズマンの作品もありますが、メインはどちらかと言うとアメリカのジャズマン達の作品です。本ブログでも過去にオスカー・ピーターソンジョー・パスの作品を紹介していますね。60年代も中盤以降になると本場アメリカではジャズシーンの変化によりメインストリームのジャズが下火になりつつありましたが、ヨーロッパでは引き続き伝統的なジャズが愛好されていました。そのため、多くのアメリカ人ジャズマン達が仕事を求めてヨーロッパを訪問し、このMPSに録音を残しています。

今日ご紹介するアニー・ロス&ポニー・ポインデクスターもそのうちの1枚。1966年5月1日にフランクフルトで行われたジャズフェスティヴァルの模様を録音したもので、リーダーの2人を含めて合計9人のジャズマンが参加しています。まず、リーダーのアニー・ロスはイギリス生まれのアメリカ人女性歌手。ワールド・パシフィックに「ア・ギャサー!」等の作品を吹き込んでいます。この人は通常のヴォーカリストと言うより楽器のソロを真似て歌うヴォ―カリーズの名手で、デイヴ・ランバート、ジョン・ヘンドリックスと組んだランバート、ヘンドリックス&ロスの一員としても知られています。楽器のソロの声版と言えばスキャットを思い浮かべますが、あちらは♪ドゥビドゥバ~、と歌詞がないのに対しヴォ―カリーズは歌詞を付けて歌うのが特徴です。コ・リーダーのポニー・ポインデクスターはニューオーリンズ出身のサックス奏者。お世辞にもメジャーとは言えませんが、プレスティッジ系列のニュージャズに「ガンボ!」等のリーダー作を残しています。本作では本職のサックスに加え、ヴォーカルも披露しています。

サイドマンもなかなか通好みのメンバーです。カーメル・ジョーンズ(トランペット)は西海岸で活躍した黒人トランぺッターで、ホレス・シルヴァーの名盤「ソング・フォー・マイ・ファザー」への参加で知られています。レオ・ライトはディジー・ガレスピー楽団で活躍したアルト奏者でアトランティックに何枚かリーダー作も残しています。彼らに加えてクラーク=ボラン・ビッグバンドで活躍したジミー・ウッド(ベース)がアメリカ出身。後はヨーロッパ人で、オーストリア出身のフリッツ・パウアー(ピアノ)、カリブ海のグアドループ島出身のフランス人アンドレ・コンドゥアン(ギター)、そして地元ドイツのジョー・ネイ(ドラム)と言う国際色豊かなラインナップです。

アルバムはルイ・ジョーダンがヒットさせたジャンプ・ブルース"Saturday Night Fish Fry"で始まります。前回ブログで取り上げた「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」の"School Days"も同じくジョーダンの曲で、こちらもヒップホップやラップを先取りしたような曲です。アニーとポニーが掛け合いながら歌う楽しい曲ではありますが、あまりジャズって感じはしません。この時点で少し先行き不安を感じますが、続く"All Blues"で良い意味で期待を裏切られます。ご存じマイルス・デイヴィス「カインド・オヴ・ブルー」の名曲にオスカー・ブラウンが歌詞を付けたもので、11分を超す大曲です。冒頭まずポニーがソプラノサックスによるテーマ演奏とヴォーカルを聴かせ、その後は8分間にわたって各プレイヤー達がスリリングなソロを繰り広げます。順番はカーメル・ジョーンズ→ポニーのソプラノ→アンドレ・コンドゥアン→レオ・ライト→フリッツ・パウアーでそれぞれ素晴らしいソロを聴かせてくれます。ずばり名演と言って良いでしょう。なお、アニー・ロスはお休みです。

3曲目はホレス・シルヴァーの名盤「スタイリングス・オヴ・シルヴァー」から”Home Cookin'"。アニーがヴォ―カリーズ、ポニーがスキャットでファンキーに盛り上げ、間にレオ・ライトのソロも挟まれます。4曲目”Jumpin' At The Woodside"はご存じカウント・ベイシー楽団の名曲。ランバート、ヘンドリックス&ロスがベイシー軍団と組んだ「シング・アロング・ウィズ・ベイシー」でも歌われていました。アニーが早口でヴォ―カリーズを披露し、ポニーがスキャットで続きます。カーメル・ジョーンズとレオ・ライトのソロも聴き逃せません。

5曲目”Moody's Mood For Love"はサックス奏者ジェイムズ・ムーディの”I'm In The Mood For Love"の美しいテナーソロにエディ・ジェファーソンが歌詞を付けたもので、多くの歌手にカバーされた名曲です。私が好きなのはずっと後の1995年のクインシー・ジョーンズ「Q’sジューク・ジョイント」でブライアン・マックナイトとテイク6が歌ったバージョンです。この曲はアニー・ロスが歌いますが、彼女は「ア・ギャサー!」のところでも述べましたが、正直そんなに歌が上手くないですよね。6曲目"Goin' To Chicago"もベイシー楽団の持ち曲で、歌手のジミー・ラッシングと歌ったものが有名だそうです。ラストは"Twisted"。バップ期のテナー奏者ワーデル・グレイの曲に1952年にロスがヴォ―カリーズの歌詞を付け、彼女が注目されるきっかけとなった曲です。この曲も”All Blues"同様に各人のソロがたっぷり収録されており、アニーのヴォ―カリーズの後、カーメル・ジョーンズ→レオ・ライトのフルート→ポニーのアルト→パウアーとファンキーなソロを取り、演奏を締めくくります。個人的にアニー・ロスのヴォ―カリーズはそれほど好みではないのですが(あまり声が好きではない)、それを埋めて余りあるぐらい器楽ソロが充実しており、ヴォーカル作品としてよりむしろインストゥルメンタル作品として評価したいアルバムです。

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ディック・モリッシー/イッツ・モリッシー、マン!

2025-01-08 19:02:33 | ジャズ(ヨーロッパ)

本日は少し趣向を変えて英国ジャズを取り上げます。英国で"モリッシー"と来れば、80年代のカリスマ的ロックバンド、ザ・スミスのヴォーカルを真っ先に思い出しますが、今日ご紹介するディック・モリッシーは主に60年代に活躍したジャズテナー奏者です。と言っても私もこのアルバムぐらいしか持ってないので詳しいことは知りません。調べたところ、1940年生まれでデビュー作である本作の発表時点(1961年4月)でまだ20歳。60年代に数枚のアルバムを残した後、ロック畑に転身し、イフ(If)と言うバンドで活躍したとあります。ただ、私は洋楽にもかなり詳しい方ですが、イフと言うバンドのことは残念ながら聞いたことがないですね・・・

さて、本作「イッツ・モリッシー、マン!」はブリティッシュ・ジャズの名盤としてマニアの間ではそれなりに人気ですが、理由の一つはこのジャケットでしょうね。なぜか線路の上を闊歩するモリッシーとバンドメンバー達。ユニークなジャケットですがなかなかのインパクトです。先頭はもちろんモリッシーで、2番目がピアノのスタン・ジョーンズ、続いてドラムを右手に持ったコリン・バーンズ、そして重そうにベースを持つマルコム・セシルの順でしょう。

全12曲収録されていますが、3分前後の短い演奏が多いのでそこまでボリュームがあるわけではありません。おススメは何と言ってもオープニングトラックの”St. Thomas"でしょう。ご存じソニー・ロリンズ「サキソフォン・コロッサス」の名曲をモリッシーがエネルギッシュに吹き切ります。この曲は多くのジャズマンが取り上げていますが、その中でもかなり上位に位置するクオリティではないでしょうか?思わずやるじゃん!と拍手したくなりますね。2曲目はビル・ルサージュと言うよく知らない人(英国人ジャズピアニストらしい)が書いた”Cherry Blue"でこれもなかなか味わい深いハードバップです。3曲目から5曲目まではどれも急速調のバップナンバーが続き、モリッシーが相変わらず勢いのあるテナーソロを聴かせますが、やや一本調子なのは否めないかな?ただ、ジョニー・グリフィンのデビュー盤に収録されていた”Mildew”に果敢に挑戦するあたり、モリッシーの自信のほどが伺えます。6曲目と7曲目はピアノのスタン・ジョーンズの曲で中では"Puffing Billy"が魅力的なミディアムチューンです。

9曲目で初めてバラードが登場しますが、”Where Is Love?”と言う曲でロンドン発のミュージカル「オリヴァー!」の曲らしいです。モリッシーのバラード演奏は悪くはないですが、名手と呼ばれるテナーマン達に比べると少し深みがないかなと言う気もします。10曲目は歌モノスタンダード”Dancing In The Dark"でこちらもまあまあ。11曲目も歌モノで”Willow Weep For  Me"ですが、ここではモリッシーが休みでスタン・ジョーンズによるピアノトリオ演奏です。ラストの”Jelly Roll"はチャールズ・ミンガス「ミンガス・アー・アム」の収録曲を軽快に演奏して終わり。以上、やや勢い任せのところもあり、全体的なクオリティはまずまずと言ったところですが、"St. Thomas"だけでも一聴の価値があると思います。

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ズート・シムズ/クッキン!

2024-11-22 14:35:09 | ジャズ(ヨーロッパ)

本日はズート・シムズの英国ロンドンでのライヴ盤をご紹介します。1961年11月にフォンタナ・レコードに吹き込まれたもので、収録されたのは”ロニー・スコット・クラブ”。英国を代表するテナー奏者であるロニー・スコットがオーナーを務めるジャズクラブで、タビー・ヘイズの名盤「ダウン・イン・ザ・ヴィレッジ」と同じ場所です。共演メンバーはスタン・トレイシー(ピアノ)、ケニー・ナッパー(ベース)、ジャッキー・ドゥーガン(ドラム)。全員が地元イギリスのジャズマン達です。トレイシーやドゥーガンのことは良く知りませんが、ケニー・ナッパーは以前取り上げたジャズ・クーリアーズ「ザ・ラスト・ワード」にも参加していました。ジャケットのセンスはトホホって感じですが、一応「クッキン!」なのでお玉(レードル?)を腰にぶら下げているのでしょうか?60年代っぽいと言えばぽいですが・・・

ただ、内容の方は悪くないです。全6曲、うち5曲はスタンダードで、”Stompin' At The Savoy""Love For Sale""Somebody Loves Me""Gone With The Wind""Autumn Leaves”と言ったお馴染みの曲ばかり。並のジャズマンの手にかかればベタなマンネリの演奏になってしまうところですが、ズートの絶好調のプレイのおかげで聴き応えのある作品に仕上がっています。ズートのアドリブは決して原曲のメロディを大きく逸脱することなく、軽く崩しているだけのように聴こえるのですが、その崩しの加減が絶妙で、なおかつ彼特有のアーシーな「コク」のようなものが感じられます。共演陣ではスタン・トレイシーがパーカッシヴで意外と力強いピアノを、ジャッキー・ドゥーガンも”Somebody Loves Me”等で派手なドラミングを披露してくれます。なお、ラストの”Desperation”だけはオリジナル曲で英国を代表するトランぺッター、ジミー・デューカーの作。デューカーとクラブのオーナーであるロニー・スコットも参加しています。ロニー→デューカー→トレイシーが力強いソロを取った後、満を持してズートが貫録のソロで演奏を締めくくります。

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ズート・シムズ・イン・パリ

2024-10-28 18:19:39 | ジャズ(ヨーロッパ)

本日はズート・シムズのユナイテッド・アーティスツ盤「ズート・シムズ・イン・パリ」を取り上げたいと思います。タイトル通りパリの名門クラブであるブルーノート・クラブで1961年に行われたライブを録音したものです。ズートはパリの街を気に入っていたのかたびたびツアーで訪れていたようで、1956年にも現地のレーベルに「ズート・シムズ・オン・デュクレテ・トムソン」を残しており、こちらも名盤の評価が高いです。ただ、同時期に多くのジャズマンがヨーロッパに移住した中、ズート自身は1985年に亡くなるまで終生アメリカを離れることはありませんでした。

ワンホーン・カルテットでリズムセクションはアンリ・ルノー(ピアノ)、ボブ・ウィットロック(ベース)、ジャン=ルイ・ヴィアール(ドラム)と言った顔ぶれ。うちルノーとヴィアールはフランス人でズートとは「デュクレテ・トムソン」でも共演していますね。ボブ・ウィットロックはウェストコーストで活躍したジャズマンで、アート・ペッパー、チェット・ベイカー、ジェリー・マリガンらと共演歴があります。

曲は全9曲。ズートのオリジナルが2曲、後の7曲は全て歌モノスタンダードです。オリジナルは1曲目の"Zoot's Blues"と7曲目の”A Flat Blues"で、おそらく即興のブルースではないかと思います。ズートはちょくちょく自作のブルースを演奏しますが、独特の味わいがありますよね。黒人ジャズマンの演奏するこってりしたブルースとは少し違い、1930年代のベイシー楽団っぽいややノスタルジックな味わいのブルースです。一方、スタンダードはどれもよく知られた曲ばかり。特に”These Foolish Things"”On The Alamo"”Too Close For Comfort"等の曲は上記「デュクレテ・トムソン」や「ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ」でも演奏されており、ズートのお気に入りの曲だったのでしょう。その他も”Once In A While"”You Go To My Head""Stompin' At The Savoy"と言った定番曲がズラリと並んでおり、正直新鮮味はあまりないですが、ズートはいつもながらのまろやかなトーンでミディアムテンポではスインギーに、バラードではムードたっぷりに歌い上げます。唯一”Spring Can Really Hang You Up The Most"だけは比較的新しい曲で、トミー・ウルフが1955年に書いたスローバラード。ジャッキー&ロイ等いろんな歌手が歌っていますが、器楽奏者ではズートが初めて取り上げたかもしれません(確証はないですが・・・)。こちらも絶品のバラード演奏です。

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