本日は通好みのギタリスト、タル・ファーロウをご紹介します。私が普段愛聴するジャズギタリストはケニー・バレルやウェス・モンゴメリー、グラント・グリーン等黒人系が多いですが、スタイル的にはかなり異なります。かと言ってジム・ホールやバーニー・ケッセル等の白人ギタリストとも少し違うような気がするし、独特の演奏をする人ですよね。どう違うのか言語化は難しいのですが・・・
解説書によるとこの人は体系的な音楽教育を受けておらず、楽譜も一切読めなかったとか。元々はペンキ職人で看板を描く仕事でジャズクラブに出入りするうちにビバップの魅力に目覚め、チャーリー・クリスチャンを真似てギターを弾き始めたそうです。それでこれだけ弾けるようになるのだから大したもんですが、何でも手が人並外れて大きく普通の人は届かない弦まで指が伸びることにより、ワン&オンリーなスタイルを手にしたようです。ジャケットを見れば確かに大きい手にも見えなくもないですね。本作はそんなタルが1950年代半ばにヴァーヴに大量に残した作品の一つで、一般的に彼の代表作と目される1枚です。録音は1956年3月。エディ・コスタ(ピアノ)、ヴィニー・バーク(ベース)と組んだトリオ作品で、ドラムが抜けた異色の編成です。
全8曲。1曲だけクラーク・テリーのバップナンバー"Chuckles”が収録されていますが、他は全て有名スタンダード曲です。オープニングの”Isn't It Romantic?"、続く”There Is No Greater Love"あたりはいたって正統派の演奏で、タル、コスタ、バークの3人が一体となってリラックスした演奏が繰り広げられます。ただ、さすがにこれがずっと続くとダレて来ますよね。そこは彼らもわかっているのか中盤からはテンポを上げてアプローチの仕方を変えてきます。3曲目”How About You"あたりから徐々にペースを上げて行き、続く"Anything Goes""Yesterdays"ではタルが超絶技巧による高速ソロを繰り出し、エディ・コスタも低音がうねうねと続く独特のピアノソロを披露します。特に"Yesterdays"はコスタのピアノがちょっとおどろおどろしささえ感じさせるほどの異様な迫力で、白人らしい大人しいジャズを予想していると面食らうかもしれません。その後はペースダウンして、バラードの”You Don't Know What Love Is"、スインギーな”Broadway"で締めくくります。個人的な好みでは”Yesterdays"はちょっとアクが強すぎるので、”How About You"あたりがちょうど良いですね。