ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

タル・ファーロウ/タル

2024-11-21 19:25:22 | ジャズ(クールジャズ)

本日は通好みのギタリスト、タル・ファーロウをご紹介します。私が普段愛聴するジャズギタリストはケニー・バレルやウェス・モンゴメリー、グラント・グリーン等黒人系が多いですが、スタイル的にはかなり異なります。かと言ってジム・ホールやバーニー・ケッセル等の白人ギタリストとも少し違うような気がするし、独特の演奏をする人ですよね。どう違うのか言語化は難しいのですが・・・

解説書によるとこの人は体系的な音楽教育を受けておらず、楽譜も一切読めなかったとか。元々はペンキ職人で看板を描く仕事でジャズクラブに出入りするうちにビバップの魅力に目覚め、チャーリー・クリスチャンを真似てギターを弾き始めたそうです。それでこれだけ弾けるようになるのだから大したもんですが、何でも手が人並外れて大きく普通の人は届かない弦まで指が伸びることにより、ワン&オンリーなスタイルを手にしたようです。ジャケットを見れば確かに大きい手にも見えなくもないですね。本作はそんなタルが1950年代半ばにヴァーヴに大量に残した作品の一つで、一般的に彼の代表作と目される1枚です。録音は1956年3月。エディ・コスタ(ピアノ)、ヴィニー・バーク(ベース)と組んだトリオ作品で、ドラムが抜けた異色の編成です。

全8曲。1曲だけクラーク・テリーのバップナンバー"Chuckles”が収録されていますが、他は全て有名スタンダード曲です。オープニングの”Isn't It Romantic?"、続く”There Is No Greater Love"あたりはいたって正統派の演奏で、タル、コスタ、バークの3人が一体となってリラックスした演奏が繰り広げられます。ただ、さすがにこれがずっと続くとダレて来ますよね。そこは彼らもわかっているのか中盤からはテンポを上げてアプローチの仕方を変えてきます。3曲目”How About You"あたりから徐々にペースを上げて行き、続く"Anything Goes""Yesterdays"ではタルが超絶技巧による高速ソロを繰り出し、エディ・コスタも低音がうねうねと続く独特のピアノソロを披露します。特に"Yesterdays"はコスタのピアノがちょっとおどろおどろしささえ感じさせるほどの異様な迫力で、白人らしい大人しいジャズを予想していると面食らうかもしれません。その後はペースダウンして、バラードの”You Don't Know What Love Is"、スインギーな”Broadway"で締めくくります。個人的な好みでは”Yesterdays"はちょっとアクが強すぎるので、”How About You"あたりがちょうど良いですね。

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スタン・ゲッツ・イン・ストックホルム

2024-11-06 20:50:44 | ジャズ(クールジャズ)

スタン・ゲッツについてはこれまでも当ブログでたびたび取り上げてきました。60年代はボサノバブームに乗って「ゲッツ&ジルベルト」等のヒット作を連発し、70年代以降も「ザ・マスター」「ライヴ・アット・モンマルトル」等の力作を発表し続けたゲッツですが、全盛期が50年代にあることは衆目の一致するところでしょう。特に1955年から57年にかけてが絶頂期で、この頃のヴァ―ヴの諸作品群はほぼ傑作揃いと言って良いと思います。

今日ご紹介する「スタン・ゲッツ・イン・ストックホルム」は1955年12月にスウェーデンのストックホルムで録音された作品。ゲッツは翌1956年にスウェーデン人のモニカ夫人と結婚し、1958年からの2年間はスウェーデンに移住するなど同国とは縁が深いですが、この時点では単なるツアーでの訪問です。ワンホーン・カルテットでリズムセクションは全員現地ミュージシャンでベンクト・ハルベリ(ピアノ)、グンナー・ヨンソン(ベース)、アンデシュ・ブルマン(ドラム)と言う布陣です。うちハルベリとヨンソンの2人は後に「インポーテッド・フロム・ヨーロッパ」でも共演しています。

全8曲。全てが有名スタンダードです。この頃のゲッツ作品は基本的にスタンダード多めですが、ここまで振り切っているのは珍しいですね。スタンダード演奏と言うのは耳馴染みは良い半面、ありきたりの演奏では没個性で陳腐なものになりがちですが、そこは全盛期のゲッツだけあって安定のクオリティに仕上がっています。特にミディアムテンポのナンバーが秀逸で"Indiana"”I Can't Believe That You're In Love With Me""Get Happy"”Jeepers Creepers"と言った曲をゲッツが歌心たっぷりのソロで歌い上げます。バックのベンクト・ハルベリのピアノはややオールドスタイルなスイング風ですね。中でも"I Can't Believe~” はアート・ペッパーがたびたび演奏している彼の十八番で、テナーとアルトのそれぞれの天才同士の演奏を聴き比べて見るのも面白いです。

残り4曲はバラードで”Without A Song"”I Don't Stand A Ghost Of A Chance"”Everything Happens To Me""Over The Rainbow"とこちらも定番曲揃い。どの曲でもゲッツはまるで慈しむかのような優しいトーンでメロディを紡いでいきます。テナーの音色ってこんなに繊細だったっけ?と思わせるような演奏で楽器は違いますがポール・デズモンドを思い起こさせますね。個人的にはバラードが少し大人しすぎてちょっと物足りない気もしますが、クールテナーの王者ゲッツらしいリラックスした雰囲気の1枚です。

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テリー・ギブス/テイク・イット・フロム・ミー

2024-10-04 19:02:02 | ジャズ(クールジャズ)

本日は白人ヴァイブ奏者のテリー・ギブスをご紹介します。と言われてもあまりピンと来ない方も多いかもしれません。日本のジャズファンの間ではヴァイブ奏者と言えば何と言ってもミルト・ジャクソンが唯一無二の帝王的存在で、それ以前のスイング時代だとライオネル・ハンプトン、モードジャズ以降だとボビー・ハッチャーソンやゲイリー・バートンあたりがポピュラーな存在でしょうか?

ただ、このテリー・ギブスは本国では結構人気があったようで、50~60年代だけでもサヴォイやエマーシーを中心に30枚以上のリーダー作を残しています。残念ながらほとんどCD化されていないので私も一部しか聴いたことはないですが・・・youtubeでTerry Gibbsで検索すると「トゥナイト・ショー」に出演した際の映像が見れるので、そちらが結構おススメです。女流ピアノ/ヴァイブ奏者のテリー・ポラードと一緒に出演していて、2人で1台のヴァイブを叩く様子がコミカルで面白いです。

本作「テイク・イット・フロム・ミー」は1964年1月にインパルス・レコードに吹き込まれたもので、15年ほど前にCDでリリースされたインパルスの再発売シリーズの中の1枚です。このアルバム、メンバーが結構豪華です。ケニー・バレル(ギター)、サム・ジョーンズ(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)とバリバリのハードバップ寄りの人選で、ギブスのキャリアを考えると異色のメンバーと言えます。

全8曲入りで、最後の2曲にジェローム・カーン”All The Things You Are"、ファッツ・ウォーラー”Honeysuckle Rose"と有名スタンダードが2曲ありますが、ぶっちゃけ特筆すべき内容ではありません。聴くべきはギブスが書いたオリジナル曲の方ですね。オープニングはタイトルトラックの”Take It From Me"で、リラックスしたムードの佳曲です。品の良いギブスのヴァイヴの後に絡むバレルのソウルフルなギターが最高です。

続く”El Fatso"はややラテンっぽい明るい感じで、その後哀調溢れる”Oge"、ハッピーな感じの”Pauline's Place"、ブルージーな"8 LBS., 10 OZS."と2~3分前後の軽めの曲が続きます。6曲目は本作のもう一つのハイライトである"Gee, Dad, It's A Degan"。6分を超える曲でのっけからギブスが迫力満点の高速マレット捌きを見せ、バレルもファンキーなギターソロで後に続きます。一風変わったタイトルの曲が多いですが、内容はリラックスして聴ける隠れた好盤です。インパルスは何と言ってもコルトレーンの前衛時代の作品群が有名ですが、意外とスイング~クールジャズ系のジャズメンの作品も多く、内容も捨て難いんですよね。

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ドン・バグリー/ジャズ・オン・ザ・ロック

2024-09-29 07:53:31 | ジャズ(クールジャズ)

本日はかなり通好みのチョイスで白人ベーシストのドン・バグリーをご紹介します。と言っても誰やねんそれ!と言う方は多いと思います。私もぶっちゃけそうでした。スタン・ケントン楽団で長年ベーシストを務めたそうですが、スモールコンボでの活動は限られており、サイドマンで目にする機会もあまりありません。本作は1957年9月にサヴォイ傘下のリージェント・レコードに吹き込まれたものですが、サヴォイ系特有のセンスのかけらもないジャケットのせいもあり、普通であればスルーするところです。

ただ、思わず食指が動いたのは参加メンバーを目にしたからです。まず、パーカーの後継者として絶賛売り出し中だったアルトのフィル・ウッズに、ベツレヘム等にリーダー作を残している渋好みのギターのサル・サルヴァドール、個性派ピアニストでヴァイブもよくするエディ・コスタ、そしてメンバー中唯一の黒人で名ドラマーのチャーリー・パーシップ。おそらくリーダーのバグリーが一番無名なのでは?と思えるぐらいの興味深いメンツが集まっています。

全6曲。全てバグリーのオリジナルで構成されています。オープニングの"Batter Up"からまずパーシップのドラムを露払いにしてフィル・ウッズが哀愁漂うアルト・ソロを披露し、コスタのピアノ→サルのギター→バグリーのベースソロと続き「意外と悪くないかも?」と思わせてくれます。続く"Come Out Swingin'"もマイナーキーの曲で、コスタのバピッシュなピアノソロで始まり、ウッズ→サル→バグリーとソロを受け渡します。

3曲目"Odd Man Out"はバラード曲でバグリーとコスタのピアノとのデュオです。バグリーの2分近いベースソロが堪能できます。続く"Bull Pen"はまたしてもマイナーキーの曲ですが、ここではコスタがピアノをヴァイブに持ち替えて流麗なマレット捌きを見せてくれます。5曲目"Hold In There"は本作のハイライトといえるドライブ感満点のナンバーで、テーマ演奏のあと、サル→ウッズ→コスタのヴァイブとそれぞれたっぷり時間を取ってソロをリレーして行きます。ウッズ、コスタの好調ぶりは相変わらずですが、ここでは2分以上に及ぶサルのギターソロにも注目ですね。ラストは再び哀愁漂う"Miss De Minor"で終わり。

全体的にマイナーキーの曲が多いですが、"Hold In There"のようにガツンと来るアップテンポの曲もあり、硬派ジャズファンも満足させてくれる内容と思います。リーダーのバグリーは随所でベースソロを取りますが、どちらかと言うとウッズ、コスタ、サル・サルヴァドールの方が目立っていますね。特にウッズは同じ年に代表作である「スガン」「フィル・トークス・ウィズ・クイル」、「ウォーム・ウッズ」を発表していた頃で、脂の乗り切ったプレイを聴かせてくれます。

 

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サージ・チャロフ/ブルー・サージ

2024-09-20 15:06:56 | ジャズ(クールジャズ)

本日は白人バリトンサックス奏者のサージ・チャロフをご紹介します。名前からしておそらくロシアとか東欧系でしょうね。サージ(Serge)はセルゲイの英語読みと思いますが、ここでは洋服の生地のサージとかけているそうです。と言われても私はピンと来ないのですが、ジャケットで美女が寄りかかっている服の青い部分がそうなのでしょうね。

1940年代にウディ・ハーマン楽団に所属し、スタン・ゲッツやズート・シムズらと並んで”フォー・ブラザーズ”と呼ばれるなど名を馳せたらしいですが、その頃の録音はあまり残っていないので詳しいことはよくわかりません。50年代以降も決して作品に恵まれているとは言い難く、出身地であるボストンのストーリーヴィル・レコードに「サージ・アンド・ブーツ」含め2枚、キャピトル・レコードに「ボストン・ブロウアップ」と本作の2枚を残すのみです。理由の一つとして挙げられるのは麻薬。この時期の多くのジャズマンと同様に彼もジャンキーで、40年代後半から50年代前半にかけてをほぼ棒に振ります。1954年以降に活動を再開し、上記の作品群を残すのですが、今度は病魔に蝕まれ、1957年に脊椎のガンで33歳の生涯を閉じました。

そんな薄幸の人生を送ったチャロフですが、バリトンサックス奏者としての評価は高く、評論家筋からはジェリー・マリガンを超える、とも言われていたとか。個人的にはテナーやアルトと違って、バリトンと言う楽器自体があまり細やかなアドリブ表現に適さないような気がするのですが、言われてみれば比較的滑らかなプレイと言う気もします。ただ、ペッパー・アダムスのようにゴリゴリとハードに吹くのを身上とするタイプもいますので、どちらが良いかは好みの問題ですね。

本作「ブルー・サージ」は1956年3月の録音。チャロフはこの1年4ヶ月後に亡くなるのですが、この時点ではまだ元気だったのか快活なプレイを聴かせてくれます。収録はハリウッドのスタジオで行われ、当時は西海岸でセッション・ピアニストとして活躍していたソニー・クラークがピアノで参加しています。ベースは同じくウェストコースターのリロイ・ヴィネガーですが、ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズと言うのが意外な人選です。当時のフィリー・ジョーはご存じマイルス・デイヴィス・クインテットの一員でしたが、この頃ちょうどツアーでロサンゼルスに滞在中で声がかかったようです。全員が黒人によるリズムセクションですが、かと言ってそれほどハードバップ色が強いわけではなく、リーダーであるチャロフの個性が前面に出ています。

全7曲、うちジャズ・オリジナルは2曲だけで、あとは歌モノスタンダードです。”All The Things You Are"”I've Got The World On A String"”Stairway To The Stars"等の定番スタンダードもありますが、個人的にはオープニングトラックの"A Handful Of Stars"を推します。あまり他では聞かない曲ですがミディアムテンポのほのぼのした曲調で、チャロフの暖かみのあるバリトンにクラークも軽快なソロで華を添えます。バラードの"Thanks For The Memory"も良いですね。ここではチャロフが低音でじっくり歌い上げます。

オリジナル曲のうち1曲はウディ・ハーマン楽団の同僚だったアル・コーン作の"The Goof And I"。アップテンポの曲で、クラークの躍動するピアノソロに続きチャロフがバリトンとは思えない高速アドリブを披露します。チャロフの唯一のオリジナル曲である”Susie's Blues"はブルースと言うよりバップナンバーで、チャロフのバピッシュなプレイが堪能できます。クラークも何だかんだこういう曲の方が生き生きしていますね。

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