ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

スタン・ゲッツ・プレイス

2025-02-28 19:03:42 | ジャズ(クールジャズ)

本日はスタン・ゲッツの初期の代表作「スタン・ゲッツ・プレイズ」をご紹介します。このアルバム、何と言ってもジャケットが超有名ですよね。テナーを抱えたゲッツにかわいい男の子がささやきかけるこの写真。見ているだけで微笑ましくなりますね。写っているのはゲッツの実際の息子であるスティーヴ君(当時5歳)で、この写真を見るとゲッツは良いパパだったんだろうなあ、と想像したくなります。

ただ、実際のゲッツはそんな生易しい人ではなかったようです。当時の多くのジャズマンと同様にゲッツもまたドラッグとアルコールに溺れ、私生活は荒み切っていました。スティーヴ君の母親でもある最初の妻ビヴァリーともクスリが原因で離婚し、その後スウェーデン人のモニカと再婚しますが、そのモニカに対しても家庭内暴力(DV)を振るったりしていたそうです。よく天才と狂人は紙一重と言いますが、彼もまさにそのタイプだったようで、ミュージシャン仲間からも付き合いにくい奴と評判は良くなかったとか。

ただ、そんなゲッツがひとたびテナーを吹くや、まるで極上のシルクのような滑らかで美しい音が紡ぎ出されるのですから芸術の世界とは不思議なものです。本作が録音されたのは1952年、ゲッツ25歳の時で彼のキャリアの中ではわりと初期の頃ですが、この時点でゲッツのスタイルは既に完成されています。まろやかで優しい音色のテナー、そしてメロディアスでありながら創意工夫を凝らしたアドリブ。まさに唯一無二のゲッツ節を堪能できます。

なお、本作はゲッツがヴァーヴ・レコード(録音当時の名称はノーグラン・レコード)に吹き込んだ最初の作品で、この後ゲッツは20年間にわたって40枚以上ものレコードを同レーベルに吹き込みます。メンバーはジミー・レイニー(ギター)、デューク・ジョーダン(ピアノ)、ビル・クロウ(ベース)、フランク・イゾラ(ドラム)です。ただし、レイニーやジョーダンがソロを取る場面はごくわずかで、ほぼ全編に渡ってゲッツのテナーを聴くための作品です。

全12曲、うち11曲は歌モノスタンダードです。選曲も"Stella By Starlight""Time On My Hands""The Way You Look Tonight""Lover, Come Back To Me""Body And Soul""Stars Fell On Alabama"と言った定番曲ばかりで、一歩間違えると安易でチープな企画になるところです。ただ、それでも十分に聴き手を飽きさせないのがゲッツの凄いところ。バラードでは優しく慈しむように歌い上げ、アップテンポでは矢継ぎ早に創造性に満ちたアドリブを繰り出します。どの曲も平均点以上ですが、個人的におススメは4曲目の"The Way You Look Tonight"。まず1週目は原曲のメロディ通りに吹いた後、2周目は完全アドリブでソロを吹くのですが、まるで譜面に最初から書かれているかのようなメロディアスなフレーズを淀みなく繰り出すところが圧巻ですね。一方、続く”Lover, Come Back To Me"は最初からアドリブで原曲を大胆に崩しているのですが、それでもきちんと”歌”として成立させています。他では”You Turned The Talbes On Me"も素晴らしいですね。通常はミディアム〜アップテンポでスインギーに演奏されることが多いですが、ゲッツの演奏によってまるで別の曲かのような美しいバラードに生まれ変わっています。

なお、1曲だけスタンダードじゃない曲が収録されているのですが、それがジジ・グライスの”Hymn Of The Orient"。この曲は翌年にクリフォード・ブラウンも「メモリアル・アルバム」で吹き込んでいますが、時系列的にはこちらの方が先です。この頃はジジ・グライスもまだキャリアの駆け出しの頃ですが、ゲッツは前年のルースト盤でも彼の曲を取り上げています。他にも無名だったホレス・シルヴァーをバンドのピアニストに抜擢したりと、意外と若い黒人ジャズマンの発掘に見る目があったのかもしれません。白人ジャズの代表格と目されるゲッツの意外な一面ですね。

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タル・ファーロウ/タル

2024-11-21 19:25:22 | ジャズ(クールジャズ)

本日は通好みのギタリスト、タル・ファーロウをご紹介します。私が普段愛聴するジャズギタリストはケニー・バレルやウェス・モンゴメリー、グラント・グリーン等黒人系が多いですが、スタイル的にはかなり異なります。かと言ってジム・ホールやバーニー・ケッセル等の白人ギタリストとも少し違うような気がするし、独特の演奏をする人ですよね。どう違うのか言語化は難しいのですが・・・

解説書によるとこの人は体系的な音楽教育を受けておらず、楽譜も一切読めなかったとか。元々はペンキ職人で看板を描く仕事でジャズクラブに出入りするうちにビバップの魅力に目覚め、チャーリー・クリスチャンを真似てギターを弾き始めたそうです。それでこれだけ弾けるようになるのだから大したもんですが、何でも手が人並外れて大きく普通の人は届かない弦まで指が伸びることにより、ワン&オンリーなスタイルを手にしたようです。ジャケットを見れば確かに大きい手にも見えなくもないですね。本作はそんなタルが1950年代半ばにヴァーヴに大量に残した作品の一つで、一般的に彼の代表作と目される1枚です。録音は1956年3月。エディ・コスタ(ピアノ)、ヴィニー・バーク(ベース)と組んだトリオ作品で、ドラムが抜けた異色の編成です。

全8曲。1曲だけクラーク・テリーのバップナンバー"Chuckles”が収録されていますが、他は全て有名スタンダード曲です。オープニングの”Isn't It Romantic?"、続く”There Is No Greater Love"あたりはいたって正統派の演奏で、タル、コスタ、バークの3人が一体となってリラックスした演奏が繰り広げられます。ただ、さすがにこれがずっと続くとダレて来ますよね。そこは彼らもわかっているのか中盤からはテンポを上げてアプローチの仕方を変えてきます。3曲目”How About You"あたりから徐々にペースを上げて行き、続く"Anything Goes""Yesterdays"ではタルが超絶技巧による高速ソロを繰り出し、エディ・コスタも低音がうねうねと続く独特のピアノソロを披露します。特に"Yesterdays"はコスタのピアノがちょっとおどろおどろしささえ感じさせるほどの異様な迫力で、白人らしい大人しいジャズを予想していると面食らうかもしれません。その後はペースダウンして、バラードの”You Don't Know What Love Is"、スインギーな”Broadway"で締めくくります。個人的な好みでは”Yesterdays"はちょっとアクが強すぎるので、”How About You"あたりがちょうど良いですね。

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スタン・ゲッツ・イン・ストックホルム

2024-11-06 20:50:44 | ジャズ(クールジャズ)

スタン・ゲッツについてはこれまでも当ブログでたびたび取り上げてきました。60年代はボサノバブームに乗って「ゲッツ&ジルベルト」等のヒット作を連発し、70年代以降も「ザ・マスター」「ライヴ・アット・モンマルトル」等の力作を発表し続けたゲッツですが、全盛期が50年代にあることは衆目の一致するところでしょう。特に1955年から57年にかけてが絶頂期で、この頃のヴァ―ヴの諸作品群はほぼ傑作揃いと言って良いと思います。

今日ご紹介する「スタン・ゲッツ・イン・ストックホルム」は1955年12月にスウェーデンのストックホルムで録音された作品。ゲッツは翌1956年にスウェーデン人のモニカ夫人と結婚し、1958年からの2年間はスウェーデンに移住するなど同国とは縁が深いですが、この時点では単なるツアーでの訪問です。ワンホーン・カルテットでリズムセクションは全員現地ミュージシャンでベンクト・ハルベリ(ピアノ)、グンナー・ヨンソン(ベース)、アンデシュ・ブルマン(ドラム)と言う布陣です。うちハルベリとヨンソンの2人は後に「インポーテッド・フロム・ヨーロッパ」でも共演しています。

全8曲。全てが有名スタンダードです。この頃のゲッツ作品は基本的にスタンダード多めですが、ここまで振り切っているのは珍しいですね。スタンダード演奏と言うのは耳馴染みは良い半面、ありきたりの演奏では没個性で陳腐なものになりがちですが、そこは全盛期のゲッツだけあって安定のクオリティに仕上がっています。特にミディアムテンポのナンバーが秀逸で"Indiana"”I Can't Believe That You're In Love With Me""Get Happy"”Jeepers Creepers"と言った曲をゲッツが歌心たっぷりのソロで歌い上げます。バックのベンクト・ハルベリのピアノはややオールドスタイルなスイング風ですね。中でも"I Can't Believe~” はアート・ペッパーがたびたび演奏している彼の十八番で、テナーとアルトのそれぞれの天才同士の演奏を聴き比べて見るのも面白いです。

残り4曲はバラードで”Without A Song"”I Don't Stand A Ghost Of A Chance"”Everything Happens To Me""Over The Rainbow"とこちらも定番曲揃い。どの曲でもゲッツはまるで慈しむかのような優しいトーンでメロディを紡いでいきます。テナーの音色ってこんなに繊細だったっけ?と思わせるような演奏で楽器は違いますがポール・デズモンドを思い起こさせますね。個人的にはバラードが少し大人しすぎてちょっと物足りない気もしますが、クールテナーの王者ゲッツらしいリラックスした雰囲気の1枚です。

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テリー・ギブス/テイク・イット・フロム・ミー

2024-10-04 19:02:02 | ジャズ(クールジャズ)

本日は白人ヴァイブ奏者のテリー・ギブスをご紹介します。と言われてもあまりピンと来ない方も多いかもしれません。日本のジャズファンの間ではヴァイブ奏者と言えば何と言ってもミルト・ジャクソンが唯一無二の帝王的存在で、それ以前のスイング時代だとライオネル・ハンプトン、モードジャズ以降だとボビー・ハッチャーソンやゲイリー・バートンあたりがポピュラーな存在でしょうか?

ただ、このテリー・ギブスは本国では結構人気があったようで、50~60年代だけでもサヴォイやエマーシーを中心に30枚以上のリーダー作を残しています。残念ながらほとんどCD化されていないので私も一部しか聴いたことはないですが・・・youtubeでTerry Gibbsで検索すると「トゥナイト・ショー」に出演した際の映像が見れるので、そちらが結構おススメです。女流ピアノ/ヴァイブ奏者のテリー・ポラードと一緒に出演していて、2人で1台のヴァイブを叩く様子がコミカルで面白いです。

本作「テイク・イット・フロム・ミー」は1964年1月にインパルス・レコードに吹き込まれたもので、15年ほど前にCDでリリースされたインパルスの再発売シリーズの中の1枚です。このアルバム、メンバーが結構豪華です。ケニー・バレル(ギター)、サム・ジョーンズ(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)とバリバリのハードバップ寄りの人選で、ギブスのキャリアを考えると異色のメンバーと言えます。

全8曲入りで、最後の2曲にジェローム・カーン”All The Things You Are"、ファッツ・ウォーラー”Honeysuckle Rose"と有名スタンダードが2曲ありますが、ぶっちゃけ特筆すべき内容ではありません。聴くべきはギブスが書いたオリジナル曲の方ですね。オープニングはタイトルトラックの”Take It From Me"で、リラックスしたムードの佳曲です。品の良いギブスのヴァイヴの後に絡むバレルのソウルフルなギターが最高です。

続く”El Fatso"はややラテンっぽい明るい感じで、その後哀調溢れる”Oge"、ハッピーな感じの”Pauline's Place"、ブルージーな"8 LBS., 10 OZS."と2~3分前後の軽めの曲が続きます。6曲目は本作のもう一つのハイライトである"Gee, Dad, It's A Degan"。6分を超える曲でのっけからギブスが迫力満点の高速マレット捌きを見せ、バレルもファンキーなギターソロで後に続きます。一風変わったタイトルの曲が多いですが、内容はリラックスして聴ける隠れた好盤です。インパルスは何と言ってもコルトレーンの前衛時代の作品群が有名ですが、意外とスイング~クールジャズ系のジャズメンの作品も多く、内容も捨て難いんですよね。

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ドン・バグリー/ジャズ・オン・ザ・ロック

2024-09-29 07:53:31 | ジャズ(クールジャズ)

本日はかなり通好みのチョイスで白人ベーシストのドン・バグリーをご紹介します。と言っても誰やねんそれ!と言う方は多いと思います。私もぶっちゃけそうでした。スタン・ケントン楽団で長年ベーシストを務めたそうですが、スモールコンボでの活動は限られており、サイドマンで目にする機会もあまりありません。本作は1957年9月にサヴォイ傘下のリージェント・レコードに吹き込まれたものですが、サヴォイ系特有のセンスのかけらもないジャケットのせいもあり、普通であればスルーするところです。

ただ、思わず食指が動いたのは参加メンバーを目にしたからです。まず、パーカーの後継者として絶賛売り出し中だったアルトのフィル・ウッズに、ベツレヘム等にリーダー作を残している渋好みのギターのサル・サルヴァドール、個性派ピアニストでヴァイブもよくするエディ・コスタ、そしてメンバー中唯一の黒人で名ドラマーのチャーリー・パーシップ。おそらくリーダーのバグリーが一番無名なのでは?と思えるぐらいの興味深いメンツが集まっています。

全6曲。全てバグリーのオリジナルで構成されています。オープニングの"Batter Up"からまずパーシップのドラムを露払いにしてフィル・ウッズが哀愁漂うアルト・ソロを披露し、コスタのピアノ→サルのギター→バグリーのベースソロと続き「意外と悪くないかも?」と思わせてくれます。続く"Come Out Swingin'"もマイナーキーの曲で、コスタのバピッシュなピアノソロで始まり、ウッズ→サル→バグリーとソロを受け渡します。

3曲目"Odd Man Out"はバラード曲でバグリーとコスタのピアノとのデュオです。バグリーの2分近いベースソロが堪能できます。続く"Bull Pen"はまたしてもマイナーキーの曲ですが、ここではコスタがピアノをヴァイブに持ち替えて流麗なマレット捌きを見せてくれます。5曲目"Hold In There"は本作のハイライトといえるドライブ感満点のナンバーで、テーマ演奏のあと、サル→ウッズ→コスタのヴァイブとそれぞれたっぷり時間を取ってソロをリレーして行きます。ウッズ、コスタの好調ぶりは相変わらずですが、ここでは2分以上に及ぶサルのギターソロにも注目ですね。ラストは再び哀愁漂う"Miss De Minor"で終わり。

全体的にマイナーキーの曲が多いですが、"Hold In There"のようにガツンと来るアップテンポの曲もあり、硬派ジャズファンも満足させてくれる内容と思います。リーダーのバグリーは随所でベースソロを取りますが、どちらかと言うとウッズ、コスタ、サル・サルヴァドールの方が目立っていますね。特にウッズは同じ年に代表作である「スガン」「フィル・トークス・ウィズ・クイル」、「ウォーム・ウッズ」を発表していた頃で、脂の乗り切ったプレイを聴かせてくれます。

 

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