1980年代に、NHKで「シルクロード」という紀行番組があった。NHKスペシャルの前身、NHK特集のシリーズの1つで、大きく分けて3シリーズ作られた。
特に最初の1980年度「シルクロード 絲綢之路(しちゅうのみち)」は、当時は関係が悪くなかった中国との共同取材による貴重な映像で、日本にシルクロードブームを巻き起こした。
僕はリアルタイムでは幼くて記憶がないはずだが、その後の再編集版や再放送で見たことがあり、喜多郎によるテーマ曲が感動的。そんな思い出はいずれまたとして、今回はその字幕・テロップについて。
シルクロードは、1990年代前半~中頃=平成初期はさほど再放送されていなかったのではないだろうか。2000年近くになって、よく再放送されるようになった。「NHKアーカイブス」が発足した頃で、過去の番組を活用する方針になったのだろうか。
そして2000年代に入ると、劣化した映像を復元する「デジタルリマスター」という技術が広まった。
シルクロード 絲綢之路は2005年にリマスターされた。さらに2019年には4Kリマスターされた。最近は、4K放送でないBSプレミアムでも、その4K版を2Kに再変換して放送している。それでも、初回放送時よりもきれいではないかと思える画質。そこまでする必要があるのかという気もするけれど…
4Kリマスターで映像がきれいになったということは、その字幕(の文字)もきれいになっている。初めて見た時は、その鮮明さに驚いた。
アナログ放送、あるいはブラウン管テレビの字幕といえば、輪郭がぼんやりしたものであった。それはデジタル放送と比べてということであって、昔はそれが普通だったわけだけど。
2007年だったか、初めて地上デジタル放送を見た時、映像の鮮明さよりも、字幕がドギツイほどくっきりしているのに違和感に近いものを覚えた。シルクロードリマスターの字幕にも、それに近い感慨を覚えた。
今のデジタル放送のデジタルフォントと同じくっきりさなので、一瞬、リマスター時に字幕を入れ直したのかと疑った。よく見れば、
「き」とか
この書体は、写研「石井太ゴシック体」だ。今のところパソコンでは使えないから、やっぱり写真植字(写植)により記録されていた字幕を、リマスターしたのだろう。写植文字もまた、輪郭がぼんやりしたイメージを持っていたが、ここまでくっきりするのに再び驚いた。
初期のデジタルリマスターは、1コマずつ手作業も多用して作業を進めると聞いたが、今もそうなんだろうか。それともAIなんかも関わるようになったのだろうか。
昔のテレビ番組を見ていると、例えば連続テレビ小説の出演者名やみんなのうたの歌詞では、同じ映像内でも、同じ書体なのに突然文字の縁取りの太さや表示位置が微妙に変わってしまうことがある(時には傾いたり)。時間や技術の制約もあったのだろう。でも、シルクロードではそういうのはなさそうで、きれいにまっすぐそろっている。そこまでリマスターで修正できないと思うので、当時から丁寧に字幕を作っていたのだろうか。写研では、コンピューターを用いたテレビ用電算写植「テロメイヤー」を1983年に発売しているが、シルクロード 絲綢之路当時は発売前だから、手動写植だったのだろうか。
数年後、モリサワから石井太ゴシック体もデジタル化されて発売されれば、これと同等の字幕を容易に製作できるのだろうが、一足先に見られた。
紀行番組だから、画面に地図が表示される。今ならGoogle EarthやフルカラーCGで表示されるところだが、1980年では、
こういう地図
テロップによる線画で、フリーハンドで道や山脈、砂漠を描いて、そこに写植文字を入れている。それが、
むにゅーっとズーム
背景が動画、テロップ自体がズームするという点では、当時としてはがんばったのではないだろうか。わりと最近まで、テレビ朝日の十津川警部シリーズで、列車の運行ルートを説明する時にも、同じ手法がされていた。
でも、こんな地図も。
上と同じ回
砂漠がランダムなドットで示されるのは、この番組定番。
でも、右下固定表示で、山脈の形がなんか違う(ややなだらか)し、何より書体が違う。当時は部分的に色を変えることはしなかったはず。
拡大
細い丸ゴシック体。これってフォントワークス「ナール」【14日訂正】「スーラ」?
写研書体ではないし1980年にはまだなかった。デジタルリマスターの一環というよりは、ついでに、補足説明の意味で新しい地図を作って追加したのか?
さらに、絲綢之路を、切り口を変えて再編集した1981年放送「もうひとつのシルクロード」というのも、デジタルリマスターされ放送されている。
「報告/鈴木ディレクター」
フルネームでなく、姓+職名の字幕なのが当時のNHKらしさ。最後のスタッフロールではフルネーム。
でも、この角ゴシック体は、石井ゴシックではないような…
手書き文字はいかにもシルクロードのそれだけど
フォントワークス「ニューセザンヌ」か。
最後は、
1995年制定の卵のNHKマーク
ということで、隠すそぶりもなく、新しく字幕を入れ直していることになる。
編集前のフイルムなりテープが残っていて、それを使ったのか。当時の放送用マスターの状態が悪すぎたとかだろうか。ご苦労なことです。
それならば、あと数年待てば、石井太ゴシック体のデジタル字幕も入れられたのに。
この地図もあえて「ソ連」で作り直したのか
「イリ地方」は黄色い文字。
1991年に崩壊した「ソ連」を表示するフォントは、2002年リリース。ただし、前身のセザンヌは1990年。
なお、シルクロード本編の終わり画面は、
卵じゃない旧NHKロゴ
↑下の次回予告はニューセザンヌ。
石井太ゴシック体とニューセザンヌを比べてみる。
本編
もうひとつの
シルクロードでは、語り「石坂浩二」と音楽「喜多郎」(と作家などゲストも?)は独特な手書き文字であった。
今見ると、本編ともうひとつのほうで、別の文字だ。これももうひとつのほうを再編集した時に、改めて書いたのだろうか。似せてはいるが筆跡が違う。
その他エンドロールは縦スクロール。【14日訂正・以下、説明が途切れたり意味不明な点があったのを修正しました】
本編/石井太ゴシック体
もうひとつの/ニューセザンヌ
やっぱりニューセザンヌはモダンスタイルゴシック体らしい印象を受けるし、読みやすい。
そして、石井太ゴシック体は、線の両端が中央より太いなど正統派オールドスタイルゴシック体であることが分かるが、古臭い感じもしない。21世紀でも通用するだろう。
素人の個人としては、ひらがなはちょっと古くさいし、モリサワのオールドスタイルゴシック体で代替可能だし、すでにあまたのゴシック体が存在する中で、数年後にあえてこれを選んで使う人がいるかとも思うけれど。
特に最初の1980年度「シルクロード 絲綢之路(しちゅうのみち)」は、当時は関係が悪くなかった中国との共同取材による貴重な映像で、日本にシルクロードブームを巻き起こした。
僕はリアルタイムでは幼くて記憶がないはずだが、その後の再編集版や再放送で見たことがあり、喜多郎によるテーマ曲が感動的。そんな思い出はいずれまたとして、今回はその字幕・テロップについて。
シルクロードは、1990年代前半~中頃=平成初期はさほど再放送されていなかったのではないだろうか。2000年近くになって、よく再放送されるようになった。「NHKアーカイブス」が発足した頃で、過去の番組を活用する方針になったのだろうか。
そして2000年代に入ると、劣化した映像を復元する「デジタルリマスター」という技術が広まった。
シルクロード 絲綢之路は2005年にリマスターされた。さらに2019年には4Kリマスターされた。最近は、4K放送でないBSプレミアムでも、その4K版を2Kに再変換して放送している。それでも、初回放送時よりもきれいではないかと思える画質。そこまでする必要があるのかという気もするけれど…
4Kリマスターで映像がきれいになったということは、その字幕(の文字)もきれいになっている。初めて見た時は、その鮮明さに驚いた。
アナログ放送、あるいはブラウン管テレビの字幕といえば、輪郭がぼんやりしたものであった。それはデジタル放送と比べてということであって、昔はそれが普通だったわけだけど。
2007年だったか、初めて地上デジタル放送を見た時、映像の鮮明さよりも、字幕がドギツイほどくっきりしているのに違和感に近いものを覚えた。シルクロードリマスターの字幕にも、それに近い感慨を覚えた。
今のデジタル放送のデジタルフォントと同じくっきりさなので、一瞬、リマスター時に字幕を入れ直したのかと疑った。よく見れば、
「き」とか
この書体は、写研「石井太ゴシック体」だ。今のところパソコンでは使えないから、やっぱり写真植字(写植)により記録されていた字幕を、リマスターしたのだろう。写植文字もまた、輪郭がぼんやりしたイメージを持っていたが、ここまでくっきりするのに再び驚いた。
初期のデジタルリマスターは、1コマずつ手作業も多用して作業を進めると聞いたが、今もそうなんだろうか。それともAIなんかも関わるようになったのだろうか。
昔のテレビ番組を見ていると、例えば連続テレビ小説の出演者名やみんなのうたの歌詞では、同じ映像内でも、同じ書体なのに突然文字の縁取りの太さや表示位置が微妙に変わってしまうことがある(時には傾いたり)。時間や技術の制約もあったのだろう。でも、シルクロードではそういうのはなさそうで、きれいにまっすぐそろっている。そこまでリマスターで修正できないと思うので、当時から丁寧に字幕を作っていたのだろうか。写研では、コンピューターを用いたテレビ用電算写植「テロメイヤー」を1983年に発売しているが、シルクロード 絲綢之路当時は発売前だから、手動写植だったのだろうか。
数年後、モリサワから石井太ゴシック体もデジタル化されて発売されれば、これと同等の字幕を容易に製作できるのだろうが、一足先に見られた。
紀行番組だから、画面に地図が表示される。今ならGoogle EarthやフルカラーCGで表示されるところだが、1980年では、
こういう地図
テロップによる線画で、フリーハンドで道や山脈、砂漠を描いて、そこに写植文字を入れている。それが、
むにゅーっとズーム
背景が動画、テロップ自体がズームするという点では、当時としてはがんばったのではないだろうか。わりと最近まで、テレビ朝日の十津川警部シリーズで、列車の運行ルートを説明する時にも、同じ手法がされていた。
でも、こんな地図も。
上と同じ回
砂漠がランダムなドットで示されるのは、この番組定番。
でも、右下固定表示で、山脈の形がなんか違う(ややなだらか)し、何より書体が違う。当時は部分的に色を変えることはしなかったはず。
拡大
細い丸ゴシック体。これってフォントワークス
写研書体ではないし1980年にはまだなかった。デジタルリマスターの一環というよりは、ついでに、補足説明の意味で新しい地図を作って追加したのか?
さらに、絲綢之路を、切り口を変えて再編集した1981年放送「もうひとつのシルクロード」というのも、デジタルリマスターされ放送されている。
「報告/鈴木ディレクター」
フルネームでなく、姓+職名の字幕なのが当時のNHKらしさ。最後のスタッフロールではフルネーム。
でも、この角ゴシック体は、石井ゴシックではないような…
手書き文字はいかにもシルクロードのそれだけど
フォントワークス「ニューセザンヌ」か。
最後は、
1995年制定の卵のNHKマーク
ということで、隠すそぶりもなく、新しく字幕を入れ直していることになる。
編集前のフイルムなりテープが残っていて、それを使ったのか。当時の放送用マスターの状態が悪すぎたとかだろうか。ご苦労なことです。
それならば、あと数年待てば、石井太ゴシック体のデジタル字幕も入れられたのに。
この地図もあえて「ソ連」で作り直したのか
「イリ地方」は黄色い文字。
1991年に崩壊した「ソ連」を表示するフォントは、2002年リリース。ただし、前身のセザンヌは1990年。
なお、シルクロード本編の終わり画面は、
卵じゃない旧NHKロゴ
↑下の次回予告はニューセザンヌ。
石井太ゴシック体とニューセザンヌを比べてみる。
本編
もうひとつの
シルクロードでは、語り「石坂浩二」と音楽「喜多郎」(と作家などゲストも?)は独特な手書き文字であった。
今見ると、本編ともうひとつのほうで、別の文字だ。これももうひとつのほうを再編集した時に、改めて書いたのだろうか。似せてはいるが筆跡が違う。
その他エンドロールは縦スクロール。【14日訂正・以下、説明が途切れたり意味不明な点があったのを修正しました】
本編/石井太ゴシック体
もうひとつの/ニューセザンヌ
やっぱりニューセザンヌはモダンスタイルゴシック体らしい印象を受けるし、読みやすい。
そして、石井太ゴシック体は、線の両端が中央より太いなど正統派オールドスタイルゴシック体であることが分かるが、古臭い感じもしない。21世紀でも通用するだろう。
素人の個人としては、ひらがなはちょっと古くさいし、モリサワのオールドスタイルゴシック体で代替可能だし、すでにあまたのゴシック体が存在する中で、数年後にあえてこれを選んで使う人がいるかとも思うけれど。
NHKの4Kは好きでよく見ているのですが
ウルトラセブンばかりか白黒のウルトラQまで4K(多分画質は2Kダウンコンバート)に対応させていたのは脱帽。
あとは各ケーブルテレビ局制作のケーブル4K。
深夜は各ケーブルテレビ局制作のドローンを使った空撮番組が美しくてお勧め番組です(尾道などはため息ものでした)。
秋田市の姉妹都市である蘭州市もこの沿線で話題のウイグルを抱える場所。
中央から冷遇というのがいかにも繋がり感あるでしょうか。
石井式地図は昔秋田テレビのニュースで見たことありますが、懐かしいかも。
スーラやニューセザンヌもNHKでは古いイメージです。
前者はニュース速報やお天気カメラ、後者は古いタイプがNHK仙台、あたらしいタイプが国会中継で。
東京や秋田で使っているやつも最近は前世代なのか、オリンピックや紅白ではまたべつのがでてきてます、
フジテレビや秋田テレビに近い感じもあり、軽い雰囲気があります。
ナレーションは当時のままなので、つじつま合わせのためでもあるでしょうけれど、タイムスリップしたような気分になります。
初出映像より高画質になるというのは、なんとも不思議でよく分からなくなってきますが、たしかに臨場感は高まります。
>FMENさん
収録当時~1980年代は、まだのどかで平和だったのでしょう。鉄道がやっと部分開通した頃でした。
番組中で蘭州も少し出てきました。
北京オリンピックの選手の発言内容は、モリサワ「UD新ゴ」。
NHKの生番組でモリサワ書体は珍しいですが、東京大会でモリサワが公式フォントだったことが関係しているのかも…と思ったり。
特に邦楽のネタの場合。
ニューセザンヌと併せてますが、見ればすぐわかります。
NHKが出せるように改良したのか、すでにモリサワから試験的に先行使用権を貰ったか買ったのかでしょうか。
さっきのサタデーウォッチも新しいのを見ました。
最近のNHKはフォントワークスメインですから、モリサワとそこまで親密な関係だとすれば、それも意外な気がします。
短いオープニングがついたりもしてます。
秋田、仙台には変化はありません。
いよいよ完全モリサワにかわりそう。
ちなみに、名曲アルバムで石井っぽいのは2015年制作の「津軽じょんから節」です。
けんさくしたらキャプが出てました。
83〜88年あたりは報道にもつかっていたようですね。
フォントワークスにもUDフォントはあるのに、見切りをつけたかのようにモリサワに戻ったのが興味深いです。
2000年代中頃までニュースでも使っていた「NHK丸ゴシック体」という書体もあって、それもモリサワが作ったもの。モリサワとNHKは結びつきが強いみたいです。