たけじいの気まぐれブログ

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藤沢周平著 「神隠し」

2021年02月09日 04時15分53秒 | 読書記

読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう爺さん、
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも 
その都度、備忘録としてブログに書き留め置くことにしている。


図書館から借りていた、藤沢周平著、「神隠し」(青樹社)を読み終えた。本書には、藤沢周平初期の作品に属する、極めて短い市井物短編時代小説11篇が収録されている。中には、わずか6頁、13頁の作品も含まれているが、それぞれ、面白い筋立て、納得いく結末で、飽きずに次々と読み進められる書だと思う。


主な登場人物とあらすじ

「拐かし(かどわかし)」
辰平、お高、又次郎、勝蔵、
錺職人の辰平は、娘お高(17歳)を
富岡八幡の祭礼の日に攫われ、現れた又次郎という男に金をせびられる。お高の婿になるはずの勝蔵が又次郎を尾行するが・・・・。なんとも ずっこけてしまうような結末。「勝蔵にどう言ったものだろう」。辰平は まだ頭が痛かった。

「昔の仲間」
宇兵衛、松蔵、幸太、玄昌、
医者の玄昌に余命半年と見立てられた長門屋宇兵衛、半年の間にやっておかないといけないことを考える内、昔組んで押し込みをした男松蔵の存在が気がかりになりだし・・・。行李の底から匕首を出すと懐にしまった。「旦那でしたか。これは意外でしたな」土間に立っていたのは 岡っ引きの幸太だった。

「疫病神」
信蔵、おくに、おしな、長吉、鹿十、
18年前に家を出ていった極道者の父親鹿十が湯屋の釜番をしていることを知ってしまった信蔵、おしな、おくに兄弟姉妹。さてさてどうする・・・。信蔵の家に取り付いた疫病神、離れる気配は無い。

「告白」
善右衛門、おたみ、お若、佐太郎、清七、
娘お若の婚礼から戻った善右衛門と女房おたみ、老夫婦のしみじみした会話で始まる。昔おたみが行方不明になったことが有り、その真相は不明のままだった。「古い話だがな」・・・、「怒っちゃいやですよ」、「清七さんて人いたでしょう。おぼえてますか」・・・・、「ふーん」、善右衛門はうなった。

「三年目」
おはる、清助、幸吉、
17歳のおはるに3年後に必ず迎えに来ると約束し、江戸に働きに行った男清吉を健気にまっているおはる。「お前はばかだ」、幼馴染の幸吉はぐいぐい櫓を漕ぎながら罵った。

「鬼」
サチ、榎並新三郎、六助、
醜男だった父親紋作に似て並外れて不器量なサチは鬼と呼ばれている。ある日城下から逃れてきた侍榎新三郎が現れ匿って欲しいと頼まれる。面倒を見る内に、「やめてけろ。おら、父ちゃんに叱
れる(ごしゃがれる)」、・・・・、おら大人になった。「おら、やっぱり鬼だハ」、サチは小さく呟き、また涙がこぼれた。

「桃の木の下で」
志穂、鹿間麻之助、鶴谷亥八郎、溝口藤太、
市井物というより武家物に近い作品。本家筋の鶴谷家からの帰り道、志穂は斬リ合いの場面に遭遇し、斬りつけた相手の顔を目撃してしまう。そのことを夫鹿間麻之助に話すのだが その後志穂は 再三襲われることになり・・・。直心影流剣士鶴谷亥八郎(22歳、独身)が真相解明へ・・・。「手強かったぞ、おたくの旦那」・・・、「元凶は郡奉行多賀勝兵衛だ」、どうする?、志穂は自分に問いかけた。闇の中に桃の花が匂っている。

「小鶴」
神名吉左衛門、登米、小鶴(光穂)、寺川藤三郎、
神名吉左衛門、登米の夫婦喧嘩は城中、界隈の名物だった。上司の組頭兵藤弥兵衛にも度々叱責されているが効果が無い。夫婦に子供が無く、養子が必要なのだが その夫婦喧嘩に怖気づき来手が無い。そんなある日吉左衛門が娘を連れて帰ってきた。記憶喪失?の娘、小鶴、養子、婿選びの話に走るが・・・、「それがお前さま、小鶴に迎えが来たのです」、「光穂?」・・そしてその真相は?、実は 光穂の父母は険悪の夫婦中で挙げ句の果て・・、

「暗い渦」
信蔵、弥作、おゆう、おぎん、清太郎、庄助、
筆師の弥作の家からの帰り道、信蔵は8年前に縁が切れたおゆうを見かけ、おゆうの今の暮らしが気になる。8年前の出来事を振り返る信蔵、あの夜が運命の変わり目だったな。「今日、めずらしい人に会ったよ」「おゆうさんだ」、女房のおぎんは針の手を止めて、黙って信蔵をみた。「なに、あの人はあの人でちゃんとやって行くさ」、空になった茶碗を掌の中でもてあそびながら、信蔵はそう思い。若いころにあった。醜悪でそのくせ光かがやくようでもあった思い出が、少しずつ遠ざかるのを感じていた。

「夜の雷雨」
松蔵、おとく、おつね、おきく、清太、善次郎
おつねは弟松蔵に面倒を見てもらいながら 極道者で行方知れずの孫の清太が戻ってきて自分が潰した店を立て直してくれると信じながら裏店で一人暮らししている。病いに倒れた娘おきくを看病し、清太の嫁にと夢をみていたが、清太が戻ってきて・・・、「やめな、清太」、すさまじい雨の音も、ひらめく稲妻も、自分の生涯を嘲り笑っているように、おつねは感じた。

「神隠し」(表題の作品)
巳之助、お増、弥十、伊沢屋新兵衛、お品、庄七、忠吉、
鬱屈したものを抱え込んでいきている岡っ引きの巳之助のところに 伊沢屋のおかみお品が行方不明になっているので探して欲しいとの依頼がきたが・・・、下っ引きの弥十と聞き込、探索していくと意外な真相が・・・、「やめろ!やめてくれ」突然新兵衛が手で顔を覆った。・・・・。巳之助は 注意深くお品を見つめながら「こないだ、忠吉の家に行ったのは どういう気持ちだったのかね」・・・、やっぱり飲まずにゃいられねえ世の中だな。


「あとがき」から引用

雨が降っている。ゲラ直しの手を休めて窓の外をのぞくと、暗い空と雨に濡れそぼった空地が見える。空地のそばに行けば、枯草を鳴らす雨の音がしているだろう。さむざむとした景色のまま、日がくれる気配である。私の中で、東京の冬と郷里の冬が重なるのは、こんな日である。ふだんは二つの冬は質が違うという気持ちが強い。東京の冬は、晴れて日が射せば春かと思うほどあたたかいが、郷里の冬にはそういうあいまいさはなく、冬は冬であるそしてその冬は、いま眼の前にある。枯草が雨に濡れている風景からはじまるのである。雨がみぞれになり、また雨になり、次に霰(あられ)となりといったことを繰り返しているうちに、やがてある日、何者かがきっぱり決心をつけたように、降るものが雪に変わるのである
(中略)
そしてそのころに、それまでためらうようだった冬空が、一夜音もなく雪を降らせ、朝目がさめると外が真っ白になっている。郷里の冬はそんなふうにしてきた
(中略)
ここにあつめた小説は、大半が三十枚前後の短いものである。十五枚というのもある。短いから書くのに楽かというと、そういうこともなく、むしろ逆かも知れない。そういう意味では 出来上がりはともかく、案外苦労してまとめた小説があつまったようである。
                昭和五十四年一月 藤沢周平


 


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