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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ジュリーと恋と靴工場

2024年09月13日 | 映画(さ行)

職人のプライドをかけた靴作り

* * * * * * * * * * * *

25歳、職なし金なし彼氏なしのジュリー。
ようやくフランスのロマン市にある高級靴メーカーの工場での仕事に就きます。
しかし、工場は近代化のあおりで閉鎖の危機。

職を失うことを恐れた靴職人の女性たちが抗議のためパリ本社へ乗り込み、騒動を起こします。
ジュリーもそれに巻き込まれてクビになりかけたりもします。
職人の意地とプライドをかけた女性靴職人たちは
「闘う女」と名付けられた赤い靴を武器に、この危機を乗り越えようとします。

ミュージカル仕立てのストーリー。

何もかも合理化の波にさらされて消えていく・・・、
今だからこそそうしたことに異議を唱えるストーリーなんですね。
入社したてのジュリーはストライキに参加すれば即クビ。
だから少し盛り上がる同僚たちとは距離を置いていたのですが、
次第に手仕事に情熱とプライドを持つ彼女たちの心に寄り添うようになっていきます。

でもね、確かに上質で高級なその靴を、一体どれだけの人が履けるのだろうか・・・
と、私はちょっぴり思ったりするのです。
ジュリーがその前に務めていたところの量産品の安価な靴だって意義があると思うけど。

まあそれは余計な話。
ジュリーの恋も絡めて、さすがオシャレなフランス作品ではあります。

<Amazon prime videoにて>

「ジュリーと恋と靴工場」

2016年/フランス/84分

監督・脚本:ポール・カロリ、コスチャ・テステュ

出演:ポーリーヌ・エチエンヌ、オリビエ・シャントロー、フランソワ・モレル、
   ロイック・コルベリー、ジュリー・ビクトール

 

満足度★★★☆☆

 


スラムドッグス

2024年09月07日 | 映画(さ行)

犬を捨てたヤツに復讐せよ

* * * * * * * * * * * *

犬のレジーは、飼い主のダグに家から遠い場所に捨てられてしまいます。

実は、レジーはダグから数々の虐待に近い扱いを受けていたのですが、
それを遊びかゲームと思い込んでいました。
それでこのたびのことも、ゲームの一つと思い、
とまどいつつも、家を目指してさまよい始めます。

そんな時に、ノラ犬のバグと出会い、
ダグの扱いは虐待で、これはゲームではなく捨てられたのだと指摘します。
飼い主ダグが最低なヤツだとようやく認識したレジーは、復讐を決意。
賛同するバグと、新たに知り合ったマギー、ハンターとともに、レジーの家を目指すことに。

さてさて、ごく気楽に見られるものが見たいと思い見始めましたが、
あまりにも下ネタ満載、下品な言葉のオンパレードに
ちょっとげんなりさせられました・・・。
イヌのことだからいい?? 
イヤイヤイヤ、本作、子供には見せられませんよ。
(実際、PG12だった!!)

それでも、犬たちは十分可愛くユーモラス。
これはすべて実写ではなくて、CGも入ってる感じですね。
犬が話している口元とかを見ると・・・。

ちなみに、彼らはみな違う犬種で、

レジー:ボーダーテリア

バグ:ボストンテリア(野良犬生活を謳歌中)

マギー:オーストラリアンシェパード(飼い主は子犬に夢中で、マギーに興味を失っている)

ハンター:グレートデン(体格はいいが、警察犬になり損ねた臆病犬)

まあ、犬同志の友情は美しかった・・・。

<Amazon prime videoにて>

「スラムドッグス」

2023年/アメリカ/94分

監督:ジョシュ・グリーンバウム

脚本:ダン・ペロー

出演(声):ウィル・フェレル、ジェイミー・フォックス、アイラ・フィッシャー、ランドール・パーク

下品度★★★★★

満足度★★☆☆☆


シグナル

2024年08月09日 | 映画(さ行)

何のために・・・?

* * * * * * * * * * * *

MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生ニックは、
大学のパソコンにハッキングを仕掛けてきたハッカーの居場所を突きとめるため、
友人のジョナス、ガールフレンドのヘイリーとともに、ネバダを訪れます。
しかし、そこで何者かに襲われ、拉致されてしまいます。
そして、気がつくと政府のものらしき隔離施設に監禁されているのでした。

職員は、ニックたちが『何か』に接触したために感染したと説明。
彼らはガッチリした防護服に身を包んでいて、決してニックらに直接触れようとしません。
それ以前に、ニックは病で足が動かなくなってきていて
杖がなければ歩けない状態だったのですが、その足にも変化が・・・!

途中でネバダ州のこの場所がエリア51であることが明かされます。
つまり、エイリアンがらみのお話・・・?

エイリアンの恐るべき技術が、彼らの体を変化させているらしいのですが、
そもそもその目的は?

そしてここの職員たちは果たしてニックらの味方なのか、
それともエイリアン側の味方なのか?

ナゾは深まるのですが、結局最後までなにもかも余計疑問が膨らむばかりで、
サッパリ分らない。

どうもこういうオチは苦手です。

<Amazon prime videoにて>

「シグナル」

2014年/アメリカ/97分

監督:ウィリアム・バンク

出演:ブレントン・スウェイツ、ローレンス・フィッシュバーン、オリビア・クック、ボー・ナップ

不可解度★★★★★

満足度★★☆☆☆


セイント・フランシス

2024年07月19日 | 映画(さ行)

女だからこそ、立ち向かう問題

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大学は中退で、正規の職には就けず、レストランの給仕として働きながら、
夏の子守りの短期仕事を探す34歳、独身のブリジット(ケリー・オサリバン)。

ようやく、6歳の少女フランシスの子守りの仕事にありつきます。
男児を出産したばかりの白人女性マヤと会社勤めの黒人女性アニー、
この2人のレズビアンペアの娘がフランシスです。

始めから、おっと思ってしまう設定。
多様性の時代。
今さら目くじらを立てることもありません。
さて、マヤは産後ウツなのかも知れないけれど、精神的にやや不安定。
また、仕事に出ているアニーは、日中マヤが浮気をしているのでは?
などと疑惑を持っています。
そうした家族の状況も波乱含み。
そして、ブリジットは妊娠していることに気づき、ほとんど悩むこともなしに中絶を決意。
そもそも、その相手のことを「付き合っている彼氏」とも認識していないようです。
単なるセフレ・・・? 
でもその彼は意外とイイ奴で、ブリジットを気遣ってくれたりしているのですけれど・・・。

ブリジットは、子供好きというわけではありません。
そしてフランシスは無愛想で気難しげ。
実は母親が赤ん坊にかかりっきりでしかも精神不安定ということで、
フランシスをかまってもらえず、淋しくて不機嫌になっていたようです。
そんなわけで、なんとも良好とは言いがたい、ブリジットとフランシス。

生理のこと、妊娠のこと、避妊のこと、妊娠中絶のこと・・・。
人類の半数は女性であるのに、
ドラマや映画でこのようなことが取り扱われることはとても少ないですね。
本作では目をそらさず、真っ正面からこのような問題に取り組んでいます。

ブリジットとフランシスは次第に友人同志のような良い関係に向かっていきます。
女性にしかできない、妊娠、出産。
リスクも大きいけれど、でもやはり子供は宝であるという示唆は悪くはありません。

子供がいなければ未来もないですもんねー。

 

<Amazon prime videoにて>

「セイント・フランシス」

2019年/アメリカ/101分

監督:アレックス・トンプソン

脚本:ケリー・オサリバン

出演:ケリー・オサリバン、ラモナ・エディス=ウィリアムズ、チャーリン・アルバレス、リリー・モジェク

 

多様性度★★★★★

女性の生理度★★★★☆

満足度★★★★☆


散歩時間~その日を待ちながら~

2024年07月06日 | 映画(さ行)

コロナ禍で得られなかったもの

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獅子座流星群がピークを迎えた2020年11月17日。

コロナ禍の始まりの年。
人々が戸惑いと不安の中で、その閉塞感とどのように折り合いを付けていったのか・・・、
今となっては思い出したくもないような気もしますが、重要な歴史の1ページ。
その意味で将来、貴重な資料的映像作品となるかも知れません。

コロナ禍で、通常なら当たり前にできることが、できなくなってしまった。
そんな人々の群像劇です。

結婚式が挙げられなくなってしまった新婚夫婦、亮介とゆかり。
都会から離れた友人の家で、お祝いパーティを開いてくれました。
そんな語らいの場で、日頃から本音を語らない亮介の隠し事を知ってしまったゆかり。
その場には不穏な空気が流れます・・・。

出演舞台の中止がつづく、若手俳優の片岡。
ウーバーイーツのバイトをしていますが、とりあえず次の公演の予定は立っていて・・・。

帰省できず、里帰り出産の我が子を抱くこともできずにいる、タクシー運転手。

学校イベントがほとんど中止となってしまった、幼馴染みの中学3年男女。
恋心を打ち明けられずにいます・・・。

一応別々の話ではありますが、途中で互いがほんの少し接点を持ったりするところが楽しい。

それぞれが抱えていた失意や閉塞感は、
結局はやはり人とのつながりを持つことで癒されていくようです。
そして、夜空を流れて行く獅子座流星群。
その雄大な事象の美しい光景に、ちょっぴり勇気と力をもらうのでした。

<Amazon prime videoにて>

「散歩時間~その日を待ちながら~」

2022年/日本/95分

監督・原案:戸田彬弘

脚本:カクカワサキ

出演:前原滉、大友花恋、柳ゆり菜、中島歩、篠田諒、めがね

 

癒やし度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


ザ・ウォッチャーズ

2024年07月02日 | 映画(さ行)

見ているのは、何者か

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M・ナイト・シャマラン制作、その娘さんのイシャナ・ナイト・シャマラン監督作品です。

舞台はアイルランド。

28歳のアーティスト、ミナ。
鳥かごに入った鳥を指定の場所に届けに行く途中、
地図にない不気味な森に迷い込みます。
スマホやラジオが急に使えなくなり、そして車も動かなくなってしまいます。
助けを求めようと車外に出ると、その車も消えてしまいます。

やむなく森の中をさまよううちに、忽然とガラス張りの小屋が現れます。
そこにいたのは、60代マデリン、20代シアラ、そして19歳のダニエル。

彼らは、自分たちはここで毎夜訪れる“何か”に監視されていると言うのです。

ここで暮らす三つの掟は

・監視者に背を向けてはいけない。

・決してドアを開けてはいけない。

・常に光の中にいる。

これを破ると殺されるというのですが・・・。

状況を変えようとしない3人に対して、ミナはなんとか監視者の状況を探り、
この森から脱出できないかと方法を探ります・・・

私、この予告編を見たときに、常に彼らを監視しているというのは、
つまりテレビなどで彼らのことを見ている「視聴者」なのでは・・・?と、
つい以前にどこかで見たようなストーリーを想像してしまったのですが、
安心してください。
それは全く違いました!

アイルランドが舞台というあたりが多分ミソでして、
古代からの伝承が絡んでいる・・・。

まあ、たとえそれがどんな相手ではあっても、
決してあきらめず、希望を持って、できる限りのことをするということが大事なのでしょう。

本作は、ミナが15年前の母の死に関してのトラウマを抱えていて、
そのことからの脱却も合わせて行われる、
と、前進するタフな女性像は、よいですね。

<シネマフロンティアにて>

「ザ・ウォッチャーズ」

2024年/アメリカ/102分

監督・脚本:イシャナ・ナイト・シャマラン

制作:M・ナイト・シャマラン

原作:A・M・シャイン

出演:ダコタ・ファニング、ジョージナ・キャンベル、オルウェン・フエレ、
   アリスター・グラマー、オリバー・フィネガン

 

スリル感★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン

2024年06月14日 | 映画(さ行)

激動の時代を生きて、青年は成長する

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1937年、ナチスドイツとの併合に揺れる第二次世界大戦前夜のオーストリア。

タバコ店の見習いとして働くため、ウィーンにやって来た17歳、フランツ。

店の常連であるフロイト教授と懇意になります。
教授は言います。
「人生を楽しみ、誰かに恋をするように」

その気になったフランツは、ボヘミア出身の女性・アネシュカに一目惚れし、
教授にさらなる助言を求めます。
そんなことをするうちに、フランツとフロイト教授は年齢を超えた友情を深めていきます。
しかし、時代は激動の時へと突入していきます。

自然がいっぱいの故郷から出てきたばかりのフランツは、
いかにも少年っぽく無邪気な感じでした。

しかし、タバコ店の仕事を覚え、フロイト教授と知り合い、
恋を知ることによって見違えるように成長していきます。
終盤のフランツはもう別人のよう。

いかがわしいダンスをして生きるアネシュカにとって、
純粋な坊やであるフランツを愛おしいとは思うけれど、
本気で恋し自分の将来をかける相手ではないと思う・・・、
それは仕方ないですね。
初恋は報われないモノです・・・。

ただ、フランツにとってはそれ以上に、フロイト教授から学ぶもののほうが大きい。


ジークムント・フロイトは、その頃すでに心理学者として名前が知られていました。
ところが、彼はユダヤ人。
そのころオーストリアは、内部でナチス支持者の活動が活発になり、
1938年にはドイツに併合されてしまいます。
ということで、次第にユダヤ人への待遇が悪化。
フロイトはイギリスへ逃れるほかなくなってしまいます。

なのでこの場合、ナチスドイツがいきなりオーストリアに侵攻したのではなく、
オーストリア自体がドイツと同化しようとしたとも言えるわけです。
もちろん、そのことに反対する人々もいたでしょう。
フランツとタバコ店の店主もそういう立場ではあったのですが、
店主は猥褻本を密かに販売していたということでいきなり連行され、
そのまま帰らぬ人となってしまうのです・・・。

フランツは、フロイトが「見た夢を記録しておくように」との言葉に従って、
ずっと見た夢をメモし続けていました。
そのため作中もフランツの夢のシーンが多く出てきます。
それはアネシュカへの思慕の表れであったり、
抑圧された時代への不安の表れであったり・・・
そういう心の深層を表わすモノのようではありますが、夢ですから支離滅裂なもの。
いつしかフランツはそのメモを店のウインドウに張り出すようになります。

それは、誰が読んでも意味不明。
そしてこの行為自体も意味不明のようでもありますが・・・。
例えば誰がこれを読んでも、政府やナチスを非難しているようには見えない。

けれど、フランツはこのメモが「自分自身」を表わしていることを知っています。
自分の「自由」な心は誰にも犯すことはできない。
そう宣言しているようでもありますね。
ステキなエピソードです。

 

<Amazon prime videoにて>

「17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン」

2018年/オーストリア、ドイツ/113分

監督:ニコラウス・ライトナー

原作:ローベルト・ゼーターラー「キオスク」

出演:ジーモン・モルツェ、ブルーノ・ガンツ、ヨハネス・クリシュ、エマ・ドログノバ

 

時代描写度★★★★★

少年の成長度★★★★☆

満足度★★★★☆


それいけ!ゲートボールさくら組

2024年05月31日 | 映画(さ行)

ほっこり

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76歳、織田桃次郎は、カレー店を営み、息子家族とともに暮らしています。

ある日、かつて高校ラグビーでマネージャーを務めていたサクラが経営する
デイサービス・桜ハウスが倒産の危機に瀕していることを知ります。

桃次郎は元ラグビー部の仲間を集め、サクラを助けようと相談を始めます。
銀行から立て直しの融資を得るためには、まずは加入者を増やす必要があります。
そのため試行錯誤の末、ゲートボール大会に出場して優勝し、
施設の知名度を上げようということに。

彼らは「チームさくら組」を結成し、高校時代に培ったチームワークで奮闘します。
しかし、彼らの前に悪徳ゼネコン企業の陰謀が立ちはだかる!!

良い感じにちょっと枯れた面々の、ほっこりする人情コメディです。

かつての鬼マネージャー(?)サクラは実はちょっと認知症で、
この度のゲートボール大会も若き日のラグビーの試合と混同しているようなのですが・・・。

でも周囲のみんなもそんなことを指摘したりはしない。
普通に皆の日常と溶け込んでいるのがなんともステキでした。

森次晃嗣さんの登場シーンでは、さりげなく少しアレンジした
「ウルトラセブン」のテーマ曲が流れたりして・・・。

そしてまた、故三遊亭円楽さんがゲートボール決勝戦の解説者役で出演されていて、
なんだか感慨深い。

<WOWOW視聴にて>

「それいけ!ゲートボールさくら組」

2023年/日本/107分

監督・脚本:野田孝則

出演:藤竜也、石倉三郎、大門正明、森次晃嗣

 

老人コメディ度★★★★☆

満足度★★★★☆


せかいのおきく

2024年05月29日 | 映画(さ行)

江戸のSDGs

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江戸時代末期。

武家育ちのおきく(黒木華)は、寺子屋で子供たちに読み書きを教えながら、
父(佐藤浩市)と2人で貧乏長屋に暮らしています。

ある雨の日、厠のひさしの下で雨宿りをすると、
紙くず拾いの中次(寛一郎)と、下肥買いの矢亮(池松壮亮)に出会います。
それから3人は少しずつ心を通わせるように。

ところがその後、お菊はある事件に巻き込まれ、
父を亡くし、自身は喉を切られて声を失ってしまいます・・・。

 

ほとんどがモノクロ、ごくわずか画面に色が差す部分もあります。

下肥買いという矢亮の商売。
作中では「汚わい屋」と呼ばれていましたが、
つまり人家の厠の糞尿をくみ取って買い上げ、
運搬し、農家へ肥料として売るのです。

糞尿を汲んでお金を払うと言うのにちょっと驚きました。
でも、このシステムのおかげで江戸の町はとても清潔だったと言いますね。
パリの町などは路地が糞尿にまみれていたといいますから・・・。
紙くず拾いの中次も、結局下肥買いのほうが儲かるので、
矢亮と組んで仕事をするようになります。

ともあれ、何もムダにしない江戸のSDGsをしっかり堪能させていただきました。

・・・と言うわけで、本作その糞尿のシーンが実に多い!! 
だから、これは白黒で良かった~と思う次第。
カラーはリアルすぎてちょっと恐い。
そして映像に匂いがなくて良かったなあ・・・。

おきくは、感情豊かで思い切りの良い性格。
ほとんど強情と言ってもいいくらい。
一応武家の娘ですが、すでに本人にはそんな自覚もなく、
汚わい屋の中次になんの差別も持たずに心惹かれていきます。
ところが、声を失ってしまったおきく。
おきくの思いを伝えるにはジェスチャーしかありません。
中次は読み書きができないのです・・・。
しかし2人にはそんなことはなんの障害にもなっていないというのも、いっそ心地よいですね。

佐藤浩市さんと寛一郎さんの親子共演も見所です。

 

<WOWOW視聴にて>

「せかいのおきく」

2023年/日本/89分

監督・脚本:阪本順治

出演:黒木華、寛一郎、池松壮亮、真木蔵人、佐藤浩市、石橋蓮司

 

SDGs度★★★★☆

ばっちい度★★★★★

満足度★★★★☆


猿の惑星 キングダム

2024年05月14日 | 映画(さ行)

凶悪なのは猿よりも・・・

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最近私は、この手のSFアクション超大作というような作品を
あまり見なくなってきているのですが、
このシリーズはずっと見てきているので、やはり見なければ、と。

「猿の惑星」創世記(ジェネシス)→新世紀(ライジング)→聖戦記(グレート・ウォー)
に続く第4弾です。

300年後の地球。
人類は退化し、高い知能と言語を得た猿たちが地球の新たな支配者として君臨していて、
中でもプロキシマス・シーザーは宗教的カリスマ性と強大な軍団を率いることで
巨大な帝国「キングダム」を築こうとしていました。

本作の主人公ノアは、そんな帝国からは少し離れた
山岳部の小さな集落に暮らしています。
彼らはワシを飼い慣らして生活する部族で、ノアは族長の息子なのでした。
ところが突然プロキシマス配下の一団が襲撃し、
父は殺され、他の村人はさらわれてしまいます。

ノアは村人を取り戻すため、プロキシマスの元へ向かうことに。
そんな中でノアは、年老いたオランウータンや、
人間の女性ノヴァと出会い同行することに。

人間は知性に欠け、言葉も話さないはずなのですが、
ノアはノヴァの目に知性のきらめきを感じます・・・。

 

ノアの部族は言ってみれば少数民族。
プロキシマスらからみれば取るに足らない貧しい田舎者。
ノアの村の一族は奴隷のように使役するために捕られ、連行されたのです。

猿の社会でも結局このように格差が生じているのも興味深いですね。
けれどノアの部族は自然と共に生きる誇り高い一族。
こうした設定がステキなのです。

そしてかつて人間が築いた都会の街並みは多くが崩れ去り緑に覆われて、
廃墟というよりもむしろ美しい光景を生み出しています。
そうした地上の様子がなんとも興味深い。

そして、ノアと旅の道連れになるノヴァは、実はしっかりとした知性を持つ「人間」。
始めはそのことを隠していましたが、次第に正体を現していきます。
彼女は何かの意図を持って、プロキシマスの元へ行こうとしている。
彼女の秘密とは一体何・・・?

と言うことなのですが、う~む、
結局一番凶悪のは「人間」なんだな、と私は思ったのでした。
ノアの村が無性に懐かしく居心地良く思えてしまいます。

それにしても今さらですが猿の表現が素晴らしいです。
今はもう特殊メイクではなくて、「パフォーマンスキャプチャー」なんですね。
猿の顔の表情、口元、なんの違和感もなく、感情が表現されます。
ストーリー、映像共に、思いのほか満足できました!

余談ではありますが、これまで創世記、新世紀、聖戦記と、
ステキに文字数をそろえ・韻を踏む題名で来たのに、
ここでいきなり「キングダム」になってしまったのは、いかにも残念。
なんとかそろえられなかったのかあ・・・。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「猿の惑星 キングダム」

2024年/アメリカ/145分

監督:ウェス・ボール

出演:オーウェン・ティーブ、フレイヤ・アーラン、ケビン・デュランド、
   ピーター・メイロン、ウィリアム・H・メイシー

人類衰退度★★★★☆

自然回復度★★★★★

満足度★★★★☆


ジュリア(s)

2024年04月15日 | 映画(さ行)

分岐する人生

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ピアニストを目指す女性、ジュリアの人生を描きます。
が、その描き方が普通ではない。
些細な偶然や選択の積み重ねで分岐したいくつかの人生を、
平行して描いているのです。

それがつまり、題名の(s)の意味。
一つの物語を生きるジュリアだけではなく、
分岐したいくつかの生を生きる複数のジュリアを描いているわけです。

ピアニストを夢見ていた17歳の秋。
ベルリンの壁の崩壊を知り、友人たちとベルリンへ向かった日。



バスに乗りベルリンへ到着して様々な出会いのあったジュリア。
バスに乗り遅れて、何も起こらずに過ごしてしまったジュリア。

本屋で運命的な出会いがあったジュリア。
出会い損ねてしまったジュリア。

シューマンコンクールで受賞し、ピアニストの道を歩み始めたジュリア。
受賞を逃し、希望の道へ進めなくなったジュリア。

 

バイクを自分が運転したジュリア。
そうではなかったジュリア・・・。

 

自分の選択であれ偶然であれ、運命が良い方に転がったりそうでなかったり、
結果が変わってきます。
例えば書店で偶然出会った男性と恋をし、結婚することになったとしても、
人生はそこで終わりというわけではない。
その結婚の末どうなるかはまた別の話。

 

この物語で最後にこれまでの人生、
あの時こうしていれば、ああしていれば、また違った人生になったのかも知れないと
想像を巡らせるジュリアは、
実は多くの分岐で良くない方へ良くない方へとたどった道の結果ではなかったか。

けれど、彼女は思うのです。
でも今、とても満ち足りて幸せな心地がする。
結局はやはりこの道が正解だったのではないかと・・・。

 

こんな風に思うと、実際「今」が不満足なことばかりに思えようとも、
先のことは分らない、だからそう悲観することもない・・・
というように思うことも大切なのかな、と思う次第。

 

<WOWOW視聴にて>

「ジュリア(s)」

2022年/120分/フランス

監督:オリビエ・トレイナー

脚本:カミーユ・トレイナー、オリビエ・トレイナー

出演:ルー・ドゥ・ラージュ、ラファエル・ペルソナス、イザベル・カレ、
   グレゴリー・ガドゥボワ、エステール・ガレル

平行世界度★★★★☆

満足度★★★.5


正欲

2024年04月08日 | 映画(さ行)

地球に留学してきた宇宙人

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横浜で検事として働く寺井啓喜(稲垣吾郎)。
不登校になった息子の教育方針を巡り、妻と諍いを繰り返しています。

広島のショッピングモール契約社員、桐生夏月(新垣結衣)。
実家で代わり映えのない日々を送っています。

そんな夏月とは幼馴染みの佐々木佳道(磯村勇斗)は、東京で就職していましたが、
両親が亡くなったのを機に、広島に戻ってきます。

 

大学のダンスサークルに属する諸橋大也(佐藤寛太)。
準ミスターに選ばれるほどの容姿ですが、誰にも心を開こうとしません。

学園祭実行委員を引き受けた神戸八重子は、男性が苦手で、
不意に触られたりすると過呼吸を起こしそうになるほどですが、
なぜか大也には魅せられてしまいます。

 

このように群像劇なのではありますが、終盤、それぞれに関係ができてくる所も見所。

登場人物の多くは世間一般で言うところの「普通」ではなく、生きにくさを感じています。
夏月はいう。
「自分は地球に留学してきた宇宙人のようだ。」

人と違う。
普通ではない。
わかり合えない。
・・・そんな中で、彼らは次第に孤独の淵に沈んで行きます。
けれど、もしその「普通」でない部分を共有できる相手がいるとしたら。

人と人は、何もセックスという関係でなくともつながりあえるのではないか。
いわゆるアセクシュアルというのともちょっと違うのだけれど、
人のあり方は千差万別、様々であるのと同じく、
人と人とのあり方も自由自在。
それでいいと思います。

さて、これら登場人物の中であくまでも「普通」にとらわれるのが、寺井です。

彼は不登校の息子を困ったものだと思い、
なんとか学校へ行ってほしい、このまま道を踏み外していたら、
将来も望めないと思っているのです。
でも妻は、息子の思いを汲んで、
なんとか息子が息子らしく不登校のままでも毎日を明るく過ごしてほしいと思っている。

 

寺井は作中では、多様化を理解しないダメな父親というような役柄なのですが、
でもつまりこれは、社会一般のありようを代表しているだけなんですね。
そうした「普通」の押しつけがなければ、どれだけ多くの人々が生きやすくなることか・・・。

このような作品を多く見れば、少しは私たちの意識も変わっていくのかな・・・?

 

<Amazon prime videoにて>

「正欲」

2023年/日本/134分

監督:岸善幸

原作:朝井リョウ

脚本:港岳彦

出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、諸橋大也、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり

 

普通逸脱度★★★★☆

満足度★★★★.5


The Son 息子

2024年04月06日 | 映画(さ行)

父と息子

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フロリアン・ゼレール監督の戯曲「Le Fils 息子」が原作です。

妻と、まだ生まれて間もない息子とともに、充実した日々を送る弁護士・ピーター(ヒュー・ジャックマン)
ある日、前妻ケイトから彼女の元で暮らす17歳の息子・ニコラス(ゼン・マクグラス)の
様子がおかしいと相談を受けます。
ニコラスは心に闇を抱え、学校にも行けず、絶望の淵にいます。
そして、ピーターの元に引っ越したいと懇願します。
ピーターは妻を説き伏せ、息子を受け入れて一緒に暮らし始めますが、
親子の距離はなかなか埋まらず・・・。

ガッツリと父と息子の確執を描く物語。
ここで父と息子というのはもちろんピーターとニコラスのこと。
ニコラスは、母と自分を捨てて、新たな恋人と結婚し子どもまでなしてしまった父に
複雑な感情を抱いているのです。
大好きで敬愛する父親。
だけれども、自分は捨てられてしまった・・・。
そのことが彼の中でいつまでも大きく心を占めているのでしょう。


そしてまた、ピーターは自分自身の父親・アンソニー(アンソニー・ホプキンス)との関係に
いまだに緊張感を覚えているのです。
ピーターが子どもの頃の父は、仕事に忙しくいつも不在。
そして威圧感が大きい。
そんなことで、つい疎遠になっています。

こうしたことが、自分がうまく父としてニコラスと関係を結べない
要因なのではないかとも思えてしまう・・・。

でも、ピーターも頑張ったと思うのですよ。
17歳というただでさえ不安定な年頃の疎遠だった息子を引き取り、
極力会話を持とうと努めた・・・。
学校へはなんとしても行かなければダメだと、
いささか言うことが独善的ではありましたが・・・。
ニコラスの暗い淵に沈んだ心はなかなか浮上しない・・・。

 

では一体ピーターはどうすれば良かったのか。
答えはありませんが、その都度1人1人が互いにまっすぐ向き合って
考えていくほかないのでしょう・・・。

輝くような笑顔を見せる幼かったニコラスの記憶が切ないですね・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「The Son 息子」

2022年/イギリス/123分

監督・原作・脚本:フロリアン・ゼレール

出演:ヒュー・ジャクマン、ローラ・ダーン、バネッサ・カービー、ゼン・マクグラス、アンソニー・ホプキンス

 

父子確執度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


セールス・ガールの考現学

2024年04月01日 | 映画(さ行)

自立する自信を持てば、光る

* * * * * * * * * * * *

モンゴル首都ウランバードル。

サロールは、家族と暮らしながら大学で原子工学を学んでいます。
ある時、友人から代役を頼まれて、
怪しげなアドルトグッズショップで、アルバイトをすることに。
人生経験豊富な女性オーナー・カティアが営むその店には、
大人のおもちゃがところ狭しと並んでいて、毎日様々な客がやって来ます。
サロールはカティアとも交流するようになり、
奔放ではあるけれど孤独なカティアの人生が浮かび上がります。

モンゴルの作品。
こういっては何ですが、素晴らしく洗練されていて、
そしてちょっぴり力が湧いてくる、オシャレでステキな作品。
モンゴルという国への認識を一新しました。
今やどこの国も、特に都市部は状況が似ているようです。
モンゴルでもおそらく若きクリエイターが自分の力を発揮できる環境が
きちんと整っているのでしょう。
良きかな。
自分の中の古くさい世界観は一掃しなくては、とつくづく思いました。

サロールは始め、あどけなくてちょっぴりイモ姉ちゃん風ですらある女の子なのですが、
ストーリーが進むにつれて次第に洗練されていきます。

何もカティアからオシャレの仕方を教えてもらったわけではない。
彼女との交流の中から、
親に言われたとおりの道ではなく、本当に自分がやりたいことを自分の足で歩むように、
彼女自身が自覚し始めたから。
そしてその意志が内側から光り始めたから。

アダルトグッズのショップ・・・あまりにも怪しげと思ったのですが、
サロールは割り切って、照れたり怪しんだりもせず淡々と売り子を務めます。
こんなにも様々なものがあるのか?と私も驚いてしまいましたが・・・。
映像としても一つにじっくり焦点をあてたりはぜず、チラリと見せる程度。
だから意外とそんなにイヤらしい感じはしません。

それと、この「セールス・ガールの考現学」という邦題をつけた方には拍手を送りたい。
ショップの売り子がセールス・ガール。
あえて、怪しいお店のことには触れていません。
そして「考現学」などという言葉は多分ないけれど、
考古学をもじって現代を考えるという学問風の言葉を作ったのでしょう。
サロールが原子工学などと言う堅い勉強をしていたことにも繋がります。
ということで、ちょっとスタイリッシュに決めたこの題名が、
なんともマッチしています。
すっかり気に入ってしまいました!!
途中で歌が入るのも、楽しい!!

<Amazon prime videoにて>

「セールス・ガールの考現学」

2021年/モンゴル/123分

監督・脚本:ジャンチブドル・センゲドルジ

出演:バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル、エンフトール・オィドブジャムツ

 

女子成長度★★★★★

満足度★★★★★


春画先生

2024年03月27日 | 映画(さ行)

笑って楽しもう

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肉筆や版画で人間の性的な交わりを描いた「春画」の研究者、
「春画先生」こと芳賀一郎(内野聖陽)。
妻に先立たれて以来、世捨て人のように研究に没頭する日々を送っています。
春野弓子(北香那)は、まるで吸い込まれるように芳賀の誘いに乗り、
春画鑑賞を学ぶことに。

弓子は春画の奥深い魅力にのめり込み、
そしてまた、芳賀に恋心を抱くように・・・。

芳賀が執筆する「春画大全」の完成を急ぐ編集者・辻村(柄本佑)。

そして、芳賀の亡き妻の姉・一葉(安達祐実)。

ねじれた性愛の行き着く先は・・・?

ちょっと危ない雰囲気の題名に、若干見るのを躊躇していたのですが、
実際に見てみると、やっぱり・・・でした(!)
でも、作中で江戸時代には「春画」は、もっとカラリとしていて、
皆で笑い楽しんで見るものだった、という先生の説明があります。
すなわち本作も、そのようにカラリと笑い飛ばしながら見るのが正解なのでは、
と思いました。

春画といえば、いかにもあからさまなその部分にばかり目が行ってしまいますが
その他の部分によく目をこらせば、
さまざまな技巧に尽くされた仕草、表情、小道具など
計算された表現。
ちょっと興味が湧いてきます。
あまり表に出ない、これも貴重な日本文化でありましょう。

 

弓子役は北香那さん。
私、Snow Manの渡辺翔太さん主演ということで
『先生、さようなら』いう深夜枠のドラマを見ていたのですが、
そこに登場する由美子先生が、この北香那さんであります。
本作の弓子とはかなり雰囲気が違う。
というか、こんな体当たりの役もこなす方だったのだなあ・・・と、ちょっと驚きました。

この方、今後有望だと思うので、要チェックです。

<Amazon prime videoにて>

「春画先生」

2023年/日本/114分

監督・原作・脚本:塩田明彦

出演:内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実

性愛度★★★★☆

満足度★★★☆☆