映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

私がケーキを焼く理由

2023年11月29日 | 映画(わ行)

ケーキ作りの理由

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実話を元にしています。

L.A.で暮らす20代、コリンとジェーンは、親友同士でルームシェアをしています。
コリンは社交的で、内気なジェーンにいろいろな人と出会い、
自信を持って生きてほしいと思っています。

そこで考えついたのが、ジェーンの特技、ケーキ作りをいかして、
バーに手作りケーキを持ち込むというもの。
ケーキを周囲の人に配りつつ、話のきっかけとして、
いろいろな人と親しくなろうというのです。
毎週一回、一年で50個を目標として
ケーキ作りとケーキの持ち込み計画を始めました。

ところがそんな時、コリンが病を抱えていることが分かります・・・。

バーに手作りケーキを持ち込んで、切り分けて配る・・・?
始めは意味不明にも思えたのですが、
しかしなるほど、お酒を飲む場ではありますが、
男性たちも本当は甘いものが嫌いじゃないということが多い。
怪訝な顔をされながらも、次第にウケるようになっていきます。
そもそもバーにケーキを持ち込むなんて、OKなのか?とも思うけれど、
この場合、バーの場所はその都度異なるので、それぞれ一回限り。
「ま、いいか」と思ってくれる範囲内ではあります。

確かに、オシャレに美しくできたケーキはSNS映えもしそうですし、
実のところ私も食べてみたいです・・・。

さて、それはともかく、コリンの病は脳腫瘍・・・。
抗がん剤治療や放射線治療が始まり、体調も崩れていく・・・。
そんな中でジェーンは、もうケーキ持ち込み企画はやめよう、というのですが、
コリンはあくまで続けようというのです。
せっかく始めたことだし、楽しいことをできるだけ楽しみ続けたいと思ったのでしょう。
ケーキ作りの目的が変化してきています。

病で少しずつ衰えていくコリンが切ない・・・。

 

自動車修理工のコリンのお父さんが、家具やら家の作り付けやらを、
いつでもどこでも修理したり調整したりしているのがナイスでした。

そしてまたお母さんも、取り乱さず、しっかりと構えていて、
でも愛情たっぷりなことも伝わり、ステキなお母さん。
娘の自立を尊重しながら、温かく見守る。
なかなかこういう親にはなれないと思いますが、理想です。

 

<Amazonプライムビデオにて(オリジナル)>

「私がケーキを焼く理由」

2023年/アメリカ/120分

監督:トリッシュ・シー

原作:オードリー・シュルマン

出演:ヤラ・シャヒディ、オデッサ・アジオン、ナビド・ネガーバン、
   マーサ・ケリー、アディナ・ポーター、ロン・リビングストン

病気のオンナノコ度★★★★★

友情度★★★★☆

満足度★★★☆☆


2023年11月28日 | 映画(か行)

ぶっ飛び本能寺の変

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お待ちかね、北野武監督最新作。

天下統一を目指す織田信長(加瀬亮)。
毛利、武田、上杉や京都の寺社勢力と攻防を繰り広げています。

そんな時、配下の荒木村重(遠藤憲一)が謀反を起こし、あげくに逃走。
信長は、光秀(西島秀俊)、秀吉(ビートたけし)たち家臣に
自身の跡目相続をエサに、村重の捜索を命じます。
秀吉はこの騒動に乗じて信長と光秀を陥れ、自ら天下を取ろうと狙っていて・・・。

ということで、戦国時代のドラマとしては最も見所とも言える
本能寺の変までを描きます。

北野武監督構想30年と言われる本作。
実は脚本は確かに30年前に書いたけれど、ほったらかしにしていて、
30年ずっと考えていたわけではない、と
TV番組のインタビューではおっしゃっていましたが・・・。

おなじみの歴史的人物たちですが、何しろ北野作品なのでとにかくぶっ飛んでいます。
なかでも、名古屋弁の暴君信長の迫力。
恐いですねー。
普段物静かな役が多い加瀬亮さんをあえて充てたそうで。
でも確かに信長はこんな感じの人物だったのかも・・・と思えてきます。
秀吉は人でなしだし、家康は食えないタヌキ。
そうでなければ、戦国時代は生き抜けません。

そしてまた本作の大きな特徴は、これら登場人物らの妖しい関係。
衆道は武士の間では一般的だったといわれますが、
でも確かにこれは、30年前に映像化することは難しかったのではないでしょうか。

今は美少年でなくおじさん同士であっても、
色々とドラマ化もされ、世間の認知も得ていて、
さほど眉をひそめるようなことでもなくなっている・・・
ということで、満を持しての映画化であるのかも。

肝心の信長最期のシーンがまた驚きですが、
一瞬の出来事なのでお見逃しなきよう。

血みどろで首が飛びまくる本作。
残酷もここまで振り切ると、おかしみになってきます。
北野監督、また一つの代表作となりますね。

<シネマフロンティアにて>

「首」2023年/日本/131分

監督・原作・脚本:北野武

出演:ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、木村祐一、遠藤憲一、
   大森南朋、浅野忠信、小林薫、副島淳

 

歴史解釈の自由度★★★★★

残酷度★★★★☆

満足度★★★★☆


ラスト・ホールド!

2023年11月27日 | 映画(ら行)

スノ担必見!!

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本作、以前から見たいと思っていたのですが、その時はまだprimeで配信になっていなくて、
でも先日ふと気がつくと、入っていました!! 
もっとPRすればいいのに・・・。
まあつまり、Snow Man出演作なのです。
まだジュニア時代、6人体制の時のものですが。

 

大学4年の岡島(塚田僚一<A.B.C-Z>)は、部員1人のボルダリング部存続のため、
6人の新入生勧誘に成功。
しかし1人をのぞいては初心者。
個性的なその6人も、次第にボルダリングの楽しさに目覚め、
部員同士の絆も生まれていきます。
しかし、彼らが目指すインカレ団体戦を目前に、ある事件が・・・。

主演の塚田僚一さん以外はSnow Manの6人で占めていて、
今より少しだけ若き日の彼らをたっぷり堪能できます。

役柄としては・・・

☆メガネで東北なまり、山に登れると聞いて入部してしまった・・・ふっかさん

☆ボルダリングをやっている男に彼女を取られて、リベンジに燃える・・・しょっぴー

☆バンド活動休止中で他にすることがないドラマー・・・舘様

☆常に先を読む、ゲームおたく・・・あべちゃん

☆ダンス大好き、ダンス部とのかけもち・・・さっくん

☆唯一のボルダリング経験者、しかし何やら後ろめたそうな過去が?・・・ひーくん

それぞれの個性を生かした配役。
東北訛りのふっかさんがいい味。
ドラムをたたく舘様もカッコイイ!!。

彼らの台詞回しは、まるでコントを見てるみたいで、ついニマニマしてしまいます。
ひーくんの演技がそこをぐっと引き締める。

らうーる、めめ、こーじくんの3人がいないのが極めて残念ではありますが・・・。
ジュニア時代、デビュー前にこんな映画に出ていたとは・・・。
その時見た人は果たしてどれくらいいたでしょう? 
その頃からSnow Manを応援していたファンの方を私は心から尊敬します・・・。
スノ担の今こそ見たいお宝作品。

ところで、今年も年末に放送される「SASUKE」に、常連の
塚田僚一くん、そして岩本照くんも出場します。
私、これまであまりきちんと見たことがなかったのですが
今年は見たいと思います!!

<Amazonプライムビデオにて>

「ラスト・ホールド!」

2018年/日本/90分

監督:真壁幸紀

出演:塚田僚一、岩本照、深澤辰哉、渡辺翔太、宮舘涼太、佐久間大介、阿部亮平、勝村政信

Snow Manの魅力度★★★★★

ストーリー性★★★.5

満足度★★★★★(ファンとしての満足度なので、あまり参考にしませんように)


「とわの庭」小川糸

2023年11月25日 | 本(その他)

孤独と絶望の淵から

 

 

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盲目の女の子とわは、大好きな母と二人暮らし。
母が言葉や物語を、香り豊かな庭の植物たちが四季の移ろいを、
黒歌鳥の合唱団が朝の訪れを教えてくれた。
でもある日、母がいなくなり……。
それから何年、何十年経っただろう。
帰らぬ母を待ち、壮絶な孤独の闇に耐えたとわは、
初めて家の扉を開けて新たな人生を歩き出す。

涙と生きる力が溢れ出す、感動の長編小説。

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盲目の少女とわが、大好きな母と2人暮らしをしていて、
母が言葉や物語をかたってくれるのが大好きという、ほのぼのとしたはなし・・・?
という風に始まる本作、しかし次第に様相を様変わりし、
なんとも悲壮な展開になっていきます。

え? 本当に小川糸さんの作品???と思いつつ。

 

けれど、どん底の先がスバラシイ。

ある時をさかいに、彼女の世界は一変します。
盲目であることに加えて、一般の人とは生活環境も異なり、
歩くことさえもままならなかった彼女が、光に向かって歩み始める。

そのきっかけも、切羽詰まってではありましたが、
誰かに助け出されたのではなく、とにかく彼女自身が踏み出した。
私はそこに意義があると思いました。

そこから先は周囲の人々の多大な助けがあって、
人並みの生活を取り戻すわけですが、
その先にまた、彼女自身の歩みがある。

終盤、彼女の目が見えないことは変わらないけれど、
彼女の世界は煌めき輝いているように思われる。
生きることの素晴らしさに彼女自身が気づき、
そして読者もそれに気づかされるのです。

ステキな物語でした。

 

「とわの庭」小川糸 新潮文庫

満足度★★★★★

 


プアン/友だちと呼ばせて

2023年11月24日 | 映画(は行)

モトカノ巡りのロードムービー

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ニューヨークでバーを経営する、タイ出身のボス(トー・タナポップ)。
バンコクで暮らす友人ウード(アイス・ナッタラット)から数年ぶりに電話を受けます。
ウードは白血病で余命宣告を受けており、
ボスに最後の願いを聞いてほしいというのです。
バンコクへ駆けつけたボスが頼まれたのは、
ウードが元の恋人たちのもとを訪ねるための運転手をしてほしいということ。
あきれつつもやむなく引き受けるボス。

カーステレオから流れる思い出の曲が、
かつて2人が親友だった頃の記憶を蘇らせていきます。
しかし、ウードの本当の目的は別の所にあって・・・。

 

ウードの元恋人というのが1人ではなくて、何人もいるというのに
ちょっと笑ってしまいますが、
そうすることで本作は元カノ巡りのロードムービーとなっているわけ。

私、実はタイ作品を見るのはこれが初めてかも知れません。
スミマセン、あなどっていました。
画面も美しく洗練されていて、内容も粋で、面白い。

男女の恋模様を描きつつ、2人の愛憎をも絡ませた友情を浮かび上がらせる。

よいわー。
ファンになりそうです。

<WOWOW視聴にて>

「プアン/友だちと呼ばせて」

2021年/タイ/128分

監督:バズ・プーンピリヤ

制作総指揮:ウォン・カーウァイ、チャン・イーチェン

出演:トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、プローイ・ホーワン、
   ヌン・シラパン、オークベープ・チュティモン

 

ロードムービー度★★★★☆

友情度★★★★☆

満足度★★★★☆


私がやりました

2023年11月22日 | 映画(わ行)

嘘の自白で人気を勝ち取る

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フランスらしい皮肉なユーモアに満ちた作品。
真犯人当てのミステリではなくて、ちゃっかり図太く生きる女たちの物語。

パリの豪邸で有名プロデューサーが殺害され、
新人女優マドレーヌが容疑者として連行されます。

マドレーヌは、プロデューサーに襲われて自身の身を守るために彼を撃ったと供述。
親友である弁護士・ポーリーヌとともに法廷に立ちます。
正当防衛を訴える二人の鮮やかな弁論と感動的なスピーチは、
陪審員や大衆の心をつかみ、無罪を勝ち取るばかりでなく、
悲劇のヒロインとしてスターの座を手に入れます。

そんなところに、かつての大女優オデットが現れ、
プロデューサー殺しの犯人は自分だと主張しますが・・・。

そもそもマドレーヌはプロデューサーを突き飛ばして逃げただけで、
もちろん銃など持ってもいないし、撃ってもいません。
けれど、これを逆にチャンスと捉えた二人の作戦勝ちというわけですね。
でもそうであれば真犯人は別にいるわけで・・・。
オデットは、ニセの犯人が大人気となっていることに腹を立てて、
二人の元にやって来て二人を脅すわけです。

女たちが、自らの夢や欲望のために這い上がろうとする、
でもどろどろではなくて、あっけらかんとユーモアに満ちているのがいいなあ。

大好きです。

プロデューサーが、女優にエサを散らせつきながらセクハラ・・・。
やはりありがちな話なんですねえ・・・。

<シアターキノにて>

「私がやりました」

2023年/フランス/103分

監督・脚本:フランソワ・オゾン

出演:ナディア・テレスキウイッツ、レベッカ・マルデール、イザベル・ユペール、

   ファブリス・ルキーニ、ダニー・ブーン

 

皮肉度★★★★☆

ユーモア度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ピッグ/pig

2023年11月21日 | 映画(は行)

ブタを探す男

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オレゴンの森の奥深くで、1人孤独に暮らす男、ロブ(ニコラス・ケイジ)。
唯一の友達は、忠実なトリュフ・ハンターのブタ。
収穫した貴重なトリュフを取引相手の青年・アミール(アレックス・ウルフ)に売って
生計を立てています。

そんなある日、ロブは何者かの襲撃を受けて負傷し、ブタを連れ去られてしまいます。
ブタを奪い返すため、犯人の行方を追ってポートランドの街へ出るロブ。

実はそこは、彼が昔住んでいた街。
彼はかつて、誰もがその名を知る有名シェフだったのです・・・。

ニコラス・ケイジ100本目の長編映画とのこと・・・。
って、実は私、しばらくニコラス・ケイジだとは気づかずに見ていました!! 
寡黙でほとんど表情も変えず、ひげ面で恰幅がよい。
いや、なかなか気づかないでしょう、これ。
でもなるほど、気づいてみれば確かに、彼が演じるにふさわしい感じの役。

始めにこのうらぶれた男が調理をするシーンがあって、
ヤケにおいしそうだったのだけれど、
なるほど、かつての名うてのシェフ、ね。

この男がなぜその街の暮らしを捨てて、
こんな山奥で世捨て人のような暮らしを始めたのか、というのがミソ。
そして、いなくなったブタを相当の熱意で危険を冒しながらも探し回るそのわけは、
ブタがいないと生活が成り立たないから、というわけではなく・・・。

本作で、ロブの相棒役となるのが、青年アミールなのですが、
彼には彼の複雑な事情もある。
始め、ただのチャラいお兄ちゃんのように見えていましたが、訳ありの身の上。
車のカーステレオから流れるのはロックでもラップでもなく、クラシック!

このコンビがステキです。

 

<Amazon prime videoにて>

「ピッグ/pig」

2021年/アメリカ/91分

監督:マイケル・サルノスキ

出演:ニコラス・ケイジ、アレックス・ウルフ、アダム・アーキン、カサンドラ・バイオレット

 

グルメ度★★★☆☆

凸凹コンビ度★★★★☆

満足度★★★★☆


ブルーアワーにぶっ飛ばす

2023年11月20日 | 映画(は行)

親友と共に、故郷へ

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若手映像作家の発掘を目的とした「TUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2016」で
審査員特別賞を受賞した企画の映画化。

 

CMディレクターをしている30歳、砂田夕佳(夏帆)。

東京で日々仕事に明け暮れ、理解ある優しい夫(渡辺大知)もいて、
充実した生活を送っている・・・、ように端からは見えるのですが、
しかし、口を開けば毒づき、不倫をし、心がすさみきっているのです。

ある日、病気の祖母を見舞うため、親友の清浦あさ美(シム・ウンギョン)と共に、
大嫌いな地元、茨城に帰ることに。

極力帰らないようにしていた、実家。
そこを久々に訪れれば、あっけないほどに何も変わっていません。
しかし、母や父、兄、家族だけははっきりと年老いて古びている・・・。

でも彼女はそこで、忘れかけた子どもの頃の自分を見つけます。

久々に実家へ帰ったときの、ホッとするけれど案外なんにもなくて、
あっけらかんとした心境に襲われるような・・・
ちょっと身に覚えがあるような気もします。

 

夕佳とあさ美のロードムービー的になっているのも面白い。
あさ美の人なつっこく素直で好奇心いっぱいという感じが好感持てます。
シム・ウンギョンさんは、どんなドラマに出てもすごく普通っぽいのに、
なぜか印象深い。
後で思い返すと、その役は他のどんな女優にも替えられないような気がしてしまう。
好きな俳優さんです。

 

さてところが、本作には大きな仕掛けが一つありまして・・・。
どういうことだったのか、
それを考えるのも本作の面白みの一つであります。

<Amazon prime videoにて>

「ブルーアワーにぶっ飛ばす」

2019年/日本/92分

監督・脚本:箱田優子

出演:夏帆、シム・ウンギョン、渡辺大知、ユースケ・サンタマリア、伊藤沙莉、南果歩

 

意外な展開度★★★★☆

満足度★★★.5

 


「透明な夜の香り」千早茜

2023年11月18日 | 本(その他)

鋭い嗅覚を持つ青年

 

 

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元・書店員の一香は、古い洋館の家事手伝いのアルバイトを始める。
そこでは調香師の小川朔が、幼馴染の探偵・新城とともに、
客の望む「香り」を作っていた。
どんな香りでも作り出せる朔のもとには、風変わりな依頼が次々と届けられる。
一香は、人並み外れた嗅覚を持つ朔が、
それゆえに深い孤独を抱えていることに気が付き──。
香りにまつわる新たな知覚の扉が開く、ドラマティックな長編小説。

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人並み外れた嗅覚を持つという青年が登場。
高貴な香りとロマンに満ちていますが、それだけではなく、
引きこもった部屋のすえた匂い・・・
そんなものも混在するのが魅力、一種独特な雰囲気のある作品です。

 

元書店員の一香は、仕事に出るのがつらくなり、
ほとんど引きこもりのような生活を続けていたのですが、
これではいけないと、気力を振り絞って出かけたコンビニで、
とある求人広告を目にします。

それによって、古い洋館の家事手伝いのあるバイトについた一香。
そこは、調香師の小川朔が幼馴染みの探偵・新城とともに
客の望む「香り」をオーダーメイドしているのでした。

 

人並み外れた嗅覚をもつ、朔。
そこでは香水も濃い化粧も御法度。
庭で作っているハーブなどで作った化粧水やシャンプーの使用のみ許可されます。
その人の匂いで相手の体調や、嘘をついていることまで嗅ぎ分けてしまう。

それはある意味不幸なことでもあり、朔はそのために悲惨な幼少期を過ごしていたのです。
その感覚は人と分かち合うこともできず、孤独でもある。

 

一種独特なこの青年の成り立ちは、若干少女小説か少女漫画めいてもいて、魅力的。
そこへ彼自身の不幸な過去や、一香の兄のエピソードが挿入されることによって、
現実から浮遊することがくいとめられているようです。

私は好きです。

この続編、「赤い月の香り」もすでに出ているのですが、
私は文庫化を待つことになりましょう。
楽しみです。

「透明な夜の香り」千早茜 集英社文庫

満足度★★★★☆

 


法廷遊戯

2023年11月17日 | 映画(は行)

弁護不可能・・・?

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第62回メフィスト賞受賞、五十嵐律人さんによる法廷ミステリ小説の映画化。

弁護士を目指しロースクールに通うセイギこと久我清義(永瀬廉)。
同じ学校で学ぶ、幼馴染みの織本美鈴(杉咲花)。
彼ら学生の間で、「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる模擬裁判がはやっています。
そのゲームを仕切っているのが、在学中に司法試験に合格した天才・結城薫(北村匠海)。
ともあれ、セイギも無事司法試験に合格し、弁護士となりました。

ある日、セイギのもとに、薫から「無辜ゲームをするから来てほしい。」と呼び出されます。
セイギが指定の場所へ行くと、そこにいたのは、
血のついたナイフを持った美鈴と、すでに息絶えた薫・・・。
その時、美鈴は言う。
「私は無罪だから、弁護してほしい」と。

終始ひんやりしたムードの漂う作品です。

美鈴が持っていたナイフには、薫の血がついていて、
誰がどう見ても彼女が薫を刺したとしか思えない。
しかし、美鈴はその後黙秘を通し、
何がどうしてそうなってしまったのかを一言も話そうとしない。
こんな状況で、どのように彼女を弁護するというのか・・・???

その鍵は、この3人を巡る過去と真実。
それを少しずつ解きほぐしていく作品となっています。

弁護士を目指すからといって清廉潔白、正義の人とは限らない・・・ということですね。
美鈴とセイギは養護施設で育ち、過酷な子供時代を過ごしている。
薫は、警察官の父が、退職の後に自殺という苦しみを抱えている。
これらがもつれた糸となって“今”を作り出しているわけです。

苦くて、ヒンヤリ。

まあ、たまにはいいか。

 

<シネマフロンティアにて>

「法廷遊戯」

2023年/日本/97分

監督:深川栄洋

原作:五十嵐律人

出演:永瀬廉、杉咲花、北村匠海、戸塚純貴、柄本明、大森南朋、生瀬勝久、筒井道隆

 

ミステリ度★★★★☆

ヒンヤリ度★★★★☆

満足度★★★☆☆


今夜、世界からこの恋が消えても

2023年11月15日 | 映画(か行)

一日限りの記憶・・・

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正直、道枝くん目当てのミーハー視聴です。
でもこれが、思ったよりは悪くはなかった・・・。
というか、泣かされました。

一条岬さんの同盟小説の映画化。

高校生の神谷透(道枝駿佑)は、クラスメイトに流されるまま、
皆の憧れの的、日野真織(福本莉子)に嘘の告白をします。
彼女は、「お互い本気で好きにならないこと」を条件に、
嘘の恋人同士として付き合うことに。

実は、真織は前向性健忘症で、夜眠るとその日の出来事をすべて忘れてしまうのです。
その日の夜、詳細な日記を書き記し、
次の日の朝読み返すことで、どうにか記憶をつなぎ止めていたのです。

真織はそのことを透にはかくしていたのですが、
ある時透はそれを知ってしまい、以後、知らないふりを続けながら付き合いを続け、
いつしか二人の嘘の恋は本物に変わっていきます。
真織との一日限りの恋を積み重ねていく透でしたが・・・。

一日限りの記憶・・・、でたーっ! 
お定まりのパターン!! 
と思いながら見て行きました。
でも次第に思いは切実になっていきます。
日記に書き記された文字だけが頼りの「記憶」。
もしその日記が消え失せたとしたら・・・。
二人で過ごした大切な日々が、ないことと同じになってしまうのか・・・。

そして、物語は突如悲劇的な方向に向かって、余りのその切なさに涙、涙です。

ところで私の一つの大きな疑問なのですが、毎日学校に通っていろいろなことを学ぶ。
真織のその記憶は翌日消えてしまわないのでしょうか?
理屈で言えばそれも忘れて、学習不可能なのでは?と思うのですが。

ちなみに彼女がこの症状になるのは高校入学したばかりの頃らしく、
それまでの記憶はしっかり残っているのです。
だから、親友はその事情をよく知っていて、
彼女の学校生活全般を支えている、という次第。

現実的にはやはり無理筋ですかね・・・?

「消えた初恋」で共演していた道枝駿佑さんと福本莉子さん。
いい感じです。

 

<Amazon prime videoにて>

「今夜、世界からこの恋が消えても」

2022年/日本/121分

監督:三木孝浩

原作:一条岬

出演:道枝駿佑、福本莉子、古川琴音、前田航基、松本穂香、萩原聖人

 

お涙度★★★★☆

記憶喪失度★★★★☆

満足度★★★★☆


ゴジラ-1.0

2023年11月14日 | 映画(か行)

知らず、のめり込む

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「ゴジラ」生誕70周年記念作品。
日本制作の実写ゴジラ映画としては30作目。
まあ、さして期待はしていなかったのです。
でもなぜか「ゴジラ」には思い入れがあって無視できない気がしてしまうのですよね・・・。
だがしかし、です。
私、本作のエンドロール時にはほとんど放心状態でした。
とにかくのめり込んで見てしまっていたなあ・・・と。

 

戦後間もない日本。
戦争により焦土と化し、何もかもを失ってゼロになってしまった日本。
そこへ追い打ちをかけるように、ゴジラが出現。
戦争を生き延びた名も無き人々が、ゴジラに対して生きて抗う術を探っていきます。

 

主人公となるのは、特攻隊員でありつつ生還した敷島浩一(神木隆之介)。
ようやく生家へ帰り着いてみればそこは瓦礫の山で両親も亡くなっていた・・・。
そしてまたそんなところに転がり込んできたのは、
赤子を連れた若き女性・典子(浜辺美波)。
二人がようやく人らしい生活ができるようになった頃、ゴジラがやってくる!!

南の海で暮らしていたゴジラが、水爆実験の放射能の影響を受けて巨大化、
および特殊攻撃能力を身につけて、関東方面に上陸。
ここの設定は定番です。

でも、まだ自衛隊が組織される前という隙間期間に舞台を設定したところがミソです。
そこが、国のお偉方が組織してその内部の人々のぐちゃぐちゃをテーマとした
先の「シン・ゴジラ」とは違うところ。

進駐軍を配慮して政府は動けない。
それで、民間の英知が集まります。
先の戦争で命拾いした自分たちが、今度は力を尽くさなければならない、と。

敷島は、特攻の任務から逃げ帰り、
そしてまた南の島でゴジラに襲われた際にもまた、逃げてしまった。
そのことがずっと大きな後悔となって、心の重りになり続けていたのです。
今度こそは何があっても逃げない。
そして今度は自分には護るべき者もある。
そう思いこの作戦に参加する敷島・・・。

敷島と典子さんのツーショットを見ると、
今にも敷島が「植物採集に行ってくる」と言い出しそうで、変な感じでした・・・。

博士役は、吉岡秀忠さんで、そのちょっと茫洋としてとぼけた感じが
またなんともいえずにいい。
変に神経質でなくてよいわー。

敷島の家のお隣の奥さんが安藤サクラさんなのですが、これがまたいい味出ています。
第一印象は思いっきりよくないのだけれど、実は・・・というところ。

 

結局の所、ひたすら一直線にゴジラとの対戦に向かって、
1人1人がそれぞれにできることに力を尽くし、そして勝利するという図式、
この単純さがよかったのではないでしょうか。

敷島の運命の最後のひねりも、やっぱりいい!! 
ご都合主義結構。
こうじゃなくては!!

ゴジラが怒り、攻撃態勢に入るとき、その様相が変わります。
まるでメカのようでもある。
その口から吐き出す熱線は、ちょっとした核兵器並み・・・。
作り込み過ぎではありますが、カッコイイです・・・。
迫力あります・・・。

常日頃、戦争はダメ、平和が一番といいながら、
こんな映像を面白く感じてしまうのはマズいのでは・・・
と、ふと思ったりもするのですが。

人の世の戦争には正義がない。
それぞれの立場によって相手こそが極悪人。
端で見ていても、もうどっちがどうとも言えなくなってきています。
でもゴジラの図式は単純明快。
襲ってくるものに対して、自分たちを守るために闘う。
それだけです。

でもそれが正義かというとそういうわけでもない。
ゴジラにだってゴジラの事情があってここにいるわけで・・・。

ラスト付近で水底へ沈み行くゴジラを見送って、
船上の人々が皆、ゴジラに向かって敬礼をするシーンがあります。
それこそが生きるものへの敬意。
そんなシーンにも心動かされました。

期待以上の感動作。
私は好きです。


<シネマフロンティアにて>

「ゴジラ-1.0」

2023年/日本/125分

監督・脚本:山崎貴

出演:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介

 

迫力度★★★★★

ゴジラの正当性度★★★★★

主人公成長度★★★★★

満足度★★★★.5

 


ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像

2023年11月13日 | 映画(ら行)

美術品の価値を決めるのは誰?

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年老いた美術商のオラヴィは、家族よりも仕事を優先して生きてきました。
しかし、今は店もさびれて廃業寸前。
でも、店をやめる前に何か大きな仕事をしたいと思っています。

そんな時、疎遠だった娘から電話。
彼女の素行不良の息子・オットー(つまりオラヴィの孫)を、
職業体験のため、数日預かってほしいというのです。

またそんな時、オラヴィはオークションハウスで一枚の肖像画に目を奪われます。
これは価値のある作品と確信するオラヴィですが、
絵には署名がなく、作者不明のまま数日後のオークションに出品されるというのです。

オットーと共に、作者を突き止めようと調べ始めるオラヴィ。
そして、近代ロシア美術の巨匠、イリヤ・レーピンの作品であるという証拠をつかむのです。
あとは、その絵をオークションで競り落とすための資金集めが必要ですが・・・。

 

オラヴィは、オットー少年を引き受ける気はなくて、
ただ迷惑と思っていたのですが、この少年、実はとても機転が利いて行動力がある。
妻が生きている頃は娘も孫もよく遊びに来ていたのに、
その後は全く疎遠で、孫息子と会うのも実はずいぶん久しぶりなのでした。
でも実際、老人と少年は相性がいいんですよね。

この絵の正体が判明していく下りはちょっとワクワクします。
絵の美術的価値と、人々のお金が絡んだ事情が、
やっかいな状況を生み出していくというのも、
多分美術界ではありがちなことなのでしょう。

楽しめました。

<Amazon prime videoにて>

「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」

2018年/フィンランド/95分

監督:クラウス・ハロ

出演:ヘイッキ・ノウシアイネン、ピルヨ・ロンカ、アモス・ブロテルス、ステファン・サウク

 

美術品取引の闇度★★★★☆

老人と少年の相性度★★★★★

満足度★★★★☆


「あしながおじさん」J・ウェブスター

2023年11月11日 | 福音館古典童話シリーズ

初めて読んだときのワクワクが懐かしい

 

 

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福音館古典童話シリーズ 第2巻

長い間、多くの読者に愛されてきた作品の新訳決定版。
逆境にめげず、常に前向きに生きてゆく主人公ジュディーの快活なユーモア、純真な心は、
永遠に読者の中で生き続けるでしょう。

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福音館古典童話シリーズ 第2巻 です。

これはさしてボリュームもないのでするすると読めてしまいました。
しかし、本作については私も内容はしっかりと覚えております。

 

孤児院で育ったジュディーが匿名の「あしながおじさん」の援助を受けて、
大学に進み、勉学に励みながら、様々な人と出会い経験を積んでいきます。
持ち前のポジティブさも忘れない。
文章はすべてジュディーがあしながおじさんに向けた手紙文からなっています。

 

文章を書くのが大好きなジュディーは、手紙はちっとも苦ではないけれど、
当のご本人からは決して返事がなく、実際相手がどんな人物なのか
全く分からないのが不満なのです。
そんなジュディーが、同僚の女子の叔父さんにあたるジャービーという青年と
ときおり顔を合わすようになり、惹かれていきます。

 

あしながおじさんの正体が分かるのは本当に最後の最後。

でも、当然ながら、そこはもうしっかり記憶に刻まれているので、
私、読み手としては驚きも半減どころか、全くありません・・・。
初めての時のワクワク感がないのが実に残念!
そういう記憶をまっさらにしてこの物語を読んでみたいと、切に思います。

ま、初めて読んだときの感動を思い返しつつ・・・。

 

著者ジーン・ウェブスターはニューヨーク州生まれ。
母親は、マーク・トウェインの姪に当たるそうで。

1912年、36歳で「あしながおじさん」を書き一躍有名になり、
1915年には「続あしながおじさん」を出版。
その年に結婚をし、翌年女子を出産するも、翌日亡くなったとのこと。
39歳・・・。

この結婚相手とのことも、まるでドラマのようでもあり、
どこかで映画化されてもおかしくない気がします・・・。
こうした著者の人生のことは忘れられていくけれど、
作品はいつまでも「生きて」行くわけですね。

 

「あしながおじさん」J・ウェブスター 坪井郁美訳

福音館古典童話シリーズ 第2巻

満足度★★★★☆

 


わたしの叔父さん

2023年11月10日 | 映画(わ行)

夢をかなえることだけが正しいのか

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デンマークの農村。

幼い頃に両親を亡くし、体の不自由な叔父と二人で暮らす27歳クリス。
家業の酪農の仕事を手伝いながら、日々を穏やかに淡々と過ごしています。

彼女には獣医になりたいという夢があったのですが、
今はそれもあきらめきっています。
そんな時に村の獣医師から助手を頼まれ、かつての夢が蘇ってきます。
またそんな頃、クリスは教会で出会った青年・マイクからデートに誘われます。
クリスにとっては、人生の転機の時なのですが・・・。

クリスは叔父さんが病で倒れたため、獣医の夢をあきらめていたのですね。
叔父さんとクリスは特別に言葉を交わさずとも日々の日課はしっかり染み込んでいて、
実に淡々と牛の世話や農作業、日々の食事などの時間が流れていきます。

叔父さんは、クリスがこの家で自分の世話と酪農の仕事に縛られてしまっていることに
若干後ろめたい思いもあるようで・・・。
だから、獣医師の手伝いを始めたり、村の青年と付き合い始めても止めたりはしません。
初めてのデートに行くというクリスにヘアアイロンを買ってあげたりと、応援の体制。
ところが、クリスは叔父さんを1人で家に残しておくのが心配でならない。

だから、初デートの食事も、映画も、叔父さんと一緒の3人で、
というのがなんともユーモラスな光景で、笑ってしまいます。

こんな感じで、本作は一人の女性が、新たな世界へ羽ばたいていく物語なのかと思いきや・・・!
意外な結末に、戸惑わされてしまいました・・・。

 

しばらくしてから、私は思う。

確かにクリスには獣医になりたいという夢はあったけれど、
でも実はここの農場で牛たちの世話をしながら暮らす生活も
身に馴染んで好きになっていたのでは・・・?
夢をあきらめるというよりもむしろ、自分の本当にやりたいことはこの足下にあった、
という気づきなのかも知れない、と。

デンマークの片隅、テレビで北朝鮮のミサイル発射がニュースで流れていたり、
クリスが都会に行って初めての「回転寿司」を体験するなど、
北欧の地にも東洋や日本の事情が意外と身近にあるのが興味深かった・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「わたしの叔父さん」

2019年/デンマーク/110分

監督・脚本:フラレ・ピーダセン

出演:イェデ・スナゴー、ペータ・ハンセン・テューセン、オーレ・キャスパセン、トゥーエ・フリスク・ピーダセン

農村の生活度★★★★★

女性の人生度★★★★☆

満足度★★★.5