映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「逆ソクラテス」伊坂幸太郎

2023年07月31日 | 本(その他)

「自分は何も知らない」ことを知っている。

 

 

* * * * * * * * * * * *

「敵は、先入観だよ」
学力も運動もそこそこの小学6年生の僕は、
転校生の安斎から、突然ある作戦を持ちかけられる。
カンニングから始まったその計画は、
クラスメイトや担任の先生を巻き込んで、予想外の結末を迎える。
はたして逆転劇なるか!?
表題作ほか、「スロウではない」「非オプティマス」など、世界をひっくり返す無上の全5編を収録。
最高の読後感を約束する、第33回柴田錬三郎賞受賞作。

* * * * * * * * * * * *

伊坂幸太郎さんの短編集ですが、珍しくどれも少年がメインとなるストーリー。
私、子どもたちが出てくる物語は好きなのです。
まだ大人の社会文化に染まらず、まっさらに近い感性や思考方法を持っている彼ら。
世の中のことはうっすらと見えてきているけれど、
まだ、それだけがすべてではないとまっすぐに見ることができる。
ちょっぴり生意気だったり、意気地無しだったり、
そんな個性もたっぷりな少年少女たちの言動は、なんだか応援したくなってしまいます。

元々伊坂幸太郎さんは子供の登場する話は苦手だったそうですが、
本作はそんな片鱗もみせず、ステキなストーリーを紡いでくれています。

 

表題の「逆ソクラテス」。

かのソクラテスはこんなことを言ったのだとか。

「自分は何も知らない、ってことを知っているだけ、自分はマシだ」と。

けれど、多くの人は逆。
完璧な人はいるわけないのに、自分は完璧だ、間違うわけがない、何でも知っているぞ、
・・・と。
こういう思考を「逆ソクラテス」と本作中の佐久間くんが言うのです。
まさに、この子たちのクラスの担任がそれ。

「この子は頭がいい、いい子」

「この子は、引っ込み思案のダメな子」

教師のこのような勝手な先入観による決めつけが、
子どもたちに向けた行動や言葉の端々に出るものだから、
いつの間にかクラスの子どもたちも、その子供本人までも、
いい子、ダメな子になりきってしまう・・・。
だから、「僕はそう思わない」と、きちんと声に出すことが大事だと言うのです。

子どもたちが互いに語り合いながら、前向きな提案をし実行していく。
時にはそれは冒険で危なっかしくもあるけれど、ワクワクしますねえ・・・。

 

また他のストーリーの中では、逆にソクラテス的教師も登場します。
彼は偉そうなことなど全く言わないけれど、
子どもたちをよく見ていて、ぼそっと、
あとになって「こういう意味だったのか!」というような言葉をくれたりします。

この先生は別の短編の中にも何度か登場。
そうした関連性が見えるところが本巻のステキな所でもあります。

 

幸せな一冊。

 

「逆ソクラテス」伊坂幸太郎 集英社文庫

満足度★★★★★

 


裸足になって

2023年07月30日 | 映画(は行)

踊ることは心を解き放つこと

* * * * * * * * * * * *

内戦の傷跡が残る北アフリカ、イスラム国家アルジェリア。

少女フーリアはバレエダンサーを夢見て練習に励んでいます。
ある夜、フーリアは彼女に逆恨みを持つ男に階段から突き落とされて、大けが。
フーリアはそのため踊ることができず、
ショックで言葉を話すこともできなくなってしまいます。

そんな失意の彼女がリハビリ施設で出会ったのは、
それぞれ心に傷を抱えるろう者の女性たち。
フーリアはリハビリの結果なんとか足が動くようになり、
彼女たちにダンスを教えることで生きる情熱を取り戻していきます・・・。

本作、この国の事情も大きな要素となっています。

内戦後のアルジェリア。
その時に家族を亡くした者も多く、それが大きな心の傷になって残っているものも多い。
政情はなおかつ不安定で、ここでは自由な暮らしは望めないと思うものも多い。
フーリアの親友もその1人で、彼女は密かにこの国を抜け出して、
スペインへ渡り、夢をかなえようとしているのです。
でもそれは、とてもリスクが高いことなのですが・・・。

と、ただでさえ生活に不安の多い中、
この施設に集まっているのは、何かしら障害を持った女性たち。

けれど、彼女たちは強いですね。
これ以上はわるくならないと、開き直ったようでもあります。
ダンスをすることで心を空っぽにして、そして前へ進もうとする。
踊ることで、心を解き放つのです。
何かあっけらかんとした明るさとたくましさを感じました。
どんな場所にいても踏み潰されない、そう、雑草のような強さ。

わたし達の知らない様々な国の事情があって、
でも人々はどこでもみな同じ心を持って生きていますよね。
それをガッチリ線引きして、出入りも制限してしまうことが
非常に理不尽に感じられるのでした。

 

<シアターキノにて>

「裸足になって」

2022年/フランス・アルジェリア/99分

監督・脚本:ムニア・メドゥール

出演:リナ・クードリ、ナディア・カシ、アミラ・イルダ・ドゥアウダ、メリエム・ムジカネ

 

女性のたくましさ度★★★★★

自由希求度★★★.5

満足度★★★.5

 


チケット・トゥ・パラダイス

2023年07月29日 | 映画(た行)

娘のことなら意見も一致

* * * * * * * * * * * *

元夫婦のデヴィッド(ジョージ・クルーニー)とジョージア(ジュリア・ロバーツ)。
20年前に離婚していますが、1人娘をジョージアが引き取ったこともあり、
必要に迫られて顔を合わせることがあるものの、
会う度にいがみ合ってばかり。

そんな2人の愛娘リリー(ケイトリン・デバー)がロースクールを卒業し、
就職までの期間、バリ島へ旅行に出かけます。
そして、その1ヶ月ほどの後、デヴィッドとジョージアの元に届いたのは、
リリーが現地の彼と結婚するという知らせ。

せっかくの弁護士への道を捨てて、あったばかりの男と結婚するなどとんでもないと、
こればかりはデヴィッドとジョージアの意見は一致し、
娘の結婚を協力して阻止するために、バリ島に乗り込んできますが・・・。

何やらありふれたストーリーの所を、大御所ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツがカバーしております。

 

リリーは、両親の期待に応えようとその一心でロースクールへ進み、
卒業もしたわけですが、その道は本当に自分自身が希求した物とは違った、
ということなんですね。
だから あっさりとその道を捨てて、海藻の養殖業を営む青年との結婚を決意。
まあ確かに、この風光明媚さとおおらかな人々の暮らし。
こんな所に住みたいとは思いますねえ・・・。

デヴィッドとジョージアが離婚したきっかけというのが、なかなか現実的でシビアでした。
でも確かにありがちなことのような気はします。

リリーと島の彼の間にもきっといつしか食い違いが生じるだろうけれど・・・、
でもこの美しい海を見ていたら、そんなことはどうでもいいことに思えるかも知れない。

今やネットさえ通じていれば都会も離れ小島も、情報量は変わらない。
それならば、快適に生活を送れるこんなところに住むのもいいか
・・・って気持ちにはなります。

まあ、楽しく見られたのでよかったかな。

<WOWOW視聴にて>

「チケット・トゥ・パラダイス」

2022年/アメリカ/104分

監督:オル・パーカー

出演:ジュリア・ロバーツ、ジョージ・クルーニー、ケイトリン・デバー、ビリー・ロード、リュカ・ブラボー

スピード婚度★★★★☆

満足度★★★☆☆


L.A.コールドケース

2023年07月28日 | 映画(あ行)

真のヒーローとは

* * * * * * * * * * * *

1997年3月、人気絶頂期のラッパー、ノートリアス・B.I.Jが
何者かによって射殺されるという実際の事件を元にしています。

当時、その捜査を担当した元ロザンゼルス市警の刑事・ラッセル・プール(ジョニー・デップ)は、
事件発生から18年が過ぎた現在も執念深く真相を追い続けていました。

そんなところへ訪ねてきたのは、事件を調査し始めた記者ジャック(フォレスト・ウィテカー)。
2人は反発し合いながらも手を組むようになっていきますが・・・。

ジョニー・デップがおちゃらけ味を封印して、ひたすら真面目で渋く地道な元刑事を演じています。

結局問題なのは、
「白人が黒人を射殺した。悪いのはどちらか?」
という問いにあるとプールは言います。

今もたびたび問題となる、白人警官の黒人に対する過剰な取り調べ。
大抵は警官の明らかに差別的で過剰に暴力的な黒人に対する扱いが問題になりますが、
時には黒人側のいかにも乱暴な態度が起因となることもあるのでしょう。

というか、つまりそれはその時々の人と人の対し方の問題であるはずなのに、
白人対黒人となると途端に話がややこしくなる。
そして、黒人が白人に対して乱暴な振る舞いをしがちであるというのも、
長い歴史の果てのことであるとも言えましょう。

ところが昨今、こうした問題が多く取り上げられるために、
警察側は同様なことが起きれば少しでもことを大きくしたくない。
ましてや、過去の潜入捜査が絡んでいるとなれば・・・。
そこで隠蔽が起こります。

1人ではなく組織で行われる隠蔽。
これに個人で対峙しようとするのはいかにも難しい。

結局うやむや、未解決のまま真実は葬り去られる。
こんなことは、どこでもいつでも起こっていそうです。

それでも、地道になお真実を明かそうとする執念を人は持ち得るのか。
本当のヒーローとはこういう人なのかも知れません。

 

<WOWOW視聴にて>

「L.A.コールドケース」

2018年/アメリカ・イギリス/112分

監督:ブラッド・ファーマン

出演:ジョニー・デップ、フォレスト・ウィテカー、トビー・ハス、デイトン・キャリー

 

歴史発掘度★★★★☆

真実探求度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE

2023年07月27日 | 映画(ま行)

恐るべし・・・

* * * * * * * * * * * *

ミッション:インポッシブルシリーズ第7作にして初の2部作。
そのPART ONE。

と言うかつまりその前編だけでこの164分。
超大作ですね・・・。
でも、それほど長くは感じません。

IMFエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)の新たなミッション。

全人類を脅かす新兵器を悪の手に渡る前に見つけ出す
・・・と言うとあまりにもザックリしていますが、説明すれば長い。
つまりはハッキングにより本当の情報をニセ情報にすり替えてしまうという、
現代ならではの究極の「力」を発揮することができるための鍵。
まさに、その「鍵」を探し出し入手することが使命であります。

これは悪の組織以前に、どの国でも喉から手が出るくらいにほしい。
そのため今回は、ハントは自分のチーム以外すべて敵という状況になってしまいます。
世界各国を巡り、あらゆる敵と命がけの攻防が繰り広げられます。

いつもながら、ドキドキハラハラの連続。
カーチェイスはもちろんのこと、
断崖絶壁からバイクで空中にダイブ、
疾走する列車の上での格闘、
鉄橋から滑り落ちていく列車からの脱出等々・・・。
最後のほうは、もういいってば、やめて~と言いたくなりました・・・。
命がいくつあっても足りなさそう・・・。

これを    スタントなしで撮っているというのは本当にスゴイ・・・。
先日、バイクで崖からダイブするシーンのメイキングを見ました。
本人がやっていることはもちろんですが、
バイクのジャンプやスカイダイビングなど事前の練習もたっぷり。
本番も一度きりではなくて、何度も何度もあの崖からジャンプ。
トム・クルーズの体力と執念、恐るべし・・・。

まあこれは、とにかく見るしかないという作品で、あまり記すべきことはないのです・・・。

<シネマフロンティアにて>

「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」

2023年/アメリカ/164分

監督:クリストファー・マッカリー

出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ビング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン

 

ドキドキハラハラ度★★★★★

満足度★★★★☆


「旅のネコと神社のクスノキ」池澤夏樹 黒田征太郞

2023年07月25日 | 本(その他)

ぜんぶ一つになって返ってきた

 

 

* * * * * * * * * * * *

現存する被爆建物「旧広島陸軍被服支廠」をテーマに、
日本を代表する作家の池澤夏樹と黒田征太郎が言葉と絵と木工作品を交えた
新しい絵本を作りました。
主人公のネコとクスノキの対話を通して、
戦争、平和、そしていのちとは何かを読者へと問いかけます。

*池澤夏樹による解説「ヒストリー陸軍被服支廠」収録

* * * * * * * * * * * *


作家・池澤夏樹さんと画家・黒田征太郎さんによる絵本です。

1945年7月。
旅するネコが広島市郊外で大きなレンガ造りの建物を見つけて、
神社のクスノキにこの建物は何なのか、訪ねます。

「りくぐんひふくししょう」(陸軍被服支廠)と答えたクスノキ。
軍服や軍靴などの日用品を作る工場なのでした。
けれど少し先がのことが読めるというクスノキは、
なんだか怯えているようです。

 

8月が過ぎて9月。
ネコがまたここを訪れます。
山の向こうの広島の町が、建物のかけらばかりで
何にもなくってしまっていたことに呆然としながら・・・。

でもここの建物は前と同じくしっかり立っていて、クスノキも無事でした。
「この国のヘータイさんがうったたまやおとしたばくだんが
ぜんぶ一つになって返ってきた」
とクスノキは言います。

そしてその時、ひどい怪我ややけどを負った人々が大勢ここに運ばれてきて、
そして多くの人が死んでいったのだと・・・。

 

 

ストーリーは極力単純な文章で綴られていますが、
巻末に池澤夏樹さんによる解説「ヒストリー陸軍被服支廠」が収録されています。

それによるとこの建物は、被爆建物「旧広島陸軍被服支廠」として現存しています。
日本陸軍の軍需工場であった場所。
爆心地から2.7キロという至近地でありながら、
その頑丈な作りと地理的要因から、爆風に耐えて残った。
そのため、多くの負傷者が運び込まれる場所となったわけですが、
手当の術もなく、そのまま息を引き取った人が大多数。
遺体も前の空き地で荼毘に付され、近くの空き地に埋められたという・・・。

 

池澤夏樹さんは、確かに原爆を落としたアメリカは極悪非道だけれど、
日本の陸軍も同様であったとして、アジアでの非道ぶりを列挙しています。

そうした思いが「ぜんぶ一つになって返ってきた」という表現に繋がるのでしょう。

 

戦争を考えるためのきっかけになる一冊。

 

<図書館蔵書にて>

「旅のネコと神社のクスノキ」池澤夏樹 黒田征太朗

満足度★★★★☆

 


グロリアス 世界を動かした女たち

2023年07月24日 | 映画(か行)

グロリア・スタイネムを知ろう

* * * * * * * * * * * *

1960年代~70年代を中心に女性解放運動のパイオニアとして活躍した
アメリカのフェミニズム活動家、グロリア・スタイネムの物語。

彼女は、大学時代に留学したインドで、
男性から虐げられる女性たちの悲惨な経験を見聞きします。
そして帰国後、ジャーナリストとして働き始めます。
しかし、女性であるが故にファッションや恋愛のコラムしか任せてもらえず、
本当に書きたい社会的テーマは書かせてもらえません。

そんな中グロリアは、高級クラブ「プレイボーイクラブ」にバニーガールとして潜入。
バニーガールの内幕を記事として出して告発。
このことをきっかけに、徐々に女性解放運動の活動家として知られるようになっていきます。

この頃の女性解放運動での大きな功績の一つは、
女性の敬称を、Miss.(ミス)やMrs.(ミセス)でなく、
既婚未婚にかかわらずMs.(ミズ)とすることを提唱し、全米に受け入れられたこと。
確かに現在はミズというのが当たり前になっていますよね。

でもちょっと気になるのは、今、性的マイノリティの人たちをどのように呼ぶのか・・・?
Mr.とMs.だけではやはり使い勝手が悪そう。
日本はすべて「~さん」でいいからいいですよね。

それから女性解放運動でもう一つ重要なのは、妊娠中絶のこと。
生むか生まないかは女性自身が決める。それは権利。
という解放運動サイドの考えは、敬虔なキリスト教信者の人々から猛烈な非難を受けます。
その中の多くが女性。

この問題は今も賛否両論で、
アメリカでは州によって堕胎が合法であったり非合法であったりするようです。

ともあれ、そんな時代から半世紀を経て、
確かに女性の地位は向上したと言っていいでしょう。
それはやはりこのグロリア・スタイネムらの飽くなき活動が実を結んだわけで、
まさに、貴重なストーリー。
ただ、今なお女性の権利など一ミリも認められない国や地域が多くあることを忘れてはいけません。

さて本作はグロリアの様々な年代の姿が登場します。
子供時代、少女時代、青年期(アリシア・ビカンダー)、壮年期(ジュリアン・ムーア)。

真面目で慎重であるが故にこの世界では生きにくく、精神を病んでしまう母。

儲け話があればどこへも行く、山師的楽天家の父。

そんな中で成長していくグロリアがバトンタッチで描写されていくのはもちろんではありますが、
本作、時には壮年のグロリアの傍らに少女や青年期のグロリアが寄り添ったりしています。
「そう、この道で間違っていない。それでいいの。」
おさなかったり、若かったりする自分自身が、自分自身にエールを送っているかのように。
だから、グロリアスなんですね。

そんな描写が、ステキなのでした。

 

<WOWOW視聴にて>

「グロリアス 世界を動かした女たち」

2020年/アメリカ/147分

監督:ジュリー・ティモア

原作:グロリア・スタイネム

出演:ジュリアン・ムーア、アリシア・ビカンダー、ティモシー・ハットン、
   ロレイン・トゥーサント、ジャネール・モネイ

 

女性解放運動度★★★★★

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆


20歳のソウル

2023年07月23日 | 映画(は行)

病気のオトコノコ・・・

* * * * * * * * * * * *

千葉県船橋市立船橋高校に代々受け継がれている応援曲
「市船soul」にまつわる実話を映画化したものです。

吹奏楽部でトロンボーンを担当する浅野大義(神尾楓珠)は、明るく活発でまっすぐな性格。
顧問の高橋健一先生(佐藤浩市)に大きな影響を受けています。
ある時、野球部のためにオリジナル応援曲を作曲。
この応援曲が代々受け継がれていくことになります。

そして大義は高校を卒業し、高橋先生のような教師を目指し音楽大学へ進学します。
しかしそんな時、彼をガンの病魔が襲うのです。
抗がん剤と手術で辛くも病を乗り越えること一度、二度・・・。
しかし、またもや・・・。

やっと病を乗り越えたと思えば、ガンが転移してまたやり直し・・・。
一度のことだけでも気持ちが折れそうになるのに、
それが繰り返されるのはどれだけ苦しいことか・・・。

運命を呪いたくもなるでしょう。
周囲には極力明るく振る舞うけれども、時にはたった1人で泣くこともある・・・。
当然です。
涙、涙・・・。
もらい泣き。

 

そういえばわたし、常に「病気のオンナノコ」の話は嫌いだと宣言しているのですが、
「病気のオトコノコ」の話だって同じく嫌いだな~と、再認識した次第。

こんなに若くて、これからやりたいことも夢もあるのに・・・。
ほんと、切ないです。

この大義にいつも寄りそう彼女役が、福本莉子さんで、
すごくいい感じです。
余分に励まさず、ただ寄り添うという感じ。
これです!

 

「20歳のソウル」

2022年/日本/136分

監督:秋山純

原作・脚本:中井由梨子

出演:神尾楓珠、尾野真千子、福本莉子、佐野晶哉、前田航基、佐藤浩市、高橋克典

 

悲痛度★★★★☆

満足度★★★★☆


1秒先の彼

2023年07月22日 | 映画(あ行)

消えた一日の謎

* * * * * * * * * * * *

2020年、台湾制作の「1秒先の彼女」をリメイクしたもの。

その「1秒先の彼女」は私も見ていまして、大変面白く拝見しました。
その時に、日本でリメイク版を制作していると聞き、
余計なことをするなあ・・・などと思ったのでしたが、
いやいや、主演が岡田将生さんと清原果耶さん、脚本が宮藤官九郎さんとなれば、
見ないわけには行きません。

郵便局の窓口で働くハジメ(岡田将生)は、何をするにも人よりワンテンポ速いのです。
そんな彼が、路上ミュージシャンの桜子(福室莉音)に出会い恋に落ちます。
必死のアプローチの末、やっと花火大会デートの約束を取り付けました。

ところが、目が覚めるとなぜかその次の日になっていたのです。
つまり、大事な日が一日消えてしまった・・・!
本作はその、消えた一日をめぐるラブストーリー。

ということで、ハジメと桜子の物語と思いきや、実はそうではありません。

ハジメの勤める郵便局になぜか毎日やって来て切手を一枚ずつ買っていく、
人よりワンテンポ遅いレイカ(清原果耶)。
彼女がハジメの消えた一日の鍵を握っているのです。

そして視点は、ハジメからレイカへ移ります。
彼女はその日突然、周囲の人々がみな動きを止めていることに気づきます。
・・・一体なぜ???

ハジメとレイカの関係性がなんとも嬉しい作品。
台湾版とは、男女のキャラクター設定が逆転しているのですが、全く違和感はありません。
はじめからこうであったかのように馴染んでいます。

舞台は京都。
岡田将生さんの発する京都弁もステキです。
重要な位置を占めるバスの運転手さんが荒川良々さん。
これがまたいい味出してますねえ。

また、台湾版ではその日は「七夕バレンタインデー」という地域色にあふれたモノでしたが、
こちらでは「花火大会の日」になっています。
エピソードの一つとして、花火師が試しに昼間に一発だけ花火を上げてみる、
というのがあるのですが、これが後に素晴らしい効果を上げているのです。
ナイスです。

これはリメイク成功でした!!

台湾版はこちら →「1秒先の彼女」

 

<シネマフロンティアにて>

「1秒先の彼」

2023年/日本/119分

監督:山下敦弘

原作:チェン・ユーシュン

脚本:宮藤官九郎

出演:岡田将生、清原果耶、福室莉音、荒川良々、加藤雅也、柊木陽太、加藤柚凪

消えた一日の謎度★★★★★

ラブコメ度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ブラックボックス

2023年07月21日 | 映画(は行)

大事故の裏で

* * * * * * * * * * * *

ヨーロピアン航空の最新型機がアルプスで墜落。
乗客乗務員316人全員が死亡という大きな事故が起こります。

事故機のフライトレコーダー、通称「ブラックボックス」を開いた
航空事故調査局の音声分析官ポロックが謎の失踪。
調査を引き継いだマチューは、コックピットに男が侵入したことを発表。
乗客にイスラム過激派がいたことで、その分析が高く評価されます。

さらに調査を続けることになったマチューは
被害者の1人が夫に残した事故直前の留守電を聞きますが、
その音がブラックボックスに残された物と違うことに気づきます。

大企業の利益優先体質、その闇。
・・・とまあ、ありがちな方向へ話は進んでいきますが、実際恐ろしいですね。
航空事故原因究明時の最後の砦、ブラックボックス。
でもそれさえも人為的に操作する余地があるということか・・・。

本作はマチューとその妻との関係性が、一時危うく揺れながらも
うまく信頼関係を取り戻していくというのがいいし、
それなのに、エンディングはショッキング。
サスペンスがなかなか効いております。

探偵の耳を持つ男、マチュー。
事故機の残骸を集めた格納庫で瞑想。
彼の脳内で現場の状況が再現されていくというシーンがステキでした。

それにしても、マシンにすべてを委ねる自動操縦については、
確かにちょっと恐いものがありますね。
そういうことも示唆している作品でもあります。

 

<Amazon prime videoにて>

「ブラックボックス」

2021年/フランス/129分

監督:ヤン・ゴズラン

出演:ピオエール・ニネ、ルー・ドゥ・ラージュ、アンドレ・デュソリエ

サスペンス度★★★★☆

企業の横暴度★★★★★

満足度★★★★☆


「ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ

2023年07月19日 | 本(その他)

湿地の娘

 

 

* * * * * * * * * * * *

ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。
人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。

6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。
読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、
彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。
以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、
彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと
思いをはせて静かに暮らしていた。
しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……

みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、
物語は予想を超える結末へ──。

* * * * * * * * * * * *

 

本作は、先に映画を見て感銘を受けたところですが、
せっかくの世界的ベストセラー、ぜひ原作も読んでみたいと思っていて、
ようやく読むことができました。

これを読むと、映画がいかにこの本の世界観を壊さないように
忠実に描こうとしていたかが分かります。

 

6歳で家族に見捨てられ、湿地のみすぼらしい小屋で
たった1人で生きていかなければならなくなったカイア。

学校へも行かないカイアに読み書きや学ぶことの楽しさを教えてくれたのは少年テイト。
カイアはテイトに恋心を抱くようになりますが、
彼は大学進学のためこの地を去り、約束も違えて戻ってこない・・・。
村の人々から「湿地の娘」と呼ばれ蔑まれながら、孤独の日々は続きます・・・。

しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に接近してくる。

 

映画もそうでしたが、実はこの物語は、
このチェイスが死体で発見される所から始まるのです。
事故か、事件か・・・?

その捜査の様子と、カイアの幼少期からの生活の様子が交互に描かれていきます。

 

孤独でありながら、聡明で生きる力に満ちたたくましい女性、カイアの魅力。
そして、美しい湿地にあふれる自然。

 

そして、終盤の裁判の様子もやきもきさせられるのですが、
カイア自身の事件への思いが語られないところがミソといえばミソなのでした。

 

映画もよかったですが、もちろん、本もスバラシイ!!
世界中で愛されたのも、もっともなことであります。

著者、ディーリア・オーエンズは動物学者で、
この本は69歳で執筆した彼女の初めての小説とのこと!!

 

<図書館蔵書にて>

「ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ 友廣純訳 早川書房

満足度★★★★★


君たちはどう生きるか

2023年07月18日 | 映画(か行)

深読みしたくなる

* * * * * * * * * * * *

吉野源三郎さん著作の題名をタイトルとしていますが、
内容は全く別物、宮崎駿監督によるオリジナルストーリーです。

 

ジブリアニメというとこれまでは、公開前に鳴り物入りで大プロモーションが繰り広げられ、
見る前に、もう見なくてもいいかと思ってしまうくらいでしたが、
本作については予告編もCMも宣伝もなし、という異例の公開。

私は初日のアサイチで見ましたが、
それでも満席というほどではないけれど、そこそこ賑わっていました。
さすがジブリアニメですね。

 

さて、事前にストーリーもキャストも何も知らされていなかったので、
ワクワク感が高まります。

 

時代は太平洋戦争末期。

主人公となる眞人(まひと)少年は、空襲の火災で母を亡くします。
そして、父の仕事の都合もあり、父の再婚相手の家がある田舎へ越してきます。
父の再婚相手は、眞人の母の妹。
つまり眞人にとっては叔母に当たる人。
そしてその実家は古い大きなお屋敷。

ある日、不意に行方不明となった義母を探すために、
眞人は謎のアオサギに導かれ、異界へ踏み込んでいきます・・・。

 

 

これはつまり、正統なファンタジー、「行きて帰りし物語」なのです。
まず眞人の置かれている状況。
戦時中であり、母を亡くしている。
父の再婚ということで、新たに「母」を迎え入れることになった。
その義母の妊娠。少年はまだ結婚のナマの意味をスンナリ受け入れられない。
そして転校。

少年にとっては実に苦しい出来事ばかり。
彼は表向き「いい子」を演じているので、誰にもそんな思いを打ち明けることもできず、
胸の奥にため込んだままになっているのです。
そんな彼が、異界へ踏み込みどんな体験を積んでいくのか・・・。
つまりこれは彼自身の胸の奥の暗い部分を見つめ、向き合うための旅なのです。

やがて彼が帰ってくることは、ファンタジーとしては読み込み済み。
だからまあ、四の五の言わずに、その冒険を楽しめばいい。

 

作中で、所々これまでのジブリ作品を思い出させるようなシーンがあって、
本作はやはり宮崎駿氏の集大成というべき作品なのだろうという気がしました。

アオサギを始め様々な登場人物や出来事の意味は、
おそらくもう一度見ないとはっきりしない気がするので、
多分もう一度見ることになるかも知れません。
見る人それぞれがそれぞれの深読みをして楽しむ。
これが本作の醍醐味なのかも。

さしあたって私は、ほとんど妖怪じみてわらわらと出てくるばあさまたちが好きです!

 

声優さんについては本当に事前の情報がなかったのですが、
見ているうちに気づいたのは2人。
菅田将暉さんと柴崎コウさん。
あとで木村拓哉さんも出ていたと知ってビックリ。
わからなかったのが、クヤシイ・・・。

そしてエンドロールとともに流れたのは米津玄師さん。
やった~って感じですね。

 

ざっと見て、とりあえずは楽しめるファンタジー。
その奥の深みを読み解くためには、一度ではムリかな?というのが率直な感想です。

 

<シネマフロンティアにて>

「君たちはどう生きるか」

2023年/日本/124分

監督・原作・脚本:宮崎駿
出演(声):山時聡真、菅田将暉、柴咲コウ、あいみょん、木村佳乃、木村拓哉

ファンタジー度★★★★★

ジブリ度★★★★★

満足度★★★★☆


ライアー×ライアー

2023年07月17日 | 映画(ら行)

素直になれないふたり

* * * * * * * * * * * *

金田蓮十郎同名コミックの実写映画化。
松村北斗さん見たさのミーハー視聴です。

 

両親の再婚で義理の弟となった同い年の透(松村北斗)と同居する湊(森七菜)。
透はクールで無愛想で女癖が悪く、付き合う相手がコロコロ変わります。
そんなとばっちりをいつも受けてしまうのが湊。
そんなわけで、同居の義姉弟とはいえ、
お互い冷たい態度をとり続け、ろくに話をしたこともありません。

ある日、親友の頼みで女子高生姿でギャルメイクをした湊が、バッタリ透と遭遇します。
いい年をしてギャルの扮装をしたことをバカにされるのがイヤで、
湊はとっさに自分は女子高生の「みな」だと嘘をつきます。
みなが湊とそっくりなことに驚きながらも、次第に彼女に惹かれていく透。
そして透は、実にけなげにみなに好意を示し始めるので、
湊は本当のことが言い出せなくなってしまうのです。

・・・と、思った以上にじれったくてキュンキュンしてしまうドラマなのであります。
主に湊の視点でストーリーが語られるので、
透の本当の気持ちがどこにあるのか最後まで謎めいている、
というところがミソですね。

素直になりましょうよ。
言葉は大切です・・・。

でもまあこの、ツンデレといいますか、冷たい態度の裏側で、
実は死ぬほど相手が好きというシチュエーション、
やはりこれは鉄板であります。

しばし、めめを忘れてほっくんに見とれてしまいました・・・。

<Amazon prime videoにて>

「ライアー×ライアー」

2021年/日本/117分

監督:耶雲哉治

原作:金田蓮十郎

脚本:徳永友一

出演:松村北斗、森七菜、小関裕太、堀田真由、七五三掛龍也、板橋駿谷

 

嘘つき度★★★★☆

キュンキュン度★★★★★

満足度★★★★☆


あちらにいる鬼

2023年07月16日 | 映画(あ行)

あちらにいる鬼

* * * * * * * * * * * *

作家・井上荒野が、自身の父である作家の井上光晴と母、そして瀬戸内寂聴をモデルに、
男女3人の特別な関係を綴った同名小説の映画化。

人気作家の長内みはる(寺島しのぶ)は、
戦後派を代表する作家・白木篤郎(豊川悦司)と講演旅行をきっかけに知り合い、
男女の仲となります。

白木の妻・笙子(広末涼子)は、夫の奔放な女性関係を黙認することで
平穏な夫婦関係を続けていたのです。

みはるにとって白木は体だけの関係にとどまらず、書くことを通じて繋がっていると感じ、
かけがえのない存在となっていきますが・・・。

寺島しのぶさんと豊川悦司さん。
う~ん、大人の恋。
イヤ、「恋」というよりも、エロス的な愛ですね。
そしてまた、奔放な夫の女性関係を耐え忍ぶのが広末涼子さん、
というのがなんとも皮肉というか絶妙な配置というか・・・。

白木は、これまでにも何人も愛人関係を持った相手がいて、
その病気のお見舞いに妻を行かせたりするという、
なんとも信じがたいクソ野郎なのであります。

が、一定時期までは確かにそれが男の甲斐性みたいに思われていた時がありましたね。
でも女の気持ちは時代によって移り変わったりはしない。
女の平静を装うその胸の内に渦巻くものを、
男は想像しないのだろうか・・・。

ま、そんなクソ野郎を演じてもどこかカッコイイ、トヨエツであります・・・。

そんな関係を断ち切る決意で、自らを「殺して」出家するという道を選んだみはる、
というところでは、常以上の愛の深さがきわだちます。

そして今、世間を騒がせている広末涼子さん。
結婚し、子育てもして、最近一段と演技の幅を広げたなあ・・・と感じている所でした。
しかし、それにとどまらず、さらに魔性の女としての
技量までもをまとうことにしたのか・・・。

不倫は決して犯罪ではないし、それについてどうこう言えるのは当事者のみだと私は思います。
人の心はどうにもならない部分がありますよね。
なのに、まるで犯罪者扱いで世間は騒ぎすぎ。
いいんですよ、堂々としていれば。

そして一層役者としての幅を広げて帰ってきてほしい。
広末涼子さん、私は期待しています。

 

<WOWOW視聴にて>

「あちらにいる鬼」

2022年/139分/日本

監督:廣木隆一

原作:井上荒野

脚本:荒井晴彦

出演:寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子、高良健吾、村上淳、蓮佛美沙子

愛憎度★★★★★

満足度★★★★☆

 


オレンジ・ランプ

2023年07月15日 | 映画(あ行)

理解の輪が広がれば

* * * * * * * * * * * *

39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんの実話を元にしています。

只野晃一39歳。
妻と2人の娘との4人家族。
営業職としては成績もよく、普通に幸せな毎日を送っています。
ところが、物忘れが度々起こることで受診し、
若年性アルツハイマー型認知症との診断を受けるのです。

なんと言ってもまだ39歳。
先のことを考えると不安に押しつぶされそうになる晃一。
妻は気を遣い、夫には何でもやってあげようとしますが、
夫はますます元気をなくしていきます。

しかし、あるきっかけで2人の意識に変化が・・・。

確かに、39歳で認知症と診断されたりしたら、
お先真っ暗で、人生に絶望してしまいそうです。
しかし、わたし達はその症状について、きちんとした情報をほとんど持っていない。
まあ、人によってその症状は様々ではありますが、
その進行はゆっくりである場合もある。

人の名前などを覚えられなくなったり、帰り道がわからなくなったり、
確かに困ることもあるけれど、でも大丈夫なことも多いのです。
そして認知症でもその人はその人。
多少記憶に欠落があろうとも、
いきなり何もできなくなってしまうわけではない。

とりあえずは「何でも」ではなく、本人が「困った」ことのみを助ければいい。

そのためには、家族や職場、そして地域の人々の協力も必要です。
家族内だけのことにして、隠してしまいがちですが、
オープンにした方が本人の活動範囲も広がります。
そして何より、多くの人が知らないことから来る認知症への偏見から逃れられるし、
困ったときには力を借りることもできる。
認知症だからといって人生をあきらめなくてもいいのだと、納得しました。

このような作品はぜひ多くの人が見て、理解が広まるといいなと思います。

<シネマフロンティアにて>

「オレンジ・ランプ」

2023年/日本/99分

監督:三原光尋

原作:山国秀幸

出演:貫地谷しほり、和田正人、伊嵜充則、新井康弘、赤井英和、中尾ミエ

 

若年性認知症理解度★★★★★

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆