「自分は何も知らない」ことを知っている。
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「敵は、先入観だよ」
学力も運動もそこそこの小学6年生の僕は、
転校生の安斎から、突然ある作戦を持ちかけられる。
カンニングから始まったその計画は、
クラスメイトや担任の先生を巻き込んで、予想外の結末を迎える。
はたして逆転劇なるか!?
表題作ほか、「スロウではない」「非オプティマス」など、世界をひっくり返す無上の全5編を収録。
最高の読後感を約束する、第33回柴田錬三郎賞受賞作。
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伊坂幸太郎さんの短編集ですが、珍しくどれも少年がメインとなるストーリー。
私、子どもたちが出てくる物語は好きなのです。
まだ大人の社会文化に染まらず、まっさらに近い感性や思考方法を持っている彼ら。
世の中のことはうっすらと見えてきているけれど、
まだ、それだけがすべてではないとまっすぐに見ることができる。
ちょっぴり生意気だったり、意気地無しだったり、
そんな個性もたっぷりな少年少女たちの言動は、なんだか応援したくなってしまいます。
元々伊坂幸太郎さんは子供の登場する話は苦手だったそうですが、
本作はそんな片鱗もみせず、ステキなストーリーを紡いでくれています。
表題の「逆ソクラテス」。
かのソクラテスはこんなことを言ったのだとか。
「自分は何も知らない、ってことを知っているだけ、自分はマシだ」と。
けれど、多くの人は逆。
完璧な人はいるわけないのに、自分は完璧だ、間違うわけがない、何でも知っているぞ、
・・・と。
こういう思考を「逆ソクラテス」と本作中の佐久間くんが言うのです。
まさに、この子たちのクラスの担任がそれ。
「この子は頭がいい、いい子」
「この子は、引っ込み思案のダメな子」
教師のこのような勝手な先入観による決めつけが、
子どもたちに向けた行動や言葉の端々に出るものだから、
いつの間にかクラスの子どもたちも、その子供本人までも、
いい子、ダメな子になりきってしまう・・・。
だから、「僕はそう思わない」と、きちんと声に出すことが大事だと言うのです。
子どもたちが互いに語り合いながら、前向きな提案をし実行していく。
時にはそれは冒険で危なっかしくもあるけれど、ワクワクしますねえ・・・。
また他のストーリーの中では、逆にソクラテス的教師も登場します。
彼は偉そうなことなど全く言わないけれど、
子どもたちをよく見ていて、ぼそっと、
あとになって「こういう意味だったのか!」というような言葉をくれたりします。
この先生は別の短編の中にも何度か登場。
そうした関連性が見えるところが本巻のステキな所でもあります。
幸せな一冊。
「逆ソクラテス」伊坂幸太郎 集英社文庫
満足度★★★★★