映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「シロクマのことだけは考えるな! 人生が急に面白くなる心理術」 植木理恵

2014年11月29日 | 本(解説)
この本のことは、もう金輪際思い出さない!?

シロクマのことだけは考えるな!―人生が急にオモシロくなる心理術 (新潮文庫)
植木 理恵
新潮社


* * * * * * * * * *

「シロクマのことだけは考えるな」、
この心理学の著名な実験があなたの悩みを解決してくれるかもしれません。
いますぐ忘れたい辛い恋、成果のない合コン、ギクシャクする上司との関係、
どんなに頑張っても幸福感のない日常
―あらゆるシチュエーションで私たちがぶつかる問題を
気鋭の心理学者が分析、ベストの対処法を教えます。


* * * * * * * * * *

シロクマのことだけは考えるな・・・?
ふしぎな題名に心惹かれます。
これはつまりこういうことです。


思い出したくもない嫌な出来事。
あんなことはさっさと忘れてしまいたい!!
・・・しかし、そう思えば思うほど忘れることができずに、
いつまでも心にまとわりつく。
そんなことはありませんか?
これは、「あのことを忘れるぞ」と意識することは同時に
「えっと、『なにを』忘れたいのだっけ?」
という無意識の問いかけを、自らに繰り返して行い続けること、
だからなのだそうです。
かつて、ある実験があったそうです。
集めた人を3グループに分けて、
なにも説明せずにシロクマの一日を追った50分程度の映像を観せた。
観終わった後、研究者は3グループそれぞれに

「シロクマのことを覚えておけ」

「シロクマのことは考えても考えなくてもお好きなように」

「シロクマのことだけは考えるな」

と別々のことを告げる。
そして1年後、
内容を一番克明に覚えていたのは
「シロクマのことだけは考えるな」
と、禁止されたグループだったというわけ。


さて、困りました。
忘れようと思えば思うほど忘れられなくなる。
では、あの思い出したくない嫌な出来事をどうすれば忘れられるのでしょう。
・・・それは、脳のメーターが振りきれるまで考えること!!
と、著者は言います。
自分の傷口をしっかりと見つめることで心が満足する。
さらには、辛く悲しい出来事を詳細に日記につける、
そして自虐的に人に話す。
そうすることで一層早く忘れることができるそうですよ。


それでちょっと思いついたことがあるのです。
私、このように見た映画をブログ記事として綴っているわけですが、
時に、見たことさえも忘れてしまう作品がたまにある。
これってつまり、記事にする作業でじっくり考えてしまったので、
すっかり安心して、その後きれいさっぱり忘れてしまうということなのでは・・・? 
一生懸命わざわざ忘れるための作業をしているようなものだったのか・・・。
でもまあ、忘れてしまえばまた今度、初めてのように楽しめますもんね!!


さて、本巻は、シロクマの話はほんの序の口。

失恋した夜、「軍艦マーチ」は「中島みゆき」よりブルーな曲になる。

合コンで出会った相手とはなぜすぐに別れてしまうのか。

思い通りに人を育てる超簡単人身コントロール術。

最強の人間関係を作るほめるテクニック。

なぜ不倫カップルは長続きするのか。

等など・・・興味深く、そして納得の行くことが満載です。
確かに、人生がなんだか面白く感じられそう・・・。


よし、もうこの本のことは、金輪際思い出さないぞ!!!


「シロクマのことだけは考えるな! 人生が急に面白くなる心理術」植木理恵 新潮文庫
満足度★★★★☆


はじまりは5つ星ホテルから

2014年11月28日 | 映画(は行)
いいじゃないですか。お一人様。



* * * * * * * * * *

5つ星ホテルのクオリティを評価する覆面調査員のイレーネ。
実際に各国の5つ星ホテルの協力を得て
現地で撮影したという映像がなんともゴージャスです。
仕事としてこの豪華ホテルを泊まり歩き、
そして、たまったマイレージでまたステキなバカンスを楽しむというイレーネ。
なんとも優雅です。
しかし40歳、独身。
自宅に帰れば一人寂しく冷凍食品で食事をとる・・・。
でも彼女はそれを自由と感じていました。
しかしある時、宿泊先である女性と知り合い、親しくなったことが、
やがて彼女のこれまでの生き方を省みることにつながります。



あんなに家族の絆を第一にするイタリアでも、
やはり今はこうなんだなあ・・・と思いました。
女性が仕事に生きがいを感じ、自立して生きる。
自由で、カッコイイけれど、どこかに漂う孤独感。
いや、これが男性ならそう思うでしょうか?
孤独と感じてしまうというのは、
そういう旧来の「女性のありかた」が、
まだ大きく影を落としてしまっているのだろうと思います。
それにしてもやはり、どんなときにでも
自分を理解し、応援し、見守ってくれる人は必要なんじゃないかな。



本作にはイレーネの元カレ、アンドレアが登場しますが、
彼とはなんでも話し合える“親友”。
でもあろうことか、彼から恋人が妊娠したと相談されてしまいます。
彼に子供ができたら、自分から離れていってしまうのではないかと、不安に思うイレーネ。
結婚し子供もいる妹からは、
「将来一人っきりでどうするのよ」と言われてしまう。
イタリアも、日本も、何処も同じ。



だけれども、既婚者の身としては、そういう自由さはやはり羨ましくも感じてしまう。
いいじゃないですか。
何かあった時に駆けつけてくれる“親友”や“妹”や“姪たち”がいるのだから。
お一人様に、私はエールを送ります!
本作、男性が見てもピンと来ないかもしれませんが、
女性なら共感できるはず。



駐車違反で車を持って行かれたり、鍵を亡くしたりする妹が、
密かにおかしい!

はじまりは5つ星ホテルから [DVD]
マルゲリータ・ブイ,ステファノ・アコルシ,レスリー・マンヴィル,ファブリツィア・サッキ,ジャンマルコ・トニャッツィ
KADOKAWA / 角川書店


「はじまりは5つ星ホテルから」
2013年/イタリア/82分
監督:マリア・ソーレ・トニャッツイ
出演:マルゲリータ・ブイ、ステファノ・アルコシ、レスリー・マンビル、ファブリッツィア・サッキ、ジャンマルコ・トニャッツィ
ゴージャスな舞台度★★★★☆
満足度★★★★☆

インターステラー

2014年11月27日 | 映画(あ行)
時空を超えた愛



* * * * * * * * * *

本作、3DではないけれどぜひともIMAXシアターで見ようと思っていたのです。
そこで張り切って劇場へ出かけたところ、
「本日機械の故障で、IMAXでの上映はすべて中止になりました」・・・と。
え~。聞いてないよ~(そりゃそうだろうけど)。
その後、通常版で一番近い上映が45分後にあるけれど
日本語吹き替え版ということで、この場は諦めました。
でもこの日、すっかり「インターステラーを観るぞ!」モードになっていたため、
気持ちが収まりません。
調べてみると、他の劇場でもやっていて、次の上映に何とか間に合いそう・・・、
ということで、エッサエッサと歩いて
(地下鉄を乗り継いだり、街なかをタクシーに乗ったりするより、
歩いたほうが早くてお金がかからない!と、思ったもので)
移動して、無事視聴。
あ~、疲れた。
しかしこの日、おかげで徒歩1万歩を達成出来ました(!) 

おもいっきり余談でした(^_^;)



さて本作、地球環境の変化で世界的飢饉となり、
人類の滅亡が迫っているという近未来が舞台です。
人類を存続させるため、人間が生存可能な星を
別の宇宙で探そうとするプロジェクトがあり、
元エンジニアのクーパー(マシュー・マコノヒー)が、メンバーの一人として選ばれます。
彼には老いた父親と2人の子供がいるのですが、
この家族を救うため、そして人類を救うために、
還る事ができるかどうかもわからない宇宙へ旅立つ・・・。


これは時空を超えた愛の物語。
アインシュタインの相対性理論や4次元、5次元
・・・と言われても理解不能ではありますが、
でも全然問題ありません。
そこはフィーリングで十分です。
時と人の物語をじっくり愉しめばよいのです。


私はもともとタイム・パラドックス的な話が好きなので、
この時空を超える不思議な感覚にもワクワクします。
ある星では一時間が地球時間の7年に当たるという・・・。
そこで彼らは驚くべき数時間を過ごすのですが、
母船に戻ってみると、なんと23年が経過していたというのです!! 
若かった同僚が瞬時に年をとっている・・・。
それはまた地球に残してきた家族たちも同様です。
地球を発つときに怒って見送りにも出てこなかった娘が、
科学者となり、彼らの旅を見守っていた・・・。
宇宙の旅というのは、こうした時間的リスクを伴うので、
そこがまた興味深いですね。
ラストがまたいいんですよ。
もしかしたら、また別の星でBプランが実行されるのかもしれない。



はじめ、娘マーフの部屋で起こる幽霊のようなポルターガイストのような出来事。
実はそれが大変重要なのです。
この展開が素晴らしい。
これらすべてを司るのは果たして“彼ら”なのか。
ラストでクーパーが語ることのほうが真実にも思えます。
ワクワクするSFで、そして深い人と人(ロボットも含む!)との絆の物語でした。
ここに登場するロボットは、人の姿をしていないのですが、
こういうのもありですよね。
時には嘘もつくし、ユーモアも。
その度合を初期設定できるというのもいいなあ。
確かにそこに感情はなくて、それがあると思うのは
こちらの錯覚なのかもしれないけれど。
でも私はすっかり感情移入してしまいました。


それから、驚きの大もの特別出演にも注目。
お楽しみに!!


ただ物足りなかったのは、地球の窮状を訴える切実なシーンがない。
砂嵐が起こるだけで・・・。
実は食料不足で、もっと惨憺たる状況があるはずではなかろうか・・・。
まあ、それをいうための作品ではないにしても。


それにしても、機械のメンテナンスをよろしくお願いしますね、ユナイテッド・シネマ様。

「インターステラー」
2014年/アメリカ/169分
監督:クリストファー・ノーラン
出演:マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、マイケル・ケイン

壮大さ★★★★☆
満足度★★★★★

「異国のおじさんを伴う」 森絵都

2014年11月25日 | 本(その他)
予測不能、森絵都ストーリーの「道の向こう」

異国のおじさんを伴う (文春文庫 も 20-7)
森 絵都
文藝春秋


* * * * * * * * * *

思わぬ幸せも、不意の落とし穴もこの道の先に待っている。
どこから読んでも、何度でも、豊かに広がる10の物語。
誰もが迎える、人生の特別な一瞬を、鮮やかにとらえる森絵都ワールド。


* * * * * * * * * *

森絵都さんの短編は大好きです。
題材も、展開の仕方も、そしてオチの部分も、
他にはないひらめきが感じられ、どれも鮮烈です。
本巻も、また、然り。


冒頭「藤巻さんの道」
『道の向こう』という写真集が登場します。
ベルンハルト・M・シュミッツというドイツ人カメラマンによるこの写真集は、
すべてが「道」の写真ばかりなのですが、実に様々。
山の道、みどりの中の道。
花畑の道。荒野の道。
「僕」は、人がどの道を好きかを聞くのを楽しみにしています。
それを聞くとその人の人生観がわかるような気がするので。
それで、ある日、とても優秀な職場の同僚、藤巻さんに訪ねてみた。
「どの道が一番好き?」
彼女が選んだのは、意外にも荒野の中の、寂しくすさんだ道。
なぜこんな道を彼女は選んだのか。
彼女の中のいったい何がこの道を選ばせるのか。
全く予想もつかない答えがありました。
う~む、思わず唸ってしまいます。
実は、私、この写真集を持っていまして、本当に大好きなんですよ!!
人を何処かへ導くための道。
どこかで見たことがあるような、いつか歩いてみたいような・・・。
本作を読んで、久しぶりに引っ張りだしてみましたが、やはり、いい。
私の一番のお気に入りは? 
さて、いくつかはあるけれどどれが一番かは、もう少し考えてみよう。
とにかく本作、そんなわけで
なんだかとても親しみが持ててお気に入りです。

道のむこう
ベルンハルト・M. シュミッド,Bernhard M. Schmid,アイディ
ピエブックス



「ぴろり」
一人旅の「私」に、何故かある車の運転手が話しかける。
「もしよかったら、一緒にドライブでもいかがですか」
・・・ナンパの話?と思いきや、
これまた実に意外な展開。
というかネタバレしたくないので詳しくは書きませんが、
森絵都さんもこういう話を書くんだ・・・と思う次第。


「桂川里香子、危機一髪」
実にラストが爽快!!


表題作「異国のおじさんを伴う」
題名だけでは、意味がよくわかりませんね。
異国のおじさんというのは実は"ひげ人形"で・・・、
というとますますわからなくなる。
オーストリアの民芸品に"ひげ人形"というのがあるのです。
「私」は"ひげ人形愛好会"から招待を受け、オーストリアのリンツを訪れる。
そこで待っていたのは・・・
ラッキーなのか、アンラッキーなのか。
しかし、彼女は「何か」を取り戻すのですね。
印象に残るストーリーです。
その巨大なひげ人形を観てみたい・・・。


「異国のおじさんを伴う」 森絵都 文春文庫
満足度★★★★★

6才のボクが、大人になるまで。

2014年11月24日 | 映画(ら行)
165分のタイムトラベル



* * * * * * * * * *

一人の少年が6歳~18歳になるまで、
12年間の成長と家族の軌跡を描きます。


なんといってもスゴイのは、実際に12年間をかけ、
同じキャスト・スタッフで作品を撮り続けたというところ。
このポスターのまだあどけないほどの少年が、
最後にはステキな美青年までへ成長を遂げます。


時とともに主人公たちも年齢を重ねていく。
確かにそういう物語はこれまでにもありました。
日本では「北の国から」。
また、そもそも本作の監督リチャード・リンクレイター氏は
「ビフォア・サンライズ」のシリーズでも分かる通り、
時と人の移り変わりを写し撮ることが得意です。
でもそれらは、あくまでも作品を撮影する時点での「現在」を切り取ったもの。
前作を見てから続編の年齢を重ねた登場人物を見るためには、
実際の年月をまたなければなりませんでした。
しかし本作、初めから12年後に完成することを見込んで、
毎年撮りためていったのですね。
だから私達は、一気に165分(やや長いけど)で、
少年の成長を見ることができるのです。
これはスゴイ!! 画期的。
まるでタイムマシンのようです。



米テキサス州に住む少年、メイソン(エラー・コルトレーン)。
バツイチの母(パトリシア・アークエット)と
姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター、監督の娘さん!)の3人暮らし。
キャリアアップのため母が大学に入ることとなり、
ヒューストンへ移り住みます。
時々は別れた父親(イーサン・ホーク)とも時を過ごします。

まだ幼い姉弟は別れた父母の復縁を願っていましたが、望みは薄そう。
母は、別の男性と再婚してしまいました。
しかしその結婚はうまく行かず・・・。
母は、勉学を極め大学の教員に。
姉弟の父はミュージシャンの道を諦め、会社員に。
別の女性と再婚し、子供も生まれます。
メイソンはアート写真家の夢を叶えるために大学進学を果たし、
家を出ることに・・・。



何気ない日常の一コマ一コマが綴られていきます。
メイソンのある時一年間の成長が凄かったですね。
チビッコが突然ひょろながく背が高くなって、声も変わっている。
だから男の子ってオモシロイ。
時と人。
それは留まってはおらず、常に変化しています。
その変化を見事にとらえた作品と言っていいでしょう。
それは年をとったという見かけの変化だけではありません。
少年のパーソナリティの形成を私達は目の当たりに見るわけですし、
成長というよりも「老い」に向かっていく父母の変化がまた、とてもいいのです。
イーサン・ホークにしても、パトリシア・アークエットにしても、
はじめの頃よりも終盤の頃のほうが私は好きです。
若い頃はまだまだ自分の身の振り方だけで精一杯。
子供のことなんか実はかまっていられない。
そんなふうでした。
父親は特に、まだ自分自身が少年みたいなところもありますね。
しかし、彼らもしっかり成熟していくのです。
これこそは年齢の重み。
彼らの俳優人生の歩みであるのかもしれません。


大学進学のために家を出るメイソンを見送るところで、母親が泣き出します。
それは別れの寂しさではなく、
息子を自立させて自分自身の生きる意味を一時見失ってしまったから。
でもそれは一時の感情の高ぶりで、心配はいらないでしょう。
彼女にはしっかりした仕事があるのだし、
彼女を尊敬してくれる学生たちもいる。
むしろこれからこそが彼女自身の人生の始まりと言ってもいいのだから。
同じ「母」の立場として、あなたはこれまでよく頑張ったよ・・・と、
ハグしてあげたくなりました。
だって、誰もしてあげないから・・・。


「ドラゴンボール」のアニメ、イラク戦争、
オバマ大統領選挙、ハリーポッターの本の発売・・・
その時時のトピックスを織り込みながら、
見事に私達を12年のタイムトラベルに誘ってくれました。


また10年後に続編をお願いします・・・。
エラー・コルトレーンくんは長髪より短い髪のほうが似合うと思う。


「6才のボクが、大人になるまで。」
2014年/アメリカ/165分
監督:リチャード・リンクレイター
出演:エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレイター、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク

時の旅度★★★★★
満足度★★★★★

ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!

2014年11月23日 | 映画(わ行)
遊び心たっぷり



* * * * * * * * * *

一晩で12軒のパブをめぐる「ゴールデン・マイル」に失敗したことが忘れられないゲイリー。
再挑戦するために当時の仲間4名を集め、故郷ニュートンヘイブンへ向かいます。
そんなことが嬉しいのは、高校生のまま大人になったようなゲイリーだけで、
あとの4人はむ昔のよしみで付き合っただけ・・・。
最初の2・3軒はどうにも意気が上がりません。
一人なんか禁酒をしたと言って水を飲んでる・・・。
イギリスの田舎町のパブ・・・そのちょっぴり鄙びた佇まいがいいですよねー。
そんなところで飲むビール。
確かに美味しそう・・・。
もっとも、本作、店の中はみな現代風に改装されて
どの店もみな同じスターバックス風、
・・・なんて皮肉を効かせていましたが。



さて、始めの内こんなふうで、これは酔っぱらいが仕出かすお馬鹿な騒ぎの物語・・・?
と思い始めた頃に事件が起こります。
なんだか町の人々の様子がおかしい・・・。
見た目は普通の人間なのですが、実は機械じかけの“ブランク”で、
いつの間にか町の人々の大部分が入れ替わっているらしい・・・。
そして自分たちも身の危険を感じ始めます。
はじめの目的通りパブ巡りをしたほうが怪しまれないのではないか・・・
ということで、5人はパブ巡りを続けるのですが・・・・。



いつの間にか宇宙の侵略者と戦う物語になってました。
そんな中でもゲイリーはパブ巡りを諦めない。
いくつになっても、子供みたいに馬鹿なことを馬鹿と知りつつやってしまう。
そこが人間の愚かさでもあり、また愛しい部分でもあるわけですね。
ま、いいんじゃないでしょうか・・・。



ワールズ・エンド/酔っぱらいが世界を救う! [DVD]
サイモン・ペッグ,ニック・フロスト,パディ・コンシダイン,マーティン・フリーマン,エディ・マーサン
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」
2013年/イギリス/108分
監督:エドガー・ライト
出演:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、パディ・コンシダイン、マーティン・フリーマン、エディ・マーサン、ロザムンド・パイク

酔っ払い度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「せいめいのはなし」福岡伸一

2014年11月21日 | 本(解説)
絶え間なく変化していくことが、生きていること

せいめいのはなし (新潮文庫)
福岡 伸一
新潮社


* * * * * * * * * *

「お変わりないですね」と言っても、実は「お変わりありまくり」―。
生物が生きている限り、半年も経てば体を構成する原子はすっかり食べたものと入れ替わる。
絶え間なく入れ替わりながら、常にバランスがとれているという
生物の「動的平衡」のダイナミズム。
内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司。
好奇心溢れる4名との縦横無尽な会話が到達する、
生命の不思議の豊かな深部!


* * * * * * * * * *

生物学者、福岡伸一さんと、
内田樹、川上弘美、朝吹真理子、養老孟司4名との対談集です。
テーマは「生命のはなし」。


福岡伸一さんは「動的平衡」という論を説いています。
すなわち、私達の体はものを食べて、それをエネルギーとして生きているのだ・・・と、
なんとなく思っているのですが、
そうではなくて、食べ物を構成する原子は
私達の体の中に取り入れられて行く。
「生きている」ということは、
体の中で合成と分解が絶え間なくグルグル回っているということ。
「動的平衡」とはこのように、
それを構成する要素が、絶え間なく消長、交換、変化しているにもかかわらず、
全体として一定のバランスが保たれるシステムのこと。
それぞれの方との対談の中で、
生物学のみならず、経済学、哲学や文学にまで話は広がりながら
「動的平衡」を考えていきます。


半年もすれば、体を構成する原子はすっかり入れ替わる・・・? 
ふしぎですね。
今の自分は以前からの自分と変わらないと思っていましたが、
実は「お変わりありまくり」。
一年前の自分とはまるで別物。
なのに、やっぱり自分は自分。
生命というのは不思議なことばかりです。
細胞は、生まれた時にどこそこのパーツと決められているわけではなくて、
周りの細胞との関連の中で、どのような細胞になるのか決まっていくそうです。
つまり細胞が周りの空気を読んでいる。
う~ん、まるで人と人との関係のようでもある。
深いですねえ・・・。
私には若干難しいところもありますが、とても興味深い話の数々でした。


また、福岡伸一さんは、銀座にフェルメール・センターというのをつくっています。
フェルメール作品の本物を全部集めるなんていうことは
費用の面からもとてもできないので、
最先端技術で複製を作り、それを作成順に並べてあるそうなのですね。
そうすると、フェルメールの「変化」がわかる。
スゴイですね。この発想。
私もぜひ観てみたくなりました。


科学は深めると哲学になっていくのだな・・・。
こういう話はちょっと好きです。


「せいめいのはなし」福岡伸一 新潮文庫
満足度★★★★☆

紙の月

2014年11月20日 | 映画(か行)
ニセモノの月を抱いて



* * * * * * * * * *

バブル崩壊直後1994年。
銀行の契約社員梅澤梨花(宮沢りえ)は、外回りの仕事をしていますが、
その丁寧な仕事ぶりには定評を得ていました。
自分には関心の低い夫にやや不満があるものの、平凡な毎日を送っていたのです。
そのことが起こる前までは・・・。

ある時、大学生の平林(池松壮亮)と逢瀬を重ねるようになりますが、
その彼が抱えている借金を精算するために、顧客の金を横領してしまうのです。
一度そのようなことに手を出してしまうと、後はもう雪崩のよう。
ニセの証書を発行するという大胆な手口で、
横領額は次から次へと膨らんでいき・・・。



なんだか怖くて仕方がなかった
まるで自分が横領をしたかのように、
罪を犯していることの恐怖が胸を締め付ける。
そういう私は、所詮小心者。
このような犯罪には向かないな、と思ってしまいましたが。
いや、だからといって、この梨花が大胆で強い心の持ち主というわけではないのです。
豪華なホテルに泊まり、買い物をしまくり、
彼のためにマンションまで用意して・・・
歯止めのない浪費を繰り返しながら、
心の奥底は、いつか来る破綻に恐怖し凍りついている。
それが私達にも伝わっただけに相違ありません。


でも彼女が彼のためにしたことは、本当は間違いでしたね。
始めは律儀に月5万円を返していた彼ですが、
梨花の豪遊に金銭感覚も麻痺していき、
次第にダメな奴になっていく。
はじめのうちの彼なら、3万円の腕時計だって大感激だったはずなのに。


リッチな生活のはずなのに、それは所詮ニセモノの月。
本当の幸せはお金では買えない。
でもね、作中のように、何百万のお金を気軽に動かしたりできる裕福な人
というのがいるわけですよね、実際。
私も3万円の腕時計で十分じゃん、と思う生活感覚の持ち主なので、
こういう格差を理不尽に感じてしまいます。
この人達にとっては、はした金・・・、ちょっとくらい頂いても・・・と、
そんな気持ちも分からなくはない。
一番はじめに、顧客の1万円をほんのちょっとの間拝借するのでもどぎまぎしていた梨花が、
変貌するのには長い時間は必要ありませんでした。
次第に平林のためにやっているというよりも、何かに憑かれたようになってくる。
宮沢りえさんのこの迫真の演技も迫力がありましたが、
もっとすごかったのは小林聡美さん。
梨花のつとめる銀行のベテラン行員ですが、
彼女の視線がいつも梨花の良心にちくちくと突き刺さる。
ひゃー怖い。

ですが、これは本当に彼女が常に疑惑を持って梨花を見ていた、というよりも、
梨花が自分の中に後ろめたさを抱えているがための怖さなんですよね。
そういうところが上手い。



ラストは予想外でしたが、
これは、梨花が“ニセモノの幸せ”を貫き通そうと覚悟を決めたのだろうと思いました。
それで一挙にファンタジーめいてくるのも、悪くない。
バックミュージックの賛美歌もふしぎな効果をあげています。


それにしても私が最も本作で嫌いな人物は梨花の夫。
自分だけ高級時計をして、妻にはカードも持たせない。
まるで2・3日の出張のように、海外赴任の話を持ち出し、
妻がついてくるものと疑わない。
妻だって一応仕事があるのに、どうするのよ!
あまりにも自分本位。
これでは、梨花の気持ちが移ろうのも無理はありません。
が、この事件後のこの夫の運命を思うと、
ちょっと気の毒かも、と思ったりする・・・。

「紙の月」
2014年/日本/126分
監督:太田大八
原作:角田光代
脚本:早船歌江子
出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、小林聡美

怖さ★★★★★
満足度★★★★★

スタンリーのお弁当箱

2014年11月19日 | 映画(さ行)
なんてけなげな子どもたち



* * * * * * * * * *

この子どもたちの特上の笑顔に惹かれて、拝見。



スタンリーは想像力・表現力に優れていて、
お話がうまいので、みんなの人気者です。
けれどスタンリーは家庭の事情で学校にお弁当を持ってくることができず、
お昼の時間は水を飲んでお腹をふくらませていました。
それに気づいた級友たちは快くお弁当を分けてくれます。
ところが、そんなところを見た食い意地の張った教師が、
「お弁当を持ってこないのなら学校に来る資格はない!!」
と言い放ちます。
そのため、スタンリーは学校に来られなくなってしまいますが・・・。


始めに登場したスタンリーの目のまわりにアザ。
顔に泥もついています。
なんだか嫌な予感・・・。
けれどもスタンリーがあまりにも屈託なく明るいので、
そんなことは忘れてしまいます。
本人はお父さんが遠くに仕事に出て、お母さんもそちらに行っているので、
お弁当を作ってくれる人がいないなどと言っていますし・・・。
でも本作、最後の最後に種明かしのように、
本当のスタンリーの事情が明かされるのですが、実に、切ない話・・・。
それなのに、いつも明るくて級友や教師たちにさえ困ったところを見せようとしない。
スタンリーのけなげさにホロリとさせられます。
そして、今やこんなにも近代化が進んでいるインドも、
まだまだ厳しい現実が横たわっているということも改めて知りました。



けなげさといえばスタンリーの級友たちのけなげさもまた、
今どき日本の作品なら絶対こんな善良なだけの子どもたち
という設定なんかないでしょうね。
でもあえてこんな風に、
みんなスタンリーを気遣うステキな仲間たちというのが素敵です!!
そしてまた、子供より程度の低い
あの食い意地の張った教師のバカさ加減には呆れてしまいます・・・、
が、なんとこの役は監督本人が演じていたんですね!!
まあ、オーバー過ぎる演出ではありますが、
監督自らの役となればそれもよし・・・と思えてきました。


もともと本作は素人の子どもたちを集め、
ワークショップと称してこっそり撮影を続けたそうなのです。
が、子どもたちが教師を睨む目つきなど、なかなか決まっていましたね。
あの、「めぐり逢わせのお弁当」にも出てきた豪華4弾重ねのお弁当も登場。
みんなでわけあって食べたら、やっぱり美味しそうですね!!



余談ですが、この頃インド作品を見ることも多いのですが、
その中の会話の英語率の高さに驚いています。
インドは元イギリス領ということもあるのでしょうけれど、
本作の学校も授業はほとんど英語でした。
監督が演じていた教師の教える「国語」だけが、インドの言葉。
インド語というのはなくて、代表的なのがヒンディ語だそうですが、
地方によって、「方言」どころではない言葉の違いがあるそうなのです。
だからいっそ英語のほうが通じる、という事情もありそう。
若干調べてみましたが、公立の学校は多くは地元の言葉が使われているようですが
私立の学校はほとんどが全て英語による授業とのこと。
それってつまりは、裕福な家庭・上流階級ほど英語率が高いということ。
だからあの「マダム・イン・ニューヨーク」のシャシの
英語ができないコンプレックスというのは
日本で私が、「英語が苦手だ~」というのよりもずっと根深いものがあるのです。
「めぐり合わせのお弁当」の中では、サージャンは会社の仕事は
英語を使っていたような記憶があるのですが・・・。
ビジネスも一流どころは、英語が普通なのかもしれません。
そこで私はふと思ってしまうのです。
今日本では小学校の低学年から「英語」を教科として位置づけようとしています。
これってつまりは、英語において、日本もインド化しようという政府の目論見なのか・・・?
いいことなのか、悪いことなのか・・・判断がつきかねますが。
でも多分、ますます貧富の格差=教育の格差となり
英語ができない=貧乏人=給料のいい職につけない
という図式がくっきりしてくるような気がします。

スタンリーのお弁当箱 [DVD]
パルソー,デイヴィヤ・ダッタ,ラジェンドラナート・ズーチー
角川書店


2011年/インド/96分
監督・脚本:アモール・グプテ
出演:パルソー、マヌーン、アビシェーク、サイ・シャラン、モンティー

「無双の花」 葉室麟

2014年11月17日 | 本(その他)
決して“裏切らない”ことを胸に

無双の花 (文春文庫)
葉室 麟
文藝春秋


* * * * * * * * * *

島津勢の猛攻に耐え、駆けつけた秀吉に
「その剛勇鎮西一」と誉め称えられた立花宗茂は、
九州探題大友家の元家臣であったが、
秀吉によって筑後柳川十三万石の大名に取り立てられた。
関ケ原の戦いで西軍に加担した宗茂は浪人となったが、
十数年後領地に戻れた唯一人の武将となった。
その半生を描く話題作。


立花宗茂・・・イマイチマイナーな人物で、
この本、買ってしばらくそのままになっていたのですが、
このたび読んでみて、予想に反し、ぐぐっとのめり込みました。
というのも、ちょうど今、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」でやっているあたり。
まさしく、タイムリーヒットです。
九州の大名ですから、当然黒田官兵衛も出てきますし、
嬉しいのは、真田幸村も登場するのであります!!


さて、そもそも立花宗茂の人物像とは・・・
本巻の解説、植野かおり氏によると、こうです。

豊後大友市の家臣高橋紹運の長男として1567年に生まれる。
15歳で大友氏重臣、戸次道雪の娘千代の婿養子となり、
立花山城主となる。
秀吉の九州平定の戦功により柳川の大名に大抜擢されるが
関ヶ原で西軍に加担したため、改易、浪人の日々を送る。
が、20年後に旧領柳川の大名に奇蹟の復活をとげる



関ヶ原で西軍に加担したということで、
今にも加藤清正、黒田官兵衛の軍が攻め寄せてくるのではないか・・・、
そういうところから物語は始まります。
敗軍の将ということで、そのまま殺されてもおかしくはなかった。
が、とりあえずは命は助かったものの、領地を失い浪人生活。
この落ちぶれた男の物語を、どう紡ぐのか。
そこが葉室麟氏の腕の見せどころというわけです。


宗茂は立花家の男として「決して裏切らない」ことを誓いとしています。
石田三成に一度加担してしまったことは過ちではあったけれど、
その後、家康側に付くとして、領地を願い出ました。
そんなところで今度は大阪の陣となるわけですが、
以前の勇壮な宗茂の活躍を知るものから、
秀頼側の味方になるよう誘われたりもするのです。
特に真田幸村などは好人物として描かれていて、
宗茂も彼には一目置いています。
しかし、それはそれ。
一度家康側に付くとした以上、裏切ることはできないと、
初心を貫くわけです。


結果的には歴史が証明していますが、
その判断は正しかったという事になります・・・。
再び元の領地の大名に返り咲くなどというのは、
実際奇跡に近く、感動的。
こんな話はおそらく地元の方ならだれでも知っていることなのでしょうけれど、
何も知らなかった私には、驚きの物語でした。


また奥方・千代との関係もなかなか良いのですよ。
千代さんは気が強くて勇壮で、思ったことをズバズバ言う。
だから宗茂はちょっと苦手と思っていたのです。
でも、実は彼と同じ方向を向いていて、最も自分を理解してくれていると知る。
魂の繋がっている男女の姿は美しい。


NHKの大河ドラマにできそうな話でした・・・。

「無双の花」葉室麟 文春文庫
満足度★★★★☆

泣く男

2014年11月16日 | 映画(な行)
男は何に泣くのか



* * * * * * * * * *

この日見た2本が、「嗤う分身」と「泣く男」。
図らずもワラウとナクの2本立てとなりました。
まあ、どうでもいい話でごめんなさい。


さて本作、私には珍しく韓国作品です。
チャン・ドンゴンはどうにも気になってしまうのです。



幼いころ母と米国に渡ったものの、母に見捨てられ、
中国系組織に殺し屋として育てられたゴン(チャン・ドンゴン)。
ある仕事で、誤って少女を巻き添えにして死なせてしまいます。
そのことを悔み、心をボロボロにして隠遁していたゴンですが、
組織に見つけられ、今度はその少女の母・モギョン(キム・ミニ)を殺せとの
新たな命令を受けてしまいます。
ゴンはモギョンを追い、祖国韓国に戻りますが、
娘を亡くし悲嘆にくれるモギョンの姿を目撃してしまいます。
自分の犯した過ちをさらにまた思い知るとともに、
自らの子供の頃の母との出来事を思い出してしまうゴン。
彼はいつしか、全てを敵に回し、
モギョンを守りぬくことを決めている。
孤独な男の壮絶な戦いが始まる・・・。



さすが韓国作品。
すさまじい銃撃戦、血の海。
そんな中で、孤独でストイック、決死の覚悟を持った男が
いかにもカッコイイ!! 
全く目が離せません。



子供の頃のゴンを演じた子が、
確かに、チャン・ドンゴンの子供の頃はこんな感じかも・・・と思わせました。
目元がよく似ている。
本作原題は“No Tears for the Dead”で、
むしろ“泣かない男”なんですよね。
確かに、誤って殺してしまった女の子のためにも、彼は涙を流してはいなかった。
でも、確かに“泣く”シーンはあるんですよ。
ゴンはどこで泣くのか。
注目あれ。



余談ではありますが、本作、日本でリメイクするとしたら・・・
などと、またどうでもいいことを考えてしまいました。
ゴン役は、そりゃもう、西島秀俊さんにキマリ!! 
となれば、モギョンはやっぱり真木よう子さんか。
ちょっと安直かな? 
その他のヤクザ役なら、候補はいくらでもおりまする。
・・・う~ん、でもそれ、観てみた~い(^O^) 

「泣く男」
2014年/韓国/116分
監督・脚本:イ・ジョンボム
出演:チャン・ドンゴン、キム・ミニ、ブライアン・ティー、キム・ジュンソン、キム・ヒウォン
孤高の男の生きざま度★★★★★
バイオレンス度★★★★☆
満足度★★★★☆

きたな(い)ヒーロー

2014年11月15日 | 西島秀俊
イン・ザ・ヒーローのなれの果て???

シナリオ登龍門2005 「きたな(い)ヒーロー」 [DVD]
山岡真介
バップ


* * * * * * * * * *

えーと本作は、日本テレビシナリオ登龍門2005優秀賞受賞作品で、TVドラマだね。
うん、だから45分と短いし、やっぱりちょっと作りはチープな感じだけど・・・
まあ、優秀賞というだけあってそこそこ面白くはあった・・・。


高校生山村幸平(中尾明慶)は、周囲に溶け込めず、やる気もなくて無気力。
 クラスは体育祭に向けて盛り上がってきているけれど、彼は全然興味なし。
 練習をサボって帰るところで、変なホームレス(塚本晋也)と出会い、
 なんとなく親しくなってしまう。
 そんな時、幸平はクラスのボス的なやつに睨まれていざこざが起きるのだけれど、
 そんな時にこのホームレス柿本が助けてくれる。
 彼は幸平にもっとやる気を出せとは言うけれど、
 ホームレスがそんなことを言ったって全く説得力がない。
 そしてそれから柿本は区役所職員に追われて姿を消してしまうが・・・。


高校生とホームレス。
 おかしな組み合わせのところがミソなんだね。
 で、西島さんはね・・・、幸平のクラス担任だよ! 
日本史の教師なんだね。
 これが単に顔を見せるだけの役じゃなくてさ、しっかりストーリーに絡むのだな。
 ちょっと変わっててユニークなセンセ。
始めは事なかれ主義で、適当なようにみえるんだけどね。
授業中いつもかかってくるケータイを持つ生徒にイラついて、
 こっそりそのケータイをへし折ってしまう。
あとで彼がその生徒にいう決め台詞がかっこいいよねー!
 「俺は高校生も一人のオトナと思っているから、はっきり言う。
 高校生だと思って偉そうにしやがって、もっと人の痛みを知れ!!」
 と、今にも生徒を屋上から突き落としそうな勢い。
 いいぞー!!


なんだかね、この教師が高校生の頃、幸平とそっくりだったのじゃないかって気がするね。
 だから、彼のことが気になるんだろうね。
いいじゃないね、こんな変わった教師がいても。
 だから続けてほしんだけどなあ・・・。
まあ、それはまた別の話。


けどラストがあまりにもへんてこというかチープというか、よくわからない。
 小学生向けのドラマじゃないんだから・・・。
結局、柿本がなぜホームレスになったのかというのもなんだかよく分からなかったしね・・・。
西島ファンとしては美味しい作品でしたが、
 作品の質自体はどーもね・・・、でした。


「きたな(い)ヒーロー」
2006年/日本/45分
監督:高橋英明
脚本:山岡真介
出演:中尾明慶、塚本晋也、矢倉亮、西島秀俊

西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★☆☆☆

「木暮荘物語」三浦しをん

2014年11月13日 | 本(恋愛)
登場人物誰もが愛すべき存在に思えてくる

木暮荘物語 (祥伝社文庫)
三浦 しをん
祥伝社


* * * * * * * * * *

小田急線の急行通過駅・世田谷代田から徒歩五分、
築ウン十年、全六室のぼろアパート木暮荘。
そこでは老大家木暮と女子大生の光子、
サラリーマンの神崎に花屋の店員繭の四人が、平穏な日々を送っていた。
だが、一旦愛を求めた時、
それぞれが抱える懊悩が痛烈な悲しみとなって滲み出す。
それを和らげ癒すのは、安普請ゆえに繋がりはじめる隣人たちのぬくもりだった…。


* * * * * * * * * *

築ウン十年のボロアパートの住人と
ご近所のちょっとした縁のある人々のストーリー。
それぞれが短編となっていますが、
人々も少しずつつながりがあって、全体で群像劇のようになっています。
それにしても登場人物一人ひとり、只者ではない。
カテゴリーにちょっと迷いましたが、
やっぱりこれは恋愛ものの一種なのだろうな。


冒頭「シンプリーヘブン」。
小暮荘2階の住人繭が彼・伊藤と部屋にいると、
突然に繭の元カレ・並木が上がり込んでくる。
並木には放浪癖があり、もう3年もナシのつぶてだった・・・。
普通はここで修羅場となるはずなのですが、
表面上、なんとものんきな展開になります。
並木が食材を買い込んできて、3人での食事・・・。
なんとも微妙なんだけど、チョッピリとぼけたこの雰囲気、
好きだなあ・・・。
繭が並木を待っていなかったといえば嘘になる。
しかし並木に対する伊藤の態度もなかなか大人なのであります。
この人も捨てがたい。
繭の気持ちの本当のところはどうなのか・・・。
まあ、そこが眼目です。
本巻ラスト「嘘の味」に、また並木が登場。
今度は並木からの視点のストーリーとなるのが洒落ています。


小暮荘周辺の人々もユニークですが、
やはりここに住んでいるひとたちが格別。
しかし、会社員神崎は
なんと2階から階下の女子大生を覗き見るのが趣味のヘンタイだし、
その女子大生は3人の男を代わる代わる自室に連れ込むだらしない娘・・・。
普通こういう人物をあまり好きにはならない。
けれども、そこが三浦しをんマジック。
読んでいくうちに、この人たちのことがどんどん好きになってしまいます。
特に、女子大生光子の事情には泣かされて・・・。
何にしてもだらしないコ、という印象が
鮮やかに一転していきますね。


何処にでもいそうだけれど、でも他のだれでもない、
一人ひとりの個性が光る、
是非オススメしたい一冊です。

「木暮荘物語」三浦しをん 祥伝社文庫
満足度★★★★★

嗤う分身

2014年11月12日 | 映画(わ行)
しびれるほどにユニーク!!



* * * * * * * * * *

ドストエフスキー原作の不条理スリラー
・・・という触れ込みに惹かれまして、拝見。


気が小さくて人付き合いも不器用、
目立たない男サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ)。
向かいのアパートに住む同僚のハナ(ミア・ワシコウスカ)を
密かに望遠鏡で覗き見るのが唯一の楽しみという全くサエない男。

しかしある日、サイモンの職場に彼と瓜二つの男、ジェームズが入社してきます。
彼は明るく、人との会話も流暢で、女あしらいも上手い。
そしていつしか、ジェームズがサイモンの位置に入れ替わって行く・・・。



本作の場の設定がなんとも独特です。
時代も場所も不明。
サイモンの会社は情報処理の会社らしいのですが、
とにかくレトロです。
コンピューターはある。
けれど二時代前くらいの感じ。
オフィスの雰囲気もこれはもう二時代どころではなく100年前くらいの感じ。
デジタルのはずなのですが、
完璧にアナログの雰囲気。
そして、本作すべてが夜なんですね。
日が差し込んでくるシーンがひとつもない。
そう言えば冒頭の電車の中のシーン、
あれは出勤時のことでしたが、地下鉄だったんですね!! 
陰影に隈取られた映像は、カラーではあるものの、ほとんどモノクロに近い。
というところがまたレトロな雰囲気を醸し出しているわけです。
そして、登場人物たちがとにかく無表情。
特にサイモンは・・・。
そんな中で、ただ一人、日向に咲く花のように生きた存在感を見せるのが、
ハナなのであります。
そりゃ憧れるのも無理はない。



さてしかし、突然現れたジェームズとは何者なのか?
おそらくは、普段サイモンが「こうありたい」と願っている自分なのでしょう。
しかし、ここまで瓜二つで、
どうしようもないくらいにダサいスーツまで同じなのに、
そのことを誰もふしぎに思わない。

そして何故か彼らには、この2人の区別がちゃんと付くようなのです!! 
それはもう、片や有能男のオーラを放っており、
片や存在感ゼロの透明人間みたいな男、
ということなのでしょう。
サイモンは入社7年になるというのに、
彼のことをきちんと認識できている人がほとんどいない。
ついには会社のデータから彼のIDが消えてしまえば、
もう誰も彼のことをこの会社の人間だと認めてくれない。
ここのくだりは、個人を人間としてでなくIDで管理してしまう
昨今の風潮への痛切な皮肉にもなっているわけです。


「こうありたい」と願っていたはずの自分に、
「ホンモノ」の自分が抹消されていく・・・。
これはつまり、逆に言うと、
自分は自分のままでいいのだ・・・ということでしょうか。
それとも、自分の中に、別の自分が潜んでいることへの警鐘・・・?
実は誰も他人のことなどちゃんとわかってはいないということ?
まあ、そういう答えは、見た人それぞれの中にある。
そういう作品なのでしょう。
いろいろな思いが巡って・・・だから面白い。
でも、ハナが初めて本当のサイモンの「心」を知るシーンが、
やはりジーンと来ます。



望遠鏡で覗いていた相手が自分に向かて「バイバイ」と手を振り、
その直後飛び降り自殺をする、
ということの繰り返しも効果的でした。


さてそれからまた本作で驚いたのが、突如流れる日本の昭和歌謡。
“SUKIYAKI”つまり、坂本九の「上を向いて歩こう」には
ほとんど泣きそうになりました。
しかし、それだけではなく、
なんとジャッキー吉川とブルーコメッツ「草原の輝き」、「ブルーシャトー」!!
なんと懐かしい!!
しびれるくらいに、ユニークな作品でした!!



「嗤う分身」
2013年/イギリス/93分
監督:リチャード・アイオアデイ
原作:フョードル・ドストエフスキー
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ、ウォーレス・ショーン、ノア・テイラー、ヤスミン・ペイジ

レトロ度★★★★☆
不条理度★★★★★
満足度★★★★☆

もらとりあむタマ子

2014年11月11日 | 映画(ま行)
実家に寄生中?!



* * * * * * * * * *

前田敦子主演。
実のところもっとキャピキャピした感じの作品かと思ってしまっていましたが、
意外になかなか面白い。



東京の大学を出たものの、就職もせず甲府の実家に戻り、
漫画を読んだりゲームをしたり、
日がな一日ゴロゴロして過ごす23歳タマ子(前田敦子)。
母親が出て行ってしまって家にはおらず、
さびれたスポーツ店を営む父が、家事を器用にこなしています。
父が娘の下着を洗濯して、ご飯の支度・・・。
その横で娘はゴロゴロしながら漫画を読み耽る。
実に嘆かわしいです!
・・・しかし笑えないんだなあ。
今どきありがちな構図なのではないでしょうか。
我が家にも近いものがあったりする・・・。
父親も嬉々としてそれをやっているわけではないのです。
さっさと就職して、家を出て行け!! 
そう言いたいけれどなかなか言えず、
タイミングを見計らっている。
ついに意を決して言ってみれば娘は逆ギレ。
・・・もうそれ以上は言えません。
タマ子自身も、父親のそういう気配はビンビン感じているのです。
そんな父と娘の微妙な心模様が描かれます。



うだうだ、ぐだぐだの前田敦子さんがいいですね!! 
ポスターにある「実家に帰省中」が
「寄生中」と直してあるあたりが心憎い。


さて、タマ子は本当は何をしたいのか・・・?
それも明かされるのですが、これとて、どうも本気らしくはない。
いいんじゃないでしょうか。
そんなにビッグな夢なんか持たなくても、
とりあえずは自立できるだけの収入を得て生きていければ御の字。
でも、それだけのほんの一歩でも
彼女には何かしらの後押しが必要だったようなのです。



タマ子と中学生のやり取りがなんともほのぼのしてて、楽しい。
中学生につい頼ってしまうタマ子もどうなの?とは思いますが、
少年は「あの人には友だちがいない」なんて言っている。
いやいや、そういいつつ、
なんだかほんのり初恋めいた感情も無くはないのでしょう。
そんなところがわざとらしくなくて、ステキです。



物語は秋から始まり冬・春・夏・・・と、一年を追います。
秋始まりというのも欧米の1年周期でもあり、
ちょっとオシャレです。
たっぷり遊んだ後に、厳かな新しい生活が始まる・・・という意味では
こういう周期も悪くない。


「もらとりあむタマ子」
2013年/日本/78分
監督:山下敦弘
出演:前田敦子、康すおん、伊東精矢、鈴木慶一、中村久美
うだうだグダグダ度★★★★★
満足度★★★★☆