映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「永遠のディーバ 君たちに明日はない4」 垣根涼介

2014年10月31日 | 本(その他)
才能とは、あきらめない気持ちを持ち続けられること

永遠のディーバ: 君たちに明日はない4 (新潮文庫)
垣根 涼介
新潮社


* * * * * * * * * *

リストラ面接官・村上真介の今度の相手は、
航空会社の勝ち組CA、
楽器メーカーでくすぶる元バンドマン、
ファミレスの超優秀店長、
おまけに、破綻した証券会社のOBたち。
企業ブランドも価値観も揺らぐ時代、あなたは明日をどう生きる?
全ての働き人たちにパワーを届ける、人気お仕事小説第4弾!


* * * * * * * * * *

垣根涼介さんの「君たちに明日はない」シリーズ第4弾。
リストラ請負人村上真介が、奮闘します。
本作は、陽子さんとの関わりがあまりなかったのがちょっと残念なのですが、
どの作品もそれぞれの人の価値観が語られていて、
とても良かったと思います。


中でも心に残ったのは、表題作の「永遠のディーバ」。
真介の相手は「楽器メーカーでくすぶる元バンドマン」なのですが、
彼が心中気になっていた、ある女性歌手が登場します。
龍造寺みすづ。
デビュー時はその圧倒的歌唱力で一世を風靡したけれど、
その後所属プロダクションのアイドル路線の売り出し方と合わず、
疲弊し潰れていく・・・。
けれど、彼女の歌唱力と歌いたいという思いだけは変わらず、
その後も20年間、
ショッピングセンターのアトラクションなどでさえも出演するという
地味な活動を続けていた。
才能とは、挫けそうになっても
諦めずに続けることができる強い心を持っていること
・・・真介はそう思います。
彼女の生き様が本当に鮮烈で、ぜひ彼女の歌を聞いてみたくなってしまいました。
架空の人物ではありますが、
実のところ、彼女のように地道な活動を続けている
かつて一世を風靡したミュージシャンというのは大勢いるのではないでしょうか。
実は、もてはやされたその当時よりももっと円熟し、
その人らしさをにじませ、渋みと凄みを増して・・・。


本巻、単行本の時は、別の作品「勝ち逃げの女王」が表題だったそうです。
そちらは航空会社CAの話で、それも悪くありませんが、
やっぱり、こっち。
キマリです。

「永遠のディーバ 君たちに明日はない4」垣根涼介 新潮文庫
満足度★★★★☆

悪の法則

2014年10月30日 | 映画(あ行)
グッサリ心に刺さりすぎ



* * * * * * * * * *

このポスター、臆面もなく豪華出演陣を強調しておりますが、
しかし、豪華出演陣を目眩ましにした凡作かとおもいきや、
なかなかに鬼気迫る作品なのでした。
ベテラン陣がこれでもかと、私達をストーリーに引き込んでいくのはさすが。



若くてハンサムなカウンセラー(弁護士)(マイケル・ファスベンダー)は、
美しいフィアンセ(ペネロペ・クルス)がいて、
リッチな生活をしています。
ある時つい出来心で裏社会のビジネスに手を染めます。
しかし、それは決して引き返すことのできない
超危険ゾーンへの入り口だった・・・。



彼は、この世界に足を踏み入れる時に、
その関係者から何度も忠告を受けます。
一度ハマると抜け出すことができない。
何かあれば、悲惨な死を迎えることになる。
今ならまだやめられるぞ・・・と。


「わかっている、しかしもう覚悟を決めたのだ」
そういうカウンセラーの表情は、なんとも心もとなく、
ちっとも覚悟を決めたようには見えないのです。
見ている方もなんだか心がざわついてきます。
結局、彼自身の責には寄らないところで、
不条理な破滅が待ち受けている・・・という、
容赦無く悲惨なストーリー。



彼自身の責には寄らない? 
あ、いや、そもそも欲を出してこんなことに手を出した時点で、
もうすでに彼自身の責任なのか。
欲を出さなければそこそこリッチで平和な生活があったのに・・・。
というか、彼がお金が必要だったのは、
あのでかいダイヤモンドのためですよね・・・。
皆様、ミエを張るのも程々にしましょう・・・・。


なんというかこれは、底辺であえぐ人々が、
セレブへ向けた怨嗟でもあるかのような・・・。
不気味な真っ黒いエネルギーを感じます。


本作は残酷でもありつつ、またセクシュアルでもあります。
セクシュアルも程がすぎればグロか・・・。
キャメロン・ディアスの凄すぎるシーンにも注目。



グッサリ心に刺さりすぎるので、
私としては劇場でこれを見なくて良かったかも・・・と思いました。

悪の法則 [DVD]
マイケル・ファスベンダー,ペネロペ・クルス,キャメロン・ディアス,ハビエル・バルデム,ブラッド・ピット
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「悪の法則」
2013年/アメリカ/118分
監督:リドリー・スコット
脚本:コーマック・マッカーシー
出演:マイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピット

悲惨度★★★★★
満足度★★★☆☆

THE ICEMAN 氷の処刑人

2014年10月28日 | 映画(さ行)
もし、夫が殺人者っだったら???



* * * * * * * * * *

実話に基づく・・・というのが信じがたいような話。
1960年代、米ニュージャージー。
妻と二人の娘に囲まれ幸せに過ごすククリンスキー(マイケル・シャノン)は、
周囲から良き夫、良き父と思われていました。
しかし彼は裏の顔を持ち、
実は20年間で100人以上を殺害したという超一級の殺し屋だったのです。
死亡日時を特定されないよう、遺体を冷凍保存するところから
アイスマンと呼ばれていたこの男・・・。
実は生来残虐性を持っていたようなのですね・・・。
人の生死や痛みに共感できないというか、
そういう方面に感情が働かない。
彼の弟も同様のようで、そちらはもっと早くから囚役されています。
こうなるとそれはもう一種の障害なのかもしれません。



ところが、彼の妻と娘たちに対する愛情だけはホンモノなのですね。
自分の本当の仕事をひた隠しにし、良い暮らしをさせる。
本作の冒頭も彼と妻とのはじめてのデートのシーンで始まる。
自分だけの手の中にある弱いものを守ろうとする、
その気持だけは真実。
…でもまあこれは、多分に家族=自分自身、
結局は自分が大事という、
「自分」の解釈がちょっと大きかっただけなのかもしれません。



わたしはむしろ、最後の最後に
夫の正体を知った家族の心の痛みを思うと、辛くなります。
殺人で得た報酬は大きく、彼女たちは並よりもずっといい生活をしていたのです。
そんな生活が、数多の死体の上に成り立っていた・・・。
私なら、夫がウソをついていたということより、
そちらのほうがショッキングな気がします・・・。
(変かな?)



こんなにも殺人事件が起こりながら、
犯人を特定できなかったというのもすごい話。
殺されたのがいずれも得体の知れないチンピラやゴロツキだったのでしょうから、
警察も本腰を入れていなかったとか・・・?



暗くセピア調がかった画面のせいか、
ちょっと古い映画のような肌触りがあり、
本当に60年代・70年代を感じさせられたのですが、
やっぱりつい最近の作品なんですよね!

THE ICEMAN 氷の処刑人 [DVD]
マイケル・シャノン,ウィノナ・ライダー,ジェームズ・フランコ,レイ・リオッタ,クリス・エヴァンス
Happinet(SB)(D)


「THE ICEMAN 氷の処刑人」
2012年/アメリカ/106分
監督:アリエル・ブロメン
出演:マイケル・シャノン、ウィノナ・ライダー、レイ・リオッタ、クリス・エバンス、ジェームズ・フランコ

心の闇度★★★☆☆
満足度★★★☆☆

「時の罠」 辻村深月他

2014年10月27日 | 本(その他)
時の不思議さ、果てしなさ

時の罠 (文春文庫)
辻村 深月,湊 かなえ,米澤 穂信,万城目 学
文藝春秋


* * * * * * * * * *

辻村深月、万城目学、湊かなえ、米澤穂信
―綺羅、星のごとく輝く人気作家たちによる、"時"をテーマにしたアンソロジー。
小学校時代に埋めたタイムカプセルがほどくこじれた関係、
配置換えになった「縁結び」の神様の新たな仕事、
人類には想像もつかない悠久なる物語…。
"時間"が築いたきらびやかな迷宮へ、ようこそ―。


* * * * * * * * * *

タイムスリップものが大好きな私、
本作はそういう方向をチョッピリ期待していましたが、
残念ながらタイムトラベルはなし。
でも、時の不思議さ、悠久の時の気の遠くなるような果てしなさ・・・
不思議な感覚に陥りました。
冒頭辻村深月さんと巻末湊かなえさん、
双方「タイムカプセル」がかぶっているのですが、
それが返ってそれぞれの持ち味が強調され、
面白い効果をあげています。


辻村深月「タイムカプセルの8年」
実際にタイムカプセルを埋めた当人たちではなく、その父親たちの物語。
子育てに積極的にも熱心にもなれない父親。
子供にはやたら人気があったけれども、
本来の「授業」が全くできていない、いい加減な教師。
しかしいつしか父親も成長する・・・。


湊かなえ「長井優介へ」
15年前の小学6年のとき・・・、
クラスの子供達に虐められていた僕が、
タイムカプセルを掘り出す集まりに向かう。
実は彼はタイムカップセルに青酸カリを忍ばせていた・・・。


考えてみると「夢」は時を自由に移動できるわけで、
時のテーマにはもってこいの題材。
万城目学さんが、コミカルにストーリーを運びます。


そして米澤穂信さんは壮大なSF的に時の壮大なスケールを描きます。
時間の感覚が異なる異生物
・・・そういうことは本当にありそうな気がします。


「時の罠」辻村深月他 文春文庫
満足度★★★☆☆

まほろ駅前狂騒曲

2014年10月26日 | 映画(ま行)
これまでのストーリーは本作のためにあった



* * * * * * * * * *

おなじみ、多田便利軒の味のある男二人、
多田(瑛太)と行天(松田龍平)のバディムービーです。
原作も十分堪能しましたが、本作の場合、
この主役の二人を見ているだけで楽しくて、
ストーリーを知っていることはさして問題になりません。



さて今回いきなりのピンチは、
行天の娘・はるをしばらく預かることになってしまったこと。
行天とこの娘の関係は、確かにDNA的に行天の娘なのですが、
これまで一度も会ったことがなかったのです。
行天はしかし、子どもの頃親に虐待を受けていたために、
子どもと接するのが怖いのです。
自分も子どもに対してひどいことをしてしまうのではないかと・・・。
そんな行天を知っているからこそ、
多田はいかに行天を納得させるか苦労するわけ。
しかし、行天のみならず、多田自身も
自らの子どもを幼いうちに亡くしてしまっているので、
子どもを預かることに若干躊躇があります。
そんなわけで本作は男二人に幼い女の子がプラスされ、
実に面白い化学反応が巻き起こされます。
二人がトラウマを克服する重要な場面です。



そしてまた、新興宗教団体を前身とする謎の野菜販売集団HHFAが登場。
この前身の宗教団体こそが行天の親が関わっていた宗教団体。
いよいよ行天の子供時代の様相が明らかにされます。
複雑な過去が行天をこんな風にしてしまったのか・・・? 
いやいや、そうでなくても行天は多分こんな風。
そんな気もしますけれどね。



結局のところ、これまでのストーリーは本作のためにあった、
といえるくらいに、行天のトラウマを掘り起こし、
決着をつけるストーリーであったと思います。
バスジャックの話はまあ、ご愛嬌。



・・・というわけで、彼らの過去については一応の決着がついてしまったのですが、
しかし、今後もまたこの2人の物語をぜひ見たいと思います。
三浦しをんさんの原作に続きがなくても、
シリーズで続編がみたいなあ・・・。



「まほろ駅前狂騒曲」
2014年/日本/124分
監督:大森立嗣
原作:三浦しをん
出演:瑛太、松田龍平、高良健吾、真木よう子、本上まなみ、永瀬正敏

男二人の関係性★★★★☆
満足度★★★★☆

鉄くず拾いの物語

2014年10月24日 | 映画(あ行)
斧を振るい車を狩る男



* * * * * * * * * *

ロマ民族の女性が体験した実話を、
当人たちが主演したドキュメンタリータッチ
(というより、まさにドキュメンタリーというべきか?)の作品。


ボスニア・ヘルツェゴビナに暮らすロマ民族の女性セナダ。
夫と二人の娘がいますが、
夫は鉄くずを拾い、それを売ってやっと暮らしているという有り様。
ある日突然の腹痛で病院に駆け込みますが、
保険証を持っていないセナダは、高額な手術費用を払うことができません。
支払いをできないのなら手術をすることはできないと、
冷たく彼らを放り出す病院。
…しかし、これは実際命にかかわることなのです。
困り果てた夫は、ロマの支援団体などを訪ね歩きますが・・・。



冒頭のシーン。
セナダが「薪がもうない」と夫に告げます。
なけなしのお金を持って薪を買いに行くのかと思えばそうではなく、
夫は森に行って木を切り倒してくるのです。
セナダを乗せた車が病院への行き帰りの都度、
大きく映しだされる火力発電所の建物。
ある日電気代を払わなかったために電気が止められてしまうのですが、
つまりこれは文明からの拒絶なんですね。
病院も電気も、そこにあるのに
その世界から隔絶されてしまった彼ら。
文明に見放された彼らは、
太古の狩猟民族のように森に獲物を探しに行く。
鉄くずを拾う夫の姿は、そういう姿に見えてきます。
おのを振るい廃車を解体する彼の姿は、
マンモスなどの大きな獲物に立ち向かう男の姿でもある・・・。



だから、これはそういうすごく暗澹とした話なのかと思うのですが、
何故かほんのり暖かみがあるのですね。
色々あって、なんとか手術をうけることができて回復したセナダ。
貧しい彼らの暮らしは、それこそ太古の洞窟のすみかのように
ぬくもりと安心感がある。
セナダがそこにどっしりと座っていてさえくれれば大丈夫
・・・と、いうような。
人の暮らしの原点を見るような気がします。



鉄くずを拾うよりももっとマシな仕事があるだろう。
そういう仕事をしようとしないほうが変だ・・・、
と言ってしまうのは容易いのですが、
おそらく、彼らには偏見や差別がつきまとい、
いい仕事に付くことができないのだろうと思います。
でもいい仕事ってなんでしょうね? 
・・・というふうにも思えてくる、
色々と考えさせられる作品です。


でもこのご夫婦、本作ですっかり有名になって、
ご主人も「良い」仕事に付くことができたのだとか。
世の中、何が不幸で何が幸いなのか分からない。

鉄くず拾いの物語 [DVD]
セナダ・アリマノヴィッチ,ナジフ・ムジチ
KADOKAWA / 角川書店


「鉄くず拾いの物語」
2013年/ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、フランス、スロベニア/74分
監督:ダニス・タノビッチ
出演:セナダ・アリマノビッチ、ナジフ・ムジチ
リアルな現代度★★★★★
満足度★★★★☆

ふしぎな岬の物語

2014年10月23日 | 映画(は行)
リアルな生活とスピリチュアルのバランスがいい



* * * * * * * * * *

吉永小百合さんが主演だけでなく企画にも関わっているということで話題の作品。
実のところ、いかにも「感動作」そうなのは、
チョッピリ天邪鬼な私はつい警戒してしまうのですが、
本作、そういう点では多少コミカルに崩しているところもあって、
意外と楽しめました。



喫茶店「岬カフェ」を営む柏木悦子(吉永小百合)。
店に飾られている海に虹がかかっている絵をとても大事にしているようです。
実は若くして亡くなったご主人が描いた絵なんですね。
この店の常連客、会社員のタニさん(笑福亭鶴瓶)、
漁師のトクさん(笹野高史)らに見守られながら
30年近く店を続けてきたのです。

彼女は亡くなった夫を思いながら、
変わらない毎日がいつまでもこのまま続くのだと思っていた・・・。
けれども、タニさんが転勤でこの地を離れることになってしまうし、
トクさんもまた・・・。
親しくしていた人々が去り、取り残された独り身の年配女性。
そういう寂しさがひしひしと伝わりますねえ・・・。
彼女がどうやって新しい道を歩み始めようとするのか。
そこが見どころです。
彼女が“変化”を受け入れ新しい道を歩む気持ちを持つことができたのは、
若い人のエネルギッシュな存在にもよるのです。



ちゃらんぽらんで手が早い身内の浩司(阿部寛)。
結婚がうまく行かず、実家に戻ってきたみどり(竹内結子)。

彼らがこの地元で生きていこうとするのも良し。
そういう若さに、悦子もまた力づけられるところがきっとあったはず。
悦子と浩司の関係が、終盤まで明かされないのも興味をひくところです。
はじめ親子?と思えたのですが、どうもそうではないらしい。
じゃ、何???って、
それがわかったからといってどうということもないのですが。
ちょっと気になって目が離せなかったりする。


「岬のカフェ」はスローライフの見本でもなんでもなく、
ひたすらドリップでコーヒーを丁寧に入れるお店。
いかにも見た目がきれいで美味しそうな
パンもサラダもスイーツも出てきません。
そういう、変に気取らないところがマルです。



そしてまた、「ふしぎな岬」の“ふしぎ”な部分は、
スピリチュアルな話になるのですが
そこの部分がとてもさらっとしていて
好感を持ちました。
そこを大げさにしすぎずに
そんなこともあるかも知れない・・・くらいの押さえで、
だから、この生活の場である片田舎のストーリーが
変に浮ついたものにならずにすみました。



作中引用されている金子みすずの詩がまた、涙を誘います・・・。
くじらの詩が・・・。
千葉県明鐘岬で多くロケーションしたという本作。
ストーリー的には田舎町ならどこでもよさそうなのですが、
でもこの地域独特の行事や人々の生活が描かれていて、
地域性がうまく表されている所もいいのです。


また、作中登場する“ブラザーズ5”の面々には驚かされます。
往年のフォークソングファンのかた、お見逃しなく。


「ふしぎな岬の物語」
2014年/日本/117分
監督:成島出
企画:吉永小百合、成島出
原作:森沢明夫「虹の岬の喫茶店」
出演:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、笹野高史

地域性★★★★★
スピリチュアル度★★★☆☆
満足度★★★★☆

「本屋さんのアンソロジー」 大崎梢ほか

2014年10月22日 | 本(その他)
本への愛情は人一倍の皆様方で

本屋さんのアンソロジー (光文社文庫)
大崎 梢
光文社


* * * * * * * * * *

「本屋さん」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか?
書店をこよなく愛する作家・大崎梢が、
同じくらい書店が好きにちがいない人気作家たちに執筆を依頼。
商店街、空港、駅近、雑居ビル。
場所は違えど、多種多様な人が集まる書店には、
宝石のようなドラマが生まれる。
読めば笑えて、泣けて、心がふっと軽くなる、
そんな素敵な物語十編。

* * * * * * * * * *

「和菓子」「ペット」ときて、今度は「本屋さん」。
リクエストによるアンソロジーシリーズ第3弾です。
私も本屋さんが大好き。
「リクエスト」のお題としては申し分ないですね。
執筆陣は有栖川有栖、坂木司、乾ルカ、似鳥鶏、誉田哲也・・・
私の馴染みの方が少なくなってきた・・・。
しかし当然作家の方々は本が大好きな方ばかりなので、
本、または本屋さんへの愛情がどの作品にもにじみ出ています。


冒頭は有栖川有栖「本と謎の日々」
書店に勤める詩織が店で遭遇する不思議な出来事を、
店長がするすると解き明かしていきます。
様々な人がやってきて、そして去っていく書店。
だから色々なドラマも生まれます。
本作、書店テーマのミステリとしてはもっとも定番、オーソッドックス。
ではありますが、さすがベテラン。
本に関しての薀蓄も豊かで、謎解きも鮮やか。
文句なく楽しめました。


また、今どきのどこの書店でも悩みの種の万引きのことや、
個人書店が激減し、大型チェーン店ばかりになってきている現状など、
問題点に触れているのも、いいですね。
ただ、「和菓子」「ペット」のアンソロジーの中にあったような、
思い切った展開というか大胆な発想による意外なストーリーがなかったのが少し残念。
書店、という舞台があまりにも具体的過ぎましたかね・・・。


宮下奈都「なつかしいひと」
お母さんを亡くした僕と妹とお父さんが、
お母さんの故郷の実家に身を寄せることに。
切ない柔らかなファンタジー。
しんみりします。

「本屋さんのアンソロジー」大崎梢ほか 光文社文庫
満足度★★★☆☆



アイム・ソー・エキサイテッド!

2014年10月20日 | 映画(あ行)
男性CA歓迎!



* * * * * * * * * *

本作、何も考えずに見ておりまして、
見終えてからペドロ・アルモドバル監督作品と知って、意外な気がしました。
(いや、そもそもレンタルの予約を入れた時点ではわかっていたはずなのですが、
見るときにはすっかり忘れていた!!)


スペイン・マドリッドからメキシとシティを目指して飛び立った旅客機。
しかし、機体の異常が発見され、
緊急着陸の指示を仰ぐ間、空中を旋回し続けています。
その旅客機内の人々の悲喜こもごもを描きます。



何故かオネエキャラの男性客室乗務員たちが
乗客をリラックスさせようと歌って踊ったり、
オリジナルカクテル(!?)を振る舞ったり。

霊感のある女性、
三角関係に悩む機長、
愛人と元カノが気になる元人気俳優、
SMの女王、
不祥事を働いた銀行頭取・・・。
乗務員もヘンですが乗客も一癖も二癖もありそうなヒトばかり。



かなりお下品で、ブラックなコメディとなっておりまして、
ペネロペ・クルス主演の女性賛歌の人間ドラマ
・・・というようなアルモドバル監督からはイメージが離れています。
でも、実は監督の初期作品はみなこんなかんじの
ちょっとクレイジー掛かったコメディなのだそうで。
いわば原点回帰の作品であるとのことです。
それでも、霊感女性の感じたままのラストに結びつくところとか、
人物関係がなんだか面白く収束するあたりはやはりさすがです。
そうそう、ペネロペ・クルスもチョイ出演しています。



スペインには実際、男性の客室乗務員がいるのでしょうか。
確かにきれいなオネエチャンのサービスでおじさま方を楽しませようとするのは、
昔の発想ですよね。
日本だって、今どきはイケメンのCAをラインナップして、
女性客を増やそうなんていう試みがあってもいいのではないかと思います。



アイム・ソー・エキサイテッド! [DVD]
カルロス・アレセス,ハビエル・カマラ,ラウル・アレバロ
松竹


「アイム・ソー・エキサイテッド!」

2013年/スペイン/90分
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:アントニオ・デ・ラ・トーレ、ウーゴ・シルバ、ミゲル・アンベル・シルベストル、ラヤ・マルティ、ハビエル・カマラ

ブラックコメディ度★★★★☆
満足度★★★☆☆

ぶどうのなみだ

2014年10月19日 | 映画(は行)
空知観光協会推奨作品(?)



* * * * * * * * * *

北海道空知でオールロケをしたという、
三島有紀子監督・脚本、大泉洋出演ということで
「しあわせのパン」の姉妹作ともいうべき本作。
実のところ、「しあわせのパン」にさほどの思い入れがあったわけではないのですが、
北海道が舞台で大泉洋出演ということであれば、
見ない訳にはいかないという北海道民のサガであります。



アオ(大泉洋)は農業を営む実家を飛び出し、
指揮者の道を歩んでいました。
しかし、難聴となり挫折。
やむなく実家へ戻ったアオは突然葡萄を栽培し、
ワイン作りに情熱を注ぎ始める。
・・・しかし、なかなか思うようなワインはできません。
一方その実家は父が亡くなり、
弟ロク(染谷将太)が一人で奮闘し小麦を作っていたのです。
勝手に家を飛び出し、また戻ってきて
今度はワイン造りに没頭する兄に困惑。
兄弟間はギクシャクしています。
そんなところへ、アンモナイトの化石を求めて旅をしている
女性エリカ(安藤裕子)がキャンピングカーで乗り込み、
いきなり穴を掘り始めます。



このエリカと、アオ・ロクの兄弟、
そして、ご近所の人々の交流を通したワイン造りのストーリー。
やはり、これはメルヘンと言うべきなのでしょう。
命を育む自然と人との融合。
完璧に“スローライフ”を演出しています。
・・・などというとちょっと悪意が混じって聞こえるかな?
あまりにもキレイごと過ぎるところが
ちょっと不満だったりするわけです。
そもそも男二人で、あんな犬を飼うとは思えません。
(かわいいけど)
ロクくんは食事の度にパンを焼くのか??
(そんなヒマないと思う・・・)
いや、だから“メルヘン”にリアリティを求めては行けない・・・ということですね。



私が思うに、アオは耳を悪くしてやむなく指揮者の道を断念し、
故郷に帰ってきたわけですが、
ここは、指揮者ではなくてもいいのですが、
アオは何かやろうとしていることへの努力が足らず、
逃げ出すように帰ってきた、・・・としたほうが良かったのではないかと思いました。
だから、割と考えが甘くて、
どうしてもぶどうの栽培もワインもうまくいかない。
そして一旦は、そこからすらもまた逃げ出そうとする。
しかし、そこを諌めるのが弟のロク。
ここで、兄弟殴り合いの大げんかがあって
結局、弟も手伝うことでようやく軌道に乗り始める・・・
というのはどうでしょう???
なんだか、アオが指揮者だった、という部分が余計に感じられるのですよね・・・。



前半は終始仏頂面の大泉洋さん。
それもなんだかなあ・・・。
もちろんそういうストーリーではありますが、
大泉洋さんの持ち味を活かせていない。
これなら他の誰でも良かった。
でもまあ相変わらず、食卓のシーンがものすごく素敵で、
強烈に食欲を刺激されます。
屋外で、このような食事とワイン・・・。
ひゃー、いいな。



“野の音楽隊”のところは良かったのですが、
「野のなななのか」とかぶってしまっていたのが残念。
同じ北海道ですしねえ・・・。


アオが栽培していたのはピノ・ノワールという品種。
赤ワインになりますが、軽口で渋みが少ないとか。
・・・残念。
私はカベルネ・ソーヴィニヨンのほうが好み。
まあ、もちろん気候とか土壌にあったワインなのでしょうから、文句は言えません。
そもそも、「土臭いワイン」という意味もよくわからない私が
何を言うのよ、ってところです。


本作のオフィシャルサイトに、
ステキな壁紙がありました!! 
これに限っては、オススメ!!

「ぶどうのなみだ」
監督・脚本:三島有紀子
出演:大泉洋、安藤裕子、染谷将太、田口トモロヲ、前野朋哉、きたろう、りりィ
食卓の魅力度★★★★★
満足度★★★☆☆

「闇の喇叭」 有栖川有栖

2014年10月18日 | 本(ミステリ)
探偵行為が禁止された国で

闇の喇叭 (講談社文庫)
有栖川 有栖
講談社
 

* * * * * * * * * *

平世21年の日本。
第二次世界大戦後、ソ連の支配下におかれた北海道は日本から独立。
北のスパイが日本で暗躍しているのは周知の事実だ。
敵は外だけとはかぎらない。
地方の独立を叫ぶ組織や、徴兵忌避をする者もいる。
政府は国内外に監視の目を光らせ、
警察は犯罪検挙率100%を目標に掲げる。
探偵行為は禁じられ、探偵狩りも激しさを増した。
すべてを禁じられ、存在意義を否定された探偵に、何ができるのか。
何をすべきなのか。


* * * * * * * * * *

私は有栖川有栖さんのファンなのですが、
この「探偵ソラ」シリーズはまだ読んでいませんでした。
他の作品とはかなり設定が特異なのです。
平世21年の日本。
探偵行為が違法とされているという、近未来SFめいた設定。
この世界に始めは戸惑いを覚えますが、次第に引きこまれていきます。


「探偵行為」が違法というのは、いかにも唐突のような気がしたのですが、
後書きで著者が述べています。
現実の日本でも、戦時中、探偵小説は禁止されていた。
自国民同士で殺しただの捕まえただのとやる小説は
挙国一致して敵と当たらねばならない時局に鑑みて不謹慎、ということで・・・。
また、中国当局は2013年に2500人もの私立探偵を一斉に検挙した。
探偵が完了の腐敗を暴きすぎる、ということで・・・。


なるほど確かに、特定機密保護法が成立したとなれば
探偵行為が禁止される日も遠くないのでは・・・という気もしてきます。
「闇の喇叭」に私達の生活が脅かされる日が来ない様に・・・
祈りたくなってきました。


本作は、こうした重大な制約に阻まれながら、
いかに女子高校生・空閑(そらしず)純が、推理のヒモを解き、
自分らしく生きていくのか・・・そういう物語です。


ところで北海道に住む私にとっては衝撃的なこの舞台背景。
ソ連の支配下におかれた北海道が日本から独立・・・?! 
スコットランドが英国から独立するのなら北海道独立もアリかも、
などと思ったりしましたが、まさかこういう形だとは!!
つまりは北海道が今の北朝鮮のような怪しい国に成り果てている・・・。
ぐすん。
それはないです・・・。


母は行方不明。
父は探偵行為で逮捕され・・・、
この先一人でソラがどう生きていこうとするのか。
彼女を大切に思う友人の温かい手も振りほどいて・・・。
続きを読まないわけにいきませんね・・・。


ラストはアメリカン・ニューシネマを意識したそうで、
なんともモノ悲しく暗澹としています。
しかし彼女の旅立ちの決意の強さをも感じさせる。
秀逸なラストだと思います。

「闇の喇叭」有栖川有栖 講談社文庫
満足度★★★★☆


キャリー(1976)

2014年10月16日 | 映画(か行)
本当に怖いのは何か



* * * * * * * * * *

本作は2013年にクロエ・グレース・モレッツ主演でリメイクされましたが、
さほど話題にはならなかったようです。
この際、原点の方を見てみました。
多分TVの洋画劇場か何かで見たことはあると思うのですが、
さほどよく覚えていませんでした。
1976年作。
原作はスティーブン・キング。


狂信的なキリスト教信者の母親に育てられたためか、
キャリーは引っ込み思案で要領が悪く、
日常的に周囲から虐められています。
しかし彼女が初潮を迎えたことにより、超能力に目覚めます。
高校最後のプロムでキャリーに恥をかかせようと、
級友たちは画策しますが、
その時キャリーは怒りを爆発させ・・・


母親の性的なものを絶対悪とする思考が強烈です。
女性の月のものさえもが罪であるとする・・・。
そんな母親のために、
キャリーは女性がおとなになると生理があるということすらも
これまで知らずにいた・・・。
その状態で、初めての出血を見たとしたら、
それは恐怖でしょう・・・。
パニックに陥っている彼女を見て笑う級友の女性たち。
なんと残酷な。
本作で怖いのは超能力なのか。
それとも、こんなふうな本人もそれと気づかぬ(というより気づこうとしない)悪意なのか。
考えてしまうところではあります。


しかし、本作救いがありませんね。
少しはキャリーを気の毒に思った人も、カワイイと思った人も、
みな悲惨な末路・・・。
まあ、おためごかしなハッピー・エンドにはなりようがありませんか。


キャリーの力の爆発シーンは、当時としては多分凄かったのでしょうけれど、
今となってはずいぶんつつましい感じ。
時代の流れ、仕方ありません。
でもストーリーとしては楽しめました。
ブレイク前のジョン・トラボルタ発見。

キャリー [DVD]
シシー・スペイセク,パイパー・ローリー,ジョン・トラボルタ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


「キャリー」
1976年/アメリカ/98分
監督:ブライアン・デ・パルマ
出演:シシー・スペイセク、パイパー・ローリー、エイミー・アービング、ウィリアム・カット、ジョン・トラボルタ

恐怖度★★☆☆☆
満足度★★★☆☆

イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所

2014年10月15日 | 映画(あ行)
これもまた、「愛おしい時間」



* * * * * * * * * *

高校3年のミア(クロエ・グレース・モレッツ)はチェロ奏者になるため、
ジュリアード音楽大学を目指しています。
優しい両親と弟。
そして、ロックバンドで注目を浴びている彼氏・アダム(ジェイミー・ブラックリー)。
大学に入ればアダムと離れ離れになってしまうのが不安ですが、
それでも、彼女の未来は希望に満ちていたはずでした。
しかし、ある雪の朝、
家族と一緒に乗っていた車に対向車が激突。
ミアは家族をみな失い、自身も生死の境を彷徨う昏睡状態となってしまいます。



本作では、昏睡状態の体から抜け出た魂のミアが、
家族のことやアダムとの出会いを回想しながら、
彼女を心配して病院に訪れる様々な人々の様子を見ています。
もしここで目を覚まし生き残ったとしても、
家族は誰もおらず、孤児になってしまいます。
そのような絶望を生きることができるのだろうか・・・。



ある看護師が耳元でささやきます。

「生きるのも死ぬのも、あなたの意志次第なのよ・・・」

息子夫婦と孫の男の子を失い悲嘆にくれている祖父は、けれども気丈にも言う。

「辛いのなら、そんなに頑張らなくてもいいんだよ・・・」

ミアは過酷な現実を生きる気持ちが次第に薄れていきますが・・・



事故があって、昏睡状態の彼女がいて、
そこから回想に入っていくという今作の構成が、非常に成功していると思います。
先日見た「アバウト・タイム 愛おしい時間について」の
「愛おしい時間」という言葉が胸に浮かんできました。
こんなことが起こってしまった時から考えると、
弟が生まれた時のこと、
チェロに初めて触れた時のこと、
アダムとの出会い、初めてのデート・・・
何もかもがかけがえなくなく愛おしく感じられる。
そういう情感があふれる本作、
私はどのシーンもウルウルさせられてしまいました。
しっとりしたチェロの音色も素敵ですし、
けれどアダムのバンドも加わったところで、
上品過ぎず現代的に仕上がっているのもいいですね。
何にしても挿入される数多くの音楽が
またまた私の涙腺を刺激します・・・。



天才子役のクロエ・グレース・モレッツが、
子役から一人の女優へと変身するさまを見たような気がします。



「イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所」
2014年/アメリカ/107分
監督:R・J・カトラー
出演:クロエ・グレース・モレッツ、ミレイユ・イーノス、ジョシュア・レナード、ジェイミー・ブラックリー

音楽性★★★★☆
かけがえのない時間性★★★★★
満足度★★★★☆

「寿フォーエバー」 山本幸久

2014年10月14日 | 本(その他)
幸せを演出するお仕事

寿フォーエバー (河出文庫)
山本 幸久
河出書房新社
 

* * * * * * * * * *

結婚式場・寿々殿に勤める井倉靖子は
男性経験ほぼゼロの奥手で、
仕事もなんだかうまくいかない全部崖っぷちのアラサー。
なのに他人の幸せのために働く彼女のまわりでは、
超ド派手婚(予定)カップルの破局の危機や、
近隣のライバル店出現など難題続きで…。
人生の一大イベントの舞台裏を、
笑いあり、涙ありでお届けするハッピーなお仕事小説!


* * * * * * * * * *

山本幸久さんのお仕事小説が大好きなので、
つい読んでしまいます。
本作では結婚式場に勤める井倉靖子が奮闘します。
実は、「奮闘する」とは書いたものの、
初めのほうの彼女、それが怪しい。
仕事は嫌いではなさそうなのですが、
どうも気合が入っていません。
そんな彼女が、職場の人達の助けを借りながら、
成長していく物語となっています。


互いをハリーとメロロンと呼び合う
超軽薄そうな熱々カップルの結婚式を受け持つ靖子。
この仕事がメインでストーリーが進んでいきますが、
この結婚式の行方は意外な方向へ・・・。
結婚は人生の大きな転換の場。
確かにいろいろなことがあります。


また、明らかに高校生と思われるカップルが式場の見学。
いかにも怪しい。
…しかしこのことがなんと意外な感動のラストへ私達を導きます。
サプライズ結婚式。
チョッピリ時代遅れ風のこの式場のスタッフが
気持ちをひとつにしていく様、なんとも心地よいですね。
本作、映画だとしたら、ラストはボリウッド風に、
出演者全員の思い切り楽しくポップな歌と踊り!!
これしかありませんっ!!

「寿フォーエバー」山本幸久 河出文庫
満足度★★★★☆

蜩ノ記

2014年10月12日 | 映画(は行)
困った・・・(-_-;)



* * * * * * * * * *

待ちに待った・・・というべきなのですが、
本作を見る以前に「柘榴坂の仇討」を見て、
少し嫌な予感にとらわれました。
柘榴坂---で描かれていた武士の矜持について、
「ごりっぱ過ぎる」と感じてしまったのです。
そこで感じたのなら、本作だって・・・。
まさにそういう作品なんですよねえ・・・。

ストーリーは、こちらを御覧ください。
→「蜩ノ記」葉室麟
本の方の読後感はすこぶる良かったのです。
そちらの私のブログ記事はこう結んであります。

人間の卑小さ、己の不甲斐なさを題材とするのも小説ですが、
このようにストレートに凛として美しく強い魂を描くのもまた小説。
こうしたものにすなおに感動できる気持ちを大事にしたいですね。




凛として美しく強い。
これぞ葉室麟さんの真骨頂だ。
しかるに・・・、本作、
私はあろうことか睡魔に襲われてしまいました・・・。
「こうしたものに素直に感動出来る気持ち」・・・? 
私のそれは何処へ行ってしまったのでしょう・・・?
もちろんストーリーを知ってしまっているゆえの興味の半減はあると思います。
秋谷の不義密通などあるわけがない。
果たしてその真相は・・・という
ミステリ的部分で興味を持つことができなかった。

もともと身に覚えのない冤罪ながら
自らの命を賭してその汚れ役に甘んじる秋谷の潔さ。
それを察し、一回り成長していく庄三郎。
いや、原作そのまま。
何が不満か・・・?
なんというか、登場人物皆さん、
あまりにも端正でご丁寧でしっかりし過ぎではあるまいか?
まるで教科書みたいに姿勢正しく美しく淡々としている。
映画であるからには、もっと思い切って密かなユーモアを漂わせたり、
野卑な部分、激情を垣間見せるような所をみせたりしても良かったのではないかな。
ダークな人たちのダークさ加減もなんだか物足りない。
・・・が、そんなことをすると葉室麟作品ではなくなってしまう・・・。

私、ふと思ったのですが、
最近「超高速参勤交代」とか「るろうに剣心」とか、
あまりにもイキイキとして、気取らない時代劇を見過ぎたのかもしれません。
それ故、このようにあまりにも正統派の武士道を説かれると
なんだかなあ・・・と感じてしまう。
ちょっとヤバイです・・・。



いずれにしても、本作、人々の“生身”を感じられなかった、
というのが、不満の原因のようです。
原作で私がもっとも心揺り動かされた源吉くんのくだりも、あっさりしすぎていました。
秋谷の人間性については、本でじっくり時間をかけたほうが、心に染みこんでくるようです。


しかしながら、よかったのは、美しい岩手の風景。
季節が移り変わることは、すなわち、
秋谷の余命がどんどん残り少なくなっているということで、
それを感じさせる描写がステキでした。
「柚子は9年で花が咲く。」というのは
原作者葉室麟さんの座右の銘と言ってもいいくらいの言葉です。
本来は、「何事もじっくり取り組んで9年・・・
それほどまでに時間をかけて、物事はようやく成し遂げられるものだ」
・・・という意味の言葉なのですが、
ここでは秋谷の残りの命のカウントとなっていることに、凄みがあります。

「蜩ノ記」
2014年/日本/129分
監督:小泉堯史
原作:葉室麟
出演:役所広司、岡田准一、堀北真希、原田美枝子、青木崇高
武士度★★★★★
満足度★★★☆☆