映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

散り椿

2018年09月30日 | 西島秀俊

切なく咲き散る椿の花

* * * * * * * * * *


さあ、西島秀俊さんでーす!!
いや、主役は岡田准一さんの方だと思うんだけど・・・
まあ、どっちでもいいんです。
 私、本作のキャストを見たときに、岡田准一さんが藤吾の役かと思っちゃいました。
でも、西島さんは新兵衛のイメージではないよね。
そうだね、やっぱり采女役のほうがしっくり来る。
 原作からすると新兵衛と采女はほぼ同年輩のはずなんだけれど・・・
だから、岡田准一さんのキャスティングがあれ?と思うわけね。
いや意外と岡田准一さんってもうそんな年?とか思ったりして、マジで調べてしまった。
 そしたらやっぱり、この二人はほぼ10歳の差がありました。
まあ、そんなことを気にするのは私らくらいだからさ・・・、気にしない気にしない。
 それより、そんな事から始めたから、ストーリー紹介してないじゃないの。
この間原作読んだばかりなので、つい面倒になりまして・・・

 

えーと、瓜生新兵衛(岡田准一)は、藩の不正を訴え出たため、藩を追われていました。
 妻・篠(麻生久美子)を伴い京都などで生活していましたが、その妻が病でなくなり、
 妻の言い残した願いをかなえるため、8年ぶりにこの地に帰ってきたのです。
この地元には新兵衛の友でありライバルでもあった榊原采女(西島秀俊)がいて、
 この8年の間に出世をして、今は藩の要職についているんだね。
新兵衛は、以前篠と采女が好きあっていたのではないかと思い心穏やかではないのですが、
 それでも妻の遺言に従い、采女を手助けしようと思います。
8年前、新兵衛が藩の不正を暴こうたしたときのイザコザはまだ後を引いていて、
 新兵衛が戻ってきたことでまた、藩の闇が動きはじめるわけ・・・。

藩主の世継ぎ問題とか、不正でもいろいろな複雑な事情とか・・・
 そういうのは割とバッサリと単純化されていたね。
まあ、2時間程度のストーリーにまとめなければならないから、仕方ないよ。
それでも、私ならこの映画だけ見て事情はよくわからないような気がする・・・
 皆さんはわかるのかしらん・・・?
 殺陣は、そう派手ではないし、やたらと雨やら雪やらのシーンが多くて暗いし・・・、
 私みたいに西島秀俊さんを拝めるだけで「良し」という人でなかったら、
 もしかしたらよく眠れる作品なのかも・・・。
あ、いや、岡田准一さんのファンの人も大丈夫だと思ううよ、多分。
まあね、でもこの二人の対決のシーンは良かったよね。
 椿の花が美しい・・・。
これは散り椿で、一つの木に赤白入り混じった花がさくんだね。
 そもそも北海道には椿の木がないので、特にもの珍しく素敵に感じたなあ。
ふるさとの自分の家に咲いていた散り椿の花。
 篠は遠い地でこの花をもう一度見たいとおもっていたのだよね。
 切ないなあ・・・。



それからこの二人、双方この藩で四天王と呼ばれる4人のうちの二人、という凄腕。
 昔は互いを煙たく思っていたことが伺われるよね。
 同じ一門の友ではあるけれど、どこか気に食わないヤツ。
 それは、篠をめぐるライバル関係ということもあるけれど、
 実のところは理解し合える似た者同士だから、ということなのかもしれない。
そんな二人の関係性が良く表されていた対決シーン。いいわあ・・・


原作と映画で大きく違っていたのが、人物の関係で、
 原作では切腹をして死んだ源之進の息子が藤吾(池松壮亮)で、妻が里美(黒木華)だったのに、
 本作ではこの三人は兄弟ということになっていました。
う~ん、どうなんだろう。
 少なくとも藤吾は息子のほうが良かったかも・・・。
そういえば藤吾くんの婚約破棄の下りとかもバッサリ削られてて、
 彼の成長ぶりもあまり際立つような描かれ方をしていなかったなあ・・・。
やっぱり葉室麟作品を2時間に押し込めようとするのがムリなのかもしれないね。
 この凛として美しい武士の物語を楽しみたければ、やっぱり本を読むに限る。

あ、でも本作は精一杯そういう原作の雰囲気を大事にしていることがわかるよ。
 そこはさすが木村大作監督。

原作はこちら→「散り椿」

 

ユナイテッド・シネマにて
「散り椿」
2018年/日本/112分
監督:木村大作
原作:葉室麟
出演:岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮、麻生久美子

西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★☆☆


ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

2018年09月29日 | 映画(さ行)

詩情にあふれ、美しい・・・

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第87回アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート作品。
アイルランドに伝わる神話・民話をもとにしています。
海でアザラシの姿をしていて、陸でアザラシの皮を脱ぐと人間の姿になるという妖精、セルキー。
ベンとシアーシャの兄妹はそのセルキーと人間のコナーとの間に生まれました。
ところが、セルキーである母親は、シアーシャを産み落とし、海へ帰ってしまったのです。
シアーシャが生まれたせいで母がいなくなったと思うベンは、
妹を好きになることができません。

6歳になっても口を利くことができないシアーシャに、ベンは意地悪をしてしまうのです。
誕生日の夜、シアーシャは父が隠してあったセルキーのコートを見つけて着てみます。
そして海に入ると、なんとも自由に水の中を泳ぐことができて、
アザラシたちと遊ぶことができました。

翌朝、海辺で倒れているシアーシャを見つけた祖母は、
こんな危険な場所に子供を負いておくことはできない、と、
むりやり二人を町の自分の家へ連れ帰ります。
ところが、シアーシャがフクロウの魔女に連れ去られてしまい、
ベンは妹を探しに魔法の世界へ足を踏み入れます・・・。

なんて詩情にあふれて美しい物語なのでしょう・・・。
作中の歌が透明感のある懐かしいようなメロディで、
それだけでもう、泣きそうになってしまいます。


人間ではないものが人間と結婚をして(異類婚姻譚)、
子をなした後、また帰っていってしまう・・・というのは
日本にも羽衣伝説のように、類似した話がありますね。
ヨーロッパの隅っこのお話は、どこか日本と近いところにあるのかもしれません。


どうしても妹を好きになれなかったベンが、冒険を通じて成長してゆく。
これはそういう物語ではありますが、
また「母」の支配する強大な力の物語でもあります。
河合隼雄先生の言う「グレートマザー」の形がここにありました。
悲しみに暮れて弱りきっている息子のことを守ろうと思うあまりに、
母は強大な力を身につけます。
伝説の巨人マクリルの母・マカと、ベンとシアーシャの父であるコナーの母、
この二組がピッタリ重なりあっているのですね。
神話や伝説に、今を生きる私達の心の源泉を重ねていく秀逸なストーリーでもありました。


絵柄は素朴で単純。
そこに温かみがあります。
ベンの欠けた前歯が愛おしく、シアーシャの髪を耳にかける仕草がなんとも可愛らしい。
視聴後もしばしぼーっと、私はこの作品世界を漂っていました。



えーと、このときのアカデミー長編アニメ賞を受賞したのは「ベイマックス」。
本作を選ばないなんて、アカデミー賞の権威なんていい加減だわ・・・
と思わずにはいられない。
というか、結局自国びいきなんですね。

ソング・オブ・ザ・シー 海のうた [DVD]
デヴィッド・ロウル,ブレンダン・グリーンソン,フィオヌラ・フラナガン,リサ・ハニガン,ルーシー・オコンネル
TCエンタテインメント



<WOWOW視聴にて>
「ソング・オブ・ザ・シー 海の歌」
2014年/アイルランド・ルクセンブルグ、ベルギー、フランス、デンマーク/93分
監督:トム・ムーア

作品世界観★★★★★
叙情性★★★★★
満足度★★★★★


「私の少女マンガ講義」萩尾望都

2018年09月28日 | 本(解説)

少女マンガ史=私の生活史

私の少女マンガ講義
萩尾 望都
新潮社

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少女マンガの神様が、ついに少女マンガを語った!
日本の少女マンガは、世界で唯一つのメディアだ
――マンガ界をつねに牽引するハギオモトが少女マンガ史をひもといた、
イタリアの大学での講義を完全収録。
創作作法や『ポーの一族』の新作『春の夢』など注目の自作についてもたっぷりと語り下ろす。
少女マンガってなんでこんなに楽しいの?
魅力の秘密を萩尾先生が教えてくれます。

* * * * * * * * * *

一応、著者「萩尾望都」となっていますが、
ライターの矢内裕子さんが構成執筆したものです。
2009年に萩尾望都さんがイタリアのナポリ東洋大学、ボローニャ大学、ローマ・日本文化会館で行った
「戦後少女マンガ史」の講演を中心にまとめたもの。
日本でなく、イタリアで講演が行われたというのは驚きです。
つまり、本当に日本の漫画は世界中で愛され、ファンが大勢いるということなのでしょう。


萩尾望都さんの少女漫画史は手塚治虫さんの「リボンの騎士」から始まって、
牧美也子さん「マキの口笛」、
水野英子さん「こんにちは先生(ハロー・ドク)」、
西谷祥子さん「マリイ・ルウ」、
里中満智子さん「ナナとリリ」の作品などに触れて進んでいきます。
更に流れに沿えば、
わたなべまさこ「ガラスの城」、
楳図かずお「へび少女」、
神保史郎・望月あきら「サインはV!」,
浦野千賀子「アタックNo.1」、
山岸凉子「アラベスク」、
池田理代子「ベルサイユのばら」、
萩尾望都「ポーの一族」、
山本鈴美香「エースをねらえ!」、
いがらしゆみこ「キャンディ・キャンディ」、
美内すずえ「ガラスの仮面」、
細川智栄子「王家の紋章」、
青池保子「エロイカより愛をこめて」、
木原敏江「摩利と新吾」、
大島弓子「綿の国星」、
くらもちふさこ「いつもポケットにショパン」、
大和和紀「あさきゆめみし」、
槇村さとる「愛のアランフェス」、
山岸凉子「日出処の天子」、
吉田秋生「BANANAFISH」


・・・きりがないのでこの辺にしますが(というか、私が非常に思い入れがあるのがこのあたりまで)、
なるほど、少女漫画の歴史というのは、そのまま私の生活史でもあったのでした。
上記でも一部読んでいないものもありますが、未だに懐かしく忘れられない名作揃い。
そして、萩尾望都さんはこの流れの最後によしながふみ「大奥」を持ってきます。
「リボンの騎士」から「大奥」まで。
なるほど、どちらも男女逆転の物語です。
でも、「リボンの騎士」はヒロイン・サファイアは男装して王子にならなければ活躍できなかった。
「大奥」では女将軍たちが女性として、人間として、自分の生き方に悩む。
ということで、少女マンガにはその時代ごとのフェミニズムが流れているような物語が節目節目に生まれている。
というまとめも、見事です。


本巻ではこの講演記録のほか、萩尾望都さんが語る「少女マンガの魅力」のこと、
「自作のコマ割り」の仕方、そして、3.11以降の自作作品解説等、
ファンにとっては魅力いっぱいの内容となっています。


図書館蔵書にて
「私の少女マンガ講義」萩尾望都 新潮社
満足度★★★★☆


判決 ふたつの希望

2018年09月27日 | 映画(は行)

敵対する立場ではあるけれど、抱える心の傷は同じ

* * * * * * * * * *


本作はレバノンが舞台。
ジアド・ドゥエイリ監督の実体験をもとにしているそうです。
さて、レバノン・・・。
恥ずかしながら私、中東の国々の内戦のことはおぼろげにわかっているという程度で、
本当はこの作品理解のために、多少の予備知識を入れておくべきであったと反省しました。
民族や宗教の違いで紛争が繰り返されている地域。
そこでここに二人の男性が登場します。
キリスト教系・レバノン人のトニー。自動車修理工。

ムスリム系・パレスチナ難民のヤーセル。住宅補修工事の現場監督。

この二人がふとしたことで口論になり、やがて裁判にまで発展してしまいます。
これはすでに個人対個人ではなく、
それぞれの立場、レバノン人対パレスチナ難民の対立の様相を表します。
そして、その裁判に飛びついたメディアの報によって、
やがて国中を不穏な空気が覆い始めるのです・・・。

二人にそこまでの憎しみの感情を駆り立てたのは、互いのタブーに触れる言葉。
つらい過去を耐え、ここまで生きてきて、過去はもう忘れたいと思っている。
それなのになお、心の底の深い部分をナイフでえぐり出されるような、残酷な言葉。
表面はなんとか取り繕いながら生きていてもなお、
人々は心の底に様々な内戦時の恐怖やや、差別や、悲しみの記憶を抱いているのです。
立場の違いに関わらず。



本作では、最後の判決が出る前に、すでにこの二人はそういう事に気づいていて、
言葉はかわさずとも、どこか共感めいたものを持つに至っていた、
と、そういうところがすごくいいなあと思いました。
人の心までは法では裁けない。
本当の解決はこういう方法でしかありえないのだと思います。
互いの弁護人が、親子ー父と娘であったというのもいいですよね。
敵同士という立場にありながら、
互いの弁論に聞き入って、敬意を表しているふうに見受けられるところがいい。
結局人と人の心をつなぐのは、やはりこうした真摯な態度なのでしょう。
暴力はなんの役にも立ちません。

<シアターキノにて>
「判決 ふたつの希望」
2017年/レバノン・フランス/113分
監督:ジアド・ドゥエイリ
出演:アデル・カラム、カメル・エル・バシャ、リタ・ハーエク、クリスティーン・シュウェイリー、カミール・サラーメ

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆


スイッチ・オフ

2018年09月26日 | 映画(さ行)

電力のない世界を考える

* * * * * * * * * *


カリフォルニア北部の森。
父親と一緒に自然に包まれた暮らしを送るエバとネル。
ある夜、突然電気が停止してしまいます。
それは一夜のみならず、その後ずっと続き、
しかもこの地域だけではなく、全世界で起こっていることのようなのです。

始め聞こえていたラジオもやがて何も聞こえなくなり、情報も何も入らない。
10日目くらいに残り少ないガソリンを心配しながら街まで出てみるのですが、
街は何やら殺伐とした様相に変わっています。
商店に品物は殆どありません。
危険を感じ、やはり山の家に戻って暮らすことにした3人。
ところが事故で父親が亡くなってしまい、
姉妹二人は互いの力だけで生きることを決意しますが・・・。

単に、まだ見たことがないからというだけでチョイスした作品なのですが、
先日丸一日の停電を体験した身には、ひどく身近で切実に感じてしまった作品でした。



まあそれにしても、一体何が起こったのか、
停電の原因は作中でも明らかにされないのですが、
こんなに長期でも電力が復旧しないというのは、現実的な話ではないような気がします・・・。
また、「東部では電力が復旧し、ガソリンも手に入って人々は普通に暮らしている・・・」
という噂が流れたりしているのですが、
それが本当なら、そちらからの援助がないはずがない。
嘘に決まっています。
幸いここの家にはかなりの食料が貯蔵されており、燃料は薪を用い、水も湧き水か何かがあったようで、
しばらくはしのげたのです。
しかし、街では治安が悪くなり、そんな人々がやって来たりもするので、
女二人ではいかにも心もとない・・・。



本作ではこの二人の女性に焦点が当てられているわけですが、
私は町の人々がどうやって生きているのか、気になって仕方がない。
少し前に見た邦画の、「サバイバル・ファミリー」でも、
電力がすべて失われたという状況の中で一家族に焦点を当てていました。
彼らはやはり都会には住んでいられなくなり、田舎に住むようになるわけです。
そうなんです。
本当に電力が失われたとしたら、都市は機能しなくなります。
エレベーターも動かなく、水が出ない状態で、人は高層ビルでは生活することができません。
物流も途絶えるのでスーパーに品物がなくなり
(札幌のほんの1~2日の停電でもそうでした)
食料品の入手はほとんどできなくなってしまうでしょう。
過疎の田舎ならば、それでも自給自足と物々交換でなんとかできる。
都市ではあまりにも人が多く、土地がない・・・。
電力が途絶えると都市はどうなってしまうのか、
こういうことを本気でシュミレートした作品を見てみたい気がします・・・。


江戸時代でも人は立派に生きていたわけなので、人類滅亡はしないでしょう。
けれどある程度の流通とか販売ルートが定着するまでにどんな大混乱があるのか。
大量生産、大量消費の文化がすべて崩壊して地産地消の世の中に落ち着くまで・・・。
その前に絶対餓死する人が出ると思うし、
真夏の日本なら熱中症でなくなる人も出そうです・・・。
北海道の冬ならば、凍死者も・・・。
どれだけの人が失業して、どんな職業の人が生き延びるのか・・・。

う~ん、考えるべきことは多々ありそう。
つい、映画とは直接関係ないことをあれこれと想像してしまう私なのでした。

スイッチ・オフ [DVD]
エレン・ペイジ,エヴァン・レイチェル・ウッド,カラム・キース・レニー,マックス・ミンゲラ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント



<WOWOW視聴にて>
「スイッチ・オフ」
2015年/カナダ/101分
監督:パトリシア・ロゼマ
原作:ジーン・ヘグランド「森へ 少女ネルの日記」
出演:エレン・ペイジ、エバン・レイチェルウッド、マックス・ミンゲラ、カラム・キース・レニー、マイケル・エクランド

電気の文化を考える度★★★★☆
満足度★★.5


「俳句、やめられません 季節の言葉と暮らす幸せ」岸本葉子 

2018年09月24日 | 本(解説)

ハードル上がった・・・

俳句、やめられません: 季節の言葉と暮らす幸せ
岸本 葉子
小学館

* * * * * * * * * *

人気エッセイスト・岸本葉子さんによる「実践的な俳句入門」ともいえるエッセイです。
趣味として俳句をはじめた岸本さんがすっかり夢中になって10年、
現在ではテレビ番組「NHK俳句」(毎週日曜)の司会を務め、
句会にも毎月参加するなど、俳句が日常の一部になっています。
そんな岸本さんがプロの俳人とは異なる視点から、親しみやすくやさしい語り口で俳句の世界を案内し、
趣味を持つことの豊かさを伝えます。
句を作る過程で気づいた季語の奥深さ、おもしろさ、句会の楽しさ・・・。
一生かけて追求したくなる俳句の魅力を、失敗談も交えながら実体験をもとに綴ります。

* * * * * * * * * *

私、俳句には少なからず興味があって、時々こんな本も読みます。
この本の著者はエッセイストで、趣味として始めた俳句にすっかりはまって、
今では「NHK俳句」(毎週日曜)の司会を務めている・・・と。
それなので、この本を読むと彼女の俳句愛がひしひしと伝わってきます。

まずは「季語」のことで、多くのページが割かれています。
もちろん、季語が入っていなくては俳句ではなくなってしまうので当然ではあります。
しかし、著者は
「季語」がよくわからず面倒だから俳句がとっつきにくいと一般には思われている、
と考えているようです。
そうだったんですか・・・?
と私は思ってしまった。
私は、移りゆく季節や季節に連れての身の回りの変化を詠めば、
季語はあとからついてくるものだと思っていました・・・。
だから、ここまでの「季語」についての著者の言及が過剰と思えたのですが・・・。
まあ確かに、季語にはこれまで私の知らない美しい表現が沢山ありますので、
歳時記が大切なことはもちろんです。
でも、著者がここまで言うのは句会のことがあるからなんですね。
「季語」が「兼題」とか「席題」という形で提示されて、
それを用いた句を作らなければならない。
そういう入り方をすれば、まず「季語」の勉強をしなければならない、ということです。
私の認識が全く甘いということがよくわかりました。


それでこの「句会」では、宿題のように、
当日までに句を何句か作らなければならなかったり、
当日いきなり題を提示されて作らなければならなかったり・・・。
そしてそれを皆で評するのです。
完全に匿名性を持って行われるのはいいのですが、
句についての評を口にしなければならないなど・・・。
著者はプレッシャーではあるけれど楽しいとおっしゃいますが・・・
いやいやいや、私にはムリと思うばかり。
正直、この本を読んで私の俳句へのハードルがものすご~く上がってしまった気がします・・・。


私には、名句の鑑賞本のほうが良かったかな・・・。


図書館蔵書にて
「俳句、やめられません 季節の言葉と暮らす幸せ」岸本葉子 小学館
満足度★★☆☆☆


チャーチル ノルマンディーの決断

2018年09月23日 | 映画(た行)

また一つの決断

* * * * * * * * * *

先に見た「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」は、
チャーチル首相就任間もない頃、ダンケルクの救出作戦をからめて描いた物語。
本作はそれから4年後、ノルマンディー上陸作戦決行までの96時間を描きます。
実はこのノルマンディー上陸作戦にチャーチルは断固反対の意を表していました。
それというのも、一次大戦中のガリポリの戦いに指揮官として従軍し、
50万人もの死傷者を出したことが、チャーチルの深い心の傷となっていたのです。
ノルマンディー上陸作戦が実行されれば、またとんでもない数の犠牲者が出るだろう・・・、
そのことに彼は耐えられなかった。
そこで、連合国軍最高司令アイゼンハワーとも対立してしまいます。

・・・というか、周りの誰もがこの作戦についてはやむなし、
むしろこの好機を逃してはなるものかと気持ちがはやっています。
そのため周囲の人々は、異を唱えるチャーチルの言動を困りものと捉えているのです・・・。
いかに頑固で強硬姿勢のチャーチルも、この潮流には逆らい難く、
作戦は止めようもないのですが・・・。

私達はその後の歴史を知っているからこの作戦の実行もやむなしだった・・・、と思えるわけですが、
先の見通しのないとき、こういう決断は実に恐ろしいものですね。
でも戦争を進める人ははじめからある程度の犠牲は覚悟の上。
日本人は敗戦後、誰もそのような恐ろしい決断をしたことがないというのは、
幸いなことだとは思います・・・。



先の「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」に、
新任の秘書が、チャーチルにいびられて困ってしまうシーンがありましたが、
ここでも同様の人物が登場します。
チャーチルのパワハラに負けて、秘書が何人も入れ替わったという事実がありそうですね・・・。
ほとんどいじめのような仕打ちにひたすら耐えるここでの秘書、ミス・ギャレットだったのですが、
終盤、彼女の言葉がチャーチルの気持ちを変えるのです。
現実はどうあれ、これから戦場に赴く者やその家族は、
不安を煽る言葉など聞きたくない・・・、ということ。



それでうまくいく場合もありますが、
日本のようにそのためにとどまること知らず自滅の道をたどることだってありますよね・・・。
すべて納得はできない、考えるべきことが山盛りに思える作品でした。


チャーチル氏は、あの体型で、タバコ、アルコール漬けの生活。
さぞかし長生きできないだろうと思えるのに、調べてみたら90歳まで生きていますね。
作中でもいかにも体調はよくなさそうに見えましたが・・・。
メタボ検診の意義が疑われます・・・。


「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」では、
ゲイリー・オールドマンの特殊メイクが話題になりましたが、
こちらはブライアン・コックスが地のママで出演しています。
いや、実際これで十分ですよね。


<シアターキノにて>
「チャーチル ノルマンディーの決断」
2017年/イギリス/105分
監督:ジョナサン・テプリツキー
出演:ブライアン・コックス、ミランダ・リチャードソン、ジョン・スラッチリー、エラ・パーネル、ジェームズ・ピュアフォイ

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★☆☆


ハイジ アルプスの物語

2018年09月22日 | 映画(は行)

いじらしいハイジの思いに涙・・・

* * * * * * * * * *


ストーリーについてはもう言うまでもない物語なのですが、つい見てしまいますね。
でも考えてみると私の知っている「ハイジ」は、アニメであって、
原作は読んだことがないような・・・。
多分、子供向けのダイジェスト版を読んだだけだと思います。
だから、本作も原作に忠実かどうかはわかりません。
でも問題のラストについては本作のオリジナルのようです。
原作では、ペーターがクララにやきもちを焼いて、車椅子を崖から落としてしまう、
それに驚いて思わずクララが立ち上がる、というものでした。
本作でもペーターが車椅子を崖から落としてしまうところは同じなのですが、
そこではクララは立ち上がりません。
ではどうして・・・、というところは、
やはり見てのお楽しみということにしておきましょう。

街のお屋敷ですっかり心を病んでしまったハイジが、
山に戻ってきたときのなんとも嬉しそうなこと。
そしてわざわざペーターのおばあさんのために白パンを持ってきたことなど、
そこのシーンには思わず涙してしまいました。

パンにとろりと溶けたチーズを載せて食べるシーンがあったのがご愛嬌。

ハイジが学校に行くようになって、将来なにになりたいかという教師の問に
「作家」と答えるシーンがあります。
他の村の子供達はみな親の仕事を継ぐようなことしか思いつかないので、
あまりにも突飛な彼女の答えを笑うのです。

けれど、クララのおばあさまはそのことをしっかりと受け止めてくれます。
もともと、ハイジが字を覚えようと思うきっかけもこの方の導きでした。
いいですよねえ、このように大らかで思慮深い方・・・。
物語にもぐんと深みが出ます。
何度見てもいい物語だなあ・・・。



ハイジ アルプスの物語 [DVD]
アヌーク・シュテフェン,ブルーノ・ガンツ,イザベル・オットマン,クイリン・アグリッピ,カタリーナ・シュットラー
Happinet



<WOWOW視聴にて>
「ハイジ アルプスの物語」
2015年/スイス・ドイツ/111分
監督:アラン・グスポーナー
出演:アヌーク・シュテフェン、ブルーノ・ガンツ、イザベル・オットマン、クィリン・アグリッピ、カタリーナ・シュドラー
山の風景の美しさ★★★★★
ハイジの健気さ★★★★★
満足度★★★★☆


「中野のお父さん」北村薫

2018年09月21日 | 本(ミステリ)

名探偵は高校教師

中野のお父さん (文春文庫)
北村 薫
文藝春秋

* * * * * * * * * *


若き体育会系文芸編集者の美希。
ある日、新人賞の候補者に電話をかけたが、その人は応募していないという。
何が起きたか見当もつかない美希が、高校教師の父親にこの謎を話すと…(「夢の風車」)。
仕事に燃える娘と、抜群の知的推理力を誇る父が、
出版界で起きる「日常の謎」に挑む新感覚名探偵シリーズ。

* * * * * * * * * *

北村薫さんの"日常の謎"、新シリーズ。
連作短編集です。
主人公美希は、若き編集者。
家を出て一人暮らしですが、時々実家に帰ります。
美希が仕事などで不思議に思うことを、中野の実家の父親に話すと、
たちどころにスルスルと謎が解けていく。
父親は高校の国語教師。
本のことなら何でもよく知っている。
もちろん本のことに限らずとも博識です。
編集社に絡む謎は、父親の得意分野に近いものがあるわけですね。

巻頭「夢の風車」では、新人賞の最終選考に残った候補者に美希が連絡をとってみると、
その人は応募などしていないと言う・・・。
一体なぜ?
父親と娘の関係が、美希と父にも重なる、素敵な一作。
最後の方で
「国高さんは、そのお年で、しかも男性なのに、
よくあれだけ生き生きと、若い女性の心理を、お描きになりますね。」
というセリフがあって、
それこそは著者がよく言われていたことなので、クスリと笑ってしまいました。

「冬の走者」は、美希の同僚、丸山が仕掛ける謎。
丸山は毎回登場して、なんだか気になる人物。
割とのんきそうなのですが、ここでは意外と頭の切れる面をのぞかせます。
サンタクロースはいるよ、と、姪に納得させるために。
私は少し期待してしまったのだけれど、残念、丸山は既婚者でした・・・。

巻末「数の魔術」。
ハズレくじとわかりきっている宝くじが何者かに奪われるという事件。
一体なぜ?
・・・なるほど、答えがわかれば納得。
欲張ってはいけません。

ほのかなユーモアを漂わせつつ、生活の中の「日常の謎」を解いていきます。
このシリーズ、ぜひ続いてほしいです。

「中野のお父さん」北村薫 文春文庫
満足度★★★★☆


寝ても覚めても

2018年09月20日 | 映画(な行)

納得行かない

* * * * * * * * * *

大阪に住む21歳朝子(唐田えりか)は、
麦(ばく)(東出昌大)と出会い、運命的な恋に落ちます。
ところがある日ふいに、麦は姿を消してしまいます。
2年後、東京に引っ越した朝子は麦とそっくりな顔の亮平(東出昌大)と出会います。
麦を思い出してしまうので亮平を避けていた朝子ですが、
いつしか亮平の熱意にうたれ、惹かれていくようになっていきます。

それからまた5年後、同棲している朝子と亮平は良い関係を続けていて、
そろそろ結婚を考えていました。
そこへ、麦がふいに姿を現す・・・。

まあ、お約束のようなストーリー展開ではあります。
そこで朝子はどうするのか、というのが問題なわけですよね。
ところが、私は全然納得がいきませんでした。
というか、あえてなのでしょうか、
朝子の決断のきっかけとか理由が作中で語られていないのです。
初めの決断と、その後の決断のことが。
だから単なる衝動で彼女が動いたのだとしか私には思えなかった。
そして、とんでもない愚かな女だとしか・・・。
本作を良作と思えるか否かは、この彼女の行動の意味を
私のように直截的にわかりやすく求めるのか、
それとも語られずとも自分で想像する余地のある方を好むのか、
その違いで決まると思います。
でも映画作品なのだから、直接的に答えを言わずとも、
そのヒントを、表情とか関節表現的なセリフとかで、匂わせるのが筋なのではあるまいか。
単に私がにぶいだけなのかもしれませんけれど、私には読み取ることができませんでした。

それから、東北の震災被害地にボランティアとして通う二人は良かったのですが、
それはどちらの発案で、どちらが主導的に動いていることなのか、
そのあたりもきちんと説明がほしかった・・・。
ここがきちんと描かれていれば、少なくとも東北で我に返る朝子の心情は
もう少しくっきりと浮かび上がったのではないかt思う次第。

結局私は、亮平の思いと5年の生活をないがしろにした彼女を許せないというだけなのかもしれません。
戻ればいいというものではない!!
だって私は、誠実で一途な亮平くんのファンになってしまったもので・・・。
それに比べて麦なんて、単なるアホですよ。
全く信用できない。
一生さすらってろ!

全然関係ないのですが、初めの方で朝子と麦がバイクで事故るシーンがありました。
奇跡的に二人は無傷だったという・・・。

私はあそこが問題で、実はあのときに二人は死んだか、昏睡状態に陥ったかして、
その後のストーリーは朝子の「脳内」のストーリーなのではないかと、ずっと疑っていたのです。
そうでないとあそこまで瓜二つの人物っていうのが嘘っぽすぎるし・・。
しかし、全然バイクの事故のエピソードは関係なかった・・・。
う~ん、ストーリーとしてはそのほうが面白くないですかね・・・?



<ディノスシネマズにて>
「寝ても覚めても」
2018年/日本・フランス/119分
監督:柴崎友香
出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉
裏切り度★★★★★
満足度★★☆☆☆


メンフィス・ベル

2018年09月18日 | 映画(ま行)

「運」と、「生きようとする意志」と。

 

* * * * * * * * * *


1943年、二次大戦下イギリスの米軍基地。
米空軍における伝説の名機メンフィス・ベルに乗り組んだ10人の若者が、
力を合わせ、任務を完了するまでのドラマです。

空の要塞と言われるB-17機で、24回出撃し無傷という強運を持つメンフィス・ベル号が、
いよいよ最後の飛行に出ようとしています。
これが無事終われば乗員の10名は英雄として故郷に帰ることができます。
しかし、任務はドイツ本土ブレーメン、飛行機工場の爆撃。
ドイツにとっても要所なので、激しい攻撃が予想されます。
どんちゃん騒ぎのパーティの翌朝、次々に離陸し目的地へ出発するB-17機編隊。
ストーリーはこのあとずっと飛行機内部の様子を描きます。

戦闘機の内部は男性ならきっとかなりの興味を持つところだと思いますが、
私はさほどでもない・・・。
でもいかにも居住性を排除して、機能重視、無骨で狭苦しいですね。
そこに機長、副操縦士、射撃手や航空士、
各々の役割を持った者たちでチームが編成されています。
そこへまず敵機が襲いかかり、そこを生き延びても、目的地では高射砲が雨あられ・・・。
(下から来るものなので例えがふさわしくないか?)
そんななか、地上では煙幕がはられていて地形を目視することができません。
多少ずれても仕方ないけど爆撃しようと言う者もいるのですが、
近くには民家や学校があるから・・・と、
確認するまでは爆弾を落とさないというシーンがあったのは良かった。
(でも日本への空襲は無差別だったですよね・・・。)


ともあれ、あのような場で生き残るのはまさに「運」がすべてのような気がします。
でも、人々の絶対に生きようとする意志で、難局を乗り越えていくところがまたいい。
冒頭、着陸時に車輪が片方しか降りず、機が爆発してしまうというシーンを見せておいて、
最後の最後に、このメンフィス・ベルが着陸しようとしてやはり車輪が片方しか降りない、
というシーンを持ってくる。
なるほど、うまい作りだなあ・・・と唸ってしまいました。
目を離せない作品でした。

メンフィス・ベル [DVD]
マシュー・モディン,エリック・ストルツ,テイト・ドノバン,D.B.スウィーニー,ビリー・ゼーン
ワーナー・ホーム・ビデオ



<WOWOW視聴にて>
「メンフィス・ベル」
1990年/アメリカ/107分
監督:マイケル・ケイトン・ジョーンズ
出演:マシュー・モディーン、エリック・ストルツ、テイト・ドノバン、D・B・ウィーニー、ビリー・ゼイン
勇気・友情度★★★★☆
スリル度★★★★☆
満足度★★★★☆


「コンビニ人間」村田沙耶香

2018年09月17日 | 本(その他)

「普通」とは何か?

コンビニ人間 (文春文庫)
村田 沙耶香
文藝春秋

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現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作

36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、
「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――。

「いらっしゃいませー!!」
お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。

ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、
そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが……。

累計92万部突破&20カ国語に翻訳決定。
世界各国でベストセラーの話題の書。

* * * * * * * * * *


芥川賞受賞作ということで、図書館予約は諦めて、文庫化を待っていました。
それにしてもこれだけのボリュームで580円はやはりちょっと高いかなあ・・・。


さて「コンビニ人間」、冒頭はなかなか爽やかなのです。
古倉恵子の仕事先のコンビニの朝の風景。
コンビニで聞こえてくる様々な音に、恵子は鋭く反応しながら、キビキビと無駄なく動く。
ごく自然に呼吸するのと同じように客をさばき品物を整える・・・。
なんとも頼もしい物語の始まり。
が、しかし、これは俗に言う「お仕事小説」ではありません。
冒頭こそが頂点で、あとはどんどん下り坂・・・。


恵子は幼い頃からどこか人と違っていました。
考え方や感情の動き方が人とは違う
・・・というよりも周りの人から見ると「普通じゃない」という感じでしょうか。
それで彼女にとっては非常に生きにくい世の中だったのです。
でも学生時代、コンビニのバイトをはじめて、彼女は思う。
マニュアル通りにやりさえすれば、誰もが満足してくれる。
はじめて自分が普通でいられて、人からも満足してもらえる。
そういう場所であることに気がついたのです。
以後、彼女は18年間バイトのまま結婚もせずに勤め続けている・・・。


若い頃はたしかに良かったのですね。
けれど、この歳でバイトのまま、結婚はもとより彼氏のいる気配もない。
次第に、周囲がまた、彼女を「普通ではない」と見るようになってきているのです。
しかしまあ、周囲の不信を気にせずにいられるのならそれでも良かった。
ところがあるとき新入りの男性バイト・白羽が来てから、
彼女の周りの世界の調和があっけなく崩れていく・・・。

不思議な物語ですね。
読者としては恵子にちっとも共感は持てないのだけれど、
でもなんだかざわざわと心が波立つ感じがします。
特に、白羽の存在はなんとも薄気味悪く、
ほとんど狂気?とも思える物語の様相に変化していく。

特に、白羽が恵子に投げつける言葉が強烈です。

「それはね、あんたがおかしすぎたからですよ。
36歳の独身のコンビニアルバイト店員、しかもたぶん処女、
毎日やけにはりきって声を張り上げて、健康そうなのに就職しようとしている様子もない。
あんたが異物で、気持ちが悪すぎたから、誰も言わなかっただけだ。
陰では言われてたんですよ。」

「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。」

普通なら恵子はここで「が~ん」と来るところなのですが、
そうはならない。
そこが彼女の彼女たる所以。
「私は白羽さんがなにを言っているのかさっぱりわからなかった。」と思うだけです。
白羽は実は自分こそが「普通」ではない、とんでもなくいや~なやつなのですが、
その彼が言う「真実」がどうにも私達の心をかき乱します。


巻末解説で中村文則氏の言う"社会が「普通を」要求する圧力"、
個性とか多様化とか言いながら、
実はその圧力がどんどん高まっていくことを感じる昨今ですねえ・・・。

「コンビニ人間」村田沙耶香 文春文庫
満足度★★★★☆


愛しのアイリーン

2018年09月16日 | 映画(あ行)

娼婦と嫁の違いは?

 

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安田顕さん出演作なので、ぜひ見ようと思っていたのですが、
内容は私的にはちょっとキビシかった。

田舎暮らし、42歳まで恋愛を知らず独身の岩男(安田顕)が、
父の葬儀の真っ最中に、フィリピン人の嫁・アイリーン(ナッツ・シトイ)を連れて帰ってきます。
それを見た母・ツル(木野花)は喪服のまま、ライフルをかまえて飛び出してきた・・・。


異文化に育った二人がぎこちないながらも結婚生活を送るうちに
次第に心が通い合って・・・などというストーリーを予想していた私ですが、
そんな甘い話では全然ありませんでした!



岩男ははっきりと妻を「買う」ためにフィリピンへのツアーに参加し、
いかにも適当に選んだ相手をいきなり連れ帰ってきたのです。
そのためには相当な出費もしており、まさしく「買った」としか言えない状況。
アイリーンも自分のためというよりは大家族の生活の助けになるから・・・
という理由で「結婚」に踏み切ったのですね。
ほとんど言葉も通じないままに・・・。
しかし、このことは岩男の母にとっては許しがたかった。
この母がまた、強烈です。
この母故に、一人息子は40すぎまで結婚できなかったのだろうと容易に想像がつきますが、
本人はそんなことには全く気づいていない。
彼女は、彼女が望む従順で初婚の女を息子にあてがおうと必死。
そこへわけのわからない娘がいきなり飛び込んでくる。
少しは折り合おうなどという気持ちもサラサラなく、
嫁を「ムシケラ」と呼び、ひたすら追い出そうと思うだけ・・・。
無邪気でまだ子供のようなアイリーンは、良い受け入れ方さえできればきっと良い家族になるのにな・・・。
アイリーンが口ずさむ歌が素敵でした。


だがしかし・・・、
娼婦と嫁の違いは・・・? 
はたまた、売春と結婚の違いは・・・?
そこにお金が動く以上、法律的なこと以上に、
なにか決定的なことが心の深みにわだかまってしまうのではないでしょうか。
だから、どう頑張ってもこの作品はほのぼのしたものになどなりようがなかったわけです。
だから悲劇は起こります。

あまりにも直接的で美しくはない性描写にはちょっと怯みますが、
内容的にはかなり納得できるものでした。
というか、ここでロマンティックなシーンを入れてもぶち壊しなので仕方ないか・・・。
そうとうにダメ男の岩男が、リアルにそこにいましたね・・・。
そして、どうしようもない格差と差別が、虚しくそこにある。

<ディノスシネマズにて>
「愛しのアイリーン」
2018年/日本/137分
監督:吉田恵輔
原作:新井英樹
出演:安田顕、ナッツ・シトイ、河井青葉、木野花、品川徹、伊勢谷友介

結婚を考える度★★★★☆
満足度★★★.5


幕が上がる

2018年09月15日 | 映画(ま行)

自然なみずみずしさ

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ももいろクローバーZが主演、高校演劇を題材とした物語。
おばさんとしては、ももいろクローバーZと言われても、
百田夏菜子さんくらいしかわかっていなくて、
どの人までが“ももクロ”なのか?というレベルだったのですが、
実際そんなことは本作を楽しむのには関係なかったですね。

演劇部所属の高橋さおり(百田夏菜子)は演劇部最後の一年を迎えました。
なんとなく成り行きで部長にされてしまったものの、
なにをどうすればよいのやら、途方に暮れています。
そんなとき、東京の大学で演劇をやっていた新任教師・吉岡(黒木華)に後押しされ、
全国大会を目指すことに・・・。

国語の授業風景で宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をやっていたので、
もしかすると・・・と思っていたら、やはり、それを舞台でやることになるわけです。
通常演劇といえばヒロインは女優役、と思うのですが、
ここではさおりは、演ずる側でなくて演出する側。
確かに、演劇は脚本あってのもの。
様々な立場の人が集結して作り上げていくものですね。
そして映画と違って一発勝負だから、ある意味スリルがある。
こういうことに情熱を傾けている高校生たちもいる、ということを知っただけでも良かった。



「演劇」のストーリーを演技の素人の少女たちが演じるということで、
おそらく不安もあったと思われるのですが、
そこがまた、自然でみずみずしさが感じられて、
なにか、いいものを見させてもらったという感じがしました。
若さっていいもんだねえ・・・、とおばさんは感じ入る。

それから、その他大勢的出演でしたが、
吉岡里帆さん、伊藤沙莉さん、芳根京子さん。
今TVで見かけることの多い面々も出てました!
ムロツヨシさんの、いかにも適当っぽい教師役もナイス。





幕が上がる [DVD]
百田夏菜子,玉井詩織,高城れに,有安杏果,佐々木彩夏
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

<WOWOW視聴にて>
「幕が上がる」
2015年/日本119分
監督:本広克行
原作:平田オリザ
出演:百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、有安杏果、佐々木彩夏、黒木華、ムロツヨシ、吉岡里帆、伊藤沙莉、芳根京子

みずみずしさ★★★★★

満足度★★★★☆


ボブという名の猫 幸せのハイタッチ

2018年09月14日 | 映画(は行)

モノ言いたげなネコの目

 

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ホームレス同然のストリートミュージシャンが
一匹ののら猫との出会いにより再生していく、実話に基づくストーリー。


この話を、私はTVのバラエティ番組で知ったのですが、劇場では見そびれていました。
もともとは実話を描いた世界的ベストセラー「ボブという名のストリートキャット」
の本が原作ということになります。



ジェームズは、ミュージシャンを夢見て家を飛び出し、
以後麻薬依存症となり、今は住む家もなくホームレスとなっていました。
それを見かねた薬物依存症対策の担当者から住居を提供してもらいます。
そのアパートに住み始めて間もなく、一匹の猫が舞い込んできます。
ボブと命名された猫は足をけがしていて、ジェームズは有り金をはたいて猫の治療を受けます。
すっかり気心がしれた猫を稼ぎに連れて行くと、なんと人々がギターを弾くボブを取り囲む。
これまで振り向きもしなかった人々が、猫につられて彼の曲を聞くようになったのです。
しかし注目されることでトラブルも多くなります。
ケンカがもとでストリートミュージックを禁止されたジェームズは、
次にはビッグイシューの冊子を売ることにしましたが・・・。



なんとか真摯にやるべきことをして、猫と自分が生きていくためにお金を稼ごうとしているのに、
次から次へとアクシデントが起こるというのも切ないですね。
でも彼はボブをいい環境に置きたいと、そんな思いがあるからこそ
また、頑張ることができたのだなあ・・・。
野良猫を助けたつもりが実は猫に助けられている。
まるで猫が選ばれてここに来たような・・・、
そんなことを感じさせる「ストーリー」になっているのが素晴らしい。



麻薬依存から抜け出すためには相当強い意志が必要なんですね。
というか、これを全く自己責任でやれ、というのにはちょっと驚きました。
どこかの施設で面倒を見てくれたりはしないのか・・・。
もっとも、お金さえあればそれはアリなのかもしれません・・・。
これは本当に、一度落ち込んだら抜け出せない、蟻地獄か虎の穴みたいなもんですねえ・・・。
その奇跡をやり遂げられたのはボブのおかげ。

本作中の猫こそがホンモノのボブだそうです。
実際、なにか言いたげな目をしている、いいネコだなあ・・・。

ボブという名の猫 幸せのハイタッチ DVD
ボブ(猫)
ポニーキャニオン



<WOWOW視聴にて>
「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」
2016年/イギリス/103分
監督:ロジャー・スポティスウッド
出演:ルーク・トレッダウェイ、ルタ・ゲドミンタス、ジョアンヌ・フロガット、アンソニー・ヘッド、キャロライン・グッドオール
猫の魅力度★★★★★
満足度★★★★☆