映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「喋々喃々」 小川糸

2011年05月31日 | 本(恋愛)
東京下町の四季の彩りの下で

喋々喃々 (ポプラ文庫)
小川 糸
ポプラ社

            * * * * * * * *

喋々喃々(ちょうちょうなんなん)とは・・・
男女が楽しげに小声で語り合うさま、とあります。
このストーリーは恋愛物語ですが、
そういう題名よりは、もっとしっとりと大人のイメージがありまして・・・、
私は、はまりました!

主人公、栞(しおり)は、
東京の下町、谷中でアンティーク着物店を営んでいます。
ある日そこへ、父親に似た声をした男性客が訪れます。

・・・その時、ふわりと滑らかな風が舞い上がったような気がした。
・・・そばに近づくと、男性の首の辺りから果物のようなすがすがしい香りがした。


こんな描写を見るだけで、よくわかりますね。
そうです、フォーリン・ラブ!!
しかし、この男性春一郎さんの左手薬指には、指輪があるのです・・・。


初めての出会いの季節は新春。
二人の心はおずおずと接近していき、
そして季節は巡っていきます。
春、夏、秋、冬・・・そうして年末へと一巡り。
季節ごとの地域の行事、
服装や食べ物、
四季折々の描写がとても懐かしく美しい。

栞は商売柄、いつも和服姿です。
こんな人に優しくされたら、そりゃ男性はコロリでしょうよ・・・。
ちょっとズルイなんて思ったりして。
こう言うとすごく古風な物語に思えるかもしれませんが、
でもやはりこれはしっかり現代の物語。
彼女の両親は離婚していて、父は別の女性と再婚。
母は結婚中に別の男性とフリンし子供を身ごもった。
現在、母は、栞の実の妹、そして血のつながらない小さな妹と3人で暮らしている・・・、
などと複雑な事情があったりもします。
栞は、子供が苦手、などといいつつ
子供へ向ける栞の目、気持ち、
そんな中に、独身女性のまだ果たし得ていない
母性がほのみえる感じがして・・・。
そういう細やかな感情が、それとなく表されているところがいいですね。

栞自身の別れた恋人は、既に別の女性と結婚しているのですが、
その彼から年賀状と暑中見舞いの絵はがきが、毎年恒例として舞い込む。
彼のことは忘れられず、そのはがきを楽しみにしていた栞ですが。
このことが実は大きな伏線で、思いがけない展開を見せるのです・・・。

栞と春一郎さんは、ひたすらにお互いが大事な存在になっていくのですが、
そうなればなるほど、口には出さないけれども「不倫」という事実が重く、
罪悪感に駆られていきますね。
この切なさ・・・。
出会ってしまったものは、仕方ないじゃない。
本当にそう思えてしまいます。
一体どのような結末を迎えるのか、
後半はそれが気になって、
ますますやめられなくなってしまいます。


現代的センスで飾られた和風の小物店。
私はそういうお店が大好きなのですが、
たとえてみるならこの物語のイメージは、それに近いものがあるかも。
あまりにステキで生身の男性じゃないみたい、
そう思えてしまう春一郎さん。
何だか夢見る少女の頃のように、あこがれてしまいます。
いい年して、やっぱりこういうの、好きなんです・・・。
俳優にたとえるなら・・・誰でしょう? 
う~ん、どうも思いつかない。
むしろ、少女漫画の中にモデルはありそうです。

それから、やはり小川糸さんらしく、
食べ物の描写がすごくいいですね。
ギンギンのグルメではなく、
ごくごく日常のお総菜だったりお菓子だったりするのですが、
とてもおいしそう。
きちんとしたおいしいものを好きな人と一緒に食べる。
これぞ至福の時ですね。

「喋々喃々」小川糸 ポプラ文庫
満足度 ★★★★★

ミスター・ノーバディ

2011年05月29日 | 映画(ま行)
永遠の“刹那”



           * * * * * * * *

ベルギーのジャコ・ヴァン・ドルマル監督、
なんと「八日目」から13年ぶりの作品とか。
なんだかそれだけでも希少価値という感じですね。
さて、これはとにかく不思議な作品です。


2092年、科学技術の進歩により不死が実現した世界。
しかし、なんの延命手段もとっていない118歳ニモは、
この世界で唯一人、今命の炎を消そうとしている人間。
そのニモが記者に問われるままに、自らの人生を語り始めるのですが・・・。

その思い出は、セピア色ではなく鮮やかな色彩に彩られていて印象的。
むしろこの年老いたニモのいる病室のほうが
よほど単調で現実感に欠けています。



ニモが9歳の時。
両親の離婚により、少年ニモは究極の選択を迫られるのです。
父と母、どちらについていくか。
どうする・・・。
決められない・・・。
子供にこんなことを決めさせてはいけませんよね。
・・・しかしまあ、それを言ってしまっては物語が始まらない。

ここで、立ち往生してしまったニモは、
そこから分岐した様々な人生を歩むのです。
父についていくとどうなるのか。
母と行くとどうなるのか。
その違いがその後の彼の人生を大きく変えていく。
バタフライ効果と言うヤツですね。
「バタフライ・エフェクト」が思い出されます。

それぞれの道で、彼の愛の対象も変わって行くのですが・・・。
それにしても、
愛する人とは離ればなれで巡り会えなかったり、
愛しても報われなかったり、
心から愛せなかったり。
どうしても愛に包まれた幸福が訪れない。
そして、幾度も繰り返される彼の死のイメージ。

これは元々の出発点が、暗く不安定な場面だからなのでしょうか。
でも、実はどの道でも、ニモが最も深く思っているのはただ一人のように思えます。
その思いの切なさが、
単に不思議な物語、というよりも深い奥行きを醸し出しているのです。
少年ニモが究極の選択をするほんの刹那。
実はニモは、その永遠の刹那を行き来して彼女を探しているのかも。

年を取ると加速度的に時が進むのが早く感じられる。
老いて思い出すのは子供の頃や若い頃のこと。
昨日のことや今朝のことはすぐに忘れてしまったり・・・。
時間と私たちの記憶は相関関係ではないようです。



ジャレッド・レト、
私にはさほど馴染みのある俳優ではないのですが、
ここでは様々な表情がうかがえて、ステキでした。
118歳老人の特殊メイクは、
さすがにもう面影を探すのも難しいくらいでしたけれど・・・。
ちょっと興味がわいてきてしまったので、
この先他の出演作も見てみようと思います。
・・しかし、「アレキサンダー」、
「ロード・オブ・ウォー」・・・? 
見てるんですけどね~。
ぜんぜん覚えてない。
まあ、こちらは主役ではないですからね・・・。

「ミスター・ノーバディ」
2009年/フランス・ドイツ・ベルギー・カナダ/137分
監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ジャレッド・レト、サラ・ポーリー、ダイアン・クルーガー、リン・ダン・ファン、リス・エバンス

「短劇」 坂木司

2011年05月28日 | 本(ミステリ)
ブラックと遊び心の短編集

短劇 (光文社文庫)
坂木 司
光文社


        * * * * * * * *

今度の坂木司は黒いゾ・・・ブラックな笑いと驚きに満ちたショートストーリー26編

との文庫帯のキャッチコピー。
ちょっと興味を引きますね。
さっそく読んでみました。
ところが、始めの方のいくつかを読んだ限りでは、ブラックって、どこが?
と思うのです。
別にそれほどでもないんじゃない?と。
でもさらに読み進んでいくと、なるほど、確かに!
この短編群は、光文社のPR誌「本が好き!」に連載されたもので、
順番は掲載順なのでしょう。(多分。)
なので、次第に作風が変化していくのを読みとるのも一興です。

グロテスクなもの、病んだ心が不気味なもの、生理的に不気味なもの・・・
でも中には、
いかにもグロテスクを装いながら、意外な結末を迎えるもの、
ユーモアに満ちたオチのあるもの
などもあり、
それぞれの趣、どれも楽しめてしまいます。


戦争で人類滅亡。最後に残った二人の兵士。
彼らがこの先希望を持って生き延びていくためにとった行動は・・・?
「最後の別れ」


何故か突然穴を掘り始めた男。
宝石が出ようが土器が出ようがお構いなしにひたすら掘る。
何ヶ月も何年も掘り続ける。穴の中での食料調達は・・・?
「穴を掘る」


万華鏡のように、美しく模様を変化させていくネイル。
格安の店を見つけてさっそく契約したけれど、その正体とは?
「最先端」


隣室で繰り広げられる殺戮。
男はその後肉を拾い集めるのが仕事。
これはおぞましいホラーかスプラッタのストーリーなのか?
「肉を拾う」


ある村で行われている他言無用の祭り。
17歳の男女に行われる通過儀礼だというこの祭りは、
とてつもなく残酷なものだというのだが・・・。
「秘祭」


次から次へと後を引いて読みたくなってしまう、そんな一冊です。
さて、ブラックさは坂木司さんには意外、と確かに一瞬思うのですが、
考えてみると「ひきこもり探偵」シリーズなどでも
人の「悪意」が見え隠れする部分がありました。
決してほのぼのとか、癒しとか、いうだけの作風ではないですよね。
何となく納得してしまう作品群なのでした。

「短劇」
満足度★★★★☆

アメリア 永遠の翼

2011年05月27日 | 映画(あ行)
夢を追う、永遠の翼を持った女性



          * * * * * * * *

伝説の女性飛行士アメリア・イヤハートの物語。
彼女は1927年のリンドバーグに続き、
1928年女性として初めて単独で大西洋横断に成功しました。
まだ100年にも足らない過去の出来事ですが、
本当はパリを目指したのに、着いたのはアイルランド・・・。
まだまだ飛ぶのも目視が頼り。
こんな状況ですから、すばらしい業績には違いありません。
そもそも飛行機自体がまだ珍しい時代なのでしょう。
この華々しい偉業は世界の人々を魅了します。
それは夫ジョージの助力のおかげでもあります。
アメリアはとにかく飛ぶのが大好きで、挑戦するのも大好き。
ジョージの求婚に、「私は自由でいたい」と戸惑いを見せる。
当時はまだ「結婚」は夫に縛られ、家庭に縛られることを意味していたのですね。
そうでなくなったのはつい最近のことか・・・。
けれども、そのように空を駆け回る彼女を愛したからこその求婚であったわけです。
結婚式では「夫に従う」という誓いの言葉を省いたとか。
おや、この話をつい最近聞きました。
先日の英国ウィリアム王子とキャサリン妃の結婚式でも
この誓いは省かれたとか、テレビでやっていたなあ。
というか、最近は普通省いているのでしょうね。
結婚の意味は徐々に変化してきているというわけです。
アメリアはその先駆けなんですね。


ところで、世界を飛び回りたいという思いはあっても、何しろお金がかかります。
そこで資金集めに奮闘する夫ジョージ。
アメリアは本を書いたり、講演をしたり、CMに出たり。
今ならさしずめ、あちこちのTV局のトーク番組やバラエティ番組に出突っ張り
というところでしょう。
お金の集まる仕組みは今とそう変わらないようです。
中にはお金儲けのためにやっている、などという中傷もあったようですが。


さて、1937年。
いよいよ彼女は世界一周飛行という最後の挑戦をします。
フレッド・ヌーナンというナビゲーターと共に、赤道線上を東へ東へと・・・。
最後の難関は広大な太平洋。
どこかで給油しなければ、とても一度では飛べません。
南太平洋のハウランド島という小さな無人島に一度降り立ち、
給油する予定だったのですが・・・。



見果てぬ夢・・・、
けれどそのチャレンジ精神は時に私たちに勇気をくれます。
アメリアはその後、いろいろな小説などに登場し、
続きの活躍が描かれているのだとか。
何とか生き延びていて欲しい、
そういった人々の願いが、続きのストーリーを生み出すのでしょう。
そういえば、「ナイト・ミュージアム2」にも出てきましたっけ。
ヒラリースワンクは、ちょっぴり本物のアメリア・イヤハートに似ているようです。

2009年/アメリカ/111分
監督:ミーラー・ナーイル
出演:ヒラリー・スワンク、リチャード・ギア、ユアン・マクレガー、ミア・ワシコウスカ


「テルマエ・ロマエⅢ」 ヤマザキマリ

2011年05月25日 | コミックス
ローマの温泉街を歩いてみたい

テルマエ・ロマエ III (ビームコミックス)
ヤマザキマリ
エンターブレイン


          * * * * * * * *

ローマの温泉、第三弾。
なんとこれ、映画化が決定したそうで。主演が阿部寛に上戸彩?
どんなもんでしょうか・・・?

ところで今作、いきなりシリアスな展開になりまして、ルシウスに迫る危機!
時のローマ皇帝ハドリアヌスを良く思わない一派が登場。
近頃新機軸の浴場を開発し、大人気のルシウス。
彼の存在がハドリアヌスの人気を支えているとみた彼らは、
ルシウスの抹殺を計り、
郊外の物騒な山賊が出没する地域へルシウスを誘い込むのですが・・・。
どこまでいっても勤勉でまじめで一生懸命なルシウスです。
そもそもこの性格が日本人と通じるモノがあるのだなあ。
彼は、この、山賊でもしなければ生きていけない乏しい環境の地で、
町おこしに挑みます。
・・・そう、わき出る温泉を利用して。
なんだか壮大な話になっちゃいました。
しかし、ローマ時代に出現する温泉街。
笑えます。
どこまでも人が良くて、脳天気な"平たい顔族"の皆さんも大好き!

私はたかだか温泉の話で、そんなにネタが続くものかと始めは思っていたのですが、
既に3巻目。
まだまだ大丈夫そうですね。

今現在はシカゴ在住というヤマザキマリさま。
続きを楽しみにしていますので、よろしくお願いいたします。
日本の温泉街の緊張感のない緩さ、怠惰さ・・・そういうことも時には大事。
なるほど、だから時々妙に温泉に行きたくなるんだなあ・・・。

「テルマエ・ロマエⅢ」ヤマザキマリ エンターブレイン
満足度★★★★☆

パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉

2011年05月24日 | 映画(は行)
大騒動の片隅の純愛



           * * * * * * * *

シリーズ第4作。
初の3D作品です。
今回は、永遠の命をもたらすという「生命の泉」を目指した騒動。
ジャック・スパロウの宿敵バルボッサは、なんとイギリス海軍将校となって登場。
(王のお抱え医師ではなくて・・・)
しかし、後で解るのですが、それはただ地位と名誉のためではないようですよ・・・。

ジャックのこの度の敵は、海賊黒ひげ。
実在した海賊だそうで、絶大な勢力を持ち、大変に恐れられていたとか。
ここではもうかなり年老いて、是非ともその生命の泉にたどり着きたい。
そして、この黒ひげの娘というのが、かつてのジャックの恋人、アンジェリカ。
今では立派な女海賊。
ペネロペ・クルスの雰囲気はぴったりです。
そしてまたややこしいことにスペイン軍までもがその泉を目指している。
敵味方が入り乱れ、泉への道の争奪戦が始まる・・・・。



今作の監督は「NINE」、「シカゴ」のロブ・マーシャル。
そのためかアクションは前作などと比べると、ややおとなしめになっていると思います。
でも、私はその方が好きですけどね。
どんなすごいアクションも、延々と続けられるとあきるし、
眠くなっちゃうんですよ・・・。
それよりも登場人物たちが皮肉に満ちたしゃれた会話を交わしつつ、
だまし合いをするような、
そんなシーンが多い方がいい。
いや、いっそ今作はミュージカルにしてしまっても良かったのかも、
なんて思ったりしましたけど・・・。
今作のジャックとバルボッサの会話などは、なかなかいい感じですよ。
特に、ブラックパール号への愛着が共感となり、
宿敵でありつつ戦友でもある、というのがいいですね。
そもそもこの2人は、別に生命の泉を必要と思ってはいないわけです。
そりゃそうでしょう。
むしろ黒ひげがそんなモノをのぞむ方が不思議。
さんざん殺戮を繰り広げてきたのでしょうに、
今になって自分の命が惜しいなんてね。
そういう気持ちになったところで、もうこの人は終わっています。



さて、その生命の泉の効力を出すためには「人魚の涙」が必要なのです。
そこで一同は人魚の入り江に踏み込むのですが、
アンデルセン童話の人魚とは大違い。
なんと人間を海に引きずり込んで殺します。
ほとんどジョーズみたいに恐ろしくおぞましい群れです。
この辺りのシーンは結構スリルに満ちていますね。
そうして捕らえられた一人(一匹?)の人魚の姿も哀れ・・・。
ちょっとぞくっと来るものがあります。
そして、このとらわれの人魚シレーナと若き宣教師フィリップの純愛が、
バタバタしたストーリーのほんの片隅で、ひっそり花を咲かせまして・・・。
私は好きでしたよ。こういうの。


ジャックとアンジェリカは元恋人といいながら、
さほど濃密なシーンはなかったですね。
というか、考えてみるとこのシリーズ、ジャックは全くストイック。
お子様向けストーリーのためかもしれませんけれど・・・。
ジャックはどうもオネエ系っぽいですもんね。
でも、この作品で私はその秘密をわかった気がしました。
ジャックが瓶詰めにされたブラックパール号を見る目。
これこそ、愛する人を見つめる情熱の瞳でしたね。
彼はひたすら船を愛し、船に情熱を注いでいる。
だから生身の女性には興味ないんですよ。
きっと。


いつものように、長いエンドロールの後におまけのワンシーンがついていました。
これから見る方、お見逃しないように。
・・・果たしてこれは、また続きのストーリーの前振りなのでしょうか・・・?

「パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉」
2011年/アメリカ/137分
監督:ロブ・マーシャル
出演:ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、イアン・マクシェーン、ジェフリー・ラッシュ、サム・クラフリン

007/ゴールドフィンガー

2011年05月23日 | 007
なまめかしい大人のムードの有名シーン

          * * * * * * * *

さて、007第3作ですね。
このオープニングがすばらしくカッコいいんだよね。
金粉を塗ったなまめかしい美女の体とオーバーラップする作中シーン。
大人のムードたっぷりで、当時、子供心にも妖しさが感じられました。
この主題曲もずいぶん流行ったよね。
今聞いてもパンチがあって色っぽくて・・・。
この金粉を塗った女性のシーンって、意外にもうんと始めの方にあって、
ほんのワンシーンなんですね。
この作品でボンドが対決するのが、ゴールドフィンカー氏。
やたら金に執着する大金持ちなんだけど、
もちろん、金の密輸など犯罪がらみで築いた富。
その下で働いていた彼女をボンドがいただいちゃって、
結果としてゴールドフィンガーに莫大な損害を負わせてしまった。
彼女はその報復として、体中に金粉を塗られて窒息死させられたというんだ。
それってボンドが殺しちゃったみたいなもんだね・・・。
敵方の女性を陥落させるのはいいけど、
それって命がけということを少し意識して欲しいもんです。
見てると女なら誰でもいいって感じだもんなあ・・・。
おほん。
それはともかく、少し前にTVでやってたけど、
人間は皮膚呼吸なんかしていないから、金粉塗っても死にませんって・・・。
そうでしょう・・・。変だと思ったよ。
でも、この映画やってた頃は、みんな信じてたよなあ・・・。


さてと、このゴールドフィンガーは、
米国政府の金塊を放射能で汚染して、
西側に強烈な金融恐慌を起こそうともくろんだわけです。
うう・・、放射能の恐怖。身にしみるなあ。
007危機一髪のシーンが何度か。ドキドキします。
ここではボンドの愛車、アストン・マーチン登場。
敵の車をパンクさせる装置とか、
煙幕を吹き出したり、油を流したり。
ふるってるのは助手席を車外に放り出したりする仕掛け。
どれもちゃんと使用するので、お楽しみ。
敵方もレーザー光線など新兵器を出してくるから油断できない。
結構かっこよかったね、あれ。


でもまだまだ時代はアナログですね。
ボンドが使った追跡装置、現在地がすぐ解るあれは、今ではGPSで、一般庶民でも使える。
逆に50年近くを経て、たったそれだけ?という気もするな。
それから、今回の用心棒役はオッド・ジョブというおっさん。
刃物を仕込んだ帽子が武器で、おっそろしく体も頑丈だ。
直接対決では分が悪いけれど・・・。
ボンドの頭脳で乗り切る!

乗りに乗ってる007でした。

途中、「ビートルズの曲を聴くのには耳栓がいる」
なんてボンドの発言がありました。
当時の「大人」の感覚なんだなあ・・・。

「007/ゴールドフィンガー」

ゴールドフィンガー (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]
ショーン・コネリー,ゲルト・フレーペ,オナー・ブラックマン
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


1964年/イギリス/106分
監督:ガイ・ハミルトン
出演:ショーン・コネリー、ゲルト・フレーベ、シャーリー・イートン

「プリンセス・トヨトミ」 万城目学

2011年05月21日 | 本(SF・ファンタジー)
大阪で引き継がれていた“歴史”

プリンセス・トヨトミ (文春文庫)
万城目 学
文藝春秋


             * * * * * * * *

大阪に隠された壮大な秘密とは!?
こんなキャッチコピーにそそられて、読んでみました。
冒頭いきなり、会計検査院の3人が登場するのにびっくり。
少なくとも、会計検査院のお役人が登場する小説なんて、
初めてお目にかかります。
私も公務員の端くれですから、この名前くらいは存じておりますよ。
公務員にとっては"泣く子も黙る"ってくらいの
怖いというか煙たい存在なんで・・・。


この3人、

ちょっと強面、いつも眉間にタテジワの切れ者、松平。(ただしアイスには目がない。)

背が低くて太っちょ。
仕事はドジが多いけれど、時々驚くほどの勘の良さをみせる鳥居。

すらりと背が高く、すれ違う人が思わず振り返る美女。
ハーフの旭。

この取り合わせが実に楽しいのですが、
まあ、会計検査院の役人だけでは肩が凝りますわね。
ご安心を。
真の主人公は中学生。

お好み屋の息子、真田大輔。

そして、彼の幼なじみ橋場茶子。

真田大輔くんは、生まれてこの方、
男に生まれたのが悔やまれてならず、
女の子のセーラー服にあこがれている。
小学校のうちはまだ良かったけれど、
中学に上がり詰め襟の制服を着るようになってからは、
「男」として過ごすのが辛くてならない。
彼はある日思い切ってセーラー服を着て登校するのですが・・・。

今や、オネエキャラはあふれていますから、
そんな子がいても、さほど奇異ではないかも・・・という気もします。
しかしまあ、異分子を排除したがるヤカラも中にはいるわけで、
大輔はいじめに遭ってしまう。
そんな彼を守ろうとするのは、男勝りの茶子。
こんな状況が実に活き活きと描かれているのですが、
実はこのストーリーのメインはそこではない。

実はこの茶子には、自分でも知らない大きな秘密が・・・。
それは大阪の男性だけに連綿と語り継がれた、壮大な秘密・・・。


この著者はきっと大阪生まれか大阪育ちで、
自分の故郷が大好きなんだろうなあ・・・というのが、うかがわれます。
巻末のエッセイ「なんだ坂、こんな坂、ときどき大阪」を読むと、
正にその通りでした。
著者の通った小学校は、正に大阪城を見上げる位置にあり、
昇降口のそばにあった地下への階段は、
これは豊臣秀頼が大阪城から逃げてくるときの抜け穴につながっている、
とささやかれていたという・・・。
なるほど、そんな記憶がこのストーリーに発展したわけなのですね。
非常に愉快痛快な物語ですが、
これだけの秘密が全く外にもれないというのにはやはり少し難があるかなあ
・・・と思えます。
そうだといいなあ、という物語ではあります。

しかし、男だけに語り継がれる秘密という部分には、
これってセクハラ?と思わなくもなかったのですが、
大丈夫、ちゃんとなるほどというオチが付いていました。


登場人物の名前を見ると、その立ち位置の見当が付くのも面白いですね。
茶子はハシバなので、そのものですし、
真田ダイスケは正に真田幸村の息子。
蜂須賀、石田、長宗我部、
見知った名前を探すのも楽しいのです。
奇想天外、万城目ワールド全開。


さて、ところでの作品、映画化され、まもなく公開です。
キャストを見てちょっと驚きました。
松平が堤真一というのは納得。
でも、
鳥居が綾瀬はるかで
旭が岡田将生・・・!!
なるほど、男女を入れ替えたのですね。
確かに鳥居さんは、太っちょのおじさんよりも綾瀬はるかにした方が、
ビジュアル的にもいいし、
天然ボケだけどミラクルというイメージに近いものがあります。
そうすると、旭はクールな美女というよりも
クールなハンサムを持ってきたい・・・ということか。
実に映画向けに考えてありますね。
何だか興味をそそられます。


「プリンセス・トヨトミ」万城目学  文春文庫
満足度★★★★☆


劇団四季 「ライオンキング」

2011年05月20日 | 舞台
ステージに広がるサバンナ

          * * * * * * * *

ライオンキング。
東京公演は12年連続のロングラン上演中だそうですね。
だから何を今さら・・・という方も多いと思います。
当札幌では念願の北海道四季劇場がオープンし、
この3月からようやく「ライオンキング」上演となりました。
私も、やっと見ることができました。
実は、先にこけら落とし公演で「エビータ」を見たんです。
しかし・・・、これは特別な感慨を受けたとは言えず、
とうとうブログ記事にもできないで終わってしまいました。

しかし、こちらはやはりさすがの「ライオンキング」ですよね!
何しろオープニングから、たくさんの動物たちに圧倒されてしまいました。
座席通路を等身大の象が歩いて行くのにはびっくり。
動物の群れ。
鳥たち。
すばらしい迫力の歌声。
何故か涙が出てきてしまいました・・・。


父王ムファサの後を継ぐことになる子ライオンのシンバ。
とっても無鉄砲でやんちゃです。
子役の男の子が何とも可愛い! 
元気でチャーミングな動作にも目が惹きつけられます。
けれど、王座を狙う叔父スカーの陰謀により、
ムファサは殺され、シンバは王国を出てさまようハメに・・・。
行く当てもないシンバを拾ったのは、
ミーアキャットのティモンとイボイノシシのプンバァという、
のんきで気のいい二人組。
この二人に「ハクナ・マタタ(くよくよするな)」という言葉を教わったシンバは、
二人と暮らすことになり、そのまま成長していきます。


さて、物語はこれで終わるはずがない。
きっとシンバは故郷へ帰って、王国を奪い返すのだろう・・・と、
まあ、ストーリーは予測がついてしまうのですが、
それにしても、動物たちの歌やダンスに時間を忘れて見入ってしまいます。

愉快なのは、ティモンとプンバァの掛け合いですね。
なんと北海道弁!!
北海道にはあまり方言はないと思っているのですが、
この二人のしゃべりを聞いていたら、
やっぱり北海道弁はあるなあ・・と自覚しました。
「なまら面白いっしょ。いんでないかい。」てなものです。
察するに、この二人はそれぞれの地方でそれぞれの方言で会話しているのでしょうね。
あれ? 
そうすると、東京公演ではどんな言葉で話しているのでしょう? 
どなたか教えてください。
ということは、多地方の皆様も、
札幌の「ライオンキング」は、また違った楽しみ方ができるわけなので、
近くこちらにおいでの予定がある方は、
是非お立ち寄りいただくのもいいかもしれません。


さて、この舞台では動物たちばかりでなく、植物も息づいていましたね!
私たちはよく思い出話で
「小学校の時の学芸会の役はコンブだった・・・」なんて話をしたりしますが、
この場合、ホントに「草」の役もアリですね。
それから、めすライオンたちの悲しみの表現が好きだったなあ・・・。
(T_T)←まさに、このイメージですね。
そして、悲しみから立ち上がるときには、
この目の下のテープをビリリと破り取るっていうのも、
決意が見える感じでいいですよね。


サークル・オブ・ライフ。
生命の連鎖。
ステージに広がるサバンナで、私たちは悠久の自然の摂理を学ぶのです。
大人も、子供も十分に楽しめます。
満足、満足。


こちらは、アニメ版・・・
ライオン・キング スペシャル・エディション [DVD]
マシュー・ブロデリック,ジョナサン・テイラー・トーマス,ジェレミー・アイアンズ,ジェイムズ・アール・ジョーンズ,ローワン・アトキンソン,ネイサン・レイン,アーニー・サベラ,モイラ・ケリー,ニケータ・カラム,マッジ・シンクレア,ロバート・ジローム,ウーピー・ゴールドバーグ,チーチ・マリン,ジム・カミングス,宮本充,中崎達也,壤晴彦,大和田伸也,梅津秀行,三ツ矢雄二
ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

ブラック・スワン

2011年05月19日 | 映画(は行)
痛みと生理的嫌悪



             * * * * * * * *

バレエにかける根性物語・・・かと思いきや、そうではなくミステリアスな作品。
ナタリー・ポートマンが第38回アカデミー賞主演女優賞を受賞しています。
ニューヨークのバレエ団に所属するニナ。
彼女は元バレエダンサーの母と共に
人生のすべてをバレエに注ぎ込んでいます。
そして、「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが。



ニナは、おとなしくまじめな優等生タイプなのです。
これまでハメを外したことがない。
その生硬さは、多分に母の過干渉で威圧的な接し方に起因するように見受けられるのですが。
彼女は白鳥ならばとても美しく繊細に踊ることができる。
でも、ここでは黒鳥をも演じなければなりません。
黒鳥はいわば魔性の存在。
邪悪・官能・・・、ニナのイメージからはほど遠いものです。
しかし、何とかその本質を演じたいと悩み苦しむニナは、
次第に現実と妄想の境界、
狂気の淵へとさまよい始める。


その“邪悪”な何者かは、どこかから忍び込んできたものでしょうか。
それとも、もともと心の奥底に潜んでいたものなのでしょうか。
私たちの中にもきっとある二面性を考えずにはいられません。
廊下ですれ違う、もう一人の自分。
鏡の中の、自分と異なる動きをする虚像。
それだけでも気が変になりそうで、怖いですね・・・。



ここには、彼女の父親は登場しません。
彼女の母が若い頃にニナを身ごもり、それでバレエダンサーの道を断念した、
ということのようなのですね。
問題の根っこは、この母のゆがんだ異性への感情。
そして、そのことから来るさらにゆがんだ母子関係なのだろうな。
それから、背中の傷、爪からの出血等の執拗な自傷の描写。
血液は私たちの命をつなぐものでありながら、
私たちの体外に出るや否や、
禍々しく穢れたものに変貌するのは何故なのでしょう。
さらにはTVのCFにも使われていましたが、
ニナが自分の体から黒い羽根を抜くアップのシーン。
いやはや、どうにも生理的嫌悪をさそいます。
本来、芸術的で美しいバレエの世界に、
この痛みと嫌悪感を塗り込んで仕上げたというところに
何ともいえない凄みがあります。



この、苦悩と狂気の中で迎える舞台の初日。
結末は是非映画でご覧あれ!

2010年/アメリカ/108分
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダー

「玉子 ふわふわ」 早川茉莉編

2011年05月17日 | 本(その他)
卵焼き、ゆで卵、目玉焼き、オムレツ・・・

玉子ふわふわ (ちくま文庫)
早川 茉莉
筑摩書房


              * * * * * * * *

この本は、玉子にまつわるエッセイを集めたアンソロジー。
古今37人の作家が集められています。
住井すゑ、林芙美子、池波正太郎、
東海林さだお、伊丹十三、池田満寿夫、
田辺聖子、松浦弥太郎、宇江佐真理、
などなど・・・。


卵料理にはいろいろあります。
卵焼き、ゆで卵、目玉焼き、オムレツ・・・。
かの美食家、北大路魯山人氏からは、茶碗蒸しの文章が選ばれていますよ。
茶碗蒸しは卵をけちって、だしを多くして、
うんと柔らかく作らなくてはいけないと。
それぞれの方が、それぞれの料理の仕方にこだわりがあり、
またそこから様々な思い出がわき出てくる。
玉子一つ特に高価なものではありません。
誰もが好きで、日常的で、生活に馴染んでいます。
とてもユニークな企画ですね。
ところで、どの方も好きといっているのは、
玉子かけご飯のようです。
これは日本独特ですが、確かに玉子かけご飯、
"あ~、日本人に生まれて良かった"
と思ってしまう食べ物の一つです。


私が好きで、よく作るのは、チーズオムレツ。
卵にピザなどで使うシュレッドチーズをよく混ぜ合わせて、
塩コショウして焼き上げます。
チーズが固まってしまわないよう、熱々の内に召し上がれ!


ところでこの本の題名で思い出されるのは、
宇江佐真理さんの「卵のふわふわ」という小説なのです。
そうしたらやっぱり、巻末はこの宇江佐真理さんの小説の一節が載っているのでした。
どうしてもうまくいかなかった夫と、
ほんの少し心が通い合う気のする妻の心を描写する大事な一節。
実は、私が初めて宇江佐真理さんを読んだのがこの本。
それですっかりファンになってしまったという思い出の作品。
この本の題名も、ここから連想を得てつけたのに違いありません。
そうご馳走というわけでもない。
けれども食べると何だかほっとする。
いいものですね。卵料理。


そして、あらためて気づかされたのは、卵の形の美しさ。
卵は何かの拍子にころころと転がっても
ぐるっと大きく円を描いて、元の位置に転がってくるようにできているのだそうです。
滑らかで、強くて、やさしくて、美しい。
奇跡の様な形。
この本を読むと、やたらと卵が食べたくなってしまいます。
今晩は卵料理にしよう・・・。

「玉子 ふわふわ」 早川茉莉編 ちくま文庫
満足度★★★☆☆

ヤコブへの手紙

2011年05月16日 | 映画(や行)
手紙の相談者を救っているのではなく・・・

            

            * * * * * * * *

フィンランド作品です。
恩赦を受けて、12年ぶりに刑務所を出所したレイラ。
彼女は、片田舎で暮らす年老いた盲目のヤコブ牧師の元に身を寄せることになりました。
そこでの彼女の仕事は、ヤコブ牧師へ届く様々な人々の悩みの手紙を朗読し、
その返事を代筆すること。
レイラはここの暮らしも仕事も全く乗り気ではなく、
なるべく早くここを出ていこうと思っていたのです。
こんな手紙など何の意味もないと思っていた・・・。
盲目で全く無防備な牧師と、
一癖ありそうな、ムショ帰りの女。
なにかありそうだ・・・と、私たちは知らず緊張してしまうのです。
嫌気がさした彼女は、手紙をこっそり捨ててしまったりも・・・。
ところが、あるときからぱったりと手紙が届かなくなります。
そうするとヤコブ牧師は生き甲斐をなくし、
どんどんと落ち込んでいく・・・。
「私は神にとって必要のない人間だったのか・・・」
これまでの長い牧師としての生活すらも否定するような、
こんな思いに囚われてしまうヤコブ。

レイラとヤコブ牧師の、行き場のない孤独な心が次第に浮かび上がってきます。
レイラもこんな牧師にあきれて、この家を飛び出そうと思うのですが、
彼女自身、どこにも行くところなどありません。
そんな彼女に、牧師は、「まだいてくれたのか」と優しく語りかける。
「これまで私は手紙の人々を助けていると思っていた。
けれども、私はこの手紙に助けられていたんだ・・・」
そのように気づくヤコブ牧師。

そうしてラストには、静かな感動が待ち受けています。
レイラがここへ来た意味。
ヤコブ牧師はどこまでも誠実で優しいですね。
結局は、この柔らかな心が、
ささくれ立ったレイラの心を癒していったのでしょう。
自分を省みない慈愛の精神。
そういう人は強いのかと言えば、やはり弱い一人の人間。
だから私たちは支え合って生きていくのでしょうね。


ところで、この作品のオフィシャルサイトに気になることが書いてありました。
本当に郵便配達人は善人なのか?というのです。
なぜ彼は家に忍び込んだのか。
彼の新しい自転車はどうして手に入れたのか。
なぜ急に手紙が来なくなったのか。
おっと、そういう話だったのでしょうか? 
深読みに過ぎる、
というか、あんまりそのように考えたくないというのが本音です。
その答えはもちろんありません。
そんな謎をのこして、私たちの心根が試されているような・・・。

「ヤコブへの手紙」
2009年/フィンランド/76分
監督:クラウス・ハロ
出演:カーリナ・ハザード、ヘイッキ・ノウシアイネン、ユッカ・ケイノネン

愛より強く

2011年05月15日 | 映画(あ行)
本能的な愛欲と観念

                * * * * * * * *

ファティ・アキン監督作品を逆行して見ています。
2004年のこの作品。
なるほど、これが原点といってよさそうです。
主人公はやはりトルコ系のドイツ人。
人生に絶望した40歳ジャイトは自殺未遂で病院へ。
そこで、やはり自殺未遂の患者、トルコ人のシベルと知り合います。
彼女はいきなりジャイトに「結婚して」というのです。
シベルは戒律に厳しい彼女の家族から自立し、自由になりたいと願っていた。
そこで二人は偽装結婚をし、同居することになります。


偽装というからには、お互いは縛られず自由。
それぞれは外で恋人との逢瀬を楽しみ、
二人に肉体的な関係はいっさいなし。
ところが、心が死んだようだったジャイトは、
彼女とのこのおかしな生活により、自分が生き返ったと感じる。
そして、彼女への愛も自覚していく。
このあたりまでは、よくあるベタな展開なのですが・・・。

ふいに人が死んだりします。
罪を負って刑務所入りもあります。
なるほど、やはりファティ・アキン監督だ。
憎くて殺してしまうのではない。
いわば自身の抑制が効かず、つい手が出て・・・、
そうして不意に消えてしまう命。
このあたりの描写はいかにもあっけないのですが、
ねっこに何か無常感のようなものを感じてしまいます。
所詮命はこのように儚いもの。
そんな中で私たちは愛だ恋だとジタバタあがいているのだなあ・・・。
いつしかジャイトとシベルの思いは重なり、
とうとう結ばれる
・・・というときに、シベルは叫ぶのです。

「まって! これ以上のことをすれば、私たちは本当の夫婦になってしまう!」

シベルは、家族とか結婚とか、
そういうものに縛られたくないからこそ家を出たわけです。
自らの規範に自らが縛られている。
単に観念上の問題ではあるのですが、
だからこそそれが人間の証でもあります。
本能的な愛欲と観念。
偽装結婚という観念から入った二人の関係が
こういう問題に乗り上げるのは必然なのかもしれません。

男女の心の不思議を堪能しましょう。
音楽とダンスが常にある、中東と西洋の不思議な融合感。
この独特な雰囲気もいいですよ。

愛より強く スペシャル・エディション [DVD]
ビロル・ユーネル
ハピネット


「愛より強く」
2004年/ドイツ/121分
監督・脚本:ファティ・アキン
出演:ビロル・ユーネル、シベル・ケキリ、カトリン・シュトリーベック、メルテム・クンブル、デミール・ゲクゲル

「謎解きはディナーのあとで」 東川篤哉

2011年05月13日 | 本(ミステリ)
本格推理の王道でありつつ、たっぷり楽しめる

謎解きはディナーのあとで
東川 篤哉
小学館


           * * * * * * * *

この本、今書店の店頭をにぎわしていますね。
2011年本屋大賞受賞作。

このストーリーのヒロインは、刑事宝生麗子。
実は大財閥の令嬢。
が、警察内部ではそのことを知っているのはごく一部のみ。
彼女は普通に仕事に励むワーキングウーマンであります。
まあ、それだけならふつうのミステリなのですが・・・。
登場人物が実にユニークなのですね。
まずは彼女の上司、風祭警部。
名前を聞いただけですでにキザですが、
彼は"風祭モータース"社長令息。

"わかりやすい例でたとえるなら
「花形モータース」の御曹司花形満が
阪神タイガースに入団し損なって
仕方なく受けた警察官採用試験に合格し、
そのまま警察官になったようなもの"


というのですが、確かにわかりやすい。
愛車はシルバーメタリックのジャガー。
リッチをひけらかし、言動もキザ。
麗子嬢を財閥令嬢とは知らず、「お嬢さん」などと呼びかけるのですが、
麗子嬢は
「働いている女性に"お嬢さん"は失礼だろう。あんたはみのもんたか! 
第一私は"お嬢さん"じゃなくて"お嬢様"だっつーの!!」

と心の中で毒づく。

では、この二人のおかしな掛け合いの推理小説なのかと思いきや、
もう一人、これぞこの作中のヒーロー登場。
それは宝生家に仕える執事兼運転手の影山。

ひょろりと背が高く、年の頃なら30半ば。
喪服と見紛うようなダークスーツを着こなした姿は、
高貴な家柄の人物のようにも、キャバレーの呼び込みのようにも見える。


とあります。
全長7メートルはあろうかというリムジンで麗子を迎えにきて、
麗子の事件の話を聞いているうちに、
ズバリ事件の真相を言い当ててしまうという、
つまりこれはアームチェア・ディテクティブのストーリーだったんですね!

しかしこれが、普通の執事ならばあくまでも控えめだと思うのですが、
彼は
「失礼ながらお嬢様、この程度の真相がおわかりにならないとは、
お嬢様はアホでいらっしゃいますか」

と、言葉使いは丁寧ながら、毒舌きわまりない。
いちいち、ムカついてしまう麗子嬢ですが、
彼の推理の鋭さには、ぐうの音もでません。


そんなこんなで、スタイルは派手ながら意外と推理力には凡庸な風祭と麗子嬢が、
執事影山の推理のおかげで、数々の事件を解決していくという、
ユニークな短編集。
ヒントはすべてストーリーの中に示されている。
その謎は私たちへの挑戦でもある、という本格推理の王道でありつつ、
こんなに楽しく読めてしまう、
大変お得な本であります。


特に第6話「死者からの伝言をどうぞ」では、
ふだん現場には姿を表さず、
文字通り影の存在である影山が現場に登場。
ちょっとしたアクションシーンがありますよ。
これは必見、じゃなくて必読か。
麗子嬢が、
そういえば影山はいつもどこで食事をとっているのだろうか・・・
と思う場面があります。
そうなんですよね。
いわば私たちは影山の『仕事』のシーンばかり見ている。
彼の私生活にすごく興味がわきます。
今度はそんなシーンを出して欲しい・・・。
続巻が待たれます・・・。

「謎解きはディナーのあとで」東川篤哉 小学館
満足度★★★★★

にゃんこ1

2011年05月12日 | 工房『たんぽぽ』
ストラップ

              * * * * * * * *

今回は少し趣向を変えて、ストラップを作ってみました。



これが各パーツです。
これだと結構できあがりが想像つきますね。
二つ同じ大きさのものを作りたいときは
こんな風に、それぞれ同時に作っていくとよいようです。
頭、胴体、耳、しっぽ・・・
それぞれを同じ大きさにそろえます。
とにかく、一つ一つを丁寧に作ること。
まあ、何でもそうなんですけどね。
私、おおざっぱな性格なので、実はそういうところは苦手なんですが。
結局できあがりの善し悪しは、
一つ一つのパーツがきちんと作られているかどうかに尽きるんですね。


できあがり。

うーん、かなり途中を省略していますが、
つなぎ合わせていくのも結構めんどうなんですよ。

このペアのストラップは
プレゼント用にします。
気に入ってもらえるといいのですが。


※このキットを活用しました。
ハマナカ 白ねことトラねこのストラップ/製作キット
ハマナカ
ハマナカ