シャンソン。
近頃の日常ではあまり縁がないジャンルではありますが、「愛の賛歌」といえば、誰もが知っている曲でもありますね。
でも、日本人が日本語で歌うこの曲と、エディット・ピアフの元祖としての曲とではまるで別物のように聞こえます。
日本語では絶対に表現できない「凄さ」があると思う。
エディット・ピアフは1915年パリの下町の貧しい家庭に生まれました。
父は大道芸人。
母はシャンソン歌手。
将来の彼女の人生の下地として、妙に納得できてしまいます。
そして3歳からしばらくの間祖母の経営する娼館で育てられる。
子供が育つ場としてはあまりにも劣悪ですが、すさんだ生活をおくる娼婦たちにとって、無垢な少女は何者にも変えがたい安らぎを与える存在であったのでしょう。
思いのほか愛情を受けて育ったように見受けられました。
ただし、多くの女たちの苦しみをじかに見て育った、このことは、彼女の歌の表現に奥行きを与えたのだと、想像します。
その後の彼女の人生は、まさに波乱万丈に満ちています。
映画だけでなく、若干調べてわかったことも含んでいますが・・・
3歳から6歳くらいまでの間、角膜の炎症のため、失明状態。
それが聖テレーズに祈りを奉げ、回復したというのは、最も劇的。
16歳の頃生んだ娘は幼い頃に病死。
路上で歌っていた彼女を見出した、クラブのオーナー、ルイ・ルプレが殺害されるという事件があり、その容疑者にされる。
ニューヨークで知り合った恋人、ボクシングチャンピオンのマルセル・セルダンは、飛行機事故で死去。
また、彼女自身も幾度も交通事故に遭遇している。
何度も度重なる不幸。
けれども、彼女はそのつど、歌うことで立ち直る。
歌っている時だけが自分を信じられるのだと彼女は言う。
映画は彼女の晩年と、幼い頃からの生涯が交互に描きだされていきます。
その晩年とは、なんと47歳というのですが、どう見ても70くらいの老婆に見えます。
これは別に映画の演出過剰というわけではなく、実際にそうだったらしいのです。
お酒に麻薬。
度重なる交通事故。
すっかり体がむしばまれていたのでしょう。
前かがみでとぼとぼ歩く、その姿は頼りない老婆なのですが、ひとたびステージに立ち歌い始めると、突然に、彼女からオーラが立ち上がり、力強い歌声が響き渡る。
まるで自分の命の炎のすべてを歌で燃やしつくしているかのようです。
この物語を知ってからは、シャンソンも少し興味を持って聴けそうです。
そうですね、ワインでも飲みながら、たまにはシャンソンといきますか。
それにしても、以前映画で見た、「ウォーク・ザ・ライン」のジョニー・キッシュ、
「Rey/レイ」のレイ・チャールズ。
音楽シーンの偉大なアーティストは、麻薬に溺れます・・・。
日々のストレスから逃れるためでしょうか。
このように身を痛め、持ち崩しながらも音楽から離れられない、その、業のようなもの・・・。
だからこそ、このような「伝説」になるのでしょうか。
余談ですが、エディット・ピアフを演じたマリオン・コティヤールは、30歳で身長169センチもあるということなのです。
うそー、あんなにちいさいおばあちゃんだったじゃない!
撮影時、彼女だけ裸足だったり、周りの人がかかとの高い靴だったり、いろいろ苦労があったらしい。
そして、まったく自然なあの、あごの下のたるみとか、顔のしわとか・・・、あれがすべてメークアップだとは!!
恐れ入りました!
逆に、うんと若作りのメークはないのかしらん・・・。
2007年/フランス=チェコ=イギリス/140分
監督:オリビエ・ダアン
出演:マリオン・コティヤール、シルビー・テステュー、パスカル・グレゴリー、エマニュエル・セニエ
「エディット・ピアフ/愛の賛歌」公式サイト