映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ビューティフル・デイ

2019年10月31日 | 映画(は行)

危うさを秘めた暗殺者

 * * * * * * * * * * * *

元軍人のジョー(ホアキン・フェニックス)は、年老いた母と暮らしていますが、
暗殺者という秘密の仕事を持っています。
それもマフィアの刺客というわけではなく、闇の中で行われる犯罪に私的制裁を加えるというもの。

あるとき、拉致監禁されていると思われる政治家の娘・ニーナを救出する依頼を受けます。
そして犯人たちを始末するように、と。
そこで、ジョーは少女売春の巣窟と思われる現場へ侵入しニーナを救出するのですが、
なんと彼の目の前で再びニーナはさらわれてしまう・・・。

 

さて、このようにあらすじだけを書けば必殺仕事人のようなヒーローものを思い浮かべるでしょう。
ところが、本作はそう簡単ではありません。
ジョーは戦争で心に深い傷を持っているのです。
そう、先日見た「アメリカン・ソルジャー」のように。
彼はその屈強な体と戦闘能力を買われてこの闇の仕事に就いたと思われるのですが、
そのために虐待や、暴力、痛み・死・・・本来避けるべき事柄に、直に触れることになってしまいます。
彼の心はかなり危ういところにある。
強靱な体をもちながらも、ガラスのように今にも砕けそうな心。

 

一方、なすすべもなく体を蹂躙されるしかないか弱い少女ニーナは、
強い「自己」を持つのです。

 

庇護する者とされる者がいつの間にか逆転して行くところが興味深い。

 

そして、このほとんど狂気一歩手前のジョー、すなわちホアキン・フェニックスに、
私は「ジョーカー」の萌芽を見るのです。
本作があって、ホアキン・フェニックスはうまくジョーカーへシフトできたような気がします。

 

ビューティフル・デイ [DVD]
ホアキン・フェニックス,ジュディス・ロバーツ,エカテリーナ・サムソノフ,ジョン・ドーマン,アレックス・マネット
Happinet

WOWOW視聴にて>

「ビューティフル・デイ」

2017/90/イギリス

監督:リン・ラムジー

出演:ホアキン・フェニックス、ジュディス・ロバーツ、エカテリーナ・サムソノフ、ジョン・ドーマン、アレックス・マネット

 

仕事人度★★★★☆

狂気度★★★.5

美少女度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」高山羽根子

2019年10月30日 | 本(その他)

「私」にのっかっている重石とは・・・?

カム・ギャザー・ラウンド・ピープル
高山 羽根子
集英社

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おばあちゃんは背中が一番美しかったこと、
下校中知らないおじさんにお腹をなめられたこと、
自分の言い分を看板に書いたりする「やりかた」があると知ったこと、
高校時代、話のつまらない「ニシダ」という友だちがいたこと…。
大人になった「私」は雨宿りのために立ち寄ったお店で「イズミ」と出会う。
イズミは東京の記録を撮りため、SNSにアップしている。
映像の中、デモの先頭に立っているのは、ドレス姿の美しい男性、成長したニシダだった。
161回芥川賞候補作。

* * * * * * * * * * * *

 

最近せっかく高山羽根子さんを読み始めたので、ついでにという感じで手に取りました。

「私」が小学生の頃から中・高・学生時代を経て就職した頃まで、
順にその時々のエピソードが語られていきます。
くちゃくちゃの顔のおばあちゃんは、その背中が一番美しかったこと。
小学校からの下校途中で知らないおじさんにお腹をなめられたこと。
中学の頃、近所の学生寮中庭での出来事・・・。
特別に事件的なことが起こるわけではありません。
何の脈絡もないエピソードのようでもあります。
が、しかし、次第にどうして特にこれらのエピソードが取り上げられたのかがわかってきます。
それは高校時代に「友だち」だったニシダとの再開。
「私」はニシダが自分を認めた瞬間に逃げ出してしまうのです。
読んでいる方も面食らいます。
なぜいきなりここで、走って逃げ出すのか・・・。
答えは最後の最後。

 

「私」の友人イズミは言うのです。
「シバちゃんはなんか重石がのっかってるみたいに見える」

そこなんです。
「私」にのっかっている重石。
「女性」性の痛みのようなもの・・・、と私には思えるのですが。

 

また、最後の代々木公園近辺のリアルな描写がステキです。
登場人物とともにビデオカメラを回しながら歩いて(走って?)いる感じです。
残念ながらその地域のことを私はよくは知らないのですが、
知っている方なら「うん、そうそう」ときっとつぶやくはず。

 

SF的展開はなし。
不思議世界に放り出されることもなし。
でも私、これまで読んだ(わずかですが)高山羽根子さん作品では本作が一番好きかも。
今後が期待できます。

図書館蔵書にて

「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」高山羽根子 集英社

満足度★★★★★


スペシャルアクターズ

2019年10月29日 | 映画(さ行)

心地よい大逆転!

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「カメラを止めるな!」の上田監督、劇場長編第2弾。
・・・となれば必ず何らかの仕掛けがあるはず、とこちらも構えてしまうので、ハードル高いです。

 

役者として全く芽が出ない和人が、数年ぶりに弟・宏紀と再会します。
そして宏紀が所属している「スペシャル・アクターズ」に誘われるのです。
スペシャル・アクターズは通常の映画やドラマの他に、
日常で演じるお助け屋的な仕事も請け負っているのです。
例えばお葬式に参列して泣くとか、
夫の暴力に悩む妻の依頼で夫を脅すなど・・・。
そんな俳優の一員として仕事を始める和人。
しかし実は彼には致命的な欠陥がありまして、
強い緊張にさらされると気を失ってしまうのです・・・。
それでも弟の助けを得ながらなんとか仕事は進んでいく。
そんなある日、カルト集団から旅館を護ってほしいという依頼があり・・・。

 

ぼんやりで頼りなさげな兄と、ちょっとチャラめの弟。
なかなかいいですね。
カルト教団のいかにもうさんくさくてインチキなのもステキ。
スペシャル・アクターズの面々の軽いノリとチームワークの良さもよし。
・・・と、すべてがなかなかいい感じに運ぶのだけれど、肝心の仕掛けはどこにあるというのか。
ほとんど半信半疑で、もしかして失敗作かとすら思いかけたのですが・・・。
やられました。
本当に、最後の最後まで、そこのところは読めませんでした。
上田監督、さすがです。

 

和人が気持ちを落ち着けるために握っていたおっぱいボール。
いかにもぷにぷにで気持ちよさそうで、私もほしいです。
イライラしがちな現代人にはマストアイテムかも・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

スペシャルアクターズ

2019/日本/109

監督・脚本:上田慎一郎

出演:大澤数人、河野宏紀、富士たくや、北浦愛

 

どんでん返し度★★★★☆

満足度★★★★☆


アメリカン・ソルジャー

2019年10月27日 | 映画(あ行)

帰還兵の置かれる過酷な状況 

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イラク帰還兵のその後を取材したデビッド・フィンケルのノンフィクション
「帰還兵はなぜ自殺するのか」を題材としたドラマです。

 

米陸軍兵のアダム(マイルズ・テラー)が、従軍を終え妻子の待つカンザスへ帰ってきます。
しかし、睡眠障害やフラッシュバックに悩まされます。
アダムには多くの悲惨な戦闘の記憶に加えて、ある一つのトラウマを抱えていました。
ある銃撃戦の中、頭部に被弾した仲間を命がけで救出したものの、
搬送中に階段から落としてしまったのです。
そして、もう一つ・・・。

 

アダムと同時に帰還した仲間も様々なトラブルを抱えており、一人は自殺。
もう一人は麻薬を手に入れるために危ない仕事を引き受けることに。

 

彼らは自分の心が傷ついていることは自覚している。
けれども、治療を受けるための予約をしても受診できるのは何ヶ月も先、
療養のための施設も満杯でいつになれば入れるのかもわかりません。
その間の収入も心配です。

何もかも八方塞がりのこんな状況では自殺者が増えるのも無理はありません。
なぜ政府がもっと力を入れて対策に当たらないのかと言えば、
すべてが政府にとって都合が悪いからなのでしょう・・・。

これも一つの「不都合な真実」を明かす作品。

そんな夫を受け入れる妻の存在も大事だと思いました。
愛想をつけて逃げ出すか、あくまでも寄り添おうとするのか・・・。
夫が安心して本心を打ち明けられる、そういう関係なのがベスト。
でもそうでないことも多いですしね・・・。
私も自信ないけど。
生活力も必要です。
女も強くないとね。

 

アメリカン・ソルジャー [DVD]
マイルズ・テラー,ヘイリー・ベネット,ジョー・コール
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン

<WOWOW視聴にて>

「アメリカン・ソルジャー」

2017/アメリカ/108

監督・脚本:ジェイソン・ホール

出演:マイルズ・テラー、ヘイリー・ベネット、ジョー・コール、エイミー・シューマー

 

不都合な真実度★★★★★

満足度★★★★☆

 


「屍人荘の殺人」今村昌弘

2019年10月26日 | 本(ミステリ)

前代未聞のクローズド・サークル

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)
今村 昌弘
東京創元社

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21世紀最高の大型新人による前代未聞のクローズド・サークル

 

神紅大学ミステリ愛好会会長であり『名探偵』の明智恭介とその助手、葉村譲は、
同じ大学に通うもう一人の名探偵、剣崎比留子と共に
曰くつきの映研の夏合宿に参加するため、ペンション紫湛荘を訪れる。
初日の夜、彼らは想像だになかった事態に見舞われ荘内に籠城を余儀なくされるが、
それは連続殺人の幕開けに過ぎなかった。
たった一時間半で世界は一変した。
数々のミステリランキングで1位に輝いた第27回鮎川哲也賞受賞作!

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今村昌弘さんのデビュー作にして5冠達成、映画化もされ、この12月に公開という作品。

文庫化を待って、やっと読むことができました。
えーと、5冠というのは、

第27回鮎川哲也賞、
「このミステリーがすごい!2018」第1位、
「2018 週刊文春ミステリーベスト10」第1位、
「2018 本格ミステリ・ベスト10」第1位、
第18回本格ミステリ大賞、
ついでに第15回本屋大賞第3位。
まさにミステリ界の話題をかっさらった大型新人であります。
今さら、やっと読んだんですか・・・と、言われそうですね(^_^;)

 

舞台設定は、ミステリにはつきものともいえるクローズド・サークル。
つまり、雪の山荘や嵐の孤島。
誰も出ることも入ることもできない隔絶された状況の中で起こる連続殺人事件。
だからその中の誰かが犯人で、探偵役の人物がその犯人を特定してゆくという物語。

しかし本作が特異なのはこの、隔絶された状況なのです。
・・・が、しかし。
そこのところのネタばらしはタブーとなっているみたいなので、
ここでも明かすことはやめておきましょう。
知りたいけれど本を読むのはメンドクサイ、という方は
ぜひ12月公開の映画をご覧ください。
13日の金曜日から上映だそうですよ・・・。
なるほど。

さて、その状況の特異性はともかくとして、
ミステリとしても素晴らしくよくできているのです。
一体誰がどうやって・・・というのは読んでいてもさーっぱり見当もつかないのですが、
探偵役が謎解きを始めれば、なるほど~、すごくわかりやすく納得できます。
それと私が気に入ったのは登場人物の名前。
背が高いのが高木。
おとなしく物静かなのが静原。
別荘の管理人が管野。
・・・という具合です。
登場人物が10人くらいになると、誰が誰やらわからなくなるというのが常。
そこのところ本作は非常に親切で、作中にその連想の仕方までちゃんと記述がある。
実際こういうミステリはもともとリアリティを追求するわけではないので、
こういう登場人物の命名の仕方は大歓迎です。
訳のわからないやたらと読みにくい漢字を当ててみたりするどこかの作家に見習ってほしいです。

そして、本来探偵役のはずの明智恭介が意外にも早々と
表舞台から姿を消してしまうというのにもビックリ!

5冠というのにも大いに納得の本作でした。

 

「屍人荘の殺人」今村昌弘 創元推理文庫

満足度★★★★★


ダンボ

2019年10月25日 | 映画(た行)

う~ん・・・

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1941年ディズニーアニメ「ダンボ」の実写化リメイク。

サーカスで生まれた象・ダンボは、大きな耳をしているので、
人々からは馬鹿にされてしまいますが、なんとその耳で空を飛ぶことができるのでした。
でもダンボを救うために暴れた母親象は、よそに売られてしまいます。

引き離されてしまった母親象を助けるため、
飼育係ホルトとその子供たち、そしてサーカスの一座が団結して・・・。

 

と、ストーリーは今更言うまでもありません。
実のところなんでわざわざ実写化したかなあ・・・、
アニメのままでよかったのでは?と思わなくもない。
象が空を飛ぶシーンこそはCGで表現するにうってつけ、ということだったかもしれません。
でもそれならば、象の体を浮かせるためにはあの耳では小さすぎるように思えるのです。
ドラゴンの羽根並みの大きさは必要だろうなあ・・・。
アニメの方が、そういうところが適当でも許せる気がする・・・

 

あ、監督がティム・バートン。
それだからちょっぴりブラックな味わいがありまして、
それがこの物語に若干の違和感をもたらせてしまった。
大資本家が欲に任せたあげくに庶民からひどい目に遭わされるという筋は、気に入りましたけれど。

 

そして個人的にはもう一つ。
コリン・ファレルの日本語吹き替えが西島秀俊さんなのです。
はじめラッキー♡と思いましたが、
西島さんのソフトでハンサムな声が、コリン・ファレルと全然合わない。
コリン・ファレルが口を開くたびに私は西島秀俊さんを思い浮かべてしまう。
こりゃダメです。
アニメならまだしも、実写吹き替えはダメ。

ダンボ MovieNEX [ブルーレイ+DVD+デジタルコピー+MovieNEXワールド] [Blu-ray]
コリン・ファレル,マイケル・キートン,ダニー・デヴィート,エヴァ・グリーン,アラン・アーキン
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社

 

J:COMオンデマンドにて>

2019/アメリカ/112

監督:ティム・バートン

出演:コリン・ファレル、マイケル・キートン、ダニー・デビート、エバ・グリーン

 

ダンボのかわいらしさ★★★★☆

満足度★★☆☆☆

 


今さら言えない小さな秘密

2019年10月24日 | 映画(あ行)

人から見れば、取るに足らないことなのに

 

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村一番の自転車修理工ラウルは、愛する妻と子供たちと平穏な日々を過ごしています。
しかし実は誰にも言えない秘密を持っていて・・・。
それは、自転車に乗れないこと。


子供の頃から何度も何度も練習したのに全くダメなのです。
しかしそのために逆に自転車に強くひかれ、ついに自転車修理を生業にし、
その腕で村民の信頼を得たのでした。
でもそうなると、ますます自転車に乗れないとは言い出せなくなってしまったのです。

 

そんなある日、村を写真家エルヴェが訪れます。
彼は村人の写真を撮ることで評判を得ています。
ラウルとエルヴェは気が合い、次第に親しくなって、
とうとうエルヴェは、ラウルが自転車で坂道を下る姿を撮影しようと言い出しますが・・・。

 

自分にとってはすごく大きな秘密の悩みなのだけれど、
実は他の人にとっては取るに足らないこと、そんなことはあるものですね。
それにしてもラウルの、秘密を人に話すくらいなら死んだ方がまし、くらいの思い込みもすごい。

 

彼は昔父親にそのことを打ち明けたのですが
その直後に父は雷に打たれて死亡。
その後、付き合っていた彼女に打ち明けたら雷が鳴り出し、
彼女は無事だったけれども「バカみたい」と言われて振られてしまった。
秘密を打ち明けるとよくないことが起きる・・・、
そんな抑圧もラウルの中にたまっていきます。
そのため、今の妻には未だに打ち明けられていない・・・。

 

いい大人が秘密を抱えて右往左往・・・そんなコミカルさが何やらもの悲しくもあります。
彼は自転車に乗れないせいで、他の子供たちと遊びにも出られず、
やむなく本ばかり読んでいて、優等生になってしまい、
するとますます友達がいない・・・と、
そういう少年・青年時代を過ごしてきていたのです。
そんな彼に初めて友人と言える存在ができた。
それが写真家のエルヴェ。
しかしラウルの秘密のおかげで、うまくいくはずのところもうまくいかなかったりする。

 

また、ラウルの妻はラウルの幼なじみなのですが、
実はちゃんと見るべきところを見ていた、というのがまたいいのですよねえ・・・。

 

素敵に味のある作品でした。

 

<シアターキノにて>

「今さら言えない小さな秘密」

2018/フランス/90

監督:ピエール・ゴドー

原作:ジャン・ジャック・サンペ

出演:ブノワ・ポールブールド、エドゥアール・ベア、スザンヌ・クレマン、グレゴリー・ガドゥボワ、バンサン・ドゥサニア

ユーモア度★★★★☆

満足度★★★★.5

 


「不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲」石田衣良

2019年10月23日 | 本(その他)

東京大空襲を生き抜け!

不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲
石田 衣良
毎日新聞出版

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父の国の大空襲から母を守り、炎の夜を生き延びろ!
アンダイング=不死身とあだ名をつけられた日系二世の少年・時田武14歳。

母・君代と家族を率いて、炎そのものとなった街を駆ける。

* * * * * * * * * * * *

 

石田衣良さんの東京大空襲を描く力作。

といってもそこが石田衣良氏なので、普通の戦争物とはひと味違う。
多少SF的展開ではあるのですが、だからといって東京大空襲の記述が絵空事ではなく、
震えが来るほどのリアリティを持って迫ってきます。

 

主人公タケシは、1945年を生きる中学生14歳。
日本人母とアメリカ人父の間に生まれたハーフです。
タケシと母はアメリカのシアトルで、父・姉も含めて4人で暮らしていたのですが
日米間の関係悪化につれて、日本人に対する差別がひどくなったため、
ひとまず母と、見た目が日本人に近いタケシが日本に来ていたのでした。

 

しかし、アメリカとのハーフであることでやはりここでも、
タケシに対しての偏見と蔑視があったのでした。
それでもタケシはよき友人に囲まれ、いとこの登美子とも心を通わせ、
「日本男児」としてけなげに生きています。

 

そんな3月10日未明。
焼夷弾等を積んだ米軍機B29の大群が東京に押し寄せます。
タケシはともに暮らす女性4人、老人1人、子供一人を引き連れ、
燃えさかる炎の町を決死の覚悟で安全な場所を求めて突き進みます・・・。

雨のようにバラバラと降ってくる焼夷弾。
町は濡らした防空頭巾がすぐにカラカラになってしまうくらい熱気に満ちています。
逃げ惑う人々。
行く手を塞ぐ炎の壁。
ときおり襲う火の竜巻。
命を奪う黒い煙・・・。
読みながらも恐れおののいてしまいました。
絶対に家族を守り抜くと誓ったタケシは、壮絶な体験をすることになるのです・・・。

 

著者は、以前著者のお母さんから聞いた東京大空襲の体験談を、
いつか小説にまとめたいと思っていたそうで、それを実現した本となっています。
後書きでは
「願わくば、この作品が主人公と同じ14歳の少年少女に広く読まれますように。」
と書いています。
本当に、少年少女にはとっつきやすいストーリーでもありますので、
私も、そう願ってやみません。

 

図書館蔵書にて

「不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲」石田衣良 毎日新聞出版

満足度★★★★★


デス・ウィッシュ

2019年10月21日 | 映画(た行)

殺人鬼か、ヒーローか

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1974年チャールズ・ブロンソン主演「狼よさらば」のリメイク作品。
題名は聞いたことがあるけれども、見たことはなかったと思います。
似たような話は多くありそうなので、特にリメイクと歌う必要もない気がしました。

 

舞台は現在に移されていまして、治安が悪化し、ほとんど無法地帯と化したシカゴ。
ポール・カージー(ブルース・ウィリス)は外科医で、
妻と娘と、満ち足りた生活を送っています。
ある日、家に押し入った強盗に襲われ、妻は死亡、娘は重傷で昏睡状態となってしまいます。

警察の捜査は遅々として進まず、業を煮やしたポールは、自ら立ち上がる・・・!

 

ポールは悪を憎み、とりあえずは街角で見かけたチンピラ風情を痛めつけることからはじめますが、
次第に家に押し入った強盗団の糸口をつかみ、復讐へと乗り出していくわけです。

いたるところにある監視カメラに顔が写らないように、
パーカーのフードを深くかぶり、悪人を次々に始末していく姿は、
人々から「殺人鬼」と恐れられながらも、どこかヒーロー視されたりもする。
フードをかぶったブルース・ウィリス、ということで、「アンブレイカブル」も思い出しました。

 

それにしても人の命を救う医師が殺人者、しかも時には極めて残虐
・・・というところがすごく皮肉です。
医師だからこそできる拷問のシーンも。
ひ~、怖すぎる・・・。

 

フード姿の「殺人鬼」の映像は瞬く間にSNSで広まるし、
ポールは銃の扱い方や、パソコンのデータ消去の仕方をネットで調べたりします。
まさに、現代のストーリー。
結構面白かった。

デス・ウィッシュ[DVD]
ブルース・ウィリス
ポニーキャニオン

WOWOW視聴にて>

「デス・ウィッシュ」

2018年/アメリカ/107分

監督:イーライ・ロス

原作:ブライアン・ガーフィールド

出演:ブルース・ウィリス、ビンセント・ドノフリオ、エリザベス・シュー、カミラ・モローネ、キンバリー・エリス

凶悪犯罪度★★★★☆

私的制裁度★★★★★

満足度★★★★☆


イエスタデイ

2019年10月20日 | 映画(あ行)

ビートルズ愛!!

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イギリスの小さな海辺の町で暮らす、シンガーソングライターのジャック・マリク(ヒメーシュ・パテル)。
幼なじみで親友のエリー(リリー・ジェームズ)がマネージャーを務め、
いつも寄り添っていてくれるものの、全く売れません。

 

そんなある日、世界的規模の停電が発生。
そのときジャックは交通事故に遭い、昏睡状態となります。
そして目覚めてみればなんと、誰もビートルズを知らない。
そこは「ザ・ビートルズ」が存在しない世界となっていたのです。

ジャックが自作のふりをしてビートルズのナンバーを歌い始めると、
みるみるうちに評判を呼び、人気急上昇となっていきますが・・・。

 

実のところ、ビートルズの曲を絡めたコメディということで、
さほど期待していなかったのですが、これがなんとも素晴らしかった。

 

SFで言えばジャックは「多元宇宙」の別の世界に紛れ込んでしまったということなのでしょう。
でもそんな理屈はどうでもいいのです。
もしこの世界にビートルズがいなかったら・・・、
そして一人だけビートルズを知っている人がいたら・・・
というifの 世界がこんなにも面白いなんて。
流れる曲はみな聞き覚えのあるビートルズ、というのがいいですよねえ。
そしてジャックはこれでじゃんじゃん儲かる、と手放しで喜んじゃうような性格ではなくて、
心苦しくてしょうがないのです。
ビートルズの作品をネコババしたみたいな状況なのが。
このちょっと気弱でさえない感じが、親しみを呼ぶ。

 

そしてまたこれはラブストーリーでもあります。
こんなさえない男にエリーがなぜいつまでも付き添って励ましているのか、
そりゃー、一目瞭然之ことなのに、わかってないのですよねえ、
この朴念仁は。
このエリーの片思いの行く末も楽しみ。

 

それからまた、終盤に登場するある人物に、驚愕!! 
こんなこともありえるのか・・・。
なんだか泣けてしまいました。
それなら、このビートルズのいない世界も悪くはないのでは・・・と思えてきます。
マリクもそこから気持ちを切り替えていくわけですしね。

 

この世界はビートルズが存在しないだけでなく、他にもいろいろ、ないものがあるんですよ。
それを見つけていくのも、面白い。
マリクは実は気づいていないけれども、逆にこの世界にだけしかないものもあったのかも・・・。

 

ともあれ、ビートルズ愛に満ちた作品。
私はとても気に入りました。

<シネマフロンティアにて>

「イエスタデイ」

2019年/イギリス/117分

監督:ダニー・ボイル

出演:ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ジョエル・フライ、エド・シーラン、ケイト・マッキノン

 

ビートルズ愛度★★★★★

満足度★★★★★


「東京會舘とわたし 下 新館」辻村深月

2019年10月19日 | 本(その他)

作家が見た東京會舘

 

東京會舘とわたし 下 新館 (文春文庫)
辻村 深月
文藝春秋

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井上靖、三島由紀夫らの小説でも描かれ、
コーちゃんこと越路吹雪は多忙ながら東京會舘でのショーには永く出演した。
七〇年代はじめに改装。
平成では東日本大震災の夜、帰宅できない人々を受け入れ、
その翌年には万感の思いで直木賞の受賞会見に臨む作家がいた。
そして新元号の年、三代目の新本館が竣工する。

 * * * * * * * * * * * *

さて、下巻第6章は昭和51年から。
東京會舘は建て替えられて昭和46年に新館がオープンしています。
芽衣子は本来なら今年金婚式を迎えるはずだった夫を2年前に亡くしています。
夫と何度も行った思い出のある東京會舘で、お茶の教室関係者の集まりがあるというので
初めての新館へ出かけることに。
そこで芽衣子は、思いがけず、懐かしい旧館の片鱗と出会うことになるのです。
新しいけれども、歴史も大事に継承されている、
そしてまた、従業員のホスピタリティーも・・・。

私、不覚にも本章の最後の部分で泣けてしまいました。
ここの従業員のあまりにも心のこもったおもてなし・・・。
素晴らしい・・・。

 

第7章では、恒例として毎年ディナーショーを行っていた越路吹雪さんのエピソード。

 

第8章は平成23年3月11日。
あの東日本大震災の日の、実話に基づくエピソード。

 

そして第9章は、これも恒例、東京會舘で芥川賞、直木賞の受賞インタビューと授賞式が行われていることに絡めた、
ある小説家のストーリーです。
これは著者の実体験が相当反映されていそうで、すごく興味深いのです。
つまりはこのことがあったからこそ、著者はこのストーリーを書こうと思ったのでしょうね。
平成31年1月に、3代目の東京會舘新館(新新館というべきか?)がオープン。
ここのところはこの文庫のために新章が書き加えられているのですが、
ここでもまた、歴史が受け継がれていることがわかります。

私、下巻のほうがさすがに自分が生きていた時代のことなので身近で、興味深く感じられました。

「東京會舘とわたし 下」辻村深月 文春文庫

満足度★★★★★

 


リグレッション

2019年10月18日 | 映画(ら行)

記憶退行で・・・

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1980~90年代初頭のアメリカで、悪魔崇拝者による儀式が次々と告発され、
社会的な問題となった・・・ということから着想を得た作品。

 

90年代、ミネソタ。
刑事であるブルース・ケナー(イーサン・ホーク)は
父親の虐待を告発した少女・アンジェラ(エマ・ワトソン)の事件を担当します。
しかし、その父親の記憶がどうも曖昧。
ケナーは著名な心理学者に協力を仰ぎ、真相究明を図ろうとします。
すると、これは単なる家庭内暴力ではなく、町の各所で起こる他の事件との関連が見えてきます。
町には秘められた闇があるのか・・・?

 

精神科医が人を催眠状態にして、本人も覚えていないようなことを「記憶退行」させ、
恐るべき真実を導き出す・・・というやり方が、その頃よく用いられていたのです。
現在ではそのやり方は誤った記憶を作り出してしまうとして使われていないようです。

 

宇宙人に連れ去られた・・・などという話も、
こんなやり方で出てきたのではなかったでしょうか?

しかし当時は大真面目にこれが通用していて、
父親の怪しげな記憶から、町中に悪魔崇拝者が潜んでいるかのような
恐ろしい推測がなされてしまうのです。
当のケナーも悪夢にうなされたりする。

 

しかし本作、実はこうしたことを逆手にとったある陰謀の話なんですね。

ちょっぴりぞっとしてしまうストーリーでした。

 

リグレッション[DVD]
イーサン・ホーク,エマ・ワトソン
ポニーキャニオン

WOWOW視聴にて>

「リグレッション」

2015年/スペイン・カナダ/106分

監督:アレハンドロ・アメナバール

出演:イーサン・ホーク、エマ・ワトソン、デビッド・シューリス、ロテール・ブリュトー

 

幻想性★★★★☆

恐怖度★★★☆☆

満足度★★★.5


真実

2019年10月17日 | 映画(さ行)

カトリーヌ・ドヌーブが貫禄を見せる

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注目の是枝監督海外進出作品。

 

フランスの国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)が自伝を出版し、
そのお祝いということで、ニューヨークで暮らす娘・リュミール(ジュリエット・ビノシュ)と、
夫ハンク(イーサン・ホーク)、その娘シャルロットがファビエンヌのもとを訪れます。

ところが、母がいかにも愛情あふれるようなありもしないエピソードを書いていることに憤慨するリュミール。
次第に母と娘の愛憎が浮かび上がります。

 

ファビエンヌは母という立場よりも女優の立場を優先させていたのですね。
母のライバルだった今は亡きサラという女優が、
幼いリュミールにとってはまるで母のように、よく彼女をかまってくれた・・・。
そんなこともありこの母娘は疎遠で、住んでいるところが離れていることもあり、
ずいぶん久しぶりの対面だったのです。
でも互いの違和感はこれまであまり口にしたことがなかったのだけれども・・・、
ここへ来て不満が爆発してしまいます。

 

そうではあるけれど、母親として娘に愛情がないわけはない。
そして娘も、今はずっと子供の頃から母が苦手だったと思い込んでいるけれども、
あながちそうでもなかった・・・ということも気づいていくのですね。

確かに是枝監督らしい、家族の物語なのでした。

この大女優のファビエンヌと、実際のカトリーヌ・ドヌーブが
実にうまく重なり合うところがミソです。

 

劇中劇としてファビエンヌが出演する映画の撮影風景が描かれています。
その物語はSFで、

病で余命宣告された母親が、宇宙で過ごすことにして、
7年ごとに地球に残した娘に会いに来るのです。
母親はいつまでも若い頃のまま。
ところが娘は子供だったのが大人になり中年になり、
そして最後に母の年齢を追い越して、老いてしまった。
その娘の役が、ファビエンヌ。
つまり最後には若き母と、老いた娘、年齢逆転した母娘の対面ということになります。

 

そこでファビエンヌ(=カトリーヌ・ドヌーブ)が見せる演技。
老いているのにファビエンヌの方がちゃんと娘に見えるのです。
素晴らしい!! 
さすが、カトリーヌ・ドヌーブって、思います。

 

かわいくて賢いシャルロット、そしてちょっぴり頼りない夫、
立ち位置がぴったりはまってナイス!

 

<シネマフロンティアにて>

「真実」2019年/フランス・日本/108分

監督・脚本:是枝裕和

出演:カトリーヌ・ドヌーブ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、マノン・クラベル、リュディビーヌ・サニエ

 

母娘の確執度★★★★☆

豪華俳優★★★★☆

満足度★★★★☆


「東京會舘とわたし 上」辻村深月 

2019年10月15日 | 本(その他)

東京會舘に関わった人たちが紡ぐ物語

東京會舘とわたし 上 旧館 (文春文庫)
辻村 深月
文藝春秋

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大正十一年、社交の殿堂として丸の内に創業。
東京會舘は訪れる客や従業員に寄り添いつつ、その人の数だけ物語を紡いできた。
記憶に残る戦前のクラシック演奏会、戦中の結婚披露宴、
戦後に誕生したオリジナルカクテル、クッキングスクールの開校―。
震災や空襲、GHQの接収など荒波を経て、激動の昭和を見続けた建物の物語。
(上 旧館)

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非東京居住者である私は「東京會舘」と聞いてもよくわからなかったのですが、
古くから東京にお住まいの方なら、何かしら思い入れのある場所のようです。
本作を読んで、とても興味を持ちました。

 

大正11年、創業したばかりの東京會舘はその年に関東大震災に遭遇します。
全壊は免れたものの、大部分を修復しなければならず、早々に一時休業となってしまう・・・。
創業の年から始まる本巻には、時代を追いながら
大正12年~昭和39年までの5つの物語が収められています。

 

東京會舘はホテルではなく、結婚披露宴や会合の行われる施設。
レストランやバーなどもあり、ここで働いたり、利用したり、
様々な立場の膨大な人々が関わったことでしょう。
それをある時期で区切って、その時々で関わった人が主役です。

それぞれの東京會舘への思いがあふれます。

 

例えば第一章では東京會舘の隣、帝国劇場で行われた
クライスラーのピアノコンサートで深い感銘を受けた人が、
劇場と東京會舘をつなぐ地下通路で偶然にクライスラーと出会うことができた。
まだ真新しくきらびやかなこの場所にいるだけでもまぶしいことなのに、何という僥倖。
人生が変わるほどの・・・。

 

第4章は、バーで新米の頃からベテランとして頼りにされるまでを務める、桝野のこと。
戦後進駐軍の施設として活用された会館で、米兵相手のバーでの勤めが始まったのでした・・・。

 

第5章では、東京會舘で売る土産物用の洋菓子を開発するお話。
早速ネットで調べたら、いまもちゃんとその頃に開発されたお菓子が、
そのままではないにしても継承されて売られているのですね。
もちろん今では洋菓子などどこにでもありますが、草分けの苦労は尊重します。
今度東京へ行くことがあったら、絶対にそれを買ってこよう!!

 

東京會舘の歴史は日本の現代史でもあるわけです。
それこそ、大河ドラマにでもできそうな・・・。
早速続きの下巻を読みます!

 

「東京會舘とわたし 上」辻村深月 文春文庫

満足度★★★★.5


ハンターキラー 潜航せよ

2019年10月14日 | 映画(は行)

海底と陸上、アメリカとロシア、スリル&サスペンス!

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ロシア近海で1隻の米海軍原子力潜水艦が消息を絶ち、
ジョー・グラス(ジェラルド・バトラー)艦長率いる攻撃型潜水艦・ハンターキラーが捜索に向かいます。

米潜水艦は何者かに攻撃を受け、全滅。
しかしその現場付近にロシア原潜も沈んでおり、その生存者3名を救出とともに捕虜とします。

同じ頃、ロシア国内でクーデターが発生。
そのクーデター軍が、潜水艦に攻撃をかけたのです。
そしてロシア大統領が軍部の人質となっており、
世界平和の維持のため、偵察に向かっていた米特殊部隊が大統領救出を試みることに・・・。

 

海中の潜水艦と合わせて、陸上の特殊部隊の動きがリンクしながら同時進行して行くという
本作の作りが、スリルたっぷりでよかったと思います。

 

中でも、捕虜となったロシア潜水艦の艦長。
彼の存在が大きい。
これが、先に亡くなったミカエル・ニクビストなんですよね。
人望厚いロシア海軍生え抜きの存在で、
最後の出演作がこんないい役でよかったなあ・・・と思った次第。

 

・・・それにしても私、閉所恐怖症の気味もあるらしく、
潜水艦には絶対乗りたくない、とつくづく思いました・・・。

 

ハンターキラー 潜航せよ [DVD]
ジェラルド・バトラー,ゲイリー・オールドマン,コモン,リンダ・カーデリーニ,トビー・スティーヴンス
ギャガ

J:COMオンデマンドにて>

「ハンターキラー 潜航せよ」

2018年/イギリス/122分

監督:ドノバン・マーシュ

出演:ジェラルド・バトラー、ゲイリー・オールドマン、コモン、ミカエル・ニクビスト

 

世界の危機度★★★★☆

任務遂行度★★★★★

満足度★★★★☆