映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ラン・ハイド・ファイト

2024年09月14日 | 映画(ら行)

闘う女子高生

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17歳、女子高生のゾーイは、幼い頃から軍人の父にサバイバル術を学び、
また時には父と狩りを楽しんでいました。
しかし、母の死をきっかけに、父娘の関係に深い溝ができてしまいます。

ある日、彼女の高校にテロリストが乱入。
カフェにいた生徒たちが次々と銃弾に倒れて行く中、
運よくトイレにいたゾーイは、なんとか校舎の外に脱出します。
しかし、校舎の中にいる友人たちを救うため、テロリストと闘うことを決意し、
再び校舎へ戻っていきます。

一方、父はニュースで娘の高校に銃撃犯が侵入したことを知り、高校へ向かいます。

米国の学校への銃撃犯の侵入は、もはや社会問題でもあります。
本作はそれが警察ではなく(もちろん警察も駆けつけますが)、
生徒が、しかも女子生徒が銃撃犯に立ち向かい、
多くの教師や生徒らを助け出すというところがミソ。

やはり、近年の女性は強いなあ・・・。

銃撃犯らは複数名のチームなのですが、ゾーイは1人、また1人と倒して行って
犯人のリーダーを追い詰めます。

彼らは、この犯罪を少しでも世間に誇ろうとして、SNSで生配信。
これもまた、現代ならでは・・・。
銃撃犯に脅されて、スマホのカメラを彼らに向けて撮影を続けるのが、
ほのかにゾーイに好意を持っているらしき男の子で、
トイレに行ったきり戻ってこなかった彼女を案じ続けている
・・・というなりゆきもまた興味深いところです。

そしてまた、高校に駆けつけた父が、思わぬ方法で娘を援護することになるというのもミソ。
気持ちがすれ違っているようだけれど、いざとなると互いを信じ合う父と娘。
ゾーイの亡き母がときおりゾーイの目前に現れて、ゾーイを励ますというのもいいな。

何しろ、強い女の子の話は好きなので、たのしめました!!

<Amazon prime videoにて>

「ラン・ハイド・ファイト」

2020年/アメリカ/110分

監督・脚本:カイル・ランキン

出演:イザベル・メイ、ラダ・ミッチェル、トーマス・ジェーン、イーライ・ブラウン

スリル度★★★★☆

タフな女の子度★★★★★

満足度★★★★☆


ジュリーと恋と靴工場

2024年09月13日 | 映画(さ行)

職人のプライドをかけた靴作り

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25歳、職なし金なし彼氏なしのジュリー。
ようやくフランスのロマン市にある高級靴メーカーの工場での仕事に就きます。
しかし、工場は近代化のあおりで閉鎖の危機。

職を失うことを恐れた靴職人の女性たちが抗議のためパリ本社へ乗り込み、騒動を起こします。
ジュリーもそれに巻き込まれてクビになりかけたりもします。
職人の意地とプライドをかけた女性靴職人たちは
「闘う女」と名付けられた赤い靴を武器に、この危機を乗り越えようとします。

ミュージカル仕立てのストーリー。

何もかも合理化の波にさらされて消えていく・・・、
今だからこそそうしたことに異議を唱えるストーリーなんですね。
入社したてのジュリーはストライキに参加すれば即クビ。
だから少し盛り上がる同僚たちとは距離を置いていたのですが、
次第に手仕事に情熱とプライドを持つ彼女たちの心に寄り添うようになっていきます。

でもね、確かに上質で高級なその靴を、一体どれだけの人が履けるのだろうか・・・
と、私はちょっぴり思ったりするのです。
ジュリーがその前に務めていたところの量産品の安価な靴だって意義があると思うけど。

まあそれは余計な話。
ジュリーの恋も絡めて、さすがオシャレなフランス作品ではあります。

<Amazon prime videoにて>

「ジュリーと恋と靴工場」

2016年/フランス/84分

監督・脚本:ポール・カロリ、コスチャ・テステュ

出演:ポーリーヌ・エチエンヌ、オリビエ・シャントロー、フランソワ・モレル、
   ロイック・コルベリー、ジュリー・ビクトール

 

満足度★★★☆☆

 


父と息子の地下アイドル

2024年09月11日 | 映画(た行)

息子の意志を継ぐ父

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WOWOW新人シナリオ大賞受賞作。

 

妻を亡くし、ひとり息子とは疎遠になっていて、
さみしく暮らす高校教師、千堂(松重豊)。
かつては子どもたちに熱血指導をしていましたが、今の子どもたちには通用しません。

ある日突然、音信不通だった息子・勝喜の事故の知らせが入ります。
勝喜は病院で眠ったまま、植物状態に・・・。

病室で呆然とする千堂の元に、派手な衣装を着た3人の少女がやって来ます。
この3人は勝喜がプロデュースする地下アイドル「オトメがたり」。
まだデビューして間もなく、まったく人気もないのですが・・・。
でも勝喜が活動できなくなれば、新しい曲もなく、解散するほかないでしょう。
しかし、千堂は息子勝喜に変わってアイドルプロデューサーになることを決意。
幸い息子の部屋に新曲の録音がいくつか残っていたのです。

「地下アイドル」という言葉さえ知らなかった千堂ではありますが・・・。

 

疎遠のまま意識がなくなってしまった息子の、意欲を燃やしていた仕事。
少女たちが夢を見ていたその仕事をなんとか引き継ぎたいと千堂は思ったのですね。
というか始めは少女たちに懇願されて無理矢理に、ではありましたが。

地下アイドルのことなど何も知らない千堂が頼ったのが、
受け持ちのクラスの不登校・引きこもりのオタク少年というのもよろしい。
人は誰かの役に立っているという認識が、生きる力を与えます。

 

地下アイドルというのも、私はテレビドラマなどで知るだけですが、
どうやったら多くの人に知ってもらえるのか、そして資金集めの方法、ファンサービス等々・・・、
単にキラキラした世界ではなく大変なことですね。

そうした様々なことを織り込んで進んでいくストーリー、
さすがシナリオ大賞受賞作です。

楽しませていただきました。

 

<Amazon prime videoにて>

「父と息子の地下アイドル」

2020年/日本/94分

監督:横尾初喜

脚本:光益善幸

出演:松重豊、若月佑美、今井悠貴、芋生悠、瀧本美織、井之脇海

地下アイドルを知る度★★★★☆

満足度★★★.5


エイリアン ロムルス

2024年09月10日 | 映画(あ行)

来るぞ、来るぞ・・・

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リドリー・スコット監督1979年「エイリアン」のその後を舞台として、
20年後の出来事を描きます。

 

親の代に移住した惑星で、過酷な採掘作業につく若者たち。
このままでは先の人生の希望も何もありません。
ある時、6人の若者たちが廃船となった宇宙ステーション「ロムルス」を発見。
その船と装置を入手して、憧れの惑星ユヴァーガを目指そうと相談がまとまります。

そして、いよいよロムルスに到着して船内の探索を始めますが、
しかしそこでは恐怖の生命体・エイリアンが待ち受けていたのでした・・・。

エイリアンの血液はすべての物質を溶かすほど強力な酸性で、
うかつに攻撃を仕掛けて血を流そうものなら、船体に穴があいて、
宇宙に放り出されることになる・・・。
ということでろくに闘う手段もなく、逃げ場のない宇宙空間で
次々に襲い来るエイリアンに1人また1人と犠牲になっていく・・・。

男女を含めた6名の若者たちなのですが、
やはりといいますが一作目「エイリアン」からのお約束のように、
結局は1人の女性・レインがエイリアンと闘うことになるのです。
いまだに忘れられない、あのリプリーのりりしさ・・・。

さて、「エイリアン」が象徴するものとして、次のような解釈があるのです。
(内田樹氏の受け売り)

 

エイリアン=女性を妊娠させ自己複製を作らせようとする男性の欲望の形象化したもの。
そしてつまり、女性から見れば、
男性のエゴイスティックな自己複製欲望に屈服することの嫌悪と恐怖を表している。

 

このような視点から見ると本作はどうなのか、といえば・・・。
うーん、まあやはり、「エイリアン」の成り立ちとして
フェミニズム的思想を含んではいるのでしょうけれど、それほど強くは感じません。

むしろ作中の、人生の行き場を失い閉塞感にあえぐ若者たち、というところが
現代の若者たちの状況を反映しているといえそうです。
男女がどうこうということではなくて、自由を求めてあえぐ若者たちを、
さらに阻む有象無象のものたち・・・。

そういえばこの中に妊娠している女性がいて、
そのなりゆきにとてもいや~な予感がしてしまうのですが・・・、
まあやはり、でした。

詳しくは言えませんが、これらのことはつまり、
人類の進歩につながるはずの科学技術が、結局は不幸へとつながっていくということなのかも。

そしてまた、「エイリアン」ではこれも定番となっている「アンドロイド」の存在。

本作にも当初からアンディという一体のアンドロイドが登場します。
それはレインの弟ということになっているのですが、
実際は拾われてきたアンドロイド。
どこかIC回路に破損があるらしく、本来はずば抜けた知能と力があるはずが、
まったくか弱い存在となってしまっています。
しかし、ロムルスに身体が破損しているアンドロイドが一体あり、
その回路をアンディにはめ込むことで、アンディは生まれ変わります。
・・・が、しかしそれは元のアンドロイドが持っていた
恐ろしい「使命」をアンディが受け継ぐことでもあった・・・。

 

感情がないアンドロイドは、当初設定された己の使命が第一。
彼らは人々が思っているように人の幸福のためにあるものではない。
AIというものの本質をそこに見るようで、ちょっと恐いですね。

 

結局人類が追い求めてきた科学技術の進歩が、今は逆に若者に閉塞感を生み、
人類に不幸をもたらし始めている・・・
そんなことを言っているのかも知れません。

 

 

・・・とまあ、色々書いてはみましたが、作品としてはお化け屋敷探検みたいなもので、
とても「エイリアン」作品当初と同じ衝撃を感じるものではありません。
いつまでもエイリアン作品を作り続ける必要があるのかな?と思ってしまいます。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「エイリアン ロムルス」

2024年/アメリカ/119分

監督:フェデ・アルバレス

出演:ケイリー・スピーニー、デビッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルヒド

 

お化け屋敷度★★★★★

満足度★★★☆☆


「クロコダイル・ティアーズ」雫井脩介

2024年09月09日 | 本(ミステリ)

嫁はとんでもない悪女なのか?

 

 

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ベストセラー作家、雫井脩介による「究極のサスペンス」

この美しき妻は、夫の殺害を企んだのか。

息子を殺害した犯人は、嫁である想代子のかつての恋人。
被告となった男は、裁判で「想代子から『夫殺し』を依頼された」と主張する。
犯人の一言で、残された家族の間に、疑念が広がってしまう。

未亡人となった想代子を疑う母親と、信じたい父親。
家族にまつわる「疑心暗鬼の闇」を描く、静謐で濃密なサスペンスが誕生!

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とある家族の疑心暗鬼の物語

鎌倉近くの陶磁器店「土岐屋吉平」を経営する久野貞彦。
今は妻と2人暮らし。
ひとり息子・康平は結婚し、妻・想代子(そよこ)とまだ幼い息子が1人。
近所で暮らしていて、店の後を継ぐべく、𠮷平の経営を手伝っています。

そんなある日、康平が殺害されてしまいます。
犯人はすぐ捕まりましたが、その男は
以前康平の妻・想代子につきまとっていたストーカーだった・・・。

 

想代子にとっては全く迷惑な話。
しかし本作、主に父・貞彦とその妻・暁美の視点から描かれているのです。

暁美は思う。
息子の死に際して嫁はどうも本当に悲しんでいるように見えない。
わざとらしく目にハンカチを当てているけれど、まるで嘘泣きのようだ・・・。
と、本作の題名「クロコダイル・ティアーズ」が「嘘泣き」の意味であることが提示されます。
嫁と姑の関係であることから、元々あまりしっくりいった感じがしていなかった暁美。
そして息子がときおり想代子に暴力を振るっていたことを薄々感じてもいたのです。
そしてまた孫は引っ込み思案で大人しく、活発だった息子に似ていない・・・。

極めつきは、裁判の時に、被告となった男が
「想代子から『夫殺し』を依頼された」と主張。
なんの証拠があるわけでもないのに、それを聞いて暁美の疑惑はどんどん深まっていきます。
あげくには、孫は康平の子供ではないのではないか?とまで思う。

果たして想代子は、とんでもない悪女なのか。
それとも・・・。

 

ついつい引き込まれてしまいますね。
一方的な思い込みは慎まなければ・・・。
個人的には、DV夫がさっさと死んでくれて良かった・・・などと思ったりします。

 

<図書館蔵書にて>

「クロコダイル・ティアーズ」雫井脩介 文藝春秋

満足度★★★★☆


スラムドッグス

2024年09月07日 | 映画(さ行)

犬を捨てたヤツに復讐せよ

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犬のレジーは、飼い主のダグに家から遠い場所に捨てられてしまいます。

実は、レジーはダグから数々の虐待に近い扱いを受けていたのですが、
それを遊びかゲームと思い込んでいました。
それでこのたびのことも、ゲームの一つと思い、
とまどいつつも、家を目指してさまよい始めます。

そんな時に、ノラ犬のバグと出会い、
ダグの扱いは虐待で、これはゲームではなく捨てられたのだと指摘します。
飼い主ダグが最低なヤツだとようやく認識したレジーは、復讐を決意。
賛同するバグと、新たに知り合ったマギー、ハンターとともに、レジーの家を目指すことに。

さてさて、ごく気楽に見られるものが見たいと思い見始めましたが、
あまりにも下ネタ満載、下品な言葉のオンパレードに
ちょっとげんなりさせられました・・・。
イヌのことだからいい?? 
イヤイヤイヤ、本作、子供には見せられませんよ。
(実際、PG12だった!!)

それでも、犬たちは十分可愛くユーモラス。
これはすべて実写ではなくて、CGも入ってる感じですね。
犬が話している口元とかを見ると・・・。

ちなみに、彼らはみな違う犬種で、

レジー:ボーダーテリア

バグ:ボストンテリア(野良犬生活を謳歌中)

マギー:オーストラリアンシェパード(飼い主は子犬に夢中で、マギーに興味を失っている)

ハンター:グレートデン(体格はいいが、警察犬になり損ねた臆病犬)

まあ、犬同志の友情は美しかった・・・。

<Amazon prime videoにて>

「スラムドッグス」

2023年/アメリカ/94分

監督:ジョシュ・グリーンバウム

脚本:ダン・ペロー

出演(声):ウィル・フェレル、ジェイミー・フォックス、アイラ・フィッシャー、ランドール・パーク

下品度★★★★★

満足度★★☆☆☆


奈落のマイホーム

2024年09月06日 | 映画(な行)

マンションごと、深い穴の中に・・・

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たまには韓国作品も見ましょうか、ということで。

 

平凡な会社員ドンウォン。
長い節約生活の末、ソウルの一等地にマンションを購入します。
念願のマイホームに、妻と息子とともに引っ越し、
同僚を招いて新築祝いのパーティーを行います。

ところがそんな時に、大雨でシンクホールが発生し、
あっという間にマンション全体が飲み込まれてしまいます。

ソリの合わない隣人マンスや会社の部下たちとともに地下500メートルまで落下した彼ら。
脱出するべく手を尽くしますが、さらなる雨で穴は水で満たされていきます・・・。

コメディタッチで、そんなバカなという事故。
でも結構迫力があって、意外と引き込まれてしまいました。

始め、全くソリが合わなかったドンウォンと隣人マンス。
けれど、こんな困難の渦中にあって次第に息が合って来ます。
普通に互いの生活、命を大事に思う気持ちをちゃんと持っている。
2人ともブルース・ウィリス並みの活躍をしますよ!

こう言う隣人愛、家族愛がしっかりしているところが、
なんだか見ていて心地よかったです。

ドンウォンの奥さんはちょうどその時買い物に出ていて無事。
しかし実は妻と一緒にいたはずの息子がマンションに戻ってきていて・・・。
息子は妻と一緒にいるはずと思い込んでいたドンウォンが、
そうではなかったことを知って愕然とし、
必死で探し出そうとするという展開が見事でした。

展開は若干無理矢理の所もありながら、ま、いいかと思える作品。

<Amazon prime videoにて>

「奈落のマイホーム」

2021年/韓国/114分

監督:キム・ジフン

出演:チャ・スンウォン、キム・ソンギュン、イ・グァンス、キム・ヘジュン

 

家族愛・隣人愛度★★★★★

危機一髪度★★★★☆

満足度★★★★☆


キセキの葉書

2024年09月04日 | 映画(か行)

毎日綴り続けた家族の葉書

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兵庫県西宮のマンモス団地。
夫と小学生の息子・勇希、5歳の娘・望美と暮らす38歳原田美幸(鈴木紗理奈。)
その望美は脳性マヒで寝たきり、話すこともできません。
美幸は夜もろくに寝ることができない娘の介護で、心のバランスが崩れかけています。

でもある時、自分が娘の病気のせいで不幸になったと思い込んでいたことに気づきます。
そんなことに囚われてはいけない・・・と思う美幸。
そこで、昔からの夢だった児童文学作家への道に進もうと決意。
美幸は少しずつ物語を書き始めます。

しかしまたそんな時に、故郷大分で暮らす65歳の母・喜子が、
認知症とうつ病を同時に発症したことが判明。
困り果てた父が美幸に助けを求めますが、
美幸は美幸で逆に助けがほしいという状況。

やむなく、ほんの少しでも母の気持ちが和むようにと、
母に向けて毎日1枚、自分の日常の面白い出来事に少しの絵を加えて
葉書を出し続けることにしたのです。

・・・と、これが実話をもとにしているというのにビックリ。
絵葉書は通算5000通にも及んだそうです・・・。

 

娘の脳性マヒのこと、母親の認知症とうつ病のこと。
それは変わらないのですが、美幸さんの心の持ち方だけで、
不幸のどん底という状況が変わってくるのですね。
しかも、まさか!母親の症状が・・・。
やはり笑いは心身の健康に効果がありそうです。

娘は生きているだけでキセキ。

望美がいなければ私たちは知らないことばかり。

望美は私たちの先生。

 

こうした気づきが、日々の生活に勇気を与えます。
そして、娘のことばかりに囚われずに、自分のやりたいことにもチャレンジ。
気持ちが負のドツボにはまらないことも大切。

ところで、ここの夫さんも育児には協力的なのですが、
なんと海外赴任が決まってしまい、家の状況からあきらめようとしたのですが、
美幸さんが夫の仕事のやりがいの為にあえて、行くようにと促したのです。

そしてまた、息子、勇希くんも、母が妹にばかり注目していることにいじけたりもせず、
実にしっかりと母を支えている。
これは間違いなく親の育て方が良かったんですよね・・・。
スバラシイ。

そして、勇希くんや美幸さんの思考がポジティブなのは、
関西人の力かも知れない、なんて思ったりして。

ユーモアにあふれた絵はがきは、
やはり関西の方ならではという気がします。

ステキです。

<Amazon prime videoにて>

「キセキの葉書」

2017年/日本/90分

監督:ジャッキー・ウー

原作:脇谷みどり

脚本:仁瀬由深

出演:鈴木紗理奈、八日市屋天満、福富慶士郎、申芳夫、赤座美代子

家族愛度★★★★☆

ポジティブ度★★★★★

満足度★★★★☆


「歌わないキビタキ 山庭の自然史」梨木香歩

2024年09月03日 | 本(エッセイ)

自然の営みと人のこと

 

 

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『西の魔女が死んだ』の著者による大好評の
サンデー毎日連載を中心に収録した書籍化第二弾。
山小屋暮らしや動植物との出会い、壮大な生命の連なりと営みに、
心ふるえるエッセイ集。

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梨木香歩さんのエッセイ集。


自然の営みに非常に関心の深い方なので、
本巻は著者の山小屋での生活などを絡めながら、自然の動植物のことにも触れています。

私も近所の山の公園を散歩して、ほとんど他の人は関心を示さないような
野草やキノコなどを観察するのが大好きなので、
梨木香歩さんの興味関心とは重なるところが多くて、
親しみの持てる内容となっています。

ご自身の病や、お母様の介護の話もあり、しかも調度コロナ禍の真っ最中の出来事。
ご本人にとってはなかなか大変な時期だったと思われますが、
そんな中で淡々と繰り返し流れ行く自然の営みが、
癒やしになっていたのではとご推察します。

 

中で、こんな話がありました。
著者はリスというのはすべてクルミをうまく真っ二つに割って食べると思っていたようなのですが、
そうではなくて、オニグルミのある地域のリスはそれができるけれども、
オニグルミがないところのリスはからを割ることができなくて、食べないというのです。

確かに、クルミがなければ割り方を学習することもなく、
結果、できないということになりますね。
でも、すべてのリスは本能的にそういうことができるはず、
と私も思い込んでいました。

ちなみにうちのご近所のエゾリスは立派にクルミを割って食べます。
かじっているのを見たことがありますし、
キレイに間二つに割れた殻が落ちているのを散見しますので・・・。
こうしたことも、リスにとっては「文化」なのかも知れません。

 

もう一つ。
著者が大阪行きの飛行機から見た地上にはっきりと「前方後円墳」が見えるのに、
感嘆してしまう、ということ。
でも、他の乗客は特別驚いているようではない。
確かに当たり前のことではあるけれど、
本当に地図と同じ形のものであることに感動し、嬉しくなってしまう・・・
という気持ち、私にも分ります。
実は私も、空の上からその前方後円墳を見たことがあって、
本当に地図と同じ形であることに驚き、
そしてこれを見たことがちょっと得をしたような気分になったことがあります・・・。
他の乗客の方々は、もう何度も見たことがあったのか
それとも、そもそも窓の外など見ていないのか、静かなものでしたが・・・。

 

同じく、著者が初めて北海道に来たときに、
函館上空から五稜郭がくっきりと地図と同じ形に見えて、感動したのだとか。
それが、河合隼雄さんと同行していた時、というのでピンと来たのですが、
それは多分、著者が「児童文学ファンタジー大賞」の授賞式出席のために
小樽に赴いたときのことではないでしょうか。
梨木香歩さんの「裏庭」が1995年第1回ファンタジー大賞を受賞しています。

なにかと、共通点の見えることが多くて、
勝手ながらご縁を感じてしまった次第。

<図書館蔵書にて>

「歌わないキビタキ 山庭の自然史」梨木香歩 毎日新聞出版

満足度★★★★☆


「ウェルカム・ホーム!」丸山正樹

2024年09月02日 | 本(その他)

特養老人ホームのあれこれ

 

 

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派遣切りに遭い、やむなく特養老人ホーム「まほろば園」で働く康介。
体に染みつく便臭にはまだ慣れない。
それに認知症の人や言葉が不明瞭な人相手の仕事は
毎日なぞなぞを出されているかのようだ。
けれど僅かなヒントからその謎が解けた時、康介は仕事が少し好きになり……。
介護する人される人、それぞれの声なき声を掬すくうあたたかな連作短編集。

 

 

丸山正樹さんの連作短編集。

特養老人ホーム「まほろば園」で働く介護士、康介のストーリーです。
2012年から2018年にかけて書かれたもの、ということで、
今私が知る著者の作品とは少しテイストが異なります。
ちょっぴりコメディタッチ。
でも、大切なことはしっかり描かれています。

 

きついばかりで給料はさして高くもなし。
せっかく得た仕事ではあるものの、
康介はきっとすぐにやめることになりそうだと自分でも感じていました。

ホームにいるのは、多くが認知症の老人で、
意思疎通もままならなくて、やりがいを感じられない・・・、
そう思っていたのです。

でも、仕事熱心な先輩に教えられることも多く、
そして次第にここの老人たちも、ただ何も分らないのではなくて、
感情があって、それぞれの事情を抱えながら、
ここのままならない状況に耐えているのだということが分ってきます。

 

このような施設の抱える問題点を挙げながら、
現場で働く人々の気持ち、またそこで暮らす老人たちの気持ち、
何もかもが切実に響いてきます。
私は元々お仕事小説が好きなのですが、本作はその中でもピカイチの一つだと思います。

「ウェルカム・ホーム!」丸山正樹 幻冬舎文庫

満足度★★★★☆