映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

シャイロックの子供たち

2024年01月31日 | 映画(さ行)

ヒリヒリするお金の話

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テレビドラマにもなった、池井戸潤さん原作の、東京第一銀行長原支店を巡るストーリー。

ある時この支店できっかり100万円の現金紛失事件が発生します。
ベテランお客様係・西木(阿部サダヲ)は、
同じ支店勤務、北川(上戸彩)、田端(玉森裕太)と共に事件の裏側を探っていきます。

その鍵となるのは、100万円を束ねていた一つの帯。
この帯が見つかる経緯が結構ひねりがあって面白い。
そのことで北川が犯人扱いされてしまったりします。
銀行内の行員同士の不和って、やっぱりあるのでしょうね・・・。

そしてまた、この帯封は、また別の事件にも通じるところがあって、
うまいアイテムの使い方になっています。
解いてしまえばゴミ。
でも、現金の出所や日時、触った人の指紋など、証拠の情報たっぷりなんですね。

本作の冒頭、「ベニスの商人」の舞台劇が行われていて、
本作の題名「シャイロックの子供たち」の原点が語られているところがいいですね。

まさに、お金、犯罪、正義、良心・・・
複雑に絡んだ人の心が語られていて、見応えがあります。

「やられたら倍返し」などと言うセリフもあって、ニヤリとさせられました。

<Amazon prime videoにて>

「シャイロックの子供たち」

2023年/日本/122分

監督:本木克英

原作:池井戸潤

脚本:ツバキミチオ

出演:阿部サダヲ、上戸彩、玉森裕太、柳葉敏郎、佐藤隆太、柄本明、橋爪功、佐々木蔵之介

 

お金のヒリヒリ度★★★★★

倍返し度★★★★☆

満足度★★★★☆


サイレントラブ

2024年01月30日 | 映画(さ行)

純愛だなあ・・・

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以前のある出来事をきっかけに声を発することをやめ、
淡々と生きているだけの青年・蒼(あおい)(山田涼介)。
とある音大の清掃員のバイトをしています。

ある時、不慮の事故で視力を失ったピアニスト志望の音大生・美夏(浜辺美波)と出会います。
絶望の淵に追い込まれながら夢をあきらめない美夏に、蒼は惹かれていき、
彼女に知られぬようにそっと見守るようになります。
蒼の不器用なやさしさは、美夏の心に届き始めますが・・・。

声を発しない青年と、目の見えない少女。
二人の意思疎通は極めて困難ではあります。

美夏から譲られたガムランボールの鈴音と、
そっと手のひらに触れる指の合図<一つならyes、二つならno>というのが主な交流手段。

蒼は、自分が清掃員だとは美夏に言うことができず、
ピアノ講師・北村(野村周平)に、自分のフリをしてピアノを弾いてほしいと依頼します。
この北村というのが、賭博で莫大な借金を背負ったやさぐれた男。
そのため、蒼の依頼にはこたえますが、その都度大金を礼金として要求します。
その支払いのために、夜間別のバイトまでする蒼。

特に見返りも期待していない。
なんともピュアなラブストーリーなのでした・・・。

やさぐれ男・北村も、美夏に惹かれながら、
あまりにもピュアな蒼に対して後ろめたさをも感じていくという役どころであります。

山田涼介さんはあえて自前の美しいお顔を目立たないようにして役に臨んでいるようです。
まあ確かに、作業服であってもいつもの彼なら悪目立ちして
学校の中で評判になってしまいそう・・・。

 

さてさて、3人は大きな事件に巻き込まれることになるのですが、
ナイトたちはお姫様を守り抜きます。
そしてお姫様は、次第に視力も回復して・・・。

さあ、どうなる!?

お楽しみに。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「サイレントラブ」

2024年/日本/116分

監督・脚本:内田英治

出演:山田涼介、浜辺美波、野村周平、吉村界人、古田新太

 

純愛度★★★★★

満足度★★★★☆


チャップリンからの贈りもの

2024年01月29日 | 映画(た行)

非道な犯罪ではなくて、贈りもの

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喜劇王チャップリンの遺体が盗まれたという実際の事件を題材としています。

 

1978年。

冒頭は、刑務所の出入り口から出てくるひとりの男、エディ。
その彼を親友のオスマンが迎えに来ている。
よくあるシーンです。

オスマンは、エディを自宅の横にあるトレーラーハウスに案内します。

オスマンの妻は病で入院中で、小学生の娘と現在ふたりで暮らしていますが、
生活は決して楽ではない。
またトレーラーハウスといってもかなりのオンボロなのですが、
その中に以前のエディの生活用品や本などが運び込まれています。
生活が苦しい中、ここまでしてくれるオスマンに感謝感激のエディ。

さて、そんな頃にチャップリンの遺体がスイス、レマン湖の墓地に埋葬されます。
それを知ったエディはとある計画を思いつき、オスマンを誘います。
チャップリンの遺体を盗み出して、身代金をいただこうというのです。
オスマンは妻の治療費用を払う当てもなく、困り果てていたのです。
ちょうど彼らの暮らしているところがこの墓地にほど近い場所でもあり・・・。

彼らは、墓地で棺を掘り出して、別の場所に密かに埋めます。
まあ、そこまではなんとかうまくいったのですが、何しろ計画はずさんで穴だらけ。

始め、遺体を盗んだと電話でチャップリンの家族や警察に電話をしても、信じてもらえない。
しかし、確かに棺が盗まれていることが確認されます。
するといよいよ、身代金請求の電話をかけるのですが、
同じような電話が他に何件もかかってきているという。
自分たちが遺体を盗んだという証拠は?と問われてしまう・・・。

 

オスマンはもうすっかり弱腰で後悔ばかり。
エディはそれでも強気で、なんとかなると思っているのですが、
そんなことで二人はついに決裂・・・。

 

巨匠ミシェル・グランの音楽が切なくも美しくて、
ちょっとコミカルな作品でありながら、意外にも叙情性を醸し出しています。

それというのも、チャップリンの娘役に当たる人のことばで、
「酷いとか迷惑と言うよりも、父はこの事件をあの世で面白がっているかも知れない」
とありまして、なるほど、
そう考えるのが本作の感想として、しっくりくるなあ・・・と納得。

チャップリンは直接登場しないながらも、彼のことを忍ぶ作品でもあったワケですね。

 

チャップリンが晩年を過ごした邸宅や実際の墓地で撮影。
氏の息子や孫娘も特別出演しています。

良きかな。

 

<WOWOW視聴にて>

「チャップリンからの贈りもの」

2014年/フランス/115分

監督:グザビエ・ボーボワ

出演:ブノワ・パールブールド、ロシュディ・ゼム、キアラ・マストロヤンニ、
   ピーター・コヨーテ、セリ・グマッシュ、ナディーン・ラバキー

友情度★★★★☆

貧困度★★★★☆

穴だらけの犯罪度★★★★☆

満足度★★★★☆


君は放課後インソムニア

2024年01月27日 | 映画(か行)

不眠症の二人

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オジロマコトさんの同名コミックの実写映画化。
人気上昇中の若手、森七菜さんと奥平大兼さん共演というところがミソの青春ドラマです。

石川県七尾市。
不眠症に悩む高校1年・中見丸太(がんた)(奥平大兼)。
校舎の使用されていない天文台で、クラスメイトの曲伊咲(森七菜)と遭遇。
彼女も自分と同じ不眠症に悩んでいることを知ります。
誰も来ないこの場所は、つかの間睡眠を取るのに調度よかったのです。
これまで話したこともない二人ですが、
この場所の秘密を共有することで絆が生まれていきます。

そして、この天文台へ堂々と出入りできるようにするため、
休部となっていた天文部を復活させることを決意します。

双方共に、不眠症というのにはどうもその原因があるようです。
特に伊咲は体に問題を抱えています。
眠れない理由というのがちょっと切ない。
でも、明るく元気に振る舞う伊咲は、魅力的ですね。
これまで、特に何かに熱中したこともやり遂げようと努力したこともなかった丸太が、
天文部復活のために他の人々に話をしたり訴えかけたり。
少年の成長の様もまたここちいい。

本作をよくある青春モノからほんの少し水をあけているのは、
舞台を石川県としたところでしょうか。

七尾市の橋のエピソードがステキだし、
二人が訪れた能登町真脇遺跡の光景もとても印象的でした。
いずれにしても、この度の地震の被災地。
中で、「このあたりのすぐ横が6000年前は海だった」
と言うようなセリフもありまして、
古から、大きな地殻変動を繰り返していることが想像されました。
揺るぎないはずの大地の、実は水に浮かぶ木の葉のようなはかなさを思います。

環状木柱と星空、宇宙。
人の歴史は宇宙から見れば本の一瞬のこと。

二人が、そしてわたし達が、今を生きていて、人と人との出会いがある
ということの貴重さがわかります。

 

<Amazon prime videoにて>

「君は放課後インソムニア」

2023年/日本/113分

監督:池田千尋

原作:オジロマコト

脚本:高橋泉、池田千尋

出演:森七菜、奥平大兼、桜井ユキ、萩原みのり、MEGUMI、萩原聖人

 

ご当地度★★★★☆

青春度★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


「コロナと潜水服」奥田英朗 

2024年01月26日 | 本(その他)

ささやかであたたかな奇跡

 

 

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ちょっぴり切なく、ほんのり笑えて、最後はやさしい
人生が愛おしくなる“ささやかな奇跡”の物語5編
奥田英朗のマジックアワー

早期退職を拒み、工場の警備員へと異動させられた家電メーカーの中高年社員たち。
そこにはなぜかボクシング用品が揃っていた――。(「ファイトクラブ」)

五歳の息子には、コロナウイルスを感知する能力があるらしい。
我が子を信じ、奇妙な自主隔離生活を始めるパパの身に起こる顛末とは?(表題作)

ほか “ささやかな奇跡”に、人生が愛おしくなる全5編を収録。

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奥田英朗さんの短編集。

本巻に収められているストーリーにはどれにも、ちょっと不思議な存在や、力が出てきます。
でも、おどろおどろしくはなく、密やかでやさしい。

 

表題作「コロナと潜水服」は、言うまでもなくコロナ禍中の出来事ですが、
主人公の息子がなぜかコロナウイルスを感知することができるらしい。

そんな彼がある日、パパに、外に出るなというのです。
どうやら、自分が感染しているらしいと彼は思う。
けれど、仕事は自宅でできるにしても、息子を外で遊ばせたり、買い物など、
全く外に出ないでもいられない。
妻も仕事があっていつも家にいることはできません。
そこで「防護服」を買いたいけれど、そんなものはどこで売っているのか? 
いや、売っていたとしても、すぐに売り切れて、どこにも見当たらない。
やむなく古道具屋で妻が探し出して古めかしい潜水服を購入。

潜水服というとコロナウイルスを自分が避けるために着用する、と想像していましたが、
この場合は感染した自分のウイルスをまき散らさないように着用するわけなのです。
こう言うやさしさ、涙ぐましさが本作の基調となっていて、
なんだか心がほんわかしてきます。

 

ラストの「パンダに乗って」。
ここで言うパンダはあの動物のパンダではなくて
イタリア製のコンパクトカー、フィアット・パンダ。
主人公・直樹は、この1980年初期モデルが
新潟の中古車店のホームページで売り出されていることを知り、購入。
引き取りに新潟まで出向きます。
そのパンダはしっかり動くように調整もなされていて、
後に取り付けられたらしいカーナビまで搭載している。
さっそくそれに乗って東京まで戻ろうとして、カーナビをセットしたところ、
それに従うと全く別の所についてしまうのです。

直樹はそんな風にして、数カ所を巡ることになりますが、
そうすると次第にあることがわかってきます。
それはどうやらこのパンダの以前の持ち主に関係するようで・・・。

コレもまたなかなかやさしさに包まれた感動を呼び起こします。

 

ステキな一冊。
オススメです。

 

「コロナと潜水服」奥田英朗 光文社

満足度★★★★★

 


Pearl パール

2024年01月24日 | 映画(は行)

殺人鬼の誕生

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1918年。

厳格な母と病で全身不随の父と共に、人里離れた農場で暮らすパール(ミア・ゴス)。
スクリーンの中で歌い踊る華やかなスターに憧れていて、
いつも農場の動物たち相手に歌や踊りを披露しています。

若くして結婚した夫は出征中。
父の世話と口うるさい母、そして毎日毎日の農場の仕事にウンザリしているパール。

そんなある日、パールは用事で街へ出かけたついでに、
母に内緒で映画館に寄り道します。
そして、外の世界への憧れをますます強めるのですが、
母には「おまえは一生農場から出られない」と言われます・・・。

本作、ホラー「X エックス」シリーズの第2作にあたり、
1970年が舞台であるその「X」の60年前を描く前日譚なのですね。
私はそんなことも知らずに、普通に田舎の少女が夢を持ち続けてビッグになっていく
サクセスストーリーなのかと思いながら見始めたので、
早々からの不穏な展開にビックリさせられました・・・。

すなわち、「X」においての極悪老婆パールの若き日を描き、
夢見る少女パールがいかにシリアルキラーへと変貌したかという物語だったわけです。

パールは自分がどこか人とは違うこと、
自分の感情に何かが欠けていることに気がついていて、
そのことに苦しんでもいるのですが、
でもひとたび気持ちが高ぶるともう止められず、残虐な行為に及んでしまう。
そしてそのことに喜びを見出している自分にも気がついているのでしょう・・・。
そうした変貌が実にリアルに描かれていて、まさしく、恐怖です。

最後に、やっと帰還したパールの夫が見たものとは・・・?
そして、もうわたし達には想像がついてしまいますよね。
この、夫の気の毒な運命が・・・。
パールの笑顔が最大級に恐い。

そうそう、調度時代背景がスペイン風邪の流行期で、
人々が人混みを避けたりマスクをつけたりするシーンもあって、
これも今だからこそ描けるものですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「Pearl パール」

2022年/アメリカ/102分

監督:タイ・ウエスト

出演:ミア・ゴス、デビッド・コレンスウェット、ダンディ・ライト、
   マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ

 

残虐度★★★★☆

恐怖度★★★★☆

満足度★★★★☆(予期せず感情が揺さぶられてしまった・・・)


カラオケ行こ!

2024年01月23日 | 映画(か行)

ヤクザと少年

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中学校合唱部の部長を務める岡聡実(齋藤潤)。
変声期で、ソプラノを歌いにくくなっていて、
少し歌から離れたい心境になっています。

そんなある日突然、地元の見知らぬヤクザ・成田狂児(綾野剛)から
カラオケに誘われ、歌のレッスンをしてほしいといわれます。
組長が主催するカラオケ大会で、
最下位になると恐怖の罰ゲームがあるから、と言うのです。
聡実はいやいやながら引き受けましたが、
カラオケを通じて少しずつ二人の距離が縮まっていきます。

綾野剛さんのカラオケシーンが傑作なのです。
狂児の勝負曲は、X JAPANの「紅」。
まあたいていの人がそうだろうと思うのですが、
狂児にはキーが高すぎてすべて裏声。
聡実は容赦なく「終始裏声が気持ち悪い」と評します。

そして狂児に歌いやすそうな曲をいくつかセレクトしてくれるのですが、
狂児はその合間にも「紅」を歌わないと気が済まない。
よほど好きみたいです。

とにかく、始めは狂児を怖がっていた聡実ですが、
次第にそのあけすけで、でも相手を師として敬い、
けれど中学生としての配慮も忘れないという人柄にひかれて行きます。
マジで、恐いけどイイ奴。

多感な思春期の少年も、言葉少なだけれど色々と得るものも多かったようで、
よかった、よかった・・・。
合唱部中心の根性モノではないところも気に入っています。
でもその合唱部の友人たちも、なかなか大人な対応。
よいわ~。

ラストに聡実が「紅」を歌うシーンがありまして、思わず泣ける!!
けど、その結末もまた傑作なので、ぜひお楽しみに。

 

そして、エンドロールと共に流れてくるのがまた「紅」。
しかしこれは、Little Glee Monsterと府中市立府中第4中学校合唱部とのコラボで、
これがまたステキなのです。

みなさま、これはオススメ作なので、ぜひどうぞ。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

2024年/日本/107分

監督:山下敦弘

原作:和山やま

脚本:野木亜紀子

出演:綾野剛、齋藤潤、芳根京子、橋本じゅん、坂井真紀、北村一輝、加藤雅也

 

「紅」の魅力度★★★★★

満足度★★★★★


百瀬、こっちを向いて。

2024年01月22日 | 映画(ま行)

恋愛か、打算か

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新人文学賞を受賞し、母校から講演を依頼された30歳の小説家、相原ノボル(向井理)。
15年ぶりに帰郷し、高校生当時のことを回想します。

さえない高校生だったノボル(竹内太郞)。
尊敬する先輩、宮崎(工藤阿須加)から、
ショートヘアの美少女・百瀬(早見あかり)を紹介されます。

宮崎には学校のマドンナ的存在の神林(石橋杏奈)という交際相手がいるのですが、
百瀬と付き合っているといううわさが流れて困っていました。
そこでそのうわさを打ち消すために、
ノボルと百瀬に期間限定で付き合っているフリをしてほしいというのです。
ノボルは気が進まないながらも、嘘の恋愛関係を始めますが・・・。

実は百瀬は本当に宮崎のことが好きで、
でも宮崎の幸福を願う彼女は宮崎と神林のことも応援してしまうという、
なかなか複雑で切ない事情を抱えているのでした・・・。

 

さて、本作の原作者・中田永一さんというのは、乙一さんの別名なんですね!!
私はミステリ好きなので乙一さんならばわかるのですが、
別名で恋愛小説を書いていたなんて、この度まで知りませんでした。
お恥ずかしい。

でもなるほど、始め単にアイドル作品と思ってみていたのですが、
微妙に複雑でこじれた百瀬の感情が、単なるアイドル作品を越えていると思いました。
そこで原作が乙一さんと来ればなるほど~と、納得です。

宮崎は結局のところ本当は百瀬の方を好きのように思えます。
けれど、まだ高校生でありながら、彼は打算の方を優先するのです。

でも、対する神林も、学校のマドンナ的存在というだけあって美人で頭もよく、
思いやりがあって家も資産家。
否定すべき理由など一つもない。
打算なのか、選べないのか、これもまた微妙なところです。

しかし、本作の15年ぶりに帰郷しノボルが神林と再会するというところの意味が、
最後にわかるというのが心憎い。

ひたすら心優しく無垢であったような神林が実は・・・というところもまた
本作のキモでありましょう。
げに、人の心というのは計り知れず、少し恐い。

ノボルの高校の友人くんはイイ奴だったなあ・・・。

 

 

「百瀬、こっちを向いて。」

2014年/日本/109分

監督:耶雲哉治

原作:中田永一

出演:早見あかり、竹内太郞、石橋杏奈、工藤阿須加、ひろみ、向井理

恋愛と本心の微妙度★★★★★

満足度★★★★☆


見えざる手のある風景

2024年01月20日 | 映画(ま行)

エイリアンをある「人種」に置き換えれば、ありそうな未来

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一風変わった近未来SF。

 

近未来の地球。
あるエイリアンの種族に占領されています。
武力ではなく、官僚主義的支配と高度なテクノロジーによって、
彼らは圧倒的な経済力を持ってこの世を支配。
地球の人々の大半が貧困と失業にあえいでいます。

そんな中、二人のティーンエイジャーがあることを思いつきます。
単性生殖のエイリアンに、人間のロマンチックな愛の姿を提供しようというのです。
二人が恋に落ちてゆく様子をリアルタイムで中継を始めます。
そうすると見た人の人数によりお金が入る仕組みなのです。
二人の狙いどおり、エイリアンの間でバズって
二人は多少のお金を得ることができます。

ところが、そもそもリアルタイムの中継というのには抵抗があります。
元々二人には良い雰囲気が流れていたのですが、次第に初々しい気持ちも冷めていって、
その様子を見たあるエイリアンが、
これは契約違反だと言って多大な賠償金を請求しようとするのです・・・。

 

 

このエイリアンというのがいかにもユニークな姿をしていまして・・・。
彼らはヘラのような手をこすり合わせることによって音を出し、
それが言語なのです。

知性も感情も地球人とよく似ているけれど、何しろビジネスライクで、
瞬く間に地球上の富を支配するようになって、
彼らにうまく取り入って彼らの元で働くようになった人々が成功者。
空中に浮くリッチな街に住むステータスを得ます。

大半の落ちこぼれた人々は、
地上にへばりついて惨めな生活を続けるしかない・・・。

と、つまりこれはSFチックに描かれているけれど、
すでにこの地球上にある「経済格差」のことを例えて描いているに過ぎない
ということに、どなたも気づくことでしょう。

 

結局主人公らは、このエイリアンを追い払うことも世界をひっくり返すこともできないけれど、
でも心の自由は誰にも奪うことはできない、と。

まあ、せめてそう思うほかないですかね・・・。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「見えざる手のある風景」

2023年/アメリカ/105分

監督・脚本、コリー・フィンリー

原作:M・T・アンダーソン

出演:アサンテ・ブラック、ティファニー・ハディッシュ、カイリー・ロジャーズ、ブルックリン・マッケンジー

 

格差度★★★★★

ユニークなエイリアン像度★★★★★

満足度★★★☆☆


「ピータ-・パンとウェンディ」J・M・バリー

2024年01月19日 | 福音館古典童話シリーズ

女子の位置づけを考えると、ちょっと複雑

 

 

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福音館古典童話シリーズ 第5巻。

ある夜、ウェンディたちは「ネヴァーランド」へ飛び立ちます。
妖精、海賊、人魚、それに人食いワニ
――大人にならない少年ピーターと一緒に、わくわくする冒険が始まります。

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ピーター・パンは知らない人がいないくらいの、世界中で親しまれている物語。
元々は舞台劇で「ピーター・パン 大人にならない少年」がロンドンで初演されたのが1904年。
それが色々と形を変えながら、上演されたり、出版されたりして、
本作「ピーターとウェンディ」が出版されたのが1911年ということです。

 

著者、ジェームズ・マシュー・バリーのこの物語にヒントとなったのは、
ケンジントン公園散歩でよく出会うデイヴィズ一家の子どもたち。
バリーは子どもたちと妖精の国を冒険するという遊びをしていたのだとか。
その体験がこの物語の原点なのでしょう。

いつまでも大人にならずに、少年の心のままでいたい・・・、
最も強くそう思っていたのはバリー自身に違いありません。

でも子どもの世界は、自由であるばかりではありません。
そこにはいじわるな妖精がいたり、人食いワニがいたり、
命を付け狙う海賊たちがいたりします。

ピーターは、「こども」そのもので、気ままでわがままで、そして自由。
ちょっぴり残酷でもあり、そして孤独でもある。
さらにはマザコンである・・・。
そんな彼ではありますが、結局彼は彼の国を捨てて「親」の庇護を受けることを選ばず、
100年以上を経た今でも、どこかで自由気ままに、
時には危険な冒険をも楽しんでいることでしょう・・・。
というところには、やはりロマンがありますね。

また、作中の海賊フックは、ただ尊大で残酷なだけではなく、
思った以上に複雑な思考の持ち主でありました・・・。

 

そして、この時代のことなので仕方なくはあるのですが、
つまり本作の「こども」はすべて男の子であって、女子ではないのです。
ウェンディはピーターの国へ行ってさえも「母親」の役をしなければなりません。
子どもたちを寝かしつけたり、靴下の穴を繕ったり・・・。
女であれば誰でも始めから、家事も育児も大好き。
そういうものだとなんの疑問もなく決めつけられているのが、
私にはつらく感じられました。

我が児童文学のセンセイはおっしゃいます。
「女性には人権はなかった。
 ようやく女性に人権が認められるようになったのはつい最近のこと。」
確かに、欧米でも女性に選挙権ができたのはせいぜいが100年前くらいのこと。

本作を読むと、そういうことがにわかに身近に感じられます・・・。

 

ということで振り返ってみると、「ふしぎの国のアリス」のアリスは女の子でありながら、
なんと自由であったでしょう!! 
本作よりも以前に描かれたものであるのに! 
これには喝采を送りたい。

 

図書館蔵書にて

「ピータ-・パンとウェンディ」J・M・バリー 石井桃子訳 福音館書店

満足度★★★☆☆

 


アルマゲドン・タイム ある日々の肖像

2024年01月17日 | 映画(あ行)

少年の心に落ちる影。格差、差別。

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ジェームズ・グレイ監督が自身の少年期の体験を元に脚本を書いたもの。

1980年、ニューヨーク。
白人の中流家庭に生まれた、公立学校に通う12歳の少年、ポール(バンクス・レペタ)。

PTA会長を務める教育熱心な母(アン・ハサウェイ)。
働き者で、厳しくもある父(ジェレミー・ストロング)。
私立学校に通う優秀な兄。
一応穏やかな家族ではありますが、
ポールはこのごろ、家族に対して苛立ち、居心地の悪さを感じています。
そんな中でも、祖父アーロン(アンソニー・ホプキンス)だけは心を許せる相手。
アーロンは、ウクライナ系のユダヤ人で、
移民としてアメリカに渡ってきて成功を収めていますが
その間の苦労は並大抵ではない。
そうした経験の果ての度量の広さがあるわけです。


ポールは絵を描くことが好きで、若干夢見がち。
そんなところから普通の子どもたちや家族との関係性から浮き上がりがちなのでしょう。
クラスの問題児、黒人のジョニーだけが唯一打ち解けられる友人なのです。

ところが祖父が亡くなり、ポールは心の支えを失ってしまいます。
また、両親がポールについての困りごとを話しているのを聞いてしまい、
いよいよ捨て鉢になってある悪事を思いつき、ジョニーを誘います。

 

 

ポールの家族は教育熱心であり、親も何かしらの世間的ステータスを得ようと一生懸命。
というのも、下手をすると格差社会に飲み込まれ下層に滑り落ちてしまいそうだから・・・。
父は、自らの配管工という仕事に誇りを持ってはいるけれど、
社会の中では見下されていることにコンプレックスを抱いています。
母はPTA会長を務め、次は教育委員に立候補しようと思っている・・・。
そんなだから、息子が黒人の少年と付き合うこと自体がもう、タブーと思うわけです。

実際、ジョニーに関係して問題が起きて、
ポールは公立学校をやめて私立学校に転校することになってしまう。
けれどそこはまさに「格差社会」の縮図。
社会の頂点を目指す人材育成を目指す学校なのです。

この学校の有力支援者として、フレッド・トランプという人物が登場しますが、
実はこれがドナルド・トランプの父ということで・・・。

つまりはこの時代からある格差社会や、人種差別は、
同じかまたは形を変えつつもなくならず現在に繋がっているわけで。

ポールは頑として目の前にある格差や差別を否応なく認識させられてしまいます。
そしてそれを見据えたまま、前に進むほかないのだという覚悟を決める。

少年にはつらい出来事なのだけれど、多かれ少なかれそういう風に人は皆生きている。
ならば、そこから繋がる現在は本当はもう少しマシになっていてもよいはずなのですが・・・。
そうはうまくいかないのが世の中ということか・・・。

 

アン・ハサウェイが疲れたお母さん役というのに、年月の流れを感じてしまいました・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」

2022年/アメリカ/115分

監督・脚本:ジェームズ・グレイ

出演:アン・ハサウェイ、アンソニー・ホプキンス、ジェレミー・ストロング、バンクス・レペタ、ジャイリン・ウェッブ

 

格差社会度★★★★☆

少年の挫折度★★★★☆

満足度★★★★☆


ある閉ざされた雪の山荘で

2024年01月16日 | 映画(あ行)

緊迫感に欠ける・・・

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劇団に所属する7人の役者の元に、
新作舞台の主役の座を争う最終オーディションへの招待状が届きます。

集まった7人は、4日間の合宿で「大雪で閉ざされた山荘」という架空のシチュエーションで起こる
連続殺人事件のシナリオを演じることになります。

そして、ひとり、またひとりと参加者が消えていきますが、
これはあらかじめ決められた演出なのかそれとも・・・? 
残った人々は互いに疑心暗鬼になっていきます。

ミステリではおなじみの、外界とは連絡を絶たれ、
閉じ込められた状況の中で起こる連続殺人事件という、雪の山荘のシチュエーション。

ところが本作中、始めからこれは演劇のための舞台設定ということになっていまして、
外は雪もなく、自由に出入りもできるのです。
一応スマホなどは全員分一カ所に集められてはいますが、
いざとなれば使えないことはない。

・・・という拍子抜けの場面から始まりまして、
う~ん、そのせいとは言いませんが、なんだか緊迫感に欠ける気がして・・・。

例えば、朝に「誰それが絞殺されて倒れている」という状況説明がされて、
その人物の姿が消えています。
けれど、死体はなし。
死んだふりの人物も居ません。

結局3日かけて3人が殺されているという状況説明だけがあって、
死体は登場しない。

いえ実は、井戸の底に死体があって皆がそれをのぞき込んでいるという場面はあるのですが、
その実態は映し出されません。
なのでどうにも、「そして誰もいなくなった」のような
ミステリアスなサスペンスを期待していたら拍子抜け。

元々彼らは演技だと思っているから、それほどまでの危機感を抱いていない。
だから危機感を感じなかったというこちらの感想は正しいのか?

いやいや、俳優のトップを目指そうという彼らが演技しているのだから、
それではダメなのじゃないか?とか・・・。
次第にこの作品のたどり着きたい方向まで不確かになってきてしまうという。

テレビドラマなどではすっかりおなじみの期待される俳優がそろいつつ、
なんだか無駄遣いのように思えてしまった作品。

さてさて、蛇足ではありますが、こういうシチュエーションの場合のヒント。
真犯人は、割と早く死んでしまった者の中にいます。
崖の下に倒れているとか、目の前でその死を直に確認できない人物というのが怪しい。

まあ、本作もそういう例からは漏れてはいないかな?

 

<シネマフロンティアにて>

「ある閉ざされた雪の山荘で」

2024年/日本/109分

監督:飯塚健

原作:東野圭吾

出演:重岡大毅、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、森川葵、間宮祥太朗

 

閉ざされた状況度★☆☆☆☆

危機感★★☆☆☆

満足度★★.5


稲垣家の喪主

2024年01月15日 | 映画(あ行)

叔父叔母に、なんとしても結婚してもらいたい僕

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第9回WOWOWシナリオ大賞受賞作。

小学生の稲垣宙太(金成裕里)はひどいあがり症で、
クラスの皆の前で何か言わなくてはならないときなどには、
緊張してしどろもどろになってしまいます。
ある時、ジイジの葬儀であがってしまいろくに喪主挨拶ができない父を見て、
自分のあがり症は遺伝だと思います。

このままでは、将来自分の家族の喪主になるようなときに
同じことになってしまうと心配になってしまうのですが、
でもそれはまだまだ先の話・・・。

ところが、考えてみると彼の家には未婚の叔父叔母が同居しているのです。

元キャリアウーマンながら、なぜか急に仕事を辞めて実家に帰ってきてしまった叔母・杏子(広末涼子)。
そして売れない漫画家の叔父・脩二(森山未來)。

二人は結婚どころか恋人もいなくて、このまま近い将来何かあったら、
自分が喪主を務めなければならない、と宙太は思います。
それを回避するために、二人にはなんとしても結婚してもらわないと!

そしてそんな時、杏子を気に入ったらしき一人の男と、
脩二がかつて憧れていた一人の女が接近してきて・・・。

 

さて、この叔父叔母の結婚話はそう簡単に進むのかどうか・・・?
というところですが、まあ話はそう簡単ではありません。
さすがシナリオ大賞受賞作だけあって、細部までよく練られていると思いました。

小学生宙太の視点から描かれているというのもユニークだし、
宙太の友人二人の言動もいかにもおとなびているのがまたユーモラスで楽しい。
彼らは下手な大人よりよほど大人みたいです。
しかし、大人の恋愛や結婚の機微まではやはりわからない。

この家の人々の温かさも心地よく見ました。

 

<Amazon prime videoにて>

「稲垣家の喪主」

2017年/日本/114分

脚本:小山ゴロ

出演:広末涼子、森山未來、金成裕里

満足度★★★★.5


おとななじみ

2024年01月13日 | 映画(あ行)

正統派ラブコメ

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ガッツリ正統派の乙女チックラブコメ。
まあ、たまにはいいか、ということで。

4歳の時から隣に住んでいる幼馴染みのハル(井上瑞稀)と楓(久間田琳加)。
楓は20年間ずっとハルに片想いしているのですが、
ハルはそのことに気づいていない様子。

楓は同じく幼い頃からの友人、伊織(萩原利久)と美桜(浅川梨奈)に相談し、
ハルへの思いを断ち切ると決意します。
しかしやはり、あきらめ切れない彼女に、
伊織は優しく、実は小学生の頃から楓が好きだったと告白。
急接近する楓と伊織を見て、ハルはようやく自分の気持ちに気づきます。

幼馴染みでいつも一緒にいるのに、それを口にするとそれまでの関係がくずれてしまいそうで、
なかなか口にできない・・・と、あまりにも使い尽くされたストーリー。
これはもう、ただただ登場人物を演じるイケメンの推しのためにある作品。

井上瑞稀くんは、えーと、HiHi-Jetsでしたか。
私はまだ作間龍斗くんしか覚えていなかったけれど、
井上くんの方が甘くて女の子受けする感じかもしれません。
でも私は作間くん推しですが。

そしてむしろ、伊織役の萩原利久くんの方が
最近よく見かける気がします。

作中のラブストーリーはともかくとして、
楓がお弁当屋さんで働いていて、そんな中でも少しずつやりがいを見出していって、
前向きに取り組むようになっていくというところが描かれていたのは、よいと思います。

<Amazon prime videoにて>

「おとななじみ」

2023年/日本/113分

監督:高橋洋人

原作:中原アヤ

脚本:吉田恵里香

出演:井上瑞稀、久間田琳加、萩原利久、浅川梨奈、アンミカ、松金よね子

 

じれったさ度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「にぎやかな落日」朝倉かすみ

2024年01月12日 | 本(その他)

老境を本人目線で

 

 

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北海道で独り暮らしのおもちさんは83歳。
東京に住む娘は一日二度、電話をしてくれる。
近くに住むお嫁さんのトモちゃんは、車で買い物に連れて行ってくれる。
それでも、生活はちょっとずつ不便になっていく。
この度おもちさん、持病が悪化し入院することになったーー。

日々の幸せと不安、人生最晩年の生活の、寂しさと諦めが静かに胸に迫る物語。

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北海道で一人暮らしをするおもちさん、83歳。
持病を持ちつつ頑張っていますが、入院し、
やがて高齢者用マンションに移ることに。
それらの日々のことを、おもちさん目線で描いています。

よくありそうな話ではありながら、
これまでお年寄り本人目線のストーリーは、あまりなかったかもしれません。

おもちさん(もち子が正しい名前だけれど、皆からはおもちさんと呼ばれている)は、
まだまだボケてはいないけれど、物忘れも多くて、集中力もあまりありません。
夫・勇さんはいないので、先に亡くなったのかと思えば、
いえいえ、ご存命ですが特養に入居住み。
寝たきりで、なんとか意識がある程度。
そんな勇さんが若く元気な頃のことが始めの方に描写されていて、
ちょっと切なくなります。

おもちさんの長女は東京に住んでいますが、
おもちさんを心配して毎日電話をかけてきます。
そして近所に住む長男のお嫁さんがまた実によくできた人で、
何かとおもちさんを気にかけてしょっちゅう様子を見に来てくれたり、
車を出して買い物に連れて行ってくれます。
明るく朗らかなおもちさんは、人付き合いも得意で、
近所のお友だちと話して笑って過ごすのが大好き。

なので基本にこやかなのですが、ときおり機嫌が悪くなってしまうのは、
娘や看護師さんに、お菓子を食べて叱られたりするとき。
子どものような扱いをされたりプライドを傷つけられるのは、イヤなのです。
その辺の心理はよく分りますねえ・・・。

それで実は、おもちさんは糖尿病なのですが、
医師の難しい説明を受けるともうそれだけでイヤになって集中もできず、
結局いつまで経ってもその病名が覚えられない。
そしてこの治療のためには、厳しいカロリー制限が必要なのに、
ダメと言われているお菓子や果物を平気でどんどん食べてしまうおもちさん。
血糖値がすぐに上がってしまうので、それはバレバレなのです。
眼の調子も悪いし、ときおり意識が遠のいたりして、
状況は決してよくはありません。

結局自宅に一人にしておけないということで、
介護付きの老人用マンションに移ることになるわけです。
元気だけれど、不調でもあり、陽気だけれど、孤独で淋しくもある。
老境というものを実に切実に描き出しています。
私もそちらに近い存在なので、分る分る。

それとおもちさんの話す北海道のことばがなんとも懐かしくて・・・。
「北海道弁」と言ってしまうと少し違うような気がする。
わざとらしくない、日常の、北海道のことば。

読んでいるうちにだんだんラストが心配になってしまったのですが、
まあ、なんとか大丈夫のようです・・・。

 

「にぎやかな落日」朝倉かすみ 光文社文庫

満足度★★★★☆