映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

月に囚われた男

2010年05月31日 | 映画(た行)
どことなく鄙びた味のある正統派SF



            * * * * * * * *

地球上の燃料を使い果たしてしまった未来。
月の裏側でヘリウム3という画期的な燃料が発見され、
その採取のために、たった一人赴任した男、サム。
彼は3年間の契約で孤独に耐えながら仕事を続けている。
話し相手はロボットのガーティだけ。
地球との交信は不調なので、
地球にいる妻と子供からのビデオレターを何度も繰り返し見ている。
でも、いよいよあと2週間で3年め。
次の要員と交代できる。
しかし、何故かこのところ頭痛がして集中力低下、幻覚が見えたりする。
そのため、事故を起こし倒れてしまうが、
かろうじて助け出されたようで、気がついたのは診察室のベッドの上。
そして、ベッドのそばには、自分とそっくりな男が・・・。



この映画は非常に低予算、短期間で作られたそうです。
登場人物はほとんど一人(一人3役?)だし、場面もほとんど月の基地内部。
宇宙人も出てこないし、派手な戦闘シーンもない。
まあ、地味と言えば地味な作りなのですが・・・。

でも私は、すごく面白かった!
 はまりました。
これぞ正統派SF、という感じで、いろいろ考えてしまうのですよ。


多少ネタばらしですが、結局この自分そっくりの男というのはクローンなんです。
3年住んでいても気づかなかった地下に、
サムと寸分違わないクローンが無数に眠っていた。
彼らは記憶も共有しているのです。
望郷の念に駆られる切なさも同じ。


私ははじめのうちは、無機質なコンピュータに支配される話かと思っていたのですね。
しかし、そうではない。
ロボットのガーティは、人間を守ることを使命としている。
おお、ロボットの原則どおりです。
SFでも、何となくレトロ感があります。
この声が、ケビン・スペイシーだったんですね。
出演者に名前があったけれど、出てないじゃん、なんて思ってしまった。

ここでの本当の敵は人間であり、
人間性を無視した大企業の論理であるのです。
いいですねえ、硬派のこのテーマ。
それで結局、サムは無事に地球に帰ることができるのや否や、
とそういう展開になるのですが・・・。



私は、この作品の表で語られない部分の方に興味があります。
ここに出てくるサムは皆クローン、つまりコピーなのです。
では原本はどうしたんでしょうね。
ここで、地球にいる彼の娘が、
同じ家の中にいる自分の父親を呼ぶシーンを思い出すんですよね。
サムは、その結果までは見届けなかったのですが・・・。
妻が別の男性と結婚したということももちろん考えられます。
でも、そこにいる人物こそが原本のサムなのではないでしょうか・・・。
原本にとっては、コピーの運命などあずかり知らないことなのか・・・、
ちょっと怖くなってしまいます。

それからコピーの寿命の問題ですね。
何かの事故のために、あんなにたくさんのクローンがある訳じゃないですよね。
また、クローン同士、微妙に性格が違うというのもなかなか興味深いところです。
人の個性っていったい何なのでしょうね。
全く同じDNAでも、違う部分は出てくる。
それは、一卵性双生児を見てもわかることですが。

アポロの月面着陸映像をリアルタイムで見た私などにとっては、
あの月面の光景はとても懐かしく感じました。

全体的に低予算であるが故か、なんだか懐かしい感じのする作品で、
しかも、見る側の想像力を刺激する
大変魅力的な作品でした。
お金をかければいいというものではないですね。

2009年/イギリス/97分
監督:ダンカン・ジョーンズ
出演:サム・ロックウェル、ケビン・スペイシー、ドミニク・マケリゴット

「鹿男あをによし」 万城目学

2010年05月30日 | 本(SF・ファンタジー)
「さあ、神無月だ―――出番だよ、先生」

鹿男あをによし (幻冬舎文庫)
万城目 学
幻冬舎


         * * * * * * * *

TVドラマにもなった人気作ですね。
題名からもすぐわかる、これは奈良が舞台。
大学の研究室を追われた「おれ」。
やむなく教授のすすめに従って、奈良の女子高に教師として赴任。
ところが突然、公園で鹿が中年男の声で話しかけてきた!!

「さあ、神無月だ―――出番だよ、先生」

鹿がしゃべるというだけでも驚きだし、
突然出番だよといわれても何が何だかわからない。
これは、奈良で太古の昔から引き継がれている儀式だというのですが・・・。

さすが奈良。
そのそもそもの発祥の話というのがすばらしく歴史的ロマンに満ちていて、面白いですね。
でも、この先生、早速お役目に失敗して、なんと顔が鹿になってしまうのです。
これは他の人から見てもわからない。
自分にだけわかるのですが、鏡に映った顔が鹿。
うーん、これは悲惨だ・・・。
それだけならまだしも、任務を遂げられなければ、
大変なことが起こり国が滅びるという・・・。
さあ、どうなる!!
鹿が求める「サンカク」とは何なのか。
彼はそれを無事に見つけ出して鹿に渡すことができるのか。
そして、彼は無事に人間の顔に戻れるのか。
更には、この国は守られるのか。


さて、彼を取り巻く人たちもユニークなんですね。
何かと反抗的な少女、堀田。
しかし、彼女にも何か秘密が・・・。
話のわかる教頭リチャード。
・・・別に英国人ではありませんよ。
あだ名ですね。
同僚の、いつもかりんとうをくれる藤原くん。
他校の麗しい教師、マドンナ。

このあたりの人物配置は「坊ちゃん」を意識しているようですが、
なるほど、ムダが無くて、ラストも納得。
いやいや始めた教師も、なんとか様になってきて、最後の重大な決断も男らしい! 
この主人公はじわじわと魅力がでてきますね・・・。

よく出来たストーリーでした。


奈良・・・いいですね。
私はひどく昔に修学旅行で行ったきりです。
鹿にあいたくなってしまいました。
鹿せんべいをあげたい!

満足度★★★★☆

「ランナー」 あさのあつこ 

2010年05月29日 | 本(その他)
走ることは生きること

ランナー (幻冬舎文庫)
あさの あつこ
幻冬舎


           * * * * * * * *

高校一年、碧李(あおい)。
とにかく走ることが好き・・・、とこれまでは思っていた。
しかし、一度レースで惨敗を記した彼は、走ることが恐怖となってしまっていたのです。
この物語は、碧李が走ることに向けた思いを描く青春ストーリーではありますが、
もう一つ大事なのは家族の物語でもあることです。
それも、温かい家族の支えで彼が再生しました・・なんて生やさしいものではない。
なかなか複雑な家庭の事情があるのです。

彼の母は、小さな頃からしっかりしているといわれ、
芯が強くて、自立した考えを持つ頼りになる人・・・と周りからは思われているのです。
彼女自身もその役割を演じてきたというか・・・。
ある日突然夫に恋人ができて離婚。
完璧な妻、完璧な母をこなしていたはずなのに、と納得できないでいたのでしょう。

さらにこの家にはもう1人、今一年生になろうとしている杏樹がいます。
この子は夫の兄夫婦の子供なのですが、
兄夫婦は事故で亡くなり、この家に引き取ったのです。
いかにもかわいらしく、守ってあげたくなる女の子。
しかし、母の離婚についての行き所のない気持ちが、
この子に向かっていくことになる・・・。


碧李くんは、高校生とはとても思えないくらい、大人でけなげです。
母がどうしてこうなってしまったのか、わかっている。
妹を守ろうとするその姿は、下手な父親よりずっと上。
しかし、すべてのうまくいかない事柄を自分一人で抱え込もうとするのは、痛々しい。
そこにさしのべようとする手があるのに。
彼は母のために、人にはすがれないのです。
このような複雑な事情の中で、なおも走ろうとする彼。

なにやら、碧李にとって走るというのはもう"スポーツ"などというモノではないのです。
それは"生きる"ことと同じ。

こんな描写があります。


身体が温まってくる。
走り始めると、身体を取り巻くもの一つ一つがそれぞれの存在を際立たせてくる。
血の流れとか、心臓の鼓動とか、気道をすべっていく空気とか、
大地の感触とか風とかグラウンドの湿り気とか匂いとか、
みんな競うように鮮明になり、存在感をましてくる。
そして、吸い込まれていくのだ。


走ることから逃れるのに、家庭の事情を理由にしていたのではないか・・・。
逃げてばかりでは前に進めない・・・。


一途で純粋で、生きて、走っている碧李くんに
ひたすらエールを送りたくなります。
彼は必死で一人で立とうとしているけれども、
周りの人たちが、手をさしのべようとしてくれているのもいい。
時には甘えることも必要なのだけれど・・・生硬な彼は自分を許さない。
こういうあたりが若さだなあ・・・と思ったりもしますね。

満足度★★★★☆

パリより愛をこめて

2010年05月28日 | 映画(は行)
この過激さを、開き直って楽しみましょう



        * * * * * * * *

パリのアメリカ大使館に勤務するリース(ジョナサン・リース=マイヤーズ)は
若き優秀な外交官。
しかし、実はCIAの新米職員でもある。
カッコいいエージェントになるのが夢。
CIA本家からやってきたベテラン、凄腕のワックス(ジョン・トラボルタ)と組んで、
ある捜査をすることになるんですね。

しかし、このトラボルタがすごい。
スキンヘッドで、目的のためには手段を選ばない超過激な男。
ははあ・・・とうとうここまで来ましたか、このおぢさんは・・・。
でもねえ、ここまでやられるともう文句のつけようもなく、
エンタメとして楽しめてしまいますね。
24時間で26人を殺してしまう・・・。
疾走する車の窓から身を乗り出してバズーカ砲を構える・・・。
口よりも先にピストルの玉が出る・・・。

「ダーティーハリー」のキャラハン刑事は
よく過激なことをやり過ぎて上司からにらまれていましたが、
このワックスに至っては、上司もほとんど容認。
成果が上がればそれでよし・・・って、そんなばかな~。
フランス人目線で見たアメリカ人気質って感じでしょうか。

まあ、この粗野で過激な男ワックスと、繊細なインテリ、リースのコンビが
なかなか組み合わせとして楽しいのです。
リースは、人を殺すために銃を撃つことができず、
あこがれていたCIAの仕事にも自信がなくなってくるのですが、
意外にも、単に粗野と思ったワックスは結構面倒見よく、
さらりと励ましたりするんですよ。
うん。わるくないぞ、スキンヘッドおぢさん!


捜査の前半、ずっとリースが麻薬の入った大きな花瓶を抱えて歩くんです。
なんでいちいち持って歩くのか、
車に置いてくればいいのに~
・・・と、半ばあきれながら見ていると、
一応、その意味はあるんです。
やれやれ、それにしても、ご苦労様なことで・・・。

ストーリーは麻薬密売で資金を得ているテロ集団の捜査に映っていくのですが、
信じがたくて、切ない結末も待っています。



どちらかというと私は普段あまり見ないタイプの作品ではあるのですが、
あまりの過激さに、人が死にすぎる・・・などと抗議する気力も失せて、
開き直って楽しめてしまうのでした。

2010/フランス/95分
監督:ピエール・モレル
制作:リック・ベッソン、インディア・オズボーン
出演:ジョン・トラボルタ、ジョナサン・リース・マイヤーズ、エリック・ゴードン、リチャード・ダーデン、カシア・スムトゥニア

ゴッドファーザー

2010年05月26日 | 映画(か行)
義理と人情。血の絆。
~何度見てもすごい50本より~



              * * * * * * * *

何を今更・・・といわれそうなくらい、ポピュラーな名作ですが、
これもきちんと見たことがなかったので・・・。
私は往年の名作というモノにはほとんど手つかずですね。
これからも楽しみがたくさんありそうです。

何故今までまともに見ていなかったかというと、まあ、題材ですね。
マフィアの抗争劇なんてあまり興味がない。
でも、この作品、単にマフィアの抗争劇ではないんですね。
父と息子、兄弟。
その「絆」を巡る哀愁に満ちたストーリー。

ビト・コルレオーネは、イタリア、シシリー島からアメリカへ移住し、
巨万の富と裏社会の権力を築き上げた。
これは彼のそうした全盛の時代が過ぎ、
またアメリカの社会の仕組みも変化してきた二次大戦後からストーリーが始まります。

ビトの三男、マイケルは始め堅気として登場します。
父の生き方にはあまり賛同できないでいた。
ビトも、彼を大学に送り、彼にはまっとうな道を歩んで欲しいと思っていたようです。
ところが、ある時マイケルが父の危機的状況を救ったことにより、
後継者として頭角を現し始める。
次第に父同様のドンとしての資質を表し始め、また冷徹さをも身にまとっていく・・・。
こうした変貌が何かもの悲しく感じられるのは、
これが裏社会であるためですね。
マフィアの抗争、すなわち生か死。
ファミリーの一人が殺されれば、すぐに報復としてまた相手を殺す。
憎しみの連鎖は先細りにはならず、増大していくモノなのです。


義理と人情。血の絆。
洋の東西を問わず、裏社会ってどうしてこんなに似ているのでしょうね。
「ファミリー」は日本でも「一家」ですし。
マーロン・ブランドにアル・パチーノ。
まあ、なんて渋くてカッコイイ!
また、この哀愁たっぷりのテーマ曲が
こんなに映画にマッチしているということを確認できたことも収穫でした。

ゴッドファーザー PartI <デジタル・リストア版> [DVD]
マーロン・ブランド,アル・パチーノ,ジェームズ・カーン,ロバート・デュバル,ダイアン・キートン
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン



1972年/アメリカ/175分
監督・脚本:フランシス・フォード・コッポラ
出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ダイアン・キートン、ロバート・デュバル

「おぅねぇすてぃ」 宇江佐真理

2010年05月25日 | 本(その他)
“正直”と“真心”は同じ

おぅねぇすてぃ (新潮文庫)
宇江佐 真理
新潮社
 


           * * * * * * * *

この本は時代物といっても、維新の直後明治5年から始まります。
函館の商社で働く雨竜仙吉。
彼は英語の通詞(通訳)になりたいと思っています。
それまでは外国語はほとんどオランダ語中心だったのですが、
明治維新後、急速に英語の必要性が高まってきていたのですね。
彼には密かに想う人が居て、それは幼なじみのお順。
けれども彼女は黙って函館へ行ってしまった彼に失望して、
東京で米国人と結婚してしまっていたのです。
それでも、やはりなかなか思いを打ち消すことが出来ない二人。
やがて仙吉は横浜へ帰り、二人は再会を果たしますが・・・。

激動の時代に、自分の生き方を探りながら、
また求め合い、すれ違う二人のことが短編連作形式で描かれています。
実はこの二人、実在の人物がモデルで、他にも実在した人物何人か登場します。
文明開化。
日々変わって行く世の中に、当時の人々はどう馴染んでいったのか。
そんなこともうかがい知れて、大変興味深く、また楽しく読みました。

特に仙吉の函館在住時代。
実は私、小学校時代に何年か函館に住んでいたことがあるのです。
もろに函館弁の人物が出てくるのですが、
その言葉を思わず懐かしく感じてしまいました。
著者宇江佐真理さんは函館在住ですので、そういうあたりの表現はお手の物なんですね。
まあ、私が時代物は宇江佐さんしか読まないというのは、そんなわけでもあるのです。
地元贔屓ということで。


また別に登場する実在の人物、モデルになったのは、財前宇之吉という方ですが、
元々船大工で、仕事の必要上、全く独学でイギリス人の水夫から聞き覚えて英語を学んだという人。
その彼が作った単語帳のようなものがあるのですが、ちょっとご紹介。

 rainbow ニヅ  
  lightning イナシマ     
  fog カシミ
  demand  サイソグ  
  lead ミツビク

・・・というような具合です。
こりゃ、英和辞書じゃなくて英函辞書だ!
皆さん、判読出来ますか?

さて、そこで表題。
Honesty です。
この訳は、別になまっていないのですが、「ショウジキ、マゴコロ」とあります。
登場するある女性が言うんですね。
正直と真心が同じ言葉だなんて、気に入った、と。
人に対して、自分の気持ちを正直につたえること。
それが「誠実」、「おぅねぇすてぃ」、「真心」というもの。
これがこの作品のテーマになっています。

こういう作品を読んでから、函館の元町あたりを散策すると、
また別の楽しみがありそうです。

満足度★★★★★

グリーン・ゾーン

2010年05月24日 | 映画(か行)
周りに目をつぶって成り立つグリーン・ゾーン



             * * * * * * * *

イラクにて、大量破壊兵器の所在を突き止める任務に就いた米軍兵士ミラー(マット・デイモン)。
しかし、次第にそもそもの情報の信頼性に疑問を抱くようになります。
CIAのブラウンと独自の調査にあたることになるのですが・・・・・・・・・


破壊された街中で、さらに繰り広げられる銃撃戦。
手持ちカメラでの臨場感もたっぷりですが、やや、揺れが大きすぎてつかれた・・・。
イラクの大量破壊兵器保持・・・この戦争の発端の話であるはずなのに、
その信憑性は極めて乏しい・・・というのはもはやほとんど周知の事実。
だから、そう驚くようなストーリーではないのですが、
ミラーの真実を追究しようとする真摯な態度に魅せられてしまうのです。
普通、兵士は単なる駒。
上官の言葉には疑問を挟まず実行するのみ。
そういうものです。
けれど、自分の身を危険にさらしても真実を突き止めようとする。
その孤高の有り様はボーンシリーズにも似て、マット・デイモンを引き立てますよねえ・・・。
男性は軍服を着ると2~3割男が上がります・・・。
(われながら普段の言動にあるまじき感想だなあ・・・。)




まあ、大量兵器があるにしても無いにしても、
それはアメリカ人の勝手な思いなんですよ。
そんなところへ、この作品には自治を願う一人のイラク人青年が登場します。
ひたすら状況を「見る」役割の彼の存在は光っています。
こういう人物を配したところに、まだ救いはありそうです。

グリーン・ゾーンとは、かつてのフセイン宮殿中に敷かれたアメリカの拠点。
安全地帯です。
そこに一歩踏み込めば、リゾート地なみののどかさ、賑やかさ。
外では今も爆撃・銃撃が続いているというのに・・・。
その中の人々は本気で外を見ようとしない。
いったい何のための戦争なのか。
誰のための戦争なのか。
原点に返って、また考えてみたいモノです。

2010年/アメリカ/114分
監督:ポール・グリーングラス
出演:マット・デイモン、グレッグ・キニア、ブレンダン・グリーンソン、イエミー・ライアム


ホテルルワンダ

2010年05月23日 | 映画(は行)
命の軽さに抗うように・・・



                 * * * * * * * *

1994年、アフリカのルワンダで起こった実話の映画化です。
ツチ族とフツ族間の対立から、大虐殺が起こる。
およそ100日間に100万人の犠牲者が出たというのですから、ただ事ではありません。
そんな中、ルワンダの高級ホテルの支配人が、
1200人の難民をホテルに匿い、命を守り抜いた。
大変重い実話です。
見かけでは全然わからないツチ族とフツ族の違い。
どうしてこんなことになってしまったのか。
さほどに憎しみあい、殺し合わなければならないほどの何があったのか。
それはやはり一言では語ることが出来ない、長い間の憎しみの連鎖なのでしょう。
どちらがいいとか悪いとかという問題ではなく。

このホテルは外国人ジャーナリストや国連平和維持軍が在中していたこともあって、
一種治外法権のような場になっていたのです。
しかし、このようにほとんど一方的な虐殺が繰り広げられる状況になっても、
平和維持軍は何もせず、無力。
外国人たちも引き上げてしまう。


当時たぶん、そんなニュースは日本の私たちの元にも届けられていたのでしょうね。
けれど遠いアフリカの小さな国の内紛と聞いて、
へえ、そうなのというくらいの感想しか抱かなかったに違いない。
けれど、それはこんな風に起こっていた。
ちょっと恥ずかしいですね。
無知は一種の罪ではないかと思ってしまう。
けれど、もしそれをしっかり認識出来たとして、何が出来たのだろうか、
と思うと、これまた無力感に襲われます。
今も世界のどこかでこんな悲惨な状況が繰り返されているに違いないのですが、
なんにしても傍観者で居るだけの世界、日本、そして自分が歯がゆいですね。
命の重さはみな同じはずなのですが、
なんでこんなに軽んじられる命がたくさんあるのでしょう。

この作品は、ことさら残虐なシーンは避けながら、淡々と語られるのですが、
その命の軽さに抗うように、
せめて自分の身の回りの人たちだけでも何とか助けたいという
男の懸命さに心打たれていきます。

自分に出来ることをまずする。
結局はそこが原点なんでしょうね。
是非多くの方に見てもらいたいと思う作品でした。

ホテル・ルワンダ プレミアム・エディション [DVD]
テリー・ジョージ,ケア・ピアソン
ジェネオン エンタテインメント


2004年/南アフリカ・イギリス・イタリア/122分
監督:テリー・ジョージ
出演:ドン・チードル、ホアキン・フェニックス、ソフィー・オコネドー、ニック・ノルティ、ジャン・レノ


運命のボタン

2010年05月21日 | 映画(あ行)
「押すべきか、押さざるべきか・・・」



             * * * * * * * *

ある日ノーマとアーサー夫婦の元に赤いボタンがついた箱が届きます。
24時間以内にボタンを押せば100万ドル(約一億円)が手に入るが、
代わりに見知らぬ誰かが死ぬ、というのです。
究極の選択を迫られた2人。
さあ、どうする???

ここまでは非常にわかりやすいのですが・・・・。
結局このストーリーは、
ホラーともSFとも、不条理劇ともつかない展開を見せまして、
釈然としないままにエンディング曲が鳴り響きます。

1970年代が舞台となっていまして、NASAの宇宙開発計画が背景としてあり、
火星探索機が出てきたりする。
箱を届けに来たスチュワード氏は顔の半分が損なわれているし、
ヒロインノーマは少女時代の医療事故で片足の指が失われている。
何故か、彼ら夫婦に関わる人物は次々鼻血を流し・・・。
これらバラバラのピースが最後にすべてつながり、
大逆転の結末・・・というのを期待してしまっていました。
M・ナイト・シャマラン風ですね。
ところが、全然そうはならないのでした。

作品中、こんな言葉が引用されています。

「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」 アーサー・C・クラーク

幻想ともつかない、不可思議なシーンが続出となりますが、
すなわちこの理解しがたい現象は、
どことも知れない、高次元に科学の発達した何者かのなせる技???

この夫婦の住む町近辺で、不可思議な殺人事件が続いている、というのも注目です。
このボタンの箱は、用が済むと、次の家へ渡されるというのですね・・・。
では、他の家から見た自分たちはやはり「見知らぬ他人」ということになります・・・。



そこでまあ、映画の宣伝に乗せられるわけではないけれど、やはり考えてしまいますね。
自分ならこのボタンを押すかどうか。
私は押しません! 
映画の結末を見たからじゃないですよ。
うまい話(うまい話か?)には必ず裏があるものですし・・・。
一億円ですか。
とりあえず今のところさほど金銭的に行き詰まっているわけでもないですし、
老後も食べていくくらいは何とか。
だからあえてそんなリスクを背負ってボタンを押そうとは思わない。
けど、これがもし、明日はもう住むところがない、食べるにも事欠く、
というような状況だったら・・・ちょっとわかりませんね。
ボタンを押そうが押すまいが、毎日どこかで見知らぬ他人が死んでいるわけだし~
・・・なんて自分を納得させつつ押してしまうかも。

それにしてはこの夫婦は、
そこまでお金に困っているというわけでもなさそうだったのに
ずいぶん気安く押してしまいましたね・・・。


しかし、結局この箱の目的は何だったのか。
私たちには想像もつかない偉大なる「なにか」の、
壮大なる、実験?
または、人類滅亡のための布石?

やっぱりわかりませ~ん。

2009年/アメリカ/115分
監督・脚本:リチャード・ケリー、キャメロン・ディアス、ジェームズ・マースデン、フランク・ランジェラ、ジェームズ・レブホーン、ホームズ・オズボーン

「ゲゲゲの女房」 武良布枝 

2010年05月20日 | 本(その他)
終わりよければすべて良し

ゲゲゲの女房
武良布枝
実業之日本社


             * * * * * * * *

NHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」の原作です。
テレビの方は見ていませんが、
漫画家、水木しげる氏の奥様の書かれたというこの本に興味を持って、読んでみました。
お見合いをして5日後に結婚。
当時水木氏はすでに貸本マンガ家だったのですが、食うや食わずの極貧生活。
そんな当時の状況が、愛おしむように記述されています。

何しろ、確定申告の時に税務署の人が「こんな収入で生活していけるわけがない!」と、
申告内容を疑って怒鳴った、というのですから、筋金入りの貧乏だ・・・。
今なら、あっという間に即離婚で、奥さんは出て行ってしまいますね・・・。
一度結婚したらそう簡単に別れるものではない、というような時代ではあります。
でもなにより、ひたすらマンガに打ち込む夫を、彼女は尊敬し誇りに思った。
奥様が耐えることができたのは、そのことが一番大きいのです。
背中からオーラが立ち上がっていた、といいます。
夫を支えるとは、こういうことなんですねえ。
私など、もし奥様の「内助の功」なんて言われたら(言われそうにないけど)、
面はゆくて逃げ出したくなりますが、
「内助の功」というのはこういう方のためにあるわけだ・・・・と、納得しました。


それから、週刊漫画誌に連載を始めるなどして、生活は楽になってくるのですが、
そのかわり、水木氏は超多忙となってしまい、ほとんど口をきくヒマも無くなっていく。

なんだか、まさに生きる昭和史ですねえ。
漫画家といっても日本の経済高度成長とほとんど歩調を合わせている訳なんですね。
たぶん、サラリーマン家庭でも似たような状況だったのではないでしょうか。

そうして今は、時間にも生活にもゆとりができ、
「終わりよければすべてよし」という心境に達していらっしゃるようです。
こんな風になれるのなら、やっぱり夫婦っていいものですよね。
長い人生を共に過ごし、辛いことを乗り越えて、時には衝突もして・・・。
ドラマ化にも納得です。


鳥取県境港市にある水木しげるロード。
以前から興味はあったのですが、ますます行ってみたくなりました。
皆さん意外に想うかも知れませんが、
「ゲゲゲの鬼太郎」は私にとっても子供の頃楽しく見たアニメの1つなんですよ。
何度もリメイクを繰り返して放送されていますから、老若男女、共通のアニメなんですね。
ちなみに私はネズミ男ファンで・・・。
あのこすい性格が何ともいえない。

満足度★★★★☆

「緑金書房午睡譚」 篠田真由美

2010年05月19日 | 本(SF・ファンタジー)
「あちら」と「こちら」を行き来するものたち

緑金書房午睡譚
篠田 真由美
講談社


           * * * * * * * *

古書店を巡るファンタジーです。
殺人事件はありません。
16歳、木守比奈子は、高校に通うのを止めていた。
大学教授の父が研究のためイギリスに行くことになり、
比奈子は親類の古本屋「緑金書房」に居候することに。
ところがこの古本屋、何かがおかしい。

店主緑朗は
頭に白いタオルをかぶって、ぼさぼさの前髪に度の強そうな黒縁眼鏡。
肘までまくりあげただぶだぶの白いシャツに、膝の抜けた灰色のズボン。
足下は素足に突っかけサンダル・・・というようなダザダサ。

・・・と、これは著者がよく使う手で、
一見全く冴えないのだけれど素顔は実は端正で、
これでパリッとしたスーツでも着れば、モデル顔負けのダンディー・・・というヤツですよ。
もっとも、今作ではそこまでのスタイリッシュなシーンは無いのですが。
まあそこまではいいとして、
書棚に並んだ本の題名が暗号のように「タスケテ」とならんでいたり。
夜中にフランス人形のような美少女が現れたり。
かと思えば猫がしゃべったり・・・。
そもそもこの書店、駅前通に面しているにもかかわらず、
何故かどうしても探し出せない人が居るらしい。
どうもここの人たちは「あちら」と「こちら」を行き来するようなのです。
「あちら」とは・・・?
たとえばタンスを通り抜けて行くことが出来る「ナルニア国」。
たとえば魔女が住むところ。
またたとえば、妖精が住んでいるところ・・・。

これまで全くの現実世界に住んでいた比奈子が、
自分の出生にも関わる「あちら」の世界を知るようになっていくという
幻想的かつホラー風味のあるファンタジー。

緑朗さんなど私好みのキャラではありますが、
全体的にはあまりにもムード先行のファンタジー中心なのが
ちょっともの足りなく思いました。
でも古書に対する愛情は伝わります。
イギリス文学に造詣の深い方ならもっと楽しめると思います。

満足度★★★☆☆

17歳の肖像

2010年05月18日 | 映画(さ行)
幸せに近道はない



           * * * * * * * *

この作品、まずきちんと舞台となる時代を認識しておかないといけませんね。
1961年、ロンドン郊外。
昭和30年代ですね。
オックスフォード大学を目指す優等生ジェニー。

彼女は、ふと知り合った倍も年上の男性デビッドと恋に落ちます。
いかにも世慣れて、生活にもゆとりのある頼もしい大人の男性。
彼女にはそう映ったのでした。
それに引き替え、同じ年のボーイフレンドのなんと子供っぽいこと!
これまではひたすら勉強しかない、つまらない毎日と感じていたのですが、
コンサートやバーに連れて行ってもらい、
刺激的な大人の世界をかいま見てすっかりのぼせ上がってしまうのです。
どうにも、オバサンとしては、はじめっから危なっかしくて見ていられませんでした。
そもそも高校生の女子を夜連れ回そうなんて、魂胆見え見えじゃありませんか!!

しかし、これがまたやはり時代性もあるのでしょうね・・・。
当時では日本も変わらなかったと思いますが、17歳はもう結婚適齢か・・・。
男性の方の年などさほど問題ではなかったのでしょう。
そして、女性の幸福は結婚、という考えがまだまだ根強かった。
ジェイン・オースティンの時代とさほど変わりませんね・・・。


ジェニーは独身の女教師をほとんど軽蔑して見ていました。
こんな退屈な仕事をいつまでも続けて行かなくちゃならないなんて・・・というように。
今なら女性の自立は当たり前ですが、当時ではそうも行かなかったのでしょう。
だから、まあ、ジェニーの言動も無理のないことで、
多めに見ようかとは思うのですが・・・。
結婚イコール進学中止。永久就職。
このように短絡してしまうのは、私にとっては耐えられません!!
だから、この時代のことだ・・・と、自分に言い聞かせて、
耐えながら見たというのが正直なところです。
今の若い女性がこのジェニーに共感できるとしたら、私はがっかりです。
(同い年の男の子は子供っぽくてイヤ、という部分ならわかりますけど)

で、ストーリーはともかく、
キャリー・マリガン、あのヘアスタイルと服装のためか、
オードリー・ヘップバーンを思い出してしまいました。



これは、私の思い過ごしでなく、ちまたでもささやかれているようですが・・・。
ま、辛口のことを言えば、やっぱりオードリーには及ばないと思います。


あの父親も、やな感じでしたね。
なにかというと、高い学資を出して、教育を受けさせたと恩に着せて。
将来のための投資だとか。
チェロなんか受験に役立たないから練習しなくていいとか。
わ~、こすい。
今の子なら家出ものだ。
まあ、自分が学が無くて苦労した裏返し、
イギリスの階級社会という伝統的問題も背景にはあり・・・。
と、これも、時代を自分に言い聞かせないと、また腹が立ってくるという、
やっかいな作品なのでした。



2009年/イギリス/100分
監督:ロネ・シェルフィグ
出演:キャリー・マリガン、ピーター・サースガード、アルフレッド・モリナ、ロザムンド・パイク、オリビア・ウィリアムズ

ルドandクルシ

2010年05月16日 | 映画(ら行)
右を狙え・・・



           * * * * * * * *

メキシコの片田舎、バナナ農園で働く兄弟ベト(ディエゴ・ルナ)とタト(ガエル・ガルシア・ベルナル)。
サッカーに明け暮れる毎日。
あるとき、サッカーのプロスカウト、バトゥータが通りかかり、
彼らにプロ入りを勧めるのですが、どちらか一人というのです。
プロ入りを懸けたPK対決。
ゴールキーパーの兄ベトは俺がプロ入りするから
「右」に蹴るようにと弟に耳打ち。
弟タトは、いわれたとおり右にシュートしたら、それが決まってしまった。
「おい、そっちは左だろう。」
「いや俺の右はこっち。」
「右ったら、俺の右なんだよっ!」
とっくみあいのけんかを始める二人。


・・・と、こんな幕開けなのですが、
このエピソードはまたラストの大事なシーンにつながっていくんです。
面白いですよ。
何しろこの作品、サッカーを題材としていますが、
全然スポーツ根性モノでも青春モノでもない。
第一、サッカー競技中のシーンは無いんですよ。
試合のシーンは、応援席や歓声のみ。
これは、二人の兄弟の確執と愛情をちょっぴり皮肉を込めつつコミカルに描く作品なのです。



もともと、歌手志望のタトは実はサッカーはどうでもいいと思っている。
兄ベトは弟に負けたのが悔しくて悔しくてたまらない。
けれど結局、バトゥータの計らいで兄も他のチームに入ることになるのですが。

しかし、元々才能はあったようで、二人とも華々しい活躍をして名を上げ、
セレブな生活を手に入れます。

この二人の愛称が
ルド(タフな乱暴者)=ベト


クルシ(軟弱な自惚れ屋)=タト


ところが予想通り(?)いいことはそう長く続きません。
ルドは博打に手を出し、大きな借金が出来てしまう。
クルシは失恋して、すっかりやる気をなくしてしまった。

いったいどうなる、この二人。
兄弟間の感情って、なかなか複雑ですよね。
人生において最大の理解者であり同胞であるのだけれど、同時に最大のライバルで敵。
そういう構図が根底にあるから、この作品は光ります。


ガエル・ガルシア・ベルナルは、
これまでもっと都会っぽいイメージを持っていたのですが、
田舎の粗野なおにーちゃん風なのも悪くないですね。
メキシコの大らかさ、いかがわしさ・・・、
やっぱりお国柄、そういう中に収まって、余計活き活きしている。
楽しい作品でした!



2008年/メキシコ/101分
監督・脚本:カルロス・キュアロン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ディエゴ・ルナ、ギレルモ・フランチェラ、ドロレス・ヘレディア

天然コケッコー

2010年05月15日 | 映画(た行)
のどかな四季の移り変わりの中で描く少女の恋と成長



           * * * * * * * *

この作品はくらもちふさこさんのコミックの映画化。
くらもちファンの私は、読んでおります。
ですが、この映画、そのイメージともちょっと違う。
それが悪く違うのではなくて、これまた独自のいい雰囲気が出ていて、
これはこれですごくステキなのでした。

舞台は田舎町です。
映画の撮影は島根県の浜田で行われたそうで、とにかくのどかで美しいところのようですね。
主人公右田そよは中学2年生。
学校はなんと小中合わせて全校生徒6人の分校。
そこへ東京から同じ年の男の子が転校してくる。
彼の母親がもともとここの出身で、離婚と喘息のために実家に戻ってきたのですね。


いきなり一年生の女の子のお漏らしをそよちゃんが始末するシーンから始まります。
ここですぐ、アットホームな学校の様子や
一番年長で小さい子供の世話までしているそよちゃんのポジションが何となくわかりますね。
実際、いい子なんですよね・・・。
お下げ髪がとてもかわいくて。
家の手伝いは当たり前にするし、弟も見守る対象としてきちんととらえている。
よく田舎の子を「純朴」なんて表現したりしますが、どうもそれとも違う気がする。
田舎の子ではあるけれど、やはり現代っ子ではある。
変にすれていない初々しい少女・・・とでもいいましょうか。
きっとどなたも好感が持てるはず。
けれど、彼女はつい思ったことをすぐ口にしてしまって、
周りの人を傷つけてしまうことがある
・・・と、自分の欠点をも見抜いているし、
いつも小さい子の面倒を優先するというほどの優等生でもない。
なかなかリアルな人物像で魅力があります。

転校してきた大沢君は、さすが東京の子。
ちょっぴりクール。
でも田舎をバカにせず、周りの人たちをよく見ていろいろなことを気づいてますよね。
そよちゃんのいいところもちゃんと見ている。
この二人の初々しい初恋と成長。
・・・うむ、おばさん好みなのでした。


ストーリーは特に大きな事件があるわけではありません。
美しい四季を追いながら、
そよちゃんと大沢君、そして分校の他の子供たちの様子を描いていきます。
どうもそよちゃんのお父さんと大沢君のお母さんは若い頃に何かあったらしく、
再開した今もどうも動きが怪しいのですが・・・。
でも、それもほんの背景のエピソードで、詳しい描写はありません。
起伏といえばそれくらいで、淡々と時が過ぎます。
夏休みがあって、お祭りがあって、東京への修学旅行があり、そして受験・・・。
でも大沢君は東京の高校に行くといい出して・・・。

美しく、のどかでシンプルな時の流れに、ただ身をゆだねている感じです。
ステキな2時間でした。

2007年/日本/121分
監督:山下淳弘
原作:くらもちふさこ
出演:夏帆、岡田将生、夏川結衣、佐藤浩市

天然コケッコー [DVD]
夏帆,山下敦弘,岡田将生,夏川結衣,佐藤浩市
角川エンタテインメント


「それからはスープのことばかり考えて暮らした」 吉田篤弘

2010年05月14日 | 本(その他)
ダンディなお婆さんになりたい

それからはスープのことばかり考えて暮らした (中公文庫)
吉田 篤弘
中央公論新社


             * * * * * * * * 

えーと、この文庫は2009年9月に出たものでした。
このたび書店店頭で、「つむじ風食堂の夜」と並べてあったので目につきました。
実際これは「つむじ風食堂の夜」の姉妹編なのだそうで、
前者が文句なく私のお気に入りとなりましたので、この本も大変楽しく読みました。
こういう風に関連本をきちんと並べてくれる本屋さんは、うれしいですね。
文庫本は新刊コーナーのチェックが主になるので、
少し前の発行のモノだったりすると見逃しがちです。
こういうちょっとした工夫が書店の個性というものですよね。
・・・というより、この書店の店員さんに大の吉田篤弘ファンが居ることは間違いないですね。


さて、この本の主人公は大里青年。
月舟町という小さな町に住み始めた彼は、大家さんからは「オーリィ君」と呼ばれます。
彼は映画が大好きで、特に古い邦画を好んでみる。
・・・いえ、読み進む内にわかるのですが、
好きなのは映画自体ではなく、そこに登場する若い女優さん。
彼女にに一目惚れして以来、その女優が出演する映画に何度も通っている、
ということなのでした。
しかしその彼女は主演でも準主演でもなく、
ほんの端役で、登場するシーンもほんのわずか。
彼はそのほんのわずかなシーンをみるために、
彼女の出演するまれな映画館を探して通うということを続けていたのでした。
古い邦画なので、小さな映画館なのはもちろんですが、それにしてもいつも空いている。
ある時彼は、同じ映画を見に来ている一人の初老の婦人に気がつきます。

ある年齢に達した女性だけが持ち得るチャーミングさと、
どこかすずしげな目もとが、
女性なのに「ダンディ」と言いたくなる雰囲気をかもしだしていた。


と、こんな風に描写されています。
青年はこの婦人と何度も同じ映画館で会うのです。
その婦人の正体は・・・って、こんな風に書いてしまったら、バレバレかな?
しかし、私も年をとったらこんな風になりたいという理想像だなあ・・・と、
つくづく思ってしまったのですね。
私もいつも一人で映画を見に出かけるのでなおさら・・・。
でも、アレですよね。
これはたぶん若い頃はかなりの美人だったという雰囲気がありますね。
となると私は難しいかな・・・。
どう見ても、どこにもいそうなただのおばちゃんかも。


さて、話を戻しまして、
このオーリィくんが勤めることになるサンドイッチ屋さんのご主人とその息子、
大家さん等、彼を取り巻く人々との交流が描かれます。
メルヘンではないのに、どこかメルヘンのようなにおいがする。
日常を描いていて、生活感はあるのに生活臭がない。
一人一人が温かみと胸の奥にちょっとした哀しみを抱いていて、誰にも好感が持ててしまう。
こんな全体の雰囲気はやはり、つむじ風食堂と同じです。
この感覚、やっぱり好きだなあ・・・と再認識しました。

最後に、「名なしのスープ」のレシピもありますよ。
役に立つかどうかは・・・謎。

満足度★★★★★