誰かのせいにしたい
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女子中学生の添田花音(伊東蒼)は、スーパーで万引きしようとしたところを
店長の青柳(松坂桃李)に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれて死んでしまいます。
娘に無関心だった花音の父親・充(古田新太)は、
せめて娘の無実を晴らそうと、
事故に関わった人々を厳しく追及し始め、モンスター化していきます。
気弱な青柳は、花音を追いかけて事故に遭わせてしまったことを悔い、
どんどん追い詰められていきますが・・・。
とにかく四方八方が苦しいのです。
まずこの父親が何しろ強権的で、人の話もろくに聞かずに怒鳴り散らす。
そんなだから妻はとっくに出ていっていて、娘は父親に思ったことを話すことも出来ない。
学校ではいじめを受けるとまでは行かないまでも、親しい友はなく孤立している。
そんな毎日が彼女を万引きに誘ったのだと思える。
青柳は、無理に花音を追いかけることまでしなければよかった・・・、
と自分の行為を悔いるばかり。
けれど、万引きを咎めたことは間違いではないはず、とも思う。
答のない悩みに気持ちは沈む・・・。
道路にいきなり飛び出した花音を轢いてしまった車の運転者。
花音の要領の悪さを責めてしまったことのある教師。
関係者はみな花音の死を悼み、
本当はどうすれば良かったのかと自分を問い詰める・・・。
そんな中で、充だけはひたすら誰かを責め続けるのです。
その心中を言い当てたのは、さすがによく分かっている、充の元妻でしたね。
あなたは自分が悪かったと思いたくないから、
誰かのせいにしたくて人を責めるのでしょう、と。
事態はこの本人同士だけにとどまらず、マスコミやSNSでも騒がれてしまうのです。
万引きを咎めたあげく人を殺してしまったスーパー。
誰に対しても口汚く怒鳴り、責め立てるクレイジーな父親。
あれこれ無責任に言い立てる方はさぞかし愉快でしょう。
もうこうなってしまっては、嵐が過ぎるのを待つしかないという感じです。
ここで青柳の味方をするスーパー店員のおばさん(寺島しのぶ)もいるのですが、
彼女が青柳をかばおうとする言葉や行為が
逆に青柳を追い詰めているという皮肉。
本当に人と人との距離感というのは難しいですね。
さて、こんなに苦しい物語でも、ラストにはふっと心が軽くなる終わり方をします。
それはほんの些細な出来事ではあるのですが・・・。
人の心というのは不思議。
どんなにつらくて死んでしまいたいようなことがあっても、
誰かの立派な言葉ではなく、ほんのちっぽけなきっかけで、
気持ちが上向くこともある。
人は本来生きようとするものだからなのかも知れませんね。
古田新太さん、実際こんな人につきまとわれ、責め立てられ続けたら、
死にたくなってしまいそうです。
何も言い返せず、ひたすら謝るしかない松坂桃李さん、お気の毒・・・。
藤原季節さんは、良い役どころでした!!
<シネマフロンティアにて>
「空白」
2021年/日本/107分
監督・脚本:吉田恵輔
出演:古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、趣里、寺島しのぶ、伊東蒼
攻撃性★★★★★
弱気度★★★★☆
満足度★★★★★