映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

空白

2021年09月30日 | 映画(か行)

誰かのせいにしたい

* * * * * * * * * * * *

女子中学生の添田花音(伊東蒼)は、スーパーで万引きしようとしたところを
店長の青柳(松坂桃李)に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれて死んでしまいます。

娘に無関心だった花音の父親・充(古田新太)は、
せめて娘の無実を晴らそうと、
事故に関わった人々を厳しく追及し始め、モンスター化していきます。

気弱な青柳は、花音を追いかけて事故に遭わせてしまったことを悔い、
どんどん追い詰められていきますが・・・。

 

とにかく四方八方が苦しいのです。

まずこの父親が何しろ強権的で、人の話もろくに聞かずに怒鳴り散らす。
そんなだから妻はとっくに出ていっていて、娘は父親に思ったことを話すことも出来ない。
学校ではいじめを受けるとまでは行かないまでも、親しい友はなく孤立している。
そんな毎日が彼女を万引きに誘ったのだと思える。

青柳は、無理に花音を追いかけることまでしなければよかった・・・、
と自分の行為を悔いるばかり。
けれど、万引きを咎めたことは間違いではないはず、とも思う。
答のない悩みに気持ちは沈む・・・。

道路にいきなり飛び出した花音を轢いてしまった車の運転者。

花音の要領の悪さを責めてしまったことのある教師。

関係者はみな花音の死を悼み、
本当はどうすれば良かったのかと自分を問い詰める・・・。

そんな中で、充だけはひたすら誰かを責め続けるのです。
その心中を言い当てたのは、さすがによく分かっている、充の元妻でしたね。
あなたは自分が悪かったと思いたくないから、
誰かのせいにしたくて人を責めるのでしょう、と。

事態はこの本人同士だけにとどまらず、マスコミやSNSでも騒がれてしまうのです。
万引きを咎めたあげく人を殺してしまったスーパー。
誰に対しても口汚く怒鳴り、責め立てるクレイジーな父親。
あれこれ無責任に言い立てる方はさぞかし愉快でしょう。
もうこうなってしまっては、嵐が過ぎるのを待つしかないという感じです。

ここで青柳の味方をするスーパー店員のおばさん(寺島しのぶ)もいるのですが、
彼女が青柳をかばおうとする言葉や行為が
逆に青柳を追い詰めているという皮肉。
本当に人と人との距離感というのは難しいですね。

 

さて、こんなに苦しい物語でも、ラストにはふっと心が軽くなる終わり方をします。
それはほんの些細な出来事ではあるのですが・・・。
人の心というのは不思議。
どんなにつらくて死んでしまいたいようなことがあっても、
誰かの立派な言葉ではなく、ほんのちっぽけなきっかけで、
気持ちが上向くこともある。
人は本来生きようとするものだからなのかも知れませんね。

古田新太さん、実際こんな人につきまとわれ、責め立てられ続けたら、
死にたくなってしまいそうです。
何も言い返せず、ひたすら謝るしかない松坂桃李さん、お気の毒・・・。

藤原季節さんは、良い役どころでした!!

 

 

<シネマフロンティアにて>

「空白」

2021年/日本/107分

監督・脚本:吉田恵輔

出演:古田新太、松坂桃李、田畑智子、藤原季節、趣里、寺島しのぶ、伊東蒼

 

攻撃性★★★★★

弱気度★★★★☆

満足度★★★★★

 


アーニャは、きっと来る

2021年09月29日 | 映画(あ行)

ユダヤの子どもたちを救え!

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1942年、ナチス占領下のフランス。
ピレネー山脈麓の小さな村。
羊飼いの少年ジョー(ノア・シュナップ)がユダヤ人のベンジャミンと出会います。
ベンジャミンは、離ればなれになってしまった我が娘・アーニャと
ここで会う約束をしているので待っているのです。
そしてユダヤ人の他の子供たちを安全なスペインへ逃がそうと計画を立てています。
それを知ったジョーは、ベンジャミンに協力することに。

また一方、ジョーはドイツ軍下士官・ホフマンと知り合います。
ドイツ兵なんかと口も聞きたくなかったけれど、
同じ山間部に育ったというホフマンは、
妙にジョーを気に入って親しく語りかけてくるのです。
そうして話をしてみれば、
ホフマンは気持ちの優しい、本来なら信頼できる人物だと、ジョーは思います。

やがて、ドイツの捕虜収容所からジョーの父が帰国。
父親はしばらくは生活が荒れていましたが、
やがてジョーのユダヤ人救出への関与を知り、
村人たちも一致協力して、子どもたちを逃がす大作戦が始まります。

フランス山間部からユダヤ人を国境越えさせて逃がすという物語、
これまでにも多くあります。
どれも面白いのは、その勇気ある心意気が私たちの胸を打つから。
今にもバレそうになるスリルもいいです。
大抵はそれと共に少年の成長が描かれていたりもします。

本作では、少年の祖父がジャン・レノ。
風格があって、頼りになります!!

そして、ドイツ軍のホフマン伍長の存在もまた欠かせません。
本来戦争なんかない方がいいと思っている彼は、
あるときジョーと山に鷲を見に行きます。

鷲にとっては国境も戦争もなく、ただこの山中で自由に生きていくだけ・・・
悠々と空を行く鷲の姿は、そんなことを思わせます。
どうして人は戦争なんかするのだろう・・・。

ジョーがただ闇雲にドイツ兵を恨んだり憎んだりするのではなく、
相手も同じ血の通った人間と認識するところが、大事ですね。
好きな物語です。

<WOWOW視聴にて>

「アーニャは、きっと来る」

2019年/イギリス・ベルギー/109分

監督:ベン・クックソン

原作:マイケル・モーパーゴ

出演:ノア・シュナップ、トーマス・フレッチマン、フレデリック・シュミット、
   エルザ・ジルベルスタイン、ジャン・レノ、アンジェリカ・ヒューストン

 

レジスタンス度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「スケルトン・キー」道尾秀介

2021年09月28日 | 本(ミステリ)

主人公は、サイコパス?

 

 

 

* * * * * * * * * * * *

19歳の坂木錠也(さかき じょうや)は、ある雑誌の追跡潜入調査を手伝っている。

危険な仕事ばかりだが、生まれつき恐怖という感情が欠如した錠也にとっては天職のようなものだ。

天涯孤独の身の上で、顔も知らぬ母から託されたのは、謎めいた銅製のキーただ1つ。

ある日、児童養護施設時代の友達が錠也の出生の秘密を彼に教える。

それは衝動的な殺人の連鎖を引き起こして……。

二度読み必至のノンストップ・ミステリ!

* * * * * * * * * * * *

 

本作主人公・錠也は、生まれつき恐怖の感情が欠落しています。
そんな彼が、あるとき児童養護施設時代の友人と再会し、衝撃の事実を聞かされます。

錠也の母親は、妊娠中にある男に襲われて命を奪われたのだけれど、
亡くなる寸前に錠也を出産。
ところが、その母親を殺したのが、その友人の父親だと言うのです。
父親はそのため刑務所に入っていたのだけれど、最近出所した、と。

友人の父親のために、自分の人生はめちゃめちゃになった・・・。
そう思った錠也は、復讐のため、父親に襲いかかり・・・。

 

錠也はつまり、何のためらいもなく人を殺すサイコパス・・・?
と、そのように思わせるように物語りは描かれています。

ミステリには犯人側から描かれるものも多いけれど・・・、
それにしても残虐なサイコパスの少年が主人公というのは、
読者としてはどうしていいかよく分からない。
やり過ぎなのでは?道尾秀介さん・・・
などと戸惑いつつ読み進んでいくと・・・。

ああ、やっぱりこれはしかけられたフェイクでした!
そのうえ、二重三重に用意された驚き。
なかなかのものです。

それにしても、錠也にも若干危ういところがないわけでもない。
でもそれを救っているのが、彼の亡き母親であり、
彼のことを気にかけてくれる間戸村。

サイコパスを描きながらも、こういうしっかりした「大人」を描くところが
著者のいいところだと思う次第。

 

「スケルトン・キー」道尾秀介 角川文庫

満足度★★★☆☆

 


MINAMATA ミナマタ

2021年09月27日 | 映画(ま行)

日本の片隅の苦しみを世界へ発信した男

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水俣病の存在を世界に知らしめた写真家、
ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミス夫妻の写真集「MINAMATA」を
題材としたストーリー。

奇人変人でない役のジョニー・デップを待っていましたので、さっそく見ました!

1970年代。
かつてアメリカを代表する写真家と称えられたユージン・スミス(ジョニー・デップ)ですが、
今は落ちぶれて、酒に溺れる日々。
そんな彼の元に、アイリーン(美波)と名乗る女性が訪れます。
彼女は熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって
苦しんでいる人々を撮影して欲しいという依頼をしに来たのでした。

それを受け、水俣にやって来たユージンは思いも寄らないものを見ることになります。
歩くことも出来ない子どもたち、
激化する抗議運動、
力で押さえ込もうとする工場側・・・。

水俣病のことはもちろん知っていたわけですが、
LIFE誌にのったユージン・スミスの写真でこの問題を世界中が知ることになり、
そしてようやく企業や国が重い腰を上げて対策に本腰を入れはじめた・・・
ということを初めて知りました。

ユージンが水俣を訪れた始めの頃は、
人々は症状の重い子供を見せることはもちろん、写真を撮ることも拒んだのです。
それは日本独特の「恥」の感情なんですね。
こんな子供を人様に見せられない・・・と。
悲しいことですが、それは理解できてしまうのです。
50年を経たこの日本でも・・・。
そしてまた、もしこの公害のことが大きく広まってしまったら、
この地域の労働者を支える工場も、水産業もダメになってしまう。
一方、有害物質に体を冒された人は大変な苦しみ背負い、命を奪われ、
そして、生まれた子どもたちは歩くことも人前に出ることもかなわず・・・。
住民の心もあちらとこちらで引き裂かれてしまっているのです。

なんとも単純には語れない話。

さて、ユージンは実はそれ以前に日本を訪れたことがあるのです。
それは太平洋戦争末期の沖縄。
その悲惨な戦争を彼は撮った。
それだから、アイリーンは彼に水俣を撮って欲しかったわけですが、
ユージンはその時のことがトラウマとして残っていて、
もう二度と日本には行かないと思っていたのでした。

彼は「昔は写真に写ると魂を吸い取られると、いわれたものだ。
だけれども、実は撮る方も魂を吸い取られるんだ」と言います。

ユージンは沖縄で心をすっかり吸い取られ尽くしてしまった、
と、そう感じていたのでしょう。
だけれども、また再び、この悲惨な病のことを世界に知らせなければ、
という思いに駆られていくのです。

 

ガッツリと重いテーマながら、ジョニー・デップの奥底にある愛嬌が
深刻さを少し救っています。
結局の所、何かへの信念や執着心を持つ役柄を演じることになるので、
奇人とまでは行かないまでもやはり「変人」っぽくなってしまう、
ジョニー・デップであります。

日本人の出演者もピカイチ。
是非とも見るべき価値のある一作。

 

<サツゲキにて>

「MINAMATA ミナマタ」

2020年/アメリカ/115分

監督:アンドリュー・レビタス

出演:ジョニー・デップ、ビル・ナイ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信

 

歴史発掘度★★★★★

闘争度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ホテルローヤル

2021年09月25日 | 映画(は行)

場末のラブホテルで

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釧路湿原を背に立つ小さなラブホテル、ホテルローヤル。
経営家族の一人娘雅代(波瑠)は、美大受験に失敗し、ホテルの仕事を手伝うことに。
アダルトグッズ会社の営業・宮川(松山ケンイチ)に淡い恋心を抱きつつ、
黙々と仕事をこなす毎日。
この先の何の目標もなく、ただ流されていると感じています。

こんなラブホテルにも、ひとときの非日常を求めて様々な客がやってくる。
そんな客たちの生活のほんの一端を垣間見ることも・・・。
あるときやってきたのはいかにもワケありの様子の、女子高生と成人男性で・・・。

桜木紫乃さん原作の、ご当地ストーリー。
ラブホテルが舞台なのに、意外とさほど刺激的なラブシーンは出てこなくて、
上品なできあがりです。
そこはまあ、波瑠さんなので。

冒頭は、閉館となり、廃墟のようになってしまったホテルローヤルのシーンから。
このように時が過ぎ去っても、人々の営みは変わらない・・・。
今はない、その時々の人々の心が、さまよっているようでもあります。

ところで本作では、ホテルローヤルがあるのは釧路湿原を見渡せる高台。
こんないい場所なら、ラブホじゃなくてこじゃれたペンションでも建てれば良かったのに
・・・なんて思ったりします。
ま、余計なお世話ですけれど。

そもそも、まだそんな経験もないのに、こんなところで働きはじめた雅代の、
ちょっぴり情けなく切ない感じがうまく表わされています。

「セックスってそんなにいいものですか?」

と、宮川に問う雅代。
その時の宮川は・・・。
うーん、いい奴だなあ、こいつ。

しみじみ来ます・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「ホテルローヤル」

2020年/日本/104分

監督:武正晴

原作:桜木紫乃

出演:波瑠、松山ケンイチ、余貴美子、伊藤沙莉、岡山天音、夏川結衣、安田顕

 

さびれた場所度★★★★☆

満足度★★★.5

 


アナザーラウンド

2021年09月24日 | 映画(あ行)

酔いどれ教師

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マーティン(マッツ・ミケルセン)は、高校の歴史教師。
最近家庭はギクシャクするし、授業もやる気が起こらず、
ぼそぼそ話す内容もメチャメチャなので、生徒や父母から苦情が出る始末。

そんなマーティンは、同様にあまりぱっとしない同じ高校の同僚たち4人と
集まっては雑談を繰り広げています。
あるとき、ノルウェーの哲学者が提唱しているという理論の話になります。

「血中アルコール濃度を一定に保つと(0.05%)仕事の効率が良くなり、想像力がみなぎる」

というもの。
彼らは、このことを証明するために、
朝から酒を飲み続けて常に酔った状態を保ったまま、授業をすることに。
すると、あんなに生徒たちが退屈そうだったマーティンの授業が盛り上がり、
生徒たちともよい関係になっていきます。
他の3人も同様に、絶好調!

しかし、次第に彼らには欲が出てきます。
もう少しアルコール濃度を上げればその効果ももっと大きいのでは?と。
そんなわけで、次第にエスカレートしていって・・・。

 

いやはや、みなまで言わずとも、その行き着く先は容易に想像がつくのですが、
その失敗はある一人にとっては重すぎたのでした・・・。

酒は飲んでも飲まれるな。
まさに、そういう物語です。
少しアルコールが入ったときの高揚感、それは良く分かります。
それで少しだけ緊張がゆるんでハッピーな気分になれるなら、それも良し。
でも、どうしても行きすぎてしまうものですしね・・・。

デンマークではお酒は16歳から飲めるのだそうな。
だから高校の卒業式の日に、生徒たちが大いに盛り上がって酒浸りになるシーン、
日本では考えられないですけどね。

ラストには、マッツ・ミケルセンのダンスのシーンなどもありまして、
これまで想像もしたことがありませんが、これがなんともカッコイイ!! 
それもそのはず、元々バレエ出身なのだそうです・・・。

本作の帰り、自分は飲んでもいないのに、
なんだか少し酔っ払った様な感じになっていました・・・。

 

<サツゲキにて>

「アナザーラウンド」

2020年/デンマーク/115分

監督:トマス・ビンターベア

脚本:トビアス・リンホルム

出演:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、

   マグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネビー

 

酩酊度★★★★★

満足度★★★.5

 


「すぐ死ぬんだから」内館牧子

2021年09月23日 | 本(その他)

セルフネグレクトに陥らないように

 

 

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78歳の忍ハナは、60代まではまったく身の回りをかまわなかった。
だがある日、実年齢より上に見られて目が覚める。
「人は中身よりまず外見を磨かねば」と。
仲のいい夫と経営してきた酒屋は息子夫婦に譲っているが、
問題は息子の嫁である。
自分に手をかけず、貧乏くさくて人前に出せたものではない。
それだけが不満の幸せな老後だ。
ところが夫が倒れたことから、思いがけない裏を知ることになる――。

* * * * * * * * * * * *

主人公は78歳、忍ハナ。
夫と営んでいた酒屋は息子に譲り、夫と2人で悠々自適のマンション暮らし。
彼女はいかにも年寄り臭い格好をすることを自らに禁じており、
しっかりメイクをして幾分ハデ目の服装でいつも決めています。
そんな妻を夫は褒め、「ハナは自分の宝だ」などという・・・。
さて、そんな夫がある日突然死。
夫の残した遺言状で家族は凍り付いた!

なんと、夫には愛人がいて、息子も一人いるという。
しかもその関係は40年近く続いていたことになる・・・。
思いも寄らない夫の秘密暴露に、
驚き、あきれ、そして怒りが込み揚げるハナ・・・。

ということで、このあとハナがどのように心を落ち着けて、
生きていこうという気持ちを取り戻していくのか、という物語になります。

 

本作、内館牧子氏の最近作。
本当にこのストーリーは若い人には書けないだろうと思いました。
いかにも、高齢者であればこそ、実感するところが多々。

彼女は、老人が「すぐ死ぬんだから」などといって、
何もかも諦めてしまってはいけないといいます。
その言葉を免罪符にして、自分を磨くことを怠るべきではない、と。
「すぐ死ぬんだから」と、自分に手をかけず、外見を放りっぱなしという生き方は、
「セルフネグレクト」だと。
セルフネグレクト、すなわち自分で自分を放棄すること。

いくつになっても生きる意欲・気力を失わないための第一原則として、
セルフネグレクトに陥らないよう、頑張らなくては・・・と思う次第。

 

それにしても、終盤でハナは思うのです。
「先は長い。先はないのにだ。」
このハナの思いは完全に今の私につながっていて、
思わず本を読みながら頷いてしまいました。

どんどん寿命が延びて女性ならほとんど90歳くらいまで生きなければならないのに、
何にもするべきことがない・・・。

はてさて・・・と、考えてしまうこの頃。
本作で、ハナさんのやるべきことが見つかったのが、つくづくうらやましいです。

 

いろいろな意味で刺激的な作品でした。

 

<図書館蔵書にて >(単行本)

「すぐ死ぬんだから」内館牧子 講談社

満足度★★★★★

 


ファンシー

2021年09月22日 | 映画(は行)

切った張ったの世の中の、片隅のファンシー

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地方のさびれた温泉街。
彫り師で、日中は郵便配達員をしている鷹巣明(永瀬正敏)。
ペンギンというペンネームの引きこもり詩人(窪田正孝)の所に
ファンレターを配達する折に親しくなり、いつもそこで少しサボっています。
そんなペンギンの元に、
いかにも夢見がちの女性“月夜の星”が押しかけ妻としてやってくる。
しかし実は、ペンギンは性的不能・・・。
鷹巣は、彼女の様子が気になって・・・。

本作は山本直樹さんの同名短編漫画が原作となっています。
あらすじだけみれば、単なる三角関係。
でも、これ、ラブストーリーではありません。

このさびれた温泉町で、鷹巣の身の回りのヤクザやら地元の人々やらの
愛憎渦巻く暴力沙汰が頻発。
殺人も日常茶飯事のごとく起こっているのです。
でもそれはこの三人には直接的には関わらず、
言ってみれば、よその出来事。

いや、その暴力に満ちた町こそが通常の世界なのかも知れない。
そこから、まるで異次元のように、
男女の複雑な関係と感情を絡み合わせるこの三人のドラマこそが、
「ファンシー」だと言っているのかも知れません。

鷹巣は、父親から受け継いだ言葉を生きる信条としています。

「自分の乗っているのがたとえドロ舟だろうとも、
その上にいる時間は自分の時間だ。
自分の旅を楽しめ。」

・・・というわけで、普通に言う「正しいこと」には囚われず、
自分がやりたいと思うことをやってみれば・・・?
という、生きることに行き詰まった場合には胸に染み込んでいきそうなお言葉。
そういうのもいいかも、です。

<Amazon prime videoにて>

「ファンシー」

2019年/日本/102分

監督:廣田正興

原作:山本直樹

出演:永瀬正敏、窪田正孝、小西桜子、田口トモロヲ、宇崎竜童

 

暴力度★★★★☆

エロス度★★★★☆

満足度★★★.5

 


浜の朝日の嘘つきどもと

2021年09月21日 | 映画(は行)

100年の歴史を守れ

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福島県南相馬に実在する映画館を舞台としています。

福島中央テレビ開局50周年記念作品として2020年10月に放送された
同タイトルテレビドラマの前日譚に当たるとのこと・・・。
残念ながら、そちらは見ていませんでしたが・・・。

100年近く地元住民の思い出を育んできた福島県の映画館、朝日座。
シネコン全盛の時代の流れには逆らえず、
支配人森田(柳家喬太郎)はついに閉館を決意。
残っていた映画のフィルムに火を付けたその時、
突然現れた若い女が、その火に水をかけます。
茂木莉子と名乗るその女(高畑充希)は、
経営が傾いた朝日座を立て直すためやって来たと言うのですが・・・。

マスコミに訴えたり、クラウドファンディングを募ったり、
一時は立て直しも波に乗りそうではあったのですが、
この場所にスーパー銭湯とリハビリ施設を作るという
対立案に地元住民の心は揺れ始めます。

映画はほんのひとときの娯楽だけれど、大きな施設が出来れば雇用も生まれて、
東京に出た家族も戻ってくるかも知れないし、日々の生活にも役に立つ。

そう言われてしまうと、なかなか太刀打ちが難しいというのも頷けるところ。
けれど、ここではこの茂木莉子、いえ、本名・浜野あさひが
なぜこんなにも映画好きなのか、
そして、この映画館にやって来ることになった理由が
平行して語られることによって、映画館の意義を浮かび上がらせて行きます。

支配人を「じじい」と呼ぶ、あさひのなんとも口の悪いさまが、
いっそ心地よいのです。
こんな彼女は高校生の頃、死をも考えたことがある。
その事情というのがまた、福島つながりなのですが、
なんとも理不尽で考えさせられる点、多々です。
その彼女の心を救ったのが教師の田中茉莉子(大久保佳代子)。
この、奔放な教師像もいいなあ・・・。
本当に、こんな人が各校に一人くらいいて欲しいです。

私自身、映画はテレビやネット配信で見ることも多いですが、
やはり劇場で見ることも止められません。
何しろ集中出来るし、始まるときのあのわくわく感は、格別。

そんな私も、映画は半分は「暗闇」を見ているのだ、
ということは本作で初めて知りました!! 
これまで映写機の仕組みも実は分かっていなかった、とは・・・!

<サツゲキにて>

「浜の朝日の嘘つきどもと」

2021年/日本/114分

監督・脚本:タナダユキ

出演:高畑充希、柳家喬太郎、大久保佳代子、佐野弘樹、甲本雅裕、光石研

 

映画愛度★★★★★

満足度★★★★☆


とんかつDJアゲ太郎

2021年09月19日 | 映画(た行)

トンカツを揚げるのも、フロアをアゲるのも同じ・・・!?

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ギャグ漫画が原作ということで、お笑い要素たっぷり。
北村匠海さんはかなりおとぼけています。
コミカルなのも悪くはないけれど、クールな彼の方がやっぱりいい・・・。

 

渋谷の老舗とんかつ屋3代目、アゲ太郎(北村匠海)。
しかし、まだ父(ブラザートム)にはカツを揚げさせてもらえず、
毎日キャベツの千切りばかりです。

ある日、弁当の配達で初めて足を踏み入れたクラブで、憧れていたソノコに出会い、
そしてフロアを盛り上げるDJのプレイにこれまで味わったことのない高揚感を覚えます。

そこで彼は、DJになることを決意!!
友人たちとDJをやっている風のYouTubeを作り、そこそこ人気がでますが、
いやいや、これはどう見てもシロウトのお遊び。

ソノコには全く興味を示してもらえず、ほんもののDJとの違いに唖然とするアゲ太郎。
ある日、彼は気づきます。
トンカツを揚げるのも、DJでフロアを揚げるのも同じだ、と(!?)

そもそもトンカツ屋を継ぐことにもさして興味が持てないでいたアゲ太郎ですが、
DJをやり始めると共にトンカツにも興味が出てくる、
という生活密着型の物語はちょっといいと思います。
彼の父親はかなりの職人気質ですが、息子に対して過激な期待はしておらず、
そのうち息子が本当にヤル気になったら技を伝授すればいい、
と、のんびり構えている様子。
息子のDJかぶれにはちょっとあきれていますが。

変にど根性物語風でないのも今風でしょうか。
加藤諒さん、浅香航大さん、栗原類さん等、
個性たっぷりのアゲ太郎の幼なじみの友人たちもおかしい。

ところで本作も「十二単衣を着た悪魔」と同様に、
伊藤健太郎さんと伊勢谷友介さん出演という二重苦。
しかもとびきりの役柄ですねえ。

伊藤健太郎さんは、カリスマDJで、とても存在感のある役。
カッコイイのです。

やはりスクリーンに戻ってきて欲しい・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

2020年/日本/100分

監督・脚本:二宮健

原作:イーピャオ、小山ゆうじろう

出演:北村匠海、山本舞香、伊藤健太郎、加藤諒、浅香航大、栗原類、伊勢谷友介、ブラザートム

 

コミカル度★★★★☆

満足度★★★.5

 


「がん消滅の罠 完全寛解の謎」岩木一麻

2021年09月18日 | 本(ミステリ)

医師でなければ出来ないこと

 

 

* * * * * * * * * * * *

呼吸器内科の夏目医師は生命保険会社勤務の友人からある指摘を受ける。
夏目が余命半年の宣告をした肺腺がん患者が、
リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後も生存、
病巣も消え去っているという。
同様の保険金支払いが続けて起きており、今回で四例目。
不審に感じた夏目は同僚の羽島と調査を始める。
連続する奇妙ながん消失の謎。
がん治療の世界で何が起こっているのだろうか―。

* * * * * * * * * * * *

最近本作の続編が出たようなのですが、まずは一作目を拝見。
2016年 第15回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。


医師である夏目が、がん患者の不思議な現象の一致に気づきます。
がんで余命宣言を受けた患者が、
保険のリビングニーズ特約により生前給付を受け取った後も生存し、
病巣も消え去っている。
一件くらいならそんなこともあるかもしれない。
しかし、他にも何件か、同様の例が・・・。
詳しく調べていくと、それはどれもある病院が関わっていることがわかってきますが・・・。

 

何やら、医学書?かと思う題名ですが、医療ミステリです。
普通の人には思いもつかないストーリーですが、
その道に通じている人ならではの医療ミステリですね。
しかも、素人にもわかりやすく描いてあって、
がんのメカニズムが少し分かりました。
興味深い謎解きだったと思います。


人の命を扱う医師が、独りよがりの正義感で突き進むと
恐ろしいことになりかねない・・・、と。
私たちは、医師に対して無条件に信頼を寄せているけれど、
本当にそれでいいのか?
なんて思ったりして。
本作は弱者に寄り添い、金持ちからはそれなりにふんだくる
という点では、痛快でしたけれど。

<図書館蔵書にて>

「がん消滅の罠 完全寛解の謎」岩木一麻 宝島社

満足度★★★☆☆


先生、私の隣に座っていただけませんか?

2021年09月17日 | 映画(さ行)

想像か?、現実か?

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黒木華さんと柄本佑さんが夫婦役、というところに興味を引かれました。

早川佐和子(黒木華)と早川俊夫(柄本佑)は、漫画家夫婦なのですが、
俊夫の方はもう何年も新作を描いていません。
妻の作品のアシスタントを務めるばかり。

そんなある日、妻佐和子が描き始めた新作のネームを俊夫が目にします。
そこには自分たちとよく似た夫婦が描かれています。
そして、佐和子の編集者である桜田(奈緒)と俊夫と思われる
二人の大胆な浮気のシーンが。
ムチャクチャ心当たりのある俊夫はドッキリ。
そしてさらにその上、佐和子と彼女が通っている自動車教習所の若きイケメン先生の
「恋」らしきものが・・・。

これは妻の全くの想像の物語なのか、
それとも現実をそのままなぞったものなのか、
はたまた、妻が浮気をした自分への復讐なのか・・・?
思い悩んでしまう、俊夫。

この表題の「先生」というのは、佐和子から見て、
漫画の師でもある夫・俊夫を指すものなのか、
それとも、自動車教習所の教師・新谷(金子大地)を指すものなのなのか。
つまりはそこが問題なのであります。

佐和子はなかなか自分の思いを口に出すことをしない人物。
ちょっとめんどくさい。
その彼女が、夫が見ることを想定してこのネームは描かれていますよね。

和佐子は夫のことを嫌いではない。
そこそこ優しいし、自分のことを大事にしてくれている。
そして彼女は、自分が漫画家になるきっかけを作ってくれた夫の才能を信じているので、
自分の作品を描いて欲しいという思いもあるのです。
けれど、そんな夫が浮気をしている現場を見てしまった・・・!

 

彼女の心の葛藤は、作中では語られないのです。
私たちは俊夫と共にオロオロするのみ。
そして最後に、ハッピーエンドに向かったように見えるのですが・・・!
そんなに甘い話じゃありませんでした~。

夫の裏切りを許せるのかどうか、それは個々の女性によっていろいろでしょうね。
でもつまりはその裏切りをなかったかのようにそのまま共に過ごせるのか、
それとも忘れられる訳がないので別れるしかないと思うのか、
そういう選択の問題なのだと思います。
もうここに至っては、夫自身が何をしようと関係ない・・・。

不倫は、そういう覚悟がないのなら、よした方がいいですね・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「先生、私の隣に座っていただけませんか?」

2021年/日本/119分

監督・脚本:堀江貴大

出演:黒木華、柄本佑、金子大地、奈緒、風吹ジュン

 

疑惑度★★★★★

満足度★★★.5

 


ミナリ

2021年09月16日 | 映画(ま行)

新たな地に根を下ろす

* * * * * * * * * * * *

1980年代アメリカ南部。
農業での成功を目指し、
家族を連れてアーカンソー州の高原に移住してきた韓国系移民ジェイコブ。
荒れた土地とボロボロのトレーラーハウスを目にして
妻・モニカは不安を抱くのですが、ジェイコブは希望に燃えています。
やがて、子どもたちの面倒を見るために妻の母・スンジャが韓国から呼ばれてやって来ます。
夫婦と子供2人、そしておばあちゃん。
賑やかな暮らしになりますが、しかし、農場の経営は思うように順調にいかず、
追い詰められていきます・・・。

アメリカでは貧乏人の象徴のようにして、よく映画でも見かけるトレーラーハウス。
でも、意外と中は普通の家と変わらぬ作りで
(日本の住居から見ると、全然狭い感じはしない)
私はちょっと住んでみたい気がしたりします・・・。

この一家は、韓国からいきなりこの地に来たわけではなくて、
アメリカのいくつかの地を渡り歩いてここまで来たようです。
夫は理想に燃えているけれど、妻は現実的。
きっと農業はそんなにうまくいかず、この地も去ることになる、
とハナから思っているようでもある。

さてそこへやって来たおばあちゃんがナイスです。
料理はしない。
口が悪い。
子どもたちに教える遊びは花札。
始めのうちは子どもたちに嫌われてしまいますが、元来子供の扱いはうまい。
すぐに仲良くなります。
このおばあちゃんが、川岸に“ミナリ”のタネを撒くのです。
ミナリ、すなわちセリですね。
韓国からもってきた、この地にはないミナリのタネ。
この一家にいろいろなつらいことが襲いかかり、
なんとか耐え抜いたラストシーンは、その川岸。
いつの間にかミナリがしっかりと根を下ろして、生い茂っているのです。
よそからやって来た「移民」とミナリが重ね合わせられています。
シャクシャクとして鮮烈な、仙台名物セリ鍋を食べたくなりました・・・。

ジェイコブはまず畑に必要な水源を探そうとします。
現地のアメリカ人はダウジングというのでしょうか、
棒を両手で持って指し示す場所を掘ればいい、と言います。
でもジェイコブはそんなものは信じず、それよりも頭を使えばいいのだ、と言います。
低くなっていて、木があるところ、そこに地下水がある、と。
確かにそこを掘ると水があったのですが、やがてその水は涸れてしまいます。

地下水が得られず水道水を使ったために、費用がかさみ
やりくりが苦しくなっていく・・・と言う悲劇へ続くのですが、
色々あった終盤、ジェイコブはついにダウジングの業者に頼るシーンが描かれていました。
郷に入れば郷に従え、という言葉もありますね。
自分たちのやり方と、その土地ならではのやり方。
試行錯誤して良い方法を考えていく。
土地の人たちとの交流もまたしかり。
そうしてやがて彼らもこの土地に根を下ろして行くのでしょう。

ステキな作品でした。

「ミナリ」

2020年/アメリカ/115分

監督・脚本:リー・アイザック・チョン

出演:スティーブン・ユアン、ハン・イェリ、アラン・キム、
   ノエル・イイト・チョー、ユン・ヨジャン、ウィル・パットン

 

おばあちゃんのたくましさ★★★★★

開拓精神度★★★★☆

満足度★★★★★


鳩の撃退法

2021年09月15日 | 映画(は行)

読書体験すべき作品

* * * * * * * * * * * *

本作は、原作本がすごく好きだったので、まあ一応見ておこうかな、と。

かつて直木賞を受賞した小説家・津田伸一(藤原竜也)は、
新作をしばらく描けていません。
いまはデリヘル嬢の送り迎えをして、生活をしています。
そんな彼が最近、編集者の鳥飼(土屋太鳳)に、執筆中の新作を見せ始めます。

その内容は、フィクションと津田は言うのですが、
彼の身の回りの出来事がそっくりそのまま描かれているようでもある。

津田とコーヒーショップで出会った日に失踪したバーのマスター。

津田が古書店店主に託された鞄の中の3000万円の札束。(ニセ札?)

それらはどうやら裏社会を仕切る“あの人”につながっていくようなのだけれど・・・。
そして何やら津田の身の危険も迫ってきている。
いや、そもそもどこまでが津田の物語で、
どこまでが実際に起こっていることなのやら、次第に混沌としてきます。

私、本作の津田役が藤原竜也さんと知ったときにちょっと残念な気がしたのです。
津田には、私はもう少しヘタレな感じのイメージを持っていたので。
藤原竜也さんはいかにもギンギンだもんなあ・・・。
でもまあ、映画作品としては一応の出来にはなっていたと思います。

ただ、多くのちらばったエピソードの一つ一つ、その関係が明らかになっていく、
あの心地よさ、2時間足らずの映画ではそれがあれよあれよと進んでしまって、
味わっているヒマがありません。
映画だけを初めて見た方に、すべての関連が把握できたでしょうか?

でも読書だと、そのゆったりとした読書時間のなかで、
徐々に真相が姿を現すという楽しみを味わうことが出来ます。

やっぱり、本作は読書体験すべき作品だなあと改めて思う次第。

<シネマフロンティアにて>

「鳩の撃退法」

2021年/日本/119分

監督:タカハタ秀太

原作:佐藤正午

出演:藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介、西野七瀬、岩松了、
   ミッキー・カーチス、リリー・フランキー、豊川悦司

 

原作再現度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


「心音」乾ルカ

2021年09月13日 | 本(その他)

心臓移植を受けて生きることは罪なのか?

 

 

* * * * * * * * * * * *

城石明音は先天性の心疾患を患っていた。
8歳の時に病状が悪化し、両親は渡米しての心臓移植手術を決断する。
しかし、そのためには1億5千万円という莫大な費用が必要だった。
懸命の募金活動の末、募金額は目標額を超え、明音はチャーター機でアメリカに渡った。
幸いドナーも見つかり、手術も無事に成功し、明音は一命を取り留めた。
誰もが明音の生を祝福しているかのようだった。
このときまでは―。
募金活動と心臓移植手術によって命を救われた少女・城石明音の半生を、
教師、同級生、夫など周囲の人間の目を通して描いた、骨太の人間ドラマ!!

* * * * * * * * * * * *

骨太の人間ドラマ・・・?
なんか、そういう感じでは全然なかったと思います。

 

8歳の時に心臓移植をして命を取り留めた、明音。
そのためには1億5千万円もの費用が必要で、
募金活動によりなんとか渡米して手術を受けることができた。
本作はその後の明音の人生を綴るストーリーです。

 

本作、このような心臓移植を世間の人は忌み嫌う、
ということを前提に書かれていると感じました。
うーん、実際問題としてSNSであれこれ書き立てられそうなのは想像はつきますが・・・。
でも本当にこんな風に学校ぐるみで手術をした子がいじめられる
なんていうことが本当にあるでしょうか・・・? 
あるのなら私がよほどお人好しということになります。

命をお金で買った。
移植の順番待ちをしていた人もいたのに、横入りした。
死んだ人の犠牲の上に、生き残った・・・。

あるのは非難の声ばかり。
当時、8歳の子供に何の責任があるでしょう。
しかも、彼女に味方するように見えた人物たちは、
結局「自分の思い」ばかりを募らせて、
明音自身の心情には寄り添おうとしない。
そして母親は「人様の命や善意をもらって生きているのだから、しっかりと生きる責任がある」という。
こんな、重荷ばかりの人生にどう耐えればいいのでしょう・・・。

 

私、こういう不条理なまでのいじめとか人権侵害には憤りを感じるばかりで、
全く感動できませんでした。
そもそも本作で著者は何を言おうとしていたのか。
私には読み取れません。

 

<図書館蔵書にて>

「心音」乾ルカ 光文社

満足度★★☆☆☆