映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「働く男」星野源

2015年12月31日 | 本(エッセイ)
星野源にハマりそう・・・

働く男 (文春文庫)
星野 源
文藝春秋


* * * * * * * * * *

音楽家、俳優、文筆家とさまざまな顔を持つ星野源が、
過剰に働いていた時期の自らの仕事を解説した一冊。
映画連載エッセイ、自作曲解説、手書きコード付き歌詞、出演作の裏側ほか、
「ものづくり=仕事」への想いをぶちまける。
文庫化にあたり、書き下ろしのまえがき、ピース又吉直樹との「働く男」同士対談を特別収録。


* * * * * * * * * *


この頃、映画でもよく見かける星野源さん。
先にTVドラマ「コウノドリ」の、「しのりん」で、
私はすっかり星野源さんファンになってしまいました。
それで、目についいたこの本をさっそく手にとってみました。


実は本作の初版の帯にはこんな言葉が書かれていたのだそうです。

「どれだけ忙しくても、働いていたい。
ハードすぎて過労死しようが、僕には関係ありません。」


いやいや、しかし、この本の入稿直後に、倒れたのですね! 
脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血。
その頃、私はそもそも星野源さんのことをよく存じていなかったのですが、
さすがにTVの芸能ニュースで取り上げられていたので、知っています。
過労が直接の原因ではなかったとのことですが、
その後彼も「働き続けること」に快感を見出すような突っ走り方をやめたそうで・・・、
何にしても無事復帰出来て良かったですね! 
ただ、テレビに映画、音楽活動・・・、
今も十分過ぎるくらいに突っ走っているように見受けられるのですが、どうぞご自愛を。


さて、本作は雑誌「ポパイ」に掲載された映画コラム「ひざの上の映画館」をまとめたものに、
その他星野源さんの活動がわかる様々なものを加えて一冊の本としています。
この文庫だけの特別付録として、又吉直樹さんとの対談も。
私が興味を持ったのは、やはりこの映画コラムです。
ラインナップは『ルドandクルシ』『ハート・ロッカー』
『プレシャス』『ザ・ロード』『英国王のスピーチ』など、
私も見たことがあるものが多くて、親しみを感じます。
そしてまた彼の文章は「映画評」ではなくて、
この映画で喚起された自分の思いをエッセイ風にまとめているというふうなのです。
実は私、本当はこんなふうな文章を書きたい!と常々思っているのですが、
いつもストーリー紹介で体力を使い果たしていることが多く・・・
うーん。やられました。
星野源様、ついていきます!


それと、なんだか全体に「男っぽい」感じがします。
どこがどうとは言えないまでも、やっぱり女の発想ではないところがそこここに感じられる。
なかなか、私には刺激的でした。


「働く男」星野源 文春文庫
満足度★★★★☆



遙かなる山の呼び声

2015年12月30日 | 映画(は行)
意図は見え見えだけど・・・

* * * * * * * * * *

久しぶりに高倉健さんが見たくなりました。
しかし、本作は見始めてから、お~っと!です。


北海道根釧原野の酪農の町、中標津。
民子(倍賞千恵子)は一人息子を育てながら、亡夫の残した土地で牛飼いをしています。
ある夏、以前、一夜を納屋に泊めてあげた男(高倉健)が訪ねてきて、
働かせて欲しいという。
人出がないところでもあり、申し出を受け入れることに。
しかしこの男、田島は、なにかわけありなようで、あまり自分のことを語ろうとしません。
実は、殺人を犯して、警察から逃げていたのです。


舞台が北海道。
高倉健に倍賞千恵子。
武田鉄矢まで出てくる本作は完全に
「幸福の黄色いハンカチ」の二匹目のドジョウ狙いでした。
「幸せの~」は1977年。
本作は80年の公開です。
ところで、ここの息子役がまだ小学生の吉岡秀隆で、純くん!!ですね。
彼が「北の国から」に出演する以前、という意味では、結構お宝作品。
そして、渥美清やなんと畑正憲さんまで出てくる、なかなかオイシイ作品なのでした。


それにしても、北の町。
線路。
罪人。
こういうのが健さんにはよく似合う。
母と息子のところに転がり込んでくる風来坊、という意味では「シェーン」の雰囲気もあります。
健さんが馬に乗ってますし・・・。
結局本作、「幸福の黄色いハンカチ」の前日譚みたいな話でした。


遙かなる山の呼び声 [DVD]
山田洋次,朝間義隆
松竹ホームビデオ


「遙かなる山の呼び声」
1980年/日本/124分
監督:山田洋次
出演:高倉健、倍賞千恵子、吉岡秀隆、鈴木瑞穂、ハナ肇、武田鉄矢、渥美清
満足度★★.5

「紫紺のつばめ」 宇江佐真理

2015年12月28日 | 本(その他)
2巻目というのに驚きの進展

紫紺のつばめ―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)
宇江佐 真理
文藝春秋


* * * * * * * * * *

材木商伊勢屋忠兵衛からの度重なる申し出に心揺れる、深川芸者のお文。
一方、本業の髪結いの傍ら同心の小者を務める伊三次は、
頻発する幼女殺しに忙殺され、二人の心の隙間は広がってゆく…。
別れ、裏切り、友の死、そして仇討ち。
世の中の道理では割り切れない人の痛みを描く人気シリーズ、波瀾の第二弾。


髪結い伊三次捕物余話 第2弾です。
期待に違わず、伊三次とお文さんの進展具合がなかなかスリリング。
冒頭から、伊三次の早合点から、二人の仲はふっつりと途切れてしまうのです。
こうなると二人共嫌になるくらいに意地っ張りだから、
そう簡単にはことは収まりません。
そしてまた「菜の花の戦ぐ岸辺」では、
なんと伊三次が小間物問屋のご隠居さん殺しの疑いをかけられてしまう。
その時、伊三次を使う同心、不破友之進が伊三次を庇わなかった。
そのことで心にキズを受けた伊三次は、不破の元を去ることになるのです。


長いシリーズ、まだ2巻目というのに結構驚きの進展でした!


「鳥瞰図」には、絵師のところで働くまだ幼い少年が描いた
江戸の街を見下ろす鳥の目線の絵を、伊三次が感動の眼で観るシーンがあります。
人の世の嬉しいことも嫌なことも、
鳥のように上空から眺めればちっぽけなものなんだな・・・と、感じ入る伊三次。
そんなことで、彼の色々なこだわりも少し解けていくのですね。
そのためかどうか、とりあえず本巻のうちに二人はよりを戻していくので一安心。


最後の「摩利支天横丁の月」は、江戸の町娘たちが何者かにかどわかされてしまうのです。
彼女たちは結局無事に解放され、戻ってくるのですが、
誰ひとりとしてその時のことを語ろうとしません。
その訳というのには、しんみりしてしまうのです。
女たちがくるくるといつも働きまわリ一生を終える時代ならではの話、
ということになりましょう。


ほかにも不破の妻、いなみの復讐のこと、伊三次の弟分、奇妙ななりをした弥八の恋心のこと。
それぞれの思いを綴る情緒たっぷりの物語を堪能しました。


「紫紺のつばめ」宇江佐真理 文春文庫
満足度★★★★☆

ギリシャに消えた嘘

2015年12月27日 | 映画(か行)
ひりひりする人間関係



* * * * * * * * * *

1962年ギリシャ。
アテネでガイドをしているアメリカ人青年ライダル(オスカー・アイザック)が
パルテノン神殿で優雅なアメリカ人紳士チェスター(ヴィゴ・モーテンセン)と
妻コレット(キルステン・ダンスト)と出会います。
しかし、チェスターは本国で危ない仕事を手がけていたため、
彼の行方を探していた探偵が訪ねてくるのですが、
チェスターは誤って殺してしまうのです。
その後始末をライダルが手助け。
微妙な関係のこの3人が、警察の手から逃亡の旅をすることに・・・。



パトリシア・ハイスミス原作のサスペンス。
もともとライダルも、いい加減なやり方で観光客からお金を巻き上げていた
というようなヤクザな男なのです。
しかし、つい最近亡くなった自分の父とチェスターの顔立ちがどことなく似ていたことと、
妻コレットに惹かれるものがあったことで、彼らに関わるようになったのですね。
ただし、彼と父は上手くはいっていなくて、
ちょっと反発する気持ちもあるのです。



一見裕福で気持ちにもたっぷりゆとりがあり、頼りになりそうな紳士チェスターが、
追い詰められ、身も心もよれよれになって、エゴを丸出しにしていきます。
そのためにまた新たな悲劇が起こる。
どこかチェスターを自分の父親と重ねてしまうライダルは、
上辺を取り繕ったチェスターに反発を感じつつ、
しかし次第に憔悴し本性を露わにしていく彼に親しみも感じていくのですね。
ひりひりしたこの2人の関係性が秀逸です。



それにしてもせっかくのギリシャの旅なのに、
警察の目を逃れながら・・・ということで気分は重い。
もう、さっさと捕まってしまったほうがいっそいいのではないかという気持ちと、
無事逃げ切ってほしいという気持ちに、
見ている私たちまでもが引き裂かれてしまいます。
しかしまあ、逃げ通せるはずもないものではありますが・・・。



この二人の間を余計複雑にしているのが妻コレット。
彼女と夫にはかなりの年の開きがあります。
無論夫を愛してはいるのですが、若いライダルに興味がなくはない。
特別頭がいいわけでもなく、むしろ凡庸な女。
ただしセクシー。
こういう女を、キルステン・ダンストが上手く演じています。



ギリシャに消えた嘘 [DVD]
ヴィゴ・モーテンセン,キルスティン・ダンスト,オスカー・アイザック
バップ


「ギリシャに消えた嘘」
2014年/イギリス・フランス・アメリカ/96分
監督:ホセイン・アミー
出演:ヴィゴ・モーテンセン、キルステン・ダンスト、オスカー・アイザック

ひりひりする人間関係度★★★★★
満足度★★★★☆

ミニオンズ

2015年12月26日 | 映画(ま行)
最も凶悪なボスを求めて



* * * * * * * * * *

「怪盗グルー」シリーズに登場する人気キャラクターのミニオンたちのストーリー。
とは言え、その「怪盗グルー」は見たことがないのですが、
このヘンテコだけどなんだかカワイイ、ミニオンを見かけることも多く、
興味を持っていました。
特に本作の予告編はにはちょっとそそられていました。
ということで、拝見。



人類よりはるか以前から地球上に誕生していたミニオンズ。
ただただ、その時代において最も凶悪なボスに仕えることを
目的として生きてきたのです。
しかし、失敗ばかりで長続きはしない。
ミニオンズにはとうとう仕えるボスがいなくなってしまい、滅亡の危機に晒されています。

そこで、代表者がボスを探す旅に出る。
兄貴肌のケビンと
いつもバナナが気になるステュアート、
そして弱虫のボブ。
彼らは、「大悪党祭り」でスカーレット・オーバーキルに出会います。
これこそ求めていた最強のボス、と彼らは狙い定めるのですが・・・。



70年代のロンドン。
まだ若いエリザベス女王が登場したり、
アビイ・ロードの横断歩道が出てきたりするのが楽しい。
ラストには思わぬスペクタクルシーンもあったりして、
私は思わず先日の「ラブ&ピース」を思い出してしまいましたが・・・



単純に楽しく笑えるアニメ。
別に悪党なんか出て来なくてもいいので、
ミニオンズのヘンテコな生活をもっとずっと見ていたいです。
ミニオンズが世界征服を目指した歴史上の人物のもとで
ドジを踏み続けたために、世界征服は失敗した、
というストーリーをシリーズ化してはどうでしょう?



ミニオンズ ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]
クリス・ルノー
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン


「ミニオンズ」
監督:ピエール・コフィン、カイル・バルダ


「天国でまた会おう 上・下」 ピエール・ルメートル

2015年12月24日 | 本(その他)
馬の首奇譚

天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
平岡 敦
早川書房


天国でまた会おう(下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)
平岡 敦
早川書房


* * * * * * * * * *

1918年11月、休戦が近いと噂される西部戦線。
上官プラデルの悪事に気づいたアルベールは、戦場に生き埋めにされてしまう!
そのとき彼を助けに現われたのは、年下の青年エドゥアールだった。
しかし、アルベールを救った代償はあまりに大きかった。
何もかも失った若者たちを戦後のパリで待つものとは―?
『その女アレックス』の著者が書き上げた、サスペンスあふれる傑作長篇。
フランス最高の文学賞ゴンクール賞受賞。
(上)

第一次世界大戦直後のパリでのしあがる実業家プラデルは、
戦没者追悼墓地の建設で儲けをたくわえていく。
一方、アルベールは生活のため身を粉にして働いていた。
そんな彼にエドゥアールが提案したのは、ある途方もない詐欺の計画だった。
国をゆるがす前代未聞のたくらみは、はたしてどこにたどりつくのか?
日本のミステリ・ランキング一位を独占した人気作家が放つ、
スリルと興奮に満ちた群像劇。
一気読み必至の話題作。
(下)


* * * * * * * * * *

単行本と文庫本が同時発売という、ピエール・ルメートルの新作。
ちょっと待って、文庫の上下を買ったら単行本より高かったりして、と一瞬思ったのですが、
安心してください(?)、
上下を買ってもまだ単行本よりはずっとお安いです。
私は、新刊の単行本を買うのは年に何冊かだけなのですが、
図書館に新刊をおかないようにするなどという話もでているようで、
全く腹が立ちますね!!。
どこまで庶民をいじめれば気が済むんだ!!


あわわ、全く話がずれてしまいました。
というわけで、庶民の味方の早川書房さんの英断に拍手しつつ・・・、
さて、本作。
気持ちとしてはヴェルーベン警部のその後を読みたいところですが、
本作は全く別のストーリーです。
ミステリと言うよりはサスペンス・・・、
いえ、むしろ「奇譚」という言葉がぴったりかも。


舞台は1900年代初頭、第一次世界大戦時。
アルベールというやや気弱でき真面目な一兵士の青年が、
プラデルという上官の悪事に気づいてしまったために、
戦場で生き埋めにされかけます。
彼を救い出したのは年下の青年エドゥアール。
が、しかしその直後、厳しい運命がエドゥアールを襲う。
なんと彼は砲弾を受けて、顔に穴が開きながらも生きながらえるという運命を背負ってしまった。
その後まもなく戦争は集結するのですが、彼らの苦しみはここからが始まり。
アルベールは自分の命を救ってくれたエドゥアールの頼みを聞き入れ、
死んだ兵士とエドゥアールの身分証を入れ替えてしまいます。
世間的にはエドゥアールは戦死したことになってしまった。
本当は非常に裕福な家の一人息子にも関わらず、
貧しいアルベールの家に世話になり、モルヒネにひたる毎日。
一方、彼らにこんな運命をもたらした元凶のプラデルは、
戦争での功績を認められ実業家として、戦没者追悼墓地の建設で設けていく。
なんと欲にかられた彼の結婚相手は、名家であるエドゥアールの生家の姉。
・・・おお、いよいよ、話が因縁めいてきました。
そんな時、すっかり生きる意欲をなくしていたエドゥアールが、あることを思いつきます。
それは国家をも巻き込む途方も無い詐欺行為なのですが・・・。


どこまでも真面目で気弱なアルベールにとっては、全く気の毒な出来事ばかり。
エドゥアールに振り回され、本当にどうなってしまうのかとヤキモキしてしまいますが、大丈夫。
ちゃんと納得の行く結末が用意されています。
そして振り返ってみれば、これはアルベールとエドゥアールの物語ではなくて、
エドゥアールとその父親の物語であった、と言っていいと思います。
ずっと互いに反目しあうだけで、理解しあうことができなかった2人が、最期の一瞬に・・・。
この劇的な一瞬が描きたくて書いたストーリーだったのでしょう。
まさしく、これそ「物語」。

確かに、気の毒な青年アルベールがどうなってしまうのか、
それが気になって気になって・・・
まさしく一気読みでした。

「天国でまた会おう 上・下」ピエール・ルメートル ハヤカワミステリ文庫
満足度★★★★★


あの日の声を探して

2015年12月23日 | 映画(あ行)
ドキュメンタりーのようで映画的



* * * * * * * * * *

1999年、第二次チェチェン戦争を舞台としています。
「アーティスト」でアカデミー作品賞を受賞したミシェル・アザナビシウス監督作品としては
ちょっと意外な気がしますが、ラストで、「さすが!」と思いました。


ロシアに侵攻を受けたチェチェン。
9歳の少年ハジは、両親を殺されたショックで声を失い、
赤ん坊の弟を連れて廃墟の村を出ます。
赤ん坊はやむなく見知らぬ人の家の前に置き、ひとりさまようハジ。
実は彼が死んだと思った姉は生きていて、
姉は二人の弟を必死で探し始めるのですが・・・。
街にたどり着いたハジは、フランスから調査に来たEU職員キャロル(ベレニス・ベジョ)と出会い、
共に暮らすことになります。
キャロルは戦争の前では無力な自分を感じていたのですが、
せめて一人の子どもでも救うことができるのならば・・・と、思ったのですね。



少しずつ心がほぐれ、言葉を取り戻していくハジ。
ラストの「出会い」のシーンはとても感動的で、つい、もらい泣き。
音楽が好きでいつもCDを聞いているハジ。
キャロルがダンスを誘っても嫌がって決して体を揺すったりもしないハジだったのですが・・・。
ある時、彼が一人の時をそっと覗いてしまうキャロルが見たものは・・・。
ちょっと目を見張りますね! 
そうか、ハジがようやく自分を語り始めた時に、
父親がすごくダンスが上手くて、彼はそれが自慢だったと話していましたっけ。



さて本作、このハジを取り巻くストーリーと平行して、
ロシア軍の兵士となった一人の青年・コーリャ(マキシム・エメリヤノフ)を追います。
ちょっと気弱なごく普通の青年。
彼は軍隊内の強烈なヒエラルヒーや理不尽な暴力にさらされるうちに、
人を殺すことにも動じない「立派な」兵士になっていきます。
その挙句が、実は本作の冒頭につながっているという、
淡々とドキュメンタリー風に追ってきたストーリーながら、
まさに「映画的」な驚きが待っているのでした。



ごく普通の人々が簡単に被害者になるし、また加害者の側にもなってしまうのだ
・・・ということですね。
そんな中でも、人々は必死に生きていこうとするし、
また、人のために手を差し出しもする。
おススメ作です。

あの日の声を探して [DVD]
ギョーム・シフマン,ミシェル・アザナヴィシウス,トマ・ラングマン
ギャガ


「あの日の声を探して」
2014年/フランス・グルジア/135分
監督:ミシェル・アザナビシウス
出演:ベレニス・ベジョ、アネット・ベニング、マキシム・エメリヤノフ、アブドゥル・カリム・スマツイエフ


海難1890

2015年12月20日 | 映画(か行)
約束された絆



* * * * * * * * * *

この日は「杉原千畝」に引き続いてこの「海難1890」を鑑賞。
いやあ、我が身の危険を顧みず、人のためにつくそうとする。
嫌でも感動が約束されたようなものですね。



1890年9月、オスマン帝国の親善訪日使節団を載せた軍艦エルトゥールル号が
おりからの台風のため、和歌山県沖で座礁。
乗組員618名が荒れ狂う海に投げ出されました。
地元住民の懸命な救助活動により69名が救われ
トルコへ帰還したという実話を映画化したものです。
うならされてしまうのが、この村の人々の
「困った人を助けるのはあたり前」という意識ですね。

もともと漁村なので、海で遭難した人はとにかく無条件で助けなければならない、と、
そのような意識が代々伝わっていたようなのです。
荒れ狂う海で人を救うというのも、自分自身が海に引きこまれてしまう可能性も大きい。
そしてまた救助した人の医療とか、食料。

どう見ても自分たちが食べるのにやっとそうな貧しい村で、
それでも村の人々は惜しげなく手を差し伸べるのです。
なかなか、このようにはできないなあ・・・。





そしてまた時を経て1985年。
イラン・イラク戦争で緊張高まるテヘランに取り残された日本人215人。
サダム・フセインが、まもなく空港への無差別テロを開始すると予告しているのですが、
日本から乗り入れている航空機がないため、足止めを食ってしまったのです。
そんな時トルコ機が最後の出航をしようとしていて・・・。



両時代の登場人物に同じ忽那汐里とケナン・エジェを充てたのが
素晴らしく効果的だったと思います。
双方の国が手を差し伸べ合う場面に登場する二人。
何やら始めから約束されていた絆のように思える、
運命的なこの二人の出会いが、感動を更に盛り上げてくれました。
いい話はやっぱりここち良いものです。
まずは手放しで感動に浸ればいい。



「海難1890」
2015年/日本・トルコ/132分
監督:田中光敏
出演:内野聖陽、忽那汐里、ケナン・エジェ、アリジャン・ユジエソイ、夏川結衣
歴史発掘度★★★★☆
感動度★★★★☆
満足度★★★★☆

百日紅 Miss HOKUSAI

2015年12月20日 | 映画(さ行)
私たちが思っていてよりも“自由”な江戸の町人たち



* * * * * * * * * *

漫画家であり、また江戸風俗研究家でもあった、
杉浦日向子さん作品のアニメ化作品。


浮世絵師葛飾北斎の娘・お栄は、父と同じく浮世絵師として暮らしています。
そんな彼女を取り巻く江戸の四季、盲目の妹・お猶、そして父北斎のことなどが描かれています。



最近読んだ杉浦日向子さんの「一日江戸人」の中で、
江戸時代、武士は様々な制約に苦しんでいたけれど、
町人は実に気ままで自由だったというようなことが書かれていました。
なるほど、本作中のお栄は、絵師として自立できていたためかもしれませんが、
実に自由な精神の持ち主。
それは、今だからこそそんな風に勝手な想像でそういう女性像が描けたのだ、
と思われるかもしれません。
でも、実はそれができた時代、それが江戸時代なのだという気もしてきました。



気が強くて口が悪い。
そんなお栄だけれど、彼女の描く「春画」は、すごくうまくてきれいだけれど、色気がない、などと言われてしまいます。
それというのも、実はまだ彼女が未経験だから。
それが悔しくて彼女はある店へ行きます。
また、彼女は密かに想いを寄せている人がいるのですが、
普段べらんめえ調で男性と話すことなどなんとも思わないのに、
その人の前では何も言えなくなってしまう。
そんな彼女のギャップがとても楽しい。



本作はまた、ちょっとした怪談と言っていいくらい、
「怪異」のシーンも多いのです。
お栄はある人に頼まれて地獄絵を描くのですが、
そのできがあまりに良すぎて、
その家の奥方が夜な夜な絵から抜け出た亡者に襲われ、病を得てしまう。
父、北斎はいいます。
「まだまだ未熟だな。こういう絵にはちゃんと仕上げをしなけりゃダメなんだ。」
と、絵にあるものを書き加えるのです。
ああ、なるほど・・・と思いますね。
科学などというもののなかったその昔。
世の中には怪異と日常が混然として当たり前にあったのだろうなあ・・・。



盲目の、まだ幼い妹・お猶のエピソードには泣かされます。
絵師というその「目」がすべてのような父の子が盲目というのもなんとも皮肉なのですが、
本作ではそのことに北斎が負い目を感じているように描かれています。
自分があまりにもものを見る「目」の力を持ちすぎたために
そんなことになってしまったのではないか・・・というような。
だからちょっぴり疎遠な父娘関係になってしまっているのですが、そんなところも切ない。
夜、真っ暗闇の部屋でお猶は、「蚊帳の上に何かいる」と訴えます。
お栄が調べてみるとそこには一匹のカマキリがいたのでした。
たった一匹のカマキリの息遣いまでをも感じ取ってしまう繊細な妹。
それは盲目である故ではありますが、
そうまで繊細だからこそ、長くは生きられないのか・・・。
せつなくて、辛い。
だからこそ、両国橋の雑踏の中で聞いた人々の息吹や、
船から身を乗り出して触れた川の水のこと・・・
つかの間の生が光ります。



そうそう、それから北斎の家に住み着いているワンちゃんが可愛くてステキ!
こんな風に、弟子の善次郎と全く同じしぐさのシーンは笑ってしまいます。
でもリアルな犬の動きなので・・・うまいなあ。


・・・ということで個人的にはすごく満足度の高いアニメでした。
声は豪華俳優陣が務めていまして、
その本人のイメージが浮かんでしまうのがやや難点ではあります。
でも杏さんのお栄、悪くはないです。

百日紅~Miss HOKUSAI~ [DVD]
杏,松重豊,濱田 岳,高良健吾,美保純
バンダイビジュアル


「百日紅 Miss HOKUSAI」
2015年/日本/90分
監督:原恵一
原作:杉浦日向子
出演(声):杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純
江戸の風景★★★★★
満足度★★★★★

「助手席のチェット」スペンサー・クイン

2015年12月19日 | 本(ミステリ)
ハラハラ・ドキドキ、チェットの冒険

助手席のチェット 名犬チェットと探偵バーニー (創元推理文庫)
古草 秀子
東京創元社


* * * * * * * * * *

元刑事の私立探偵バーニーに持ち込まれた女子高生失踪事件。
彼は相棒の大型犬チェットと調査を開始した。
警察犬訓練所を優秀な成績で卒業…はできなかったが、
それでも優秀なチェットは、全力でバーニーをサポートする。
チェットが犬の心、犬の視点で語り、
全世界の犬好きの心を鷲掴みにした傑作『ぼくの名はチェット』の改題文庫化。
本書を読まずして、犬好きと言うなかれ!


* * * * * * * * * *

先に「誘拐された犬」を読んで、チェットの大ファンになり、
順不同ですが一作目となる本作を読んでみました。
一作目だから、まだチェットも本領発揮できておらず・・・なーんてことは全くなく(!)、
やはリ最高にスリリングで楽しく、
そしてカワイイ名犬チェットのストーリーです。


第一作目ですが、探偵バーニーとチェットの初めての出会いのシーンはなく、
始めからパートナーとして登場します。
警察犬訓練所を優秀な成績で卒業しそこなったという、
チェットの昔のストーリーも気になるところではありますが・・・
いずれ紹介されるのを待ちましょう。


今回持ち込まれた調査は、行方不明の女子高校生の捜索。
ところがはじめに呼ばれたその時に、朝帰りの娘マディソンが帰ってきます。
一件落着というところですが、後日同じ子がまたもや帰宅せず。
母親からまた捜索の依頼を受けます。
これは父親がいうように、単なる家出なのか? 
しかしバーニーは何か不審なものを感じるのです。


「誘拐された犬」同様、チェットは持ち前の犬らしさ(?)で私たちを微笑ませながら、
なんともスリリングな体験をしていきます。
廃坑の中で怪しい男たちに追われながらの脱出。
かと思えば犬たちの収容シェルターでの危機一髪。
全くハラハラしますね。
そんなところにスージーが現れてチェットを救出。
次作では「恋人」として現れるスージーですが、
ここでは初対面のジャーナリスト。
バーニーが彼女に引かれていく様子がなんだか楽しい。
彼女がちょくちょく訪ねてきてくれるのは、
もしかして少しは気にかけてくれているのかと思ったら、
そうではなくて取材のためだったのか・・・と、
バーニーがガックリするところなど、チェット抜きでも結構楽しめます。
すべてチェットの目を通した描写でありながら、
バーニーの人となりや感情がくっきりと現れるところがまたいいのです。


早く次作が読みたい!!

「助手席のチェット」スペンサー・クイン 創元推理文庫
満足度★★★★★

ラブ&ピース

2015年12月18日 | 映画(ら行)
何じゃ、こりゃー!と思いながらも次第にしみじみ・・・



* * * * * * * * * *

園子温監督作品・・・ということで、これがなかなか一筋縄ではいかない。
本作は、つまりファンタジーというべきなのでしょうか。
もしくは、怪獣映画?



ロックミュージシャン志望だったけれども、夢破れ、
楽器の部品会社で働くサエないサラリーマン、鈴木良一(長谷川博己)。
会社の皆からもバカにされ、
ちょっぴり思いを寄せる同僚の女性・寺島裕子(麻生久美子)に声もかけられない、
自信のない男。
ある日、デパートの屋上でミドリガメを買い、
ピカドンと名づけて甲斐甲斐しく世話をします。
『日本一のロックスターになって「日本スタジアム」でコンサートをしたい!!、
寺島裕子さんが好きだ!!。』
良一は、決して人には言えない夢をピカドンに語り続ける・・・。
しかしある日、会社でピカドンを見られてしまい、
からかわれて、思わずピカドンをトイレに流してしまうのです。
さて、その亀のピカドンが流れ着いた先は・・・、
打ち捨てられた動物やおもちゃ・人形たちとともに暮らす不思議な老人(西田敏行)の
下水道のとある空間。
そこでピカドンは『夢』を叶える力を得て・・・。



かわいがった亀の恩返しみたいな感じで、
突如、良一はロッカーとして頭角を現し、人気スターになっていく。
どうにもこうにもトホホな男が、あっという間にタカビーなミュージシャンに変貌。
この変身が、長谷川博己ファンにはたまりません!! 
歌も楽しめます!!
トホホ男も似合うけど、でもやっぱりカッコイイ!!
すっかり初心を忘れて一流ロッカー気取り、
今度は世界を目指すなどとうそぶく良一を吾に返すものは・・・?



下水道で薄汚れた人形たちと暮らす老人。
ここのシーンは全くファンタジックで、お子様向け空間という感じ。
でも人形たちの寂しい思いが次第に伝わってきて、しんみりしてきてしまいます・・・。
老人の「正体」もだんだん予想がついてきましたが・・・。



ラストは全く予想外の展開で、これはもう笑うしかない。
が、笑いながらもなんだかしみじみしてしまう、変な作品。

ラブ&ピース スタンダード・エディション(DVD)
長谷川博己,麻生久美子,渋川清彦,奥野瑛太,マキタスポーツ
キングレコード


「ラブ&ピース」
2015年/日本/117分
監督・脚本:園子温
出演:長谷川博己、麻生久美子、西田敏行、渋川清彦、マキタスポーツ
トンデモ作品度★★★★★
満足度★★★★☆

杉原千畝

2015年12月16日 | 映画(さ行)
ただの善意の人でなく



* * * * * * * * * *

ナチスに迫害されたユダヤ人難民にビザを発給し、救いの手を差し伸べ、
日本の「シンドラー」とも呼ばれた外交官、杉原千畝(ちうね)の物語です。


私、かなり以前にTVドラマでこの方の話を見たのを覚えていまして、
その時の杉原千畝役は反町隆史さんでした。
でも本作を見て、やはり唐沢寿明さんのほうがピッタリ!と思いました。



杉原千畝氏は外交官と言っても単なるお役人でなく
インテリジェンス・オフィサーという役割で、
つまり諜報活動も行っていたということなんですね。
先のテレビドラマにはそういうことは触れられていなかったと思うのですが、
世界各国、特にソ連の動向に目を光らせ、
日本本国に伝えることを役割としていたわけです。
重要なところは暗号を使ったりもしていました。
なかなか、スリリングでもあります。



さて、1939年、杉原千畝(唐沢寿明)は妻(小雪)と子供たちを伴い、
リトアニア日本領事館に赴任します。
そんな時、ナチスの迫害を逃れ、ポーランドからユダヤ人難民がなだれ込んでくるのです。
彼らを救いたいという思いは誰にもありながら、どうすることもできない。
そんな時にまず、オランダ大使館が南米のオランダ領の土地への入国を彼らに許可します。
しかし、どうやってそこまで行くのか。
ナチスドイツの支配下にあるところは通ることができません。
しかしその時点ではソ連を通過することはできる。
その先は・・・?
日本を通過できればよいのです。
だから、通過のためのビザで良いのでなんとか発給してもらいたい、と
領事館の前にユダヤ難民が押しかけてきたのです。



杉原は、その旨を本国に連絡しますが許可が降りません。
しかし、ついに杉原は独断でビザを発行することを決意。
というのも、もうまもなくこのリトアニアもナチスの支配下に置かれることがわかっていて
一刻の猶予もならなかったのです。
一旦決意してからは、自らのクビをかけてビザを出しまくること約2000通。
ビザと言っても、たった一枚の紙切れ。
このたった一枚の紙切れで人の命が救えるのなら・・・
という杉原の思いの結果です。
そしてまた、杉原のその思いを汲みとって、
後押しをする人々も現れるのが、なんとも心地よいです。



私、濱田岳さんのところで泣けてしまいました。
いやー、おとぼけの役が多いですが、やっぱり名優だったんですね!!
それにしても、このような判断を杉原個人にさせてしまった日本政府。
またせっかくの杉原の情報も無視して太平洋戦争になだれ込んだ日本政府。
なんとも情けないですね・・・。
こんな時代の日本人にこんな方がいた、ということのほうが奇跡に思えます。
単に善意の人でなく、はっきりとした自分の意志のあるリベラルな人物、
杉原千畝氏の姿がくっきりと浮かび上がった、素敵な作品でした。



「杉原千畝」
2015年/日本/139分
監督:チェリン・グラック
出演:唐沢寿明、小雪、小日向文世、塚本高史、濱田岳、ボリス・シッツ
歴史発掘度★★★★★
満足度★★★★☆

「一日江戸人」杉浦日向子

2015年12月15日 | 本(解説)
私たちの知らない“江戸”の暮らし

一日江戸人 (新潮文庫)
杉浦 日向子
新潮社


* * * * * * * * * *

現代の江戸人・杉浦日向子による、実用的かつ、まことに奥の深い江戸案内書。
江戸美人の基準、三大モテ男の職業、衣食住など、
江戸の人々の暮らしや趣味趣向がこれ一冊でわかる。
さらには「殿さま暮らし」は楽かの考察(「将軍の一日」)、
大奥の仕組み(「ザ・大奥」)、
春画の味わい方(「春画考」)まで。
著者の自筆イラストもふんだんに盛り込まれ、居ながらにして気分はもう江戸人だ。


* * * * * * * * * *

今更ながら杉浦日向子さんに惹かれている私。
本作「一日江戸人」は、江戸の文化・風俗の興味深い入門書です。
漫画家でもある彼女ですので、イラストも入っているのが非常に分かりやすくて楽しい。


まずは冒頭から。
そもそも江戸の人々は、あくせく働かずいつもすかんぴんでも平気だったなんて書いてあります。
いよいよお金が必要になったら、道端に立って何か「一芸」をやってみせる。
かっぱのマネとか閻魔様の扮装とか・・・、
とにかく笑えるものなら良い。
道行く人も実に大らかで、そんなことを楽しんでもいたのでしょうね。


そう言えば、「百日紅」のアニメの中に、
男が捕まえた雀を、通りがかりの人がお金を出して一羽づつ放してやる
なんていうシーンがありました。
それはつまり、お金を出して生き物を救うとそれが功徳となる、
という意味らしいのですが、
この本を先に読んでいた私は、
なるほど、これもつまり気楽に小銭を稼ごうとするアイデアの一つなんだな、
とピンときました。


・・・とまあ、本当にこんなことは序の口で、
私たちの知らなかった本当の「江戸」に驚かされること多々。
時代劇や時代小説好きの方に、ぜひこういうのも、オススメです。

「一日江戸人」杉浦日向子 新潮文庫
満足度★★★★☆

シンプル・シモン

2015年12月14日 | 映画(さ行)
柔らかな心で



* * * * * * * * * *

アスペルガー症候群のシモン(ビル・スカルスガルド)は物理とSFが大好き。
毎日スケジュールに従った規則正しい生活で、調和が取れています。
でも一つ歯車が狂ってしまうともうダメ。
ドラム缶のロケットに引きこもってしまいます。
そんな彼を理解できるのは兄のサム(マッティン・バルストレム)だけ。
しかし、シモンのせいで兄は恋人に振られてしまいます。
落ち込んでしまった兄のため、兄の新しい恋人探しを始めるシモン。



なかなか私達の理解の外にあるアスペルガー症候群。
でも本作はそんなシモンの心に沿って描写されています。
きちんと規則正しい生活。
曜日によって食べるものまで決まっている。
丸いものが好き。
予定通りでありさえすればシモンは機嫌がいいのです。
でも人に触れられるのは嫌いで、
「さわらないで、アスペルガーです。」
というバッジをいつも身に着けていたりする。



こんな彼はまさに地球上の多くの人々とは交えられない。
本当に、地球の周りを孤独に回っている宇宙船のよう。
そんな彼に無線になぞらえて語りかけるお兄ちゃん、サムがステキです。
本当に弟を大事に思っている。
しかしそんなお兄ちゃんもついにキレてしまうんですね。
彼は、弟を理解して、その上好きだと思えるのは
この世にたった一人自分だけと思っていたのですが、
果たして、本当でしょうか・・・?



イヤイヤ、人と人との繋がりの中で、アスペルガーも個性の一つとしてさほど気にしない、
むしろユニークと思うことができる豪の者も、中にはいるもんですねえ・・・。

終始仏頂面だったシモンの最後のシーンの顔がいいですよ!
確かに、「普通」でなければならないという思い込みをちょっと棚に上げて見れば、
ユニークな思考や行動が魅力に思えるかもしれない。
そして彼自身のリズムを知りさえすれば
付き合うのはそう難しいことではないのかも。
私たち自身が「柔らかな心」を持つべきだということを、本作はいっているのかもしれません。
すごくユニークで楽しい、スウェーデンの作品でした!



シンプル・シモン [DVD]
ビル・スカルスガルド,マッティン・バルストレム,セシリア・フォッシュ,ソフィー・ハミルトン,ロッタ・テイレ
TCエンタテインメント


「シンプル・シモン」
2010年/スウェーデン/86分
監督:アンドレアス・エーマン
出演:ビル・スカルスガルド、マッティン・バルストレム、セシリア・フォッシュ、ソフィー・ハミルトン、ロッタ・テイル
ユニーク度★★★★★
満足度★★★★★

「悲しみのイレーヌ」ピエール・ルメートル 

2015年12月12日 | 本(ミステリ)
順不同が残念だけど

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)
ピエール・ルメートル,橘 明美
文藝春秋


* * * * * * * * * *

『その女アレックス』の刑事たちのデビュー作
連続殺人の捜査に駆り出されたヴェルーヴェン警部。
事件は異様な見立て殺人だと判明する…
掟破りの大逆転が待つ鬼才のデビュー作。


* * * * * * * * * *


あのベストセラー「その女アレックス」は、まだ記憶に新しい。
鮮烈なミステリでした。
でも、日本では出版が逆になってしまいましたが、
実はこちら「悲しみのイレーヌ」がヴェルーヴェン警部たちのデビュー作であり
また、ピエール・ルメートルのデビュー作でもあるのですね。
なんとも残念なのですが、私たちは先に「その女アレックス」を読んでしまっているので、
必然的に本作の悲劇的結末を知ってしまっているという・・・。
順番が狂ってしまったことで、すごく損をしてしまっているのですが・・・、
まあ、致し方無いですね。


で、仮に「その女アレックス」を読んでいない方が本作を読むとします。
実に悲惨な連続殺人事件が起きるのですが、
次第にこの本の題名が気になってきます。
悲しみのイレーヌ? 
イレーヌというのはヴェルーヴェン警部の奥さんなんです。
しかも身重。
多忙な警部は思うように奥さんにしっかりついていてあげられないことを
いつもくやんでいるのですが・・・。
イヤーな予感がしますよね。
今にイレーヌの身の上にもこんな身の毛もよだつ事件が振りかかるのではないか・・・と。
まあ、そんな点では親切なような、不親切なような題名なのであります。
不意打ちよりましか・・・。


まあ、その点はおいておくことにして・・・。
本作は日本ではやりのミステリ風。
これでもかというくらいに、陰惨な猟奇殺人事件に加えて、
大きな作者のだましが仕掛けられています。
登場人物も個性的で魅力があります。
ヴェルーヴェン警部のお人柄が好きですねえ・・・。
背は極端に低いけれども、気持ちはおおらか。
もちろん頭脳は優秀。
この人と結婚したイレーヌもその良さが分かるステキな女性なんですよね・・・。
そしてその部下、
裕福でイケメンで優秀、金髪のルイが登場すればやはり嬉しくなってしまいますし・・・。
天が2物も3物も与えてしまう、こういう奴ってたまにいるんですよねえ・・・。
というわけで、日本の最近のミステリが好きな方ならきっと気に入る作品だと思います。
しかし、返す返すも、きちんと順を追って読みたかったですね・・・。


「悲しみのイレーヌ」ピエール・ルメートル 文春文庫
満足度★★★★☆