映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

バッド・デイ・ドライブ

2024年06月29日 | 映画(は行)

謎の脅迫者に従って

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おなじみ、リーアム・ニーソンによるサスペンス・アクション。
2015年スペイン映画「暴走車ランナウェイ・カー」の英語版リメイクとのこと。

息子と娘を学校に送るために車を走らせた金融ビジネスマンのマット(リーアム・ニーソン)。

「その車に爆弾を仕掛けた。降りてはいけない。通報してはいけない。
これから伝える指示に従わなければ爆破する」

と、謎の着信があります。

車の座席から立ち上がると、爆弾が爆発するように仕掛けられているのです。
おまけに、リモートでも爆発するという・・・。

マットは、その声の主や要求、目的も分らないまま運転を続けます。
そして、行く先々で、同じように爆弾を仕掛けられた車が次々と爆破されていきます。
しかもその被害者はマットの同僚であったことから、
マットは警察から容疑者として追われることになってしまいます。
それでも、子供たちを決して犠牲にしないために、
マットは脅迫者からの指示に応えますが・・・。

仕事一筋で家庭を顧みないマットは、完全に家族から白眼視されていまして、
妻は離婚を考え、反抗期ど真ん中の息子には無視されかけるし、
娘も毛虫を見るような目でマットを見ます。
こんな中でも、なお仕事重視のマットは、
車中から仕事の打ち合わせの電話をかけたりしている・・・。

そんなところへいきなり、爆弾を仕掛けたという脅迫電話。
マットの厳しい戦いが始まります。

いつもながら家族を守ろうとするときのリーアム・ニーソンは強い!

でもこの場合は、ひたすら車の運転をするばかりなので、
あまり彼自身の肉体を駆使したアクションはありません・・・。
さすがにもう、お年を配慮したシナリオなのでありましょう。

すったもんだの末、とりあえず息子と娘の心は取り戻すことができたようで、
良かったですね。

 

<Amazon prime videoにて>

「バッド・デイ・ドライブ」

2023年/イギリス・アメリカ・フランス/91分

監督:ニムロッド・アーントル

出演:リーアム・ニーソン、ノーマ・ドゥメズウェニ、リリー・アヌペル、
   ジャック・チャンピオン、マシュー・モディーン

危機感度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


バーナデッド ママは行方不明

2024年06月28日 | 映画(は行)

自分探しに南極へ?

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シアトルに暮らす専業主婦、バーナデッド(ケイト・ブランシェット)。
一流企業に勤める夫と親友のような関係の娘がいて、一応幸せな毎日。

ところが、バーナデッドは極度の人間嫌いで、
隣人やママ友とうまく付き合うことができないのです。
かつて天才建築家として活躍しながら、ある出来事から、仕事を辞めてしまっていました。
どうもそのことが彼女を苦しめているようなのです。

買い物、家事、スケジュール管理などは、メールで依頼するバーチャル秘書に任せきり。
このことがやがて大きな悲劇に発展。
そして、隣人との不和がついに大きなトラブルに・・・。

そんなことですっかり煮詰まってしまったバーナデッドは、
家族の前から姿を消し、南極へ・・・。

実は、家族そろっての南極旅行は娘の希望だったのです。
バーナデッドは承諾はしたものの、船旅中の客同士の付き合いなどが憂鬱だし、
船酔いも考えただけでウンザリ。
なんとか理由を付けて自分は行かないことにしようと考えていました。

ところがいくつかの事件ですっかり落ち込んだバーナデッドは、
せめて南極旅行だけは成し遂げようと、夫と娘に合流するつもりで南極行きを決行。
でも、夫と娘は旅行を取りやめていたのです。
しかしバーナデッドが南極へ行ったことを知って、その後を追います。

でもこの南極への単独行が、バーナデッドにとっては、自分を見つめ直すことに繋がった。
自分が本当に好きでやりたかったこと・・・。
それから目を背けた結果、すべての歯車が狂っていた・・・。

自分からは逃れられない。
自分の本当の気持ちに向き合って、前を向いて歩けば良い・・・。

家族と自分を見つめ直していく、ステキな物語です。

<WOWOW視聴にて>

「バーナデッド ママは行方不明」

2019年/アメリカ/108分

監督:リチャード・リンクレイター

原作:マリア・センプル

出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、エマ・ネルソン、
   クリステン・ウィグ、ローレンス・フィッシュバーン

自分迷走度★★★★☆

家族愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


いつか読書する日

2024年06月26日 | 映画(あ行)

胸の奥にしまったままの思い

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朝は牛乳配達、昼はスーパーで働く大場美奈子(田中裕子)独身50歳。
毎夜の読書を楽しみにしています。

また、同じ街の市役所に勤める高梨塊多(岸部一徳)は、
末期がんで余命わずかな妻を自宅で介護していました。

この2人は高校時代交際していたのですが、ある時から疎遠になり、
互いにあえて距離を置くようにしてこれまで30年が過ぎていたのです。

自宅でベッドに横たわる高梨の妻は、
いつも牛乳を届けに来る美奈子が夫と同級生だったと端から聞き、
その鋭すぎる勘で2人の気持ちをくみ取ってしまいます。
そして、美奈子に会いたいと言うのですが・・・。

 

どこにでもいそうな中年の冴えない女と男。
けれど彼女らにもみずみずしい青春時代はあった。

でもそんな思いが一度そこで断ち切られたとしても、
胸の奥で生き続けるというのは、十分にあり得るなあ・・・と、
この年になってこそ納得できます。
時の流れにしたがい薄れるものもあるけれど、
そうではないものもあるなあ・・・と、実感することがあるので。

 

2人の交際が終わってしまった事情というのもショッキングで、
なるほど、それならば致し方ないのかな・・・とも思えます。
互いが相手を嫌いになってしまったというわけではなかったのです。

だからといって塊多がずっと心の中で妻を裏切っていたというわけではない。
妻は妻として愛おしむ。
だからこそ、妻を自宅で介護もします。
並み以上の優しい夫。
でも心中のみずみずしい思いは消えずにそこに残っている。
それは仕方のないこと。

美奈子は、心の底のその思いをやはり消し去ることができず、
そしてその思いを上書きするようなことも始めからあきらめていたわけです。
ずっとこのままで十分、と。

 

同じ街にいて、時には顔を合わすこともあるのだけれど、
そして2人は心中で必要以上に互いを意識しているのだけれど、
決して言葉を交わそうとしない。
余計な波風を立てた先のことが恐いのですね。
いい大人だからこそ、余計臆病になってしまう・・・。

 

塊多は市役所の児童福祉課にいて、ある児童虐待を受けている子供と関わりを持つようになります。
そのサイドストーリーもなかなかよくて、
そしてそれが思いがけないラストに繋がるというのも秀逸。
20年以上も前の作品で、たまたま候補にあがっていたので見たのですが、
これは見て良かったと思える作品。

 

<Amazon prime videoにて>

「いつか読書する日」

2004年/日本/127分

監督:緒方明

原作・脚本:青木研次

出演:田中裕子、岸部一徳、仁科亜季子、渡辺美佐子、香川照之

 

静かな想い度★★★★★

満足度★★★★☆

 


ドライブアウェイ・ドールズ

2024年06月25日 | 映画(た行)

クレイジーなアメリカ縦断

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数々の名作を送り出して来たコーエン兄弟ですが、
本作はイーサン・コーエン初の単独監督作品です。

 

日々の生活に行き詰まりを感じたジェイミー(マーガレット・クアリー)と、
マリアン(ジェラルディン・ワナサン)。
車の配送(=ドライブアウェイ)をしながらアメリカ縦断のドライブに出ます。
しかし配送会社が手配した車のトランクに謎のスーツケースがあり、
その中にとんでもないブツが入っていたのです。

スーツケースを取り戻そうとするギャングたち、ジェイミーの元カノの警察官、
そしてなぜか上院議員が入り乱れての迷走。
事態は思わぬ展開に・・・。

ジェイミーとマリアンは双方レズビアンながら2人にはその感情はなくて、いい友人関係。
ジェイミーが痴話げんかのあげく別れることになったスーキーが、
なんと警察官というのが後に分って、のけぞります・・・。

なんとも破天荒、おおらかなセックスシーン、そして、スーツケースの中身・・・。
イヤもう、笑うしかないでしょう。

最後に出てきた上院議員がマット・デイモンで、しかもかなり危ないヤツ・・・。
世も末。

これも笑い飛ばして、憂さ晴らし。

いいんじゃないでしょうか。

せっかくなので、もう少しロードムービー感がほしかったのですが、
この2人はレズビアンバーにしか行かないみたいなので、
あんまり旅行感なかったです・・・。

が、友人関係だった2人の間に芽生える感情があって・・・。
つまりこれはラブストーリーだったのか?

ま、何でも良いか。

 

<シアターキノにて>

「ドライブアウェイ・ドールズ」

2024年/アメリカ/85分

監督:イーサン・コーエン

脚本:イーサン・コーエン、トリシア・クック

出演:マーガレット・クアリー、ジェラルディン・ワナサン、ビーニー・フェルドスタイン、
   ジョーイ・ストロニック、C・J・ウィルソン、マット・デイモン

 

とんでもない度★★★★☆

ブラックコメディ度★★★★☆

満足度★★★☆☆


「センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの」岡本雄矢

2024年06月24日 | 本(その他)

「不幸」を短歌に

 

 

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恋でも、仕事でも、その辺にいるときも。
あのときも、今も、どうせ明日も。
傷ついたり落ち込んだり。
顔では笑っているけど、心は砂漠。

僕の日々は小さな不幸の連続です。
トホホな出来事がよく起きて、センチメンタルに殺されそうな日々です。
でも、不幸があると短歌ができます。
その短歌を読んで誰かがクスリと笑ってくれます。
そうすると僕の小さな不幸は成仏されるのです。
短歌があればトホホも友達です。
もしあなたに今、憂鬱なことがあるのなら、
僕と一緒にトホホを小さな笑いに変えてみませんか。

岡本雄矢さんの短歌+エッセイ、第2弾。

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著者は吉本興業に所属するお笑い芸人さん。
自らのトホホな出来事、「不幸」を短歌に仕立てて、
ちょっとした笑いにいざなうということで、話題になりました。
本作はその第2弾。

 

少し笑ってしまうというのは、つまりそのちょっとした不幸は、
誰にでも多かれ少なかれ同様の経験があったりするからなのでしょう。

少しずつ岡本氏に共感しながら、
変わり映えせずパッとしない毎日でも「ま、いっか」と思えてしまう一冊であります。

 

 

いくつかご紹介・・・

自転車で豪快にこけてやっぱりかこの夏最初の半ズボンの日

 

節約のために水筒持ち歩きパチンコでむちゃくちゃ負けている

 

キットカット食べても負けて もっとちゃんとしなければって ぢつと手を見る

 

親も生まれる場所もえらべないならふりかけくらい好きなの選ぶ

 

うむむ・・・と、うなってしまうのは

なんのために生まれなにをして生きるのか 唐突な問いではじまるマーチ

 

これ、「アンパンマンのマーチ」なのですが・・・。

たしかに、こんな哲学の命題そのものをガッツリとぶつけるとは、
子供向けアニメのテーマソングにしてはなんと大胆な。
やなせたかしさん自身の作詞。
いや、でもいいんじゃないでしょうか。
時には童心に返ってこんな歌を口ずさんでみたら、逆に勇気が出てくるかも・・・。

<図書館蔵書にて>
「センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの」岡本雄矢 幻冬舎

満足度★★★☆☆


五億円のじんせい

2024年06月22日 | 映画(か行)

五億円稼ぐには・・・?

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GYAOとアミューズによるオリジナル映画作成プロジェクト
「NEW CINEMA PROJECT」第1回グランプリを受賞した企画の映画化。

高月望来(みらい)(望月歩)は、幼少期に難病を患っていましたが、
善意の5億円の募金で手術が成功し、その後健康に成長。
現在は17歳の高校生です。
しかし「5億円にふさわしい人間」であることを、周囲の人々に期待され、
マスコミには好奇の目で見られるので、彼自身はその重圧で押しつぶされそうなのです。

こんな窮屈な日々から逃れたくて、望来はSNSで自殺を宣言したのですが、
見知らぬアカウントから「死ぬなら5億円返してから死ね」とのメッセージがあります。
望来は家を飛び出し、5億円の借金を返して自由になるための旅を始めます。

 

わかるなあ、その気持ち、と思ってしまいました。

5億円の募金を得て海外で心臓移植手術を受けることができて、
そしてその後健康になって成長。
世間はさぞかし立派な人間になってくれるのだろうと、勝手に期待してしまいますよね。
でも健康でこれまで成長したことこそが実は見返り。
それがすべて。
それなのに・・・。
実際は特別に頭が良いわけでもなく、特に取り柄もない。
周囲の勝手な期待に、どう答えれば良いのか・・・。
イヤそもそも期待に添う義務などないのでは・・・。
いよいよ進学先を決めなければならない時期になって、焦りまくってしまう・・・。

まさにありがちな状況で、設定としてもナイスだと思いました。

そこで望来は家出をして、とにかく5億円を稼ごうと思うのです。
しかし、5億円・・・。

時給1000円で一日8時間働くとして、
なんと171年もかかる計算になってしまいます・・・!

工事現場の日雇いをやってはみたけれど、ひ弱な体でぜんぜん役に立たない。
それでも根性で少しは働けるようになったけれど、
こんなことをしていても5億円にはほど遠い・・・。
というわけで次第に仕事はダークな方向へと向かっていくのです。

しかしそんな中でも少し優しくしてくれる人と出会ったりもして、
世間知らずのボウヤの望来はたくましく成長していきます。

心地よい成長物語でした。
人と人との絆の大事さも言っています。

<Amazonプライムビデオにて>

「五億円のじんせい」

2019年/日本/112分

監督:文 晟豪

脚本:蛭田直美

出演:望月歩、山田杏奈、森岡龍、松尾諭、平田満、西田尚美

生きにくさ★★★★☆

稼ぎにくさ★★★★☆

満足度★★★★☆


ポトフ 美食家と料理人

2024年06月21日 | 映画(は行)

最高の料理とは

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19世紀末、フランスの片田舎。

食を追求し芸術にまで高めた美食家ドダンは、
彼がひらめいたメニューを完璧に再現する天才料理人ウージェニーと共に暮らしています。
親しい友人たちを招いて開く晩餐会は、
2人にとっても友人たちにとっても至福の時。

そんなある時、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダン。
けれど、ただ豪華なだけで退屈な料理にウンザリ。
ドダンは、最もシンプルなフランスの家庭料理ポトフで皇太子をもてなすことを思いつきます。
しかしそんな矢先、ウージェニーが倒れてしまい・・・。

 

本作冒頭にかなり長く調理シーンがあります。
ウージェニーが中心で、時にはドダンも手伝い、
助手の女性はほとんど下ごしらえや簡単な作業、
そしてもうひとり、見学をしている少女。
広い台所を手順を先読みして動き回るウージェニーのその手さばきは、
迷いがなく手早く美しい。
映像に伴って聞こえる水音、鍋をかき回す音、食材の焼ける音・・・
もうこれ、絶対においしいヤツ!と、
見るだけで確信できてしまいます。

素材をどのように調理すればそのおいしさを最も引き出すことができるのか・・・、
そうした探求の結果であるかのような料理の数々。

そして、ドダンやウージェニーとも親しい友人たちが集い、
極上のワインで語らいながら料理を堪能する。
気取ってもったいぶった場所ではなくて、
こうした場で食べることがまた、料理の最後の味付けとなってもいるようで。
憧れます・・・。

さて、ドダンとウージェニーは、ときおり夜にドダンがウージェニーの部屋を訪ねるという間柄。
ドダンは結婚したいと思っているのですが、ウージェニーの答えはノーです。

そこのところが現代風なのですが、
つまりウージェニーは結婚がどれだけ女性の自由を妨げるかをよく分っている。
今のままの方が、2人の関係をうまく維持できると思ったのではないかな?
けれど、ウージェニーの体調悪化によって、彼女の気持ちも変わっていく・・・。

ドダンが作り出すポトフはどんなだったのか?
それを見届けたかった・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「ポトフ 美食家と料理人」

2023年/フランス/136分

監督・脚本:トラン・アン・ユン

出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、エマニュエル・サランジェ、
   パトリック・ダヌンサオ、ガラテア・ベルージ

 

食欲増進度★★★★★

恋愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


天使のいる図書館

2024年06月19日 | 映画(た行)

図書館を愛する人に

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奈良県葛城エリアが舞台です。

大学を卒業したばかりの新人女性司書、吉井さくら(小芝風花)が図書館に赴任してきます。
彼女は人の感情がよく分らなくて、コミュニケーションを取るのが苦手。
「泣ける本が読みたい」という来館者に「拷問史」の本を差し出したりするので、
先輩も彼女の扱いに困り始めています。

そんなある時、さくらは老婦人・礼子(香川京子)と知り合います。
さくらは彼女と共に葛城地域を巡るようになり、地域の歴史や文化を再発見。


そしてまた、なぜかよく見かける謎の青年(横浜流星)を、
ストーカー?と思ったりもするのですが・・・。

令子はこの地での若い頃のことが心残りとなっている様子。
さくらはその思いをどうにかしてあげたいと思うようになります。

・・・ということで、とある新人司書の成長物語。

そもそも人の心の機微が分らず、小説もほとんど読んだことがないというさくらが、
なんで司書になったのかというのには納得いきませんが、
(たまたま資格が取れたからという話ではあった)、
心の成長物語ということではまずまずだったのでは?

そして奈良の小都市の空気感が、なんとも居心地良く感じました。

2017年作品で、小芝風花さん、横浜流星さん共に初々しくてステキでした!

<Amazon prime videoにて>

「天使のいる図書館」

2017年/日本/108分

監督:ウエダアツシ

原案:山国秀幸

脚本:狗飼恭子

出演:小芝風花、横浜流星、森永悠希、香川京子、森本レオ

 

お仕事ドラマ度★★★★☆

満足度★★★☆☆


ディア・ファミリー

2024年06月18日 | 映画(た行)

お約束の感動作

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世界で17万人の命を救ったIABP(大動脈内バルーンバンピング)
バルーンカテーテル誕生にまつわる実話を映画化したものです。

1970年代。
小さな町工場を経営する坪井宣政(大泉洋)と妻・陽子(菅野美穂)。
娘・佳美(福本莉子)は生まれつき心臓疾患を抱えていて、
幼い頃に余命10年を宣言されます。
どこの医療機関でも治すことはできないと言われ、
宣政は、娘のために自ら人工心臓を作ることを決意。
とはいえ、医療の知識も経験もありません。
宣政と陽子は必死で勉強し、有識者に頭を下げ、資金繰りをし、
何年も開発に奔走しますが・・・。

まずは、医療知識ゼロの所から始めて、
周囲の人々にはあきれられ、変人と思われ、
それでも娘のためにと無理難題に取り組み続ける。
その姿にはただ圧倒されてしまいます。

このような医療器具の開発には、医師としての発想や意図が必要なのはもちろんですが、
それを具体的な形に作り上げる「もの作り」の技術も必要なわけですね。
だから双方のガッチリした連携必要なのだけれど、
この場合は結局医師の側(大学)に裏切られる形になってしまうわけです。

完璧なる挫折・・・。

けれどその挫折をも乗り越え、別の形ではありけれどまた動き出すという、
ここのところが実話ならではで、
フィクションならこういう展開は通常ないだろうとも思います。

確かテレビドラマの「下町ロケット」で、
町工場である佃製作所が、心臓の新型人工弁「ガウディ」を開発する
という話があったと思うのですが、
本作の実話の部分がヒントとなって作られたストーリーなのかなと思いました。

本作を感動的に盛り上げているのはもう一つ、家族愛のことです。
妻は夫の現実離れしているような提案をするっと受け入れ、応援し手助けします。
佳美の姉(川栄李奈)も妹(新井美羽)も、そんな両親を尊敬し、応援。
一家が一団となって佳美をいたわり、その未来へ向かってやるべきことをやろうとする。
皆がポジティブで温かい。
まあちょっとベタではあるけれど、この物語にこのポジティブさは必要です。

松村北斗さんもおいしいところの役で、ナイスでした。
実に松村北斗さんはいつも良い役を引くなあ・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「ディア・ファミリー」

2024年/日本/116分

監督:月川翔

原作:清武英利

脚本:林民夫

出演:大泉洋、菅野美穂、福本莉子、川栄李奈、荒井美羽、上杉周平、満島真之介、有村架純、松村北斗

 

執念度★★★★★

家族愛度★★★★★

満足度★★★★☆


「ロシア文学の教室」奈倉有里

2024年06月17日 | 本(その他)

いざ、ロシア文学の世界へ

 

 

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青春小説にして異色のロシア文学入門!

「この授業では、あなたという読者を主体とし、
ロシア文学を素材として体験することによって、社会とは、愛とは何かを考えます」
山を思わせる初老の教授が、学生たちをいっぷう変わった「体験型」の授業へといざなう。

 

小説を読み出すと没頭して周りが見えなくなる湯浦葵(ゆうら・あおい)、
中性的でミステリアス、洞察力の光る新名翠(にいな・みどり)、
発言に躊躇のない天才型の入谷陸(いりや・りく)。
「ユーラ、ニーナ、イリヤ」と呼ばれる三人が参加する授業で取り上げられるのは、
ゴーゴリ『ネフスキイ大通り』、ドストエフスキー『白夜』、トルストイ『復活』など
才能が花開いた19世紀のロシア文学だ。

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ロシア文学者、奈倉有里さんの最新刊。
すぐに読みました!

名高い19世紀のロシア文学者について、その人、その作品等について
述べられているのですが、それが「小説」の形で表わされているというユニークな作品です。

 

小説愛が強く、小説を読み出すと没頭して周りが見えなくなってしまう学生・湯浦葵が、
枚下教授によるロシア文学の授業を記録するという体裁になっています。
湯浦と同じ授業を受ける友人に、中性的で洞察力のある新名翠、発言に躊躇のない入谷陸。
すなわち、ユーラ、ニーナ、イリヤという
ロシアでもそのまま親しみを持って受け入れられそうな名前の3人。

(実は、著者・奈倉有里さんもロシア留学時には「ユーリ」と
親しみを込めて呼ばれていたそうです。)

 

枚下先生はすなわちマイスターということなのですが、まるで魔法使いのよう・・・。
というのも、なぜかこの授業の時に湯浦くんは、
現実を離れて小説の世界に引き込まれて行き、小説世界を体感してしまうのです。
しかもそれは、どうやら湯浦くんだけのことではなく、他の皆もそうなっているらしい・・・。
これを称して「体験型」授業とは・・・!

 

授業で取り上げられるのは、プーシキン、ドストエフスキー、ツルゲーネフ、
チェーホフ、ゴーリキー、トルストイ、等々。

正直言うと、私は先日トルストイの「復活」を読んだくらいで、
ロシア文学については全く知らないのですが、
そんな私でもこれらの名前だけは聞いたことがある。
今さらですが知らないということの壁の厚さに、呆然としてしまいますね。

でも本作を読んで、かなり興味が湧いてきて、
そしてこれまでの「難しい」という勝手な思い込みも薄れて来ましたので、
ぼちぼちと読んでみたいと思いました。
むしろ未知の世界に誘っていただいたようで、感謝です。

 

それと本作のラストは、これも先日読んだ「ソフィーの世界」と似ている気がします。

作中の人物とそれを操るもの(つまり作者)の関係。
そこがまた興味深い。

 

「ロシア文学の教室」奈倉有里 文春新書

満足度★★★★☆


クローズド・ガーデン

2024年06月15日 | 映画(か行)

厳格な戒律は何のため?

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1960年代に開かれた第2バチカン公会議の史実を背景としています。

 

奨学金が出るということで、カトリック系の学校に入学したキャスリーン。
共に暮らす母は無宗教で、カトリックとはなんの関わりもありません。
けれどキャスリーンは学校でシスターなどと接するうちに、
次第に神に対して恋心を抱くようになっていきます。
そして、キリストの花嫁であるシスターを目指すため、17歳で修道院に入ります。

まずは見習いという立場ではありますが、
この外界から遮断された場所で、厳格な修道院長マザー・クレアのもと、
キャスリーンたちは実日決められた生活を繰り返します。
そしてやがて、院長は週に一度少女たちを閉ざされた部屋に集め、
ある儀式めいたことを始めます・・・。

 

後に9万人ものシスターが信仰を捨てたといわれる、
カトリック教会最大の事件といわれる出来事が背景となっています。

本作の修道院もそうなのですが、異常なほど厳しいしきたりに
修道女たちはがんじがらめのようにも見えます。
それをもっと緩やかに、開かれたものにしようというのが第2バチカン公会議の決定。

とすれば楽になるはずなのに、なぜ多くのシスターが信仰を捨ててしまったのか。
つまりですね、異常なほどの戒律にがんじがらめになればなるほど、
それに耐える使命感や達成感のようなものが芽生えるようなのです。
まあ、ほとんどマゾヒズム・・・。

その苦痛の毎日に入る前に、彼女たちは儀式でキリストの花嫁のあかしとして、
純白のウェディングドレスをまといます。
彼女らには至福の時。
そしてそれは彼女たちの誇りでもあるのです。

しかし、会議ではその「シスター」=「キリストの花嫁」という定義自体を否定してしまった。
この思いなくして、一体何のために長く苦渋の修道院生活に耐えなければならないのか・・・。

 

本作では、キリストの花嫁の立場に憧れ、
それだけを貫く覚悟でここへやって来たキャスリーンが、
カトリック教会の改革の波にさらされ目的を見失っていく様が描かれています。

 

キリストの花嫁・・・。
決して見返りがないと分っているそのような「愛」に一生を捧げるというのは、
まさに無宗教の私にとってはほとんど理解できないことではあるのですが。

でもそれで充足していたはずのキャスリーンも、
いつしか人の温もりこそに愛を見出すように変わっていくというのには納得。

 

<Amazon prime videoにて>

「クローズド・ガーデン」

2017年/アメリカ/105分

監督・脚本:マーガレット・ベッツ

出演:マーガレット・クアリー、ジュリアンヌ・ニコルソン、ダイアナ・アグロン、
   モーガン・セイラー、メリッサ・レオ

 

閉鎖社会の怖さ度★★★★☆

信仰心度★★★★☆

満足度★★★☆☆


17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン

2024年06月14日 | 映画(さ行)

激動の時代を生きて、青年は成長する

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1937年、ナチスドイツとの併合に揺れる第二次世界大戦前夜のオーストリア。

タバコ店の見習いとして働くため、ウィーンにやって来た17歳、フランツ。

店の常連であるフロイト教授と懇意になります。
教授は言います。
「人生を楽しみ、誰かに恋をするように」

その気になったフランツは、ボヘミア出身の女性・アネシュカに一目惚れし、
教授にさらなる助言を求めます。
そんなことをするうちに、フランツとフロイト教授は年齢を超えた友情を深めていきます。
しかし、時代は激動の時へと突入していきます。

自然がいっぱいの故郷から出てきたばかりのフランツは、
いかにも少年っぽく無邪気な感じでした。

しかし、タバコ店の仕事を覚え、フロイト教授と知り合い、
恋を知ることによって見違えるように成長していきます。
終盤のフランツはもう別人のよう。

いかがわしいダンスをして生きるアネシュカにとって、
純粋な坊やであるフランツを愛おしいとは思うけれど、
本気で恋し自分の将来をかける相手ではないと思う・・・、
それは仕方ないですね。
初恋は報われないモノです・・・。

ただ、フランツにとってはそれ以上に、フロイト教授から学ぶもののほうが大きい。


ジークムント・フロイトは、その頃すでに心理学者として名前が知られていました。
ところが、彼はユダヤ人。
そのころオーストリアは、内部でナチス支持者の活動が活発になり、
1938年にはドイツに併合されてしまいます。
ということで、次第にユダヤ人への待遇が悪化。
フロイトはイギリスへ逃れるほかなくなってしまいます。

なのでこの場合、ナチスドイツがいきなりオーストリアに侵攻したのではなく、
オーストリア自体がドイツと同化しようとしたとも言えるわけです。
もちろん、そのことに反対する人々もいたでしょう。
フランツとタバコ店の店主もそういう立場ではあったのですが、
店主は猥褻本を密かに販売していたということでいきなり連行され、
そのまま帰らぬ人となってしまうのです・・・。

フランツは、フロイトが「見た夢を記録しておくように」との言葉に従って、
ずっと見た夢をメモし続けていました。
そのため作中もフランツの夢のシーンが多く出てきます。
それはアネシュカへの思慕の表れであったり、
抑圧された時代への不安の表れであったり・・・
そういう心の深層を表わすモノのようではありますが、夢ですから支離滅裂なもの。
いつしかフランツはそのメモを店のウインドウに張り出すようになります。

それは、誰が読んでも意味不明。
そしてこの行為自体も意味不明のようでもありますが・・・。
例えば誰がこれを読んでも、政府やナチスを非難しているようには見えない。

けれど、フランツはこのメモが「自分自身」を表わしていることを知っています。
自分の「自由」な心は誰にも犯すことはできない。
そう宣言しているようでもありますね。
ステキなエピソードです。

 

<Amazon prime videoにて>

「17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン」

2018年/オーストリア、ドイツ/113分

監督:ニコラウス・ライトナー

原作:ローベルト・ゼーターラー「キオスク」

出演:ジーモン・モルツェ、ブルーノ・ガンツ、ヨハネス・クリシュ、エマ・ドログノバ

 

時代描写度★★★★★

少年の成長度★★★★☆

満足度★★★★☆


わたくしどもは。

2024年06月12日 | 映画(わ行)

静かで波風のないこの場所は・・・?

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佐渡島の金山跡地で目を覚ました女(小松菜奈)は、過去の記憶がありません。

清掃員のキイ(大竹しのぶ)に助けられ、キイの家に連れて行かれます。
そこではキイが、アカとクロという女の子と一緒に暮らしています。
そして自分の名前も分らない女はミドリと名付けられ、
キイと一緒に清掃員として働き始めます。

またミドリは、警備員の男・アオ(松田龍平)と出会います。
彼も過去の記憶がありません。
2人は次第に惹かれ合っていきますが・・・

佐渡島の静かで美しい場所に、時が止まったような日々が流れます。

人々は皆ほとんど無表情で感情の起伏が乏しい。

冒頭で、小松菜奈、松田龍平演じる男女が
「この世では私たちは二度と交わることはない」とつぶやき、
飛び降りるシーンがありまして、
この2人が記憶を失って目覚めた場所は、すなわち「この世」ではないことが分ります。
それなので、まあネタばらしになってしまうけれど、
つまりここに暮らす人々は皆、さまよえる魂であるらしい。

けれど、意外とそうした寂寥感のようなものはなくて、
ひたすら静かで平和なのです。

過ぎた過去の苦しい思いはもうなく、淡々と流れていく時間を過ごすだけ。
しかもただ無為に時間が過ぎるのではなく、清掃という役割もある。
そして孤独ではない。

死後の世界がこんなにも穏やかなものならば悪くない気がします。
・・・というか、そうであってほしいという願望なのかな?

正直、ちょっと眠くなってしまったのですが、雰囲気のある作品。
夢見心地で見るのにピッタリ。

<シアターキノにて>

「わたくしどもは。」

監督・脚本:富名哲也

出演:小松菜奈、松田龍平、石橋静河、田中泯、大竹しのぶ、内田也哉子

 

世俗離れ度★★★★☆

満足度★★★☆☆


ゴヤの名画と優しい泥棒

2024年06月11日 | 映画(か行)

志の高いドロボウ・・・

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1961年に実際に起こったゴヤの名画盗難事件をもとにしています。
おまけにその知られざる秘話も・・・。

1961年、ロンドン・ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれました。
犯人はタクシー運転手、ケンプトン・バントン60歳。
妻と息子との年金暮らし。

ケンプトンは、テレビで孤独を紛らわしている高齢者たちの生活を少しでも楽にしようと、
盗んだ絵画の身代金で、公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようとしたのです。
が、事件にはもう一つの真相が・・・。

NHKの受信料を巡る攻防戦を知る私たちにとっても、切実な問題でありましょう。
公共放送(BBC)の受信料とは!

ケンプトンはかねてからこの受信料問題を考えていたのです。
せめて高齢者は無料で見ることができないものか、と。

そうした思惑が根底となっているために、単なる絵画の窃盗とは違って、
人々の賛同や同情を集めたわけですね。
しかも最終的には本人が絵画を美術館に持参して返したという・・・。

この裁判の結末も、あっぱれというか、なかなか感動的ではあります。

こんなことがあったためかどうか、後にBBCの受信料について、
高齢者は免除されるようになったのだとか。
え~っ。
NHKもそうしてほしい・・・。

<Amazon prime videoにて>

「ゴヤの名画と優しい泥棒」

2020年/イギリス/95分

監督:ロジャー・ミッシェル

出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、フィオン・ホワイトヘッド、マシュー・グード

 

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆


「スクリーンが待っている」西川美和

2024年06月10日 | 本(エッセイ)

映画作りの実際

 

 

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シカゴ国際映画祭観客賞・最優秀演技賞〈役所広司〉ほか、
国内外の映画賞で高く評価された『すばらしき世界』は、
佐木隆三によるノンフィクション・ノベル『身分帳』を原案に、
西川美和監督が初めて原作ものの映画化に挑んだ作品だ。

本書は、原案小説との出会いから、取材と脚本の執筆、撮影から編集など、
五年にわたる制作の日々を、監督自ら赤裸々に綴るエッセイ集である。

原案小説との出会い、公的機関による婚活パーティーへの潜入、
長く仕事をともにしたスタッフとの別れ、刑務所での対話、
『身分帳』のモデルとなった人物の足跡を辿る旅、スタッフが集う撮影前の緊張感、
コロナによる編集作業の中断、出演者への思い──
一本の映画の企画が立ち上がり、それが完成するまでの過程が監督の思いとともに仔細に描かれ、
映画業界を目指す人や映画ファンはもちろん、多くの人に読まれるべき一冊だ。

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西川美和監督作品「素晴らしき世界」制作にまつわるエッセイです。

 

役所広司さん主演の本作は2021年に公開されていて、私も見ています。
佐木隆三さんによるノンフィクション・ノベル『身分帳』を原案にしていて、
殺人罪の服役を終えた男が出所後、懸命に社会復帰を図ろうとする物語。
原案小説の出会いから公開まではほぼ5年。
その間、コロナ禍に突入して編集作業の中断もあったそうで・・・。
映画作りの様々な局面それぞれのご苦労がにじみ出ています。

 

中でも人との関わりの部分が、とても切実で身に迫る感じがします。
例えば、以前の撮影で一緒だったスタッフを
今回呼ばずに別の人にする、などというときの心苦しさとか。

 

役所広司さんは、西川監督が以前から敬愛する役者さんで、
自分などの作品に本当に出演してもらえるのか?と思ったり、
初めて会うときには大いに緊張し、
台本の一字一句を大事にする役所さんの反応にも緊張し・・・。
すでに名監督との地位を得ている西川監督にしてもこうなんだなあ・・・と
逆に親しみを感じてしまったりして。

そしてまた監督は、仲野太賀さんが妙に気に入ってしまって、
さほどの用でもないのに呼びつけて来てもらったりした
などと言うのにはニンマリ。
なんかそういう気持ち分るなあ。
独特の柔らかい場の雰囲気を作る方ですよねえ・・・。

 

私には実においしい一冊でした。

 

「スクリーンが待っている」西川美和 小学館文庫

満足度★★★★★