映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ヒメアノ~ル

2016年11月30日 | 映画(は行)
凡用が一番・・・



* * * * * * * * * *

平凡な毎日に焦りを感じながら、
ビルの清掃のパートタイマーとして生活している岡田(濱田岳)。
彼は同僚の安藤(ムロツヨシ)から、
一方的に思いを寄せるカフェの店員・ユカ(佐津川愛美)のことを打ち明けられます。
そのカフェで、岡田は高校時代の友人・森田(森田剛)と出会うのですが、
実はその森田は、ユカのストーカーなのでした。


このあたりまではちょっぴりコミカルなラブストーリー?と思えるのですが、
とんでもない。
森田の正体が現れるに連れ、作品は次第に悲惨な様相を呈してきます。


この森田を演じる森田剛がなんといっても凄い。
本作は古谷実原作で、名字の一致は偶然だそうなのですが。
彼は高校時代、ひどいいじめにあっていて、
あるきっかけから、たがが外れてしまったとでも言うのでしょうか、
心は暗黒の底にあるのです。
その底知れない暗さ、不気味さ、危うさ・・・。
以前からあった残虐性は、どんどんエスカレートして行きます。


岡田は自分を底辺にいる凡人だと思っています。
その点で言えば、安藤も森田も似たようなもの。
でも、彼らは自分の位置の捉え方がそれぞれなんですね。



例えば安藤は、
ユカが誰かと付き合うようになったら、その相手をチェンソーで切り刻んでトイレに流してやる!
などと息巻いて、実際にチェンソーを購入までしています。
けれども、実際に岡田がユカと付き合い始めたと聞いて、
彼にできたのは自分の髪を「鉄腕アトム」みたいにして、岡田に絶交を言い渡すのみ。
安藤は、いつもうつろな目をしていて、かなり怪しい奴・・・のように見えるのですが、
実際はかなりの小市民。
孤独で、岡田との付き合いを、実は拠り所にしているのです。


一方森田は、すっかり心が壊れており、
自分の残虐行為すらもあまり自覚していないようです。
まるでブラックホールのように、あたりをひき寄せて傷つけずにいられない。
罪の自覚もないこの人物には、とにかく圧倒されてしまいます。


私自身も、底辺近くにいる凡人だとは思うのですが、
いやあ、ただの凡人というのも幸せなことだ・・・と思えてきました。
凡人は、結局最後の一線を超えることはできません。
ホント、凡用で十分。
少しの友人とたまに飲んでうさを晴らせれば、それでいいですよね・・・。

ヒメアノ~ル 通常版 [DVD]
森田剛,佐津川愛美,ムロツヨシ,駒木根隆介,山田真歩
Happinet


「ヒメアノ~ル」
2016年/日本/99分
監督・脚本:吉田恵輔
原作:古谷実
出演:森田剛、濱田岳、佐津川愛美、ムロツヨシ
残虐度★★★★☆
心の闇度★★★★★
満足度★★★★☆

この世界の片隅に

2016年11月29日 | 映画(か行)
日常と隣り合わせの戦争



* * * * * * * * * *

冒頭の方で、私のような世代には懐かしい「悲しくてやりきれない」の曲が、
柔らかなコトリンゴさんの歌声で流れます。
淡い色使いのアニメで表された昭和、
それも戦前の時代へ、私はスーッと引きこまれていきました。


広島で生まれ育ったすずは、いきなり縁談がまとまり、
18歳で呉の全く知らない男性のもとに嫁ぎます。
そんな彼女の幼いころのことが少し冒頭で紹介されます。
それは幼いころの彼女の記憶なので、
まるで夢のようにヘンテコで、ほんとうのできごとなのやらどうやら怪しい・・・。
けれども、後に彼女はその記憶に重なる人と出会うことになります。



すずが嫁いだのは昭和19年、太平洋戦争の最中ですね。
呉は日本海軍の拠点なので、空襲の標的となり、
毎日のように空襲警報が鳴り響きます。
物資は不足し、食料もなかなか手に入らない。
野草を工夫して料理したり、着物をモンペに作り変えたり、
当時の日常の生活が細かく描かれています。



働き者のすずは、早朝に起きて水をくんでくることなどは苦になりませんが、
この家で唯一の苦手は、義理の姉である径子。
離婚し、子連れで戻ってきているのです。
幸いお姑さんは優しい人なのですが、この小姑は手強い・・・!
それでも、なんとかやっていけたのは、この見知らぬ「夫」が、
意外に気持ちが優しく、すずを大切に思ってくれていたから。
こんな結婚は今では考えられないけれど・・・、それでも育つ愛はあるということです。
しかも、幼馴染の哲と、夫・周作とのできごとがあったりもして、
この手の作品では、期待もしていなかった男女の心の機微が表現されていたりもする、
全く油断のならない作品なのであります。

さてと、のんきにこんなことを書きましたが、そこはやはり「戦争」のさなかなのです。
ありふれてのどかな日常の中に、ポッカリと悪夢が口を開けている。
生と死が紙一重の経験を、すずはたどっていきます。



初めの方に昭和8年の広島、中島本町の様子が描かれていました。
ちょうど今の平和公園があるところ。
つまり爆心地近くで、すっかり「失われた街」なのです。
本作のために、当時を知る多くの人に聞き取りをして、町並みを再現したとのこと。
いま、原爆ドームとして知られる「広島県産業奨励館」の姿もあり、
失われた街の重みを感じるところです。



細やかに描かれる当時の人々の暮らしや、どこか懐かしい風景。
別に悲しいシーンでもないのに、自然に涙がこぼれていたのには
我ながら驚きました。
でもラストには、それ以上に泣かされることになるのですが・・・。
実に貴重な作品です。
どなたにも一度は見ていただきたいですね。



それと、すずの声をしている「のん」さん。
おっとりで少しぼーっとしているすずになんてピッタリの声と話し方! 
いいなあ・・・と感心しつつ見ていたのですが、
家に帰ってから調べて驚きました。
のん=能年玲奈さんだったんですね!!
(芸能情報に疎い私・・・)
いやほんと、今では他の人の声は考えられない。

「この世界の片隅に」
2016年/日本/126分
監督・脚本:片渕須直
原作:こうの史代
出演(声):のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月
時代再現度★★★★★
ぬくもり度★★★★★
満足度★★★★★

「傷だらけのカミーユ」 ピエール・ルメートル 

2016年11月28日 | 本(ミステリ)
打ちのめされて・・・

傷だらけのカミーユ (文春文庫) (文春文庫 ル 6-4)
橘明美
文藝春秋


* * * * * * * * * *

カミーユ警部の恋人が強盗事件に巻き込まれ瀕死の重傷を。
彼女を守るため警部は独断で犯人を追う。
英国推理作家協会賞受賞作。


* * * * * * * * * *

「その女アレックス」、「悲しみのイレーヌ」に続くカミーユ警部のシリーズ。
本の帯には「完結編」とありまして、え~っ、もう終わっちゃうの?
と思いつつ・・・。


意外(?)にも、冒頭からいきなりカミーユ警部の恋人・アンヌが登場。
カミーユ警部が妻イレーヌを亡くしてから5年という想定なので、
まあ、時期的にはそんなこともありかとは思います。
でもなんだかイメージから言って、カミーユ警部が亡き妻とは別の人とまた付き合うなんて、
なんか違う、という気がしてしまいました。
警部の身体的ハンデを考えても、いい人とわかってはいても、
そう簡単に恋人はできそうにない・・・などというのは
こちらの勝手な思い込みではありますが。
しかし結局読了後、やはりこの違和感は正しかった・・・
ということになりますね・・・。


アンヌはある日、強盗事件に巻き込まれ瀕死の重症を負います。
その暴力シーンの描写のなんと執拗なこと・・・。
このあたりはやはりピエール・ルメートル。
これで死ななかったのが不思議なくらいです。
さてこういう時、警官は自分の身内や知人に関係する事件を担当することができないのですよね。
しかし、逆上したカミーユ警部は、
アンヌと自分が恋人同士であることを隠して、
強引に自分がこの事件の捜査を担当することにしてしまいます。
二人が付き合いはじめてまだそれほど経っていなかったので、
友人のグエンも部下のルイも、アンヌのことは知らなかったのです。


そういうウソから始まった捜査は、彼をどんどん苦境に追い込みます。
通常では考えられないような強引な捜査方法は上司から咎められ、
また、執拗にアンヌを付け狙う犯人から彼女をかばうために、
密かに病院から連れ出してしまったりもする。
こんなことが表沙汰になれば、彼のキャリアがフイになるのは間違いありません。
それでも、アンヌを守りぬき犯人を捕らえることができれば、
それで良しとするつもりだったのでしょうね。
ところが、更にカミーユを打ちのめすことが起こります・・・。
また、犯人の正体というのがまたカミーユには痛い・・・。


本作の題名が「傷だらけのアンヌ」ではなくて、
「傷だらけのカミーユ」である意味がわかってきます。
切ないなあ・・・。
これでお別れですか・・・。
ルイは相変わらずかっこよかった・・・。


「傷だらけのカミーユ」 ピエール・ルメートル 文春文庫
満足度★★★★☆

孤独のススメ

2016年11月26日 | 映画(か行)
孤独な心からの解放



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オランダの田舎町。
妻を亡くし、息子は家を出て、
ひっそり単調な毎日を送る初老の男、フレッド。
そんなところへ、一人の正体不明の男が舞い込んできます。
彼(テオ)は、あまり言葉も発せず、知的障害があるようにも思える。
けれども、特に生きる目的もない孤独なフレッドには、
同じ家に少しでも話のできる相手がいることは、心の慰めになるのです。
次第に奇妙な友情めいたものが芽生えていく二人。
しかしある時、テオがフレッドの亡き妻の洋服を着て外に出てしまった。
近所の人は、フレッドとテオの関係を完全に誤解してしまいます。
特に、隣家のフレッドと同年輩の男は、異常に彼ら二人に嫌悪を示し、
教会からも締め出そうとします。
そんな時、テオの身元がわかり、その住所を訪ねてみると・・・。



いつも決まった時間にお祈りをしてから食事。
まるで柳沢教授のように几帳面なフレッド。
壁には亡くなった妻と、まだ少年の息子が笑って一緒に写っている写真が掛けてあります。
テオが泊まることになるのは、まだギターなどが立てかけてある、息子の部屋だったであろうと思われる部屋。
息子は出て行ったきりで、帰ってくることはないらしい。
何かそこに秘密があるような気配です。


なんだか次第にテオが、あえて寂しい心の持ち主のところに居着いて、
癒しているかのように見えてくるのです。
まるで無垢な子どものようにちょっと手はかかるけれども、
逆にこちらの気持ちを優しくする。



フレッドも、隣家の男もたいへん信心深く、日曜にはきちんと教会へ通います。
日々のお祈りも欠かしません。
そんな彼らが終盤、ついに衝突し
「神なんかいるわけがない、いるのならなぜ俺はこんなに不幸なんだ!」
と、双方、ついに本音を漏らしてしまいます。
私にはだんだん、テオがほんの少し、
彼らが信じたい「なにものか」の気配を持っているように感じられてきました。
結局はふたりとも、テオによって、閉じ込めていた心が開放されるのですから。



本作の原題は「マッターホルン」で、
フレッドが若い頃に妻とともにマッターホルンへ行ったことが一番の思い出で、
いつかまた、そこへ行ってみたいと思っているのです。
雪を抱いた雄大なマッターホルンの山。
素晴らしい開放感です。
それをあらためて感じられるのも、彼が多くの孤独の時間を過ごしたからこそ・・・
ということでしょうか?


「孤独のススメ」
2013年/オランダ/86分
監督・脚本:ディーデリク・エビンゲ
出演:トム・カス、ロネ・ファント・ホフ、ポーギー・フランセ、アリーアネ・シュルター
孤独度★★★☆☆
無垢度★★★★☆
満足度★★★★☆

オケ老人!

2016年11月25日 | 映画(あ行)
音楽は競うものではなく、楽しむもの



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明らかに「ボケ老人」という言葉を意識したと思われるこの題名に惹かれ、
本を読んでみたのは・・・
2011年、5年も前のことでしたか!

→「オケ老人」荒木源

当時の私のブログ中にも、
本作は「ちょんまげぷりん」よりも映画向きなどとかかれています。
ともあれ、もうほとんど忘れた頃に、映画で出会えるとは思ってもいませんでしたが、
主役が杏さんというのにも心惹かれて、見てみました。
たしか、原作の主人公は男性だったと思います。



梅が丘高校に赴任した数学教師千鶴(杏)は、
学生時代からオーケストラでバイオリンを弾いていました。
彼女は地元のアマチュアオーケストラの演奏に感銘を受け、入団を決意します。
ところが、彼女は勘違いして「梅が丘交響楽団」に申し込みをしてしまったのですが、
そこは老人ばかりのヨレヨレ楽団。
そもそもほとんどオーケストラの体も成していません。

しかし、若い人が入った!と大歓迎されてしまい、間違いだとは言い出せなくなってしまいました。
おまけに、指揮をしていた野々村老人(笹野高史)が病に倒れ、
代わりに指揮者として楽団を率いなければならない立場に・・・。



ポンコツオーケストラの指揮をしながらも、まだバイオリンの道を諦めきれず、
本命「梅が丘フィル」への入団を目指して必死に頑張る千鶴もなかなか良いです。
しかし、がむしゃらに頑張れば良いと言うものでもない。
音楽は競うものではなくて、楽しむもの。
そういう原点に帰っていくのがいいですよね。
その結果として、上達につながるのならなおよし。
現実は甘くない?
まあ、いいじゃないですか。
これはそういう物語なのですら。



野々村老人の孫娘役の黒島結菜さんが良かったなあ。
千鶴の生徒なんですが、妙にしっかりしていて、まるで千鶴よりもお姉さんみたい。
千鶴の恋を後押しするところなど、なかなかのものです。
そしてその千鶴の恋の相手は、同じ高校の教師だけれど年下の坂下くん(坂口健太郎)。
この恋の顛末がまた、傑作。
いやあ、面白かった・・・!



やはり、本で読むよりも実際に音があるので、
クラシックに詳しくない私などには最適でした。
原作には何やら怪しげなスパイが登場したりするのですが、
映画ではそういうエピソードがバッサリ削られています。
でも、そのほうが焦点が絞られてよかった。



「オケ老人!」
2016年/日本/119分
監督・脚本:細川徹
原作:荒木源

「源氏物語と日本人 紫マンダラ」 河合隼雄

2016年11月24日 | 本(解説)
自立した女の“物語”とは

源氏物語と日本人〈〈物語と日本人の心〉コレクションI〉 (岩波現代文庫)
河合 俊雄
岩波書店


* * * * * * * * * *

心理療法家・河合隼雄から見た、日本屈指の王朝物語である
『源氏物語』とはどんなものであったのか?「
これは光源氏の物語ではなく、紫式部の物語だ」と気づいたことから、
心理療法家独特の読みが始まる。
そこには、どのような日本人の心の世界が描かれているか。
古代から続く男と女の関係は、さながらマンダラのように配置される。
現代に生きる日本人が、個として生きるための問題を解く鍵を提示する。


* * * * * * * * * *

物語を通して、日本人の心を探る、というところでこの本を手にしましたが、
よく考えてみたら、私、まともに「源氏物語」を読んだことがありません。
もちろん現代語訳のものも・・・。
ということで、読み始めてから実は無謀なことだったのでは?
と思ったのですが、でも、
河合隼雄氏は親切に登場人物などの解説を入れてくれているので、なんとか読めました(^_^;)


通常「源氏物語」は光源氏の物語だと誰もが思うわけですが、
著者は、『「光源氏」は生きた一個人としては描かれておらず、
これは、彼を取り巻く女たちの物語、
そしてそれはすなわち、紫式部の物語だ』といいます。


女性には娘、妻、母、娼の4つの立場があるといいます。
光源氏と関係した多くの女性達を、この中のどれかに当てはめることができる。
紫式部が実際にそのようなことまでもを意識したかどうかはわかりませんが・・・。
しかし特筆すべきなのは「紫の上」で、
彼女は一人でこの4つの立場を経験している、というところ。
彼女自身は出産はしていないのですが、養女を引き取り育てるという「母」の役割をもこなし、
しかし、挙句には源氏が正妻を迎えることになり「娼」の立場に追いやられるという・・・。


物語の中に、自己を投影していった紫式部は、
最終の「浮舟」で、個としての女性の姿を見出した、と言います。
浮舟は、光源氏の死後の物語「宇治十帖」の中で薫との関わりで登場する女性ですが、
薫と匂の間でどうにもならなくなり、自殺を試みますが失敗。
しかしそこで気持ちを切り替えた彼女は出家し、二度と薫とはかかわらなかった。
現代に通じる独立した女の生きざまが確かにそこにありますねえ・・・。


冒頭で著者は言うのです。
現代の女性は「男の物語」の中で生きている、と。
「会社に勤めて、仕事が認められ、ある程度の地位を得る。」
これは男性中心の社会の中での一般的な「男の物語」。
今の女性はそれを追い求めているのだけれど、本当にそれでいいの?と。
確かに、そうだと思いました。
私もずっと共働きを続けていた女として、よく思ったものですが、
「ダンナはいらないから、奥さんがほしい・・・」と。
だからといって、著者が女は家で家事をせよ、と言っているのではありません。
このような現代社会で、新しい「女の物語」があるべきなのではないか、というのです。
その答えは私にもわかりません。
今は男とか女ではなくて、ただ「個」としてのあり方が問われるのかもしれません。
だけれど、そうはいっても「子どもを生む」のは女にしかできないことですしねえ・・・。
現代の「女の物語」。
もう少し考えてみたいです・・・。
が、私はすでに手遅れ・・・?

<物語と日本人の心>コレクション1
源氏物語と日本人 紫マンダラ   河合隼雄 岩波現代文庫
満足度★★★★☆
図書館蔵書にて

10クローバーフィールド・レーン

2016年11月22日 | 映画(た行)
二重じかけの危機



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クローバーフィールド、といえば、
あの正体不明の巨大エイリアンが街を襲撃し、パニックになる・・・
という作品を思い出すのですが、さて本作はその続きなのかどうか・・・?
興味を持って見ました。



恋人と別れたミシェル(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)が、車を飛ばしていると、
突然の事故に遭遇。
気がつくと、見知らぬ部屋に寝かされていて、
何やら怪しい感じの初老の男・ハワード(ジョン・グッドマン)がいます。
彼は「君を救うためにここへ連れてきた」というのです。
外は何者かの襲撃で壊滅していて、その上毒ガスかウイルスが撒かれているので、
このシェルターから外へ出ることはできない。
自分はこの時のために以前からこのシェルターを作って食料も蓄えておいた。
だから、しばらくは一緒にここで暮らそうというのです。
このシェルターにはもう一人、避難してきた青年エメット(ジョン・ギャラガー・Jr)もいます。
肝心なときに気を失っており、ハワードの言うことをにわかには信じられないミシェルでした。
しかしある時、シェルターから外界を見ることができる唯一の窓の外で
顔がただれて死んでいく人の姿を目撃し、彼女は納得します。

束の間、3人の平和な日々が訪れますが・・・。
それにしても、やはりハワードの話に腑に落ちない部分を感じ始めるミシェル・・・。


外界が破滅している、というのは男の話だけ。
私たちは、そんな話をするこの男こそが怪しい・・・と思い始めます。
そして、実際にハワードは変態の監禁男・・・。
ところが・・・、終盤の展開はやはりあの「クローバーフィールド」という、
二重じかけの映画というわけでした。



つまりは、あの「クローバーフィールドHAKAISHA」の出来事と同時に
世界中のアチラコチラで同様の襲撃があった、ということなのかもしれない。



この話も、普通のただの用心深い男のシェルターだったのなら何も問題なかったのですけどね・・・。
あ、でもそれならミシェルはここに来ることはなかったのか・・・。
なんというか、変わり種の作品。
ということで・・・。

10 クローバーフィールド・レーン ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]
ジョン・グッドマン,メアリー・エリザベス・ウィンステッド,ジョン・ギャラガー・Jr.
パラマウント


「10クローバーフィールド・レーン」
2016年/アメリカ/104分
監督:ダン・トラクテンバーグ
製作:J・J・エイブラムス
出演:メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ジョン・グッドマン、ジョン・ギャラガー・Jr 、ブラッドリー・クーパー(声のみ)
ミステリアス度★★★★☆
満足度★★★☆☆

ガール・オン・ザ・トレイン

2016年11月21日 | 映画(か行)
欠落した記憶に怯える女



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毎日、通勤電車から見えるある家を食い入るように見つめるレイチェル(エミリー・ブラント)。
そんなところから、物語は始まります。

その家には、自分が果たせなかった理想の夫婦(ヘイリー・ベネット+ルーク・エヴァンス)が住んでいます・・・
というか、レイチェルが勝手にそう想像しているだけなのですが。
レイチェル自身は結婚に失敗しているからです。
・・・ところで、そのすぐ近くにはレイチェルが住んでいた家があり、
今は元夫(ジャスティン・セロー)と新しい妻(レベッカ・ファーガソン)、
そしてその二人の子供が住んでいるのです。

レイチェルははじめ自分が失ったこの家に注目していて、
それから理想の夫婦の家に気づいた、多分そんな流れだったのかもしれません。
ところがある日、その理想の妻の不倫現場をレイチェルは見てしまうのです。
そしてまたその後、その女性が殺人死体となって発見される。

ということから、レイチェルはその不倫相手の男こそが犯人ではないかと思うわけですが、
ところが、事件があったと思われるその夜、
その家の近くでレイチェルの姿が目撃されていたのです。


次第に話がもつれてきますが、実はレイチェルはアルコール依存症で、
泥酔すると言動が乱暴になり、
そのことを後にはなにも覚えていないという悩ましい事情を抱えていました。
離婚も結局はそのためだったのです。
そしてその事件の翌朝、彼女は自身が傷だらけになって目を覚ましたのですが、
前の夜のことはなにも覚えていなかった。
もしや自分が彼女を殺してしまったのでは・・・と悩み、怯えるレイチェル。


少し、狂的にも思えるレイチェルをエミリー・ブラントが好演しています。
全体にもシックで陰鬱、どこか幻想的でもあるトーンが、
ミステリアスなムードを深めています。
自分で自分が信じられないというのは、実際つらいですよね。
けれど皆様、本作にはちゃんと合理的な「答え」があるので、ご安心を。
うわー、そういうことなのか、と虚を突かれます。
そして、男性ならば、女は怖いと思うかも・・・。


「ガール・オン・ザ・トレイン」
2016年/アメリカ/105分
監督:テイト・テイラー
原作:ポーラ・ホーキンズ
出演:エミリー・ブラント、レベッカ・ファーガソン、ヘイリー・ベネット、ジャスティン・セロー、ルーク・エヴァンス、エドガー・ラミレス

ミステリアス度★★★★☆
意外性★★★★☆
満足度★★★★☆

「トムは真夜中の庭で」 フィリパ・ピアス 

2016年11月20日 | 本(SF・ファンタジー)
二人の時が交差する時

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))
スーザン・アインツィヒ,Philippa Pearce,高杉 一郎
岩波書店


* * * * * * * * * *

知り合いの家にあずけられて、友だちもなく退屈しきっていたトムは、
真夜中に古時計が13も時を打つのをきき、
昼間はなかったはずの庭園に誘い出されて、
ヴィクトリア時代のふしぎな少女ハティと友だちになります。
「時間」という抽象的な問題と取り組みながら、
理屈っぽさを全く感じさせない、カーネギー賞受賞の傑作です。


* * * * * * * * * *

「ナルニア国」を後にして、再びファンタジーの世界へ踏み込んでいこうと思います。
本作は私の大好きな「時間」をテーマとして扱ったもの。


トムは、弟がはしかにかかり、うつらないようにと、
ひと夏を親類の家で過ごすことになります。
しかし友達もいなく、思い切って遊ぶこともできないので退屈。
夜は眠れません。
ある夜、真夜中に古時計が13の時を打つのを聞き、
こっそり起き出して外に出てみます。
そこには、あるはずのない庭園が広がっていて、ハティという少女と知り合います。
それからトムは毎晩その庭園に通うことになりますが、
いくつかのことに気付きます。
庭園でかなり長い間過ごしても、家に戻るとほとんど時間が経過していません。
この庭園や人々はヴィクトリア時代にあります。
トムがいる現代からは同じ場所の何十年も以前の姿なのです。
そしてトムがこの庭を尋ねるたびに、庭ではかなりの時が過ぎています。
ハティははじめ小さな女の子でしたが、次第に成長しています。
ただし、トムにとってはいつも仲良しのハティなので、
トムは彼女が成長していることにあまり気がついていません。
やがて、ハティがもう「子ども」ではなくなってしまう時、大きな出来事が・・・。


あるはずのない、ふたつの時間の交差。
限りなくロマンを掻き立てられます。
似た話はいくつかあるのですが、
私がはじめてであったのはロバート・ネイサンの「ジェニーの肖像」。
書かれたのは、「ジェニーの肖像」が1939年。
この「トムは真夜中の庭で」が1958年なので、
やはり「ジェニーの肖像」が原点と言えるでしょう。


けれども、本作は少年の成長をテーマとした児童文学というところに大きな意義があります。
時を行き来する冒険。
秘密。
淡い初恋。
長い時間による町や人々の変化を知ること。
通常子どもは昔のことなんか考えません。
親や祖父母が子どもだったことがあるなどとはあまり考えないでしょう。
けれど、トムは自分の目で見て体験して、時の流れを知ります。
2つの孤独な魂が呼び起こした奇跡。
うーん本当に私は、この物語を子供の頃に読んでみたかった。


本作のスケートにまつわるエピソードが素敵です。
スケート靴を受け渡す方法も感動的ですし、
トムとハティが凍りついた川面を遠くの街までずーっと滑り通していくシーンがなんとも印象深い。
爽やかで、そして甘酸っぱい。
子どもでなく大人が読んでも、十二分に感動的な物語でした。

「トムは真夜中の庭で」フィリパ・ピアス 岩波少年文庫
満足度★★★★★

ボーン・スプレマシー

2016年11月18日 | 映画(は行)
マリーの弔い合戦



* * * * * * * * * *

前作「ボーン・アイデンティティー」で語られたストーリーの2年後。
ボーンはマリーとインドで密やかに暮らしています。
しかし、謎の暗殺者が現れ、マリーが命を落としてしまいます。
私は本作、ここのシーンばかりが印象に残っていて、
結局どんな話だったのか全く覚えていませんでした。
せっかく前作で多くの危機を共に乗り越え、平和に暮らしていたのに・・・。
マリーが冒頭であっさり死んでしまうなんて、あんまりじゃん!!
という、衝撃があまりにも強かったのですね・・・。



この時ボーンはまだ記憶を取り戻してはおらず、
このままCIAなどとは関わらず静かに暮らしたいと、そう思っていたわけです。
でも、それではダメなのですよね。
まずは自分を取り戻す必要がある。
そのために、マリーは犠牲にならずにはいられなかった・・・。
けれども、一つのけじめは必要です。
本作は、ボーンがマリーの弔い合戦を仕掛ける、つまりそういう物語です。
一体何のために、自分は付け狙われるのか、
それをはっきりさせずにはこの先の自分もあり得ない。
そこで彼はあえて「ジェイソン・ボーン」名義のパスポートを使い、
CIAからのなんらかのアクションを待ちます。


ここからは、彼一人の戦いになります。
頼りになるのは自分だけ。
ボーンの孤独なありようは・・・
うーん、しゃくだけれど恋人といるよりもカッコイイ・・・!
さてボーンは、ある機密を盗み殺人をも犯したという濡れ衣を着せられてしまっていました。
いったい誰のどんな意図で仕組まれたことなのか。
そして、ボーンとマリーの命を狙っていたものの意図とは??


ということで、相変わらず幾つもの敵と対峙しながら、
ボーンはCIAの秘密を探っていきます。
ベルリン、アムステルダム、モスクワ・・・。
舞台が次々に入れ替わるスピーディな展開はさすがです。


「ボーン・アイデンティティー」でも気づいたのですが、
使われているパソコンが皆ブラウン管式のやぼったいディスプレイなのです。
ほんの十数年前のことなのに、今はオフィスのみならず家庭でも見なくなりました・・・。
恐ろしい速さで技術が進んでいます。
本作でも、ボーンは見知らぬ街を歩く時、まずは紙の地図を入手します。
今なら、スパイじゃなくても誰でも、スマホ1つで用がたります。
考えてみると、凄いですね。


ラストのほうで、ボーンは命をかけつつ、あえてモスクワへ向かいます。
そこで彼は何をしたかったのか? 
なかなかジーンとさせられます。
そんな彼だから、みんなが彼を好きなのだった!!という肝心なことを再確認した本作。
ちなみにsupremacyは、優位性とか支配権という意味。
誰がどれだけの情報を先に得て、優位に立つことができるのか、
そういう話ということでしょうか?

ボーン・スプレマシー [DVD]
マット・デイモン,フランカ・ポテンテ,ブライアン・コックス,ジュリア・スタイルズ
ジェネオン・ユニバーサル


「ボーン・スプレマシー」
2004年/アメリカ/108分
監督:ポール・グリーングラス
出演:マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、ジョアン・アレン、ジュリア・スタイルズ、カール・アーバン

満足度★★★★☆

92歳のパリジェンヌ

2016年11月17日 | 映画(か行)
切実・・・



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リオネル・ジョスパン元フランス首相の母の人生を
その娘で作家のノエル・シャトレが描いた「最期の教え」を原案とした作品です。


パリに住むマドレーヌ、92歳。
助産師をしていましたが、今は引退。
夫には先立たれて、一人暮らし。
それでも娘や息子の家族たちがよく訪れ、穏やかな生活をしています。
けれども、さすがに老齢で、
ノートに書きつけている「一人でできないことリスト」がいっぱいになっています。
買い物。
階段を登ること。
車の運転・・・。
92歳の誕生日、お祝いに集まった家族の前で、マドレーヌは宣言します。
「2ヶ月後の10月17日に、死ぬことにした---」



家族たちは、なにも言えず、聞かなかったことにして無視したりします。
確かに、いきなりそんなことを言われても、どうしていいかわかりませんよね。
特に娘のディアーヌは、馬鹿なことを言わないで、と反発するのですが・・・。
でも、色々とお母さんの話を聞き、様子を見ているうちに、
母の望みを叶えさせてやろうと思うようになっていきます。



マドレーヌはその年令の女性としては珍しく、
仕事を持ち、社会運動に参加したりもする自立した女性だったのですね。
だから体が衰えて自分ではなにもできないことや、
おねしょでシーツを汚したりすることに耐えられないのです。
まだ自分の意識と意欲がしっかりしているうちに、
自分ですべてを終わらせたいと、心から思っているのです。
その気持はわかりすぎるくらいにわかるけれど、諸手を挙げて賛成することはできない。
とても難しい問題ですね・・・。


ディアーヌももちろん結婚もし、息子もいて仕事もしている、
すでにかなりの年齢ではありますが、
今、死のうとしている母を前に、なんだか幼い子どものように、
心もとなく寂しくなってしまうというシーンがありました。
いくつになっても母と娘。
やっぱりどこか心の支えにしている部分があるんですよね・・・、
少し前に母を亡くした私にはそんな心情がよくわかります。



家族の心情を抜きにすれば、私はマドレーヌの死に方が羨ましいというか、理想に思えます。
そんな風に死ねたらいいな・・・などと、常々思う。
本作、若い方ならそんなもんかなあ・・・くらいで済むでしょうけれど、
私くらいの年になると、ちょっと切実に過ぎますね・・・。
暗くなりがちなストーリーの中で、
おばあちゃん思いの孫の青年の存在が救いでした。


「92歳のパリジェンヌ」
2015年/フランス/106分
監督:パスカル・プザドゥー
原作:ノエル・シャトレ
出演:サンドリーヌ・ボネール、マルト・ビラロンガ、アントワーヌ・デュレリ、グレゴール・モンタナ、ジル・コーエン

切実度★★★★☆
満足度★★★★☆


「はなとゆめ」 冲方丁

2016年11月16日 | 本(その他)
女の意地で、“はな”と“ゆめ”に仕立てられた物語

はなとゆめ (角川文庫)
冲方 丁
KADOKAWA/角川書店


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なぜ彼女は、『枕草子』を書いたのか―。
28歳の清少納言は、帝の妃である17歳の中宮定子様に仕え始めた。
華やかな宮中の雰囲気になじめずにいたが、定子様に導かれ、その才能を開花させていく。
機転をもって知識を披露し、清少納言はやがて、宮中での存在感を強める。
しかし幸福なときは長くは続かず、
権力を掌握せんとする藤原道長と定子様の政争に巻き込まれて…。
清少納言の心ふるわす生涯を描く、珠玉の歴史小説!


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「はなとゆめ」
大好きだった少女漫画雑誌ではありませんよ。
これまで「天地明察」「光圀伝」など、硬い題名がイメージの冲方丁さんが、
ガラリと変えて平仮名の題名。
しかも「はなとゆめ」というのですから、オドロキます。


でもこれは清少納言の物語。
女性で平仮名を用いて書かれた「枕草子」を扱うには
やはりこういう題名でなくては・・・。
清少納言が一条帝の中宮・定子に仕えた宮中でのことを、
「はな」であり「ゆめ」であったと言っているのです。
しかし実際は、権力を我が物にしようとする藤原道長により、
定子方一族が次第に苦境へ追い込まれていくという、
なんとも無残な物語なのです。
それでもなおかつ、清少納言は
「枕草子」にはそのようなつらいこと苦しいこと恨みごとには一切触れず、
「はなとゆめ」の定子の身辺のことを書き上げた。
女の意地ですね。
ということで、非常に興味深い物語ではありますが・・・。


あくまでも清少納言の視点、ということで、定子の人物像については、
夢のように美しく聡明で、しっかりしていると、
そういうふうにしか描かれていません。
はじめて宮中に上がったとき、清少納言は28歳、定子はなんと17歳。
清少納言は、ただひたすらに宮中の人々に対して気後れし、
イジイジとしており、そして定子のことは大絶賛。
時代性から言って、それが真実だったのだろうと思いながらも、
現代感覚としては少しイライラしてしまいます。
しかし、定子の父で、道長の兄である道隆の死後、
道長がやりたい放題で道隆方の一族を追い込んでいくあたりから、
物語としては面白くなってくるわけですが。
清少納言はともかく、定子の立場が、一条帝の御心その一点にのみ支えられている、
というのがいかにもつらい。
私としては「はな」も「ゆめ」も取っ払って、
定子その人の内心に触れた物語が読みたくなってしまいました。
ということで、やや物足りない感じ・・・。

「はなとゆめ」 冲方丁 角川文庫
満足度★★.5

ボーン・アイデンティティ

2016年11月14日 | 映画(は行)
これだけで終わればハッピーエンド



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本作は公開時に見たのですが、まだこのブログ開始前。
「ジェイソン・ボーン」を見て、前の方を振り返りたくなって見ました。
とは言え、この作品、とても印象深かったのです。
私にしてはよく覚えていたほうだと思います・・・。


海上を漂っていた男(マット・デイモン)が漁船に救われるのですが、
男は記憶喪失で自分が誰なのか覚えていないのです。
その彼がなんとか自分の身元を探ろうとして、
自らの皮膚の下に隠されていた銀行の口座番号を頼りに、スイスの銀行へ向かいます。
そんな中、彼は自分が優れた戦闘能力を持ち、語学等にも堪能なことに気づいていきます。
指紋認証で本人と確認された銀行の貸金庫には彼のパスポートが保管されており、
それでやっと自分の名が“ジェイソン・ボーン”であることがわかります。
しかし、なんとそこには他の名義の幾つかの他のパスポートと拳銃までもが・・・!!


こんなふうに、ミステリアスでスリリングな物語の始まりに、
すっかり心が鷲掴みにされてしまいます。
自分が何者なのかは全くわからない。
けれども体が勝手に反応して、敵を倒してしまう。
それだけではなく、常に周りに気を配り、
レストランでは駐車場の車のナンバーを記憶し、入り口の見える場所に座ってしまったりする。


面白いですよねえ・・・。
ここのところは、私がボーン・シリーズの中でも一番好きなところです。
結局今回見直してもそう思う。



まずは自分の正体を探ろうと動き出すボーンですが、
その彼のもとに彼の命を狙う暗殺者が次々と現れる。
わかっている僅かなことを手がかりに、次々に「真実」に迫っていく、
ボーンの頭脳と手腕、そしてアクションにしびれてしまう・・・、
でもここは、後になればなるほどまた凄いですけどね。


ところで、そういう人間兵器であるボーンなのですが、ここでは銃を手にしません。
彼の自身のアイデンティティーとは、果たして何処にありや。
本来のボーンなのか、それともトレッドストーン計画により徹底して鍛え上げられたボーンなのか。
そう、答えは明らかですね。


そしてもう一つ。
本作では、マリー・クルーツ(フランカ・ポテンテ)という女性と道連れになるところがまた、興味深い。
彼女とはスイスの米大使館で会ったのですが、お金をすっかりなくして困っていたのです。
彼女の車でパリまで送ってもらうことを大金で依頼。
当然ではありますが、それがまあ、過酷な道のり・・・。
しかし、そこではロマンスも芽生える・・・というのがお定まりではありますが、
いいじゃありませんか!!


本作だけを見れば、これはハッピーエンドなのですが、その先を知っている私は思ってしまう。
マリーはやはりここで深くボーンと関わるべきではなかった・・・。
引き続き次作、「ボーン・アルティメイタム」も、見ようと思います。


「ボーン・アイデンティティー」
2002年/アメリカ/119分
監督:ダグ・リーマン
出演:マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、クリス・クーパー、クライブ・オーウェン、ブライアン・コックス
人間兵器度★★★★☆
満足度★★★★★

奇蹟がくれた数式

2016年11月13日 | 映画(か行)
天から降りてくる公式



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「アインシュタインと並ぶ天才数学者」と言われた、インドの天才数学者ラマジャンの物語。



1914年イギリス。
ケンブリッジ大学の数学者ハーディ教授(ジェレミー・アイアンズ)のもとに、
インドからの手紙が届きます。
それはインドで事務員をしているラマジャン(デブ・パテル)からのもの。
全く知らない相手でしたが、そこに書いてある数式に才能を感じ、
大学に招聘することになります。
しかし、身分も低く学歴もないラマジャンを他の教授たちは拒否。
周囲の偏見や孤独に晒され、やがてラマジャンは病に倒れてしまいますが・・・。



数学者、というのはよく映画の題材に使われますね。
いったい何を言っているのやら、私などには及びもつかない内容ながらも、
数学の計り知れない深淵と美しさを彼らは追い求める。
そんな姿に何やら心打たれてしまうのです。



さて、ラマジャンはインドではその数学の才能を活かす職業などあるはずもなく、
すがる思いでイギリスの大学へ幾つかの自分の見出した公式を送ります。
それが認められて、妻を残したまま、遥かイギリスへの旅。
そこまでは、希望に満ちていました。
けれども、予想はつきますが、ラマジャンはひどい偏見にさらされてしまいます。
彼は間違いなく天才。
しかし天才であるがゆえに、理屈なしで公式がひらめいてしまう。
ハーディ教授には、このままでは発表はできない、
人にそれを認めさせるには「証明」が必要だと、酷評されてしまうのです。



さて、このハーディという人はガチガチの数学者とでもいうのでしょうか、
彼が信じているのは数字と正しい理論。
曖昧な「神」などは信じません。
そんなわけで、人付き合いが苦手で、ちょっと偏屈なんですね。
だからラマジャンに偏見を持っているわけではないのですが、
彼がどれだけ偏見に晒され、孤独を感じているのかもわかっていないのです。
彼が結婚していることすら知らなかったし、
宗教上食べられないものが多くて食堂では食事できないでいることもわかっていない。


そんな彼が少しずつ変わっていくのは、ラマジャンが病に倒れてから。
何しろ、ラマジャンが病で次第に弱っていくのにも気づかなかったのですから・・・。
しかし教授は、そこではじめてラマジャンが
ただの数学の天才ではなくて、一人の人間であることに気づくわけです。


もし教授に奥さんがいたら、奥さんがきっとラマジャンのことをあれこれ気遣っただろうなあ
・・・などと、まあ、これは言っても仕方のないことですが。



けれど、一旦そういうことに気づいたハーディ教授は行動的です。
ようやく、二人の友情はここからはじまる。
どんな才能がどこに埋もれているかわからない。
だから、教育は大事だし、世界は手をつなぎ合わなければ・・・。
差別や偏見は宝石の原石をそれと知らずに捨てるようなもの・・・。
大切にしたい物語ですね・・・。
ラマジャンがもっと長く生きていられたら、
もっと多くの素晴らしい公式が生み出されていたのかもしれません。


「奇蹟がくれた数式」
2015年/イギリス/108分
監督:マシュー・ブラウン
出演:デブ・パテル、ジェレミー・アイアンズ、デビカ・ビセ、トビー・ジョーンズ、スティーブン・フライ

才能のきらめき度★★★★☆
偏見との戦い度★★★☆☆
満足度★★★★☆

「『ベルサイユのばら』で読み解くフランス革命」 池田理代子

2016年11月12日 | 本(解説)
今更ですが、フランス革命のおさらい

『ベルサイユのばら』で読み解くフランス革命 (ベスト新書)
池田 理代子
ベストセラーズ


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少女漫画の金字塔『ベルサイユのばら』。
男装の麗人オスカルやフランス王妃マリー・アントワネットなど、
フランス革命期という激動の時代を生きた人々の一生を壮大なスケールで描いた同作は、
通称「ベルばら」として長らく多くのファンに愛されている。
ベルばらは、もちろん歴史の教科書などではなく、史実をもとにしたフィクション作品である。
しかし、その時代を生きた人間の実像がありありと描かれている同作は、
教科書からは読み取れない歴史の重要な一面を、私たちに見せてくれる。
本書では、そんなベルばらを通してこそ見ることのできるフランス革命史を、
丁寧にひも解いていく。


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この本は書店で、ふと目に入りまして、
今さら「ベルばら」を引っ張り出すなんて・・・と思いながらよく見ると、
池田理代子さんご本人の著作でした。
ふむ、とすればやはり読まなければ!と、
ウン十年前の根っからのベルばらファンとしては思うわけです。


フランス革命とはそもそも何なのか、
それが起こったワケ、前後のヨーロッパ事情などが詳しく書かれています。
ベルばらのカットも満載。
自称ベルばらファンという方なら、やっぱり読まなければ・・・!


ベルばらの連載当時は、やはりオスカルとアンドレの心模様を主軸として読んでいて、
七面倒臭い革命の動きなどは殆ど読み飛ばしていたような気がします。
当時の王室の巨額な赤字は、マリー・アントワネットが浪費したから・・・
というような印象が一般にはあるのではないでしょうか。
ベルばらを読んだ私ですらも、そういう印象があったのですが、
でもこの本を読むと、マリー・アントワネットが嫁いできたときに、
すでに巨大な赤字を抱えていたということです。
太陽王ルイ14世のときにやはり、使いすぎていたようで・・・。
ただ、いかにも美しく豪華に着飾ったアントワネット、
首飾り事件のこともあって、庶民のやり玉に上がりやすかったということなのでしょうね。


韓国の誰かさんのように、庶民は毎日の生活を切り詰めて頑張っているのに、
あんな普段履きのような靴までプラダという贅沢さには、
実際怒りを覚えてしまう、あの心理と一緒ですね。


さて、フランスではその頃、天候不順で農作物の不作が続く・・・。
一方、平民の中でも貿易で富を得たブルジョワジーがどんどん力をつけていく。
また、当時、税金を払うのは平民のみで、貴族たちには課税されなかった。
だから王室の赤字の負担は庶民に重税となってのしかかるわけで・・・
いろいろな要素が絡み合って、ことは起こるべくして起こった、
ということなのでしょう。


それにしても血塗られた歴史・・・。
まともに読んでいくのは辛い感じです。
まあ、歴史というのは、いつもそんなものですけれど。


『ベルサイユのばら』で読み解くフランス革命 池田理代子 ベスト新書
満足度★★★☆☆