映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

素敵なダイナマイトスキャンダル

2018年03月31日 | 映画(さ行)

圧倒的な猥雑のエネルギー

* * * * * * * * * *

実母がダイナマイト心中を図ったというキョーレツな体験を持つ
雑誌編集者・末井昭の自伝的エッセイをもとにした作品。

母・富子(尾野真千子)が隣家の息子とダイナマイトで心中、
という体験を持つ末井(柄本佑)は、
18歳で田舎を飛び出し、昼は工場勤務、夜はデザイン学校という生活を始めます。
やがて、看板会社を経て、エロ雑誌の編集へと流れていきます。
表紙デザイン、レイアウト、取材、撮影・・・何でもこなし、
後に伝説の雑誌と言われる「ウィークエンドスーパー」や「写真時代」の編集長に。
それはかなりのヒットとなるのですが、わいせつ文書販売として発禁になってしまいます。

もろにそんな時代に生きた私ですが、さすがにそのような雑誌を目にしたことがあるはずもなく・・・。
まあ、人によってはその頃の感慨も多くあるのでしょうけれど。
ともかく全編を通して感じられるのはこの末井氏の、
淡々としているようにみえて、のめり込み情念を燃やし尽くしているという不思議な感覚。
これがやはり、子供の頃の母親の死のトラウマが影響しているだろうと、確信的に思わせる。
そのために、当時の母親の様子のシーンが幾度も合間に挿入されるわけですね。
けれど、彼女が心中に出向く直前、
寝ている子どもたちの枕元にそっと佇むシーンを差し入れることも忘れない。
それがあるから、なんだか救われる。



また、そのスキャンダラスな母親の死を、末井氏が売り物にしていると言って非難する人もいるのですが、
人がどう思おうとも、彼自身が受けた心の傷に変わりはない。
執念なのか、復讐なのか。
自分の身を削るようにして送り出していく
おびただしい女性ヌードの写真、写真、写真・・・。
ひたすら圧倒されます。



そしてこの末井氏に柄本佑さんを充てたのがまた、素晴らしい!
本人よりも本人らしく(?)なったのではないでしょうか。
この役をやりこなせる人はそう多くはいないと思います。



女性が見るにはちょっとひるむ作品なのですが、
猥雑なエネルギーが、なんと言っても圧倒的で、
映画としては「イヤラシイ」とか、そういう感覚がほとんどない。
一見の価値はあります。

<ディノスシネマズにて>
「素敵なダイナマイトスキャンダル」
2018年/日本/138分
監督:富永昌敬
出演:柄本佑、前田敦子、尾野真千子、峯田和伸、松重豊、村上淳
猥雑なエネルギー度★★★★☆
トラウマ度★★★★☆
満足度★★★.5

 


ミセス・ダウト

2018年03月30日 | 映画(ま行)

メイクアップ技術が素晴らしい

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1994年第66回アカデミー賞メイクアップ賞受賞作。

インテリアデザイナーのミランダ(サリー・フィールド)は、
子供と遊ぶしか能のない夫・ダニー(ロビン・ウィリアムズ)にうんざり。
ついに離婚を決断します。
子供が生きがいのダニーは、週に一度しか子どもたちと会うことができないことに、失望。
そこで、映画の特殊メイクの仕事をしている弟に力を借りて、
老婦人・ミセス・ダウトに変装し、通いのお手伝いとしてミランダの家に入り込むことに成功します。
これまで、夫としては家の中のことを何もしてこなかったダニーですが、
お手伝いさんとあっては何もしないわけには行きません。
掃除や料理をこなし、今までは一緒に遊ぶだけだった子どもたちにも時には厳しく規律を守らせます。
次第に子どもたちのみならずミランダにも信頼を得ていく、“ミセス・ダウト”。
そんな中で、ミランダはハンサムなスチュー(ピアース・ブロスナン)と親しくなっていき、
ダニーには新たな仕事のチャンスが舞い込みます。
ところが、ミランダとスチューの食事の日と、仕事の面談の日時が重なってしまい・・・。

まあ、お定まりのてんやわんやとなるわけですが・・・。
それにしても、ミセス・ダウトのメイクアップは、さすが賞をとるだけのことはある。
もう20年以上も前の技術とは思えない素晴らしい完成度。
60歳くらいのいかにも品の良さそうな老婦人なんですよ。
私はもっとけばい感じだったような気がしていたのですが、
そんなことはなくて、ほんとに自然で、美しいとも思える顔。
体つきはいかにもごついですけれど、それすらも利点に見えるくらい。
ダニーはもともと声優の仕事をしていたので、声色はお手のもの。
だからミセス・ダウトの話し方もしっかり老婦人、というところもミソです。

本作、続編が企画されていたらしいのですが、
ロビン・ウィリアムズが亡くなって、取りやめになったそうです。
ロビン・ウィリアムズを偲ぶにはもってこいの作品。
本作のピアース・ブロスナンは007ジェームズ・ボンドの役に就く直前。
若くて新鮮!

<WOWOW視聴にて>
「ミセス・ダウト」
1993年/アメリカ/125分
監督:クリス・コロンバス
出演:ロビン・ウィリアムズ、サリー・フィールド、ピアース・ブロスナン、ハーベイ・ファイアスタイン
ロビン・ウィリアムズの魅力度★★★★☆
変装度★★★★★
満足度★★★★☆


愛と追憶の日々

2018年03月28日 | 映画(あ行)

女性が家庭の役割だけに幸福を見出していられた最後の日々

 

* * * * * * * * * *

アカデミー賞関連作品を、時々見ています。
本作は1983年第56回アカデミー賞作品賞受賞作品。


テキサス州、ヒューストン。
夫が早くに亡くなり、一人娘エマ(デブラ・ウィンガー)と
時には対立しながらも一心同体のようにして過ごしていた母オーロラ(シャーリー・マクレーン)。
エマは結婚して家を出、二人の息子と一人の娘ができます。
暮らす場所は離れていても、毎日のように電話で話をして、
絆はつながったままの母と娘。
ある時、エマの夫の浮気が発覚。
エマは一時実家に戻るのですが、やがて互いの気持ちを確かめあって元の鞘に戻る夫婦。
しかしそんな時、エマの体に癌が見つかるのです・・・。

1983年、つまり昭和58年作品か・・・。
私、本作の母娘のつながりの深さにちょっときみわるいものを感じてしまったのですが、
それはそこまでではなかった自分のやっかみなのかもしれません・・・。
でもまあ、普通母娘は反発するものなのではないか、という気もします。
この母は、娘の結婚に反対し、結婚式にも出なかったりするわけですが、
それは自分の気に入る婿ではないから、というだけで、
その後も娘とのやり取りは頻繁すぎるほどにあるのです。

それで、ちょっと思うことがありました。
作中で、エマがニューヨークの女性たちと話をするシーンがあります。
彼女たちは仕事のために妊娠を中絶したり、子どもを学校の寮に入れたり、離婚したり。
ちょうど女性の社会進出が始まった頃なんですね。
そういう女性たちに対して、エマは嫌悪を覚えるのです。
エマこそは若くして結婚し、家事と育児に生きがいを見出して暮らしてきたわけで・・・。
つまりは、本作、女性が家事や育児、夫との愛だけに生きがいを見出して生きていられた
終焉の時を描いているのです。
もちろん、私はそうした女性の生き方を否定するものではありませんよ。
でも、時代の波が恐ろしいほどのスピードで女性の自立、特に経済的自立を促す方へ変化してしまった。
(逆に昨今は、共働きでなければ経済が成り立たなくなってきた、という事情もあります。)
だからアメリカ映画はこの後、
離婚して子供との面会日を楽しみにする男ばかりが登場するようになる。
言ってみれば、本作は家庭にのみ生きがいを見出す女性への挽歌。
・・・だから、エマが早逝してしまうというのは宿命なんですね・・・。

この家の隣人は、土地柄らしく元宇宙飛行士(ジャック・ニコルソン)、というのがユニークでした。
夫役は、ジェフ・ダニエルズ。
え?
私の知っているジェフ・ダニエルズとはぜんぜん違う! 
若い!

<WOWOW視聴にて>
「愛と追憶の日々」
1983年/アメリカ
監督・脚本:ジェームズ・L・ブルックス
原作:ラリー・マクマートリー
出演:デブラ・ウィンガー、シャーリー・マクレーン、ジャック・ニコルソン、ジェフ・ダニエルズ
家庭における女性の幸福度★★★☆☆
(結局夫の愛がすべてで、あまり幸福そうには見えなかった)
満足度★★☆☆☆
(アカデミー賞受賞作品も今となっては・・・)


ハッピーエンド

2018年03月27日 | 映画(は行)

これほど「ハッピーエンド」という言葉にそぐわない作品も珍しい・・・。

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フランスのカレー。
豪華な邸宅に3世帯で暮らすロラン一家。

家長ジョルジュ(ジャン・ルイ・トランティニャン)85歳は
高齢のため家業を長女アンヌ(イザベル・ユペール)にまかせて引退しています。

アンヌは息子ピエール(フランツ・ロゴスフキ)と事業にあたっていますが、彼は気弱でナイーブ・・・。
あまり経営に向くタイプではありません。

また、アンヌの弟トマ(マチュー・カソビッツ)は医師で、
初めの妻とは離婚し、現在二番目の妻と赤子の息子がいます。

さて、このトマの初めの妻との間にできた娘がエヴ(ファンティーヌ・アルドゥアン)13歳。
母が倒れて入院してしまったために、このロラン家に来て、一緒に暮らすことになります。

ジョルジュは孫のエヴの様子になにか思うところがあり、
ある時重大な打ち明け話をするのですが・・・。

この一家は互いに無関心で、それぞれに秘密を抱えているようなのです。
中でもこの少女の闇は、本作の冒頭で映し出され、
私達は騙される間も何もなく、危うい気持ちを抱きながら、
ただ成り行きを見守る他ありません。
幼い頃に父に捨てられ、それを恨む母の声を聞き続け、
愛に飢えて死に取り憑かれているエヴ・・・。
そんな自身の映像をなんのためらいもなくSNSに流してしまう・・・。
というより、SNSに乗せるために行動しているのか?
SNSで匿名、顔のない人物になることで、
あるべき熱い感情をも喪失してしまっているかのよう・・・。
何でしょうこれは、心の闇というよりも、空虚。


なるほど、本作の雰囲気が重厚というのではなく、どこか淡々としているというのも、
この空虚感にマッチしているようにも思われます。
この少女が、85歳の老人と同様の空虚を抱えているということに、心は暗澹とせざるを得ません・・・。
ラストがまたショッキング・・・。
やりきれない・・・。

<シアターキノにて>
「ハッピーエンド」
2017年/フランス・ドイツ・オーストリア/107分
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール、ジャン・ルイ・トランティニャン、マチュー・カソビッツ、ファンティーヌ・アルドゥアン、フランツ・ロゴスフキ

やりきれなさ★★★★★
満足度★★★☆☆


「長女たち」篠田節子

2018年03月26日 | 本(その他)

長寿は本当に幸せか

長女たち (新潮文庫)
篠田 節子
新潮社

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あなたは、そこまでして私の人生を邪魔したかったの―。
認知症の母を介護するために恋人と別れ、仕事のキャリアも諦めた直美。
孤独死した父への悔恨に苛まれる頼子。
糖尿病の母に腎臓を提供すべきか苦悩する慧子。
老親の呪縛から逃れるすべもなく、周囲からも当てにされ、
一人重い現実と格闘する我慢強い長女たち。
その言葉にならない胸中と微かな希望を描き、圧倒的な共感を呼んだ傑作。

* * * * * * * * * *

「家守娘」
「ミッション」
「ファーストレディ」
篠田節子さんの、"長女"が主役の3編。


認知症の母を介護する物語「家守娘」が、なんと言ってもぐさりと来ます。
最近、親、特に母親を介護する娘の悪戦苦闘の話を多く読んでいるのですが、
本作はその母が事件まで引き起こす事になってしまい、
なんとも暗澹とした気分にさせられてしまいます。
レビー小体型認知症というのは幻視を伴うことがあるそうで、
この母は幻視で見えたことも事実として疑わない。
脳がそう見ているので仕方ないことではあるのですが、
その話に付き合っている娘は、自分までもが精神に異常をきたしそうになってしまうのです。
こんな事になったら、私なら無理心中してしまうかも・・・
なんて思ってしまうくらいに、抜き差しならない状態・・・。
しかしこの正気を失ったような母の言動が、実は娘の危機を救うことになる・・・
というところが、なんともうまくできていて、さすが篠田節子さん。
小説として素晴らしい出来。

「ミッション」はある女医が、ヒマラヤ付近と思われる未開の土地を医療を行うために訪れます。
その地は高地のためろくな作物もできず、人々はみな貧しい。
食べ物といえば非常に塩分の強い干し肉と、バター。
これでは健康にいいわけはありません。
案の定、人々は40歳くらいですでに老人のようで平均寿命も50歳位。
ある日、畑仕事中に倒れたと思ったらそのまま息を引き取ってしまう・・・というのが普通という。
女医は、村人に食物の栄養バランスを説き、
なんとか健康的な食生活を身に着けさせようとするのですが・・・。
しかし考えさせられてしまうのです。
日本で当たり前になっている栄養のことや、長生きのための治療・・・。
それがつまり老人の長い療養生活をあおり、
そしてまた家族の長い介護生活を強いている。
人として生きていくために、正しいのはどちらなのか・・・。
篠田節子氏は通常の介護ストーリーとは別のアプローチで、問題の本質をついています。


ラスト、「ファーストレディ」は糖尿病の母を介護する娘。
しかしこの母は、全くわがままで、せっかくの糖尿病のための料理を全然食べようとしません。
当然病状は悪化するばかりで、振り回されて疲弊してゆく娘。
最後には腎不全に陥り、もう腎移植しか手は残されていないという時、
娘はどのような判断を下すのか・・・。
現実的ではないかもしれないけれど、ちょっとこのラストは溜飲が下がる思いがする・・・。
まあ、少なくともいくら家族相手でも、
介護される側がそれを当然のこととしてしまうのはダメだなあ・・・。

身につまされて、読み応えたっぷりの一冊です。

図書館蔵書にて(単行本)
「長女たち」篠田節子 新潮社
満足度★★★★☆


 映画 聲の形

2018年03月25日 | 映画(か行)

思春期の少年少女の葛藤

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公開時、興味はあったのですが、見逃していました。


小学校6年の石田将也のクラスに一人の女の子が転校してきます。

その子・西宮硝子は耳が聞こえず、
筆談で話さなければならなかったり、時々話す言葉も聞き取りにくかったりで、
次第にクラスの中では孤立した存在になっていきます。
そんな硝子にイラついた将也は彼女をいじめはじめ、クラスのみなも同調し始めます。
しかし、硝子の母がイジメに気づき、学校に抗議したことから、
将也はイジメの首謀者とされ、今度は逆に将也がクラスの中で孤立してしまうのです。
彼に加担していた級友も自分は関係ないという顔をして離れていきます。
硝子は再び転校してしまいました。
将也が中学生になっても噂はそのままつきまとい、変わらず彼は孤立。
将也は自分から心を閉ざすようになっていくのです。
そして5年が過ぎ将也は高校生。
やはりクラスの中では孤立し、人の顔を真っ直ぐ見ることも、言葉をきくこともできません。
毎日が苦しく、死ぬことすら考えた・・・。
そんなある日、彼は別の学校へ通う硝子のもとを訪ねてみました。
小学校6年の同級生だった皆の、再会と再びの葛藤の始まりです。

自分が何も考えずに取った行動が、後に大きな間違いであったと気付くこと。
それは大変つらいことです。
自分でも苦しいばかりか、それを周りの人々に常に非難され続けるとしたら・・・、
生きる意欲も失われて当然。
そう考えれば、それでも頑張って学校へ行き続け、
バイトをして母親にかけた迷惑を償おうとする将也はすごい奴! 
しかも手話もマスターしてるんですよ。
そういうところがわかるから、
私達はいじめっ子ではあるけれども将也に同調し、応援せずにはいられません



さて本作、障害者の硝子の生き方がメインではないですね。
差別とかイジメは良くないということでもない。
(それはもう、言うまでもないことなので)
むしろ普遍的な思春期の少年少女の葛藤を描いている。
軽い気持ちで将也と一緒になってイジメをしていた友人たちは、
自分たちが将也を見捨ててしまったことにまた傷ついている。



嫌いな子だから親しくはしなかった、と確信的な子。
自分はイジメていないと、無自覚な子。
将也がはじめたことだから仕方ないと責任を逃れようとする子。
いろいろなのだけれど、本当は自分たちも良くないとわかっているのでしょう。
そんな気持ちをずっと抱えたままでいた・・・。
こうした葛藤の解決のために、
この時期の彼らの改めての出会いが必要だったということなのでしょう。



思春期の彼らの苦しいほどに繊細で刹那的な様子が、胸を締め付けます。
アニメはこういう表現もできるものだったんですね・・・
あまりにも切ないので、2度は見たくない作品・・・・。



映画『聲の形』DVD
入野自由,早見沙織,悠木碧,小野賢章,金子有希
ポニーキャニオン



<WOWOW視聴にて>
映画「聲の形」
2016年/日本/129分
監督:山田尚子
原作:大今良時
声:入野自由、早見沙織、悠木碧、小野賢章、金子有希

青春度★★★★★
せつなさ★★★★★
満足度★★★★.5


北の桜守

2018年03月24日 | 映画(か行)

最果ての地で、幸せになることを拒む母

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吉永小百合さん出演120作目だそうです・・・。
すごいですね!
でも本作、予告編のときから小椋佳さんの主題歌が何やら暗くて重くて、
あまり是非見たいという感じではなかったのですが、結局見てしまいました。
「北の零年」「北のカナリアたち」に続く北の三部作最終章。
まあ、北海道が舞台というだけで内容は全く関連ありません。
・・・などと言いつつ「北の零年」は実は見ていない。
でもまあ、私は特別に吉永小百合さんのファンではないにしても、
いつまでもお若くキャリを保っていることにはリスペクトを感じております。

さて、1945年、樺太で家族と暮らしていた江連てつ(吉永小百合)。
夫(阿部寛)と二人の息子。
ささやかな平和な暮らしでしたが、
ソ連のいきなりの侵攻により、事態は急変します。
夫は出兵し、てつは2人の息子とともに北海道の網走を目指します。
戦後も夫は戻らず、網走の厳しい環境と貧しさの中、
鉄は必死で息子を育て上げます。
時は過ぎて1971年。
次男の修次郎(堺雅人)はビジネスで成功を収め、
15年ぶりに網走を訪れ、母を札幌の家に迎えますが・・・。
老いた母は、どこか精神が不安定な様子をのぞかせます。



樺太ではたしかにいたはずの長男が、北海道に来てからは姿を表していません。
嫌な予感を抱いてしまうのですが、
そのことには一切触れられないままにストーリーは進んでいきます。
てつさんは、脳の検査をして、医師には「アルツハイマー」ではないと診断されます。
何か過去に大きなショックとかストレスになるようなことはなかったか、
と医師は問うのですが・・・。



しかし修次郎は、仕事が超多忙そうにもかかわらず、母に付き合って旅をしますね。
これまでの思い出をたどる旅。
・・・とはいえ、殆どが辛い思い出と重なる旅なのです。
戦後まもなく闇米を運んだ道・・・。
そして稚内の港を訪れた時に、封印していた過去が蘇る。



悲惨な体験を積んだ上、こんな北の最果ての地で、耐えに耐えた生活・・・。
う~ん、やっぱり重すぎです。
本作にはケラリーノ・サンドロヴィッチ氏演出の舞台パートが交えられていて、
なにやら趣き深い雰囲気を醸しています。
口には出せない心の叫びはそのシーンで表されているわけですね。



修次郎は札幌の狸小路に、ファストフード+コンビニのような、
アメリカンスタイル・当時のはしりの店を出すのですが、
ちょうどこの作品を、その狸小路のすぐ近くの劇場で見ました。
当時のちょっとレトロな雰囲気の狸小路のことを懐かしく思いました。
その頃は映画館がいくつもあったなあ・・・なんて。



<ディノスシネマズにて>
「北の桜守」
2018年/日本/126分
監督:滝田洋二郎
出演:吉永小百合、堺雅人、篠原涼子、岸部一徳、佐藤浩市、阿部寛

最果ての地度★★★★★
満足度★★★☆☆


「光の犬」松家仁之

2018年03月22日 | 本(その他)

全く心の通い合わない家族ではあるけれど

光の犬
松家 仁之
新潮社

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北の町に根づいた一族三代と、そのかたわらで人びとを照らす北海道犬の姿。
信州・追分に生まれ、助産婦となって道東の町・枝留にやってきた祖母。
戦前に隆盛をきわめた薄荷工場の役員である祖父。
川釣りと北海道犬が趣味の生真面目な父。
子どもたちを頼みに生きる専業主婦の母。
幼なじみの牧師の息子と恋をする歩。
レコードと本に没頭する気難しい始。
いずれも独身のまま隣に暮らす、父の三姉妹。
祖母の幼少時である明治期から、50代になった始が東京から帰郷し、
父母と三人のおばたちの老いにひとり向きあう現在まで、
100年にわたる一族の、たしかにそこにあった生のきらめきと生の翳りを、
ひとりひとりの記憶をたどるように行きつ戻りつ描きだす、新作長篇小説。

* * * * * * * * * *

松家仁之さん、4作目。
(あ、3作目をまだ読んでません!)
「沈むフランシス」と同じ、北海道のさびれた地方都市・枝留(えだる)が舞台。
駅の近くに大きな岩があるというところから、
おそらく「遠軽(えんがる)」がモデルと思われます。
が、「沈むフランシス」とは違って、これは家族の物語。
ほぼ百年に渡る3代の家族のことが、
視点を変え、時を行きつ戻りつしながら語られていきます。
北海道の100年、といえば開拓の物語か、
あるいはまた、時代の流れに翻弄されつつも生き抜く家族の物語なのか・・・?
否。


物語の最終局面、50代の始は東京で大学教授を勤めていたのですが、
思うところがあり、故郷の枝留の実家に戻ってきます。
そこにいるのは老いた両親と、二人のおば。
助産婦をしていた祖母は、始が生まれる前に亡くなっていて、
妹は30代ですでに亡くなっている。
もう一人いたおばも、認知症の末、老人施設で亡くなっています。
始自身も結婚はしているのですが子どもはなく、仕事を持つ妻とは別居状態。

このような状態になるまでの道のりを詳しく描いたものが、
すなわちこの本のストーリーです。
この家では北海道犬を飼っていて、入れ替わり4匹。
誰もがこの家族とともにありながらも
分かり合えない孤独を抱えている家。
そんな家族に常に寄り添うようにして犬がいたわけです。
犬は乳離が済めばもう「家族」の概念は持ちません。
自分一匹だけで生きていくのみ。
母犬を思い出すことなど(多分)ないでしょう。
けれど終盤、始は思う。
人は一人で生きていく事はあるかもしれないけれど、
生まれたときと死ぬときは誰かの手を借りなければならない。
孤独死などという言葉もあり、死ぬときは一人ということもあるのでは?
と思うところでもありますが、
それにしても、お弔いやお墓のこと、自分ではどうにもできませんからね。
ましてや、認知症や寝たきりの状態があるならなおさらのこと・・・。
決して心の通い合う家族ではないにしても、
結局そのような関わりを持たなければならない、というのが家族と言うもの・・・。


本作で始が仕事をやめた理由は詳しく語られないのですが、
こうした自分の役割を薄々予感したのかもしれないなどと想像します。
また、年の順から言えば自分がこの家のものを看取ることになるけれど、
物事は予測がつかないから、自分が最後とは限らないという思いもまた持っているのです。


本作中で最もいたましく思ったのは始の妹・歩の病の下り。
聡明で自立心に富んでそして自由だった彼女。
つきあった男も幾人かはいたのですが、結婚はしないと決めて、
天文学の仕事に打ち込んでいました。
この家のものとしては最も奔放で魅力的だったのですが・・・。


本作にはこの歩ばかりでなく幾人かの死の場面が描かれます。
輝いていた命が、不意に消えてしまう。
けれど人の世というのはそうしたことの連続、繰り返しであるわけなのでしょう。
不確実な人生、人の命のことを静かに語る一作。
じんわりと心に染み入ります。

図書館蔵書にて
「光の犬」松家仁之 新潮社
満足度★★★★★


ローマ発、しあわせ行き

2018年03月21日 | 映画(ら行)

納得行かなすぎ

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シングルマザーのマギー(サラ・ジェシカ・パーカー)は、
娘・サマー(ロージー・デイ)を麻薬所持に係るろくでもないカレシから引き離すために、
イタリア旅行に連れ出します。
そのためサマーは不機嫌の見本のよう。
さて、2人が宿泊地にたどり着くと、
かつてのマギーの恋人であるイタリア人男性・ルカ(ラウル・ボバ)と20年ぶりに再会します。
ちょっと舞い上がってしまうマギーでしたが、ルカの傍らには若い女性が・・・。
そんな時、サマーが、ルカの老いた母親(クラウディア・カルディナーレ)と共に、
車でローマへ向かってしまいます。
ルカの母は若い頃の恋人とローマで会う約束をしているといい、
サマーはとにかくアメリカへ帰りたかったのですね。
二人の利害が一致したのです。
あわてて、この二人の跡を追うマギーとルカでしたが・・・。

まあ、普通に楽しめるラブコメではあります。
しかし私はこの男、ルカに文句がある。
母はすでに夫も亡くし、若い頃の恋人に会うためにローマに行きたい、と言っているのに、
無視するんですよ。(母は運転ができない)
だからやむなく母はサマーの運転する車で行動をともにするわけです。



ルカはTV局に勤める友人に、
テレビでこの二人連れの目撃情報を求めることを放送してもらうことにしたのですが、
「若い女が、老いた母を誘拐した」と報道してしまった。
そして、警察にも連絡してしまった。
サマーはすっかり犯罪者にされてしまう。
ひどすぎませんか、これ。
それなのに、マギーはこの超マザコン男に対して怒りもしない。
少なくともサマーが警察に捕まってしまった時点で、
ルカが事情説明に出向くべきではないのか・・・。



・・・というわけで全く納得行かず。
ラストはマギーとルカがいいムードになっている、というのは何だこれは・・・!!
ここでもし仲良くなったとしても絶対長続きはしないと思う。
イタリア旅行とサラ・ジェシカ・パ―カーを前面に持ってきた
単なるトレンディドラマでした。



ローマ発、しあわせ行き スペシャル・プライス [DVD]
サラ・ジェシカ・パーカー,ラウル・ボヴァ,クラウディア・カルディナーレ,ロージー・デイパズ・ベガ
Happinet



<WOWOW視聴にて>
「ローマ発、しあわせ行き」
2015年/アメリカ/91分
監督:エラ・レムハーゲン
出演:サラ・ジェシカ・パーカー、ラウル・ボバ、クラウディア・カルディナーレ、ロージー・デイ、パス・ベガ
満足度★★☆☆☆


ナチュラルウーマン

2018年03月20日 | 映画(な行)

ものでは証明できない、思い。

 

* * * * * * * * * *

この度のアカデミー賞、外国語映画賞受賞作品です。



ウェイトレスをしながらナイトクラブのシンガーとして歌う
トランスジェンダーのマリーナ(ダニエラ・ベガ)。
年の離れた恋人オルランド(フランシスコ・レジェス)と暮らしています。
2人で誕生日を祝ったその夜、
オルランドは自宅のベッドで意識が薄れ、亡くなってしまいます。
さて、そこからが問題。
オルランドの元妻や息子が現れ、家をあけ渡すように言われてしまいます。
葬儀に出ることも拒否されます。
マリーナとオルランドでかわいがっていた犬まで取り上げられてしまいます。
その上、マリーナにオルランドの殺害容疑がかかり、警察で取り調べられたりもします。



トランスジェンダーに対しての根深い偏見・差別・・・。
それは、これまでも多くの映画で取り上げられていますが、
こんなふうに人としての権利までもを奪い去られるほどの理不尽な有様には、
憤りを感じてやみません。
特にこのマリーナの強く美しいまなざしに、
私達は同調こそすれ、嫌悪感というのはあまりありませんね。



マリーナが普通の女性だったとしたら、なんの問題もないはず。
きちんと結婚していれば、当然家にはそのまま住むことができるでしょうし、
葬儀の出席を拒否されるなどということもありえない。
オルランドはその日、誕生日のプレゼントとしてマリーナに「イグアスの滝」への旅行券を渡すつもりでした。
けれど歳のせいなのか、どこかへしまい忘れて見つからなくなってしまったのです。
そして、マリーナはオルランドの遺品の中からロッカーの鍵を見つけます。
オルランドが行っていたサウナのロッカーの鍵。
マリーナは、そのロッカーに旅行券が置き忘れられているのではないかと思い、
サウナに向かいます。
一見は女性なので、女性用のロッカールームからこっそり男性用の方へ忍び込んでいく。
いや、それで問題はないはずなのですが、妙にドキドキしてしまいました。
誰かが気付いて騒ぎ始めるのではないかと・・・。
そしてその挙げ句、ロッカーの中は・・・!



まさかの展開なのですが、けれどマリーナは思う。
オルランドの思いはそんな「旅行券」で証明されるようなものではない。
間違いなく自分のなかに彼の思いは息づいている。
そのように思い定めてはじめて勇気が持てる、ということなのでしょう。
ステキな展開でした。



マリーナ役のダニエラ・ベガは自身もトランスジェンダーの歌手だそうで、
なるほどそれも納得。
素晴らしい歌声で、魅せられました!

<シアターキノにて>
2017年/チリ・アメリカ・ドイツ・スペイン/104分
監督:セバスチャン・レリオ
出演:ダニエラ・ベガ、フランシスコ・レジェス、ルイス・ニエッコ、アリン・クーペンヘイム、ニコラス・サベドラ

LGBTを考える度★★★★★
理不尽度★★★★★
満足度★★★★★


「きみが住む星」池澤夏樹 / 写真 エルンスト・ハース

2018年03月19日 | 本(その他)

ここではない世界への誘い

きみが住む星 (角川文庫)
エルンスト・ハース
角川グループパブリッシング

* * * * * * * * * *


とうとう旅に出てしまった。
離陸した飛行機から、成層圏の空が見えたとき、ぼくはこの星が好きだと思った。
どうしてなのか考えて、気がついた。
この星には、きみが住んでいる。
きみが住む星をぼくは旅する―。

男は行く先々から、沙漠やアンデスの山、喧噪の都会から恋人に手紙を送った。
朝焼けに息をのみ、渡り鳥に故郷を思い、大地を讃える日々。
美しい言葉と風景を、あなたに。大切な人に贈る、魂のギフトブック。

* * * * * * * * * *

先に池澤夏樹さんは基本的に冒険家、などと書いたのですが、
いやいや、基本的には詩人。
と、本作を見て思い直しました。
でも冒険家も間違いではない。
冒険家であり詩人。
これが正解。

この本は、エルンスト・ハースの写真からイマジネーションを受けて、
池澤夏樹さんが文を書いたのだと思います。
旅に出て、旅先から残された恋人に向けた手紙を書き送るという体裁です。
その手紙が、写真のイメージとピッタリと重なり合い、
私達をここではない世界へ誘う。
時には幻想的に。


掲載されているエルンスト・ハースの写真は、
雄大な自然であったり、動物であったり、大都会の風景だったり・・・
人々の営みもあり、まさに様々。
しかしどれをとってもそこから様々な空想が駆け巡る。
その空想度合いが、やはり通常の人よりも稀有で奥深いのが、さすがの池澤夏樹さん。

黄色や紅い花が咲き乱れた野原の写真があります。
風に揺れて、どこか幻想的。
そんな写真には、こんな文章がついているのです。

馬に乗って、郊外の野原に行った。
次第に野原は一面が花で一杯になったが、
気がつくと馬が地面を踏んでいないことに気がつく。
花があまりにも綺麗だから、
馬はそれを踏みつけないように宙を浮かんで歩いていた・・・。
「そんなことができる馬のことを僕はすごく尊敬した。」

う~ん、参りました!

時にはこんな本を見て読んで、心の旅をしよう・・・
(単行本にて)

「きみが住む星」池澤夏樹 / 写真 エルンスト・ハース
満足度★★★★★


武曲 MUKOKU

2018年03月18日 | 映画(ま行)

剣の道をたどろうとするものの宿命

 

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谷田部研吾(綾野剛)は、幼い頃から剣道の達人である父親(小林薫)から、
剣の道を鍛えられていました。
しかし、父と息子が同じ道を歩もうとすれば、必ず軋轢が起こるものです。
ある時二人が対決し、父のほうが致命的な傷を負ってしまいます。
その後、剣道はもちろん、生きる意欲もなくした研吾は
酒浸りで自堕落な日々を送っています。
父の友人で研吾のもう一人の師匠でもある光邑和尚(柄本明)は、
天性の剣道の才能を持つ高校生・融(村上虹郎)を、研吾のもとに送り込みますが・・・。

父と息子の相克。
時には命がけで闘わなければならないことがあります。
そういうものなのです。
互いの目指すものへの思いが本気であればあるほど。
そこを、妻であり母親である存在が緩衝材として存在していたのですが、
早くに亡くなってしまうのです。
いよいよ二人の関係は悪化していく。
これはもう、定石のようなもの。



本作で光っているのは、そこにもう一人、
同じく「剣の道」をたどろうとする少年が登場すること。
彼は剣道などやったこともなく、ラップのリリックを書くのが楽しみ、という少年でした。
しかし、研吾の剣を見た融は、剣の道の虜になってしまうのです。
メキメキと上達し力をつけていく融は、
これもまたいずれ研吾との対決を避けては通れない・・・。

男の世界ですねえ~。
強くて、美しい。
村上虹郎さんがなんといってもステキでした。
若くて、真っ直ぐで、破天荒で、しなやか。
今後が楽しみな方の一人。
もちろん、綾野剛さんもいいですよ~。
あの筋肉のつき方、いいわあ・・・。
ダメ男ぶりもいいですが、きりりとしたところもいい。
コウノドリ先生みたいにいかにも優しい感じより、私はこっちのほうがいいなあ。



木刀で、いかにも真剣勝負的な場面もいいのですが、
本作のラストは、きちんとした剣道の試合開始直前のシーンでした。
この所作がとても美しい。
これもまた日本の伝統美。



武曲 MUKOKU 2枚組 [DVD]
綾野 剛,村上虹郎,前田敦子,小林 薫,柄本 明
TCエンタテインメント



<J-COMオンデマンドにて>
2017年/日本/125分
監督:熊切和嘉
原作:藤沢周
出演:綾野剛、村上虹郎、小林薫、柄本明、風吹ジュン、前田敦子
剣の道度★★★★☆
父と子の相克度★★★★★
満足度★★★.5


ダウンサイズ

2018年03月16日 | 映画(た行)

ダウンサイズと人類の未来

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本作、体が小さくなってしまった主人公の身の回りのドタバタコメディかと思っていました。
だから見なくてもいいかと思っていたのですが、
上映のタイミング的にちょうどよかったので・・・。
がしかし、予想とはちょっと違っていました。
もっと社会的事象を描いた作品で、
予想はずれで逆に面白く感じてしまいました!

ノルウェーの科学者により、人間の身体を縮小する方法が発見されました。
この方法だと身長180cmの人なら、およそ13cmになります。
このことで人口増加による環境破壊や食糧問題を解決できるとされ、
縮小を希望する人々が増えていきます。
一度小さくなると二度ともとに戻ることはできません。
さて、ネブラスカ州にそんな縮小された人々が住む街があります。
少しの蓄えでもリッチに暮らすことができるということで、
妻とともに縮小化(ダウンサイズ)を決意したポール(マット・デイモン)。
しかし、土壇場で妻は怖気づいて逃げ出してしまい、
この見知らぬ街で一人寂しく暮らすことになってしまったポール。

街では住民全員が縮小化されていて、家も道路もすべてそのサイズに合わせてあるので、
そこにいる限りは、通常の生活と変わらないのです。
そして、住む人みなが豊かのように思われたのですが・・・
ところがやはりそこも格差社会。
ポールはベトナム人の清掃人・ノク・ランと知り合い、やがて彼女の住むスラムを訪れますが・・・。

ノク・ランはかつて祖国で反政府活動をしており、
その刑罰として強制的に縮小され、箱に入れられて海に流された、という悲惨な経験の持ち主。
ダウンサイズとは、こんな意図で使われてしまうこともある、
おそろしいテクノロジーでもあるわけです。
でもこのノク・ランのおそろしいまでの生活力が、
生きる意欲をなくしたポールをグイグイ引っ張っていきますね。
そして彼らはノルウェーの、ダウンサイズした人々の始めのコロニーを訪れることになります。
そこは言ってみれば平等な共同生活の場。
一種の理想郷となっているのですが・・・。



環境破壊で滅亡しかけている人類。
そんな場所で、人々はどう生き延びようとするのか。
不確実な未来を恐れ、のがれることを考えるよりも、
日々の生活を大事に生きていこうと、そんな考え方もあるということですよね。
私はポールの友人ドゥシャンテ(クリストフ・ワルツ)こそが、
生き延びようと必死になるのでは?と思ったのですが、そうではなかったのです。
こういう意外性もまた面白いんだなあ・・・。
仕事も、結婚も挫折ばかりのポール、
最後の試みはちゃんと成就するのか否や・・・?
面白かったです!


ところで、このようにミニサイズ人のコロニーでは彼らのミニサイズぶりはよくわからなくて、
そうそう、こんなふうに通常サイズの薔薇を抱えてみてはじめてわかるという感じ。

こういうちぐはぐがもっと表されていたら良かったのに、とは思いました。
本作では表されていなかったのですが、
このサイズでは犬や猫、ネズミ、もしかして虫なども
凄い驚異なのじゃないでしょうか。
それを出したら、ぜんぜんテーマの違う物語になってしまいそうですが、
そんなシーンがあっても良かったかも、などと思います。

<ディノスシネマズにて>
「ダウンサイズ」
2017年/アメリカ/135分
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:マット・デイモン、クリステン・ウィグ、クリストフ・ワルツ、ホン・チャウ

社会派物語度★★★★☆
満足度★★★★☆


阪急電車 片道15分の奇跡

2018年03月15日 | 映画(は行)

地域の人々のつながり

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有川浩さんの「阪急電車」原作は読んでいたのですが、映画の方は未見でした。


兵庫県宝塚市の宝塚~西宮市今津駅までを結ぶ阪急今津線。

婚約中の恋人を後輩社員に奪われたアラサーOL(中谷美紀)

恋人のDVに悩む女子大生(戸田恵梨香)
息子夫婦とギクシャクしている老婦人(宮本信子)

受験に悩む女子高生(有村架純)
友人から浮いている女子大生(谷村美月)
息子の友人の母親仲間との付き合いに悩む主婦(南果歩)

など、この電車を利用する人々の出会いが描かれます。
誰もが少し行き詰まっていて、一人ぼっちで、
誰にもこんな気持をわかってもらえないとそれぞれに思っているわけですが・・・。
ほんの少しのおせっかい心で、事態が変わっていく・・・。
そのおせっかいな言葉はその人に勇気を与えて、
そしてそれがバトンされていく、というのがなんとも心地よい。



同じ沿線の電車は、通学や通勤で同じ時間帯に同じ人が利用することが多いもの。
せっかく同じ電車に乗り合いながら、他人だからと知らない顔をして、
それぞれがケータイ(作中ではまだスマホがなくて全員がガラケー)とにらめっこ。
こういうのは少し損なのかもしれませんねえ・・・。
見知った顔ならほんの少しでも言葉をかわすことで、心が温まることがあるのかもしれない、
そんな気がします。



本作の人と人とのつながりの妙、ここは原作の勝利。
はい、楽しめる作品です。
ほんの7年ほど前の作品ですが、
ガラケーがすっかりスマホに入れ替わるほどの時の長さなんですねえ・・・。



それと、電車の中や公共の場でのおばちゃんの大声は、
自分も気をつけなければ、と思うことでありました。
でもね、あんなに怒られなければならないことなのかなあ・・・という気がしなくもない。
映画の上映中におしゃべりしていたというわけではなし、
私は、したり顔で説教をする上品そうなおば様にもちょっとムカつきます・・・。
いえ、宮本信子さんは大好きなんですけど。

原作はこちら→「阪急電車」有川浩

阪急電車 片道15分の奇跡 [DVD]
有川浩,岡田惠和
ポニーキャニオン



<WOWOW視聴にて>
「阪急電車 片道15分の奇跡」
2011年/日本/119分
監督:三宅喜重
原作:有川浩
出演:中谷美紀、戸田恵梨香、宮本信子、南果歩、谷村美月、有村架純、芦田愛菜、勝地涼、玉山鉄二
人々のつながり度★★★★☆


「いとしのムーコ」みずしな孝之

2018年03月14日 | コミックス

こまつさん命のムーコ

いとしのムーコ(12) (イブニングKC)
みずしな 孝之
講談社

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じゃ~ん、またまた出てきました。ぴょこぴょこコンビ。
最近出番が少ないから、マンガの時も出てくることにしたらしいよ~。
なるほど・・・、よろしくお願いしま~す。


さて、「いとしのムーコ」。
現在12巻まで発売中で、まだ9巻までしか読んでいないけど、これはハマるねえ。
お友達が貸してくれたのだけれど、これは地味~に傑作だと思う。
表紙絵で分かる通り、ムーコは柴犬。
このカットだけだと特別カワイイってほどでもないんだけど、
読んでみれば、犬を飼ったことのある人ならわかる、ワンちゃんのあるあるで満ちていて、
そうしてみると、ムーコがと~っても可愛らしく見えてくるんだなあ。
もともと柴犬って、そういう感じだよね。
素朴だけど、かわい~い!!


ムーコは、秋田県でガラス工房を営んでいるこまつさんと暮らしています。
月刊誌連載なので、月々季節が進んでいって、
特別大きな事件は起こらないけれど、人のつながりが少しずつ広がっていって、
ごくゆる~いストーリーがあるんだね。
ムーコはおはなツヤツヤなのが自慢。
こまつさんが好きで好きで、いつかこまつさんも犬になるのだと信じている。
だからこのコミックの表紙絵のムーコ、
おはなだけつやつやのビニールコーティングなんだよね!
ムーコは必死でこまつさんの言うことを聞こうとするのだけれど、
それがなかなかうまくいかないのだよね。
ここでじっとしてろと言われて
「もちろん、てつの女ムーコは鉄のようにうごきませんよー」
と張り切るのだけど、じきに気が散ってあっちに行ってしまったり、寝てしまったり。
庭の池に入ってはいけないことになっているのだけれど、
つい落っこちたり、暑いときにはフラフラと入ってしまったり。
そうすると、お口をぎゅっとして叱られるのがかわいそうだけど、カワイイ!
そうして、いつもやってくるこまつさんの友人"うしこう"がまた、傑作なんだー。
巨漢で髭面、サングラス。
いかにも人相は悪いのだけど、いつも何かしらお土産を持ってきてくれたり、ムーコと遊んでくれたり、
気持ちは細やか。
そんでまた、女性に対してはこの上なく純情。
本作のもう一つのテーマがこのうしこうの恋心でもあるわけね。


それにしても本作の最大の驚きは、この2人、もと高校球児で、高校生のうしこうは美少年なんですよ!!
私は我が目を疑って、何度も読み直してしまった・・・。
この少年が一体何でこんな風に・・・?
いやいや何でもなにも、野球をやめて運動しなくなっても変わらず大食いしてたのと、
髪を染めてたから髪がいたんでハゲたらしい・・・。
意外と自分に構わない性格・・・。
一方こまつさんは、ちょっとしゅっとしてるけど、意外と人の気持ちが読めない。
ムーコの気持ちが読めないのは仕方ないかと思っていたけど、
人の気持ちも読めなかったのね・・・。
基本この2人と1匹のストーリーが、れなちゃんという女の子やそのお父さん、
たまたま工房を訪れたシノハラさん、バイトのたまき君・・・と
人の輪が次第に広がって行くのもいいよね。


こまつさんが着てるTシャツも楽しみの一つです!
一体どんだけ持っているのやら・・・。
あー、ガラス工房は暑いから、一日に何回も着替えるんだね、きっと・・・。


ところで、ムーコのモデルになったワンコは実在しているんだね。
秋田のガラス工房ヴェトロにいて、ツイッターやインスタグラムで、実際のムーコを見ることができたよ。
かわい~い!!

「いとしのムーコ」みずしな孝之 イブニングKC
現在12巻まで
満足度★★★★☆