映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ナミビアの砂漠

2025年02月28日 | 映画(な行)

カナのオアシスは何処に

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21歳カナ(河合優実)は、美容脱毛クリニックで働いていますが、
自分が人生に何を求めているのか分かりません。
何に対しても情熱が持てず、恋愛すらも成り行き任せ。

同棲するホンダ(寛一郎)は優しく、料理を作ったり、なにかと彼女を喜ばせようとしてくれます。
けれど一方では、自信家のクリエイター、ハヤシ(金子大地)との関係を深めていって・・・。

何に対しても無関心、そして無軌道に見えるカナ。
さてと、一体この娘をどう捉えればいいのか・・・と悩みながら見て行くわけですが、
でも、次第に引き込まれて行きます。

すごくイイ奴じゃんと思えるホンダを捨て去り、あっさりハヤシに乗り換え。
いかにも気持ちはさらさらと流れて、一カ所に執着しない。
というよりも、執着できないのでしょう。
執着するだけの感情とか強い意志があれば、もっと生きやすいのに。

この世界の、人々が作り出した仕組みの有り様すべてが彼女には苦しい。
本当は彼女はどうしたいのか。
ラスト近く、さすがに自分でもおかしいと思った彼女は、カウンセリングを受けます。
そのシーンを見て少し思ったのは、
彼女は心の奥底で、もっと純粋で単純で明るい何かを希求しているのではないか。
ナミビアの砂漠の小さな小さな水場に、
生き物たちがほんのひとときの癒やしを求めてやってくるように。

でも、現実はそうではないから苦しい。
それは振り幅の違いこそあれ、人はみなそうであるのかもしれず、
だから私たちは、カナにどこかひかれてしまうのかも知れません。

些細なことで感情が爆発し、壮絶に格闘を始めてしまうカナとハヤシなのですが、
最後の方で、これは2人のレクリエーションみたいになっていますね。
2人の鬱憤晴らし。
本気でやれば、さすがに男性の方が力ずくで女性を押さえ込んでしまうこともできるはず。
でも、ちょっぴり手加減してますよね、彼は。
そもそもそんなカナを追い出したりもせず、彼女に寄り添おうとしているのは、
なかなかコイツも良いヤツなんじゃないの?と思うわけです。

 

<WOWOW視聴にて>

「ナミビアの砂漠」

2024年/日本/137分

監督・脚本:山中瑤子

出演:河合優実、金子大地、寛一郎、新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか

不機嫌度★★★★★

無軌道度★★★★☆

満足度★★★.5


ゆきてかへらぬ

2025年02月26日 | 映画(や行)

セピア色の彼方

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大正時代の京都・東京を舞台として、実在の女優・長谷川泰子、詩人・中原中也、
そして文芸評論家・小林秀雄、男女3人の愛と青春を描く物語です。

 

京都。
20歳の新進女優・長谷川泰子(広瀬すず)は、17歳の学生・中原中也(木戸大聖)と出会い、
互いに虚勢を張りながらも惹かれ合い、一緒に暮らし始めます。

やがて2人は東京に移り住み、2人の家に中也の友人、小林秀雄(岡田将生)が出入りするようになります。

小林は詩人・中也の才能を認め、中也も小林に一目置かれることを誇りに思う。
互いを理解した2人の交友には割り込む隙がないようにも思え、
泰子は置き去りにされたような思いも。

しかしやがて小林も泰子の魅力に取り込まれていき、
複雑でいびつな三角関係となっていきます・・・。

3人それぞれ強烈な個性を持っていて、プライドが高い。
でもそれぞれが互いに持つリスペクトも愛も本物で、
でもムキになって争うほどばかでもない。
手が届かなければやせ我慢で、興味ないフリ。
しかしそのことがまた互いを傷つけ合う。
心のベクトルがぐちゃぐちゃにもつれてゆく、切ない物語。

大正ロマンのその雰囲気がスバラシイです。
特に、広瀬すずさんがその存在感を放っています。

「海街diary」の頃から見ている広瀬すずさんが、
こんな役をこなすまでに女優として成長したのだなあ・・・と、感慨にふけってしまいました。
映画女優(当時まだ無声映画ですが)という役柄のためか、
見たことのない着物の着こなし方をしていたのが、ステキでした! 
和装であれ、洋装であれ、この時代のファッションはいいですよね。

中原中也の詩は、おそらく女性なら少女時代にちょっぴり憧れてしまう時期があるのではないかな? 
かくいう私もそうでして・・・。
30歳で夭折。
であるからこそ、その才能が惜しまれてしまうのですね。
でも、中原中也自身のことについてはほとんど知らなかったので、
こんな三角関係があったなどということはこの度始めて知りました。

小林秀雄氏は1983年80歳没。
長谷川泰子さんは1993年88歳没。
お二人とも近年(と思うのは私のような年寄りだけかもだけど)まで生きていて、
中原中也だけがセピア色の歴史の彼方・・・という印象ですね。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「ゆきてかへらぬ」

2025年/日本/128分

監督:根岸吉太郎

脚本:田中陽造

出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、柄本佑

大正ロマン度★★★★☆

三角関係度★★★★★

満足度★★★★☆


「工場」小山田浩子

2025年02月24日 | 本(その他)

なぜ、何のために・・・

 

 

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大河が南北を隔てる巨大工場は、ひとつの街に匹敵する規模をもち、
環境に順応した固有動物さえ生息する。
ここで牛山佳子は書類廃棄に励み、
佳子の兄は雑多な書類に赤字を施し、
古笛青年は屋上緑化に相応しいコケを探す。
しかし、精励するほどに謎はきざす。
この仕事はなぜ必要なのか……。
緻密に描き出される職場に、夢想のような日常が浮かぶ表題作ほか 2 作。
新潮新人賞、織田作之助賞受賞。

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私には初めての作家さん。著者の2013年、デビュー作。
「工場」の中編と、他の短編2作で一冊となっています。

 

表題作「工場」は・・・

とある大きな工場のあるこの町は、ほとんどこの工場に従事するかその関係者で成り立つ町。
ここで働くことになった3人を中心に物語は描かれます。

牛山佳子は、正社員募集と言われてきたはずなのに、契約社員にされてしまいます。
けれど、無職よりはマシかと思い働き始めることにして、
配属されたのが、シュレッダー班。
どこかから大量に運ばれてくる書類をひたすらシュレッダーにかけて廃棄する。
毎日ただそれだけを繰り返すのです。

古笛青年は、大学で生物学を研究していたところ、
なぜか教授に推されて、この工場に勤めることに。
なんと工場の屋上緑化のために、コケを増やしてほしいという。
その部署は彼たった1人で、手段も方法もすべて丸投げ。
期限も無期限。
何から手を付けていいかも分からず、ただただ戸惑ってしまう。
でもそれでも正社員。

そしてもうひとり、派遣社員として勤務を始めたのは、あの牛山佳子の兄。
彼は長くシステムエンジニアとして勤務していた会社がダメになり、
やむなくここで務めることに。
彼に与えられた仕事は「校閲」。
せっかくのパソコンスキルはまったく使わず、
ひたすら赤ペンで、文章のミスを書き込んでいくだけ。
どこの誰が書いたとも知れない、まったく脈絡のない、
そして、どこかからか飽くことなく搬入されてくる大量の書類・・・。

新しい仕事としてそれなりにやる気は持っていたものの、
ただただ単純な作業をやり続ける毎日。
こんな、彼女らの仕事の描写中に度々出てくる、ウとヌートリアという名前。
どうも工場周辺で急激に増えてきているらしいのですが・・・。

 

 

結局この工場は何の工場で、その中枢部では誰がどうしているのかなどはまったく謎のまま。
けれどつまりこの工場は「社会」そのもののように思えてきました。
「社会」とはよく言うけれど、その正体はよく分からない。

そんな中で、ただただ同じ毎日を繰り返す人たち。
なんのための仕事なのか、全体の中の自分の役割は・・・? 
そういうことを完全に見失ってしまっている。
いや、見失うというよりも最初からない。

自分は全体の中の歯車にしか過ぎないなどという言い方をよくしますが、
歯車であるなら少なくともその役割はある。
例えば時計の歯車は、どれか一つ欠けても支障があるはず。
けれどこの工場では、自分1人が抜けてもまったく支障なく全体が動く。
そもそもいてもいなくても差し支えない仕事内容だし、
その上代わりはいくらでもいる。

 

そうした人間性を徐々に剥奪されたあげくに・・・、という物語だと私は捉えましたが。
すごく興味深い物語です。

著者の芥川賞受賞作も、近いうちに読んでみたいと思います。


「工場」小山田浩子 新潮文庫

満足度★★★★.5


僕らの世界が交わるまで

2025年02月22日 | 映画(は行)

結局は似たもの親子

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DV被害にあった人々のためのシェルターを運営する母・エヴリン(ジュリアン・ムーア)。
そしてネットのライブ配信で人気を集める高校生の息子・ジギー(フィン・ウルフハード)。
これは、このわかり合えない2人の物語。

母、エヴリンはその仕事から分かるとおり、
社会問題に常に目を向けていて、そんな中で自分のできる限りのことをしたいと思う、
言ってみればまっすぐな強い信念を持ち、これまで歩んできた女性。

しかし、最近息子とわかり合えないところで、
シェルターに母と住む高校生男子が妙に気になってしまいます。
彼は母親思いの真面目な子。
エヴリンは彼のために進学先の大学のことまで心配をはじめます。

一方、息子ジギーは自分のフォロワーのことで頭がいっぱいのZ世代。
しかし最近、同じ高校の女の子のことが妙に気になっています。
彼女は頭が良くて、社会問題に興味を持ち、よくその種の集会にも参加し、
友人たちとディスカッションをしています。
そんな話題にはまったくついて行けないジギー・・・。

互いにぜんぜん似ていないと思う母と息子は、
それぞれ無い物ねだりの相手にひかれて暴走し空回り・・・。
そんなところは実はそっくりなのでした。

 

世代間の断絶のストーリーも、
こんな風にちょっぴりユーモアを交えて描かれるとちょっと楽しい。

この家にはちゃんと夫というか父親もいるのですが、
いつもいがみ合う2人のことに口出ししてとばっちりを受けたくないのか、
傍観を決め込んでいるようです。
しかしたった一度怒ったのは、彼の「授賞式」の日に、妻も息子も来てくれなかったこと。
そうやって怒るというよりもすねているお父さん、ちょっとカワイイ。
そして「怒ってるね・・・」と、ここだけは意見が一致した母と息子もステキです。

そして結局2人それぞれの奮闘は、撃沈ということになってしまいますが、
そのことから始まる何かもあるようで・・・。

ステキな物語でした。
・・・と、監督・脚本がジェシー・アイゼンバーグということに今さら気づいて驚き!

 

<Amazonプライムビデオにて>

「僕らの世界が交わるまで」

2022年/アメリカ/88分

監督・脚本:ジェシー・アイゼンバーグ

出演:ジュリアン・ムーア、フィン・ウルフハード、アリーシャ・ボー、
   ジェイ・O・サンダース、ビリー・ブリック

親子の断絶度★★★★☆

満足度★★★★☆


トキワ荘の青春

2025年02月21日 | 映画(た行)

俳優界の「トキワ荘」的作品

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本作、1996年作品ですが、2021年デジタルリマスター版とされたものを拝見しました。

 

手塚治虫をはじめとした日本を代表する漫画家たちが若き日々を過ごし、
東京都豊島区に実在した伝説的アパート「トキワ荘」の日常を描きます。

昭和30年代。
トキワ荘に住む手塚治虫のもとへ、各漫画雑誌の編集者たちが日々通い詰めています。
その向かいの部屋に住む漫画家・寺田ヒロオ(本木雅弘)は、
出版社へ持ち込みを続けています。

やがて、手塚治虫はトキワ荘を去りますが、
入れ替わりにやって来たのが「藤子不二雄」の2人。
引き続き、石ノ森章太郎、赤塚不二夫ら、若き漫画家の卵たちが入居。
寺田を中心に「新漫画党」を結成します。

この頃の漫画を懐かしく思う世代は、多分私あたりが最後なのでは?
今名前をあげたのはその後ますます活躍して、今も名高い方々ですが、
他にもつのだじろうさん、水野英子さんなども出てきて、これは本当に懐かしい。
石ノ森章太郎さんはいまだに私の中では「石森章太郎」さんです。

 

4畳半一間、トイレや台所は共用。
お風呂は銭湯へ。
作中、家賃は3000円と言っていたな。
昭和ですねえ・・・。

さて、夢を追う若い人たちが集まったトキワ荘ですが、
でも誰もが頂点まで上り詰めることができるわけではありません。
挫折し、去って行く者もいるわけで・・・。
そこで寺田ヒロオさんが本作の主人公になっているところに意味があります。

寺田ヒロオさんの漫画はあまりにも優しくきちんとしていて、
子どもたちの人気を集められなかった・・・。
ナンセンスなギャグや、派手で刺激的なストーリーとは無縁・・・。
良心的さが故に、時代の波に乗れなかったというべきなのか。

 

ところで、ほぼ30年前の本作の、出演俳優が興味深い。
当時でもすでに活躍して人気があった、きたろうさん、時任三郎さん、桃井かおりさん。
他に、古田新太さん、生瀬勝久さん、阿部サダヲさん・・・。
その若き日の姿を拝むことができます。
(当時どれだけの知名度を得ていたのか、よく分かりませんけれど・・・)

そしてまた、今の私は存じない方々・・・。
すなわち、本作は俳優界の「トキワ荘」であるのかも。
その後力を付けて売れっ子になっていく人たち。
夢かなわず、去って行った人たち・・・。

そんなことでも、見る価値のある作品だと思います。

 

「トキワ荘の青春」

1996年/日本/110分

監督:市川準

出演:本木雅弘、大森嘉之、古田新太、生瀬勝久、阿部サダヲ、さとうこうじ

青春度★★★★☆

昭和度★★★★★

満足度★★★★☆


劇場版 トリリオンゲーム

2025年02月19日 | 映画(た行)

ロードマップの続き

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2023年テレビドラマ「トリリオンゲーム」の劇場版。

世界NO.1企業の時価総額と同等の資産一兆ドルを稼いで、
この世のすべてを手に入れようとする男の物語です。

主な人物関係は、テレビ版の時と同じ。
テレビ版の続き、オリジナルストーリーとなっています。

様々な事業に挑戦し、予測不能な作戦で成功を重ねてきた
天王寺陽(ハル)(目黒蓮)と、平学(ガク)(佐野勇斗)。
トリリオンゲーム社を日本トップクラスの大企業に成長させました。
そして、破天荒なハルの次なる目標は、日本初のリゾート開発。
瀬戸内海のとある島に壮大なカジノ施設を作ろうというのです。

さてカジノ施設となると、まあ私もそうだけれど実際のところあまり歓迎したくはない・・・。
まあその善し悪しはともかくとして、設置に住民の反対がありそうなことは予見されます。
やんわりとではありますが、
ハルがそういうことを乗り越えていくあたりも描かれていたのは良かった。

 

今回のラスボスとなる世界のカジノ王、ウルフ・リー(石橋凌)は
「信じられるのは金だけだ」と言います。
けれど、ハルには信じられるものがもう一つある。
そこが、彼の強さの秘訣で、本作のキモなのであります。

ハルが、持てるものすべてを賭けた最後の大勝負がなんといっても一番の見所でしょう。
本当に、ドキドキさせられます。
シシド・カフカさんもスゴイ存在感を放っていましたね。
役の上でも、最大のキーパーソン。
シリーズを通した中でも異彩を放っています。
ステキです。

 

相変わらずぐだぐだで、サッパリ進展しないのは、ハルとキリカ(今田美桜)。
予告編にあったキス寸前のシーンの結末は・・・やはり、です。

そしてまた、ガクと凛々(福本莉子)の方も相変わらず
・・・と、思いきや・・・?!

言うまでもなく、目黒蓮さんのアクションシーンはカッコイイ!! 
ただただ、見とれます。

この度めでたくtimeleszの新メンバーとなった原嘉孝さんも出ています(少しだけれど)。

目黒くんと佐野くんも、本作公開前の番宣でコンビで登場することが多く、
一層絆を深めることができたのではないかな? 
私はむしろそういうことで胸を熱くしてしまいました。

テレビドラマのラストで、ハルが2年間姿をくらましていたということになっていたのですが、
その2年間、何をしていたかということが最後に明かされます。
決してカジノの研究をしていたわけではありません。
むしろ、カジノはハルの次なる目標のための手段。
ハルの「夢ノート」も、壮大な夢であふれていそうです。

 

総じてドキドキハラハラ、スケールも大きい・・・ということで、
TVドラマを見ていなかった方も十分楽しめると思います。

 

<シネマフロンティアにて>

「劇場版トリリオンゲーム」

2025年/日本/118分

監督:村尾嘉昭

原作:稲垣理一郎、池上遼一

出演:目黒蓮、佐野勇斗、今田美桜、福本莉子、シシド・カフカ、
   田辺誠一、石橋凌、吉川晃司、原嘉孝

ドキドキハラハラ度★★★★★

満足度★★★★★

※めめ様にただただ見惚れていた私は、映画の善し悪しの判断基準がバグっておりますので、
そこのところお含み置きください・・・。


「変な絵」雨穴

2025年02月17日 | 本(ミステリ)

ミリオンセラーですか・・・

 

 

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シリーズ累計120万部突破のミリオンセラー小説『変な絵』が待望の文庫化!
49ページに及ぶ物語の前日譚『続・変な絵』と『ナゾ解きゲーム』も特別収録!

オカルトサークルに所属する佐々木は、後輩の栗原からとあるブログの存在を教えられる。
そこには、『あなたが犯した罪』という不穏なメッセージとともに、
投稿者の妻”ユキ”が描いた「絵」が掲載されていた――。

9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは!? 
その謎が解けたとき、すべての事件が一つに繋がる!
今、最も注目を集めるミステリー作家、雨穴が描く、戦慄の国民的スケッチ・ミステリー!

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ミリオンセラー小説「変な絵」の文庫版。

雨穴さんの「変な家」は、映画は見たけれど本は読んでおらず、
正直YouTubeをぼちぼち見たことがあるだけですが、
まあ、気になって一度読んでみようかな、と。

 

私は勝手に本作は短編集なのかと思いながら読んでいたのですが・・・
なんと全体で一つのストーリーで、3世代にわたる因縁の・・・という感じです。

でも言ってはなんだけど、普段あまり本を読まない人たちが多分この本を買ったのでしょうね。
文章は下手ではないけれど、文学ではないな・・・。
陰湿過ぎる内容も、私の好みではなかったです・・・。

まあ、あくまでも好みの問題ですけれど。
あまり書くべきことがありません・・・。

「変な絵」雨穴 双葉文庫

満足度★★☆☆☆


フィガロに恋して

2025年02月15日 | 映画(は行)

オペラ歌手への夢

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私、日頃オペラを聴くような趣味はないものの、
ときおり映画などで聞くオペラはいいものだなあ・・・と思います。

 

ミリーは、ロンドンの金融会社で実力を認められ、昇進を打診されるまでになりました。
しかしミリーは、元々オペラ歌手になりたいという夢を持っていて、
この度仕事をあっさり辞めて、夢を実現するために動き出そうと決心したのです。

そもそもオペラ歌手になるためには、ほとんどの人は若い頃から音楽学校で学ぶものですが、
ミリーはもういい年ですし、オペラを好きなことは間違いがないけれど、全くのドシロウト。
そんな彼女を受け入れて指導してくれそうな人を彼女は探し、やっと見つけたのです。
オペラ教師メーガンはスコットランドの片田舎に住んでいて、
ミリーは指導を受けるためにそちらに赴き、長期滞在することに。
(実はメーガンはお金ほしさで教師を引き受けたのですが・・・)

メーガンの元には、もうひとりオペラの指導を受けるマックスがいて、
ふたりは、オペラ歌手への登竜門である
ザ・シンガー・オブ・レナウンのコンテスト出場を目指し、練習に励みます。

 

ミリーにはロンドンで同居する恋人がいたのですが、
一応彼の応援を得て、スコットランドにやって来ます。
彼はオペラには興味もなく、ミリーの夢を果たそうとする思いも道楽のようなもの・・・
と捉えているようです。

そんな中、ミリーとマックスは次第に心を寄せて行くに違いない・・・というのが物語の常道ですので、
まあ、やはりそのようになっていきますね。

 

このスコットランドの田舎の風景がなんともステキです。
村でたった一軒の旅館も兼ねるパブ。
そこに滞在するミリーは、少しずつパブに訪れる村人たちと親しくなって、
応援されるようになっていきます。
まあ、ほとんど変わったことの起こらない退屈な村で、
このような客人は好奇心のマトですよね。

マックスは、オペラの力量も技術も人並み以上なのだけれど
「情感」がないなどと評されていて、
だからほら、ミリーを恋するというところでその叙情性を身につけていくわけです。

しかしその恋は一朝一夕ではならず・・・。
長期熟成で行くところがまた気に入りました。

ステキなストーリーでした。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「フィガロに恋して」

2020年/オーストラリア・アメリカ・イギリス/104分

監督:ベン・リューイン

出演:ダニエル・マクドナルド、ヒュー・スキナー、シャザド・ラティフ、
   ビッキー・ペッパーダイン、レベッカ・ベンソン、ジョアンナ・ラムレイ

音楽性★★★★☆

ラブストーリー度★★★☆☆

満足度★★★★☆


ネイビーシールズ 空港占拠

2025年02月14日 | 映画(な行)

孤軍奮闘

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空港占拠。
何やら他のドラマでも見たことがあるけれど、
ちょっと心惹かれるテーマではあります。

 

ポーランドのアメリカ秘密軍事施設が、テロリスト襲撃により壊滅的な被害を受けます。
ネイビーシールズ(米海軍の特殊部隊)のジェイク・ハリス大尉は、
テロの嫌疑がかかるアミン・マンスールをワシントンDCまで移送する任務に就きます。
ハリスは多くの部下をこの度失っていました。

さて、ハリスがマンスールを伴い空港に到着すると、
元米国軍人のジャクソン率いる武装集団が空港を占拠し、
マンスールの奪取を図ります。
マンスールだけが凶悪な爆弾を入れたコンテナの番号を知っているのです。

ハリスはテロを防ぐため、マンスールとその身重の妻を守り、



孤軍奮闘することに。

ヒーローの孤軍奮闘。
周囲は凶悪な敵ばかり。
どう考えても突破できそうにないけれど、突破してしまうのがドラマのいいところ。
ここではこちらの情報が、敵方に筒抜け。
誰かが裏切って情報を流しているのだとしか思えません。
果たして裏切り者は誰なのか、そこも見所です。

ハリスは部下をほとんど殺されてしまったという憤りを感じていて、
通常よりも怒り丸出し。
過度に凶暴なのがちょっと気になるところ。

この死屍累々の空港の後始末はどうするのよ・・・などと、下世話な心配までしてしまう。
こういうドラマの、常のことではありますが。

<Amazon prime videoにて>

「ネイビーシールズ 空港占拠」

2024年/アメリカ/103分

監督:ジェームズ・ナン

出演:スコット・アドキンス、マイケル・ジェイ・ホワイト、アレフシス・ナップ、トム・ベレンジャー

満足度★★.5


ファーストキス

2025年02月12日 | 映画(は行)

運命は変えられるのか

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硯駈(すずりかける)(松村北斗)と、硯カンナ(松たか子)は、
ラブラブの時期を経て結婚しました。
それから15年。
倦怠期に突入し、互いへの関心も薄れて、離婚寸前。
そんなある日、夫・駈が事故で亡くなってしまいます。
どちらにしても別れるはずだったとは思うものの、
気持ちの持って行き場のないカンナ。

そんなある時、カンナは15年前へタイムスリップ。
それは若き日の駈と自分が初めて出会う日。
夜2人が初対面するその直前。
40代カンナは20代駈と対面することになります。
若き日の駆への思いをよみがえらせるカンナ。
そして、15年後に起こる事故から駈を救うことを決意します!

作中のタイムスリップは、現在から15年前の特定の場所、特定の1日にしか行くことができません。
が、繰り返し行くことができるのです。
だから、カンナは必死に何度も何度もやり直し、トライ。
でも現在に戻るとやはりそこには夫の遺影が待ち受けている。
つまり、カンナの試みは失敗。

何度も若き駈と出会うことで、ますます駈を好きになって、
決してあんな事故で死なせてはならないと思うカンナ。

若き駈にとっては、40代のカンナは「おばちゃん」であってもおかしくないのですが、
どうも駈にとっても憎からず感じてしまうものらしい。
そりゃあね、松たか子さんだから、恋愛対象として、ぜんぜんアリですよ!!

カンナは、ついには駈が自分と結婚したのがそもそも間違いだったのではと思い、
大学教授の娘(吉岡里帆)を、駈に勧めたりもするのですが・・・。

なんというか、キュンとさせるところ、ホロリとさせるところ、
さすが坂元裕二さんはツボを良く心得ていらっしゃる。
最後の駈の決断は、まさに涙・・・涙・・・。

かき氷屋さんの行列の後ろにいた女子たちがナイスでした!!

ラブラブの結婚でも、その状態を保っていくことがいかに難しいか・・・
というのも、ほとんど冷や汗もので身にしみます・・・。

タイムスリップという現実離れした出来事を扱いながらも、描き出されるのはやはり人の心。
これぞドラマですよね。

いつも思うのです。
松村北斗くんはいい作品に当たるなあ・・・。
あ、でも今期のTVドラマはあまり良くない・・・
(演技じゃなくて、脚本が)。

<シネマフロンティアにて>

「ファーストキス」

2025年/日本/124分

監督:塚原あゆ子

脚本:坂元裕二

出演:松たか子、松村北斗、吉岡里帆、森七菜、リリー・フランキー

恋愛度★★★★☆

根性度★★★★★

満足度★★★★★


「冬に子供が生まれる」佐藤正午

2025年02月10日 | 本(その他)

読み解くジグソーパズル

 

 

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その年の七月、丸田君はスマホに奇妙なメッセージを受け取った。
現実に起こりうるはずのない言い掛かりのような予言で、彼にはまったく身におぼえがなかった。
送信者名は不明、090から始まる電話番号だけが表示されている。
彼が目にしたのはこんな一文だった。

今年の冬、彼女はおまえの子供を産む

これは未来の予言。起こりうるはずのない未来の予言。
だがこれは、まったく身におぼえのない予言とは言い切れないかもしれない。
これまで三十八年の人生の、どの時代かの場面に、「彼女」と呼ぶにふさわしい人物がいるのかもしれない。
そもそも、だれが何の目的でこの予言めいたメッセージを送ってきたのか。
丸田君は、過去の記憶の断片がむこうから迫ってくるのを感じていた──。


『月の満ち欠け』から七年、かつてない感情に心が打ち震える新たな代表作が誕生。
読む者の人生までもさらけ出される、究極の直木賞受賞第一作!

* * * * * * * * * * * *

 

その年の7月。
丸田くんはスマホに奇妙なメッセージを受け取ります。

「今年の冬、彼女はおまえの子供を産む」

いかにも唐突なその内容。
丸田くんはまったくそんなことは身に覚えがないし、
第一このメッセージを送ってきた人物が誰なのかも分からない・・・。

 

こんな不思議な出来事から始まる本作。
私は読みながら、まるでジグソーパズルみたいな小説だなあ・・・と思いました。

それぞれの章立てで語られる内容は、時間や場所、登場人物がバラバラ。
だから私たちは、それぞれの章が、全体のどの部分に当たるのか、考えなければなりません。
いや、そもそも全体像が分かっていないので、どの部分という見当も付けにくいのです。
そしてまた、それぞれのピースがよく似ている。

マルセイとマルユウ、そして佐渡くんという幼馴染みの3人の男性が登場します。
特にマルセイとマルユウは「丸田」という名字が同じで、雰囲気もよく似ている。
彼らの共通の友人は、長じた後、どちらがマルセイで、どちらかがマルユウだったのかも
分からなくなってしまっているくらい。

様々な章立ての中で、ただ「丸田くん」と書かれている部分もあって、
注意深く読んでいけば正解は分かるようになっているのですが、
まことに紛らわしい。
けれど、この紛らわしさこそがこの作品のキモなのであります。

 

実は彼ら3人は小学生時代に一つの不可思議な体験をします。
そしてまたその関連で高校生の時に山道で事故に遭う。
それが不思議な人生をたどる元となるのですが・・・。

そして、もうひとりの重要人物は、これもまた彼らと幼馴染みの女性・杉森真秀。
彼女と彼女の母は、野球少年だったマルユウのことが大好きで応援していたのですが、
あの事故以来、マルユウとの交流もほとんど途絶えてしまい・・・。

そう、この真秀こそが「子供を産む」人物なのですが、
詰まるところその子供の父親は一体誰なのか・・・?
考えていかなくてはならない物語。

 

本作で起こる出来事は、現実離れしてはいるのですが、
そのことによる人の心の有り様はリアルに複雑。

ジグソーパズルは最後に一枚の絵として完成はしますが、
その一部のピースは依然としてかすれているかモザイクがかかっているかで、
よく分からないところも多いのです。

でも、すごく納得できて感慨にふけってしまう・・・。

 

著者の前作「月の満ち欠け」も同様の作りでしたが、
私は「月の・・・」が巻き起こす出来事より本作の方が好きです。

 

<図書館蔵書にて>

「冬に子供が生まれる」佐藤正午 小学館

満足度★★★★.5


ナイトスイム

2025年02月08日 | 映画(な行)

何者かが潜む、水中のさらなる深淵

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難病に冒され、早期引退を余儀なくされた元メジャーリーカーのレイ・ウォーラー。
それでもまだ現役復帰の夢をあきらめきれません。

そんな時、水泳が理学療法によいと聞き、中古のプール付き物件を購入。
妻イブ、娘イジー、息子エリオットとともに越してきます。
庭にあるプールは、なぜか15年も使われていなかったようなのですが、
手入れして水を満たし、美しく整います。

しかし、妻や子どもたちは、なにか得体の知れない恐怖をそのプールで感じるようになります。

このプール、水道水ではなく、天然の湧き水で満たされるようになっている
というところがミソなんですね。
地中の奥深くと通じている。
その奥深くに潜む何者かは、通常のホラーに登場するただ「害」をなすものではなくて、
ギブアンドテイクなのです。

何かを強く望む者の欲望に寄り添って、
その代わりに周囲の人物の命を奪う・・・。

この場合、何が何でも元の健康を取り戻したいというレイの欲望が満たされる代わりに、
家族の命を差し出さなければならない・・・ということで。

父親が、自分の子どもの命を犠牲に自身の欲望を満たそうとするなどあり得ない、
と思うのですが、まあつまりその時には、
彼の精神もほとんどその魔物に操られているというわけ・・・。

メジャーリーガーとして活躍したレイは、
ひ弱でとても野球選手には向かないと思われる息子が歯がゆく、
また息子もそのことをコンプレックスに感じている・・・というような伏線も良しです。

 

<Amazon prime videoにて>

「ナイトスイム」

2024年/アメリカ/98分

監督:ブライス・マクガイア

出演:ワイアット・ラッセル、ケリー・コンドン、アメリ・オーファーレ、ギャビン・ウォーレン

 

スリル度★★★★☆

満足度★★★.5


関心領域

2025年02月07日 | 映画(か行)

無関心なのか、無関心を装っているのか

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これはちょっと覚悟を決めてから見なければ・・・という作品。

まず「関心領域」とは。
アウシュビッツ収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために、
ナチス親衛隊が使った言葉、とのこと。
本作は、まさにその関心領域内のことを描いています。

アウシュビッツ強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に、
収容所所長とその家族―妻と5人の子どもたちーが暮らしています。
屋敷は、広くて清潔。
明るく、快適。
広い庭にはプールもあって、妻が草花を植えて楽しんでもいる。

しかし、塀の向こうからひっきりなしに銃声や悲鳴が聞こえてくるのです。
でも、ここでは誰もそれに気を止めず、というか聞こえないフリをして、
平和で豊かな日常生活を楽しんでいるのです。
銃声は聞こえないけれど、小鳥のさえずりは聞こえていて注意を払う・・・。

この豊かな生活に最も執着しているのは所長の妻。
彼女は塀の向こうで何が行われているのか、しっかり理解しています。
時にはユダヤ人から奪った衣服などを近所の奥さんたちと分け合ったりもする。
歯磨き粉の中に宝石が隠されていたなどという体験談も、
井戸端会議のほんの一つの話題にしか過ぎません。

おそらくこの妻は、これまであまりいい暮らしをしてきていない。
だからこの降って湧いたような豊かな生活を絶対に手放したくないと思っているのです。
夫が異動となりこの地を離れることになっても、
あえて上層部に願い出て、家族だけこの家に住み続けることができるようにと嘆願するくらい。
しかも驚くべきことにそれが通ったりする。

この暮らしのためなら、塀の向こうから聞こえる音などなんの問題もないと思っているのです。
いや思おうとしているのか。
・・・少なくとも本作上では、彼女はユダヤ人の苦しみを想像してみようとすら思っていない・・・。
人は本当にこんな風になれるのか? 
苦しい物語です。

けれど現実に、日々爆撃に怯えながら生活している人や
満足に食料も得ることができない人々がこの地球上に間違いなく存在します。

そのことを私たちは知っているけれど、何もせず、何もできず、
結局は自分の満足を求めて生きているわけで。
それはこの家族とそう変わらないのではないか・・・。

色々と考えさせられます。

<Amazon prime videoにて>

「関心領域」

2023年/アメリカ・イギリス・ポーランド/105分

監督:ジョナサン・グレイザー

原作:マーティン・エイミス

出演:クリスティアン・フリーデル、サンドラ・ヒュラー

無関心度★★★★★

執着度★★★★☆

満足度★★★.5

 


366日

2025年02月05日 | 映画(さ行)

互いのことを思えばこそ

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沖縄出身バンド「HY」の同名楽曲をモチーフに、
沖縄と東京を舞台に20年の時を超えて織りなされるラブストーリー。

2003年。

沖縄に住む高校生の湊(赤楚衛二)と、同じ高校の後輩・美海(上白石萌歌)が出会います。
音楽の趣味が合う2人は、自然と惹かれ合い、
湊の卒業式の日に告白し、付き合い始めます。

母を病で亡くして、音楽を作るという夢も行き場をなくしていた湊でしたが、
美海に背中を押されて、東京の大学に進学します。
2年後には美海も上京。
東京での2人の幸せな日々がスタートします。

やがて湊は音楽会社に就職。
夢が叶った就職先ではありますが、思ったよりも激務。

美海は通訳になるという夢を果たすべく、熱心に学んできましたが、
就活が始まってもなかなか苦戦しています・・・。

そんなある日突然、湊が美海に別れを告げます・・・。

 

 

沖縄の美しくのどかな光景は少年少女2人が出会って恋をするには非常に適した背景ですね。
それに対して、東京のビルの林立する街並みはどこか少し不穏な気がしてしまう。

湊が美海に別れを告げた理由。

そして、失意の中で故郷に帰って、新たに1人で生きようと決意する美海の気持ち。

結局は双方の幸せを思ってのことなのが、いかにも切ない。
そしてまた泣けてしまうのは、
美海の幼馴染みで、変わらずすっと美海のことを思い続けている琉晴(中島裕翔)。
いやいや、この人の思いこそが本当に純粋。
なんてイイ奴なんだ!!

そしてそれからまた20年ほどが過ぎて織りなすストーリーがもう、泣けて、泣けて・・・。

もっと少女漫画っぽい単純なラブストーリーかと予想していましたが、
なかなかどうして、感動の物語でありました。

<シネマフロンティアにて>

「366日」

2024年/日本/122分

監督:新城毅彦

脚本:福田果歩

出演:赤楚衛二、上白石萌歌、中島裕翔、玉城ティナ、齋藤潤

 

純愛度★★★★☆

気持ちのすれ違い度★★★★☆

満足度★★★★.5


「砂男」 有栖川有栖

2025年02月03日 | 本(ミステリ)

単行本未収録

 

 

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都市伝説“砂男”を調べていた学者が刺殺された。
死体にはなぜか砂が撒かれていて……。

奇怪な殺人事件に火村とアリスが挑む表題作など、
これまで雑誌掲載のみとなっていた
幻の〈火村シリーズ〉2作をはじめ、
〈江神シリーズ〉やノンシリーズの
貴重な作品6編が一冊に!

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有栖川有栖さんの、単行本未収録短編集ということで、これは見逃せません。
火村シリーズと江神シリーズが一冊の本に入っているなんて、贅沢すぎです。
といっても最近はほとんど火村シリーズが多いので、
江神シリーズのおなじみ登場人物、望月・織田コンビはなんとも懐かしい!!

 

著者の「前口上」にあるのですが、
本作中には法律の改正や社会情勢の変化によって、
内容が古びてしまったことで、単行本や文庫収録から漏れてしまったものもあるそうです。
確かに、めまぐるしく変わる世の中で人々の心の動きやトリックにも変化が現れますね。
例えば、スマホがある時期と無かった時期とでは、
推理の仕方にもかなりの違いがあるのは容易に想像がつきます。

まあつまり、有栖川有栖さんのシリーズものも、
それくらい長きにわたって描き続けられているということでもあります。

 

表題作「砂男」は、都市伝説“砂男”を調べていた学者が刺殺されたというもの。
しかも、その死体には砂がふりかけられていた・・・。

元々は西洋で語られている話、砂男。
夜寝付けずにいると、砂男が来て、パラパラと砂を振りかけるというのです。
もしその砂を振りかけられたら、深い眠りに落ちてしまう。

ところが作中で語られる日本の都市伝説は、
砂をかけられたら2度と目が覚めない、すなわち死んでしまうのだと・・・。

「口さけ女」を代表とするこのような話が、どこから生じてどのように広まっていくのか、
確かに研究すると面白そうですね。
ただ、それこそ現在であれば、SNSであっという間に拡散する都市伝説。
なんだか夢がないなあ・・・。

 

「砂男」 有栖川有栖 文春文庫

満足度★★★.5