映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「傲慢と善良」辻村深月

2024年12月30日 | 本(その他)

婚活って・・・

 

 

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婚約者・坂庭真実が姿を消した。
その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。
「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」
と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。
《解説・朝井リョウ》

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本作は、藤ヶ谷太輔さんと奈緒さん主演で映画化されていますが、
見逃していまして、そのうち機会があれば見たいと思っていました。
でも先に原作を・・・ということで。

 

婚約者・坂庭真実が、ストーカーにつきまとわれていると怯えているので、
先に同居に踏み切った西澤架。
ところが、彼女はいきなり姿を消してしまいます。

真美とはマッチングアプリ、すなわち婚活で知り合い付き合い始めた。
真美は控えめで真面目なタイプ。
そんな彼女が一体どんな事情でどこへ行ってしまったのか。

架は少しでも手がかりがほしくて、自分と知り合う前の真美のことを調べはじめます。
といっても彼女自身交際範囲が広い方ではなく、
彼女が東京へ出てくる前の実家や見合い相手、以前の職場の同僚・・・そんな程度。

そうして少しずつ分ってくるのは、自分は本当の真美をきちんと見ていたのか?ということ。
そして自分の中にある傲慢さ。

 

婚活とは近頃よく聞く言葉で、マッチングアプリで知り合って結婚したという方も結構多いようです。
そのようにうまくいくこともあるのだけれど、
実際何人もの人と会ってみても、一向にうまくいかない場合も多いようです。

そうなると次第に自分は誰からも必要とされないという思いに囚われていく。
まるで終活でいくつもの会社から不採用通知を受け取ったみたいな・・・。

そうした藁にもすがりたいような思いとはまた別に、
私たちは人を見た目とか第一印象で測ってしまいがち。
安っぽい服装でかっこワルイとか、話し方が自信なさそうとか。
本当のところはもう一歩踏み込まなければ分らないのに。
この人は自分に釣り合わない、などと思う、
そういうことも「傲慢」の一つ。

 

婚活をテーマとしながらも、かなり深く掘り下げられています。
あ、そもそも本当に婚活がテーマなんだっけ?と次第に思うようになりました。
これは婚活に限らず、人と人との関係性にもいえること。
そして真美の母親との関係もかなり詳しく描かれていて、
ここにも大きな問題提起があります。

どんな局面をとっても、チクリと自分の内部をえぐる部分がある。
恐ろしいくらいの小説です。

これで良い感じに収束することはないのでは・・・と思ったのですが、
用意された結末は思いのほか未来に開けていました!!

名作です!!

 

「傲慢と善良」辻村深月 朝日文庫

満足度★★★★★


吟ずる者たち

2024年12月28日 | 映画(か行)

百試千改

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一見、詩吟をする人たちの話?と思ったのですが、
そうではなくて、酒造りの人々の話。
つまり吟醸酒の「吟」でした。

東京で夢破れ、故郷の広島に帰ってきた永峯明日香(比嘉愛美)。
彼女は、ここの酒蔵の家で育ちました。
この酒蔵というのが、広島で日本初の吟醸酒を造った三浦仙三郎の杜氏の末裔が開いたもの。
明日香は酒造りに興味はあったものの、
養女である自分が家を継ぐことはそぐわないと思い、酒造りを避けていたのです。

実家に戻った明日香は目標を見失い、所在なく過ごしていましたが、
ある時、父が家宝とする仙三郎の手記を目にします。

仙三郎は明治時代、腐造を起こさず安定した日本酒醸造技術を確立しました。
「百試千改」を信条とし、研鑽を重ねて、軟水による低温醸造法を導き出したのです。

そんな千三郎の日本酒に対する執念に感化され、
また父が病に倒れたこともあって、明日香は酒蔵の仕事に就くことを決意。
そして、新たな挑戦を試みます。

本作は現代の明日香のパーツと、明治時代の千三郎のパーツが交互に描かれています。

当初、酒造りで最大の難関は「腐造」なんですね。
酒がうまく発酵できずに腐ってしまう。
そういえば、以前のNHK朝ドラで、牧野富太郎氏の実家が造り酒屋で、
最後は「腐造」が出たために潰れてしまった、というエピソードがあったような。
そんなことにならないための、一定の方法を突き止めたのが、
三浦仙三郎なんですね。

百回試して千回改める。
試行錯誤の繰り返しで、ようやく答えが出る。
「百試千改」。
良いことばです。

吟醸酒、飲みたくなってしまった・・・。


<Amazonプライムビデオにて>

「吟ずる者たち」

2021年/日本/115分

監督:油谷誠至

出演:比嘉愛美、戸田菜穂、渋谷天外、中尾暢樹、大和田獏、中村俊介

日本酒愛度★★★★★

満足度★★★.5


蛇の道

2024年12月27日 | 映画(は行)

復讐の意味

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黒沢清監督が1998年に手がけた同名作品をフランスに舞台を移して、
セルフリメイクしたもの。

 

8歳の娘を何者かに惨殺された父、アルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)。
偶然知り合った精神科医、新島小夜子(柴咲コウ)の助けを借りながら、
犯人を突き止めて、復讐を果たそうとしていました。

2人は、この犯罪がとある財団の児童売買に関係していることを突き止め、関係者を拉致。
しだいに真相が明らかになっていきます・・・。

本作は、人身売買の実態を明らかにして糾弾しようとするものではなくて、
復讐という行為の意味、どこまで人は非情になれるのか、
そういうことを描いています。

本作の復讐者、アルベールと小夜子は、アルベールが主導で協力者が小夜子という風に
一見思えるのですが、でもそうではないことが次第に分ってきます。

首謀者は小夜子。
アルベールは彼女に操られているだけ。
では、この謎めいた精神科医の本当の目的はなんなのか。
そこが問題なのであります。

拉致され、監禁された人を見る彼女の目。
冷たく、まさに「蛇のよう」だと、作中で言われています。
ひたすら感情を抑え、淡々と残酷な仕打ちを仕掛ける。
これがいわゆるサイコパスであるならば、喜悦の表情があっても良さそうだけれど、
彼女は明らかにそれとも違うのです。

けれどこの組織が幼い子どもに対してどんなことをしていたのか、
それが明らかになるにつれて、その報いは受けるべきだという気持ちも湧いてきます。
それはたとえその実行者でなくても、組織の一員としてそのような行為が容認されていた、
そのことの責任でもある・・・。

どこへも持って行き場のない怒りを、関係者の命で贖おうとする。

小夜子は蛇というよりもむしろ鬼なのかも知れません・・・。

<WOWOW視聴にて>

「蛇の道」

2024年/フランス・日本・ベルギー・ルクセンブルグ/113分

監督・脚本:黒沢清

出演:柴咲コウ、ダミアン・ボナール、マチュー・アマルリック、グレゴワール・コラン、西島秀俊、青木崇高

復讐度★★★★★

満足度★★★☆☆

 


聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団

2024年12月25日 | 映画(さ行)

笑えない・・・

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神の子イエスと仏の悟りを開いたブッダが、
「休暇」と称して、東京立川の6畳一間のアパートで2人暮らしをするという、
ギャグ漫画「聖☆おにいさん」の実写映画化。

私は原作を読んだことはないのですが、
テレビドラマ版はしっかり見ていてファンですので、
本作もまあ見てみようかと・・・。
でも、本作の面白さはダラダラとした日常生活をこの2人が送る
というところにあるのだけれど、悪魔軍団と戦うなんてことは
すでに日常生活を逸脱していて、単に子供だましなのでは、とイヤな予感も。
ただまあ、単純に笑い飛ばすのもアリかとも思った次第。

結果、つまり悪魔軍団と戦うというのは、ドラマの撮影の話だったわけ・・・。

でもやはり、その前段階の、2人の日常の生活部分は楽しかったけれど、
悪魔との対決シーンになってからはサッパリ笑えず、正直くだらなかった・・・。

ムダに豪華なキャストも、本当にムダでした。

これは、Amazon prime videoで無料で見られるようになってからで十分だったなあ、
というのが私の偽らざる感想です。

<シネマフロンティアにて>

「聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンVS悪魔軍団」

2024年/日本/93分

監督・脚本:福田雄一

原作:中村光

出演:松山ケンイチ、染谷将太、賀来賢人、岩田剛典、白石麻衣、勝地涼、仲野太賀、神木隆之介、窪田正孝

 

コスプレ度★★★★☆

満足度★★☆☆☆

 


「方舟」夕木春央

2024年12月23日 | 本(ミステリ)

頼むから、地上で寝て

 

 

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極限状況での謎解きを楽しんだ読者に驚きの〈真相〉が襲いかかる。

友人と従兄と山奥の地下建築を訪れた柊一は、
偶然出会った家族と地下建築「方舟」で夜を過ごすことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ、水が流入しはじめた。
いずれ「方舟」は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。
タイムリミットまでおよそ1週間。
生贄には、その犯人がなるべきだ。
――犯人以外の全員が、そう思った。

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私には初めての作家さん。
衝撃の結末・・・というのにつられて読み始めました。

 

要点だけ言えば、とある地下施設に、地震のため閉じ込められてしまった10人。
外部とは一切連絡がつかない。
そこへ水がわずかずつ流入しはじめ、いずれこの場所が水没することが予想される。
そんな矢先に1人が殺害される。
そしてまた、誰か1人が犠牲になれば、その他の者がここを脱出できることが分る。
生け贄には、殺人を犯した者がなるべきだ・・・。
暗黙のうちにそのような認識が広まって、犯人捜しが始まる。

 

う~ん、私、この問題提起の部分からもう、
この本をチョイスしたことを後悔しました。

でもまあ、最後まで読んで、そのどんでん返しも見事だとは思いましたが、
やっぱり私が読むべき本ではなかったと感じてしまいました。

もっと若い頃なら単純に楽しめたのかも知れません。
なんというか、今さらですが私はどこか人間性というかヒューマニズムを
信じたいところがあって、本作のテーマそのものがもう受け入れがたい・・・。

実際問題、こうした選択を迫られることがないとは限らないけれど・・・、
こんな風にゲームみたいに語ること自体がもうイヤ・・・。

そもそも、こんな薄気味わるい地下施設で夜を過ごそうなんて、私は思わないな。
(多少閉所恐怖症のケがあるのかも)。
寝袋まであるわけだから、地上で寝るべきです!!

 

「方舟」夕木春央 講談社文庫

満足度★★☆☆☆


アンダー・ユア・ベッド

2024年12月21日 | 映画(あ行)

異常なストーカーではあるけれど

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家でも学校でも、誰からも必要とされず、
存在自体を無視されていた男・三井直人(高良健吾)。
学生時代には、誰からも名前すら覚えてもらえません。
しかし、たった1人、「三井くん」と名前を呼んでくれた女性・佐々木千尋(西川可奈子)のことを
忘れることができません。

11年後、三井は千尋との再会を夢見ていましたが、ついに彼女を見かけます。
しかし彼女にはかつての快活さはなく、
暗く沈んで、まるで別人のようになっていました。
そこで、三井の千尋への純粋な思いは暴走をはじめます。

三井は千尋の家のすぐそばで熱帯魚店を開き、
その階上の居所から、千尋の家を監視しはじめたのです。
千尋は結婚して、夫と赤子との3人暮らし。

三井は、千尋を盗撮、盗聴しはじめ、
やがてついには家に侵入してベッドの下に潜み、
夫婦の営みまでを監視しはじめたのです・・・。

三井はもう間違いなくストーカーと化しているのですが、
その異常性にかすかに共感できる気がしてくるのも、本作の不思議なところ。

三井が千尋の家を監視して分ったのは、彼女が夫から酷い暴力を受けているということ。
ひどく憤りを感じる三井ですが、そもそも自分がやっているのも違法行為だし、
暴力を止めに入りたくても、自分の腕力にまったく自信がない。
ベッドの下で、ひたすら耐えているだけの情けないやつなのです・・・。

三井の願いは、ただ千尋のそばにいたい、近くで彼女の存在を感じていたい、
ということのみ。

そもそも学生時代に会っていたはずの千尋は、
三井のことをまったく覚えていなかったのです。
そんな相手に過剰に思い入れて、でも何も言い出せず何もできず・・・。
異常で情けない男の物語。

 

なかなかに心揺さぶられます。


<Amazon prime videoにて>

「アンダー・ユア・ベッド」

2019年/日本/98分

監督・脚本:安里麻里

原作:大石圭

出演:高良健吾、西川可奈子、安部賢一、三河悠冴

ストーカー度★★★★☆

透明人間度★★★★☆

満足度★★★.5


罪と悪

2024年12月20日 | 映画(た行)

本当の悪意は見えないところにある

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とある地方都市。
13歳、正樹が何者かに殺され、橋の下に捨てられるという事件が発生。
正樹の同級生である春、晃、朔の3人は、
正樹が時々遊びに行っていた先の老人「おんさん」が犯人に違いないと考えます。
そして家に押しかけ、もみ合いの末、おんさんを殺してしまうのです。
春は、死体と共に家を焼き、自分1人でやったことにすると告げて、
晃と作を逃がします。

 

22年後。
刑事になった晃(大東駿介)が父の死をきっかけに町に戻ってきます。
朔(石田卓也)は実家の農家を継ぎ、その双子の弟・直哉は引きこもりとなっています。
春(高良健吾)は22年前の事件により少年院送りとなり、
戻って来てから建設会社を起こし、地元のチンピラもどきの若い衆の面倒を見ています。

そんなところで、22年前と同様、橋の下に捨てられた少年の遺体が発見されます・・・。

22年前に彼らが考えた事件の真相は、実は間違っていた・・・。
ことは地元のヤクザもからんで複雑な様相を呈してきます。


春が1人で罪を背負ったから、
1人は念願の刑事になれたし、もうひとりは平和に農業を営んでいられる・・・。
ずっと秘密を守り通し自責の念に駆られながら生きてきた晃と朔。
この度初めて2人は春に感謝を伝え、友情が復活するかに思えたのですが・・・。

友情の物語かと思いきや、意外な展開で驚かされました。
本当の悪意は見えないところにある・・・。

<Amazon prime videoにて>

「罪と悪」

2024年/日本/115分

監督・脚本:齊藤勇起

出演:高良健吾、大東駿介、石田卓也、村上淳、椎名桔平、佐藤浩市

友情度★★★★☆

どんでん返し度★★★★☆

満足度★★★.5


「エレジーは流れない」三浦しをん

2024年12月18日 | 本(その他)

湯の町の人情はやはり温か

 

 

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山と海に囲まれた餅湯町。
餅湯温泉を抱え、団体旅行客で賑わっていたかつての面影はとうにない。
高校生の怜は、今日も学校の屋上で同級生4人と仲良く弁当を食べていた。
淡々と過ぎていく日常の中で迫る進路の選択。

母親が二人いるという家庭の中で、将来を見詰める怜は果たして……。

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山と海に囲まれた温泉町、餅湯町を舞台とした青春ストーリーです。

主人公は高校生、怜。
温泉街の土産物店を営む母と共に暮らし、
脳みそが筋肉かと思えるようなおバカな友人らと仲良くしているごく平凡な男子・・・。

かと思いつつ読んでいくと、なんと彼には母親が2人いるという。
毎月決まった一週間だけ、彼はもうひとりの母親(?)のもとへ行って、
そこを我が家として過ごすというのが、彼の幼い頃からの日常。

そのことは周囲の皆が知っているのだけれど、
それがどういう意味なのかは、当の本人は何も知らない・・・。
幼い頃からあまりに当然のこととして続けられてきたので、
今さら聞くことができないのです。

そんなある日、怜は、彼を訪ねて来たらしきある男性と出会う。
一目見て怜はわかってしまった。
自分とあまりにもよく似ているコイツは自分の父親だ、と。

 

決してドロドロした愛憎劇ではありません。

この温泉街の人々、怜の友人たち。
彼らは、言うべきことは言うけれど、言わなくてもいいことは言わない。
2人のお母さんのサバサバした思い。
友人たちのそっと見守り、支えようとする心意気。

何もかもステキです。

 

平行して語られるのが、この街の博物館にある土器の盗難騒ぎのこと。
レプリカか、偽装か? 
紙一重のモノを作成してしまう器用な友人の心境も又面白い。

 

とても楽しんで読めました。

 

「エレジーは流れない」三浦しをん 双葉文庫

満足度★★★★☆


不思議の国のシドニ

2024年12月16日 | 映画(は行)

日本は不思議の国?

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「雨月物語」などで知られる溝口健二監督へのオマージュを込めた作品。

 

フランスの作家シドニ(イザベル・ユペール)のデビュー小説「影」が
日本で再販されることになり、出版社に招かれて訪日します。

大阪の空港で、寡黙な編集者、溝口健三(伊原剛志)に出迎えられ、
数日間通訳と案内をしてもらうことに。

シドニは家族を亡くし天涯孤独。
喪失の闇から救出してくれた夫のおかげで「影」を執筆できた、と語ります。
しかしその夫もまた、事故で亡くなったところだったのです。
そんなわけで、この訪日もあまり気が進むものではなかったのですが・・・。

溝口に案内されながら京都、奈良、直島・・・と各地を巡るうちに、
シドニの前に亡き夫、アントワーヌ(アウグスト・ディール)の幽霊が現れるようになります。

 

 

夫を亡くして、失意の底から立ち直れずにいたシドニ。

日本に来てから、夫の幽霊が現れ、話すらもできるようになります。
地元フランスではそんなことはなかったのに・・・。
溝口は言う。
日本では、幽霊の姿を見ることができる人が多い、と。

う~む、そのあたりからちょっと首をひねりたくなってきましたが・・・。

なんというか本作は、欧米の人が日本のエキゾチックな情緒とか神秘性とかに
魅力を感じる方が見るべき作品なのでしょうね。
当の日本人からすると、なんだかなあ・・・という感じ。
あの極端な欧米から見た日本のイメージ、フジヤマとかゲーシャとか、
そういう描き方はされていないものの、やはり日本人が見るとピンとこない。
ホテルの人たちの応対とか、描かれる現代の日本文化は
概ね不自然なところはなかったのですが・・・。

そもそも桜の季節の京都なんて、観光客でごった返していて、
のんびり歩いてなどいられないのでは・・・?

女性が持つハンドバッグまで、預かって持とうとする溝口も相当変なヤツ・・・。
日本人がみんなそうだと思われちゃうじゃないの。

<シアターキノにて>

「不思議の国のシドニ」

2023年/フランス・ドイツ・スイス・日本/96分

監督:エリーズ・ジラール

出演:イザベル・ユペール、アウグスト・ディール、伊原剛志

 

現代の日本描写度★★★★☆

満足度★★★☆☆


リベンジ・トラップ 美しすぎる罠

2024年12月14日 | 映画(ら行)

罠か、やはり・・・

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看護師のミランダ(ロザムンド・パイク)は、
自宅を訪ねてきた見知らぬ男にレイプされ、心身共に深い傷を負います。

その後ミランダは、刑務所に収監されたレイプ犯・ウィリアムに何度も手紙を送りつけるのですが、
すべて開封されないまま戻って来てしまいます。
そこでついに、ミランダは刑務所に行きウィリアムと面会。
さすがにウィリアムも警戒しているのですが、
ミランダは幾度も面会を繰り返し、次第に互いの距離を縮めていきます。
やがて、ついにウィリアムが出所して・・・。

本作、見ている私たちは、ミランダの真意がよくわかりません。
憎んでいるはずのレイプ犯に、なぜわざわざ接近して親しくなろうとするのか。

しかし、そもそも本作の題名自体がネタバレで、
すでに答えは出ているじゃありませんか。

すなわち、リベンジ。
復讐のために、ミランダはじわじわと罠を張っているのです。

そうでした、ロザムンド・パイクと来れば、こわ~い女なのですよ。

ミランダはオペ専門の看護師を目指していたのです。
そもそも、人の触れたボールペンを触ることさえイヤなのに、
看護師というのはいかにも不向きに思えます。
けれど、そんなことをも凌駕して、人を切り裂くことに快感を覚えるという、ミランダ。

変な期待をして浮かれているウィリアムにはお気の毒というほかありません。
いやまあ、身から出たサビではありますが。



ちょっと悪趣味で、後味のよくない作品なのでした・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「リベンジ・トラップ 美し過ぎる罠」

2015年/アメリカ/94分

監督:フォアド・ミカティ

出演:ロザムンド・パイク、シャイロー・フェルナンデス、ニック・ノルティ

復讐度★★★★☆

満足度★★☆☆☆


パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ

2024年12月13日 | 映画(は行)

逆境からの・・・

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22歳でパティスリー世界選手権チャンピオンの座を仕留めた
天才パティシエ、ヤジッド・イシェムラエンの自伝をもとにしています。

母親に育児放棄され、過酷な環境で暮らすアラブ系の少年、ヤジッド。
でも幸いによい里親に巡り会うことができました。
里親の家で団らんしながら、手作りのスイーツを食べることが唯一の楽しみ。
いつしか自分も最高のパティシエになろうと夢見ます。

やがて児童養護施設で暮らし始めたヤジッドは、
パリの高級レストランで見習いとして雇ってもらうことができました。
田舎町エペルネから180キロ離れたパリへ通い始めます。
時には野宿で夜を明かすことも。
そうではありますが、厳しくも愛ある先輩と心許せる仲間もいて、
充実した日々送るヤジッド。
しかし、彼に嫉妬した同僚の策略により、仕事を失ってしまうのです・・・。

フランス作品では、移民系の人物が底辺近くの暮らしから這い上がる
という話はとても多いです。
つまりは、そうした格差や差別が依然としてあって、
なかなか解消には至らないということの裏返しなのでしょう。

そんな中で本作は実話をもとにしているということで、力があります。
一流のパティシエを目指すという物語なら多くあるけれど、
逆境の環境からのスタートというのが又大変さを増します。
よほどの奇跡かもしくは才能がなければならない・・・。

最終の世界大会のシーン、ヤジッドは氷像担当。
つまり、氷を削って造形。
お菓子作りと関係ないじゃん、とつい私は思ってしまいましたが、
手先の器用さと造形センスは、
お菓子作りの重要なスキルであることは確かですものね・・・。
まあその味覚センスも、もちろん保証済みではあります。

次第に見ているだけでは物足りなくなって、
ひたすら食べてみたいなあ・・・と思わせられる、魅惑のスイーツの数々でした!!

<WOWOW視聴にて>

「パリ・ブレスト 夢をかなえたスイーツ」

2023年/フランス/110分

監督:セバスチャン・テュラール

原作:ヤジッド・イシェムラエン

出演:リアド・ベライシュ、ルブナ・アビダル、フェニックス・ブロサール、エスティバン、
   クリスティーヌ・シテイ、パスカル・レジティミュス

魅惑のスイーツ度★★★★☆

這い上がり度★★★★☆

満足度★★★.5


「大江戸綺譚 時代小説傑作選」ちくま文庫

2024年12月11日 | 本(その他)

闇深き江戸の町

 

 

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闇深き江戸の町に現われる、鬼、あやかし、怪異
――妖しくも切なく美しい、豪華時代ホラー・アンソロジー。 

嫁いだ先のお店の離れに潜む何かの気配。
義母から打ち明けられた恐ろしくも切ない秘密とは──(「安達家の鬼」)。

豆腐作りに精を出すお由の前に現れ、日々つけ回してくる見知らぬ老爺。
しかし男はお由をよく知っているという──(「お柄杓」)。

江戸の漆黒の闇を舞台に、名手たちによって浮かび上がるのは人間の悲しき性。
名アンソロジストによる選りすぐりの7編。

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時代小説、しかも名手による怪異を描いたアンソロジー、なかなか洒落た企画です。
宮部みゆきさんのように怪異を描く名シリーズを持つ方もいるように、
古の時代と怪異譚はとても相性が良い。
電気もない時代では、今よりもうんと闇が濃くて、
怪しげなモノたちは私たちのすぐ身近にいたのでしょうね。
本巻は、私の好きな作家さんも多くて、迷わず手に取りました。

収録されているのは・・・

木内昇  「お柄杓」

木下昌輝 「肉ノ人」

杉本苑子 「鶴屋南北の死」

都筑道夫 「暗闇坂心中」

中島要  「かくれ鬼」

皆川博子 「小平次」

宮部みゆき「安達家の鬼」

 

木下昌輝 「肉ノ人」

なんとなんと、新選組の沖田総司登場!! 
人魚の肉を食べてしまったために、沖田総司の身の上に異変が起こります。
人の血肉を欲してしまうという、言ってみればバンパイアに・・・! 
こんな新選組、見たことない。
あせります。
でも史実に沿いながら、沖田総司の最期につながっていくというのはさすがであります。

 

杉本苑子 「鶴屋南北の死」、皆川博子 「小平次」

どちらも、怪異の舞台の話が関係しています。
と来れば、やはり鶴屋南北なんですね。
江戸の怪異譚となれば、外せない。
私は先日見た「八犬伝」の映画に出てきた鶴屋南北が忘れられません。

 

ラストはやっぱり、
宮部みゆきさん「安達家の鬼」

ここに出てくる「鬼」は、恐ろしくはなくて、何やら切ないのです。
こんなあやかしを描けるのはさすがに宮部みゆきさん。
人の方が、よほど恐ろしい・・・。


「大江戸綺譚 時代小説傑作選」ちくま文庫

満足度★★★★☆


侍タイムスリッパー

2024年12月09日 | 映画(さ行)

時を超えて、ここにいる意味

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2024年8月、当初一館のみで封切りされた本作。
東映京都撮影所の特別協力のもと撮影されたという自主制作作品です。
その後、口コミで話題が広まり上演館が増加していきまして、
興味はあったけれどもタイミングが合わずに見逃してしまっていた私も、
やっと見ることができました。

会津藩士、高坂新左衛門(山口馬木也)は、家老から長州藩士を討つよう密命を受け、
標的の男と刃を交えた瞬間、落雷によって気を失ってしまいます。

目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。
周囲は江戸時代の服装をした人ばかりなので、
新左衛門はしばらくこの異変に気づきません。

が、さすがにここは自分が元いた世界とはまるで異なることに気づきます。
江戸幕府は140年前に滅んだことを知って、愕然とし、
どうして良いのか分らなくなってしまう新左衛門。

でも、心優しい人たちに助けられ、生きる気力を取り戻していきます。
そして自らの磨き上げた剣の腕を頼りに、撮影所で斬られ役として生きていくことに。

そして順調に進み始めた新左衛門の新たな人生。
そんな時、彼に思わぬ出会いが訪れます。

 

さて、新左衛門と同時に落雷に討たれた長州藩士はどうなったのか、
そんなところも本作の重要なポイントです。

また、新左衛門が消えた後に、
故郷会津藩がたどった悲惨な運命を知ったときの彼の心境。

まったく偶然に起こったタイムスリップではありますが、
自分が時を超えてこんなところで生きている意味をも探ることになる新左衛門。

現代の撮影所近辺の人々が、ほのぼのと新左衛門を受け入れてくれるところが救いでもあります。
新左衛門は記憶喪失になってしまった、というテイでこの地に住み着いているのです。

特別にタイムスリップなどというSFになじみのない方でも、
すんなり受け入れられるストーリーだと思います。

ラストの緊迫感もよし。

映画は予算をかければよいというモノでもないのがよく分ります。

時代劇は今、確かに斜陽かもしれないけれど、
人の心の有り様は今も昔も変わらないので、
きっとまた一回りして、流行るときが来るのではないかな? 
月9で時代劇ラブストーリーなんていかが・・・?
あ、すでに今年の大河ドラマは平安ラブストーリーだったな。

<サツゲキにて>

「侍タイムスリッパー」

2024年/日本/131分

監督・脚本:安田淳一

出演:山口馬木也、冨塚ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎

武士の生き様度★★★★☆

満足度★★★★★


アネット

2024年12月07日 | 映画(あ行)

愛か、狂気か

* * * * * * * * * * * *

ロック・オペラ・ミュージカル(?)
兄弟バンド、スパークスが執筆したオリジナルストーリーをベースにしているとのこと。

それがもう、斬新でユニークで衝撃的って、
うーん、うまい表現が見つかりませんが、とにかく、
映画表現の世界もここまで来たかという、一見の価値がある作品。

スタンダップコメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)と
一流オペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)が出会い、恋に落ちます。
そして間もなく2人の間に女の子・アネットが誕生。
幸せいっぱいのはずなのですが、ヘンリーは愛に閉じ込められているように感じ始める。

ヘンリーのトークショーはあまりにも話が過激で乱暴なために客が離れていき、
一方アンの人気はますます上昇。
次第にすれ違う心を埋めるかのように、船の旅に出た家族ですが、
ある嵐の夜に事件が・・・。

大波に翻弄される雨で濡れた船の甲板で、
狂ったように踊る男女のシーンはなんとも危うく恐ろしく、印象的でした。

まだ赤子のうちに母を亡くしてしまったアネット。
しかし、そのアネットに奇跡が。
なんと美しい声で歌い始めたのです・・・!

 

実は、生まれたときからアネットは「人形」のすがたで描かれているのです。
なんの予習もなしで見始めたので、ここのところでまず驚きました。
もちろん登場人物たちには、生身の赤ん坊に見えているのです。
でも最後まで見て行くとその意味が分ります。

赤ん坊であるのに、歌をうたう。
その並みではない奇跡の子どもを表わしているということもあるのでしょうけれど、
それよりもアネットは、ヘンリーの思いのままに使われる「操り人形」
という意味を含んでいると思われます。

ヘンリーはお金儲けのためにアネットを歌わせ、興行で大もうけをするのです・・・。

そんなアネットが、終盤に父ヘンリーを断罪するときにのみ、
生身の人間の姿となります。
この時に初めてアネットは己の意志を強く持つということ。
それまでは、父の操り人形であったというわけで・・・。

ファンタジーであるような、寓話であるような・・・、
そう、怪談でもあるかな。
けれどとても現実的でもあります。

恐るべし。
映画の新たな可能性を見たような気がしました。

ほんの少しですが、古舘寬治さんや水原希子さんが出てきたのも嬉しかった!

 

<Amazon prime videoにて>

「アネット」

2020年/フランス・ドイツ・ベルギー・日本・メキシコ/140分

監督:レオス・カラックス

脚本:ロン・マエル

出演:アダム・ドライバー、マリオン・コティヤール、サイモン・ヘルバーク、
   デビン・マクダウェル、古舘寬治、水原希子

音楽性★★★★☆

ミラクル度★★★★☆

満足度★★★★★


奇跡をつむぐ夜

2024年12月06日 | 映画(か行)

お節介な善意は、自分のためでもある

* * * * * * * * * * * *

実話をもとにしています。

ケンタッキーの小さな町で暮らすシャロン(ヒラリー・スワンク)。
離婚後ひとり息子を育てていたものの、うまく愛することができず、
今はほとんど音信不通。
美容師の仕事をしながら、ままにならない人生を悔やみ、
アルコール依存症となっています。
そんな彼女が新聞のある記事に注意をひかれます。

5歳の少女が母親を亡くし、そして肝移植が必要な病と闘っている、という。

その父、エド(アラン・リッチソン)は妻を亡くし、
娘2人を育てて行かなければならず、
しかも下の娘は肝移植をしなければ残りわずかな命といわれている。
今のままでも治療費は払えず、借金が膨らむばかり・・・
という悲惨な状態にあるのでした。

シャロンは、ほとんど押し売りのように、エドの元を訪ねて援助を申し出ます。
シャロンのために募金をし、エドの債務の整理をしようとする。
エドは、人からの施しなど受けたくないと思うタイプの人で、
シャロンの申し出をことわっていたのですが、
しかし、このままではどうにもならないことも事実。
シャロンの強引さにも負けて、受け入れていきます。

さてしかし、あまりにもエド一家への助力にのめり込んでいくシャロンに、
彼女の友人が言いますね。
「その行為自体が、依存なんじゃないの?」と。
うまく息子を愛せなかったから、代わりにシャロンを愛したい、助けたいと思う。
誰かの役にたって、人から必要な人間だと思われたい・・・。
彼女の今の状態はアルコール依存と根っこは同じなのかも知れません。

でも、アルコール依存はなんの役にも立たないけれど、
この度のことは確実にエド一家への助力にはなる。
今さら止められないのです。

そんなある日、ようやく肝移植のドナーがみつかって、
至急病院のある地までいかなければならない。
しかしよりにもよってケンタッキーに吹雪が・・・。
さて、どうなる・・・?

本作の感動は、シャロンのお節介すぎる善意のことはもちろんあるのですが、
それ以上に、地域の人や様々な人に波及していく善意の輪にあるわけで・・・。
事実にもとにしていると聞けば、実際泣いてしまいます。

感動作でした。

 

<Amazon prime videoにて>

「奇跡をつむぐ夜」

2024年/アメリカ/116分

監督:ジョン・ガン

出演:ヒラリー・スワンク、アラン・リッチソン、ナンシー・トラビス、
   タマラ・ジョーンズ、エイミー・アッカー

お節介度★★★★★

満足度★★★★☆