映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

きさらぎ駅

2023年06月30日 | 映画(か行)

非日常的行動でたどり着く場所

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2004年、はすみと名乗る女性が
この世に存在しない「きさらぎ駅」にたどり着いた体験を
ネット掲示板にリアルタイムで投稿していたが、
突然書き込みが止まったことで、様々な憶測を呼び、
現代版神隠しとして、話題となる・・・

それから十数年後、大学で民俗学を学ぶ堤春奈(恒松祐里)は、
この都市伝説を卒業論文の題材に選びます。
調査の末、ようやく「はすみ」の正体である女性と連絡が付き、
彼女の元を訪ねて話を聞くことに。

 

春奈は、彼女がどうやって「きさらぎ駅」に行ったのか、そこで何があったのか、
そしてどうやって戻って来たのか、詳しく話を聞き出すのです。

そして卒論を進めるために、春奈は、
きさらぎ駅にたどり着くという手順をそのまま再現してみます。

きさらぎ駅へ行くためには、「何時何分発のどこ行きの電車に乗る」と言うことではなく、
何時何分のAの電車でBまで行って、
そこからC電車で引き返してDまで行って、E電車に乗る・・・
というような手順を正しく踏まなければならないのです。
通常はまずあり得ない乗り換え手順・・・。

なるほど、非日常的手順で、異界へたどり着くというのがなかなか興味深い。

春奈は、聞いた話で「きさらぎ駅」で起こることを知っていたので、冷静に出来事に対処。
本来ならそこで死んでしまう人物を、助けたりさえします。

つまりは春奈は本作中のヒーロー的存在なのか・・・というように見ていたのですが、
ラストでビックリ。
思わぬどんでん返し・・・。
やられたって感じです。

終始不気味な雰囲気と、ラストのどんでん返しを、楽しませてもらいました。

 

「きさらぎ駅」

2022年/日本/82分

監督:永江二朗

脚本:宮本武史

出演:恒松祐里、本田望結、莉子、芹澤興人、佐藤江梨子

ホラー度★★★.5

どんでん返し度★★★★☆

満足度★★★.5

 


シュシュシュの娘

2023年06月29日 | 映画(さ行)

忍者が権力の闇を斬る

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とある地方都市の外れで暮らす25歳・鴉丸未宇(福田沙紀)。
市役所に勤める傍ら、祖父(宇野祥平)の介護もしています。
この市では現在、移民阻止条例を策定の予定で、
そのことに断固反対している祖父は周囲から疎まれ、
未宇は市役所でも孤立しているのです。

そんな中、先輩の間野(井浦新)だけが祖父や未宇に親しくしてくれたのですが、
彼は理不尽な文書改ざんを命じられ、実行してしまったことに耐えられず、自殺。
未宇は、祖父から間野の仇をとるために、
改ざん指示のデータを奪えと告げられます。

実は鴉丸家は代々続く忍びの家柄であることを、未宇は初めて祖父から聞かされます。
さて、未宇は忍びの術(?)をもって、目的を果たすことができるのか・・・?

先祖から代々続く忍者、ということで、
少し前にやっていたテレビドラマを思い出しまして、
これはコメディなのかと思ったのですが、
そのようでいて、そうとも言い切れない。
むしろ脱力系? 
いえ、いっそファンタジーでしょうか。

移民を認めず、日本人だけの文化を大切にし、平和な世の中を作ろう
などと言って移民を排除しようとする・・・、
そんな人たちが実権を握る町なのであります。

そんな人々を思い切り打ちのめす! 
つまりは、必殺仕事人の現代版。

なんとかレンジャーやらライダーが悪の組織と闘うよりも、
忍者が政権の闇と闘う方が、多少は大人向けですね。

 

<WOWOW視聴にて>

「シュシュシュの娘」

2021年/日本/88分

監督・脚本:入江悠

出演:福田沙紀、吉岡睦雄、根矢涼香、宇野祥平、井浦新

 

満足度★★★.5

 


カード・カウンター

2023年06月28日 | 映画(か行)

自分の行動に責任を持つということ

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元上等兵、ウィリアム・ティリッチ(オスカー・アイザック)は、
とある捕虜収容所における特殊作戦で罪を犯し、投獄され、
出所後はギャンブラーとして生計を立てていました。

罪の意識に苛まれ続けていた彼は、かつての同僚の息子カーク(タイ・シェリダン)と出会い、
自らの過去と向き合うことを決意して行きます・・・

ウィリアムはかつて上司の指示でとある行動をとり、
それが明るみに出て、写真にたまたま顔が映ってしまっていたことで、
罪を問われたのです。
しかし、実際の責任者である上官ジョン・ゴード(ウィレム・デフォー)は
そ知らぬ顔をして、今は著名人としていい暮らしをしています。
カークの父もまた、その過去の出来事を苦にしていて自殺。
そのためカークはゴードに対して強い恨みを抱いているのでした。

ウィリアムは出所してからも自分の行為を悔いています。
しかし投獄中に覚えたカードの技で、身を立てることができた。
本来の彼の力なら、もっと大もうけができるはずなのです。
しかし彼は、目立つことを避けていて、そして必要以上に儲けたいとも思わないので、
いつもほどほどのところで切り上げていたのです。
そんな彼が、1人の青年の前途を案じて、大金を稼ぐことにする・・・。

単に賭け事の大もうけの話ではなく、
その背景の持って行き方のストーリーが秀逸です。

怒りと罪の意識に苛まれる主人公像というのもいい。
魅力的な物語でした。

<サツゲキにて>

「カード・カウンター」

2021年/アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン/112分

監督・脚本:ポール・シュレイダー

出演:オスカー・アイザック、ティファニー・ハディッシュ、タイ・シェリダン、ウィレム・デフォー

軍の因縁度★★★★☆

満足度★★★★☆


「70歳のたしなみ」 板東眞理子

2023年06月27日 | 本(解説)

70代こそ人生の黄金時代

 

 

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“人生100年時代”の現代では、70代こそ人生の黄金時代です!
「今さら」「どうせ」と自分をおとしめるのはもうやめて、
若いうちから“黄金の70歳代”を迎える準備をしましょう。
330万部の大ベストセラー『女性の品格』の著者が、
《上機嫌にふるまう》《人は人、自分は自分》《若い人をほめる》など、
人生の後半生をポジティブに生きる32の具体的なヒントを伝授。

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私、まだ60代ではありますが、まもなく来る70代の心構えを
ぜひこの際確認してみましょう、ということで手に取りました。
かのベストセラー「女性の品格」を書いた板東眞理子さんによるものです。
まさに、人生100年時代。
70代はまだ「老後」ではないということで。

 

本作、何しろ活字が大きいのがいい!!
シニアには、実はポイント高いです。

 

ちょっと目次を眺めるだけで、言いたいことはなんとなく分かってしまうのですが・・・

・今こそ「いい加減」に生きる知恵を

・始めるべきは「終活」ではなく「老活」

・あなたにできることはたくさんある

・品格ある高齢期を生きるために

・来る80代をプラチナエイジにするヒント

 

まあ、わざわざ言われなくても、日頃からなんとなく思ってはいることではありますが・・・
そんな中でもなるほど~と思ったのは

 

キョウヨウとキョウイクを自分で作る

教養と教育にはあらず。
「今日は用がある」と「今日は行くところがある」ということ。
何も用がなくて、家でゴロゴロしてばかりではダメ、ということですね。
しかも、用事も行くところも誰かが与えてくれるのを待つのではなく、
自分で能動的に発見して取り組むべし、と。
これは心得ておくべきことですね。

 

可愛いおばあちゃん願望は気持ち悪い

これは元々の板東さんの女性に対する持論でしょうか。
日本ではしっかりした女性や強い女性は恐れられてモテない。
成熟した大人の女性より若くて未熟で幼稚な女性を好む男性が多い
と信じられている・・・と。
だから70になってもまだそんな妄執にとりつかれるのはよしなさいということで。
それこそ私にとっては当然のこと。
私がこんな風に年をとりたいと思うのは、
いつも自分をしっかり持っていて、それに向かってまっすぐ歩く人。
そんな人に、私はなりたい・・・。

もっとも最近のテレビドラマに登場するのは、かなり自立した女性たちが多いですね。
可愛いだけでは、もはや女性は生き抜けないのです。

 

読む人によって、きっと心に響く所は異なると思います。
確認でも、ヒントでもいい。
何らかの役には立つと思います。

 

「70歳のたしなみ」 板東眞理子 小学館文庫

満足度★★★.5


この子は邪悪

2023年06月25日 | 映画(か行)

不可解な心理療法

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窪花(くぼはな)(南沙良)の父は、心理療法室を営んでいます。
5年前、この家の家族は交通事故に遭いました。
そのため、父・司朗(玉木宏)は、足に後遺症が残り、
母はそのまま今も昏睡状態。
妹は顔に重度の火傷を負い、白い仮面をつけています。

そんな中、ただ1人無事だった花は、精神的ショックと大きな負い目を感じ、
ほとんど引きこもりのように暮らしています。

そんな花がある時、高校生・四井純(大西琉星)と出会います。
純の母親は、心神喪失状態となっていますが、
町内にも何人かが同様の症状を表わしていることを知り、
その原因を探ろうとして、この心理療法室にたどり着いたのです。

そんなある日、花の母(桜井ユキ)が5年ぶりに目を覚まし、
家に戻ってくるのですが・・・。

ホラーではありますが、それほど恐いというわけではなく、
ひたすら不気味・・・。

精神療法の催眠術で、本人の年齢を遡って記憶を呼び覚ます、
というようなシーンがドラマなどに登場することがありますが、
本作、そのことが重要な要素となっています。

が、ちょっと本作は現実味が薄すぎる気も・・・。
ただ、その不気味な雰囲気は十分に伝わりました。
南沙良さんと大西琉星くんだから許せちゃう、という感じ?

<WOWOW視聴にて>

「この子は邪悪」

2022年/日本/100分

監督・脚本;片岡翔

出演:南沙良、大西琉星、桜井ユキ、玉木宏

 

ホラー度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


ざわざわ下北沢

2023年06月24日 | 映画(さ行)

一時代前、下北沢の群像劇

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東京、下北沢を舞台として、そこに暮らす人々の日々の営みをスケッチ風に綴ったドラマです。

下北沢の駅にぴったり張り付いたように建つKRASSというカフェ。
この町では老若男女、古い物と新しい物がざわざわとひしめき合っています。

このカフェでバイトする20歳の有希(北川智子)。

常連客で、役者の九四郎(原田芳雄)。

有希の彼氏でカメラマンになる夢を持つ達也(小澤征悦)。

その他、多くの人々の群像劇。

毎日、同じようなことの繰り返しのように見えて、それでも少しずつ変化していく。
作中こんなセリフがあります。

「山で迷ったときには、沢を探して、
その沢沿いに進むと、どこかへたどり着く。
同じように、ここも、沢だ。
遭難しかけたヤツが集まって来る。」

東京居住者ではない私にはよく分かりませんが、
この下北沢はいわゆる成功者ではなくて、
ちょっと人とは別の道を行こうとか、
多くの人が理想とする道に行き損ねた人たちが集まるという感じでしょうか。
本作、2000年の作品なので、あくまでもその当時は、ということですが。

20年以上が過ぎた今、それは同じなのか、違ってきているのか、
それも私にはよく分かりません・・・。
ともあれ、その当時の様子はよく分かります。

 

今でもそのままというかそれ以上にビッグになった俳優の皆さんが
少しずつですが顔を出します。
誰がでているか、しっかり見つけ出すのも楽しみの一つ。
そうそう、ピアニスト、フジ子・ヘミングさんが出演しているというのもステキです。

 

それと本作のラストを見て、アメリカ作品の「マグノリア」を思い出しました。
そちらも群像劇で、それぞれの人物がどうにも煮詰まってしまったラストで、
驚くような出来事が起こります。
それがまた2000年の作品。

本作、どうもそのラストをヒントにしているように思えるのですが・・・。

 

<Amazon prime videoにて>

「ざわざわ下北沢」

2000年/日本/105分

監督・原案:市川準

出演:北川智子、原田芳雄、小澤征悦、りりィ、イングリット・フジ子・ヘミング、
   大森南朋、広末涼子、松重豊、岸部一徳、渡辺謙、樹木希林、柄本明

 

それぞれの道度★★★★☆

町の雰囲気描写度★★★★☆

満足度★★★.5


水は海に向かって流れる

2023年06月23日 | 映画(ま行)

恋愛不信女子と

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高校に入学した直達(大西利空)は、通学のために叔父・茂道(高良健吾)の家に居候することになります。
そこは、シェアハウスで、その住人は・・・

いつも不機嫌な顔をしている会社員の榊さん(広瀬すず)

女装の占い師・颯(戸塚純貴)

海外を放浪する大学教授・成瀬(生瀬勝久)

そして、親に内緒で会社を辞め、漫画家となった叔父・茂道

ここで新しい生活を始めた直達ですが、いつも不機嫌な榊さんは、
気まぐれにおいしいご飯を振る舞ってくれたりするので、
直達はいつしか榊さんに淡い気持ちを抱くように・・・。
しかし、彼と榊さんには思わぬ過去の因縁があったのでした・・・。

榊さんは、10年前に不倫をして出て行ってしまった母親に怒りを持ったまま、
もう自分は恋愛なんかしないと思い込むくらいに怒りが凝り固まっていたのでした。
しかしここへ来てその10年に決着をつけるような大きな出来事が・・・。
あくまでも夫婦間の「不倫」という出来事ではありますが、
そこに子供がいると、問題は大きくなりますね。
でも、人の世にそういう出来事がなくなることはないでしょう。
となれば、どのようにそれを乗り越えるのか、ということが大事になります。


変な住人たちが住むシェアハウスがステキでした。
直達クンの同級生、楓ちゃんはすごくいい子だったのですが、残念でした・・・。

<シネマフロンティアにて>
「水は海に向かって流れる」
2023年/日本/123分
監督:前田哲
原作:田嶋列島
脚本:大島里美
出演:広瀬すず、大西利空、高良健吾、戸塚純貴、當真あみ、北村有起哉、生瀬勝久

青春度★★★★☆
不倫騒動度★★★★☆
満足度★★★.5

 


ラブ×ドック

2023年06月22日 | 映画(ら行)

苦くて甘いスイーツの味

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スイーツの店を経営する40歳・鄕田飛鳥(吉田羊)。
ある日、店で働く15歳も年下のパティシエ星矢(野村周平)から告白されます。
それをきっかけに、飛鳥は近年の恋愛遍歴を思い出します。

36歳の時には勤めていた店のオーナー(吉田鋼太郎)と不倫。
その後、別れて店を辞めることになる。

38歳の時には、整体ジムのトレーナー(玉木宏)と付き合うも、
彼は飛鳥の友人・千種(大久保佳代子)が思いを寄せていた人物で、
そのため千種を思い切り傷つけてしまい、
その後彼女とは連絡も取っていない・・・。

恋愛に失敗して、周囲の人まで傷つけてしまうというイタい恋愛経験・・・。
そんなことがあったので飛鳥は、恋愛についての診療所だという
「ラブ・ドック」という所を訪れ、薬を打ってもらっていたのですが・・・。

ラブ・ドックなどという怪しい場所で医師めいた言動をするのが
広末涼子さんとその助手成田凌さん。
「遺伝子検査をすれば、恋にまつわるすべてが分かる」などと言います。

 

モロにアラフォー世代の女性の恋愛事情を描く作品。
その代表としての吉田羊さんの起用、バッチリですね。
本作絶妙に出演者陣が豪華で、
他に唐田えりかさん、音尾琢磨さん、ケミストリーの川畑要さんまで登場。
生々しい話であるのにポップでカラッとしている。
独特な雰囲気のオシャレな作品に仕上がっています。

 

予想に反してちょっぴり苦くて甘い仕上がり。
確かにスイーツ店の物語ですね。

<WOWOW視聴にて>

「ラブ×ドック」

2018年/日本/113分

監督・脚本:鈴木おさむ

出演:吉田羊、野村周平、大久保佳代子、唐田えりか、川畑要、音尾琢磨、
   成田凌、広末涼子、吉田鋼太郎、玉木宏

アラフォー度★★★★☆

満足度★★★.5

 


「水まきジイサンと図書館の王女さま」丸山正樹

2023年06月21日 | 本(その他)

「デフ・ヴォイス」スピンオフ

 

 

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『デフ・ヴォイス~法廷の手話通訳士』で話題をさらった丸山正樹氏、初めての児童書。
「デフ・ヴォイス」シリーズとして、
その後『慟哭は聴こえない』など続篇を刊行中。
本作は、そのスピンオフ版として書かれたもので、
コーダ(ろう者の両親の家庭で育った聴者の子ども)である主人公の手話通訳士の
再婚相手の子ども美和と、
シリーズ2作目に登場する友だち英知の学校を舞台に繰り広げられる。
「水まきジイサン」「図書館で消えたしおり」「猫事件」「耳の聞こえないおばあさん」
などのストーリーが、ミステリーの要素も加わり、少しずつリンクしていく。

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丸山正樹さんの「デフ・ヴォイス」シリーズは、私の愛読書の一つですが、
本作はその児童書版にして、スピンオフ作品。

主人公である手話通訳士の再婚相手の子供・美和が本作の主人公であります。
本編でおなじみの荒井とその妻(つまり美和の母)、
美和のよき友人の英知が登場するのも、嬉しいところ。

 

朝登校時によく出会う風変わりなおじいさんのこと、
図書館で出会った大切な物を探しているお姉さんのこと、
道ばたで困っていたおばあさんのこと、
猫に毒の餌が撒かれているらしい事件・・・
いくつかの出来事が混じり合いながら進行していきます。
そしてもちろん、美和が手話を使うシーンも。

児童書なので、子どもたちが手話を身近に感じられるように書かれていて、
そして巻末にはいくつかの手話もイラスト入りで紹介されています。

大人のデフ・ヴォイスファンでも、
興味を持って読むことができると思います。

 

<図書館蔵書にて>

「水まきジイサンと図書館の王女さま」丸山正樹 偕成社

満足度★★★★☆

 


ツユクサ

2023年06月19日 | 映画(た行)

ありふれた生活の中で、光る奇跡

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小さな港町で暮らす芙美(小林聡美)。
気心の知れた友人たち直子(平岩紙)や妙子(江口のりこ)と、
他愛のない時間を過ごしています。

そんなある日、芙美は車の運転中に隕石が落ちてきて、当たってしまいます。
衝撃で車は転がってしまいましたが、芙美は無事。
そんな芙美に、直子の小学生の息子・航平が言います。

隕石が人に当たる確率は一億分の一。
そんなものに当たるなんて、きっといいことがある!!

そして芙美は、街に越してきた男性・篠田(松重豊)と知り合います。

 

実は芙美は断酒会に参加しているのです。
というのも、ちょうど航平と同じくらいの年の息子を事故で亡くしていて、
その後芙美は酒浸りになってしまっていました。
けれどこの町の穏やかな生活と、航平と「親友」になることで
ようやく心が落ち着いて、今、お酒も断とうとしているところ。
もうこれ以上の幸せなんて望まない、そう思い始めたところへ、
いささか心を乱される男性登場。

ごく普通の人物のごく普通の生活。
でも耐えがたい悲しみを乗り越えても来た。
ちょっとくらいいいことがあってもいいのかな・・・?
そんな気がしてきます。

ほのぼの感の奥に垣間見える悲しみ。
ステキな作品でした。

やはり少年の存在が光りますね!

<Amazon prime videoにて>

「ツユクサ」

2022年/日本/95分

監督:平山秀幸

脚本:阿倍照雄

出演:小林聡美、平岩紙、齋藤汰鷹、江口のりこ、渋川清彦、松重豊、泉谷しげる

 

日常度★★★★☆

満足度★★★★.5


渇水

2023年06月18日 | 映画(か行)

雨不足に、心もひりついて

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市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)。
相棒・木田(磯村勇斗)と共に、水道料金を滞納している家庭を回り、
料金徴収および水道を停止する「停水執行」の業務に就いています。

日照りが続き、市内に給水制限が発令される中、
貧しい家庭を訪問し、忌み嫌われる仕事を続ける毎日。
岩切は、妻子との別居生活も続いていています・・・。

そんなある日、岩切は育児放棄を受けている幼い姉妹と出会いますが・・・。

長期による水道料金の未払いで、水道が止められてしまう。
電気でもしんどいですが、水は下手をすると命に関わります。
普通に大人でも困惑するところですが、
母親が出かけたきり何日も戻らず、取り残された子どもたちにとって、
その出来事はあまりにも理不尽です。

あくまで仕事と割り切って規則に沿ってやるしかない、と岩切は思っています。
母親が何日も不在、お金もほとんど残っていないと知る岩切は
水を止める前に、子どもたちのために、家の中のあらゆる容器に水をためてやります。
いくら何でもまもなく母親は帰ってくるだろうと思って・・・。
しかしこの母親(門脇麦)は予想以上にクズ。

是枝監督の「誰も知らない」を思い出しました。
その作中でも、子どもたちは公園の水を汲んでいた。
ところがです、本作は給水制限のために、公園の水も止まってしまった。
いよいよ命に関わります。

岩切は今まで自分が妻や子供ときちんと向き合ってこなかったことを悔いています。
それは、母に取り残された子どもたちを見てしまったから。
親と子は単に血のつながりでできているのではない。
日頃からのふれあいと信頼感が大事であることが身にしみる・・・。

そして、岩切はある日ついに自身のモットーを破り捨てる!!
うんと煮詰まって焦げ付きそうになった岩切の最後の決断が、本作のミソです。

作中、「太陽の光や空気と同じに、水はタダでもいいんじゃないか」、
という話が出ます。

いや、でも川の水ならともかく、水道の水となれば、
その施設や浄化に多大な費用がかかるわけで、タダというわけには行かないのかも・・・。
でも、経済的に本当に困っている人が、水まで取り上げられるというのはやはり理不尽です。
つまり少なくとも一般家庭で使用する水については
無料という制度があってもおかしくない気はしますね・・・。

ともあれ、見応えのある作品です。

<シネマフロンティアにて>

「渇水」

2023年/日本/100分

監督:高橋正弥

原作:河林満

出演:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山崎七海、柚穂、尾野真千子

 

日照り度★★★★★

理不尽度★★★★★

満足度★★★★☆

 


夜、鳥たちが啼く

2023年06月17日 | 映画(や行)

結婚していないのに家庭内別居

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私、佐藤泰志さん原作の作品は見逃さないようにしていたつもりなのですが、
本作、見損ねていたようです。

若い時に、とある賞を受賞したけれど、その後鳴かず飛ばずの作家、慎一(山田裕貴)。
同棲していた恋人に去られ、鬱屈した日々を送っています。
そんなところへ、慎一の友人の元妻・裕子(松本まりか)が
幼い息子アキラを連れて引っ越してきます。
慎一は、恋人と暮らしていた家を母子に提供し、
自身は離れのプレハブで寝起きすることに。

自身の体験や心情を元に小説を描く慎一は、自分の身を削るように文章を綴ります。
夜な夜なパソコンに向かい、もがき苦しむ毎日。
一方、裕子はアキラが眠ると町へ繰り出し、男たちと夜を過ごしていました。
2人は互いに深入りしないよう距離を保っていましたが・・・。

本作は、この売れない作家・慎一と、原作者・佐藤泰志さんが、
かなり重なっているのかもしれない・・・と思いながら見ました。

あんな風にして、浮かばない言葉を無理矢理のように生み出しながら、
著者も著作を続けていたのかなあ・・・などと。
自分の奥底の暗い部分としっかり向き合わなければならないのは、
つらいことだと思います。

さて慎一は、親しくしていた友人一家の離婚に当惑しつつ、
行き場を失った元妻と息子に家を提供したのでした。
しかし、その元妻が松本まりかさんと来れば、
何もないわけがないじゃありませんか!!

極力、深入りしないようにしていた2人だけれど、やはり次第に接近していく。
無邪気に親しみをみせる子供のために、
食事を共にしたり、たまにどこかへ遊びに出かけたり・・・と、
まだ何もない2人ではあっても、形の上で「家族」のようになってしまうのです。

けれど、なし崩しになれ合った関係になりたくはない2人。
そんな2人は自分たちのことを「結婚していないのに家庭内別居」と呼びます。
人と人との関係のあり方は様々。
特に近年は・・・。
むしろこういう方が、長く続くような気もします。

そして、私小説的な話であっても、必ずしもネガティブなものでなくてもよいのでは?
という気もしてきました。
先のことを考えすぎずに、成るようになる、ということでも。

<Amazon prime videoにて>

「夜、鳥たちが啼く」

監督:城定秀夫

原作:佐藤泰志

出演:山田裕貴、松本まりか、アキラ、中村ゆりか

 

家庭内別居度★★★★☆

満足度★★★★☆


ウーマン・トーキング

2023年06月16日 | 映画(あ行)

女たちよ、立ち上がれ

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2010年、自給自足で生活するキリスト教一派のとある村。
女たちが度々レイプされるということが起こります。
男たちは「悪魔の仕業」だとか、「作り話」などと言って取り合いません。
しかしやがて、やはりこれは男たちの確信的な犯罪であったことがわかります。
男たちが街へ出かけ、不在の2日間、
女たちは自らの未来をかけた話し合いを行います。

 

本作、2005年~2009年にかけて、南米ボリビアで実際にあった事件を元に執筆され、
2018年に出版されてベストセラーとなった小説を元にしています。

 

まずは、本作を始めからみていくと、少し古い時代のように見受けられるのです。
人々の服装や、電気製品が無いこと、車がなくて馬車などで移動していること・・・。
ほぼ、西部劇で見るような時代、人々の暮らし。
ところが、作中半ばあたりで2010年、と出てくるのでビックリ。

つまりこれは、「アーミッシュ」として知られるような、
特定の宗教の縛りの中で生きるコロニーの人々の話なのでした。

この村では、女性に教育は必要ないとされていて、
女性は学校へも行けず、文字も読めないのです。
そして男たちは、家畜に用いる薬剤で女性を眠らせ、
その間にレイプをするという、なんとも卑劣な行為を繰り返していたのです。
女性は朝目覚めると、太ももに覚えのない傷やアザができていたり、
ひどい場合には妊娠していたり・・・。
それが、少女の身に起こっていたとしたらどうでしょう・・・。

すべての男たちがこの行為をしていたわけではないと思うのですが、
しかし、知っていても知らないふりをしていたのは確かです。
しかしついに、ある女性がこのことの真相を突き止める。

 

女たちは男たちのいない間に集まり、相談します。
本作はほとんどが、この相談のシーンとなっています。

こんなことに対して自分たちはどうするのか。
方法は3つ。

・何もせず、このまま我慢して過ごす。

・男たちと闘う。

・この村を逃げ出す。

字の読めない彼女たちは、この3つを示す絵にチェックを入れることで投票をします。
そして、この話し合いの中で、唯一の男性・オーガストが書記役を引き受けます。

彼はこの村を一度出ていって、外の世界を知っています。
けれどおそらくそこに適合できずに、帰ってきていた。
だから、この村の女性たちが置かれた理不尽な有様に同情できているのです。
そしてまた彼のこうした経歴は、多分村の他の男性たちからは疎まれ、
村八分的な扱いを受けていたのかも知れません
(あまり詳しい説明はなかったのですが)。

彼女たちは、まともに教育を受けておらず、字の読み書きもできないのですが、
生活の中で身につけた知識はたっぷり持っていて、
そして思考力は周囲のバカな男たち以上。

これまで互いに口にできなかったことを口に出し、
まっすぐに真実に目を向けていきます。

最後の彼女たちの決断にはもう、拍手を送りたくなります。

けれどさて、モデルとなった実際の村の女性たちは最後にどうなったのだろう・・・、
その後、どのような人生を送ったのだろう・・・と、そのことが気になりました。
作中も、そのことには触れられていなくて。

 

閉鎖的な社会で起こる理不尽な出来事・・・。
本作に限らず、このようなことは多くありそうです。

<シアターキノにて>

「ウーマン・トーキング 私たちの選択」

2022年/アメリカ/105分

監督:サラ・ポーリー

出演:ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー、
   フランシス・マクドーマンド、ベン・ウィショー

 

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆


「音楽は自由にする」坂本龍一 

2023年06月15日 | 本(その他)

坂本龍一さんの道

 

 

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坂本龍一が語る坂本龍一

「あまり気が進まないけれど……」と前置きしつつ、
日本が誇る世界的音楽家は静かに語り始めた――。
伝説的な編集者である厳格な父。
ピアノとの出合い。
幼稚園での初めての作曲。
学生運動に明け暮れた高校時代。
伝説的バンドYMOの成功と狂騒。
たった一人の「アンチ・YMO」。
『ラストエンペラー』での栄誉。
同時多発テロの衝撃。
そして辿りついた新しい音楽――。
華やかさと裏腹の激動の半生と、いつもそこに響いていた音楽への想いを、
自らの言葉で克明に語った決定的自伝。

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本作は、2009年に刊行された坂本龍一さんの自伝です。
このたび追悼企画として文庫化されたようです。

坂本龍一氏は、私にとっては「YMO」よりも「映画音楽」の印象が強いのですが・・・、
それも人によるのでしょう。

ともあれ、まさに日本が誇る世界的音楽家。

おそらく好きなことを選び取りながら歩んだ人生だと思うのですが、
結局それはやはり音楽の道だったわけですね。
くっきりと浮かび上がる足跡は、
さすがに他に類を見ない独自性を表わしています。

氏の人生をたどることは、自ずと日本の社会の変遷をたどることでもあります。
時代背景を読み取りながら読んでいくのもまた興味深いです。

 

驚いたのは、あの2001年9月11日。
氏はニューヨークに住んでいて、煙を上げるビルの姿を実際に見たといいます。
もしかしてこれは有名な話で、知らなかったのは私くらいなのかも知れないけれど・・・。
それで本巻にも、坂本龍一氏本人が撮ったその写真が掲載されています。

あんな光景を目の前で見たとしたら、
なんだか人生観が変わってしまいそうな気がします。

 

「音楽は自由にする」坂本龍一 新潮文庫

満足度★★★★☆


彼女たちの革命前夜

2023年06月13日 | 映画(か行)

ウーマンパワーを炸裂させたミスコン

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ミス・ワールド、1970年ロンドン大会で実際に起こった騒動を描いたストーリー。

 

大学に入学したサリー(キーラ・ナイトレイ)は、
女性解放運動家ジョー(ジェシー・バックリー)に出会います。
ジョーたちは女性をモノのように品定めをする
ミスコンテスト「ミス・ワールド」開催を阻止しようと計画していました。

一方、カリブ海の島国グレナダからミス・ワールドに参加したジェニファー(ググ・バサ=ロー)。
夢をかなえたくてこの大会に参加しましたが、
白人の出場者ばかりに注目が集まる状況に複雑な思いを持ちます。

それぞれの思いが交差する中、ついにミス・ワールド開催当日を迎えます。

男性たちが凝視する中、水着姿でスリーサイズまで公開され、品定めされるミスコン。
やはりちょっと何かがおかしい気がしてしまいます。
市場で牛が品定めされるのとまさしく同じ。
女性解放運動の一つの目玉としてミスコンがやり玉に挙がったのには、
象徴的な意味がありそうです。

彼女たちの過激なアピールによって、ショーが中断される騒ぎになったのですが、
これは世界中にテレビ中継されていて、女性解放運動の旗揚げとなったのでした。

しかしまた一方、白人中心の社会で、何かを成し遂げたい黒人女性が、
自らの容姿を武器に乗り込んでくる。
ミスコンはそうしたチャンスの場でもあったというのが面白い所です。
女性解放という一つのテーマだけでなく
人種差別というまた別の観点で語られるのも本作のいいところ。

なかなかに骨太の作品です。

 

<WOWOW視聴にて>

「彼女たちの革命前夜」

2019年/イギリス/107分

監督:フィリッパ・ロウソープ

出演:キーラ・ナイトレイ、ググ・バサ=ロー、ジェシー・バックリー、
   キーリー・ホーズ、リス・エバンス、グレッグ・キニア

歴史発掘度★★★★☆

ウーマンパワー度★★★★★

満足度★★★★☆