映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「光媒の花」 道尾秀介 

2012年11月30日 | 本(ミステリ)
“白い光”で、いつか実を結ぶ花々

光媒の花 (集英社文庫)
道尾 秀介
集英社


            * * * * * * * * *

道尾秀介さんの連作短編集です。
第23回山本周五郎賞受賞作。
一応一つ一つのストーリーは独立していますが、
前後するストーリーでほんの少し、重なっている部分があります。
強いていえば同じ地域に住む人達の話とはいえます。
ただし、回想シーンもあるので時間軸は自在。
そして最期のストーリーが一番初めのストーリーとつながっていたりする、
大変ユニークな作りとなっています。


「隠れ鬼」
一番初めは、認知症の母と暮らす印章店を営む男性の話。
自身が少年の頃、憧れた一人の女性とのエピソード。
けれどそれは思いがけない結末へとつながります。
美しいけれども切なく、そして怖い。

「虫送り」
その次に来るのは小学生の兄妹の話。
二人はよく夜の河原で虫取りをするのですが、
ある夜、二人は大変なことをしてしまう・・・。

「冬の蝶」
そしてその次に来るのが、ある男の中学の頃の思い出。
孤独な魂が呼び合い、親しくなった同級の女子との思い出なのですが、
ある時彼女の家を訪ねて、見てはならないものを見てしまう。


このへんまではやはり道尾秀介だな・・・と思うのです。
ちょっぴり救いがたいような暗さが・・・。
ところが、次のあたりからトーンが変わってくるように私には思えます。


「春の蝶」
どんなに長い冬でも、いつかは春が来る。
そういう意味合いもありそうです。
「冬の蝶」では救い難く不幸のようにみえた少女の成長した姿がここにあった。

「風媒花」
ここに登場する若い男性。
さすがに若いだけあってここまでどうにもはかなげだった登場人物たちと比べると、
ぐんと活き活きしてきます。
どうにも子供じみて拗ねたようなところがあるのですが、
ある気づきで心の扉を開いていく。
ここに登場する彼のお姉さんが素敵。

「遠い光」
風媒花で登場したお姉さん自身のストーリーとなります。
前話では元気な初任の小学校の先生と思えたのが、
実はまだ教師としての自信がもてない新米先生。
その彼女が一人の女の子との交流を通して、自信を取り戻していきます。
そんな彼女が思う。

「窓から太陽など差し込まないでも、天上の明かりが灯っていなくても、
かつて世界は十分に光っていた。
わからないからこそ光っていた。
・・・・私は考える。
今日は何が起きるだろう。
どんなふうに過ごそう。
何をしよう。」


・・・まだ幼いそんな時に、彼女は白い光を見たと言うのです。
いつからあの白い光は消えてしまったのか。
いや、消えてしまったのではなく白い光は本当はそこにあるのだけれど、
私達のほうが変わってしまったのかも、
とそんな風に彼女は思います。


気がつけば、救いがたく思えていた登場人物たちの上にも
白い光が降り注いでいるようにも思える。
なかなか、素晴らしく練られたストーリーたちでした。


さて、ところでこの本の題名、「光媒の花」。
作中に「風媒花」という章はありますが、このような題名のストーリーはありません。
「風媒花」のところで語られるのは、こんな話です。
虫が花粉を運ぶ虫媒花は、虫を呼び寄せるために派手に美しく咲きます。
けれども虫を呼ぶ必要のない風媒花は、
自らを飾り立てる必要がないので、たいていは小さくで地味なのだと。
作中では、決して美しいとはいえないけれど家族のために地道に一生懸命に働く「お母さん」を例えた話しなのでした。


つまりはこの本に登場する、
それぞれの悩みを抱え行きづまった名も無き人々の例えでもあります。
けれど、この人達も本当は「白い光」を見ることができて、
いつか実を結ぶのだと、この題名はうったえているわけなのですよね。
いやあ・・・深い。
じんわり感動がきます。

「光媒の花」道尾秀介 集英社文庫
満足度★★★★★

北のカナリアたち

2012年11月29日 | 映画(か行)
北の寒々しい海に心も重く・・・



            * * * * * * * * *

あれ、この作品でぴょこぴょこコンビ登場って、なんか違うのでは・・・?
いやあ、そうなんだけど、まともに書くとものすご~く辛辣になりそうなので、
こうやっておとぼけの雰囲気でごまかそうというわけなんだな・・・。
え~と、言うまでもなく、湊かなえさん原作だよね。
「往復書簡」という本の中の「二十年後の宿題」というやつ。
そもそも、“たんぽぽ”は、湊かなえさん嫌いだったんじゃない?
はい。「告白」を読んだだけですが、
この人は私に合わないと思ったのでそれ以後全く読んでいません。
だから、あの大ヒット作の映画「告白」すらも見ていないという・・・。
それがまたなんで見ちゃったのかなあ。
いや、吉永小百合さんだし。北海道が舞台だし。
見た人に一応聞いたんだけれど、それほど陰湿じゃなくて、見た後の印象も悪くないというので・・・。
子供たちの歌声がすごくいいとも聞いたし・・・。

そうだね、いろいろな評判を見てもそう悪くはないんじゃないかな?
ストーリーとしては・・・北海道の離島で小学校の教師をしていた川島はるが、
ある事故で夫を失い、島を去っていく。
何故かその時、島の人達に追われるようにして出ていったんだけど、
そこのところの謎は後で次第にわかってくるんだね。
その20年後、はるのところに刑事が訪ねてくる。
かつての島での教え子が殺人を犯して行方をくらましている、と。
はるは気になって20年ぶりに島に戻り、教え子たちを訪ねて歩く。
それぞれが20年間言えなかった思いが今明かされる。
そして20年前の真実が浮かび上がる・・・。
二十四の瞳みたいな感動作とは違うよね。
でもそれは湊かなえ原作だからはじめからわかっていたはず。
まあ、サスペンス・・なのかな?
で、どこが気に入らなかったわけ?

あらすじ聞いたら悪くない、って思っちゃうね。なんでしょう? 
私これは「人生の特等席」見た後に見たんだよ。
そしたら、せっかくなんだかほんわかハッピーに満たされた気持ちが、シューンと重くなってしまって、
うわあ、見るんじゃなかったって、ひたすらそう思ったわけ。
単に順番が悪かっただけなのでは?
うーん、もともと警戒作品だから、つい過敏に拒否反応が出たんだろうとは思う。
終盤、隣の席の方が泣いてたんだけど、私はなんだかしらけてたしな・・・。
感情移入できてないですね・・・。
なんというのか、今作では子供たちと教師の絆、そこの部分はいいと思うんだよね。
20年経って、成長した6人が、新たに絆を取り戻す。
いかにものどかな離島の分校だけど、それぞれの子供達に嫉妬とか色々な感情が渦巻いていた・・・
というのもまあ、納得はできるし、
おとなになってそんな自分をきちんと分析できる彼らは、ちょっと出来すぎに思えるくらい。
でも、かなめのはるの気持ちがイマイチ・・・。
夫でなくなぜ他の男性のもとへ気持ちが動いたのか、というあたりが薄すぎる気がする・・・。
もっと夫とどうしても気持ちが通じない苦しさとか、
もしくは別の男に走らなければならなかった情念とか、
そういう説得力が欲しかったな。
そもそも吉永小百合さんのイメージとして、そんなことしそうにないんだもの・・・。
確かにまだまだ若くお綺麗だけれど、この役は
もっと若くて、まだ色香が立ち上ってるのに持って行きどころがない、みたいな人が演じるべきでした。
だから仲村トオルさんとのラブシーンには違和感・・・。



利尻富士を対岸に見ていたので、礼文島に学校があるという想定かな。
まあ、作中では北海道の離島ということで、特に特定はしていないよね。
あのいかにも寒々しい、冬の海の光景にも気持ちが落ち込む原因があるのでは?
それだよ、それ。美しく厳しい。そうなんだけど、
今、これから冬に向かう北海道人としては、現実を突きつけられる感じで、うんざり。
ムダにキャストが豪華だし・・・。
いやあ、つまり何でもかんでも難癖をつけたいだけ?
まあ、そうかも知れません。
だからまあ、みなさまも気にしませんように。
教訓としては、やはり、“たんぽぽ”としては湊かなえ作品には近寄らない方がいい。
ファンのかた、ごめんなさーい!
あ、でも札幌の街のシーンなんかもあって、ちょっと嬉しかったりはしました。

「北のカナリアたち」
2012年/日本/130分
監督:阪本順治
原作:湊かなえ
出演:吉永小百合、柴田恭兵、仲村トオル、森山未來、満島ひかり、宮崎あおい、松田龍平、小池栄子、勝地涼

ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン

2012年11月28日 | 映画(は行)
やっぱり女もおバカでした



            * * * * * * * * *


花嫁介添人(ブライズメイズ)たちが繰り広げる騒動を描くおバカコメディ。
つまりこれは「ハングオーバー」の女性版とでもいいましょうか。



仕事も恋愛もうまく行かず、
人生に行き詰まった30代独身のアニー。
親友が婚約し、その花嫁介添人のまとめ役(メイド・オブ・オナー)を務めることになりました。
ところがもう一人、彼女の親友を自称するセレブ妻・ヘレンとめちゃくちゃ対立。

顔を合わせるたびにとんだ騒動が持ち上がります。
ただでさえ落ち込んでいたところへ、
母のツテでやっと得た職はクビ。
住むところも追い出され、
車はポンコツ。
ストレスが溜まりまくったところで、ついには親友と破局!?


これ以上のどん底があるか、というところまで落ち込んだアニー。
さあ、どうなる?


いやはや、「ハングオーバー」では、
ほんと男はバカだよねー、と単純に笑っていましたが、
これを見ると女も同じにバカでした。
妙に張りあってしまうところが余計にバカ。
しかも今作は、女だからといって容赦しないお下品さ炸裂。
ちょっとこれは行き過ぎだし、どうなのよ・・・
と思い始めたところで、意外な光が差し込みます。
それは、どうしようもなく落ち込んだアニーのところへ現れた意外な人物。
これがなかったら、本当にただのくだらない作品になるところでした。
なんだかんだ言っても人とのつながりはやっぱり大切なんだな。
ま、いいか~と思わせるラスト。
さほど悪くはありません。



「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」
2011年/アメリカ/125分
監督:ポール・フェイグ
出演:クリスティン・ウィグ、マーヤ・ルドルフ、ローズ・バーン、ウェンディ・マクレンドン=コービー、エリー・ケンパー、メリッサ・マッカーシー

「悪の教典」 貴志祐介

2012年11月26日 | 本(ミステリ)
さわやかな笑顔で、クラス全員皆殺し・・・

悪の教典
貴志 祐介
文藝春秋


            * * * * * * * * *

監督:三池崇、主演:伊藤英明で現在(2012年11月)公開中の映画原作です。
この本のボリュームもさることながら、
高校教師が殺人鬼という驚愕の内容で、
発行時に相当な話題となったものです。
私はあまりにも恐ろしげなその内容に読むのをためらっておりましたが、
もともと嫌いな作家ではありませんし、
映画化までされては、さけて通れない気がしてこの度ノベルス版をよんでみました。


生徒からは"ハスミン"と呼ばれる人気英語教師、蓮見聖司。
ルックスよし。
教育熱心で、気さくで話がわかる。
アニキみたいな先生。
しかし、それはあくまでも彼の上辺の姿であって、実は心底からのサイコパス。
これまでも無数の殺人を繰り返してきたけれども、
うまく立ちまわって犯罪者として罪に問われたことはない。
人を傷つけること、命を奪うことは彼にとって「楽しみ」であって、
少しも罪の意識はなく、行く手を阻むものには死あるのみ。


読む前と、少し読み始めたあたりで、
こんな陰惨な物語がどうしてこんなに人気が出たり映画化にまでなったりするのかと不思議でした。
でもその魅力を探り当ててやろうと、
むしろ挑むような感じで読み続けていったのですが・・・。
なんだかそのあまりにも血みどろの蓮見の生き方に
ただ圧倒されて、眼が離せなくなってしまいました。
つまりは怖いもの見たさ、だけなのかも知れませんが、
その筆力はさすがです。
嫌悪し、半ば具合悪くなりながらも読んでしまった自分もどうなのよ
・・・というところです。


ラストはバトルロワイヤルなみのサバイバルゲーム(生徒側からして)となりますが、
このサイコパスにしても、ほんの一かけら、
殺人をためらうシーンの描写があったところが救い。
そしてまた、蓮見のむちゃくちゃな犯罪の、露見の糸口もいいですね。


それにしてもこれを映画化とは思い切ったものです。
私はもうたくさん。
後にDVDでも見ません!!


このノベルス版のラストに、オリジナル短編が付加されていますが、
ちょっとずっこけます。
まあ、あまりにも陰惨なストーリーだったので、
ちょっと口直しに、という感じでしょう。

「悪の教典」貴志祐介 文藝春秋(ノベルス版)
満足度★★★☆☆ 
(強烈なプラスマイナスで結果、普通・・・になってしまいました)


人生の特等席

2012年11月25日 | 映画(さ行)
イーストウッドを見る劇場こそが“特等席”



            * * * * * * * * *


2008年の「グラン・トリノ」以来4年ぶりのクリント・イーストウッド出演作品。
監督は、クリント・イーストウッド監督の愛弟子と言われるロバート・ロレンツ。
なるほど確かに、これはクリント・イーストウッドワールドでした。


大リーグの伝説的スカウトマンといわれるガス(クリント・イーストウッド)。
けれども最近は寄る年波には勝てず、
視力が衰えてきているのですが、周囲には隠しています。
けれど、フロントもそんなガスには危惧を抱いていて、
ガスに見切りをつけるか、継続か、そんな判断を次のドラフトにかけようという心づもり。
ガスはノースカロライナの注目の選手の試合を見に行くのですが、
やはり視力の衰えで心もとない。
そんなガスの手助けに来たのが一人娘のミッキー(エイミー・アダムス)。
けれどミッキーは長くガスと離れて暮らしていて、
どうにもうまく心が通じ合いません。
はてさて、この二人の行方は・・・



特に大きな事件が起こるわけでもありませんし、
まあ先も読めるし、どこかで見たような気もするストーリー。
だけれども、何なのでしょう、この安心感。
ゆったりと楽しめてしまう。
やはり、クリント・イーストウッドの存在感なのかも知れませんね。
しぶくて頑固で、時折ものすごく鋭い。
でも家族に対しては不器用で、なかなか本当の思いを口に出せない。
よく日本にもいそうな“お父さん”ですよね。
だから日本人は、特に親しみを感じるような気がします。
そして、この役は彼以外には考えられません。



エイミーは早くに母を亡くし、ガスに男手一つで育てられたのです。
彼とともにスカウトの旅をし、また、野球の知識をしっかりと学んだ。
けれど、ある時急に親戚に預けられ、
その後ほとんど連絡もなく、ほおって置かれた。
そのことでとても傷ついていたのです。
あまりにも冷たいその仕打ちと思えたのは、
単に彼が忙しかったからというのではなく、しっかりと理由があったからなのでしたが
彼女にはそれは知らされていなかったのです。


そんな父と娘の絆を結ぶものはやはり野球。
見終えた後の満足感たっぷり。
ハリウッド的なハッピーエンド、
お気楽といえばそうなのですが、やっぱり好きです。
この気分を味わいたくて映画を見ているといっても過言ではない。



今作中で、ガスはパソコンを使いません。
(というより、使えない)。
自分の目と耳と経験が全て。
このようなところで、先のヒット作でもある「マネーボール」を思い出してしまいました。
あちらは徹底したデータによる野球。
単純にどちらがいいというものではないとは思いますが、
人が積み上げた経験の価値は、コンピューターに勝ってほしい。
まあ、これは今や殆ど願望に近いかも知れませんけれど。


今作、原題は“Trouble with Curve”。
ドラフト1位指名候補の高校生が、
カーブを打てないとガスが見切ることからくる題名なんですね。
でも、邦題は「人生の特等席」。
これも作中のセリフにある言葉です。
ガスは自分のスカウトの仕事について「こんなのは人生の3等席だ」とミッキーにいうのです。
けれどもミッキーは、いつも一緒に旅をしたお父さんの横が「人生の特等席だった」といいます。
そこで私たちは、なるほど、だからこの題名・・・と気づくわけですが、
確かにこの邦題はいいですね。
自分にとっての人生の特等席はどこなのか。あるいはどこだったのか。
思いを馳せてみるのもいいかも知れません。


「人生の特等席」
2012年/アメリカ/111分
監督:ロバート・ロレンツ
出演:クリント・イーストウッド
エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョン・グッドマン、マシュー・リラード

コッホ先生と僕らの革命

2012年11月24日 | 映画(か行)
子供たちを変えた、サッカー



            * * * * * * * * *

ドイツでサッカーの父といわれる
コンラート・コッホの実話をもとにしたストーリーです。
19世紀末、第一次対戦前、反英感情が高まる帝国主義のドイツ。
英国留学から帰ってきたコンラート・コッホが、
英語教師としてある名門校に赴任してきます。
教室の子供たちは、それまでの教育が物を言ってか、
イギリスや英語への偏見に満ちています。
そのため、彼は授業に英国で親しんだサッカーを取り入れてみます。

当時のドイツは体操が一般的なスポーツで、勝敗を競う球技はなかったんですね。
子供たちは次第にサッカーの虜になっていきますが、
そのことが一部の親には受け入れられない。
サッカーは「反社会的スポーツ」と決めつけ、
やがて、コッホ先生の退職や生徒の退学問題にまで発展していきますが・・・。



ドイツでサッカーがそんな扱いを受けていたなどと、
今となっては信じられない気がします。
全く意味のない、ムダな禁止事項・・・。
けれど世の中にはこういうことはよくあるわけです。
何もドイツに限ったことではありません。
規律でガチガチにした軍隊のような学校の様子は、
私たちのイメージする旧ドイツそのものでした。
が、ドイツのこういう状況は、実際にはまだしばらくつづくわけです・・・。



そんな中では、やはり子供たちにも歪みが生じるのです。
特待生のような扱いで、下層階級の子がいるのですが、
彼はいじめを受けているのです。
彼をいじめるのは、父親の考えを鵜呑みにして威張るだけの子。
父親が偉大すぎて自信の持てない子・・・。
そんな子どもたちがサッカーをはじめて、どんどん変わっていく様。
これがとても気持ちいい。
やっぱり子どもはいいですよね。
心が柔軟で、しなやか。
今はひねこびていても、まだまだまっすぐのびる可能性に満ちている。
いつしかチームワークと友情でつながっていくのです。



作中とラストに流れる「蛍の光」の歌。
これはもともとスコットランドの曲なのですね。
日本の優等生的訳詞よりはもっと、酒場で友と別れを惜しむという
勇壮な感じがある歌です。
コッホ先生が歌うにはピッタリの曲。
なかなかいいなあ・・・。

ということで、非常に見た後の感じが良い、
満足感のある作品なのでした。

2011年/ドイツ/114分
監督: セバスチャン・グロブラー
出演:ダニエル・ブリュール、ブルクハルト・クラウスナー、ユストゥス・フォン・ドーナニー、トマス・ティーマ


メン・イン・ブラック3

2012年11月22日 | 映画(ま行)
今、明かされるKの秘密



            * * * * * * * * *


第2作からは10年ぶりになるという、
3作目のメン・イン・ブラックでした。
しかしこれがまた、ひねった展開、CG駆使の不気味なエイリアン像、
及第点といっていいかと思います。



地球に生息する異星人を監視する秘密組織「MIB」。
いつものコンビJ(ウィル・スミス)とK(トミー・リー・ジョーンズ)ですが、
なぜか急にKが単独行動をとるという。
不審に思ったJですが、その翌朝、
本部に行くとどこにもKの姿はなく、
Kは40年前にある事件で亡くなっているといわれてしまいます。
そのうえ、エイリアンの総攻撃で人類滅亡の危機が迫る・・・。
この謎を解決するため、Jはタイムスリップし、40年前へ・・・。



行った先が1969年。
ちょうどアポロ11号が人類初月面着陸を遂げた年。
で、それがきちんと意味があるというのが面白い。
1969年のアメリカ。
見た人はノスタルジーを感じるわけです。
日本人がALWAYSをみて、昭和の感傷にふけるのと同じ。
黒人差別が根強くあって、
今のようにコンパクトな日本車は走っておらず、バカでかいアメ車がいっぱい。
Jは、そこで若き日のK(ジョシュ・ブローリン)と出会い、
共に凶悪エイリアン、ボリスを追います。
ジョシュ・ブローリンはほんのちょっとドミー・リー・ジョーンズに似ていなくもなく、
いいんじゃないでしょうか。
でも、つまりそのおかげ(?)で、
トミー・リー・ジョーンズの出番が少なくなってしまったのが残念。
日本では、トミー・リー・ジョーンズこそが、謎の宇宙人なんですけどね・・・。



それにしても、あんなエイリアン像をどなたがデザインするのだか。
まあ、一見普通(でもないか)の地球人なんですけど、
中身はぜんぜん違う。
あの気色悪さ・・・。
うげげ・・・。




最後の最後に、ああ、そうなのか・・・と、
ハッとさせられるエピソードあり。
結構楽しめます。

メン・イン・ブラック3 blu-ray & DVD
ウィル・スミス,トミー・リー・ジョーンズ,ジョシュ・ブローリン,エマ・トンプソン
角川書店


2012年/アメリカ/105分
監督:バリー・ソネンフェルド
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ
出演:ウィル・スミス、トミー・リー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリン、ジェマイン・クレメント、マイケル・スタールバーグ

「るり姉」 椰月美智子 

2012年11月21日 | 本(その他)
幸せじゃなくていいです。どうか、ふつうでいられますように。

るり姉 (双葉文庫)
椰月 美智子
双葉社


            * * * * * * * * *

十代の三姉妹が「るり姉」と呼んで慕っている"るり子"は
彼女たちの母親の妹、つまり叔母さんです。
天真爛漫で、感激屋。
るり姉と一緒にいるといつも楽しい。
けれどある日るり姉は「検査入院」とのことで入院するのですが、
日に日に痩せ細っていく。
るり姉は、どうなってしまうのだろう・・・?


長女のさつき、三姉妹の母親のけい子、次女みやこ、るり子の夫の開人、
そして最後に4年を経て三女のみのりが、
それぞれから見たるり姉を順に描きます。
そしてこの時系列も面白いのです。
はじめのさつきは夏。
けい子がその春。
みやこが去年の冬。
開人が去年の秋。
ということで、時間を遡っていくのですね。
だから始めにるり姉の入院の話が出てくるものの、
そこから先の話が出てこないのです。
るり姉の魅力をそれぞれの立場で語っているわけですが、
それは同時に、この家族それぞれの性格や考え方をくっきり浮かび上がらせます。
三姉妹は同じ姉妹でもみな随分と性格が違って、でもそれぞれ魅力的。


私は実はけい子お母さんに親近感を持ってしまいました。
彼女は看護師をしていて、毎日忙しく働いています。
娘たちの語りでは割と鷹揚でのんきなように受け取れたのですが、
本人の語りのところでは、職場での悩みも伺えて、苦労が忍ばれるのですね。
でもそういうストレスを「花とゆめ」で発散させてもいるようだ。
なんだか分かるなあ・・・。
"働くお母さん"に、とてもリアルに肉薄している気がします。


そして一番好きなのはるり姉の夫、カイカイこと開人の語り。
実はるり姉はバツイチだったのですが、
合コンで彼女に一目惚れした開人が強引に迫って結婚。
開人はるり姉より年下ですが、
大好きなるりちゃんと結婚できて、毎日舞い上がるくらいに幸せ。
二人の旅行のことが描かれていますが、なんともほんわかしています。
独身の方がここを読むときっと結婚したくなると思います。
(でもどうしてこんな幸せ気分が長く続かないのだろうなあ・・・)
開人は思わず神様に祈ってしまうのです。

「幸せじゃなくていいです。
どうか、ふつうでいられますように。」


今、あんまり幸せだと、なんだかその先に悪いことが待っているような気がしてしまうのです。
だから。


・・・こんなふうなので、
私たちも入院したるり姉の行く末が妙に心配になってしまうわけですが、
ストーリーは一気に4年が過ぎて・・・。
小学生だったみのりが高校に入学。
さて、彼女の語る「現在」は・・・?


ものすごくよくプロットをねってあるストーリーなのです。
私たちはさんざんじらされてるり姉の消息を知ります。
登場人物もそれぞれ一生懸命生きていて、魅力的。
読む方も元気が出ます。
トクマルのおススメ。

「るり姉」椰月美智子 双葉文庫

満足度★★★★★

声をかくす人

2012年11月20日 | 映画(か行)
正義とは。平等とは。



            * * * * * * * * *


なぜか今年は米大統領リンカーンに関係する映画が多いような気がします。
今作は、リンカーン大統領暗殺の罪に問われ、
アメリカ合衆国政府により処刑されたはじめての女性、メアリー・サラットを描いています。



南北戦争終結直後1865年。
16代米大統領エイブラハム・リンカーンが暗殺されました。
犯人グループはすぐに捕らえられましたが、
その犯人一味にアジトを提供したという理由で、
下宿屋を営む南部出身のメアリー・サラットが逮捕されたのです。
その弁護を引き受けることになったのが、フレデリック・エイキン。
彼も始めは一般の人々と同じく、大統領暗殺の犯人一味に対し、怒りと復讐に満ちた感情を持っていたのですが、
メアリーと対峙するうちにその無実を信じるようになっていきます。
そもそもがこの裁判、
メアリーは民間人であるにもかかわらず、軍事法廷で行われたのですね。
はじめから不利な裁判で、処刑ありき。そう決められていたも同然の裁判なのでした。
原題の“The Conspirator”は、共謀者。
つまり、リンカーンの死に対してのスケープゴートの一人として彼女も数えられていたのでしょう。



こんな中で、フレデリック・エイキンはよく戦いました。
法のもとでの正義とは。平等とは。
・・・弁護士としてどんどん目覚めていきます。
しかしまあ、結果は歴史が示す通り。
けれど、彼が上げた声はムダではなく、その後に生かされていくことになる。



さすがロバート・レッドフォード監督。
骨太に決まりました。
メアリー・サラットはロビン・ライト。
取り乱さず、悲嘆にくれず、強い魂を感じます。
これはアレですね。
先日読んだ「蜩ノ記」の戸田秋谷。
近くに迫る死を見つめながらも自分を見失わず、
なお背筋を正して生きている。
メアリー・サラットの場合、彼女を支えているのは宗教ということになりますが。
見応えのある作品でした。

2011年/アメリカ/122分
監督:ロバート・レッドフォード
出演:ジェームズ・マカボイ、ロビン・ライト、ケビン・クライン、トム・ウィルキンソン、エバン・レイチェルウッド

蜂蜜

2012年11月18日 | 映画(は行)
ささやくような音が際立つ



            * * * * * * * * *

トルコの山で養蜂家の父母と暮らす、少年ユスフを描いた作品。
なんとも物静かで印象的な作品です。
高い木に登り、仕掛けてあった蜂の巣箱から蜜を取り出す父。
ユスフはそんな父が大好きで、そして憧れています。

ところが蜂が急にいなくなってしまい、
父は新たな巣箱を仕掛ける場所を探しに出かけました。
しかし、幾日たっても父は戻って来ません。



ユスフは緊張すると吃音になってしまうのです。
そのためか、クラスの子供達ともあまり馴染めず、いつも一人でいます。
そんな彼を包むのは、ささやくようないろいろな音。

森の木々のざわめき、
小鳥のさえずり、
水の滴る音や、小川の音、
雨音。
そして、もちろんミツバチの羽音。
自然の音ばかりではありません。
朝食の食器のぶつかる音。
母が小麦をこねる音や卵を溶く音。

言葉少なのユスフの周りには、こんなにも饒舌な音に満ちている。
「孤独は子どもを強くする」と、何かで読んだような気がします。
父が帰らず、心細さに塞ぎがちの母をみて、
ユスフは嫌いだったミルクを飲み干します。
そういえばお父さんは出かける前に
「一緒に連れて行って」とせがむユスフに
「お前がいなかったら、誰がこの家を守るんだ」と言っていました。
母を守らなければ・・・
小さな少年が、ほんのちょっぴり、大人の階段を登ったのです。



けれどもまだまだ幼いユスフ。
今は自然の懐に抱かれて、ひたすらに眠って悲しみを癒すがいい・・・・。

今度目覚めた時には一段とまた大人っぽくなっているユスフがいそうな気がします。


そうそう、こんな中でも、
宿題のノートを隣の子のものとすり替えてしまうという
ちょっぴりズルくて子供らしいエピソードがあったりするのも楽しいものでした。


今作はカプランオール監督の“ユスフ三部作”の3作目ということです。
一作目が大人のユスフを描く「卵」、
二作目が思春期のユスフで「ミルク」、
ということで、年齢を遡っているわけですね。
そういえば本作でも、ミルクや卵が印象的なアイテムとして使われていました。
機会があればそちらも見てみたいものです。

「卵」「ミルク」「蜂蜜」 [DVD]
ジーダス
ジーダス


「蜂蜜」
2010年/トルコ・ドイツ/103分
監督:セミフ・カプランオール
出演:ボラ・アルタシュ、エルダル・ベシクチオール、トゥリン・オセン

「蜩ノ記」 葉室麟

2012年11月17日 | 本(その他)
凛として美しい魂

蜩ノ記
葉室 麟
祥伝社


            * * * * * * * * *

はむりんの 第146回直木賞受賞作品。
葉室麟さんを"はむりん"と言うとなんだか急に親しみが湧いてしまい、
勝手に気を良くして読んでみました。


戸田秋谷は7年前、前藩主の側室と不義密通を犯したということで、
家譜編纂と10年後の切腹を命じられ、山村に幽閉されています。
そこを訪れたのが壇野庄三郎。
彼には秋谷の編纂補助と監視という任務が与えられています。
庄三郎はこの村で秋谷と生活を共にするうちに、
彼の清廉さに触れ、その無実を信じるようになります。
そして庄三郎は7年前の事件の真相にたどり着いていく・・・。


"武士"のあるべき姿、
正しいと思う道ならば、自らの命を失うことも辞さないという清廉さ
・・・そういうものに心打たれます。
現代でもますます時代小説が好んで読まれている秘密は、
こんなところにありそうです。
もし、現代が舞台で、このような人物が描かれていたりすると、
美しいとは思いますが、あまりにも作り事めいて感じてしまうかも知れません。
けれども時代を江戸時代とし、武士を登場させることによって、
私たちはこのような人物に
憧れをも加味したリアリティを感じることができる気がします。
でも今作は、武士だけがこのように美しく強い魂を持っているのではありません。
秋谷の息子・郁太郎の友として源吉という農民の子が登場するのですが、
この子の魂のなんと高潔なこと・・・。
友を思い家族を思い、決して弱音を吐かない・・・。
眩しいほどの魂の輝きに、感動。

人間の卑小さ、己の不甲斐なさを題材とするのも小説ですが、
このようにストレートに凛として美しく強い魂を描くのもまた小説。
こうしたものにすなおに感動できる気持ちを大事にしたいですね。

「蜩ノ記」葉室麟 祥伝社
満足度★★★★☆

一枚のめぐり逢い

2012年11月16日 | 映画(あ行)
恋しないはずがない



            * * * * * * * * *

ザック・エフロンのラブロマンス。
普通にこういうのはいいですよね。
豪華なSFXやアクション、重厚な社会問題を扱ったもの
・・・そんな中でもこういう定番のロマンスはホッとします。



イラクに赴任していた米海軍兵士ローガン。
あるとき、彼は戦場で一枚の写真を拾います。
美しい女性が微笑んでいる写真。
その写真を手にしてから、彼は何度も身の危険に晒されながら奇跡的に命を救われる。
まるでこの写真の女性が天使のように思えるのです。
帰国後、彼は写真の女性を探しだそうとします。
ようやく見つけた女性ベスは、戦争で最愛の兄を亡くし、
祖母と一人息子と3人で傷心の生活をしていました。
写真の話は言い出せないまま、
ローガンはベスの営むドッグハウスを手伝うことにします。



もう完璧に先がよめてしまいますが、ここにも定番のおじゃま虫が一人。
それはベスの別れた夫キース。

この土地の実力者の息子で、別れたくせに何かとベスのことに干渉したがる。
さっそくベスとローガンの接近にヤキモチを焼いて、邪魔しにかかるのです。
わかりやすいヤツ。
こんなヤツとはわかれて正解でしたが、ちょっと相手が悪かったですね。
(まあ、だからといって、今作の結末はやり過ぎという気がしないでもありません。)



こんな青年がふらりと舞い込んできて、
なんでもできて(ピアノまで弾く!)
よく働くは、やさしいは、では、恋しないほうがどうかしている。
やはりこれも、「白い馬に乗ってやってくる王子様」の変形なのでしょうね。
いくつになっても、乙女心(乙女じゃないけど・・・)をくすぐられます。



【初回限定生産】一枚のめぐり逢い ブルーレイ&DVDセット (2枚組) [Blu-ray]
ザック・エフロン,テイラー・シリング,ブライス・ダナー,ライリー・トーマス・スチュワート,ジェイ・R・ファーガソン
ワーナー・ホーム・ビデオ


「一枚のめぐり逢い」
2012年/アメリカ/101分
監督:スコット・ヒックス
原作:ニコラス・スパークス
出演:ザック・エフロン、テイラー・シリング、ブライス・ダナー、ライリー・トーマス・スチュワート、ジェイ・R・ファーガソン

ポスター犬10

2012年11月14日 | 工房『たんぽぽ』
いや、犬じゃなくて・・・
シロクマでした。



親子のシロクマさん。
この作品、ほとんどこの度の日本シリーズを見ながら作って、
出来上がりました。



まあ、日ハムは残念でしたが、
こういう効用はあったということで・・・



ところで近日公開のこの作品、「ウーマン・イン・ブラック」
あの可愛らしかったダニエル・ラドクリフくんが
こんなに(?)なっちゃって・・・
いえ、それはそれでいいんですけどね。
子役ではなくて、一人前の俳優としての活躍をこれからも見守りたいと思います。
ファンというよりはすっかり母親のような心境ですね・・・。

「赤い月、廃駅の上に」 有栖川有栖

2012年11月13日 | 本(その他)
列車で向かう死出の旅

赤い月、廃駅の上に (角川文庫)
有栖川 有栖
角川書店(角川グループパブリッシング)


            * * * * * * * * *

ミステリ作家有栖川有栖氏は、鉄道ファンとしても知られていますが、
この本は、ミステリ、つまり推理小説ではなく、
鉄道にまつわるちょっと怖い短篇集です。


異国のローカル列車で、いつまでも列車に揺られながら、のんびり旅をしたい
・・・などと時々思ったりしますが、
とんでもない・・・!と思えるのが
「密林の奥へ」
男は、言葉もろくに通じない異国で、
密林の奥地に珍しい鳥がいると聞き、ふと訪ねてみようと思う。
列車の運行状況は極めて悪く、いつ来るのやら、いつつくのやらも定かでないが、
とりあえずそちらへ向かう列車を待って乗り込む。
密林のなかを列車はのろのろと進むけれど、
一向に乗り換えるべき駅につかない。
・・・こんな感じで幾日も列車に乗り続け、時には乗り換えて、
自分のいる位置もわからなくなって・・・。
なんとも心もとなく薄ら寒い気がしてきます。
そもそもこんなジャングルの奥地になぜそんなにも線路が続いているのか???
と疑問が湧いてきますが、ちゃんと答えはあるのです。
幻想的な作品でした。



「テツの百物語」
百物語、というのはよくありますが、これは鉄道にまつわる百物語。
ある夜テツすなわち鉄道愛好家を自負する5人が
鉄道にまつわる百物語を始めます。
怖い話・・・、ちょっと不思議な話。
もしかしたら考えすぎ、何かの勘違い。
そういう物も含めて一つ一つ話が語られて・・・。
さて、夜中の12時、
最後のろうそくを吹き消したそのときに、何が起こるのでしょう?



列車で死出の旅に向かう・・・そんなイメージも多いのです。
「黒い車掌」
乗り合わせた列車で懐かしい人に次々巡りあう梢子。
幼馴染の子、憧れていた先生、
お母さん、お父さん、かつての恋人。
それも知り合った当時のままの姿で。
今にこの列車で何かが起こる、自分の命をなくす何かが・・・。
そのように確信を深めていく梢子ですが・・・。



「最果ての鉄道」
こちらはズバリ、この世で生命を全うした皆さんが、
あの世へ行くために乗り合わせた列車。
三途の川に架けられた鉄橋を、列車が行きます。
もしこの列車を途中で降りることが出来れば、
生き返ることができるというのですが・・・。


特に鉄道ファンでないとしても、なかなか味わい深い一冊であります。


「赤い月、廃駅の上に」有栖川有栖 角川文庫
満足度★★★★☆

捜査官X

2012年11月12日 | 映画(さ行)
人は変わることができるのか



            * * * * * * * * *

久しぶりに見る中国作品ですが、実は金城武のファンなので・・・。

山奥ののどかな村。
紙職人のリウ・ジンシー(ドニー・イェン)が、指名手配中の凶悪犯二人と遭遇。
全く武術の心得もないリウは、
けれども運良く犯人を倒し、死なせてしまったのでした。
人柄も温厚で、しかも犯人を倒したリウは村人に英雄視されます。
そこへ現れたのが、捜査官のシュウ(金城武)。
麦わら帽に丸メガネ。
ちょっととぼけた雰囲気のあるシュウ。
いい味ですねえ。
シュウは、この平凡そうな男がなぜ2人の凶悪犯を倒すことができたのか、疑問に思います。
そこには、正当防衛以上の何かがありそうだと・・・。
彼は事件現場の検証から、そこで繰り広げられた真の出来事を想像します。


お尋ね者の凶悪犯の死なので、
そこで何があったとしても、そっとしておけばいいのに
・・・と思わなくもありません。
けれども、シュウには以前人を信じたことが仇になって、
殺人事件を引き起こしてしまったという苦い体験があったのでした。
法を守ることが正義。
まあ、警官であればそれが正しい行動なのでありましょう。
でも、なんとかリウの尻尾をつかもうと、
いろいろなことを仕掛けるシュウの行動が
オトボケ味もあって実に楽しい。
まあ、こんなふうに始めの方はわりとのどかに話が進行しますが、
終盤は凄まじい武闘アクションの炸裂です。
おのれの真の力をひたすら隠し、ごく平凡な生活の中に埋没しながら、
自己の幸せを見出そうとしている男。
よくあるシチュエーションですが、好きですねえ。
けれども、己の使命を果たさなければならない時がきっと来る。


リウの隠された過去とは。
人は変わることができるのか。


物語の行方もスリリングです。
とても面白く拝見しました。


捜査官X [DVD]
ドニー・イェン,金城武,タン・ウェイ,ジミー・ウォング,クララ・ウェイ
Happinet(SB)(D)


「捜査官X」
2011年/香港・中国/115分
監督:ピーター・チャン
脚本:オーブリー・ラム
出演:ドニー・イェン、金城武、タン・ウェイ、ジミー・ウォング、クララ・ウェイ