映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「天才柳沢教授の生活 29」 山下和美

2011年09月30日 | コミックス
教授、母を想う

天才 柳沢教授の生活(29) (モーニングKC)
山下 和美
講談社


             * * * * * * * *

この作品、最新刊は31巻まで出ているのですが、
私がぼんやりしていて、この巻以降まだ読んでいませんでした。
が、ここで3巻もまとめて読めるのは存外の幸せであります。
この際、3巻連続でご紹介しましょう。


さて、この巻の表紙となっているのは、
206話「母のおもかげ」。
柳沢教授は、少年時にお母さんを亡くしているのですね。
お母さんのお墓参りに来た教授が、
お母さんの亡くなったときのことを回想しています。
当時から大人びた子で、お母さんに甘えたことなどないと思っていた良則少年。
父親が仕事で不在中に息を引き取った母の、
医師への連絡や、葬儀の手配、親戚への連絡をてきぱきとやりとげる。
妹や弟が泣き悲しんでいるというのに。
そんな息子を見た父親が、
亡き母の枕元に息子を呼び、
「母さんとちゃんと話をするように」
といって、二人きりにするのです。

僕は何事も無駄なくやって
ろくに母の顔も見ないで
でも いつもほつれがかがってあって
靴はぴかぴかで
僕は甘えることもしないで
でも いつも笑っていて


本当にきれいなお母さんです。
大人びた良則少年を理解し丸ごと受け入れて、
そしてちょっぴりおもしろがっていたようにも見受けられますね。
そうした大きな愛にきづいた良則少年。
いくつになってもお母さんは、おかあさん。
ちょっぴり切なさがこみ上げる一作でした。


「205話 ペンがない」
お母さんがデパートの試着室で着替えをして教授に
「おとうさん、どうかしらこれ」
と聞くのですが、教授はひとこと
「パンダのようですね」
さて、次の朝、お母さんは怒ってひと言も口をきかないのですが、
教授はぜんぜん気づいていない。
ところが出がけに、愛用の万年筆がなくなっているのに気がついて、
うろたえてしまいます。
いつもの時間より遅れて、髪を乱して出かけた教授を
娘の世津子が不思議そうに見送る。
実は怒ったお母さんが、隠してしまっていたんですね。
そのいきさつを聞いた世津子は
「そーいうところはわたしとヒロミツも 父さん母さんも同じなんだー」。

この万年筆は、お母さんがお父さんにプレゼントしたもので、
そのため余計に教授は愛着を持ってずっと使い続けていたわけです。
夫婦の機微といいますか、長い生活の呼吸が見えるようで、味わい深い一作。
でも結局最後まで、教授はお母さんが何故怒っているのか、
というか怒っていることにも気づいてなかったみたいですが。
でも、教授の「パンダ」発言には多分全く他意はないのでしょうね。
パンダみたいに太っているとか、
パンダみたいに可愛いとか、
どちらでもなくて、ただ単に見た目がパンダに似ている。
それ以上でも以下でもないのでしょう、きっと。
この場合、一度は腹を立ててしまったけれども、
お母さんはきっとそのことに気づいたのだと思います。
ところで本作のサブストーリー、
吉田准教授の教授への推薦の件が、
ラストページでニヤリとさせられるオチがあります。


他に、教授の孫、華子がお父さんのリストラを心配して、
何とか自分もお金を稼ごうと奮闘する
「204話 労働の価値説」も大好きでした。

「天才柳沢教授の生活 29」山下和美 講談社モーニングKC
満足度★★★★☆

僕たちは世界を変えることができない。

2011年09月28日 | 映画(は行)
愛とか平和とかは、よくわからないけれど



           * * * * * * * *

この作品の正式な題名は、長いですが、こうです。

僕たちは世界を変えることができない。
But, We wanna build a school in Cambodia


医大生たちのボランティア活動により、カンボジアに学校を建てたという、
実話に基づくストーリーです。

田中コータ(向井理)、医大生。
満ち足りた生活ながら、何かが足りないと感じています。
どうにも無気力な毎日・・・。
そんなある日、郵便局でたまたま海外支援のパンフレットを見かけるのです。
150万円でカンボジアに学校を建てようという。
これだ!! 
ピンと来たコータは、合コンで知り合った本田(松坂桃李)らと共に、
資金を集めるためのサークル「そらまめプロジェクト」を立ち上げます。


はっきり言って、ほんの思いつき。
カンボジアの子供たちのためというよりは、
自分たちの気持ちの充足のため、初めのうちはそんな風でした。
しかし、カンボジアに学校を建てるというのに、
自分たちはカンボジアのことを何も知らない。
それではまずいだろうということで、視察に行くことになります。



さあ、ここからがこの作品の本領。
現地ではブティ氏というガイド件通訳の方に案内されるのですが、
この方は本当に現地のガイドの方で、
実際に原作者の葉田甲太氏を案内した方でもあるそうです。
そうしてここのシーンは、おそらく生の出演者たちの声が入っており、
ドキュメンタリータッチとなっています。

カンボジアのHIV患者のこと。

ポル・ポト政権の悲惨な爪痕、ツールスレンやキリングフィールド。

そして未だに地雷が無数に埋まったままの地雷原。

あまりに厳しい現実に彼らは言葉を失います。
そうして思う。

「僕たちは世界を変えることができない。」

自分たちの軽率な思いを恥じ、
そしてまた、無力感にも捕らえられていく。
帰国してみればまた、大きな試練が待ち構えており、
どうやって彼らがまた、モチベーションを取り戻し、やり遂げていくのか、
そういうところが大変な見所になると思います。



内気で人前で話すのが苦手。
リーダーというにはちょっと頼りないコータなのですが、
やり遂げようという強い気持ちはホンモノです。

愛とか平和とかは、よくわからないけれど
“みんなが笑顔になると自分も幸せ”


ボランティアでは、自分なりのミッションをもつことが大事なのでしょう。

バーのマスター、リリー・フランキー、
そして医大の教授、阿部寛、
ドラマを盛り上げるおいしい役、そして、いい味でした~。

2011年/日本/126分
監督:深作健太
原作:葉田甲太
出演:向井理、松坂桃李、柄本佑、窪田正孝

海の上のピアニスト

2011年09月27日 | 映画(あ行)
こんなにどこまでも続いているピアノの鍵盤を、私は弾くことができない

            * * * * * * * *

ヨーロッパとアメリカを結ぶ豪華客船ヴァージニアン号。
この作品は、その船上で生涯を送った天才ピアニストのストーリーです。


映画の冒頭、船上で誰かが自由の女神の象をみつけ、
「アメリカだ!!」と叫ぶシーンがあります。
アメリカ、新天地へは、誰もが夢と希望とあこがれを持ってやってくる。
自由の女神を見て思わずわき上がる歓声、皆の輝く瞳。
今も昔も、自由の女神像はそうしたアメリカの象徴なのでしょう。
そんな感慨を、私もいつか実物で感じてみたいものです。


さて、常に旅の船上にあり、幾度も自由の女神を眺めたに違いないけれど、
そんな希望やあこがれから最も遠いのが、
このピアノ弾きのナインティーンハンドレッドです。
彼は赤ん坊の頃、この客船のピアノの上に置き去りにされてしまいました。
機関士のダニーに拾われ、船底で育てられます。
折しもちょうど西暦1900年。
それで、ナインティーンハンドレッドと名付けられました。
幼いある日、美しいメロディにさそわれてホールを覗いてみると、
その音はピアノから聞こえている。
すっかり魅せられてしまう彼。
そうしていつのまにか彼は、全く自己流に自在にピアノを覚え弾きこなすようになるのです。
これぞ天才。
この船という小さな世界の中で、
彼は好きなだけピアノに触れ、賞賛をほしいままにします。
けれども、彼は生まれてこの方、この船から一歩も外に出たことがない。
ある日、彼は決心し、ニューヨークで地上に降りようとするのですが・・・。

あまりにも広く、終わりのない大地に彼は恐怖してしまうのです。
こんなにどこまでも鍵盤が続いているピアノを、
私は弾くことはできない・・・・。

そうして、また船に戻るしかなくなってしまう。

船のバンドで彼と共にトランペットを演奏していたマックスは、
戦火をくぐり抜け、変わり果てた姿となったこの船が処分されると聞き、
船を訪ねてくるのですが・・・。


波が高く、大揺れに揺れる人気の無いホールで、
ピアノのストッパーを外し、
音楽をかき鳴らしつつホール中を滑り回る若き日の
マックスとナインティーンハンドレッドの二人。
このシーンが素晴らしく印象的で忘れることができません。
この時、二人にはまだ前途が洋々と広がっていた。
音楽と友。
これがあれば他に必要なものなどないと思えた。

ナインティーンハンドレッドのピアノは時に言葉よりも饒舌です。
ピアノでホールにいる人物の描写をしたりする。
そんな彼が、あるとき一人の若い女性に目が釘づけになってしまいます。
その人を見つめながら奏でるピアノの調べの、何という柔らかさ美しさ・・・。
このとき、その音をレコードに録音したのですが、
そのたった一枚の録音原盤の運命も気になるところです。

哀しく美しい物語・・・。
お気に入り作品のご紹介でした。

海の上のピアニスト [DVD]
ティム・ロス,ブルート・テイラー・ロビンス
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


1999年/イタリア・アメリカ/
監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
原作:アレッサンドロ・バリッコ
出演:ティム・ロス、プルイット・テイラー・ビンス、メラニー・ティエリー

この愛のために撃て

2011年09月26日 | 映画(か行)
正義の顔をした“悪”と、義侠心あふれる“悪人”



               * * * * * * * *

フランス作品です。
冒頭、いきなり一人の男が何物かに追われて、
必死でビルの階段を駆け下りるシーン。
目が惹きつけられますね。
彼は逃げて逃げて、結局バイクにひかれて病院へ運ばれるのですが・・・。
看護助手のサミュエルは、その病院に勤務しています。
彼は妊娠中の妻を誘拐され、
昨夜運び込まれた男を病院から連れ出すように、と要求されます。
サミュエルは訳もわからず要求に従うのですが、
やがて警察から追われる身となりながらも、妻を取り戻すために奔走を続けます。


スピーディで、途切れない緊張感。
実に意外な“悪”の正体。
冒頭で逃げていた男は、実は強盗で指名手配を受けているサルテ。
このドラマは、正義の顔をした“悪”と、
義侠心あふれる“悪人”が交差しているので、全く油断なりません。
また、この妻を救おうと必死になる男が、
ごく普通というか普通以上に生命を大事にする看護助手というところも、いいですね。
多分銃など手にしたこともない。
だから、私たちはなみ以上に彼に共感してしまいます。
そして、妻が妊娠中で大きなお腹を抱えているというのもまた、
並以上にスリルを誘います。

がんばれ、あきらめるな!!


「この愛のために撃て」の邦題は、
フレッド・カヴァイエ監督の前作「すべて彼女のために」に関連して付けたのでしょうね。
少し甘すぎる気がしますが、でも悪くはないか・・・。
一応の決着を付けた後で、後日談があるのですが、
そこでまた痛く納得してしまった私。
オススメです!


それにしても、刑事ヴェルネール役のジェラール・ランバン、渋いっすねー。
ここでは、こんな役でしたが・・・。
ジャン・レノといい、このジェラール・ランバンといい、
フランス男性のなんと渋みがあってカッコいいこと。
また、ハマりそうです・・・。

2010年/フランス/85分
監督:フレッド・カヴァイエ
出演:ジル・ルルーシュ、エレナ・アナヤ、ロシュディ・ゼム、ジェラール・ランバン、ミレーユ・ペリエ


サンクタム

2011年09月24日 | 映画(さ行)
息苦しくなるような臨場感ある洞窟のサバイバル



            * * * * * * * *


「アバター」のジェームズ・キャメロン監督が制作総指揮を務めたこの作品。
アバターのために開発した3Dフュージョンカメラを
厳しい環境下の撮影に耐えられるように改良し、撮影したとのこと。
何しろ舞台はひたすら洞窟の穴の中であり、水中です。
ふだん私たちが直接見ることのない世界へ、臨場感タップリに誘ってくれます。


南太平洋、パプアニューギニアの孤島。
洞窟探検に挑むダイバーたち。
リーダーは経験豊富で皆から慕われ尊敬されるフランク。
チームには彼の息子ジョシュもいるのですが、
ジョシュにとっては煙たい父親で、
厳しいばかりで心が通じず、尊敬も出来ないと思っています。
そんな時、島をサイクロンが襲う。
洞窟の中なので直接風雨にはさらされませんが、
雨がしみ込み、たちまちあたりは水没し、非常に危険な状況となってしまう。
彼らもすぐに脱出しようとしますが、時すでに遅し。
いつもの通路は鉄砲水が流れ込み、とても進むことができない。
やむなく彼らは新たなる脱出経路を探すため、
洞窟の更に深部へ進んでいきます。



それにしても、なんて不思議な自然の造形でしょう。
地下に張り巡らされた迷路。
もともと水の力でできたのでしょうから、
雨が降ると水があふれ出すというのも、考えてみれば当然です。
しかも本来光はないのです。
気の遠くなるような悠久の時があるだけのその地下で、
ほんの少しずつ少しずつ水が道を造り出して行く。
正に、神が作ったサンクタム(聖域)。
前人未踏のそういう場所へ、冒険家たちが挑むのも解らなくはないですね。
・・・ただし、私は絶対に行きたくはありません。
・・・というか、行けません!!


この洞窟の入り口部分にまずびっくりなんですよ。
ジャングルの中に、ぽっかりとほとんど正円に開いた穴。
巨大な井戸のようでもありますが、その深さがまた尋常ではない。
その巨大な穴をおりて、やっと普通に洞窟の入り口があるのです。
このスケールに圧倒されます。
ともあれ、この洞窟を描くのに、3Dは効果絶大でした。



物語は、ひたすら彼らが洞窟を行くだけなのですが、
信頼と裏切り、父と息子、生と死、
絶え間ない閉塞感と緊張感のなかで、濃密なドラマが繰り広げられます。

決してあきらめないこと。
必ず生きて帰るという執念。
こういうサバイバルを勝ち得るには、それがまず第一なんです。
でも、いつもこういうドラマを見て思うのは、
私なら絶対ムリということ。
一番はじめの方で「ああ、もうダメ・・・」と
あっけなく波に呑まれて死んでしまうような、それが多分、私。
それもまた一つの生き方(死に方?)とも思う。

2011年/アメリカ・オーストラリア/109分
監督:アリスター・グリアソン
制作総指揮:ジェームズ・キャメロン他
出演:リチャード・ロクスバーグ、リース・ウェイクフィールド、アリス・パーキンソン、ダン・ワイリー、ヨアン・グリフィズ

「コンビニたそがれ堂」 村山早紀

2011年09月23日 | 本(SF・ファンタジー)
大切なものを失ったときに・・・

コンビニたそがれ堂 (ポプラ文庫ピュアフル)
早川 司寿乃
ポプラ社


             * * * * * * * *

駅前商店街のはずれ、赤い鳥居が並んでいるあたり、
夕暮れどきに行くと、不思議なコンビニを見つけることがあるといいます。
ドアを開けて中に入ると、
ぐつぐつ煮えているおでんと、つくりたてのおいなりさんの甘い匂いがして、
レジの中では長い銀色の髪に金の瞳のお兄さんが、にっこりと笑っている。

さて、このコンビニ「たそがれ堂」には、
この世には売っていないはずのものまでが何でもそろっていて、
大事な探しものがある人は必ずここで見つけられるという・・・


たとえば、雄太少年は、
気になる女の子が転校間際にくれようとしたメモ帳を、
皆が見ている気まずさから、冷たく払いのけてしまった。
それからずっとその子を傷つけてしまったことを気に病んでいた、
本当はやさしい男の子なのです。
その少年がふらりとこのコンビニに迷い込んで、
そこにあるはずのないあのメモ帳を見つけるのです。
その夜、雄太はあの女の子からパソコンのメールを受け取ります。
少年と少女のほのかな思い。
不思議でほっこりと温かい、コンビニの物語の始まり・・・・・・・・。


ママに捨てられてしまったリカちゃんのお人形。

桜の花びらが封じ込められている不思議なガラスのストラップ。

猫が人間になるための薬。

そして不思議な小さな光の粒。


それは単純に「商品」とは呼べない物であったりするのですが、
何かを切実に探し求めているとき、このコンビニが手助けをしてくれます。
年齢や性別に関わりなく、誰もが時にまよい、傷つき、落ち込んでいきます。
けれどこのコンビニのお兄さんは、それらをふんわりと受け止めて、
私たちを納得させ、癒しを与えてくれる。
今の私には怖くて触りがたいくらいに、ピュアな物語。
でも、しばしこの心地よさに身をゆだねていたい・・・。
本来は児童書だそうですが、
是非大人の皆様もどうぞ。

「コンビニたそがれ堂」 村山早紀 ポプラ文庫ピュアフル
満足度★★★★☆


エイプリルの七面鳥

2011年09月22日 | 映画(あ行)
緊張の感謝祭



             * * * * * * * *


これは感謝祭の日の物語。
アメリカの風習で、感謝祭の日は親族が皆集まってご馳走を食べたりするんですね。
こちらのお盆のような感じでしょうか。
代表的メインの料理が七面鳥。
中に詰め物をしてオーブンで丸焼きにするわけです。

さて、エイプリルはその日朝から七面鳥料理に取りかかります。
今まで料理などろくに作ったこともありません。
その手つきのなんとぎこちないこと。
ところが、いよいよオーブンに点火というところで故障に気がつきます。
メインの七面鳥がなければ話になりません。
何とかオーブンを貸してもらえないかと、
エイプリルは同じアパートの人々を訪ね回ります。
同棲している恋人ボビーは、
用事で出かけるといって出かけたきり、なかなか戻って来ません。



一方、こちらはエイプリルの実家の家族。
こちらも朝から皆さん緊張の面持ち。
実はエイプリルというのは、この家にとって大変な問題児だったのです。
小さな頃からいつももめ事の種であったエイプリル。
家を出てしばらくになりますが、ほとんど絶縁状態でした。
やっぱり止めよう、行ってもきっとまたもめ事になって後悔する・・・。
でも気力を振り絞って、彼らは車でニューヨークのエイプリルの元へ向かいます。

また、恋人ボビーは、何とかエイプリルの家族をきちんとおもてなししようと奔走中。


このたびのことは、エイプリルのお母さんのためなのです。
ガンで余命幾ばくもないお母さんに、
せめて最後にエイプリルとのよい思い出を残そうという。

さて、七面鳥の料理はうまく焼けるのでしょうか。
そしてこの家族の対面はうまくいくのか???


エイプリルのアパートにはいろいろな人が住んでいます。
普段はぜんぜん交流はないのですね。
だから、いきなりオーブンを貸してというのはとても勇気がいること。
意地悪な人。
言葉さえ通じない人。
さまざまですが、やはり親切な人はいるものです。
言葉は通じなくても心が通じ合える人が。

都会の殺伐とした人間関係の中でも、昔ながらの風習をきっかけに、
ほんのりした交流が生まれる。
家族でも、家族でなくても
ほんのささやかなきっかけで、気持ちは通じ合えるんですよね。


以前に見て大好きだった作品でした。

「エイプリルの七面鳥」
2003年/アメリカ/80分
監督・脚本: ピーター・ヘッジズ
出演:ケイティ・ホームズ、パトリシア・クラークソン、デレク・ルーク、アリソン・ピル

わんこ5

2011年09月20日 | 工房『たんぽぽ』
うつぶせ犬

                 * * * * * * * *


パーツはこんな感じ





以前うちにいたコーギー犬が
よくこんなふうにぺったり腹ばいになっていましたが、
このしぐさが何ともいえないんですよね。
何だかまた犬と遊びたくなってしまいました。

「日本語教室」 井上ひさし 

2011年09月19日 | 本(解説)
言葉は常に乱れているけれど・・・

日本語教室 (新潮新書)
井上 ひさし
新潮社


               * * * * * * * *

この本は、井上ひさしさんが、2001年10月から母校上智大学で
4回にわたって行われた講演の記録です。
大変に分かりやすく、面白い、実際に聞いてみたかったな、
と思う内容になっています。


第一講は、「日本語はいまどうなっているのか」
言葉は常に乱れており、また、言葉は多数決でもあるので、しかたのないこと。
まあ、それも認めよう、といいながら、
それでも気になるいくつかの点を挙げています。
あまりにも簡単に外来語をつかってしまうこと。
たとえばリフォームと単純に言っても日本語だと
再生、改良、仕立て直し、改築、増築、改装・・・いろいろな言い方があって、
それぞれ微妙に意味が違います。
それをひとまとめに「リフォーム」で済ませてしまうようになったら、
日本語にとっては悲劇的な状況を招くだろうと。
いま盛んにグローバリゼーションというけれど、
実はアメリカ化を指している。
アメリカの価値が一番正しいというのはどうなのか・・・井上氏は愁いています。


第二講「日本語はどうつくられたのか」
日本語の発音の原型は、原縄文語。
南の方から来ているらしい、といいます。
一方、文法はトルコ語と日本語がよく似ているということから
ウラル山脈の当たりからシベリアを通ってやって来たのではないか。
そして、今の東北弁こそが原縄文語なのでは、
と井上氏は言っています。
つまり、中央部で使われた言葉が地方へ広がっていき、定着してそのまま残る。
その間に中央部の言葉はどんどん変わって行くけれど、
その新しい情報はなかなか地方まで伝わらない。
実際、東北弁によく似た言葉が、出雲地方や沖縄に残っているのだとか。
その昔の中央の言語が東北弁。
何だか楽しいですね。
また、元来のやまとことばと中国から来た漢字の使い分け、
そして、欧米から来た外国語のカタカナ。
これら微妙な使い分けを私たちは無意識にしているということで、
なかなかすごいですね。

また、今の標準語は明治政府が作った。
当時地方の人々は、当たり前にその土地土地の方言を使っていたわけですが、
軍隊で命令が通じないのでは非常に困る。
それで促成で標準語がつくられたとのこと。
東北の指揮官が「走りはんばとびはずめ」といっても
九州の兵隊は「あの人、なんば言いよとやろ」となる・・・。
よく“タイムスリップで江戸時代へ行ってしまった”などという小説やコミックで、
きちんと会話が成立していますが、
私はこれには非常に疑問を感じます。
今の言葉と当時の言葉、そう簡単には通じないのではないかなあ・・・。


以下
第三講「日本語はどのように話されるのか」
第四講「日本語はどのように表現されるのか」と、続きます。

私は、中学校で日本語の文法を習って、驚いてしまったことがあります。
普段、何も考えずにつかっている言葉に法則があったなんて!!
でも、これは最初に法則があって言葉ができたのではなくて、
最初に言葉があって、それを調べたらなんと、法則があったということなのですよね。
だから言葉は面白い。
いろいろ、目から鱗の話しも交えながら、
井上氏の“世界の中の日本”感もうかがえて、
大変貴重な本であると思います。


「日本語教室」井上ひさし 新潮新書
満足度★★★★☆

探偵はBARにいる

2011年09月18日 | 映画(た行)
雪の街札幌を探偵が駆ける!



            * * * * * * * *

東直己原作、大泉洋主演、そして札幌が舞台ということで、
ムチャクチャご当地作品なので、この場合私の評価は大甘です。
皆様は、話半分でお読みください・・・(?!)


東直己氏の「ススキノ探偵」シリーズは、
私も全作は読んでいないのですが、いくつかは読んでいます。
やはりご当地、知っている地名ばかり出てくるので、
つい親近感を感じて読みふけってしまうのです。
この作品は、シリーズ第二作「バーにかかってきた電話」を映画化したもの。
実は登場する探偵(大泉洋)の名前が最後まで明かされません。
「探偵」である、「俺」が主人公。
彼は事務所もケータイ電話も持たず、
いつもおきまりのバー「KELLER OHATA」にいます。
探偵の依頼はそこのバーの電話にかかってくる。

ある日、「コンドウ キョウコ」と名乗る女性からかかってきた電話で
「ある男に会って、一つ質問をして、その反応を見てきて欲しい」
というおかしな依頼を受けます。
探偵は不審に思いながらも依頼を受けてしまい、
その男に会いに行きますが・・・。
その帰りに乱暴な男たちに拉致され、死にそうな目にあわされてしまいます。
つまりこれは、「警告」なのですが、
邪魔が入るとますます燃える。
われらの探偵はそういう性格なのであります!
事件を探るうちに、一人の美しい未亡人、沙織(小雪)と知り合うのですが、
どうも事件の裏に彼女が見え隠れ。
探偵は心密かに彼女に惹かれても行くのですが、
しかし果たして彼女は、実はとんでもない魔性の女なのか???



大泉洋のイメージそのままに、どこか三枚目の探偵もいいですし、
彼の助手(運転手?)高田役の松田龍平との
ボケとツッコミめいたやりとりも非常に楽しい。

雪の街札幌、
ハードボイルドあり、純愛あり、涙あり、笑いもある!!
みなさま、是非是非ご覧ください。

そうそう、高嶋政伸さんの悪役というのも珍しいのですが、
その悪役ぶりも見所のひとつです。
「人は死の直前に自分の人生を映画のように見る」という・・・。



あえて舞台を冬にしたのはやはり札幌らしさを出すためでしょうか。
ああ・・・また、こういう季節が近づいてきたなあ・・・と、
私はちょっぴり嘆息してしまいましたが。
札幌の冬。
街中はそれほど雪はないのですが、
ちょっと郊外に出れば、すっぽり雪に埋まってどこまでも真っ白。
本当に映画の光景そのままなんですよ。
でもまあ、その我が街を小雪さんや松田龍平さんが歩いたのかと思うと、
何だかうれしい。
是非この作品は、シリーズとしてまた映画化して欲しいものです。


ちなみに、松田龍平さんがいつもぽりぽり食べていたのは、
北菓楼の「北海道開拓おかき」で、これは私も大好きなんです。
ホタテ味、甘エビ味、松前いか味、えりも昆布味、北海シマエビ味、秋鮭味
とバリエーションがあって、一袋380円。
お茶うけによし、お酒のお供によし。
食べ始めたら止められない。
・・・と、またCMになってしまった。

「探偵はBARにいる」
2011年/日本/125分
原作:東直己
監督:橋本一
出演:大泉洋、松田龍平、小雪、西田敏行、マギー、田口トモロヲ、高嶋政伸

日輪の遺産

2011年09月16日 | 映画(な行)
少女たちの純粋さが招く悲劇



               * * * * * * * *

昭和20年8月10日。
ポツダム宣言受諾や否やにゆれる日本中枢。
帝国陸軍の真柴少佐(堺雅人)が、
900億の財宝を陸軍工場へ移送し、隠匿するという密命を受けます。
なんとそれは陸軍がタイで極秘に取得したマッカーサー個人の財宝である・・・と。
軍の上層部は既に敗戦を悟っており、この財宝に祖国の復興を託そうとしたのです。
日本は負ける。
負けるけれども、いつかこの資金できっとまた立ち上がる。
なかなか凛とした決意の表れと思えます。

この作品は浅田次郎原作の映画化ということで、
つまりフィクションなのですが、
だからと言うべきでしようか、
若干、登場人物の思いが高潔に過ぎるような気がしなくもありません。
でもまあ、フィクションと割り切れば、なかなか悲しく美しい物語ではあります。



この密命を実行するのは真柴少佐の他、
小泉中尉(福士誠治)、
望月曹長(中村獅童)の3人と、
現地で運搬作業に当たる勤労奉仕の20人の少女たち、
そしてその担任、野口(ユースケ・サンタマリア)。
この少女たちが何とも屈託がなくけなげなのです。
お国のためと心から信じ、力を尽くそうとしている。
少女たちには、もちろん財宝のことは伏せられ、
新兵器の輸送ということにしてあります。
しかし、軍はあくまでもこのことは極秘にしようと、
非情な命令を少佐に下すのです・・・。


作品を見ながらも、嫌な予感はしたのですが・・・。
結局は、少女たちの純粋さが悲劇を招くという、
一筋縄ではいかないストーリーの進行をします。
この辺がまさに、その当時の「時代」を描いているわけなんですね。



しかし、もしそんな財宝があるものならば、今の日本こそそれが欲しいですね。
震災の復興費用として・・・。
結局、私たちに「遺産」として残ったのは財宝ではなく、
この自国を愛する心、
自国の未来を信じる心なのかもしれません。
だからこそ、戦後の日本、
信じられないほどの経済の成長を果たし、ここまで来たのです。
でもこれが本当に当時の人たちが夢見た日本の未来なのかどうか。
今の若い人たちはこの作品をどう思うのでしょう。
聞いてみたい気がしますが・・・
やはり見に来ているのは圧倒的に中高年の方々でしたねえ・・・。

2011年/日本/134分
監督:佐々部 清
原作:浅田次郎
出演:堺雅人、中村獅童、福士誠治、ユースケ・サンタマリア、八千草薫


「新選組 幕末の青嵐」 木内昇

2011年09月15日 | 本(その他)
激動の時代の中で、夢を追う若者たちの成功と挫折の物語

新選組 幕末の青嵐 (集英社文庫)
木内 昇
集英社


          * * * * * * * *
 
特に時代小説好きな方でなくても、好きな人は多いはず。
新選組のストーリーです。
土方歳三、近藤勇、沖田総司、永倉新八、斎藤一・・・。
一人一人にスポットを当て、その人物の思いを語りながら、
時の流れを追っていきます。


一番手は、土方歳三。

疑問を抱えながら、歩くだけの毎日だ。
どこまで歩いても、目の前には茫漠とした暗闇しかないようだった。


これはまだ武州で薬売りをしていた頃、18歳の土方歳三です。
まだ、自分が何をなすべきなのか何も見えておらず
・・・だから、目の前には暗闇しかないような気がしているのです。

そんな彼が天然理心流という剣術に興味を持ち、
試衛館という道場に出入りするようになりますが、
上記の面々は皆ここで知り合ったわけです。
皆若く、エネルギーをもてあましており、
何物かになりたいのだけれど、
当時の身分制度では、何者にもなりようがない・・・。
そんなとき、幕府が京に上る将軍の警護のために、
浪士を募集しているという話を聞きます。
身分は問わないという。
一同、その浪士隊に応募し、京へ上ることに・・・。


浪士隊が新選組と名を変え、人斬り集団と恐れられ、
内部の凄まじいまでの粛清を繰り返し・・・、
やがて大政奉還となり、逆賊として追われる立場になる
・・・そうしたすべての状況を描き出していきます。
激動の時代の中で、夢を追う若者たちの成功と挫折の物語。
やはりこれは語り継がれるべき物語なのでしょう。


中でも私は、やはり土方歳三に心惹かれます。
本作中では、土方さんを、尊皇攘夷などに対しての思想的なことではなく、
とにかく信頼する仲間、近藤勇をもり立てる、
そのために組織を強固なものにする、
戦闘の計画を練る、
そういうマネジメント的なことに生き甲斐を見いだしていたと、とらえています。
鬼のように冷徹と人からは恐れられるのですが、実はとても情に厚い。
しかもイケメン。
時流にのって、巧く有利な方につこうとするもの者が多い中、
最後まで自分の立場を貫くその生き様はかっこいいですよねえ。
最も最後の方は、敗走に次ぐ敗走・・・、
読むのがつらくなってきますが、
こうして土方さんは函館の五稜郭にたどり着くんですね。
作中その当たりの描写は非常に駆け足であっさりしていますが、
実際はどうだったのでしょう。
ほとんどあきらめの心境だったのか。
それとも、まだまだ十分勝算ありと思っていたのか・・・。
この本の流れだと前者のような気もしますが。
死んでいった仲間たちのことを思うと、今さらひくにも引けない。
最後まで闘って死ぬまでと、
思い定めていたように見受けられます。
しんみりと、幕末に心を馳せてしまう一冊。

「新選組 幕末の青嵐」 木内昇 集英社文庫
満足度★★★★☆

オー・ブラザー!

2011年09月14日 | 映画(あ行)
脱獄囚3人組の珍道中



            * * * * * * * *

この作品、私が初めてコーエン兄弟監督作品を見て、はまってしまったものです。
お勧め作のご紹介。
1930年代、ミシシッピーの片田舎。
エヴェレット(ジョージ・クルーニー)、
ピート(ジョン・タトゥーロ)、
デルマー(ティム・ブレイク・ネルソン)
の三人組が脱獄するところから始まります。
この三人、以前お宝を隠した場所が、まもなくダムのために水底に沈んでしまうので、
お宝を掘り起こすために脱獄したのです。
この3人組のいわばロード・ムービーですが、すったもんだの大変な旅。
裏切られたり、騙したり、
かと思えば気のいいヤツと道連れになったり。
途中何気なく立ち寄ったラジオ放送局で歌った曲が、
本人たちも知らぬ間に、大評判。
このことが後々彼らの窮地を救ったりします。


ラジオも車もある時代ですが、ミシシッピーはアメリカの大いなる故郷。
まだまだ素朴な宗教心とか、
白人至上主義の秘密結社KKKの怪しげな信仰があったり、
作戦をこらした選挙戦があったり、
大いに時代性が混沌としています。
ジョージ・クルーニー演じるエヴェレットは、3人の中では一番知的なのですが、
“伊達男”というポマードで髪を整えることに異常に執着していたりして、
まあ、あまりまともではありません。
シニカルな笑いを呼ぶコーエン兄弟の入門編としては最適です。

T・ボーン・バーネットによる数々の音楽がまた素晴らしくいいんですよ。
古き良きアメリカ・・・、
そういうイメージですね。

ラストのダムの湖の光景は、何かを暗示しているような気がしました。
「これからは、電気をどんどん使って豊かな生活をするのさ・・・」
エヴェレットはそう言うのですが・・・。
人々のエネルギッシュさ、
そして、懐かしく猥雑なアメリカの原風景。
そういうものがダムの底に沈められ、消えていく。
そうして無機質な都会の光景が広がっていく。

日本もまたしかり。
建物や街の様子、文化。
そうしたモノの近代化と共に、私たちの心が失ったものもあるのかもしれません。
懐古主義では、もはや私たちの生活も立ちゆきませんけれど。

オー・ブラザー! [DVD]
ジョエル・コーエン
ジェネオン エンタテインメント


「オー・ブラザー!」
2000年/アメリカ/108分
監督・脚本:ジョエル・コーエン
制作・脚本:イーサン・コーエン
出演:ジョージ・クルーニー、ジョン・タトゥーロ、ティム・ブレイク・ネルソン、ホリー・ハンター、ジョン・グッドマン

あぜ道のダンディ

2011年09月12日 | 映画(あ行)
弱音は吐かずに颯爽と・・・



           * * * * * * * *

妻に先立たれて15年。
50歳の宮田。
ある日、自分はガンなのではないかと疑いを持ち、
ほとんどもう先がないと思いこみます。
大学入学が決まったばかりの娘と息子には弱音は吐けない。
唯一中学時代からの親友、真田にだけ胸の内を明かします。


宮田は、中年のパッとしないおじさん。
家の中では、娘・息子とはほとんど会話もなく疎外感タップリ。
まあ、今時普通かもしれませんが。
でも、男手一つで二人の子供をここまで育ててきたというのは、すごいと思うんですけどね。
けれども、宮田の心はダンディ。
いつもダンディでありたいと見栄を張りながら、
懸命に生きているわけです。
彼が思う「ダンディ」というのは、
颯爽としていて、決して弱音は吐かない、
そういう「男」の生き方なのでしょう。

「大変だなんてあたりまえのこと今さら言ってんじゃないよ。
こんな時代におじさんやってんだぞ。
後にも下がれねえ、前にも進めねえ50歳だ!」
と見得を切る。

けれど子供たちも、当初は今時のしらけきった子供に見えるのですが、
実はかなり健全に育っているのが次第に見えてきます。
そりゃそうですよね。
このお父さんに育てられたら、こうなります。
だから、やっぱりこれまでがんばってきた甲斐はあるんですよ。

毎日毎日を普通にがんばることこそカッコいい。
派手でなくても、目立たなくても、お金はなくても。
でも、必要なものはあります。
それは、心の内を打ち明けられる友。
真田は、どちらかというと宮田の子分的存在なんですが・・・。
言いたい放題言われるのも、実は信頼感があるからこそ。
お気に入りの帽子も結局淳一に取られてしまうのですが、
この真田も、なかなかどうして、立派にダンディです。



さて、でも50歳。
立派にまだまだ先へ進めますよ!!
でなけりゃ50歳過ぎのオバサンはどうすりゃいいんですか。
オジサンとオバサンは別?
そうかも、と思ったりして・・・。


「川の底からこんにちは」の石井裕也監督作品。
地方都市で、地味にがんばる人々の悲喜こもごもを
泥臭くなくコミカルに描きます。
今後も楽しみです。

「あぜ道のダンディ」
2011年/日本/106分
監督・脚本:石井裕也
出演:光石研、森岡龍、吉永淳、西田尚美、田口トモロヲ

「長い廊下がある家」 有栖川有栖

2011年09月11日 | 本(ミステリ)
お馴染みのシリーズだけれど決してマンネリじゃない

長い廊下がある家
有栖川有栖
光文社


           * * * * * * * *

火村准教授シリーズの短編集です。
本格推理ものとして、私には最もなじみ深く安心して読めるものの一つ。
かといって、決してマンネリではなく、
この本の4篇もそれぞれの趣向が凝らされており、納得の一冊です。


表題の「長い廊下がある家」は、ちょっと怖いですよ。
非常に長い廊下・・・というよりは地下通路ですが、
それでつながっている二つの家があります。
殺人事件はその地下通路の中央部で起こるのですが、
そこで殺人を行うための時間が誰にもない。
・・・そういうアリバイ崩しの作品です。
その二つの家は、廃村となった山奥にありまして、
その異常に長い地下通路・・・となると考えるだけで気味悪くありませんか? 
しかも、この物語、夜中にそこに幽霊が出没するなどという設定になっていまして、
私は、昼間でもそこには近づきたくないですね・・・。
アリスは非常に大胆な推理を展開しますが、
真相はそこまで大胆ではないけれど、意表を突くもの。
まあ、どっちにしても私には歯がたちません。


「天空の眼」は、珍しく火村准教授が登場せず、
アリスだけで推理を展開し解決します。
こちらも心霊現象めいた話が出てきます。
ある人の写した写真で、空の雲が邪悪な人の顔になって映り込んでいたというもの。
アリスは、そのことで相談を受けるのですが、
まあ、彼は心霊現象の専門家ではありませんよね。
ところが、この話の関係者と、別件で警察が調べている事件の容疑者と
重なっている人物が出てくるのです。
事件のカギは、その怪しい写真。
火村准教授の手を借りずにとけた謎ではありますが、
アリスにとっては苦い結末なのでした。


「ロジカル・デスゲーム」では火村准教授が、とんだ災難に遭います。
狂った男に、生死を賭けたゲームを無理矢理ふっかけられてしまう。
そのゲームとはこんな風です。

ゲームに参加するのは二人。
主催者Aとその相手Bということにしましょう。
コップが三つ用意してあり、見かけは全く同じ液体が同量ずつ入っています。
でもその中の一つは毒。
Aにだけ、どれが毒か解っています。
まずBが毒が入っていないと思われるコップを一つ選びます。
ここではまだ呑みません。
次にAが残りの二つのうちの一つを飲み干します。
Aにはどれが毒か解っているのですから、ここで毒を飲むことはあり得ませんね。
さて、のこるコップは二つ。
次に、Bが二度目の選択をします。
先に選んだままでもいいし、変えてもいい。
決めたところで、残った方が否応なくAのものとなります。
ここで二人同時に一気にそのコップを飲み干さなければならない。
・・・実際、そこでAが毒と解っていて飲めるかどうかはともかくとして、
この話、確率の問題ですが、
算数に特に疎い私からすれば、結局は確率1/2と思えるのですが・・・。
実はそうではないと言うのです。
くわしい解答を知りたい方は是非ともお読みください。
それはともかく、この絶体絶命のピンチを切り抜けた火村氏の機転には頭が下がります。
まさに、頭脳のゲームです。

「長い廊下がある家」有栖川有栖 光文社

満足度★★★★☆